トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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14854字。


第三章:西の森を行け 28話『Vault in Vault in』

 

 

 

 

 くるくると、円卓は回る。

 取り囲む運命の虜の命を内に収め、くるくると回る。

 

 彼らはただ叫ぶのだ、運命よ、自分のところへ来てくれと、自分の場所で留まってくれと。

 されど運命は誰のものでもなく、ただ吹かれるがまま、気の向くまま――― もしかすると、そこには神の意志が介在しているのかもしれない。

 

 くるくると、くるくると、円卓を回る運命のボールはやがて止まった円卓を―――

 

 

『19-24、ラインです、テッサリア様とトーガ様は配当を5倍に―――』

「やったぁ!今日はついてるなあ!」

 

『掛け金100$チップに加え五枚が支払われます』

「よぉっし!故郷にいたころは賭博狂いや借金漬けのやることだって避けてたけど、ルーレットって面白いねアルベルト!最初は大銅貨五枚だったのが十分経たずに十倍超えだよ十倍!さ、君もやってみなよ!」

「あ、アタシぃ!?無理だよって!ポンコツほど運良くないって!」

「そう言わずに」

 

 ”28番目の金庫”ことVault28の地下上層、ついこないだに開かれたカジノエリアで目を引くのは少女が二人。

 片や短い赤毛、全体的に赤いルックとその亞人の血が遠い先祖から戻ってきたことを示す”先祖返り”のアルベルトと、もう片やクーラーの冷たい風に白い肌をふるわせ、なびく銀の髪をいじらしそうに撫でるは見るも麗しい、物憂げな風格とは裏腹にはしゃぎ手を叩くテッサリア、二人はこの場所に訪れ、哀れテッサは既にルーレットマシンの虜になりかけていた。

 

「大丈夫だってアルベルト!こっちの”EVEN(偶数)”ってとこに賭けてみなよ、2分の1で掛け金倍だよ!今週はいつもより倍贅沢が出来るんだよ?どうだいアルベルト!」

「でもダメだったら」

「大丈夫、このボクと一緒にいる君に運気が傾かないなんてこと、あるわけないだろう?ボクが保障するよ、大丈夫、君はきっとこの賭けに勝つから」

「そ、そういうなら半分だけ・・・」

 

 誘われるがままにほいほいとチップを変換し、はいあたしも、と卓に加わったアルは貴婦人や紳士方に怪訝な目をされながらも、ここにいること、横に並ぶテッサ、そしてもともと人当たりのいいことから可愛がられ、少ないお小遣いをぎゅっと握りしめる。

 

 それからディーラーのMr.ハンディがルーレットを回しだすと、彼女はテッサに言われるがままにEVEN(偶数)にチップを並べるのだ、彼女はなまじこのような経験は初めてで不安でしょうがなかったが、横にいる幸運娘を見て、そして”あの二人”も合わせ偶数なのだと願掛けすると、ほんの少しだけ安堵し回るルーレットへと目を向ける。

 

 回る回れや運命の輪、摩擦係数の少ない精密機器のベアリングは擦れもなくゆっくりと速度を落としていき、それがはっきりするたび周りを囲うどうしようもないギャンブラーたちの心拍数を一拍、二拍、鼓動を増やす。

 

 そして訪れる運命の瞬間(ゼロデイ)、アルはその人間を越えた猫の先祖返りの動体視力によって、緩やかにと回るようになったルーレットの数字、ボールが確かに”28”を指していたことに顔をほころばせて―――

 

 

―――ことり。

 

 

 瞬間、停止したとたんにボールは一段横に弾け、ぽすっ、とおさまる。

 ストレート(ドンピシャ)でもEVEN(偶数)でもならず、”29”、奇数(ODD)であった。

 

「まあこういうこともあるよね」

「フシャーッ!」

「いったぁーっ!?痛い痛い!やめてよアルベルト!次は、次こそ巻き返せば・・・いったぁーっ!?」

 

 アルは隣でまあ、仕方がないといった顔をして手のひらをひらひらとさせていたテッサに跳びかかって爪を立てる。テッサはなまじ身体能力が彼女にすら劣るポンコツなものだから、髪をくしゃくしゃにされるまで抵抗は無意味だ。

 それになまじ彼女がこっそりまた無謀にも、全資金をライン(横二行)に賭けて5倍配当、通算6倍ぶんの資金を得て資産をアルのお小遣い一年分以上に増やしていたものだから勢いは止まらない、テッサは結局、もみくしゃにされた自慢の髪を梳きなおすことになってしまいぶうっと頬をふくらませた。

 

 そしてしばらく一悶着、ハンディが何か何かと寄ってきたことでひとしきり落ち着くと、アルはぷいと顔を背けてしまう。

 

 なんとも怒っていることを示すそぶりで、顔は赤らめ頬まで膨らませ、端に見える目尻にはほんの少しだけ光るものが見えるのだ。 

 それにテッサはさすがに悪いことをしたな、と彼女に声をかけて、その肩をそっと持って揺らす。そして目線を彼女と合わせるとそっと、彼女の顔をつかんで自分に向かせた。にっと微笑んで、その目と目を合わせるのだ、アルも憎ったらしかったが、心底恨んでいるわけではなかったから逸らすことはなかった。

 

 それからすぐ、テッサは小ぶりな唇で言葉をつむぐと、アルに投げかけた。

 

「ごめんねアルベルト?悪気は無かったんだよ、少しその・・・興奮しちゃって」

「うっ・・・アタシもそこまで恨んじゃいなですよーだポンコツエルフ、ちょっと今月は半分のぜいたくしかできないってだけです、自業自得でーす」

「あはは、まあ怒るのも無理はないさ、だから―――」

 

 

 ―――一緒にやろう?

