トレンチコートと白銀鎧   作:キョウさん。

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14643字。
(´・ω・`)金曜日のうちに一気に書けちゃったので手直し、修正加筆推敲して日曜日のうちに出せましたわ。これで三章、呪われたグラディエーター編は終了、三章は後半戦に入ります。


第三章:呪われたグラディエーター 21話『後ろ手にさよならを』

 

 

 

 ―――呪い剣ベルセルクは、遥か古代に作られた。

 

 

 

 発端はさる、今は滅び姿を消したドワーフの国の将軍の発案だ、剣と魔法、誇りこそが戦いの主流であった当時において、何者にも勝る能力、そして軍を率いるに相応しいきらめきを持った剣を打つことをとあるドワーフの名工に命じた。

 

 もっともその、将軍に召し抱えられるほどの腕前を持ち出世したドワーフの妻を寝取り、彼の元から去る原因を作ったのも将軍本人であり――― しかし、将軍はそんなこと、とうに忘れていた。それが彼に、この”呪い剣”を造らせる原動力を与えた。

 

 作られた剣は当時で世界の五本指、そして今にしても、世界中の最高の剣を集めれば並ぶとされる性能を持ち、使用者にマナの活力と魔法の切っ先を与え、かつその献上を見届けた剣士達が見惚れ、唾を飲むほどの荒々しい美しさを持ったものに仕上がる。

 

 これに将軍は満足し、褒美をとらせそのドワーフを召抱えた――― その剣の、”呪い”を知らずして。

 

 

 ある時、将軍は前線基地に腰を据え戦場の指揮をとっていた、そんなある日だった。

 

 毎日剣を振り、兵を鼓舞していた信頼ある将軍は後方から指揮をとることに執心することになり、剣はその丸一日、彼の背に収まり続け、やがて彼が眠り夜が明けた――― その時だった。

 どうしたことか、剣の彫刻は赤く染まり、マナが乱れ将軍をおさえようのない破壊衝動と血への欲求は包み込んでいく。精神操作の類かと抵抗するも、魔道具は作れど魔法には疎いドワーフの将軍は間を置かずに心を蝕まれる。

 

 

 ―――そして、流血が始まった。

 

 将軍はまず身の回り、士官を軒並み切り裂くと、次は兵舎まで行き寝ている兵士たちを血祭りに上げていく。それが終われば次は非戦闘員、医師、捕虜――― 敵までもだ。どれだけ傷を入れようと倒れぬ将軍に敵も恐怖し後退し、それが一昼夜続く。

 

 そしてやがて、夜明けが訪れ剣が血の丘に突き立った後――― 最後に斬り伏せた敵の前で、彼は壮絶な死を迎えた。

 崩壊した前線基地は敵に奪われ、その戦線は終結を迎える。その様は伝説となり、悲劇とも呼ばれ、嘲る声もかけられた、将軍の名誉に泥を塗るという最大の目的を、ドワーフの鍛冶師は成功に終わらせたのだ。

 

 

 だが当然、彼は処刑される、死など既に恐れず復讐を成し遂げ笑う彼を、自身が打った剣でだ――― それがいけなかった。

 

 今度は処刑人が同じことをした、次は封印のために握った司祭が同じことを、次は――― 好事家、コレクター、商人、幾度と無く世界を巡り、やがて封印を担当した者が自死によって決着を付けても、まだ終わらない。彼の文明が崩壊してなお、次に剣を取る者が現れるのだ。

 

 フラティウ・ドムアウレアがこの剣の”現代”における使用者だった。

 だが彼は強く、戦いを生業とする彼は呪い剣を見事に使いこなした、が。

 

 

 この剣の根幹にあるものは三つ。

 嫉妬、復讐心、そして――― 狂気(ベルセルク)

 

 時代を翻弄し、世界にその存在の消滅を祈られ続けた剣は、今―――。

 

 

 

 

 ―――打ち込まれ続ける衝撃波、金属質に伝導しその無機質な肉体にこの上ないダメージを与えるロイズの拳に、呪い剣はヒビを入れていく。

 

「ぶっ壊れろォ!こんなもんもうあってたまるかよッ!」

 

 この剣の辿ってきた血塗られた歴史を、なんとなくと肌で感じとった彼は吠え、ただひたすらに拳を振り下ろすのだ。制御を失いかけている狂戦士は既に足元がぐらついて剣を取りにすらいけず、ヒビが広がり続ける剣は、やがて―――

 

「とどめェ!」

 

 その刀身を、剣の意思を表していた彫刻を中心に砕け散らせ、完全に剣としての形を失う。見惚れるような黒剣の破片はひとつひとつが芸術品、もしくは砕かれた水晶のように趣を持った輝きを以って、砕けてなお見届ける人々を魅了する。

 

 だが、その魅了こそが人の運命を狂わせてきたのだ。

 ロイズは肩で息をし、砕け散った刃の破片を蹴っ飛ばしてやると、唾を吐きかけてその歪な誇りを完全に穢してやる。

 

 今ここに呪い剣は長い無機物としての生の幕を閉じ、そして―――

 

「おっさん・・・」

「ロ、イズ・・・」

 

