トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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(´・ω・`)どうも、皆さん熱中症にはお気をつけ下さい。
(´・ω・`)でないと自分のようにバイト中に膝をついて視界が核の炎に包まれたように白みがかり、グールになる前兆か何かのように嘔吐感と頭痛に苛まれた挙句早退、以後数日頭が痛む生活になります。

Fallout4発売まで一〇〇日切りましたね。


14861字。


第三章:西の森を行け 34話

 

 

「ッ!当てられた!!10時の方角に反応5!頼む!」

 

「騎士隊構え!10時の方向距離1,200!風魔法一斉発動!」

「“ヴェント”!」

「“ヴェント”ッ!」

 

 ロイズの指示に従って、騎士隊の指揮官が指示、彼を含む数名の騎士隊が手に持つ銀剣にマナを媒介し風の刃を一斉に森の中、木々の間に隠れるように弓を構えていたゴブリンへ向かって発動させる。

 

 深い森の中において、炎は山火事を誘発するためご法度、氷は直線軌道が多く扱いづらく、大地の魔法は相手の位置をつかみづらい。光線や誘導する光弾を射出可能な陽魔法、貴重なそれを扱えるテッサは荷が重いと家の番を任せてあるのでいない。

 そうなると必然的に、森の戦いに残る魔法は風の魔法だ。木々の間をくぐり抜け、無数の真空の刃が敵に殺到すると構えた弓を、喉元を、四肢を切断し瞬く間に血塗れのゴアバッグへと変えていく。

 

 幸い、周囲を森に囲まれたパーミットの騎士隊は風の魔法に適性のある人間で構成されていて、闇の淵のような鬱蒼とした森林の進軍にはもってこいの人材であった。

 

「次!3時の方向にアンブッシュ!ッ!メイジの奴だっ!頼むアニーアのっ!」

「お嬢に恥じぬよう!弓隊構え!てっ!」

 

 姿を表し緑のマナ、風の力を集め放とうとしていたゴブリンメイジに対し、アニーア私兵隊の面子が弓を射る。彼らは魔法に強い適正はなかったものの、洗練された弓や剣の腕をもって進軍するロイズ達の助けとなっていた。

 

 

「敵影なし!助かった!」

「“白銀闘士”に言われれば光栄だ!後で娘にサインを頼むよ!」

「れ、練習してないっ!?」

 

 

 誰にも犠牲も、怪我人も出ていないものだから自然とジョークも飛ぶ。

 

 パワーアーマーを着たロイズの役割は専ら、先行し敵の攻撃に”被弾”、パワーアーマーの装甲をもって無理矢理に弾き返して敵の位置を教えることであり、この数時間の道のり、後半になるに従ってゴブリンによる妨害が激しくなってくるに従い矢に石、氷弾から風刃までが飛び込んできたものの鎧袖一触、パワーアーマーの強靭なる装甲の前には撫でられるも同然だった。

 

 背中に背負ったリュックに当たらないようかばいながら、ロイズは放たれた矢を弾く。ここのところ役割に薄かったことが引っかかっていたのかバラッドも弓隊に加わり、狩りと闘技場で鍛えた弓の速射を披露し活き活きとしている。

 

 そうなると出番が少なくなるのはフラティウにシェスカだ、接近戦オンリーでほか知らずなフラティウは知名度と風格から総大将、決戦兵器とばかりに扱われ出番に恵まれず、シェスカは髪色通りの炎属性特化であるために空けた場所でないと役立たず、使ってもいいが一月がかりをかけて森を更地にするのがオチであった。

 

 とはいえ双方、まさしく”決戦兵器”。

 近距離戦なら狂化状態でロイズと互角、精神面のしっかりとした今ならやや上回るであろう、されど決着もつかないであろうフラティウに、広範囲を焼き払えるシェスカ、共に大事な戦力であった。

 

「どうした胸ペタ!足の裏もペタペタになったかよ?」

「っっさいわねぇ!どうせお嬢様ですよーだ!女だからってナメんじゃないわよ焼くわよっ!?」

「シェスカ、君さえ良ければ背に追うが・・・」

「大丈夫ですよフラティウ様ぁ、こんなくらい!この!痛いのとんでけ、めっ!」

 

 されど歩き始め幾数時間、一行の疲労、特に目的地への度重なる妨害によって溜まったそれはいつしか、まだ見ぬ地を踏破する彼らの息を少しだけ荒くする。特にまだ幼気な少女でしか無いシェスカには重く、されどこの地点――― 地図に示された場所に辿り着くまで足の裏の痛みに耐えたのはひとえにその根性を賞賛すべきであろう。

 

 皆、休息が必要であった。

 しかしそこでふと足を止め、Pip-boyをロイズは覗きこむとひとり、苦い顔をした。

 

 

「おっかしい・・・っ、地図の場所はここだろ、ここが終点だ」

「・・・別の場所ということかロイズ、謀られたと?」

「いや、多分違う。ここからまた別の道があるんだ・・・と思うけど」

 

 Pip-boyのレーダー、その方位を見て頭を抱えるロイズ。

 

 フラティウもまた、懐から小さな道具、方位磁石の役割を備える”方位魔石”を取り出すとその針がぐるぐると回っていることに気付くのだ。ロイズのPip-boyの方位計もまた、レーダーによって近隣の生体反応は示せど方位だけはぐるぐると回っていた。

