トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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15558文字。

初代Fallout、ネクロポリスの話です。
本編とは直接の関係はありませんが、ティコの過去にまつわる話になります。

(´・ω・`)そういえば日本語版発売決定しましたね。
(´・ω・`)超訳をひそかに楽しみにしてる自分が居ます。

9/19追記:活動報告に三章登場人物の紹介を載せました。


間話:『死者の街』

 

 

 ジャンクタウンは南へしばらく、道中のレイダーのどタマをぽーんと飛ばしてやり、サソリの群れを散弾で掃除する。そんなウェイストランドの日常を謳歌しながらようやくついたハブじゃあ色々”濃い事件”があった。

 そりゃもう、イグアナ肉を買ったら人肉だってんで店主を殴り倒したり、路銀を稼ぐためにクリムゾンキャラバン社、なんてとこでちょいとキャラバン護衛の仕事を引き受けたり。ああ、Brotherhood of Steelの構成員がリンチを受けて監禁されてる現場にうっかりあのお人好し、Vaultから来た相棒が足を踏み入れて一悶着、なんてのもあったな。

 

 奴さんB.O.Sに一言添えといてくれるそうだ、まあこの先連中みたいな奇っ怪な趣味した連中と関わるかは知らんが、コネが増えて悪いこたないだろう・・・ああ、ハロルド爺さんなんてのもいたな、ミュータントらしい。

 

 

 んなわけでハブでもロクに休めなかった俺ら、デザート・レンジャーでサバイバルを培ったティコと元キャラバンガードでポンパドールの似合うイアン、それからもちろん俺らの頼れる相棒、Vaultから来たあいつ、ついでにジャンクタウンで懐かせた犬ころ、”ドッグミート”も・・・名付けたの俺じゃないぞ、相棒だ相棒。

 この”愉快なちんどん屋”の一行は相棒の求める水質浄化チップ、ウォーターチップの在り処があるって聞きつけた場所へ向かっているってわけさ――― ・・・あんまり、あそこにゃ行きたくないんだけどな。

 

 

「ティコ?」

「ん?ああ、どうした相棒、人の顔覗き込んで」

 

「いや、なんかすごーく不安そうな顔してたからさ」

 

 見ぬかれちまったか、さすがは相棒だな。

 だが別に不安ってのは怖いとかそう言うんじゃない、ただな。

 

「相棒は知らんだろうが、”ネクロポリス”ってのは曰く付きの場所でな・・・替えの下着を用意しとけよ」

「んな大げさってんだ、ネクロポリスの噂よりも砂漠に出る巨人の噂とか、デスクローの噂の方がよっぽど怖いってもんだぜティコ?あそこにゃ・・・少なくとも、人間よりも強い奴はそうそういないはずだよ」

 

 イアンが横から口を挟む、イアンはハブで新調した14mmピストルが気に入ったらしくって道中ずっとくるくる回したり構えたり、そりゃ楽しそうにしてる。

 確かに俺もネクロポリスは噂と又聞きでしか聞いたことは無いが、でもそこに住む”住人”が何かってのは嫌というほど知っちゃいるんだ、伊達に長い旅はしちゃいない、でも奴さんらの怖いとこはな・・・。

 

「見えてきた」

 

 相棒が言う。

 

 つられて双眼鏡で地平線上を見ると、確かに東の方角にゆらりと、ウェイストランドの暑さに歪まされたビル群の姿が見えてきていた。雲の薄い空はその姿を揺らがせながらも鮮明に映し出していて、その廃墟群の姿は天辺のちらほら見える箇所だけでもその都市が、かつてはそこそこ大きな都市であったことを連想させてくれる。

 

 地獄への片道切符にならなきゃいいが。

 そんなわずかなためらいを残しながら、俺らは”ネクロポリス”へと足を踏み入れたのさ。

 

 

 

 ―――かつてのベーカーズフィールドってのは、商業中心地でお盛ん、ただし治安が悪いことこの上ないもんだから夜はホテルと家から一歩も出るな、なんて言われてた場所だったらしいことは聞いてる。

 

 だがその名残をなにも、今になっても持ち越さなくてもいいじゃねぇか。

 俺はショットガンのトリガーを引きながら、そう思った。

 

「あらかた片付いたか」

「ありがとうティコ、まさかあんなミュータントまでいるなんて・・・」

「ミュータントとは、ちと違うんだがな。”グール”って奴だ、その中でも一番暴れん坊の”フェラル・グール”って奴だな・・・脳のタガが外れてるから接近戦はなかなか辛い、覚えときな相棒。死者の街ネクロポリスってな、妙な噂は山ほどある。油断するなよ、気がついたらヤバいことになってた、なんてことも有りえるぞ」

 

「キャラバンガードやってた時に旅路の服のままなっちまった奴に時たま遭ったもんだけどよ、ホント足が速いんだよな。おまけに放射能を撒き散らす奴もいるし人喰い、荒野を歩くならず者よりはマシだが心臓に悪いよな」

 

 イアンが補足するように言う、相棒はわかったように頷くと、ハンティングライフルに弾を込め直した。

 

 

 

 ネクロポリスの街は損傷があまりに激しかった。

 

 そこかしこが瓦礫に塞がれ、道を歩けば袋小路に投げ出されるなんてこともしょっちゅう、かつての栄華を誇っていたであろう無数のビル群は、見えてる部分じゃ鉄骨の方が多い癖に残った壁が互いを補い合うように陽射しを塞ぐもんだから、結果今じゃあこの場所は日光を浴びられる場所の方が少ない、なんて始末だ。

 

 暗くて、寒くて、風が通りにくいから空気も淀む。

 ウェイストランドにそびえる死者の町、それがネクロポリスだった。

 