 呪い剣に心を侵されていた戦士もまた、憑き物が落ちる。

 フラティウは髪も、顔も、傷だらけでくしゃくしゃだ、彼は一言、

 

「・・・彼を、頼む」

「任せとけよフラティウのおっさん、オレが全部・・・殴り倒してやるッ」

 

 彼を頼り、そして目を閉じながら光の粒子となって消えていくのだ。

 舞台の端では安らかな寝息を立てる黒い剣士がすぐに蘇生され、その姿を見た赤髪の少女が涙を流し駆け寄って彼を抱きしめ、茶髪の優男も嬉し顔で彼を囲む。

 

 

 だがロイズは、”白銀闘士”は終わらない。

 彼の前には、まだ最後の――― 敵が残っていた。

 

 

「・・・よぉ、今度はやりたがってた通りサシで相手してやんよ」

「まさか、あの状態のフラティウを仕留めるとは思っても見なかった・・・某では、君には勝てんだろうな」

「だったら何で退かねぇ、卑怯なコト十分して、それでまだ正々堂々気取るってか!?どういう了見だってんだ!誰も死んじゃいないけど―――」

「―――ならば十分ではないか」

「・・・は?」

 

 ウグスト・ラゴンの言葉に、続けようとした言いたいことの出端をくじかれたのかロイズは、首を傾げで彼を睨む。するとウグストは、ハンマーを高々と掲げて語り出すのだ、その顔はロイズから見ても清々しく、まさに何の一片も後悔はないと、そんな顔に違いなかった。

 

「某は”公正”な状況にして試合を始めたかっただけである、あのミスリルゴーレムや鉄壁テストードの者達とは違う、誰も傷つけはせんし殺すなどもってのほかよ、ただ純粋に闘いを楽しむ――― 先にフラティウと交えた時は最高に楽しかった・・・またやりたい、と言えば嘘ではない」

「どうかしてる」

 

 一蹴するロイズを見て、ふうっとウグストは息を深く吐く。

 彼はそうすると、急に笑顔を浮かべて天を見、そして再び語りだした。

 

 その顔は今度はまさしく、”振り切れた”気がして―――

 

「どうかしているくらいが丁度いい!今気づいたぞ!もはや勝敗などどうでもいい!闘いなのだ、闘いが楽しくて仕方がない、高揚感がまだ続いておる!某はきっとこれを・・・君のような男と巡り会えることを望んでいたッ!栄誉を求めていたのはきっと、天に手を届かせればより強い、闘いがあると望んでのこと・・・!」

「おい、おい!?本当にどうしたんだよおっさん!?」

 

 急に、目を輝かせ饒舌に語るウグストを見て、一歩後ずさるロイズ。

 その語り口はまさに、夢を語る詩人のような高揚感があった。

 

「某はやはり、心に闇など無かった!気の迷いで少々手荒な手段を使ってしまったかもしれないが、すべて君との闘いに至るためであったのだ――― さァ!ロイズ!某と戦ってくれ!もう負けても構わん!某が勝てなかった”黒の剣士”を上回る君の拳で某を殴り飛ばせ!」

「あ、アンタまさか・・・!」

 

 世には殴られて喜ぶ者がいると聞くが、まさか。

 闘いに身を投じるうちにおかしくなってしまったのか。

 

 その子供のようにはしゃぐ様子を見ているうちに、ロイズはなんとなく気が削がれたような、張り詰めた緊張と怒りの糸が――― ぷつりと切れたような気がして、表情を間抜けにしてしまう。だが同時、湧いてくるものもあったのだ。

 

 ならばこの子供のように純粋な戦闘に対する探究心を持ち、不正をしながら不正を嫌うこの男をここまで引きずり下ろした、その者――― 灰色髪、奴こそが黒幕だと――― 新たな怒りが彼の中に湧いて出てくる、その鼻っ先を明かしてやろうと、そんな心が。

 

 そして、

 

「なんかオレも、すっげー戦いたくなってきた!?」

 

 ぷるぷると、拳が震えるのだ。

 気がついて周りを見渡すと、歓声が響き渡っている。黒の剣士、フラティウを仕留めたあたりからもヒートアップしており、熱気はまさに真骨頂に到達せんとばかりに湧いていた、彼を、”白銀闘士”の最後の闘いを待ち望む声が会場を包んでいた。

 

 なにも、ここに来るのが最後になるわけではあるまい、予定が整えばたまに、ゲストのような扱いをされるのもまた一興だろう。だが彼はいずれこの街を去る、この試合は、彼を確実にその目に収められる最後の、そして最高の舞台なのだ。

 

 以前は歓声を浴びれば、顔を真っ赤にして心ここにあらず、向こう見えずであった彼は、今やその歓声の持つエネルギーに中てられ闘う意欲に変えることが出来るような、そんな男へと成長していた。

 

 ふと彼は観客席へと目を向ける、人々の笑顔と興奮が響き渡る。

 

 アルベルトを見る、がんばれ、と、

 テッサを見る、期待しているよ、と、

 ゼノを見る、勝って、と握りこぶしを、

 相棒を見る、やっちまえ、と、

 

 ―――フラティウを見る、それでいいのだ、と―――

 