 

「磁場が狂ってる、無闇に探すとオレらまで共倒れだ。くっそぉ・・・」

「ジバ?マナじゃないの?まあいいけど、ここまで徒労ってんじゃあたしも正直どんよりよ?」

「ったってよぉ」

 

 どうにもならないのだ、と口元をへの字にする。

 そうしていると、樹の上に居たらしい、バラッドが降りてきて会話に加わった。

 

「敵影はなかったよ、ロイズのその道具の方だとどう?」

「周辺に適正反応ナシ、休むんなら今のうちってわけだけどよ、もしかすると当分休みになるかもしれねー」

「ここからティコさんは・・・案内されたってことかな、誰かに・・・ロイズの道具で追えないの?便利な道具、いくつも持ってるけど」

「ったって」

 

 

 バラッドの素朴な疑問に頭に悩ませ――― そこで、ふとピンと来る。

 

 自分の相棒が、百年を超えて生きる男が何もしていないだろうか?仮に敵に虜囚の身にされたとして、黙って牢の中で静かにしているだろうか――― 手がかりになるような何かを、残しているかもしれない。

 

 そう例えば、

 

「離れたところでも話が出来るような、とか持ってた気が」

「それだ!やるなバラッドッ!」

「え?え?」

 

 バラッドの両手を握りぶんぶんと、ロイズは振って喜ぶのだ。

 状況を打開するための道具が、確かにあった。

 

「こいつに賭ける!」

 

 腰元に組み付けておいたひとつの機械、しばらく前に、サンストンブリッジで”何があってもいいように”と渡されていた軍用小型無線機。その電源を入れると、ロイズはとんとんと、送信キーを断続的に押しては離して、を繰り返す。

 

 軍用のモデルであるから、電波の届く範囲は非常に広い。

 これが彼の耳に届くかと、そう思い――― 何度も、一人休まずずっと繰り返す。

 

 

 すると、

 

「・・・!」

 

 反応が、あった。

 

 無線の受信ランプが、自分が送信した時と同じようにチカチカと、断続的な信号を送ってくるようになったのだ。

 

「ロイズ、ティコさんの位置が!?」

「ああ、分かるかもしれねー・・・Pip-boy、お前に託すッ!」

 

 Pip-boyは高度な機械だ、暗号通信の受信も――― その発信先を割り出すことも容易な、そんな。

 

 ロイズはPip-boyにも断続的に発信されてくる無線信号の送信先の座標を割り出し、その位置をおおざっぱにしか書き込まれていない大きな自動描画マップ、そこにマーカーとして表示し、コンパス上に浮き上がらせる。

 

 磁場が狂い方角が正確に読めなくなっているが、それでもこの断続的な信号が送られてくる限りは位置を補正、その方角に進むことは十分に可能なのだ、即ち”道標”、これに違いなかった。

 

「シェスカ!足どれくらいで治る!?」

「えあ?え?こんなのほんの数分・・・やっぱり数十分ちょうだい!たっぷり!」

「分かった!みんな―――」

 

 にっと笑う、笑顔がこぼれる。

 自分の相棒が、生きている、そのことが彼の心に言いようのない感動を与える。

 

 ロイズはぐっとサムズアップをすると、部隊の面々に向かって言い放った。

 

「―――あいつの居場所が分かった!生きてる!休んだらすぐに行くからじっくり身体休めてくれよなっ!」

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「・・・おっと、とうとう見つけてくれたかな、相棒」

 

 薄暗く、しかし外を見れば小川が流れている、そんな場所の牢の中にティコは座り込んでいた。

 

 格子の隙間に頭を突っ込んでみれば見張りのゴブリンに頭をはたかれるのがオチだったが、一度やってみると周りがよく見え、その場所は先にロンサムジョージと長い会話をした、あの輸送機とほど離れていない場所であることがわかる。

 

「目立つランドマークを用意してあるんなら、きっとここに真っ先に来るだろ、もしかするとこいつらを根絶やしにしてくるかもしれんが・・・まあ今ならもしかすると、かもな。嘆かわしいぜ、あいつらの軍隊はとっくに街に向かって出ちまった、一眠りするにゃ時期が悪い」

 

 ふわあ、とするふりをしてもあくびが出ない。

 

 街がどれだけ持つかわからないが、谷底を整列して歩み、長蛇の列をなして崖の階段を登って行ったゴブリンの大軍隊、きっと三千は下らないだろう。もしもそれらと彼の相棒たちが正面からぶつかっていなければいいが、いないとしても入れ違いになる、街から戦力が奪われていることは容易に考えついた。

 

「軽率だったかもしれんが、知りたいことは知れた・・・って喜んで相殺して、はぁ・・・くそっ」

 

 格子に手を掛ける。

 

 竹格子であったためにノコギリでもあれば簡単に壊れそうであったが、あいにくと今の自分はほぼ手ぶらだ。防具の類は外されていないが武器類は皆ロンサムジョージが大事そうに抱えてくれていったため牢破りの手段に欠ける。

 

 立て付けが少し心元なさそうだったので蹴破ったら案外外れるような気もしたが、そんなことをしたら今度こそ簀巻きにされて牢の隅で泣き事を漏らし続ける羽目になったであろう、ティコは八方ふさがりな現状を――― だが、それを、打破する方法がたった今降ってきたことに内心喜ぶ。