「っ・・・」

「気にすんな」

 

 天性の才能か、鋭いもんだから相棒も気付く。

 ボロボロの家屋、高層ビル以外は結構な数が残ってるもんだからそこは住人たちが住んでいて、グールの奴らがドアから顔半分だけを出して気味悪くもこっちをじっと見てくるんだ。

 

 ボロボロの、それこそ揚げ油に顔を突っ込んだか、おろし金ですりおろしたみたいな顔が濁りかけの目でじっとこっちを見てくるもんだから気味悪いことない。それも、視線はだいたい憎みか、恨みか――― 怯えか。

 グールがどんな扱われ方をしているかなんてのは、少しでも旅をしたことのある奴なら知っているさ。顔が悪い、臭う、人喰いめ、そんな言われようだから多くの飯処や酒場じゃ入れないなんてのもザラで、宿はたいてい安宿だ、そりゃ必然的に卑屈になるか、対照的にツンケンするようになる奴が多いに決まってる。

 

 

 ―――この目だよ、俺がここに来たくなかった理由。

 

 グールの奴らってのは大体こうだから、見られてる方も不快になる。もっと堂々としろと言ってもまあ、仕方ないんだろうが、その視線が無数に突き刺さるとなるとどうしても・・・背中がむず痒くなったり、寒気に襲われるもんだ、たまらんね。

 

 グールが人類と同じなのは分かっちゃいるんだが、似て非なる。

 

 

「なああんた、ちょっと聞きたいんだが・・・」

「ワシなんかにゃ構わないでおくれ・・・」

 

 イアンがサソリの巣穴にでも踏み込むような顔で街の住人に聞いてはみるが連中、扉をぱたんと閉じて聞く耳なしと来た。街はまだ昼間で明るいがしかし、夜になりゃ本当の真っ暗闇そのものだ。だから早いとこ、目的を達成するかあるいは素泊まりできる場所を探さなきゃいかん。

 

 その後も”街の住人”の協力をロクに得られないまま、フェラルの心臓に鉛の杭を打っては進みようやく、自力で俺らは進展を得たのさ。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「うえぇ・・・まっくらぁ・・・」

「可愛いな相棒、待ってろ暗視装置(NVD)使って先を見てくる」

 

 可愛い声で鳴いた相棒とイアン、辺りを嗅ぎまわっては嫌そうな顔をするドッグミートをマンホール下に残し、俺は迷路のような下水道を一人、少しだけ進んだ。

 

 電気は通ってるのか、たびたび割れた電球がバチッと鳴ってわずかに灯りを点すがそれもすぐ消え、しかもわずかな光はほんの数歩先より先を見通さない。切れた電球の数々は既に役割を終えているもんだから真っ暗で、俺は暗視装置を起動し曲がり角を曲がり――― すぐさま、暗視装置を解除した。

 

「これならライトを使っても変わらんか」

 

 曲がり角に身を隠した俺はライトをぱっと点灯し、相棒たちを呼ぶ、もちろん”ゆっくりしろ”ってジェスチャーも一緒にだ。

 地下にいたのはフェラル・グールの一種、放射線を常に撒き散らしてる”光りし者”で、ぼんやり昼白色の光を全身に灯して何を考えてるか知らんがぼんやり立っている。奴さん変異の影響なのか、並のグールよりも手強いもんだから面倒極まりない。

 

 一人でも十分だったが、でもここは閉所で、音のよく響く下水道だ。

 相棒たちと一緒に買い換えたコンバットショットガンでも良かったが、俺のお気に入りはこのウィンチェスター・ウィドウメイカー、ダブルバレルの頼れる彼女さ。銃口を奴さんに向けると、俺はそのボンヤリな後ろ頭に散弾を打ち込んだ。

 

「やった!」

「相変わらず見事なおてまえ・・・んだ、この音?」

 

「イアンも相棒も、ドッグミートもだ、来るぜ?お手前見せてくれよっ」

 

 唯一の懸念、それは現実となる。

 銃声を聞きつけてきたフェラル・グールどもが次から次へと、下水道の至る所から飛び出してきやがるってわけだ。

 

 てんやわんや、必死にイアンも相棒も奴らを仕留めていくがキリがない、これが並の傭兵程度だったら今頃押しつぶされているだろう。だが――― 俺らにゃこいつ、”リトル・ルーキー”な相棒がついてる、俺らなら出来る。

 

 

 俺らは強くて賢いぜ!

 

 

 

 押し寄せてきたフェラルの連中の数が両手足の指でも数えられないくらいに膨れ上がり、それらを全て押しのけたあと、俺らはくっさい下水道で最悪な休憩を過ごし、それからまた歩いていた。

 

 かつてのベーカーズフィールド、ネクロポリスを張り巡らされている下水道はまさに迷路みたいで、相棒のPip-boyがなけりゃ今頃迷ってただろうよ。マンホールもそこかしこにあるものだから、手頃なものを見つけては頭を出して、駄目ならまた歩いて、俺らはようやく、2ブロックは歩いたかもしれない距離を経て、その場所にたどり着いたってわけさ。

 

 

 下水道の奥に、ひっそりと灯りが灯っている。

 昼白色の電球の色じゃない、もっと揺らぎ、明るい――― 焚き火か。

 

 警戒は厳にしながらも、ゆっくりと、確実に距離を縮めていく。

 こんなときドッグミートの利口さは本当に身にしみるもんだ、このキュートな犬っころは俺らが足音を消していることを察すると、自分は一歩身を引いて吠える声も抑えこんでくれる。後でバラモン肉ひとつくれてやろう。

 

 そんな最高のパートナー達に囲まれた最高の状況の中、俺らはやがてその場所にたどり着いて―――

 

 