 

 

 にっと笑って、テッサが言う。

 対するアルはその言葉は予想できなかったようで、目を丸くするとぱちくりさせるのだ。

 

 だがしばしむず痒いような、子供の小さなプライドが邪魔をしてる表情をしてあちらこちらへ目を向けた後、うーっと唸ってとうとう、折れたのか唇を曲げながらもテッサと目を合わせ、言った。

 

「わ、わかりましたよっ、そんなに言うんなら一緒に遊んであげるよっ!」

「活きが良いねえアルベルト!じゃあ二人で、どこにするかを決めようか!」

 

 再び卓上に戻ってきた少女二人、ドレスコードはきっちり守った彼女たちを快く迎えたギャンブラー達。彼らは正当な、楽しい賭けさえできれば、あとはどうでもいいのだ、だから彼女達がぽんと少ない資金から$1,000チップを二枚差し出した時にはウオゥ、っと賞賛してみせた。

 

「いいのっ!?こんないっぱい!」

「君とボクとのキックスタートが少ない額なんてつまらないじゃあないかい?出資は半々、一蓮托生だよアルベルト。さて、じゃあせっかくだから―――」

 

 ルーレットが回り、止まるまでの緊張感走る瞬間、あちらこちらにチップが動くのだ。

 地面の下、夜半のギャンブルは今最も活気づいていて、テッサとアルもそれぞれがお互いに語りかけ動こうとする。

 

「―――君の意見を聞こうか」

「お高く止まったエルフさんが殊勝なことで、アタシは・・・」

 

 彼女がかっと目を見開く。

 

 刹那、ゆっくりと時間が流れたように視界がスローになるのだ、彼女の究極的な動体視力はボールの動きを完全に捉え、脳が熱くなる感覚のなかでいくつもの思考を張り巡らすと、一つの予測を立てる。

 

 汗がほんのすこしだけ髪に滲んだあと、彼女は隣に並び立つエルフ娘にそれを伝えた。

 

「たぶんここ、きっとまたここ!」

「奇遇だねアルベルト!ボクもそこって気がするんだ・・・全賭けで行こうかっ!」

 

 くすりと笑って意見の一致を嬉しむテッサが、細い指先で二枚のチップをすっと卓上で押す。それがテーブルに描かれた一数字にのみ止まったことで、卓を囲むギャンブラー達は更にどっと湧くのだ、例え負けても、無謀な挑戦に挑んだ彼女たちが勝ちさえすれば自分も勝ちなのだと、そんな錯覚を抱くほどに。

 

 回る運命の輪はまたもくるくるくると回り続け、ボールの軌道を誰もが目で追う。だがそれをはっきりとこの場所で追っているのはこの場所でただの一人、脅威の動体視力を持つアルだけで、隣のテッサはそれを信頼し尊重し、テーブルに頬杖をついて憂げな笑みを浮かべつつルーレットに目を通すのだ。

 

「今日限りは月の神はお休みだ、幸運の女神フォルを崇拝しよう・・・いけっ!」

 

 その姿に目を奪われる者もいれば、ただ訪れる結末を待ち続ける男達まで千差万別、このどうしようもないギャンブラー達の熱気は増し続け、いつしかゆっくりとなり、チップの動かせなくなったテーブルでなお更に増し続ける。

 

 

 だがボールが止まったその瞬間――― 一気に冷めた。

 賭けは”28”、番号は”27”、運命の女神は微笑まなかった証左。

 

 

「だめかぁ・・・」

「まあこういうこともあるさ、ただでさえ38分の1なんて当てるなんて―――」

 

 投げかけられる視線が憐憫に変わりかけ、テッサとアルも残念そうな顔をしたその瞬間。

 

 ―――幸運の女神は彼女たちを見捨ててはいなかったのかもしれない。

 とたん、ガタンと止まるルーレット、器具の故障か偶然の重なりか、なんにせよそれは別のギャンブルにでも興じようと、卓を離れようとする少女二人に、

 

 

「お、おい嬢ちゃん二人!待った待ったっ!」

 

 こいつを見ろ、と憐憫の視線ではなく、声をかけさせるくらいには変化をもたらした。

 

 

 それを背中に受け止め、テッサとアルは何か何か、と卓を見る。

 見渡せば感じるのは視線であったが、それはまさに”羨望”や”嬉しさの共有”といった感じのものであって決して憐憫などという不名誉なものではなかったのだ、場は盛況し、どうしようもないギャンブラー達は肩を組んで酒をぐいっと飲んでいた。

 

 つまり―――

 