 

 自分の無線に、電波の到来だけを示すノイズが走る。

 

 

 相棒からの無線信号だと、ひと聞きに分かった。

 彼はとんっ、とんっ、と断続的に電波を送り、スイッチを押しては離してを繰り返す。彼の無線はヘルメットに内蔵されているため、右こめかみをとんとんと叩く形になるから、傍目には悩み事か、はたまた退屈を持て余しているようにも見えた。

 

 見張りのゴブリンもそれが気にかかったのか、彼に目を向ける。

 ティコはそれに気づくと、両手を広げて弁明した。

 

「ん?うるさいって?まあ少しくらーいいいじゃねぇか、退屈なんだよ」

「・・・ギィ」

 

 言葉が通じていないが意図は伝わったのか、ゴブリンはまた備え付けの丸椅子に座って見張りを続ける。

 

 それにふうっと息を吐いて安心すると、ティコはまたとんっ、とんっ、とスイッチを叩くのだ。それ位置を示すように、道標を建てるように――― それからどれほど時間が経っただろう、長いようで、短く感じるそんな時間。

 

 

 ―――別の音が、聞こえてくる。

 

 喧騒、言うなればそれだ。生活音と鍛冶師が鉄を叩く音、理解に及ばないゴブリンの駄弁りと川の流れがおおむねを占有していたこの場所の音に、更に別の、もっとやかましい音が混じって喧騒となっている。

 

 鉄を打ち鳴らす音が、落着した身体が潰れる音が、断末魔の響きが耳に入る。遠くでは聞き慣れた声が、直近に聞いた野太い声と言葉のぶつけあいをしているのも耳に届いた。

 

 それらが勢いを増してきたところで、彼はふふん、と鼻を鳴らすとコンバットアーマーを外すのだ、それから彼はコンバットアーマーの裏地に手を伸ばし、そこからダクトテープで固定した一本のダーツをべりっと剥がしてみせた。

 

 誰にも、相棒にすら明かしていない万が一の切り札だ。

 防具の裏まで調べられなくてよかったと思いながら、彼はそれを人差し指と親指ではさみ、片目をつぶって狙いをつける。

 

「っと」

 

 ふと、ティコは思い出したように狙いを外し呼びかけた。

 相手は見張りのゴブリン、呼びかけに乗じ、ティコに目を移す。

 

 そして―――

 

 

「“お願いします”ってな」

 

 手を軽く振り、するとすうっと、空気に乗ったかのように滑らかに空中を飛んで行くダーツ。

 

 それはまもなく、それを認識する間もないままダーツはゴブリンの額を貫通し、脳幹をわずかにかき回し機能を奪い去ると少し、一歩、二歩とだけふらつかせぐりん、と白目を剥かせ、やがて斃れさせる。

 

 ティコは牢から手を伸ばしキーリングをひったくってやると、鍵穴に差し込み牢を開け外へ出た。

 

「っふあぁ~っ!やっぱし相棒が来るまで一眠りしておくべきだったか!」

 

 大きなあくびは、安心感の証左だ。

 

 谷に差し込む日差しに照らされこころなしの眠気と疲労感が身体にぶり返してきたような気をさせながら、ティコは彼の”脱獄”を見て血相を変えてきたゴブリンの別の見張りが武器を手に襲いかかってくるのを軽くいなして武器を奪い取ってやるのだ。

 

 的が小さく膂力はそれなり鍛えた人間並みと言えど、精錬に鍛錬を重ねたレンジャーの男の敵ではない、足技ひとつで容易に二、三匹を河に落としてやり、手にとった銅の斧を肩に担いで彼は走りだす。

 

 

「この”混乱”に乗じてとっとと武器を取り戻さんとなっ!それで相棒と合流したらあのいけすかない妄執ミュータントの鼻っ先にセコイアの銃口を突きつけてやるのさ、街は誰にも渡さんってフィルムみたいなセリフも一緒にな」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「着いた・・・」

「ここが・・・なるほど、誰も」

 

 森の木々に顔を隠し、先行して暗視装置でゴブリンの本拠地、谷を見るロイズ。

 

 谷の中から灯りが煌々と漏れ、暗視装置で見続けるのが辛くなってくるようになるとロイズは暗視装置の電源を落とし、ハンドサインをもって部隊の面々を呼ぶ。

 磁場の狂った森を抜け、よくやく見えた谷、そこから漏れる灯りが何を指すかは誰もが察し、フラティウも、バラッドも、普段は口うるさいシェスカでさえも真剣な目となり、騎士隊やアニーア私兵隊の面子も陣形を整えロイズの指示を待つ。

 

 この面子は元々、ティコを救出するための少数精鋭だ、仮に辿り着いた先にゴブリン全軍がいたとして、正面から当たればきっと押し負けるだろう。ロイズやフラティウ、シェスカのような規格外が存在することは頼もしい極みであったが、それでも荷が重い。

 

「見つけられないわけだ・・・」

「方位魔石が効かない森の奥の断崖絶壁郡の中が棲家ってねぇ、そりゃ誰も見つけて、あまつさえ帰ってこないわけよね。まあいいわ、とっとと焼き払っちゃいましょ?谷なんだからよく燃えるわよ、末代まで根絶やしよ」