「―――待て、撃たないでくれ!」

 

 銃口を挨拶代わりとし会釈を送ってやった俺らを迎えたのは、フェラルじゃない、身なりこそボロボロ、それに妙に痩せこけている気がするがただのグールだった。結構な数が居て、しかし武装はほとんどしちゃいない。

 

 奴さんらはやっぱり、怯えた視線を送ってくるもんだから俺らは素直に銃を下ろして、そしたら真っ先に近寄ったのは相棒だった。撃たんでくれと嘆願したグールの爺さんはまた身を竦ませたが、相棒が手を差し伸べるとそれが一転、きょとんとした顔をしたんだ。

 

「怯えないで、僕は君たちを撃つ気なんてないよ」

「・・・本当にか?わしらが気持ち悪くないのか・・・スムーススキン(滑らか肌)?」

「滑らか肌?なにそれ?」

 

「いや・・・悪い、すまんかった。君みたいな子はそうそう見かけなくてな・・・」

 

 笑顔一点、純粋無垢、さすがは相棒だ。

 

 毒気と怯えを抜かれたらしいグール、この地下に住んでるグールのリーダーらしい爺さんは俺らに交戦の意思がないことを理解すると手頃なテーブルとズタボロのソファに俺らを案内し、何か何かと寄ってきた他のグールに囲まれる中、話を始めた。

 

「いや、大抵のヒューマンはわしらを見ると銃を撃ってくるものでな、君たちも私達を殺しに来たものかと勘違いして・・・いや、すまんかった」

「ひどいことするなあ、別に話もできるし、僕達を襲うってわけでもないんでしょ?」

 

 相棒がイヤーな顔をして返す。

 グールの爺さんは、それにほんの少し笑い、また哀しげな顔をすると答えた。

 

「戦前は肌の色が違うだけで殺しあった戦争がいくつもあった、ワシらが嫌われ、殺される理由なぞそれで十分さ・・・だがあえて言うなら、ワシらは噂に聞く人喰いだとか、放射線を出す化物なんぞじゃない、人喰いはフェラルだけで、放射線を出すのは光りし者だけじゃよ」

 

「そうなのか・・・」

「俺も初耳だ、噂っては一人歩きするってこったか」

 

 爺さんの言葉に、イアンと俺は顔を合わせる。

 爺さんはそれに『分かってくれて何よりだ』と安堵の顔をすると、俺らに旅の目的を聞いてきた。

 

「まず撃たないでくれたことに感謝しとく、何か力になれるかな」

「んー・・・まず、あなたはここで何を?」

「まあなんというか、地表と地下では諍いがあってな、わしは地下に追いやられたグール達を率いておる。地表を牛耳っているのは”セット”という男でな、その・・・”悪い友人”達と手を組んで地上を支配しているのさ、わしらが生かされているのはひとえに、その悪い友人達ともし戦争になった時に戦力が足りないことを懸念してだろうさ」

 

「戦争?」

「もしそうなったら、真っ先にセットの背中に弾を撃ちこむがね」

 

 爺さんは笑い、相棒はなんとも言えない顔をする。

 それに爺さんはどことなく、”スベった”感を悟ったのか、そそくさと席を外すとしばらくしてコップに入った水を持ってきた――― きれいな、塵も放射能も一片もない、綺麗な水だった。

 

 俺らはつい、喉が乾いてたもんだからそれを受け取ると一気に飲み干す。

 爺さんはそれに嬉しそうな顔をすると、コップを回収してテーブルに置いた。

 

「・・・うめえ」

「おいしい、水」

 

 素直に、喉の潤いに感動する。

 ここのところ、ぬるくなった水とそこそこ汚い水ばかり飲んでいたからこれにはどうしても、俺ら全員が深く息を吐いた。ドッグミートの奴も、欠けたカップに入れられた水を必死に舐めとってる。

 

「そうだろう?生きるのに必要な水は用意されてるんじゃよ、まあ今はポンプが壊れたんで、地下にある施設から水を入れて生活に使っとるんじゃ・・・確か水質浄化のためにウォーター・コンピュータが使われていたかな」

「ッ!」

 

 相棒が目を剥く。

 それにグールの爺さんは首をかしげるがしかし、しばらくすると察したのか、手をぱたぱたと振って拒絶の意思を表した。

 

「いやいやいや!持って行かれちゃ困るぞ!あれが無くなったらわしらはみんなあの世生きじゃよ!Vault12が開かれて以来、グールは長命だが、それでも水と食い物なしに生きていけるほどタフではない!」

「でも、Vaultを救うためにどうしても必要なんです・・・何か方法はありませんか!?」

 

「俺からも頼むぜ爺さん、なんなら前の職場のキャラバン社に頼み込んで水の輸送や技術屋を回してもらってもいいし、金だって・・・」

「・・・ふむぅ・・・」

 

 頼み倒す相棒の下げる頭を見て、腕を組んで唸る爺さん。

 真剣に悩んでるんだろう、この時点で分かったよ、この爺さんいい人だ。

 

 しばらく悩み倒したあと、爺さんは折衷案を提示してきた。

 

 

「ウォーターチップが必要になった理由のそもそもは、組み上げポンプが壊れたからなんじゃ・・・それさえ直ればわしらは地下の水質浄化設備を使う理由がなくなる、じゃが・・・」

「じゃが・・・?」

 

 つられて言う相棒、可愛いな本当。

 対し爺さんは、困ったように毛のない頭を掻いた。

 

「ポンプの修理用の予備部品がこの下水道内で行方知れずになってしまってのぅ、この場所はなまじ迷路のように入り組んでいるし、ヒューマンには危険な場所じゃ、さすがに辛いかなと―――」

「やりますっ!探してきます!」

 