 

 震える拳に収まりがつかない、これはきっと、

 

「武者震いか?そういう時は深く呼吸してみるとよいぞ、年長者の言葉は聞いておいたほうがいい、某は常に・・・正しいと思っている」

「どの口が言うかっ・・・でもいいぜ、オレもスッゲー戦いたくなってきた・・・!」

「ほう!ならば!」

 

 ウグスト・ラゴンはハンマーを構え、笑う。

 なぜだろうか、ロイズは高揚感を覚える、今なら誰と戦っても負けないような、そんな気がしてたまらなくて。

 

 ここにいる者達は、そうなのだ、どうしても闘いが見たくて仕方なくてたまらない、そんなどうしようもなくて、そう、ここにいる人達は”知らない”のだ、今待ち望まれていることはただ、純粋な闘気のぶつかりあいで、その決着。

 

 この男のやらかしたコトなど、闘いを楽しむためだけにやったどうしようもなく純粋な馬鹿など――― ならば、心の闇に葬ろう、あとは当事者に任せればいい、男達のいざこざは、男達が暗黙に決めるのだ。

 

 ロイズはただ、この場を終わらせることが今の使命だった。

 彼はぐっと拳を握ると、後ろの相棒に呼びかけフィストを交換する、そして拳を打ち鳴らすと、安全装置を外してフィストを凶器へと変貌させるのだ、思い悩む心は今はあらず、ただその勢いは戦闘のみに向けられ―――

 

「目ぇ覚ましたんなら寝覚めの一杯がいるよなァ!」

「最高の一杯を投げ込んでくるがいいロイズ!」

 

 

 闘いが、始まる。

 

 

 小手先の小細工は投げ打ったと、全身全霊をかけての殴り合いだと、パワーアーマーと筋肉の鎧が音を立てて弾ける。

 

 先手を取ったのはロイズのほうだ、パンチをハンマーで受け止めたウグストに更に押しこむようにして、両手を使ったウグストにもう片腕のフィストを叩き込む、も、すんでのところで脇腹をかすめるにとどまりウグストは、ハンマーの柄でロイズの左腕を弾く。

 

 そのまま勢い良く、がら空きになったロイズの頭頂部へハンマーを振り下ろすも一歩遅い、残った右手で受け止めロイズはウグストを蹴り飛ばし、しかしまるでダメージに欠ける。形勢は一進も一退もせず止まるのだ。

 

 続けてお互いに打ち、殴り、蹴り合う。

 闘う姿は荒々しく、吠える姿は猛々しい、力強さの中に確かな技術を内包し、その身一つで道具に頼らず高みへ上ってきたことを感じさせるウグスト・ラゴンの戦槌捌き、対するは全身をパワーアーマーに包み込み、その恩恵を以ってその技量ごと打ち砕かんとただひたすらにぶつかる白銀の闘士。

 

 図体で劣っていても、戦前の最先端科学技術の結晶たるパワーアーマーはもはや身の丈3mの亞人と言えど、たかだか人間の膂力でどうにかできるものでもあるまい。互いに得意とするものは力押しであったが、それでもパワーではパワーアーマーは優っていた、故にウグストは技術をもってそれを制しようと奮戦する。

 

「その鎧、本当に素晴らしい道具だな!どこで手に入れた!?」

掘り起こ(スカベンジング)したッ!」

 

 冗談を交えながら闘う彼らは傍目に見ても、先の因縁などとうに忘れたのかというように楽しく闘うのだ、その姿に舞台上のいる彼の弟子達も、シェスカ、バラッド、観客の人々も一様に目を奪われる。

 ついさっきまで、黒い剣士の八百長やウグスト・ラゴンの不正疑惑を高々と叫んでいた者達も全てが押し黙り、目を奪われるのだ。それほどまでに、全身鎧をまとった戦士が身の丈遥かに勝る巨人に拳一つで挑む、巨人が騎士を押しつぶそうとする、その光景は圧巻で、呼吸すら忘れる。

 

 ウグスト・ラゴンが筋肉を隆起させ、ハンマーを勢い良く振り下ろす。

 それを受けたロイズが殴り返す。

 

 インファイトボクシングに移行したロイズがパンチの連打を見舞えばウグストも受けて立つ、とノーガードの殴り合いを享受するのだ、頑強なパワーアーマーですら揺らされ、ウグストの頑丈な皮膚にも傷が増える。

 されど彼らはなぜか、込み上がる楽しさを抑えきれずに笑みを浮かべたままなお、互いの死力を尽くしてひたすらに殴りあうのだ。

 

 ―――そうしていると。

 

 

「・・・ばれ・・・!」

 

 

 戦いの最中でも、耳に届く声がある。

 

 闘いを待ち望み、決着の瞬間を待ち望みしかし――― 今という時間を永遠にもしたいと、そんなわがままを考えてしまうような、どうしようもなく闘気に中てられてしまうそんな人々。彼らの声だった。

 

「行けっ!ぶん殴れ白銀闘士っ!!」

「避けろ!右だ避けろ!ああーっ!?」

「退くんじゃねえぞ!そのままぶちかましてやれッ!」

 