「バッカお前、グールごと焼けたらどうすんだよ!・・・ちょっと待ってろ、見てくる・・・やめろよ!絶対やめろよっ!」

 

 指先から小さな火を出してくるくるとするシェスカが今にも歩いて行きそうなのを制し、ロイズは数名、斥候として優秀そうな私兵隊の二名を引き連れると先行し、谷をのぞきこむと斥候二名にも同じことをさせる。

 

「スッゲー忍びにくい構造だよなー・・・どうすっか」

「誰かが敵を引きつけ、その隙に進入するのがせいいっぱいの策かと思われます。ロイズさんが引きつけてくれれば私達がティコさんを救助しに行ってきますよ」

「オレに死ねって?」

「その鎧、どうやれば貫けるんです?」

 

 全くだよな、とジョークに返しつつ、ロイズは一旦戻ろうとする。

 私兵隊の二人も同様だ、彼の後を半歩後ろついていく。

 

 作戦が決まったのなら、あとは実行する人間の割り振りをするだけなのだ、ロイズは無様に捕まって虜囚の身になったティコをさんざん笑っていじくってやりたかったものだが、それは後に回そう、と思いながら自分を囮になる、その一人に加える。

 

 そして”部隊”まであと十数歩、そこまで近づいた途端―――

 ―――ロイズの腕についたPip-boy、そのコンパス上にひとつだけ、赤い光点が光った。

 

「ッ!敵かよっ!?」

 

 最も早く反応したのはその警鐘を”聞いた”ロイズで、適正反応を示す赤い光点が存在する左真横を向き、すぐさま、戦闘姿勢を取って駆け出す。相手が歩哨や警邏のゴブリンなら仲間を呼ばれればそれだけで厄介なのだ、だから先手を打って潰そうとし、しかし―――

 

 

 ―――飛来する無数の閃光が、彼を押しとどめた。

 

 

「ッ!ウッソだろっ!?」

「ロイズさ―――」

 

 無数の閃光、いや、弾丸だ。

 

 ロイズは進む足をその幾十発もの弾丸に押しとどめられ、しかも、パワーアーマーの力ですら押し返させられぐっと地面を踏む。

 無数の弾丸はロイズがそうなるのを見届けたかのように、横へと滑るように移動するのだ、狙う先は二名の斥候、トレーサーのように乱れなく狙いが移されるとその弾丸の嵐は、彼らの肉体を損傷、損壊、木っ端微塵に砕き破砕するのだ。

 

 木っ端微塵に砕けた二人の死体は文字通り血煙となって広範囲に飛散し、地面を濡らす。

 

 そこで射撃が止まるも、ロイズは体に響いたその弾丸の衝撃にじぃんと嫌な感覚を覚えずにはいられない――― 人間技ではない。

 

 そう、彼の心に嫌な予感を与える決定打になったのは、一発の”弾丸”だ。パワーアーマーに命中し、されど跳弾せずその場に残った希少な一発はロイズの身体にひときわ大きな衝撃を与えたとしていい印象はないが、それでもそれを拾い上げ、彼は見る。

 

「5mm・・・この連射力・・・ってこた、まさかミニガンかよ!?」

 

 圧倒的連射速度、先端5mmの小さな弾丸、人間を瞬間に破砕するほどの過剰威力。そこから彼が推測した武器はひとつだけだった。

 

 

 ―――その推察を褒め称えるようにか、拍手が響く。

 

 そして戦闘姿勢を抜かず拳を構え飛び出せる姿勢をとったロイズや、盾を持ち飛び出してきた騎士隊、装備を抜いて出てきたフラティウ達の前にその、見あげるような大男は現れるのだ。柔和な笑みは巨躯の凄みに押しつぶされ、手に持った獲物は理解できずとも、それが絶大な破壊力を遠方から叩き込めることだけは今に生まれた惨状から誰にでも理解させる。

 

「優秀な君達のことだから、予想はしていた・・・待っていて良かったよ、私は」

 

 にっと笑って武器をおろし、手を胸に当て自己紹介。

 そんな”スーパーミュータント”に誰が行ったか一言は、

 

「・・・巨人・・・!」

「スーパーミュータントのロンサムジョージだ・・・しかし、当時実戦配備された中では少なくとも、アメリカ最新鋭パワーアーマーだったT-51bはなるほど、今にあっても十分に稼働しているとは驚きだよ、君を倒すにはもうひと押し必要だろうか?ミニガンに徹甲弾を積んでくるべきだったな」

「スーパーミュータントのお出ましったぁオドロキだけどよ・・・ックソッ!なんでんなトコにいるんだよ!」

 

 ぎりっと、歯を噛むロイズ。

 

 ここにきて存外の強敵が現れたことに対する苛立ちで、自分たちの作戦が行う前から潰されたことに対する悔しさでもあった。現に、銃声を聞きつけたのか数匹のゴブリンが谷にかけられた階段から上がってくるのが見え、時間が経てば経つほど不利になっていくことを悟らせる。

 

 

 ロイズはスクライブだ、指揮官(パラディン)ではない。

 だが度重なる実戦に鍛えられた彼の判断力が、彼に即時の判断を下させた。

 

「騎士さん達とアニーアの、それとバラッドはグールを頼む!シェスカもついてけ!あいつを助け終わったらここを焼き払ってやれッ!」

「分かったロイズ!できるだけ持たせて!」

「あんたは?フラティウ様はどうするのよっ!?」

「オレらは・・・」

 