 即座に相棒が答え、それには爺さんも面食らう。

 イアンと俺もその判断の早さにはあっけにとられるが、すぐにその、覚悟の大きさにふふっ、と少し笑いがこぼれた。

 

 いいじゃないか、何日かかるか知らんが同じ旅路、ついていってやろうじゃないの。爺さんが与えてくれた修理用のマニュアルときれいな水をリュックに加え、俺らはそれから無限回廊にも思える下水道を歩きまわることになったのさ。

 

 

 

 ―――厳密には、無限回廊は迷路にはならなかった。

 

 相棒のPip-boyのおかげでマッピングは正確で、しらみつぶしに探していけば十分だったのさ、弾の消費がちと多かったがそれでも、俺らは道中色々と、きっとかつてのこの街が残した遺物のいくつかを手に、ようやっと下水道の最奥とも思える場所へと来たのさ。

 

「っても・・・」

「やりにくいよなぁ、こう言うの」

 

 最奥部、山積みにされたガラクタの中に確かにある、ポンプの予備部品を前にして俺らは頭を抱える――― その前に立ちふさがるように、”ジャイアントラット”がいたからだ。まあ、殺しちまってもいいんだが、こいつは・・・、

 

「どけよ、俺がやるって」

「でもイアン、これは・・・」

 

 巣、なんだろうなあ。

 子供を後ろに威嚇してくるジャイアントラット。

 

 元はデバネズミだったらしいがどうしてまたこれだけでかくなるのか、それよりも相棒だ、この甘ちゃんはその健気な姿を見ていたく罪悪感が湧き出てしまったらしく、どうにかこっそり取れないかと回ろうとしてはジャイアントラットに吠えられている。

 

 ―――ったく、見てらんないぜ。

 

 

「相棒、ドッグミート寄越してくれや」

「いいよ?」

 

 わうん、と鳴いてお手をするドッグミート。

 そうそういい子いい子、そうじゃない。

 

「普通の犬肉の方をだな・・・」

「あっ・・・」

 

 互いに気まずい雰囲気が流れる。

 俺は微妙に目をそらしがちになった相棒から道中手に入れた犬の肉(ドッグミート)を受け取ると、手頃なサイズに切り崩してジャイアントラットに向かい突き出した・・・つまり餌付けだ。

 

「野生のジャイアントラットが懐くのかよ?」

「俺この手のことは得意でね?動物は友達さ、アニマルフレンドだ」

 

 突き出した肉をよく嗅いで、警戒しながらも少しずつ距離を詰めてくるジャイアントラット。そうだ、俺らは敵じゃないんだ、俺らとケンカするよりもこいつをかっ食らっちまった方がいいってことを教えてやるのさ。

 

 

 いいぞ、いいぞ。

 ほら食え、子供も腹を空かして―――

 

 

 がぶり。

 

 ああ、痛ェなぁ。

 はあ―――

 

 

「イアンんんんんんゥ!今のうちに取ってこ痛ぁぁぁぁぁぁ!!」

「ああああ!?わかっ、わっか、分かったァ!!」

 

「見てこの子すっごく可愛いよ!ほらこっちの子も・・・」

 

 

 グローブ越しに手の甲に噛み傷を負いながら、俺は思った。

 真のアニマルフレンドはああ、やっぱ相棒だったのか、なんてな。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 ポンプの予備部品をリュックに仕舞い、俺らはまた別の出口を探して出る。

 

 出口と言ってもマンホールな訳だが、例え100年経とうと下水道に溜まったアレやコレはその臭さを失っちゃいない。水の中からようやく這い出たみたいな感覚が、マンホールから地表に出た俺らを包む、ああ、死者の町の空気はこんなにも美味かったのか。

 

 しかし臭いとストレスにガツンとやられていた頭が戻ってくると気付きもするんだ、出てきた場所は地表というよりか、地表の家屋、その中にある・・・どちらかというと、”避難路”みたいな配置をされた場所だった。

 

 つまりは結構大きめの施設か家ってことだが、その懸念はあっという間に吹っ飛ばされた。手頃な扉の鍵穴から中を覗いた瞬間、中に見えたのはグールだらけの集会場、もしくは”たまり場”だったんだからな。

 

 

 おおかたグールの爺さんが言ってたセットって奴がここにはいるんだろう。奴さんは折り合いの悪いタイプの奴だって話に聞いたが、でもどうも、窓から見える浄水施設まで行くためにはここは避けて通れないらしい。

 

 ふと振り返れば嫌そうな顔のイアンと、覚悟の決まった顔の相棒、そのままでいてくれドッグミート、三者に顔を合わせ言葉もなしに多数決を決めると、俺はゆっくりと、集会場の扉を開いたのさ。

 

 

「―――誰だ?」

「まあ怪しいもんじゃない、ちとここを通して欲しいだけだ・・・通行料くらいは持ってる、悪かないだろ?」

 

 暗闇から緑目の、コンバットアーマーを着こなしたレンジャーが登場したのには多くが驚いて気分良くなったが、微動だにしない奴もいた。特にひときわ目立ったのは、片目は名誉の負傷に潰れ、ハンティングライフルを背負った男だ。あからさまに”装飾”が多いもんだからひと目で分かった、こいつがセットだってな。

 

 相棒は悪く言えばまっすぐで、イアンは一歩足りない。

 そうなるとこの手の交渉、荒事は俺の出番ってな。

 

 セットは目を細めると、重く低い、威圧感にあふれた声で言った。

 

「さぞ魅力的な理由があって俺の影に足を踏み入れたんだろうな・・・?”次のメニュー”と言えばピンと来るか、ノーミーよ」

「ええ、ええ、そりゃもうあんたがボスなんだろ?十分に魅力的だ」

 

