全身を覆うフルプレートメイル、一見でも数十キロの重さを誇るであろうことが容易に見て取れるであろうその全身鎧の重量を、これしきも感じさせない軽快なステップを踏む”白銀の騎士”。パワーアーマーを纏い格闘姿勢をとるスクライブ・ロイズを、斧、槍、剣、槌、千差万別の獲物を携えた山賊達がゆっくりと取り囲む。
まさしく、虎穴に入りこんだ無謀な狩人を睨む虎のように、今からどう食い殺してやろうか、どう嬲ってやろうか、そんな感情を表情に写し、そろりそろりと差し脚でゆっくりロイズの周りを歩く。
獲物の前で舌なめずりをする獣のごとく山賊達は、誰が最初に”ディナー”に手を付けるのかと味方同士で目配せをし合い、その時を心待ちにしていた。
だがディナーたる白銀の騎士は、誰の目も見ないまま正面を見据え、拳を構えたままステップを続ける。
まるでここに存在する誰もが眼中に無いかのようで、数分も続くとヘルメットに隠れた表情をうかがい知ることのできない山賊達は、”舐められている”と勝手に苛立ちを募らせていった。
「うらぁ!!」
とうとう誰かがしびれを切らしたか、円を描いて回る山賊達から一人の影が飛び出す。
見ればスキンヘッドのいかにも短気そうな、いや実際に短気であった山賊が飛び出し、白銀の騎士に向かい手斧を振り下ろしていた。
誰もが望んでいた。
くだらない正義などのため勇んで死地に飛び込んだ騎士が無残に頭を割られる様を。
あるいは肩を袈裟懸けに裂かれ、苦悶の表情を兜から覗かせ絶命するさまを。
誰もが――――
「あ・・・っ?」
手斧が振りぬかれる。
短気な山賊は、短気な通り騎士の頭が割れたと想像し勝ち誇ろうとしていた。
だがようやく、血と欲望だけの日々のせいで足りなくなった思考が追いついてみると、手に握られている斧は空を切っており、その刃先には一滴の血もついていない。
―――いや、目を動かしよく見てみると、確かに血が付いていた。べっとりと、確かにその柄に、自らの吐き出した血が塗りたくられていたのだ。
「しゃらくせぇっ!!」
白銀の騎士が、ロイズが叫びながら拳を振りぬく。その手に嵌めた黒く、地球に生きる人々ならその意味を知っている黄色と黒の放射能マークがプリントされたパワーフィスト、”グリーズド・ライトニング”。
核分裂電池を組み込み、そこから得られる莫大な電気をもとに機構の展開スピードを早めたその鉄拳は、あたかも装着者に
『稲妻よりも疾く』
その銘に相応しき、電光石火の拳の連打が獲物にくらいつき、重装を感じさせない軽やかな動きで次の、次の、また次の拳を打ち込ませる。フィストのプレスが相手を飛ばすときには次の一撃が、そのあとにはまた次の一撃が、次が、次が、次が―――叩き込まれる。
「だっしゃぁぁ!!」
何度殴られたか、既に意識を昇天させた山賊には記憶が無い。ただひとつ言えることは、この場にいた誰もが、その様に息を呑み、ひとつの決断をしたことだ。
『本気で狩らなければならない相手だ』
と。
胸甲に無数のへこみをデコレーションされた山賊が地面に崩れ落ちたことが合図だったように、ロイズを取り囲む山賊達もその獲物を振りかざす。剣、槍、斧、あらゆる刃が白銀のパワーアーマーに食らいつく。
だが当たりさえすればと思っていたはずのその無数の刃が、てんで装甲を通らない。
むしろ剣は折れ、斧は刃先が欠け、槍に至っては穂先が逸れ味方に突き刺さる始末だった。
「いってぇぇぇぇ!!このヘタクソ!!」
「違っ、わざとやったわけじゃ・・・うがぁ!」
元々気の短く無教養な山賊達は打ち込んだはずの刃が逸れ味方に当たるや、逆上し目の前にいる最大の脅威を視界から外してまで自分に攻撃を当てた味方に斬りかかる。最初は一人だったのが二人での同士討ちになりそれがまた増える、既に戦場は、白銀の騎士に対峙する山賊と、山賊に対峙する山賊の二つに分かれていた。
「どっち見てんだ!?」
しかし間抜けは見逃さない、とばかりに同士討ちをする山賊達をロイズが殴る。超高速のフィストが有無をいわさず頭を砕き、肺を潰す。向かってくる山賊達も同様で、パワーアーマーの強靭な装甲をいいことに刃の嵐を押し切ると、同じように拳を打ち込み、腕を引きちぎり、背骨をへし折る。
その攻防がほんの十分も続いた頃には、実に20人を超える山賊の骸が転がっていた。
ある者は恐怖や苦悶の表情を顔に張り付かせ、ある者は原型を留めないまでに頭部を粉砕され死に目の表情をうかがい知れない無残な骸が地面に転がる中、ただ一人血の池の中に立つ者。
白銀だったパワーアーマーを真っ赤な血塗れにし、なおも拳を構え戦う姿勢を止めない騎士。
“
「化け物だぁ!!」