 ぐっと拳を握り、目の前の巨人を睨みつける。

 呼応するかのように並び立つフラティウも、白銀剣を引き抜いて中段に構える。

 

 白銀と漆黒のコントラストはとても良く映え、その勇壮なる姿には目の前で一挙一動、端倪する視線に射抜かれる緑の巨人、ロンサムジョージもほう、と声を出し、ついつい武器を下ろしてしまう。

 

「こいつの足を留め・・・いや!仕留める!ぶっとばすっ!」

 

 同時、行け、と叫ぶロイズ。

 

 シェスカやバラッド達は一瞬の躊躇いのあとそれに従い、走りだした。ここにいる面子は大なり小なり、実戦に鍛えられた面子であるゆえに、迷いを振り切る決断は早かった。

 だがそれにくっくっとロンサムジョージは笑いながら、去っていこうとするシェスカ達に再び持ち上げたミニガンを向けるのだ、しかしその銃口が狙いをつけるより早く、電気発火の引き金が銃弾の尻を叩き上げるよりも早く、ロイズの行動の方が一歩先んじた。

 

「やらせっかよこのデカブツッ!」

 

 背負った荷物、先のミニガンの斉射のせいで破れ放題となり、落ち放題になっていた荷物のうちのひとつ、水を込めた水筒を引っ掴むとロイズはロンサムジョージに向かって思いのままに放り投げたのだ。

 

 かさばらないよう容量を大きめにとっていた水筒は重量も大きく、それはパワーアーマーの膂力をもって投げられるとロンサムジョージの手に持つミニガンに命中し、同時に破裂し水を振りかける。

 手元を狂わされたミニガンの狙いはあらぬところへ届き木々のいくつかに穴を穿ち、降りかかった水が熱された銃身で蒸発し水煙を吹き上げる。ロンサムジョージはそれに苦い顔をすると、既に見えなくなってしまったシェスカ達を諦め、ロイズへと銃口を向けた。

 

「粋なことをしてくれるなロイズ君、ティコから面白い子だとは聞いていたが、そのパワーアーマーは脅威となる。やはり殺しておいた方が良さそうだよ」

「やってみろよ、テメェがこっちをぶち抜く前にそのデカ顔ぶん殴ってやらっ」

「我が剣も忘れてもらっては困るぞ巨人、使う武器はティコと似たようなもののようだが、ならば狙えるのは一人だけ・・・対策は可能だ、我が鎧は硬いぞ」

 

 中指を立てて挑発するロイズと、巨剣の切っ先を向けるフラティウ。

 ロンサムジョージはそれに目元をくしゃっと寄せる。

 

「“黒き剣士”フラティウ・ドムアウレアか・・・話には聞いているよ、君も殺さねばな。一騎当千の武者が存在し、兵を導くということは士気の向上、敵の萎縮、そしてせっかく用意した強大なる個体兵力の撃破につながってしまう。我々としては非常に都合の悪い存在だ、君も、ロイズ君も」

「買い被り、至極僭越だ。だが我はただのしがない剣士でしかないさ・・・故に、命をかけて貴様を切り伏せよう、我々から見て、貴様もまた貴様の言う存在に違いないのだからな」

「ははは!実に面白い相手に出会えたというもの!幾二百年の時を待ち続けた甲斐があったというものだ!ならば我が腕前、鈍っていないことを証明しようかロイズ君!そして黒き剣士よっ!」

 

 言うと同時にロンサムジョージはミニガンの銃口を定め、引き金を引く。

 

 回転するライフリング、背負った弾倉からベルトを通し矢次早に給弾される弾丸の背を電気発火の衝撃が叩き、秒間何十発もの5mm弾が殺到する。小型の携行型パーソナルミニガンであったために最大装填数240発ほどと少ないものの、その威力、特に連続発射に寄る運動エネルギーはパワーアーマーにすらダメージを与えるに十分だった。

 

 ロイズもそんなものを食らっては仕方がないので、フラティウと共に双方反対方向にダッシュしてかわす。

 一瞬の迷い、銃口から発射される弾丸が止まり、回転を遅めていくライフリングの回転に従って使用されなかった弾薬がいくつかパラパラとこぼれたあと、銃口は決断を下したと振り向く。

 

 ロイズの方を優先したのだ、その逃げる足に追いすがるように、再び発射された弾丸の弾着点はあっとういうまに近づいていく。そしてパワーアーマーは軽く高機動なT-51bとはいえど機械制御、銃口の振り向きはその足より早く到達するのだ。

 

「ッ!!」

「はっはっは!どうだね5mmの味は?遠慮せずたっぷりと受け―――」

 

 ロイズの身体を覆う装甲に、5mmの小さな弾丸が無数の針のように突き刺さっては弾かれていく。数十発の弾丸が降り注ぐその衝撃は凄まじく、ロイズも土手っ腹を蹴り飛ばされたかのような感覚を覚える。

 装甲を貫通することはないものの、運動エネルギーは確かなダメージを彼に与えるのだ。だが―――

 

「―――むう、もう弾切れか。これだから携行型は信頼できんのだ、街を奪ったらもっといいものを調達するとしようか」

 

 幸いにも240発の弾丸はあっというまに切れ、ロンサムジョージは腰元にいくつも括りつけた予備弾倉のひとつをミニガンに取り付けられた弾倉を弾き出し交換しようとする。

 