『おや、故障かな?これだからメンテナンスのタスウォースは・・・まあいいでしょう!番号は”28”ストレート!テッサリア様、掛け金$2,000、配当35倍の結果は――― チップ$72,000分です、お受取りください!当カジノはジャックポットはまだまだですのでどうぞよしなに!』

 

 刹那、脳裏にびびっと走る衝撃、目を合わせるテッサとアル。

 

 テッサの隣の紳士は下心か、ゲン担ぎか、アルの隣の貴婦人は単純にゲン担ぎであろう、しきりに握手を求めてきて、応えてやると今日は儲かるぞ、と喜んでまた卓に加わる。次も、次も、彼女達に触れたがるのだ、紳士的とは言いがたかったが、それでも熱狂の中にあると関係ないのだろう、とテッサは笑う。

 

 

 だがそれよりも―――

 

「やったぁ!やりましたよポンコツ!」

「一気に小金持ちだよアルベルト!ボクと組んでよかったってそう思うだろうっ?」

「言うねえこのこの!アタシの目もいいもんでしょっ!」

 

 少女二人、抱き合って、というよりは背の違うテッサがアルを抱き上げる形になって共に喜びをわかちあう。昨日まではおいそれと手に入れられなかった金がころりと懐に転げ落ちてきたのだ、これがあれば旅の道連れに贅沢させることも、いっそ旅だけに専念することもできるだろう。

 見た目には小さな二人が抱き合っているものだから微笑ましく、周囲の視線は和やかなもの、だがそれにはっと気づくと、二人はばっと離れて何をしていたのか、気の迷いかと照れくさそうに軽く咳を飛ばすと、しかしまた目を合わせる。

 

 そして確認するのだ、きっと、

 

 

「ハンディ!飲み物を持ってきてくれまだ続けるよ!酒精は無ければ無いほどいい!」

「チップの山で前が見えないよー!?もっと高い奴に変えてくださいよー!一気に行きますよ一気に!」

 

 

 少女二人、既に賭博の虜。

 猪突猛進、王道直進、彼女たちはもう止まらない。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「―――ってな感じに嬢ちゃん達が目を引いてくれてたおかげで、俺らは安全に侵入できたわけだ」

「ぜってースるぞ、あいつらきっと帰る時にはスッカラカンだろ、明日はおかず一品減らすぞ」

「相棒は薄情だなぁ、俺は$100,000は稼いでくるに10キャップ賭けるぜ」

 

 薄暗い、レッドランプだけが照らす通路。

 

 カジノエリア裏手の従業員用通路に彼ら、ティコとロイズはいて、せわしなくそわそわとティコは通路の入口側の曲がり角を見通しては肘をさすって彼の相棒、ロイズに声をかけてはうっとうしがられるのだ。

 

「・・・で、まだか相棒?」

「オレだってハードレベルのクラッキングを一瞬でできるかよ!?・・・あいつらがもっと向こうを騒がしくしてくれるのを期待してろっ」

「俺らにも運が試されるたぁ、カジノってのはどこにいようと幸運の女神の指差し任せってこったか、いつでも逃げる準備はしとけよ相棒」

 

 腕につけたステルスボーイのスイッチをいつでも押せるよう準備し、ティコはずっと向こうに見える通路の曲がり角を見据える。

 彼らがここに来た理由、それは更なるロイズのターミナル解析によって最下層エリアの1フロア、おおまかにレベル5(最最下層)まである区画のレベル3程度の区画へのエレベータが、ここカジノの裏手にあると調べがついたからだ。

 

 曰く金庫室のある区画であるためと緊急用に設置されたものらしく、良心的な設定のカジノの裏に見える苦労にひとしおの哀れみを二人は感じる。

 されど行けば何かが分かると、そう確信した二人は二人の幸運な少女を隠れ蓑にこっそりと侵入し、見張りのハンディのスイッチを切ってここまでやってきたのだ。もしスイッチを切られたハンディが発見されたらまずここまで来る別機体があるだろう、と見越しているから、なおのこと警戒は怠れない。

 

「っと、出来た!よっしゃあやっぱオレできる奴っ!」

「よくやった!でかしたお前は天才だ相棒!さあ来るなよハンディ、愛してるぜ・・・」

 

 そうしていると、ようやっと神様が微笑んだとばかりにロイズの手元のターミナルが浮かべる文字列を変える。それににっと笑みを浮かべ彼が迷わず解錠のキーを入力すると、ガタン、と、エレベータが接近してくる音が響くのだ。

 

 

 ―――しかし。

 

 

「―――ッ!」

 

 突如、背後に感じた気配。

 おおよそ一人分だったから彼らは警備ロボットが自慢のホバージェットを駆使し、音もなく接近してきたのだと予想を立て、喜んでいる間を突かれた、油断した、しまったという顔をしながら振り返る。

 

「後ろに何か・・・いつのまにッ、ハンディか?すまん、メンテナンスでな、別に侵入者じゃぁ―――」

 

 ジョークを交えてまたスイッチをこっそり切ってやろうと、目を鋭くしながら振り向いた先には―――

 

 