「ふーむ・・・?」

 

 銃には手を掛けず、一考の余地もくれる。

 話の通じる相手ではありそうだ。

 

「単刀直入に言えば、俺は地下の爺さんに頼まれて浄水装置の修理に来たってわけだ。別にあんたらに危害を加えるわけでもなけりゃ、あんたらが”戦力”って数えてる奴さんらの生存と生活向上に一役買おうって魂胆だから、そこ通してもらえると―――」

 

 大仰な素振りで両手を上げ、敵意がないことをしっかりアピール。

 それで出口まで向かうと・・・大丈夫だ、奴さん分かってくれてる。扉の隣のいかつい兄ちゃんは道を塞がない、行ける、行けるぜ。

 

 そんなだから俺は相棒とイアンを呼んだ、んだが、それがまずかったんだろうかね、セットは途端に目の色変えて扉隣の兄ちゃんに目配せし、扉を塞がせちまったんだ。これには全員歩く足を止めるしかなく、視線は一同セットに向くってわけだ。

 

 奴さん、またそのひっくい声で喋り出したよ、畜生。

 

「ひいふう、みい!ほう、これは見込みがあるか・・・ノーミー?傷も少ない、武器もある、血色も良ければスムーススキン(滑らか肌)なんて羨ましいな。元気が有り余ってるんだろう?なら一つ、ついでに頼みたいことがある」

「・・・お手柔らかにな?」

 

「なに、大したことはない、ただ・・・」

 

 側のグール達はクスクス笑い出す。

 なんとも気分悪いし、不気味だ、だがひとしきりせせら笑ったあと、セットはあからさまに見下した視線のまま言い放った。

 

「ネクロポリスは元々俺のものだったんだ・・・だが、ある時現れた、”ザ・マスター”だよ。恐ろしい奴だった、その尖兵しか見ていないというのに、俺らグールをあっというまに蹴散らしてここの実権を握ったのさ」

「マスター・・・?どいつのご主人だって?」

「それは知らん、だが奴は確かに恐ろしい・・・俺を始末することなどあっさり出来たはずなんだ。だが、奴はそれをしなかった、簡単な方法として、このネクロポリスに”ミューティー”を何人か配置して監視するだけにしたのさ」

 

「ミューティー・・・?」

 

 聞き慣れない単語に、相棒が聞き返す。

 セットはゆっくり頷いた。

 

「スーパーミュータント、もしくはメタヒューマンと言っていたか。身長は3m、腕は胴より太い、ここにいる連中は処刑と見せしめのための火炎放射器を持っているが、ソレがなくてもスムーススキン一人相手にする程度造作も無い、俺が見た中じゃ最悪の相手だな」

「で、それがどうしたって?」

 

「なに、簡単だと言っただろう?」

 

 またクスクスと笑う。

 こうなると俺も腹の虫を抑えるのが大変だ、だがセットの野郎、次に馬鹿げた提案を繰り出しやがったんだ。

 

 

「浄化装置のある場所、浄水場の近辺はそのミューティー達が固めている・・・だからな、ついでに奴らを始末して欲しいってだけだ・・・簡単だろう?出来ないなんて言わせないぞ、俺の影を踏んだその罪は十分に重い」

 

 今度こそ、ドスの効いた声が響く。

 見ると、グールの奴らは準備完了と来た、いつでも相手にできると。

 

 俺は相棒を見て、目を合わせた。

 そうとも、分かってる、事態を円滑に進めるにゃ避けて通れやしないだろう。だがよ、なんとなくだが分かりもしたんだ、こいつきっと分かってやってる、今までもこうやって来たんだろう。このままこの男をこの小さな砦のボスに据えておいたら、きっと将来良くないことが起こるってよ。

 

 それにそんなバケモンを相手にするなんざゴメンだ。

 イアンも覚悟の決まった顔してやがる。

 

 たぶんこう答えりゃ奴の選択肢はひとつなんだろうな、なら答えはひとつだ。

 

 

「―――嫌だ、と言ったら?」

「ならば時間の問題だ、死ね!」

 

 

 戦闘開始だ、ブラザー。

 

 連中がいっせいに銃を抜き、槍を持ち上げる。だがよ、ここは十分に閉所で俺らは三方に散ってるんだ、うかつに撃ちゃ味方に当たる――― 現にセットもそのお仲間も、とっさに手頃なグールの影に隠れた俺を狙えず困っていた、バカヤロウが。

 

 イアンは14mmピストルを抜き、先行して突撃したドッグミートがグールのくっさい腕に噛みつき流血させるのを後押しするようにドッグミートを狙う奴を撃っていく、オートマチックの6発装填はちと足りないが、それを補って余りある威力がグール共のレザーアーマーをぶち抜き、心臓を壁にぶちまけるのさ。

 

 それに俺も黙っちゃいない、俺が誰だと思ってる?デザート・レンジャーだ、インファイトに関しちゃ誰よりも訓練を受けてる――― 槍とかな。

 

 セットの側近が早速一人撃ち殺されたことに呆然としたグールを簡単なCQCで打ち負かし、槍を奪ってやる。クルクルと魅せつけるように槍を回してやったらあとは大乱舞よ、囲まれた?それが何だ、石突きもまともに使えん奴らなんざ相手にゃならん、突き出される槍先を逸らしてその胸元をドスッ、と突いてやり、後ろを取ったといい気になってる奴の鼻先を石突きでへし折ってやる。

 

 6,7人は居た気がするが気がつきゃ2,3人にまで減ってやがる・・・だがそこで、セットの野郎がこっちに銃を向けやがった。俺はとっさに身をかがめる――― 必要はなかった、俺の信頼できる甘ちゃんが、その銃口を逸らしてたからさ。

 

 

 逸れた銃口から打ち込まれた弾は手頃なガラスを割って消え、セットは槓桿を引き弾を装填しようとする。だがんな時間は与えられんのさ、相棒だ、あいつはナイフを投げて奴さんのハンティングライフルを指ごと弾くと、お気に入りの10mmピストルで一瞬にして護衛を殺す。

 

 だが恐ろしいのはそのあとさ、あいつはV.A.T.Sで加速すると、セットの指を切り裂いた投げナイフが地面に落ちる前に手にとって、それをセットの胸元に突き刺したのさ。奴さん信じられないものを見る目で最期に相棒と目を合わせ、崩れ落ちた。

 

 あっけないと、早過ぎると、そう思うだろう?