「ウグストさん!んな生意気なガキ潰しちゃってくれぇ!」

「ウグスト・ラゴン!超獣が負けんなよォ!」

「近寄りすぎると当てられるぞ!避けろ!いややっぱ押し込めっ!!」

 

 声援は一箇所から始まると、次から次へと伝播して一気に広がりそして、会場全体を包み込んで今日一番の盛り上がりへと移るのだ。

 もう先に起こったことなどどうでもよかった、今この場所で行われている”決勝”の結果を待ち続け、今という時間はこの場にいる全ての者と共有したいと、一体化した空気が肩を組み、手を取り、笑い続ける。

 

 

 ロイズも、ウグストも、激戦の音と無数の観客の声援のど真ん中、聞こえるはずがないのにその全てが一字一句、認識出来るような気がして、つい顔が綻んでしまう。

 

 睨み合う視線は鋭いままに、口元だけが笑って殴りあうのだ、滑稽で奇妙で、馬鹿げていて――― 装甲を打ち鳴らす音も、肉を殴る感触も、慣性が脳を揺らす感覚も、全てが楽しい。彼らもまた、この時間を至上の楽しみとして、永遠に続くように願いそして、終わらせるために動く。

 

 ハンマーと拳がぶつかり、互いに吹き飛ばされる。

 

 距離が離れると共に互いの激闘は睨み合いとなり、双方の動きが一旦止まった。

 直立した姿勢のまま、互いに言いたいことがあると、お互いの目を見て笑う。

 

 

「・・・ずいぶん足元がおぼつかないではないか、ロイズよ」

「カンカン鳴らされて脳震盪気味なんだよッ、頭ばっか狙うのやめろーや!」

「ははは!君を倒すにはそれくらいしかないと思ってなあ!」

 

 足元をとんとんと叩き、自身の足がいい加減に動きづらくなっていることを肌で感じるのはロイズで、同様、身体に受けた殴り傷が肉体の制御を鈍くし、体力の消耗を嫌でも教えるのはウグスト、互いに傷つき、ボロボロだった。

 

 こんな短時間でパワーアーマーの攻略法を身につけたのか、と驚くと同時に、それが楽しくて仕方ない。ウグストも、フラティウと戦っていた時とは思えないほど長く続く勝負と、感じる痛みに生の喜びを実感する。

 

「・・・少し某も身体が鈍くなってきたようでな・・・?」

「同感だぜっ、オレもあと数回頭揺らされたら倒れて立てなくなるって気がする」

 

 脳と視界に感じる気持ち悪さを言葉で表現するロイズと、同様のウグスト。

 互いにもはや進退窮まる。

 

 故に、お互いに考えることは一緒だった。

 

 

「―――そろそろ終わりにするか、次の一撃、全力で打とうぞ」

「合点だっ、グール!爆殺とディスプレイサー!」

 

「ほらよっ!バッチシ決めろ相棒!」

 

 地を踏みしめ、ハンマーをがっしりと構えるウグストは筋肉を隆起させ目を血走らせ、そして吠える。”獣化”という彼の切り札であり、一回限りの強化で、狂化であった。身の丈3mの体躯が更に一回り大きくなり、ロイズは歯をぐっと噛みしめる。

 対しロイズは嵌めていたフィストを取り外すと、装備を投げてもらい新たに、最後の一撃を決めるに相応しい装備へと換装し自身も構えを取る。

 

 だがそれはウグストのような、突進の構えではない、その場に留まって受け流し、反撃するための――― クロスカウンターの構えであった。

 

 男達の闘いが終幕を迎えることを察した人々はとたんに押し黙り、一転静寂に包まれた場はまさに一時、時間が止まったかのような錯覚すら覚えさせる。

 

 そしてふと、風がふき小さな木の葉が待ったあと、飛んで行く。それを合図としたかのように動き出すのだ、ウグストは地を蹴り駆けると姿勢を低く取り、一撃必殺の殴打を叩き込むべく殺到、ロイズはそれをひたすらに待ち構えた。

 

 

 刹那、振り下ろされる戦槌、空気を押しつぶさんばかりに高速で振り下ろされるそれは防御不能の重量撃、例え岩であろうが鉄であろうが砕きへし折り、人間ならば姿も見えないほどに圧縮せんとばかりに迫る一撃。

 

 ロイズはじっと、それを目に据えて―――

 

「―――待ってた・・・ッ!」

 

 発動するは彼の”切り札”、V.A.T.S。

 高速化と共に、スローになった視界に迫るハンマーの頭部、スローであったからその対処は容易で、そしてパワーアーマーの膂力はその”賭け”を補助しその一撃を、スローの中にあっても重い一撃を腕で横から押しのけると逸らし、地面へと激突させる。

 

 刹那、動き出す時間、ロイズはその完全に隙だらけとなった土手っ腹に、必殺の一撃を叩き込むのだ。

 

 

「ばぁくさつっ!!」

 

 叫ぶと同時、叩き込まれる拳。

 

 12ゲージショットシェル、彼の相棒が状況を察してスラグに変えていてくれたのだろう、熊ですら仕留めるその小さな大砲はゼロ距離で、巨人の腹に食い込むとその勢いのままに肉を砕き、しかし流石は”超獣”、重症で食い止める。