「・・・ロイズくん?それにティコさんまで、こんなところでなぁにしてるの?」

「何をしでかすかと思ってこっそり来てみたが・・・君達はやや無作法な様だな」

 

「げえっ!?ゼノにアニーア!?ンなんでこんなとこにぃ!?」

 

 二人の少女が、平然と立ち尽くしている。

 

 ネコミミぴんぴん、白い髪、ゼノは後ろ手に手を組みやや頭を下げて、彼らの行動に疑問を持つように。対する金色のポニーテール、赤地のドレスが眩しいアニーアは扇子で口元を隠し、彼らを猜疑的に見るそぶりであった。

 

 予期せぬ闖入者(ちんにゅうしゃ)の登場には、二人も驚くほかない。

 

「うーん、アニーアちゃんと今日は遊びに来てたんだけど、そうしたらこっそり裏に行くロイズくん達が見えたからさー。目はいいんだ目は、耳もいいんだけどねっ」

「そうしてついてきた、というわけだよロイズ、それに・・・」

 

「ティコだ、レンジャー・ティコ、まあ齢食ったおじさん程度に思ってくれや」

「ああ、わかった・・・というわけで、ここを統べる者の娘として不調法は許すわけにはいかないと思ってな、ちょっと、何かするなら監視しに来たのよ、ロイズは研究員であるからまた新しい区画を開いたのかとも思ったが・・・それならそれで、一番乗りも悪くない」

 

 ふふん、と鼻を鳴らして見立ては間違っていなかったかな、と言ってのけるアニーアに、ロイズはかなわないと諸手を上げる。ゼノはゼノでただ好奇心だけが優先されたのか耳をぴこぴこ、にっと笑顔をしているだけで、それを見るとロイズとティコも、自然と毒気が抜かれる気分にもなった。

 

 そしてはっと、彼らが思い出したとたんにガコン、と上がってきたエレベータがその機械扉を解錠させ、明るい照明に彩られた狭い方舟への入り口をぐわっと口を開いて待つ。

 とたん、通路の奥からも何かが迫ってくる気配を感じるのだ、それも複数、おおよそハンディタイプが停止された仲間を見つけて異常を察知し、秘密裏に処理しようと侵入者を探しているのだろう、長く伸びた影が通路の曲がり角から見えてくると彼らは戦慄する。

 

 するととたんに彼らは、彼女たちの手を引くのだ。

 

「悪いゼノ!時間がねー!一緒に来てくれ!」

「金髪お嬢!あんたもだ、ターキーになりたくなけりゃこっちに入れ!」

 

「え?え?ちょっと急な展開にゼノついてけない!」

「なっ、無礼な!私を誰だと・・・」

 

 軽装服のロイズはゼノの手をぎゅっと握って引き寄せ、抱きとめるようにしてエレベータの中に転がり込み、ティコもアニーアを有無を言わせず引っ張ると受け止め、ボタンを押してエレベータの扉を閉じる。

 

 とたん、ガタンとエレベータが動き出して深く深く、潜っていくのだ。

 向かう先は地下二十層よりも下、人の住む領域よりも更に奥、LEVEL3区画、きっと謎に近づける、そんな場所へと―――

 

 

 

 

「・・・着いたか」

「空気がひんやりしてる・・・長いこと誰も立ち入らなかったせいで、機器を守るために空調設備がドライ運転してんのかよ、二枚じゃたりねー、もう一枚着てくるんだった」

 

 ピンポン、と警戒な音を鳴らすと共に、扉が開かれ一行はその場所へと足を踏み入れた。

 

 先頭をピストルを構えたティコが切るようにして後ろにロイズ、間に娘っ子二人を挟むようにして警戒網を設定し、ゆっくりと動く。それからすぐ、エレベータから十歩も行かないところであっただろうか、彼らはふた手にわかれた道に直面、足を止めることとなった。

 

「っすっごーい・・・またあっというまに新しいところ開いちゃったんだ、ロイズくん。やっぱりロイズくんを見込んだゼノは正しかったってことだねぇ・・・でもなんか、イヤな空気、とっても」

「まだまだ下層があるとは知っていたが、ここは・・・何か違う気がするな、体感で分かる、居住区よりも更に下であろう?まだまだこの場所は未解明であるから危険がつきまとうやもしれんぞゼノちゃん・・・ッ、剣を持ってくるのであった」

 

 ゼノとアニーアも、ひんやりと頬を撫でる空気に並々ならぬものを感じると、互いに思い思いの感想を述べた。

 

 ティコはポリポリとこめかみを掻き、両側を見渡す。

 見れば見るほど対照なものだから分別つかないも、されど、彼らは英語が読める。看板に取り付けられた”金庫室”と”警備用具保管庫”の、互いに逆を指し示す表示を見てううむ、と唸ったのち、彼は後ろからやってきたロイズと入れ違いに下がった。

 

「VaultのVault(金庫室)ってワケかよ、笑えねー」

「相棒も上手いジョークが言えて何よりだ、しかし・・・」

 

 ティコは背にした娘二人を見て、またううむ、と唸る。

 