 だが銃撃戦、特に閉所でも遭遇戦なんてこんなもんさ。

 

 だが問題は、そのせいで良くないものを呼びこんじまったことだったのさ。

 

 

「待って・・・何かが来る・・・?」

「なんだって相棒?俺の耳にゃ・・・聞こえる」

 

「足音でかいぜ、これってよ、まさかあのスーパー・・・」

 

 銃声が良からぬものの耳に届いちまったのか、出口の扉に向かってのしのしと、まるで牛でも歩くような足音が響くのさ。俺らは戦利品漁りも忘れて手頃な遮蔽物に隠れると、それを待って――― それが姿を表した瞬間、度肝を抜かれた。

 

 

「―――いるのは分かっている、あのグール共を殺した者は名乗り出ろ、今なら命だけは奪わん」

 

 低く、重い、体躯が表す通りの声だった。

 

 セットの言うことは本当だった、身長3mの緑の化物は実在したんだ。俺らは顔を合わせ、そして”誰が前に出るか”を決めると立ち上がった。銃を構えるのはイアンと俺で、ドッグミートは気丈にも威嚇を止めない、相棒が前に出て、奴、スーパーミュータントと会話を交えた。

 

「・・・グールではない?Vaultの・・・まさかノーマルか?何者だ?」

「Vaultの住人、ってだけ覚えてほしいな、巨人さん。ご用件は?彼らなら急に襲ってきたから返り討ちにしちゃったんだ、僕らはここの浄水装置を直しに来ただけで、君たちとも敵対する気はないよ」

「奴らも我々には割りと重要な・・・まあいい、”ノーマル”が来てくれたことは幸運だ、相殺しよう。私は”ロウ”、本名は別にあるが皆がそう言うのだ、ルーテナント(Lieutenant(中尉))のロウだ」

 

「よろしく、それで、通してもらえるかな?」

 

「ふむ・・・」

 

 ロウが横にどいてドアの外を見せつける。

 そこには十人ものスーパーミュータント達がいて、その光景は圧巻だった。グール共は余裕で倒せた俺達だが、こればかりはどうしようもない、そんな気がしてたまらなくなる相手だったんだ。

 

 ロウはしばし顎に指を当て悩むと、答えをひりだした。

 

「浄水装置を直すなら特に問題はない、受け入れよう、だが――― 条件がある」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 Vault12の奥へ入り俺らが見守る中、相棒は浄水装置を予備部品であっとういうまに直しちまった。

 元々小器用な奴だとは思っちゃいたが、しかしここまで出来るやつだとは思わなんだ・・・Vault出身の奴ってのはみんなこうなのか?ともあれ、相棒は代償にウォーターチップを制御装置から引き抜いて、長い旅の終わりに感涙したのさ。

 

 俺らもその姿にはふと、鼻先がむず痒くなる感覚を覚えた。

 問題は―――

 

 

「仕事が終わって何よりだ、では条件通り、彼、Vaultのノーマルと少し話がしたい。貴重なノーマルから聞ける話には価値があってな?あまり聞かれたくはないから良ければ君たちには・・・席を外してもらいたい」

「じゃあここは任せてティコ、イアンにドッグミート。大丈夫、きっとひどいことにはならないだろうから」

 

「・・・何かあったら容赦しないぜ」

 

 スーパーミュータントのロウは俺らに目を向け、はっきりと”出て行け”って目線を送る。おまけに周囲を囲ってるイカつい、しかしどうもおつむに難がありそうな奴らもそれに興じて威圧してくるもんだから・・・悪い、ビビったわけじゃないんだ、ただここは退くべきと思って俺らは素直に相棒からウォーターチップを受け取ると身を引いて、相棒が扉の向こうに消えていくのを見送ったのさ。

 

 

 

 

「・・・随分長いよな」

「相棒のことだからうまく話を合わせておほほと笑ってると思いたいが・・・胸騒ぎだけは収まらん、しかし」

 

 あれから一時間くらいは経ったと思う。

 

 手頃な部屋に入って扉から時折外を長め、浄水施設の入り口ががっちりとあの緑の巨人どもに固められてることにため息を吐きながらイアンと会話する。さすがのイアンもお気に入りの銃をクルクル回してる余裕はないらしく、頬を指で掻きながら言葉を待った。

 

「“ノーマル”って言葉が突っかかる。俺も相棒も歴とした人間に違いはないはずだってんだが、俺らと相棒はわざわざそれを理由に分けられた理由が・・・いまいちピンと来ない、奴らは何を相棒に求めてる?」

「考えても出てこねぇよティコ、俺らに出来ることはただ、あいつが無事に出てくることを祈るだけって・・・どうしたよドッグミート、何か見つけたか?」

 

 イアンは俺の言葉に返してくれるが、それもしきりに鳴くドッグミートに妨げられるもんだからイアンは席を立ち、ドッグミートをしきりになだめようとする。だが何だ、それでも唸り声は止めない――― 浄水場を見てずっと、唸り声を上げてるんだ。

 