 

 だが終わるまい、ロイズは二段構えの拳を更に叩きこむのだ。

 

 仰け反ったウグストに追い付くと更にもう一発、ディスプレイサーグローブをロイズは叩き込む。最先端技術の叡智が、精密機器の間を流れる細かな電子のきらめきが一斉にわめきたて、テクノロジーの意地を見せんと破壊力を生み出した。

 

 刹那、衝撃波、その衝撃波をもってウグストの腹部を完全に貫通、流血は吹きすさぶその流れに乗って遥か彼方に飛んでいき、完全に致命傷となった一撃によりウグスト・ラゴンはついに吹き飛び、そして―――

 

 

「うぐううっ!!」

 

 ―――地面に倒れる。

 

 

 完全なる、決着だった。

 

 ロイズは肩で息をし、膝をつき、しかしにっと顔は笑っていた。

 それから彼は、端に固まっていたウグストの弟子達へ目を向ける。

 

 目を合わせるとびくりとし、彼らは首を横へと振った、棄権を表明する意思表示、ロイズの完全なる勝利を表すファンファーレ。だがロイズはただじっと、倒れたまま消えないウグストの身体へと目を向けている。

 

 そうしていると、少しずつ聞こえてくるのだ、ウグストの声、男泣きであった。

 

 

「ふふっ・・・うっ・・・ふははっ・・・!ははっ・・・!」

「おっさん・・・」

 

 ロイズには、その理由が分からなかった。

 笑いながら泣くウグストはただ分からなくて、しかし悲しい気分を訪れさせる。

 

 だがロイズが立ち尽くし、足を一歩踏み出せないままでいるその時間、彼の横を抜けて前に出る男がいた。フラティウであった、意識を取り戻したのか。その姿を目にしたロイズはついに、一歩ずつ前に出て彼の背中を追いかける。

 

 とうとうウグストを見下ろす格好になる二人。

 ウグストは目元を隠し、声と共に泣いていた。

 

 フラティウはそんな彼に、普段よりも小さな声色で声をかける、それに反応したウグストははっとし、目元の腕を外すと彼に目を向け口を開き話し始めた。

 

「・・・フラティウか・・・某はやはり弱いのだな、これだけのことをしても、結局君達に勝てなかった」

「ウグスト・・・」

「笑うがいいロイズ、フラティウ、某は負け犬だ、君達は栄誉を手にする権利を手にした――― 某のことなど見ずに・・・」

 

 続けるウグストの言葉、それに割り込む言葉。

 

 いや、と彼の言葉を否定する言葉であった、フラティウだった。

 それにウグストは眉を寄せ、ロイズは一歩引いて腰に片手を当てる。

 

「違う、お前は強い、恐らく・・・この場所の誰よりもだ」

「勝者の慰めよ、某の傷に塩を塗るのはよせ」

「違うさ・・・弱いのは我の方だ」

「なんだと・・・?」

 

 言うフラティウの表情には謙遜など無い、むしろ申し訳なさそうな、自分こそが元凶だと言わんばかりの悲痛な顔であった。

 

「今、ベルセルクの呪縛より解放されてようやく気付いた・・・弱いのは我だ、我は呪い剣の力に溺れていたのだ。全身を魔道具に包み、それを誇りにしていた我は・・・自身の実力とは不相応な力を手にし驕っていたのだ、身の丈に合わない、力を」

「・・・だが君は強かったぞ、フラティウ」

「呪い剣の力だ・・・結果的に我は呪い剣を自分なら扱えると過信し・・・そしてこの事態を引き起こした。力に酔いしれ勝利だけを感じ・・・お前はもしかすると・・・」

「そうだ、悔しかった、お前達が栄誉を黙って手にするのを見届けるのが悔しくて、この凶行に及んだのだ・・・許さんでいい、裁いてくれても」

 

「違う、身一つで戦ってきたお前は十分に立派なのだ、その程度の心の闇、誰が抱えていてもおかしくない。我は呪い剣という道具に頼り、誰にも負けなかったからこうであったに過ぎない、きっと我がウグスト、お前と同じようであったなら――― 同じことをしていたかもしれない」

「フラティウ・・・」

「だから・・・」

 

 フラティウはそっと、ウグストに歩み寄る。

 そしてその手を伸ばして彼の目を見た。

 

「もう一度、やり直してくれ。お前の罪は何もない、だから我の尊敬たる戦士のお前を・・・ここで潰さないでくれ」

 

 伸ばす手、見る目、震える身体。

 ウグストは少し目をつむり――― 考えたあと、その手を取った。

 

 取る他にないと、そう思ったのだ。

 

 フラティウの手に引かれ状態を起こすウグスト、だがその腹には穴が開いていて、刻一刻と死が近づいてきているのが実感できる。たとえ蘇生するとは言っても、苦しい物は苦しかった。

 彼はそれでもなお、最後に聞きたいのだと、無理が目に見える中身体を起こし続けると、次いでフラティウの隣、片手を腰に当て話を聞くに徹していたロイズへと目を向けた。

 