「娘っ子二人抱えるのは俺ぁちときついぞ、何も無いといいが・・・俺の人生、Vaultで何も無いってこた中々お目にかかれなかった」

「オレだってごめんだよ、だいたい今フィスト持ってねーしスーパースレッジじゃあ二人後ろにして振り回すのあぶねーし、それに―――」

 

 ロイズが思い返すはいくつもの事件、見上げるほどの岩の巨人に惨事を引き起こした催涙弾、裏切りの超獣と狂戦士、少し前だが外道な褐色のエルフ達もいれば自身を氷漬けにした魔法使いまで、彼の記憶には幅広く、つまり、

 

「―――運ねーし」

「ああ・・・」

 

 自覚はあったのか、と納得したように声を漏らし、異議がないと思うティコはヘルメット越しに表情が見えてくるよう。

 

 そうしてしばし、互いに目を合わせる二人。後ろの娘二人は片やおどおど、片や退屈そうにしていて、言うことならば割と素直に聞くだろうが、それでもどちらがどちらを選ぶか、それによって難易度選択の重要性を思い知ることになるだろう。

 

 二人は互いに同時、指を指して―――

 

 

「―――オレ、ゼノを連れてく」

「じゃあ俺が金髪お嬢か、退屈はしなさそうだ」

「何を勝手に・・・私はロイズがいいのだが、信頼できるしな」

「ごめんアニーアちゃん、わたしもロイズくんがいいなぁ、後でみやげ話聞かせてあげるから、ね?」

 

「・・・まあいい、前々からティコ、君とも話をしてみたかった」

「そりゃどうも」

 

 そっけない返事を返し、ロイズとティコ、互いに反対方向へと少女一人を連れて手を振り、合図とすると歩いてゆく。おどおどとロイズの裾を掴んでいるゼノと、唯我独尊とばかりに退屈げに扇子をぱちんと閉じるアニーア、互いの気質はまるで真逆で、ある意味、この組み合わせが正答例であったかもしれない。

 

 それでもひんやりと、湿気の薄い空気はたまらなく、どちらにも寒気を感じさせるに十分だった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 冷ための空気、空調機に吹かれてゆるやかに醸し出されているそのひんやりとした風を足元に受け、ふと上は長袖一枚、下スカートのゼノはぶるっと身体が震えてしまう。ロイズは彼女が身体を抱き、やや眠そうな目をしたのを目にすると、立ち止まり彼女へ声をかけた。

 

「どうしたよゼノ・・・あー、寒いのかよ?」

「えへへ、ほっぺたはぽかぽかなんだけどね、どうしても体温下がっちゃって・・・猫らしくないよねえ、ずっと色々旅してるうちに、あったかいのに慣れすぎたみたい。地面の下なのに寒いなんて不思議だよね」

「っだろーと思った、悪いなゼノ、巻き込んじまって・・・っと、そうだ」

 

 身体を抱いて、笑顔で答えはするがその頭のネコミミはしっとりとへたっているため、それが無理であることは嫌でもわかる。

 その様にいたたまれなくなったロイズは、そうだ、と思いつくと着ているカジュアルウェア、黒ズボンに白のシャツがちょうどいい、その上に着ていたニットの茶セーターをよいしょと脱ぐと、ほらよ、と彼女に差し出してみせた。

 

「え?ロイズくん、なにしてるの?寒いでしょ?着なよ着なよ!」

「バッカ、オレは鍛えてるからいいんだよっ、筋肉あるぶん熱量がちげーしこんなの屁でもねーってんだ――― それに、女一人震えさせとくなんざ男が廃るだろーよ、とっと着ろよ・・・オレのために」

 

 言い切ったセリフに恥ずかしさを感じたのか、とたんにぷいと向こうを向いてセーターを差し出すだけになってしまうロイズ。

 

 ゼノは少しそれを見て、そしてふふっと笑うと、なら仕方ないね、とセーターを受け取った。

 

「ロイズくんの匂いがするねえ」

「恥ずかしいこと言うなよぉ!・・・臭わねーよな?」

 

 すんすんと、改めてゼノが嗅ぐ。

 

「ふふっ、ちょっと匂うかなぁ」

「ええ!?マジかよっ、最近気になってきたのにぃ・・・そのうち香水でも買うかぁ・・・」

「うふふっ!ロイズくんほんとに楽しい人!」

 

 着る際にさらりとゼノがこぼした一言に過剰なまでの反応を返すから、ゼノは笑顔が止まらない。そしてグレーで地味目の長袖シャツの上に茶色セーターを着た猫耳少女は薄幸そうな魅力を醸し出し、その笑顔と合わせたキュートな仕草は、ロイズがつい、ぷいと照れ顔を背け先へ足を早めることにもなる。

 

「待ってよぉロイズくん、危ないかもしれないよー?」

「オレはいいんだよ、危ないのはそっちだろ・・・そんときゃ守ってやる」

 

 

「んふふっ!」

「ど、どうしたよ?」

「なんでもない!じゃあ進もうっ!」

 

 そっと手を取り、つなぐゼノ。

 

 ロイズは右手にスーパースレッジを持ちながらもそれを受け入れると、目を向けなくても感じる守るべき対象の体温――― 普段ならきっと、照れ顔が真っ赤になるはずだったかもしれなかったそれに、奇妙にも安堵し足を進められた。