 されどその隙を逃すフラティウではない、ロイズはややふらつき初動が遅れたものの、フラティウは地を蹴り跳ぶと猪突猛進と、手に持つ巨剣の射程内にロンサムジョージを入れ、勢い良く振り下ろした。

 

「なんとぉっ!!」

「舐めるなよ人間(ヒューマン)!」

 

 鎧に守られた腕で斬撃を受け止め、続く連続の切っ先も全て受け止めてゆく。

 二撃、三撃、四、五、六、幾多の斬撃を捌いてゆくのだ。

 

 それにこれではキリがない、と察したフラティウは大きく振りかぶると、渾身の一撃を叩き込む。表情は鬼気迫り、振る剣は空気を両断、まさしく剣豪の一撃だ。

 

「ぬぅぅぅん!!」

「甘く!見るなッ!!」

 

 されどロンサムジョージは片腕だけでそれを受け止め、あまつさえ与えられる衝撃などさもないというように自身も立ち上がりその勢いのまま、フラティウをその子供の胴回りほどある豪腕で殴りつけたのだ。

 彼が纏う黒鎧は魔法処理を施した上等な品であったものの、まるで樹の幹を叩きつけられたかのような鈍く重い衝撃が彼を襲いごろごろと転がした。

 

人間(ヒューマン)ごときが、この進化した人類たる私に力比べで勝るとでも?馬鹿を言わないで頂きたいな黒き剣士よ、君と腕相撲をしたら私が腕をへし折り!引き千切れる自信すらあるのだ、相手を見極め給え」

「―――だったらこっちはどうだってんだッ!」

 

 給弾を終えたロンサムジョージがフラティウを見下ろしながら言う間に、近寄ってきたのはロイズだ、V.A.T.Sによる高速化で一瞬で距離を詰めていたのだ。

 

 ただ勢いのままに、追いすがる彼の拳がロンサムジョージを捉える。そしてまたも片手で受け止めようとする彼の腕を、ロイズのグリーズド・ライトニングが打ち据えるのだ、機械制御のプレスによる”二重の衝撃”に、ロンサムジョージの腕がやや弾かれる。

 

 彼は驚きに目を見張り、されど、にっと笑うのだ。

 まるで楽しんでいるかのように、自身も拳を握り―――

 

 

「ぬぅぅぅん!!」

「ッ!?」

 

 続くロイズの拳を片手で握り受け止めると、もう片方をロイズの頬に向かって殴りつけた。

 

 パワーヘルメットをかぶりながらも、視界が揺れ脳が一瞬揺さぶられる感覚を覚える。脳震盪に行かないまでも一瞬ふらつきかねない衝撃に襲われたロイズに、ロンサムジョージは更に豪腕を叩きつけるのだ。

 

 当然、ミニガンの掃射を防ぎきったパワーアーマーだから効くまい。だが身体を鈍い衝撃と揺れに何度と揺さぶられる感覚は実に不快で、内臓に通る度に気分が悪くなり、幾度とロンサムジョージが彼を殴りつけとうとう蹴り飛ばしたときには、吐き気を催す。

 

 されど立ち上がり、拳を構えるのだ。

 しかし、それよりもずっと、ロンサムジョージは早かった。

 

「手加減してやろう、もう少し楽しませてくれよロイズ君」

「野郎ッ――― おあああぁぁ!!」

 

 構えたミニガンから一斉掃射された銃弾がロイズを襲い、右へ左へ揺さぶる。

 

 装甲を貫通しないまでも凄まじい衝撃が彼を襲い、彼は微量の血を吐き――― 銃撃が止まった瞬間、ヘルメットを外して大きく吐き戻す。地面に手を着き、微量の血の混じった吐瀉物を砂に染み込ませた。

 

「ふふ、いいザマだよロイズ君・・・最初は君を見た時米兵か何かかと思ったものだが、違うみたいだ。どれ、少し力比べでもしてみようか?君のパワーアーマーが、私の力に耐えられるかどうか・・・引きちぎれないかを試してみようじゃないか、なあ?」

「っふざけろ・・・!」

「黒の剣士も既に動けず、君も私には勝てない。勝負あったな」

 

 ロンサムジョージの言うとおり、見ればフラティウも殴られた衝撃なのか血反吐を吐き膝立ちになっている。

 

 事実上の敗北だ、スーパーミュータントという生物なら今まで幾度か倒した、だが彼は、奴は、ロンサムジョージは強い。得意のインファイトが捌かれ、遠距離ではなすすべなく、全てにおいて上を行かれているのだ。

 

 ゆっくりと、ロンサムジョージが近寄ってくる。

 獲物を前に舌なめずりをする虎のように、ミニガンを無作法にぶら下げたままロイズの目の前まで歩み寄るのだ。

 

 その手が伸び、力なく払おうとするロイズの身体をつかもうとする。

 その時―――

 

 

「では、邪魔者もいないことであるし、さっそく・・・」

「―――誰がいないって?」

 

 

 刹那、銃声が響く。

 

 

「ぐうっ!?」

 

 放たれた銃声に呼応するかのように、ロンサムジョージの右腕に衝撃、次いで出血が伴われるのだ。ロンサムジョージはすぐさまその腕を見て、ようやく納得する。

 