「・・・ロイズ、聞いてもいいか」

「・・・どうぞ」

「まあ、簡単なことだよ、今だから聞きたい―――」

 

 ごほん、と咳をウグストはする。

 血の混じった咳は舞台の白い地面を赤く濡らした。

 

「―――某は君から見て、強かったか?」

 

 願うような、懇願するような、どうしてもそれを聞かずには、といった視線だった。

 口の端からは血が溢れ、目の下には涙の跡が見える、泣いた男の最後の質問。

 

 ロイズは彼とじっと目を合わせると、しばし考え目をつむりそして――― 答えた。

 

「・・・デスクローのがマシだった」

「ふふっ、君の例えは分からないな・・・齢を食うと若い者の話がわからなくなる・・・某にも分かるように頼めるか?」

「・・・めっちゃ強かった」

「ふふっ」

 

 聞いたウグストは、心底楽しそうな、嬉しそうな、そんな顔で倒れる。

 

 死が訪れ、光の粒子となった彼はやがて蘇生するのだ。

 誰も死なない、それがこの場所のルール、それに従って彼はまた、やり直しのチャンスを得る。

 

 

 そして、ほんのすこしの時間が経ったあと、舞台上に再びウグスト・ラゴンが立つ。

 意識は喪失しておらず、ただその身体は背を向けたままだ、彼は弟子達を呼び寄せると素直に、敗者は去るのみとばかりに舞台を降り、響く賞賛の嵐の中ゆっくりと、帰っていく。

 

 ただその中に一瞬だけ、足を止めて―――

 

「・・・あいつ・・・へへっ!」

「・・・ああ、また、闘おう・・・”超獣”ウグスト・ラゴン」

 

 ぐっと、サムズアップを掲げて彼らに送っていた。

 

 

 ”サムズアップ”、その意味がこの世界でも同じかどうかはわからない。

 だがその本来の役割は、”成し遂げた者に対する賞賛”、栄誉と名誉への無言の投げかけ。

 

 やがてその姿が完全に見えなくなり、そして途端、会場全体を歓声の嵐が包む。涙を流している者もいれば、興奮のしすぎて倒れる者すらが出る、それほどの熱狂はこの場所の熱気を一気に巻き上げ、熱夏のような暑さをもたらすのだ。

 

 

 フラティウは、ロイズと拳を合わせ互いの信頼を確かめ合う。

 そうしていると、シェスカとバラッドが走り寄って来てフラティウに抱きつくのだ、それを微笑ましげに見ているロイズにもすぐに、彼の相棒が走り寄ってきては抱きつき方を組む。

 

 よくやった、よくやった、それでこそ相棒だと。

 感動したと、涙もろい彼のことだだから、ヘルメットの内側で泣いていることだろう。

 

 アルベルトにテッサ、ゼノも飛び降りて、近寄ってはロイズをもみくちゃにしてやると、さすがロイズさんだ、期待通りだった――― 賞賛の言葉を一斉に浴びせかける。だがそれだけではない、興が乗りすぎた観客達もいっせいに降りてくると彼らの元へ殺到し、その身体を持ち上げると胴上げを始めるのだ。

 

 場の一体感が極地に達する。

 慣れているらしいフラティウとバラッドとは対照的に、仮にも女の子のシェスカと経験のないロイズは困惑気味だが、それでも不思議と悪い気はしない。今だけは素直に受け入れてただ、この勝利の感覚に酔いしれたい、そんな気分にさせられるのだ。

 

 この闘いはきっと、人々の記憶が続く限り語り継がれそして、その記憶が途絶えるころにはまたこの場所で、新たな闘いの伝説が生まれるのだろう。この場所では”記録”はあいまいだから、きっと”記憶”は長持ちするのだ。

 

 そんな気を感じながらロイズは、ただ胴上げを受け入れ揺さぶられているその際中に――― 結局、疲れて眠ってしまうのであった。

 

 

 

 ―――”紅炎の黒刃”、100勝達成。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 自室でひとり、アニーアはベッドに寝転がっていた。

 

 

 

 力を持つ男達が見惚れ、欲しがる顔立ちと身体。その身体を包むのは赤と黒が主体の、血に似た色をしたドレスであり、その色合いには彼女のセンスのみならぬ性格や本性といったものが、にじみ出る。

 

 彼女はしばしぼーっと天井を見つめて、それから呟くのだ。

 思い返すのは、つい一時間程度前、闘技場での激戦であった。

 

「・・・まさかロイズ君、勝つとはね・・・」

 

 呼ぶ男の名前、それは激戦を制したただ一人の男の名前。

 全身を白銀の鎧で包み込み、騎士然とした見かけに反しその手に握るのは剣ではない、拳そのものをぐっと握り闘うのだ。この”異色のヒーロー”は彼女が惚れ込み、そして――― その負け顔が見たいと、そう願った相手であった。

 

「―――でも結局、また失敗かぁ」

 

 ”灰色の髪の何者か”から得た道具、それらを用いて色々と策をめぐらし、どうにかして彼らの敗北を演出しようと暗躍してきたが、ここにきてまさかの勝利だ、今回はラストチャンスと言ってよかっただけに、そそのかす相手には”最強”を選びぬかりなく道具も大量に用意した。