 

 

 曲がり角をいくつか曲がり、誰もいない、鍵のかかった倉庫や部屋。開くことは時間がかかるかもしれないが、それでも開けば少なからずの収穫はあるであろう場所、それらを湧き上がる好奇心を唾を飲んで蹴り飛ばしつつ、彼らはただひたすらにこの広い区画を歩くのだ。

 求めるものはただひとつ、更に下の階層へ行くため――― きっと最も下にあるメインフレームへたどり着くための鍵、もしくは手がかりの発見。

 

 迷いそうになる地下シェルターの中を右手法式で歩いて行くと――― 彼らはようやく、最奥にたどり着く。ひときわ大きな扉、しかし開け放たれた大きな扉、機械扉がぐいっと大口を開けて待っていた場所。

 

 

 金庫室であった。

 

 

「VaultのVault・・・」

「ごめんねゼノ言ってることわかんない」

「・・・優しく言われると傷つくからやめて・・・」

 

 無意識に飛び出た、二番煎じになりかねない渾身のジョークを優しく受け止められたことにいたたまれない気持ちになったロイズは、その場にしゃがみこんで落ち込む。その背中をゼノがまた優しくさすると、その気持ちは更に加速した。

 

「―――でもんなこたどうでもいいっ!中を見に来たんだよオレらは!」

「そ、そうだよねっ?さあいこロイズくん!お宝の山かもしれないよ!」

 

 急速な復帰を見せた男にゼノもえいえいおう、と片手を天に伸ばして後押しする。

 

 開きっぱなしでサビかけの機械扉をくぐり、金庫室をぐるりと見渡すのだ。しかし奇妙にも、何があったかセキュリティも既に解除されている様子であり、赤外線ワイヤーや警報装置はなにひとつ機能していなかった。

 

 これにはロイズも訝しみ、怪訝な視線を向ける。

 金庫の扉も半開きになっており、正面から中は詳しく見えずとも入ろうと思えば簡単に入れるようになってしまっていた。

 

「不気味なまでに大口開けてくれてるよなコレ・・・ゼノ、警戒しとけ」

「う、うん・・・」

 

 ゼノを後ろに控え、そっと大型金庫の中を覗き込むロイズ。

 とたん、彼は声を上げた。

 

「げっ・・・!」

 

 まずいものでも見た、とでも言わんばかりの声だった。

 

 彼の視線の先を追うと、そこには無数の小切手やら、おそらくVault内通貨だったのだろう見覚えのない紙幣も見え、戦前にも使われていた紙幣、通称”戦前のお金”もおさめられたケースからはみ出しているのが見える。

 カジノのチップも同様だ、Vault内で仮の経済を回すために用意されたであろう擬似的なものが、ここには詰まっていた、だが―――

 

 

「―――何があったんだよ、本当・・・!」

「え?どうしたのロイズく・・・うわぁ」

 

 ロイズの横からひょこっと、覗いたゼノも言葉に詰まる。

 金庫の内部にあったものは金銀財宝ではないし、戦前の宝の山だけなどではない、残っていた遺産はもうひとつ、まるでそれを手にしようとした者を飲み込んだごとく、金庫の中には複数の”人骨”が横たわっていたからだ。

 

 経年劣化を経てなお、あばらの形をはっきりさせるようにぴっちりと張り付いている服装は主に作業用ジャンプスーツやVaultスーツであったから、それがきっと”200年以上前”に生きていたであろう人間達だったことは想像できる。

 

 彼にとってはまたもであったが、それでもこの唐突な事態がきっとこの、”どこよりも安全な領域”で望まぬ人命の終焉が行われたことを察してしまった。

 

「Vaultはやっぱ安全じゃねーって改めて分かったけどよ、でもきっとこれは―――」

 

 更に目につくのは死体の損壊状況。

 そのことごとくは、

 

「手足を引きちぎって、頭を潰して、んな死に方、何やったら」

 

 死体の骨は、離れている部位があればそれは風で飛ばされたほど柔ではない。頭骨が砕かれた様はセキュリティボットのレーザーや、カッターで処断されたものではない。きっと肺ごと潰されたあばらは、鉄骨で殴られたかのよう。

 

 どんなことをすればそうなるのかと、どんな残酷な処刑法を思いつけばこうも惨たらしく殺せるのかと、彼に時間を越えた身震いをさせるに至った。

 

 

 しかしながら、考えても、むしろ考えるだけ嫌な感情が巡ってくるからロイズはふっとそれを振り払い、ゼノを後ろに連れるとそっと、遺骸を傷つけないように足元に気をつけつつ内部をめぐる。

 

 内部は遺骸のせいか、外とは異なる臭いがするから鼻のいいゼノは嫌な顔をする。

 そうしながらも物色を続けると、遺骸の傍らに落ちている一枚のカードキーを見つけるに至るのだ。

 

 だが再び、ロイズは苦い顔をした。

 とどのつまり―――

 

 