 腕に穿たれた穴、入り込んだ45口径の銃弾、それが自分を撃ちぬいたと。

 

「相棒を可愛がっていいのはこの俺だけだぜミュータント、ずいぶん退屈させてくれたじゃないか、今度は俺とやりあわないか」

「・・・まさかこうも安々と出てくるとは思わなかったよティコ」

「今度から牢番は牢より遠い場所でやるよう教育しておきな、バナナを取るサルみたいに、猿でもできる簡単なトリックで出られちまうぜ」

 

 ロイズも谷を見る。

 

 ティコだ、見れば先程より遥かに煌々と立ち上る灯りを背にして、.45-70ガバメント、レンジャー・レコイアを手に握り硝煙を立ち上らせる彼が戻ってきたのだ。その背からはシェスカにバラッド、数を減らせど騎士隊と私兵隊の面子も上がってくる。

 

 立ち上る煙が示すのは、ゴブリンの谷を焼き討ちしたということなのだろう、ロンサムジョージの顔が歪むが、だがすぐに元に戻る。まるでおもちゃに興味を失った子供のように、”まあいい”と言わんばかりに。

 

「古巣の谷が焼かれたのは私としても悔やむばかりだが、あの街を手に入れてさえしまえばどのみち帰らんのだ。ふふ・・・ここにこれだけの面子が集っている、君達が帰る頃にはだいぶ侵略も進んでいることだろう、実に私は運がいい」

「なーにを勘違いしてんだ、お前さんの命運はここまでだぜ。あの街は渡さん、あの街はお前らのモンじゃあない、これまでも、これからもな」

「ふふ・・・」

 

 不敵に笑うロンサムジョージ、彼はティコに目を向ける。

 

「参考なまでに、どうやって武器を手に入れた?中々わかりにくい位置に隠しておいた気がするのだが」

「センサーを取り付けて、ボタンひとつで鳴らせるようにすりゃモロバレってもんよ、鉛の箱に入れときゃ良かったな」

「はっはっは!私もまだ考えが甘かったか!はっはっは!」

 

 清々しいまでの大笑いが、場を包む。

 しばしそうしたあと、ロンサムジョージは「失礼」と一言だけ添えると、こほんと咳をした。

 

「なるほど、バーニング・シェスカに黒の剣士、ロイズ君にティコ、これは私でも辛そうだ。ここは一旦退かせてもらい、私もそろそろ街の方へと向かうとしよう・・・指揮はギギに任せてあるが、目標を理解しているか危うい」

「だから逃げられるかって・・・」

「そうでもないさ・・・お前たち!命を賭して彼らを止めよっ!」

 

 レンジャー・レコイアの銃口を向けロンサムジョージに撃鉄を下ろすティコに対し、ロンサムジョージが叫ぶ。とたん、何体、何十体ものゴブリンがわらわらと湧いてきて、ロンサムジョージと彼らとを塞ぐように立ちはだかるのだ。

 

 そのころにはロイズもフラティウも立ち直っていたが、されど、増え続けるゴブリンの処理に追われてティコもロンサムジョージを狙っている場合ではなかった。

 

「ッくそっ、隠し球にしちゃぁ雑で・・・でも効果的だ!」

「おいッ!逃げるなデカブツ!一発殴らせろッ!なあ!」

 

「止まれと言われて止まるまいさ!さらばだロイズ君!ティコ!今度は街で会おうではないか!」

 

 後ろ手に手を振り、ミニガンを背負うとロンサムジョージは一目散に逃げ出す。

 

 その背にティコは銃弾をいくつか見舞うが、いかんせん距離が遠いためにハズレ弾が多く、当たった一、二発もその強靭な肉体に阻まれ決定打とはならずに彼の逃走を阻むことは叶わず、姿が森に消えていくのをただ見送るのみ。

 

 そんな中、シェスカが叫ぶ。

 

「アンタ達、動くんじゃないわよ!まとめて焼き払うの!」

 

 シェスカが叫び、全身を炎のマナに真っ赤に輝かせる。瞬間、溢れ出るのは炎の濁流だ、以前ロイズも見届けた”青い炎”、その濁流はやがて炎の龍のように意思を持つがごとく動きで次から次へと湧き続けるゴブリンをまとめて焼き払うと谷底へと消えひときわ大きな爆発を残して消える。

 

 それに状況が打破され、道が開けたことを察するとロイズとティコは部隊を引き連れ帰路を急ぎにかかるのだ。背後から追いかけようとするゴブリンはティコとバラッドが殿を務め銃弾と弓、投げナイフで仕留め距離を離す。

 ロイズを筆頭になるだけ走り、やがてゴブリン達の姿が見えなくなってしまうくらい遠くに離れてから、一行は今までの疲れがどっと吹き込んできていっせいにへたり込んだ。切羽詰まった状況を理解してもなお、消耗だけは避けきれなかったのだ。

 

 

「・・・ケガないかよ、グール」

「心配してくれんのはありがたいが、特に無い、それよりも―――」

「ああ、わかってら」

 

 二人は頷き、深く息を吸って身体になじませる。

 その時には既に、緑の巨人の姿は見えなくなっていた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

トレヴはこの街に慣れてきた男である。

 

 道行く人に顔を覚えられてきたし、顔も覚えてきた、まだまだ日雇い仕事しか得られていないがそれでも、以前よりはマシな仕事も斡旋してもらえるようになったしその分羽振りもよくなったのだ。