 まさか。

 

「イアン、少し静かに・・・何か聞こえやしないか」

「何って・・・いや、待てよ」

 

 ドッグミートの頭を抱えて黙らせ、開いた扉から浄水施設に意識を集中させる。

 

 なんだろうか・・・どん、どん、どん、と。

 何かを叩きつける、殴りつけるかのような音、それは決して金属を打ち鳴らしたり機械が稼働する浄水設備のものじゃない、まるである程度重量はある、”ある程度柔軟性を持つもの”を叩きつけてるような―――

 

「イアン、計画変更だ」

「ッ、たって連中に勝てるかってと・・・」

「このまま相棒を見捨てられるほど薄情じゃないだろ?それに”こいつ”がある、弾はセル一つぶんがいいところだが、それでもあの巨人に対抗できる武器はこいつくらいしかない・・・頼んだぜイアン、俺が前に出る」

 

 イアンとドッグミートを後ろに控え、俺は浄水施設を固める6,7人とスーパーミュータント達に声を掛けた。不気味な物音が気になる、ちと通してくれはしないかってな。

 

 返答は―――

 

 

「用済みだ、消えろっ!」

 

 ―――そうきたか!

 俺は殴りつけてきた奴さんにショットガンをぶち込んで距離を取ると、叫んだ。

 

「今だッ、イアン、やれ!」

「どうなっても知らねぇぞ俺!」

 

 瞬間、閃光。

 

 緑色のエネルギー弾がとっさに跳んだ自分のいた場所を通って行くと、それは負傷したスーパーミュータント野郎の胴へ直撃、眩く妖しく輝く緑色の光はそのまま全身へ広がって、細胞の隙間に入り込むとそのつなぎ目のシナプスだのなんだのを溶かしてやるのさ。

 

 プラズマピストル、俺もお目にかかるのは初だったが道中見つけたこの”街の遺物”に撃ちぬかれたスーパーミュータントの奴は、一瞬にしてドロドロと身体を溶かされジェル・・・言わば”粘液の山”とも呼べる物体に変貌しちまったのさ、ひゅぅ!

 

 当然、奴らは驚きに目を見張り一瞬硬直、しかし何かのプライドが許さないのかすぐに臨戦態勢に取り掛かるが――― アホがっ!

 

「舐め腐って武器のひとつも持たなかったのが悪いんだこのスカタン!」

 

 連中、俺らが襲撃かけてくるとは夢にも思わなかったんだろう、火炎放射器を持った一人とレーザーライフルを持った一人を除いて全員非武装と来てやがった。しかも連中図体がでかい、俺を狙うに射線が通らないもんだから隙だらけ、イアンの次の弾はレーザーライフルを持ったやつをぶち抜く。

 

 そこからは完全に大混乱さ、指揮官か、激昂した火炎放射器の奴が味方ごと焼却して、俺はひたすら逃げる。勝手に数を減らしていくもんだからこうも簡単に倒せるとはゆめゆめ思わなかった――― だから、あとはそれだけどうにかすりゃいい。

 

「燃えちまいな!」

 

 弾込めの終わったショットガンを火炎放射器に併設された燃料タンクに向け、叩き込む。

 

 瞬間大爆発さ、スーパーミュータントの指揮官と、周囲にいた奴らが巻き込まれて大炎上、残ったやつも向かってくるがそれも格闘術でうまいこと捌いてる間にイアンが溶かしてやり、あっというまに全滅の憂き目に遭ったわけさ。

 

 

 奴らの全滅を確認しもしないまま、俺らは燃え盛る火の中をひたすら走り抜けて浄水施設へと向かう。

 

 一心不乱に扉を開き、出てきたスーパーミュータントを撃ち殺してまた奥へ。そうしていると古びた施設の鉄臭い臭いの中に、わずかな血の臭いが混ざってきたことに気付いて歯噛みしながら、俺らはやがて―――

 

 

「相棒ッ!」

「Vaultの!」

 

 

 ―――ひどい、光景だった。

 

 あいつの顔は腫れ上がって、血を吐きながら地面に倒れてわずかに動くだけ。

 拷問だ、尋問なんて生易しさじゃあなかった、壮絶な拷問を、この短時間に受けたってことだ、たぶん幸いだったのはあのでかい図体の奴が相手だったから小器用な手を使われなかったこと、しかし不幸せだったのはきっと、奴さんが手加減が不得意だったってことだ!

 

「畜生!」

「なんと、護衛はどうした!?」

 

 ロウの奴が血のついた手を側のミニガンに向けようとしたが、俺のが速い。

 ミニガンの銃身をへし折ってやり、戦力を奪い去ってやる。そうしてやると、ロウの奴はいかにも悔しそうに歯を食いしばりながら下がり、護衛らしい二人のスーパーミュータントに道を塞がせると自分は裏口へ向かう。

 

 俺らはそれを追おうとするが、スーパーミュータントの護衛に防がれた。

 

「待てよ畜生!一発は一発、百発は百発だ!やらせろッ!」

「ははっ、また会おうかティコ、イアン、そして・・・ノーマル、次こそ君から聞き出してみせよう――― Vaultの場所を」

 

「来るぞティコッ!構えろ!」

 

 裏口からロウは消えていき、護衛と交戦する。

 

 外の連中と同じように丸腰だったから大したことなかったし、イアンのありったけのプラズマピストルの射撃に一人が殺され、もう一人は俺に向かうが図体がでかい、散弾を一発分全部叩き込んでやると、咳込んだ姿に次いでククリナイフを叩き込んでやった。

 

 おおかた戦闘に関してはずぶの素人なんだろう、振るわれたナイフを避けようともせずに食らったがそれでも頸動脈を切り裂かれて、果たして生きてられるもんなのかい?人間とは比べ物にならない流血の海が地面を浸していく。

 

 兵隊気取りの割にはすいぶんと、腕前が足りないんじゃないか、ええ?