「・・・割れてやがる」

「ロイズくん残念そうだね、ゼノにはよくわからないんだけど・・・それ、なんなの?」

「あー・・・これが壊れてなかったら、もっと下まで行けるんだよ。ロブコの端末動かすためのカードーキーできっとVaultのメンテナンスの奴とかなら持ってると思ったんだけどよ・・・くそっ」

「ふーん・・・なるほどぉ、そういえばさぁ」

 

 大元のカードキーからは興味が移った、とばかりに応えるゼノ。

 

 それから彼女は、ロイズに向かってゆっくりと、言う。

 興味は彼にあると、彼のことを知りたいのだと――― そう言わんばかりに。

 

 

「ロイズくんって、色々知ってるよね・・・ほんとにどこで知ったの?ゼノ、知りたいなあ」

 

 後ろ手に手を組み、にっと微笑んで言うゼノに、ロイズはつい頭を掻く。唐突で、だが答えは前に用意してある。しかし、それでも今の彼女はなんとなく、彼の心を見透かしているというか、嘘をつかせない風格があった。

 

 まるで別れ話か、あるいは逆の話を切り出す恋人のように、捉えて離さない。

 

 だから、ロイズは。

 

「・・・故郷に同じようなモンがあるんだよ、オレはずっとそこの書庫の管理してて、だから知ってる」

「・・・”ろすとひるず”ってとこ?」

「カリフォルニアのど真ん中、な。いつか・・・連れてってやるよ」

「へへ、知らないところ・・・ずっと旅してたから。でも、ロイズくんがそう言うなら信じてあげる」

 

「・・・ありがとよ・・・言いたくないんじゃねーんだよ、ただ・・・そのうち話す」

「待ってるよ、ロイズくん。ああ、そうだ、じゃあ」

 

 ロイズの重々しい言い方に納得をしたゼノは、彼を信じる。

 そして逆に、自分からも話したいと切りだすのだ、ひとつ秘密を教えてもらったお礼、それが彼女の言葉だった。

 

 

「―――わたしのふるさとのことも、教えようかな」

「ゼノの?ああ、村がテロリストに・・・って、あっ」

「大丈夫だよ?そんな気を遣ってくれなくても、自分から話しておきたいんだ、ゼノの、秘密ひとつ」

 

 胸に手を当て、目を閉じる。

 

 その姿にはロイズはこころなし見惚れ、続く彼女の言葉を待った。

 やがて彼女は、少しだけ開き、思い淀んだような唇の動きを止めると話しだす。

 

 感情の発露のない、しっかりと、説明を与える口調だった。

 

「昔々は、亞人ってあんまり受け入れられてなかったから、特に攘亞派って人たちを王様も止められなくって、それでいくつも亞人の村が襲われたり殺されたりしたの、王国の方針とは真逆だったから騎士さま達も戦ってくれたけど、それでも追いつかなくってね?」

「・・・それで」

「私の村が襲われて、お母さんは殺されたの・・・見えなかったから、良かったかも、でも小部屋の下から流れる赤い血はまだ・・・忘れられないかなぁ」

 

 まだ序盤、最序盤だということなど、ロイズにも分かる、そんな話だ。

 だがそれだけでも壮絶、目の前の少女が受けた傷につい、彼は目眩がする。

 

「逃げて逃げて、ずっと逃げて、足の裏も膝も擦り切れちゃったんだ、骨は折らなかったし、病気にもならなかったから逃げ切れた。でも一緒にいた人たちはみーんな追いつかれたり、待ちぶせされてね、死んじゃった。でも、わたしだけが生き残った―――」

 

 ぎゅっと、胸を押さえて言う彼女を、ロイズはじっと見る。

 俯いているものだから顔は見えずとも、それでも悲痛な記憶を思い起こす彼女がそれに準ずる表情をしていないはずがなかっただろう。

 

 自分から聞いたなら今すぐにでも止めていた、だがこれは、彼女から言い出したことだった。自分の与えた秘密に対し割にあわないと思いながらも、彼女がこれらの事柄を話してくれたことを、ただのミーハーな女の子の擦り寄りではない、信頼の証だと感じると彼はただ、話をじっと聞く。

 

「魔法の才能があったの、特別な、前にも言った”秘密兵器”ってのがこれなの・・・秘密だから、秘密だよっ。それでね、わたし達みたいな亞人を受け入れてくれた人たちに拾われて、助けられて・・・それからは、住みやすくなってからは旅を、ね」

「・・・そっか」

「でもそれでもね、やり返したりはしなかったよ、わたしはね?だってお母さんが教えてくれたおまじないがあるんだもん、それはね」

 

 ゼノは俯いた顔を上げると、にっと笑った。

 

「いい子でいれば、きっと明日を生きられる――― だからいつも、別れる時には聞いてるの、ゼノ、いい子かなって・・・悪い子はみんないつか、因果応報を受けて死んじゃうの、だからわたし、ずっとそれを守ってる」

「・・・それでいいと思うぜ、ゼノ。人の間で生きるなら、きっとそれがいい・・・きっと」

「ありがとう、ロイズくん、でもね、思いもするんだ」

 

 ぐっとサムズアップし、ゼノの思いに応えるロイズ。

 ゼノはそれに笑い、しかし再びうつむき加減になるとまた何かを言葉にする。

 