  

 彼の野望はまだまだ先である、故に彼は今日も明日の日雇い仕事に精を出すべく、早めに寝ようと思ったのだが―――

 

 

「なんでだろう・・・」

 

 ふらり、ふらりと身体が動く。

 向かう先はただひとつ、今なお自分が足を踏み入れたことのない、一等市民区と呼ばれる場所だ。

 

 なぜ身体が動くかは分からなかったし、行く理由も分からなかったが分かるのはただひとつ、自分がただとてつもなく、この場所に向かいたいと思ってしまうことだ――― まるで頭の中で服従を強いる誰かが強制を強いるように。

 

「・・・みんなも夜遅くに忙しいなあ・・・」

 

 トレヴが言うとおり、見れば街の人間の多くがふらりふらりと、眠たそうな目で向かっている。あの場所は確か、衛兵が防備していて許可のない者は入れなかったはずだ、だが見れば、遠目に見えるその門には幾人もの下町の人間が入っていって、衛兵は咎めもしない。

 

 それに疑問を振り払えたトレヴは、門をくぐって未踏の地に足を踏み入れるのだ、薄いブーツの足裏から感じたのは、人が踏み鳴らして偶発的にできた土の道とは違う、しっかりと都市計画に従って整地された石の道であった。

 

 誰も彼もが、ふらりふらりと歩く彼らの道を阻むことなく一等、二等、区別をつけられて呼ばれる双方の街の境界などないようにふらふらと、まるである一点を目指すかのように同じ方角へと進んでいくのだ。

 

 そして見えてきた場所、街の中心、そこには、

 

「もしかしてあれが・・・28番目の金庫ってやつか・・・」

 

 ”Vault28”とかつて呼ばれた、人々を守るための保護シェルター。

 その場所に人々はただおぼつかない、夢遊病のような足取りで入っていくのだ。

 

 トレヴもまた、なぜかそこに入らなければいけないような気がして、人々と共にそのゲートをくぐる。

 

 

 

 ―――その上に、足を組んで座る一人の少女が、”灰色髪”の少女がいたことには気づかないで。

 

 

 

「っと、これくらいでいいかなぁ、ジョージさんの予想だと500人くらいだもんねえ」

 

 ゲートの上に座り、ふわあっとあくびをする少女。

 フードつきのローブをかぶり、猫の耳を持つ少女は”灰色の髪”を持っていた。

 

 彼女は疲れたように、身体を伸ばすとゲートの上に寝そべる。

 

「これでしばらくすると、とっても面白いことが起こるって話だから楽しみぃ~、それまであたしはここで寝てようかなぁ・・・戦うのはわたし苦手だし、ああ、ヒキョウモノっ」

 

 そのまま彼女は、横になって手を枕に、瞼を閉じようとし―――

 そこでふと、はっと思い出したかのように目を開けた。

 

 

「そういえば、ロイズくんとシェスカちゃんは今いないんだよね?じゃあ帰りを待ってあげなきゃ!妬んじゃうくらい力が欲しくて仕方ない、頑張り屋のシェスカちゃんとまっすぐまっすぐで突き進んじゃうロイズくん!あの二人は危ないことから遠ざけておかなきゃ・・・お友達に・・・いいえ、もっとそれ以上にするんだもの」

 

 再びゲートに座り込み、眼下を見る”灰色髪”。

 真下を流れていく、退屈で冗長な、顔も名前も覚えたくない人種達にあくびを漏らしながら、彼女は想うのだ、自分を楽しませてくれる、とても強く琴線に触れる二人の人間を。どうしても手にしたい、二人を。

 

 

 ―――きっとこの街は戦場になる。

 

 その時生き残るのは強い方で、強い方は自分の方だ。

 だから自分が生かしたい人間は選別し、自分が守ってやる必要がある。

 

 そんなことを心の隅で考えながら彼女は―――

 

 

「―――早く、戦争にならないかなぁ、悪い子はみんな、死んじゃえばいいんだ」

 

 冷たい声で、つぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 深く深く、地面の底。

 冷たい、無機質な声が響く。

 

『―――潤滑(ディッピング)実験の最終要件を達成致しました、これよりカウントダウンに入ります、繰り返す―――』

 

 

『全セキュリティボット、機能停止』

 

 

 




参考なまでに、

http://fallout.wikia.com/wiki/Minigun_%28Fallout:_New_Vegas%29
Vault-wikiよりCZ75ミニガンです、お世話になるプレイヤーは多いはず。

 5mmの弾丸を描写する上で最も悩んだのが弾の大きさなんですが、なまじ5mmは実在しない弾丸なのでどんなものなのかと思ってやみませんでした。
 なのでゲーム中の威力が低い+ミニガンの小さい弾倉にいっぱい詰められる、安いなどの要素から5.56mmのような大型の弾丸ではなく拳銃弾<5mm<ライフル弾程度の小さい弾丸なのでは?と判断して描写しています。

 パワーアーマーを貫けるかに関しては、パワーアーマーがミニガン程度でぶち抜けたら人間戦車やってられないよね、というのと初代でもクリティカル喰らわなければミニガンでパワーアーマー装備の人が大ダメージ受けることは滅多にないので貫けない、殺せないと判断してます(´・ω・`)

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