 

 されど”白銀闘士”は、スクライブ・ロイズはその困難を正面から打ち破ってみせた。見るも惚れる激戦を勝利し、最後に立っていた男だったのである。

 

「それにしてもウグスト・ラゴン、道具は渡したけどあんな使い方をするなんて・・・」

 

 ウグスト・ラゴンがフラティウ・ドムアウレアを”狂化”させたことは計算外で、だからこそ現場に居合わせた彼女はその行く末、敵味方を厭わず巨剣を振り回し、白銀闘士も、超獣ですらも圧倒する戦士に期待したものだ。

 しかし、最終的に白銀の拳は黒き剣に打ち勝ち、それを完膚なきまでに砕き散らせてみせた。狂った男を呪いから解き放ち、あまつさえ一度殺し蘇った男は、自分をそうまでした男と話し和解までしてみせたのだ。

 

 スクライブ・ロイズを喝采する声が耳にやかましかったことを覚えている。

 だがその最中に、自分の、アニーアの中にもまたこれまで忘れていたある感情が湧き出てくるのを感じていた、それはまさに、

 

「本当に、本当に計算外のことばかりしてくれる・・・ロイズ、君は、本当に―――」

 

 

―――楽しいなあ。

 

 

 アニーアは、つい目をつむっても笑い顔が溢れてくるのを抑えきれない。

 忘れていた感情の濁流が彼女の顔を赤らめるのを、つい笑い声が漏れてしまうのを彼女は意識できないくらいに笑っていた。

 

 それからひとしきり、彼女は笑い、そしてそれからふと、今後のことを考えてしまう。

 自分は彼の敗北顔を見ることを目的としていた、それが楽しいと、本気で思っていたから。だけど違った、彼は、彼を見ているだけでこれほどまでに楽しいことが起こってくれるのだ。ならばもはや―――

 

「こんなもの、いるまい」

 

 テーブルに置かれた”魔道具”の数々。

 

 アニーアはそれをばさっと、手で払った、”苦しめる道具”そんなものはもう不要だと、自身の楽しみを、笑顔を得るために不必要なのだと悟ったのだ。一斉に落ちていき、転がる道具の数々、アニーアはそのうち一つ、ころころと転がる面白い形の球体をつい目で追ってしまう。

 

 

 そうしているとそれはやがて窓辺まで転がっていき、そして――― 

 何者かの、足元にぶつかってこつん、と音を立て、止まった。

 

 

「・・・!」

「やだなあ、そんな怖い顔しないで?・・・アニーアちゃん、笑えたんだね」

 

 途端、アニーアは戦慄する。

 ”何者か”は球を拾い上げると、ゆっくりと彼女に近づいてきたからだ。

 

 されど気丈な貴族、怖気はしないと彼女はゆっくりと、視線を上げてゆく。革のブーツ、羽織ったローブは紋様が刻まれており、そして体躯は女性的なラインを描いていて、更に見上げたところには―――

 

「・・・灰色、髪!」

「あったりー、ひさしぶりかなアニーアちゃん?ご用事があってね?」

「ふふ、口封じだと言うことか?・・・私を殺すか、灰色髪」

 

 灰色の髪、ぴんと立った猫の耳、亞人の象徴。

 思えばなぜこんな単純なことに気付かなかったのかと彼女は唇を噛む。目の前にいて、以前も同じように訪ねてきた客人、それは伝説上の存在と名高い”灰色髪”そのものであった。

 

 ”灰色髪”がわざわざ彼女を訪ねてきた、その意味を察し、アニーアは傍にあった剣を取ろうと目線をそのままに手だけを動かす。

 

 だが”灰色髪”はそんなことはないのだと、”笑って”手をぶんぶんと振ると、アニーアの背後に移動しその手にそっと、自身の手を添えるのだ。

 その速度は超高速、それなりに剣の手ほどきを受けていた彼女がまさしく”認識ができなかったほど”の速度で背後に回られたアニーアは、どっと汗が噴き出るのを感じる。これが”三毒”が一人灰色髪の実力なのだと、その恐怖につい、彼女は剣を落としてしまった。

 

「そうだよアニーアちゃん、暴力はいけないよね」

「・・・どの口が言うか」

「・・・?、勝手にやらかしてただけじゃない、あの人達が」

 

 きょとんとしながら言う”灰色髪”、その仕草にアニーアは、彼女はそもそも、自分達と違った価値観の元動いているのだと確信が持て、なおかつそのような歪な存在が人知を超越した能力を持っていることに再び戦慄する。

 

 そして押し黙ったままの彼女、その周りをくるくると回る”灰色髪”。

 ”灰色髪”は指先もくるくると回すと、アニーアに向かって口を開いた。

 

「すっごく残念なんだけどねっ、私やることが増えちゃってさ!これから忙しくなるの」

「実に凶報であるな、灰色髪が人を殺す算段を立てていると言うことか・・・警備の者に言わなければな」

「・・・その必要はないよ?」

 

 またも、きょとんとしながら言う”灰色髪”。

 アニーアはその言葉の意味を理解できぬまま、しかし彼女の言葉になおも耳を傾けた。

 