 だがなぜだろうと、ロイズは感じた。

 その顔つきには、

 

「それでもまだ、耳が生えてるとかでいじめてくる人がいるの・・・たまにそれだけで暴力を振るう人もいるし、みんななんで仲良くできないのかなって。わたし達はそれだけしか違わないのに、それなのに・・・」

 

 すっと、伸びる陰がある、とても、

 

「だから思うの、そういう人たちってさ、きっと―――」

 

 

 

 ―――色の薄い陰が差しているようで―――

 

 

「―――悪い子なんだよね」

 

「・・・ゼノ・・・?」

「ううん、なんでもない!次行こうロイズくん!ここに用はもうないんでしょ?」

 

 目を細めたゼノ、紫色の妖しい目がそこはかとなく、ミステリアス。

 彼女の表情に差し込んだ陰に気付くか、気づかないかの微妙な距離、彼は彼女の顔を覗き込む。

 

 だがその顔がいつもどおりで、にっと笑った彼女だから安心して、彼はふと、顔を近づけすぎて、彼女の肩を持っていたことにはっとするとすぐさまに離し、やや顔を赤らめたまま癖の、頭の後ろを掻く動きをする。

 

「あ、ああ、もうこっちにゃなんもねーから、あとは手当たり次第ターミナルをクラックして開けてくしかねーと思う。もうこれ以上危なっかしいモンもねーだろうし、気ぃ抜いていいと思うぜ、ゼノ、だからオレの後ろに―――」

 

 ロイズが言いかけたその途端だろうか。

 

 視界に”赤”が差した。

 

 その急な展開にびくりと、双方身体を震わせるも、いたいけな少女であるゼノとは違う、戦う男であるロイズはすぐさま思考を切り替え、ゼノの手を引くと金庫の扉を盾にするように陣取る、例えレーザーであろうとこの重い扉を貫くことは叶わないだろうと、そう思ってだ。

 

 とたん―――

 

 

『警報作動、警報作動、レベル4への経路へ不正侵入しようとしている者を確認、監督官の指示あるまでカードキーを持たぬ対象を独房へ隔離するように、繰り返す―――』

 

 響き渡るは最悪のメロディ。

 ロイズはそのテンプレート的な文面を見て、ふと思うのだ、”監督官などいたか”と。つまり―――

 

「ウッソだろ・・・捕まったら一生檻の中かよ・・・!?」

「ろ、ロイズくん!あれ!」

 

 嘆く間もなく、彼らのもとに殺到するは一機のロボット、セントリーボットだ。

 

 金庫から扉までは距離があり、そしてロイズの足はレーザーよりも速くない。彼は背筋に走る寒気を抑えると、遺骸の脇にあった一丁のピストルを手にし向け、発砲した。

 

 されど経年劣化極まりない一丁、あっとういうまに弾づまりを起こしてしまい不発となる。しかし、センスに欠けながらも狙いをつけて撃ったそのうちの一発は確実にセントリーボットを捉え、奇跡的にもカメラにひびわれを起こすに至った。

 

だが―――

 

『脅威レベル上昇、対象は武器を持って立て篭もる意思の模様、もはや投獄を受け入れる意思なしと判断、セントリー063より全セキュリティへ通達、対象の―――』

 

 

 無機質で、ガラガラで、およそ人間の声とは遠い寒気のする声。

 

 

『―――排除を行う』

 

 

 ―――だからこそ、恐ろしかった。

 

「ゼノッ!」

「ロイズくん!?」

 

 距離があるからか、無茶苦茶にもこの狭い領域で、セントリーボットのミサイルポッドが顔をのぞかせた瞬間にロイズはとっさにゼノを抱くと、金庫の内部にと飛び込む。

 

 刹那、爆炎が金庫の扉を熱し、殺しきれなかった爆風が彼らを抱きしめるのだ。二人は金庫の壁に転げぶつかり、頭を抑えてしかし、ロイズは敵の次の手に対処すべく走ろうと、外に落としてしまったスーパースレッジを取り戻そうとして、しかし、

 

「・・・ウッソだろっ!?」

「扉が、閉まっちゃう・・・!?」

 

 ミサイルの衝撃に揺さぶられ、ゆっくりと外部からの光を遮断していく一枚の重い扉。目を剥いたロイズはなおも走り、飛び込もうとして―――

 

 

「くっそぉっ!!」

 

 

 ガチャリ、と、システム部門の設計を呪いたくなるような無茶苦茶な仕組み。

 無作法に自動でロックがかかった音が響き、彼は完全に閉まった扉を暗闇の中叩いた。

 

 ひんやりとした風は入ってこず、光すら手元の機械が及ぼすのみ。頼れる相棒はどこへ行ったか、声すらも届かない領域、光も、音も、体力も――― 酸素ですらも、奪われていく領域に彼らは隔離されそして。

 

 

「・・・ロイズくん、そこにいるの?」

「・・・ゼノ、ゼノ・・・っ!」

 

 残ったものは、自分を想い慕ってくれる一人の少女。

 刻一刻と、時間を奪わる彼らは寄り添い、襲い来る恐怖から逃れ続けた。

 

 

 

 




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