 

 

 俺らはすぐさま、相棒を抱え起こして介抱するが、これはひでぇ、顔は真っ赤に腫れ上がってて歯もいくつか折れてる、内臓は・・・大丈夫だ、破裂しちゃいないがこりゃ、長旅にゃしばらく耐えられそうもない。

 

 出血がひどいわけじゃないから命に別状は無かったが、それでも十分に酷い状態だった。浄水装置から冷たい水を出し、タオルを冷やしてやると相棒の額に置いてやる。それからしばらくすると、相棒はようやく起きてくれたんだ、俺らは思いを共通にほっとした。

 

「・・・ティコ?」

「起きたか相棒、心配すんな、奴らは仕留めた・・・っておい!動くな、無茶だ!なあ!」

「駄目だよ、行かなきゃ・・・Vaultが・・・」

 

「分かった、何があったか話せ!なあ!」

 

 ケガの具合も気にせずに相棒は立ち上がろうとするものだから、俺もイアンも必死に止める。

 

 それだけのことを聞かされたってことだろうか、俺らが聞いてやると、相棒はまくしたてるように話し始めたんだ。こんな顔、一度も見たことは無かった・・・それだけの、必死の形相だった。

 

「あいつら、Vault13を探してた・・・軍隊を強化するために、Vaultの住人・・・地上に出ていない、”ノーマル”って人達を探してあいつらみたいなミュータントにするんだって・・・行かなきゃ、Vaultが・・・」

「ま、待てって!Vaultの場所を喋ったのか!?そうじゃないんだろ?」

「そ、そうだけど・・・」

 

「なら当分バレんだろ、今はとにかく休め、ウォーターチップをお前さんが届けなかったらそれこそVaultは全滅なんだろ?」

「・・・わかった、でも」

 

 納得してくれて一息、ってところで相棒がまた話しだす。

 その目は腫れ上がって片目しか見えない状況でも、はっきりとした意志を持っていた。

 

「あいつら、”ザ・マスター”って奴のユニティって目標に賛同して、それでウェイストランドを支配するつもりだって。もうすぐ世界中の人間があいつらにされるんだって・・・だとしたら、僕、僕」

「もういい、喋るな、世界はそう簡単には変わらん・・・きっとだ、お前の役割は終わった、もう休んでいいんだ・・・あとはB.O.Sあたりにでも任せて一緒にVaultに帰ろうぜ、その時良かったら、俺もパーティーに加え入れてくれ、一曲歌おう」

 

「うん、ティコ・・・ありがとう」

 

 そのまま、相棒はぷつりと糸が切れたかのように一気に眠りに落ちる。

 

 そうだ、お前の冒険は終わった・・・あとはただ、帰りの途。

 お前の偉業がVaultの歴史に綴られて、人々は未来お前を語るんだ、それだけのことをきっと成し遂げた。帰れば最高の料理と旨い酒、いい女もよりどりみどり、お前の未来はきっとバラ色さ。

 

 お人好しの、穴倉出身の、ひょろい青年。

 そんな男の冒険譚。

 

 だがなんだろうな・・・お前の言葉を聞いた瞬間―――

 

 

 ―――巻き込まれずにはいられない、そんな直感がしたよ。

 

 

 

 




(´・ω・`)なおネクロポリスは旧作だと、最もベガスに近い街だそうな。
 補足するとVault12、ベーカーズフィールドに設置されたVaultは放射線の人間に与える影響の調査のために完全に扉が閉まらない設計になっていたらしく、結果大量の死者とグールを産みだした、本当に死者の街なわけです。
 なのでネクロポリスにいるグール達は、当時からここに居た人を多く内包している戦前知識の宝庫だったりするんですね。

以下参考なまでに、今回は多め。

・プラズマピストル 以下vault-wikiより。
http://fallout.wikia.com/wiki/Plasma_pistol_%28Fallout%29
プラズマディフェンダー、と言えばきっと分かる。初代のプラズマピストルはこれだったわけです、NVのは複刻というか旧作ネタでもあるわけですねー、NVだとサイドアームに軽くて良かったです。でもネクロポリス来る程度の時だと金欠とセル不足に悩まされるのであんまり使う機会が・・・。

・14mmピストル
http://fallout.wikia.com/wiki/14mm_pistol_%28Fallout%29
 なんだその口径?となること請け合いの14mmです、サイドアームとしていいというか、弾があんまり売ってないのでサイドアーム以外で使えないというか。
 威力はピストルとしては破格の威力、イアンに持たせると後半逃げまわるだけの彼がとたんに戦力に加われます。デザ秀。

・セット
http://fallout.wikia.com/wiki/Set
 ネクロポリスのリーダー、でも実質じゃなかったり。
 悪人に違いはないですけど、仕事をすればきっちり報酬もらえるあたりビジネスパートナーとしてはやってけるタイプの人。選択肢がアレなので、初見で殺し合いになったのは自分だけではないはず。
実はFallout2でも生きてる人。

・ロウ
http://fallout.wikia.com/wiki/Lieutenant
確かルー・・・ルー・テナントって言ってた!
ルーテナント、中尉って意味だよ、ウェイン。
すまんね、たまにスーパーミュータント並にバカになる。

 というNVのフリーサイドの会話の元ネタの人、本来はマリポーサ軍事基地の奥にいるんですが、ネクロポリスで会話選択肢を間違えると拉致られて彼と対面することになるのでこちらに登場、彼との会話は必見。なお主人公の装備と運次第では拉致った結果殺される可哀想な人。本作の改変ポイントの一つ。

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