「用事っていうのは、アニーアちゃんときちんとお別れしようって思って!せっかくお友達になれそうだったけど、ほんっとに残念!やることが多すぎてもう会えなくなっちゃうかもしれないなら、きっぱりお別れしなきゃって思ってね?」

「お前の言う友人観というものはずいぶん薄っぺらいものなのだな?会えなければ友人ではないと・・・まあ、お前と友人になどなりたくもないが」

「またまたぁ、アニーアちゃん・・・だからね」

 

 刹那、”灰色髪”が”笑う”。

 

 その瞬間、アニーアは突き動かされたように蹴りを放った、しなやかな体躯から伸ばされる鋭い一撃。やらなければならないと、目の前の存在が危険だと一瞬にして認識したのだ。

 

 だが―――

 

「アニーアちゃんあぶないよ?スカートの中も見えちゃって・・・きゃっはしたないっ、もっとアニーアちゃんには女の子らしくしてもらわなきゃ・・・だから私のこと、”思い出さないでね”。私からの贈り物―――」

「―――貴様・・・ッ!?」

 

 放った蹴りも、当たらない、認識できないほどの速さで、また彼女は背後をとられる。

 そして後ろを振り向いた時、灰色髪はまたも”笑っていた”。

 

 くるくると回した指先が、アニーアの目線と重なる。

 紫色のマナの輝きは指先で強まり、やがて―――

 

 

「“カブラ・ポスタル”」

 

 瞬間、旋風。

 

 紫色のマナがアニーアを包み込み、そしてアニーアは自身の頭に急速にノイズが走り、その意識が消え去っていくのを切に感じる。

 

 その瞬間に脳裏に走るのは”記憶”。今までやってきたこと、見てきたもの聞いたもの、幼少からのあらゆる記憶がはっきりと写るのだ。既に自身が忘れていたことも、忘れようとしていたことまでが流れ、そして―――

 

 彼女の意識が戻ったその時。

 彼女の部屋にはただ一人、アニーア・クラ・トゥルスだけがいた。

 

 

「・・・あら・・・?」

 

 

 目は自然とぱっちりとしている。

 のどが渇いたでもないから、寝ていたわけではないのだろう、ベッドの上に寝ていたが、たぶんぼーっとしていたか何かなんだろう、と彼女は納得して。上体を起こすと周りを見て回す。

 

 そしてふと目に止まったのは、テーブルの上から落ちたアクセサリーだった。

 だがなぜだろうか、テーブルから落ちていたアクセサリーの”ひとつ”は、まるで思い切りぶちまけたかのように遠いところまで飛ばされている。

 

 

 そして彼女は思い出そうとするのだ、自身が今何をしていたか――― すんなりと、思い出せた。

 

 

「ああ、そうだ・・・ロイズ君だ、ロイズ君の勝利に感極まって一人で部屋で大暴れして・・・その時にこれもテーブルから落としてしまったのね、ああ恥ずかしいっ、年甲斐もなく、誇り高き貴族なのに大はしゃぎしちゃって・・・でも」

 

 顔を赤らめ、頬を両手で覆い彼女は、アニーアは目を瞑る。

 だがすぐに、にんまりと笑うとまたベッドにぽすっと身体を預けるのだ。

 

「あのロイズ君が、ここに来るのね?特別時合なんて彼からすればあっという間でしょ、何をするかなんて知らないけど、でも――― ああ、そうだわ、彼にこっそり会いにいけるようにスケジュールを調整しなきゃ、彼がどこに住む予定かも担当に聞き出して、それから」

 

 枕を抱き、ごろごろとベッドにドレスのまま寝転ぶ姿はまさに、恋する少女そのものであった。

 

 アニーアはひとしきりそうしたあと、風で開いてしまったのだろうか、開きっぱなしになっていた窓を閉めて身支度を整えるとせかせかと部屋の外へ駆け出していった。

 今日はこのあと彼の祝勝会が下町であると聞いていたから、こっそり変装して参加するのも楽しそうだ、と彼女は衣装室に足を進めるのだ。警備や護衛の者の目を盗むなどよくしていること、楽しみのためならば多少の危険は承知の上だと、彼女は思いながらなおも歩く。

 

 

 

 ―――誰もいなくなった部屋、また一歩、足音が響く。

 それは女性的な小さい音で、そして悲しげな音符を描いていた。

 

 

 

「―――また、お友達が一人減っちゃったなあ」

 

 

 

 

 

 




 Fallout4で最新型らしいT-60B型パワーアーマーの展開方法が明らかになったわけなんですが、そうなるとT-51bの展開方法もすごく気になるんですよね。なまじ小説内で使ってるだけに公式の情報があるとすごい捗ります。

 一応自分では『鎧みたいに部分的に着ていく説』『上下のインナーが違うので上下分割で着ていく説』など色々考えて、今は『上半身だけ展開しそうな部分があるので、上半身が展開してその中に身体を滑り込ませる説』を採用しています(´・ω・`)
 T-60Bのゴツさからして展開方法や運用もT-45dやT-51bと違う可能性もあるので続報が欲しいですねー。

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