「王都の騎士があんなとんでもない者だなんて聞いてねぇ!!」
「山賊なんてやめるから殺さないでくれ!!」
獲物を投げ捨て、冷気と血が支配する領域から我先にと逃げ出す山賊達。つい十分前には獲物を嬲る狩人のそれであった表情は崩れ、既に貼り付けたような恐怖の表情が支配していた。
そして、五分も経たないうちに逃げ出した山賊達は見えなくなり、戦場と化していた村の広場には血の匂いと、冷気と、無数の十字架と、二人の男が残る。
片や“スクライブ”、ロイズ。
片や”魔法使い”、ウィルフレド。
片や白銀の、駆動音を響かせ冷たい空気を真っ白にする蒸気を噴出する超合金パワーアーマーを身にまとい、黒いパワーフィストを握りしめる。
片や億劫そうに立ち上がり、白色の、紋様の塗りたくられたローブをまとい、宝石の取り付けられた絢爛な杖を手にとり騎士へと向ける。
「ナメ過ぎたことは謝ってやる、誇り高い
「謝るんなら頭擦りつけて『ごめんなさいもうしません、私めは貴方様の忠実なる下僕です』くらい言ってみろよ。それもできないんなら―――
互いに姿勢をぴくりとも変えないまま、表情だけをコロコロ変えた珍奇な問答。
だがロイズの言葉の後、ウィルフレドの手先だけがプルプルと震えたのが見て取れた。
「・・・調子に乗んなよ、王サマの犬の分際で、大臣の、あのクソ兄貴の弟の俺にタテつこうなんてよ」
「王様が誰か知らないけどよ、こんだけすりゃあもうその肩書き通用しないだろ?あとは椅子に縛って銃殺刑、それがお前のゴールだよ」
「・・・銃殺刑?」
眉をしかめ、興味深そうに聞く。
ロイズはヘルメットの下でにやりと笑ってやると、そのまま声色を変えずに続けた。
「頭をブッ飛ばして、土に埋めてオシマイ、ってこったよ」
「・・・本当に、本当に、調子に乗んなよ!!格の違いってのを分からせてやる!!」
ウィルフレドはその顔を怒りのそれに変え、構えた杖を大きく振ると深呼吸する。彼の周囲の冷気が彼に集まっていき、なびくローブは紋様の輝きを増していった。
「エルケーロ!」
ウィルフレドが叫ぶと共に杖の先に白いマナが集まり、限界まで膨らんだ瞬間撃ち出される。引き金を引けば弾の出る銃器でも、弦を引く弓でもない完全な超常、その突然の出来事に反応が遅れたロイズは、すかさず腕を交差させそれを受け止めた。
衝撃はパワーアーマーの装甲を貫くことは叶わず、その表面を撫でるように進行したあと辺りに散って霧散する。背後に離れていき、消えた冷気を悟ったロイズは腕の交差をとき、攻撃態勢に移ろうとした。
・・・はずだったが、ロイズはなぜか自分の腕が動かせない。
交差した腕だけがくっついて離れず、腕をぶんぶんと振り回す。
ウィルフレドがほくそ笑むのが見え腹立たしくなったが、ロイズはそれ以上にこの異常に対し焦った。
瞬間、異変の原因に気付く。
交差した腕の先、両手に嵌めた黒いパワーフィストの核分裂電池によって加熱した部分だけが変わらない色調を保っているのに対し、その周りのグローブやPip-boyのディスプレイが真っ白な霜に覆われていたことに気付いたのだ。
「凍ってんのかコレ!?」
「ハハハ!自慢のパンチが出来なきゃ何も出来ないだろ丸腰の騎士サマ!戦闘ってのはこうやるんだよ!」
腕の交差した部分が凍結し、張り付いていたのだ。ロイズは力を入れ、引き離そうとするがなかなかそうはならない。その瞬間にもウィルフレドの周りには先ほどと同じようにマナを含んだ冷気が集まっており、次発装填のタイミングを今か今かと待っていた。
「トドメにしてやるよ、その鎧が勿体無いから汚さないように、ゆっくり全身凍らせて、寒さと苦しさの中で殺してやる」
杖の先のマナが更に大きく膨らんでいく。ロイズは力を入れながらもその光景を目にし、額に冷や汗を垂らしていた。
「らぁ!」
「!!」
とっさの判断で、ロイズは凍結した両腕の交差部分に膝蹴りを入れていた。
つるりとしたアーマーの表面を伝わる重い衝撃が霜を砕き、力を入れていた両腕を大きく引き離し自由にさせる。
その瞬間すぐさま地面に転がると、ほんの一秒前に自分がいた場所を真っ白な冷気の弾が通り過ぎていった。
通り過ぎていった冷気の弾は直進を続けると、村の収穫物を集めた木箱に飛び込んでいき爆散する。残ったのは、紫色の果肉を真っ白に凍らせ砕けたグレーフの山のみであった。
「ギリギリセー・・・フ!」
「こいつっ、なんて馬鹿力なんだよ!?」
背後のそれを見て冷や汗を二つに増やすロイズと、ロイズが氷の拘束を解き自身の全力の一撃をかわしたことに驚愕し、目を見開くウィルフレド。
その瞬間を逃さぬように、ロイズの、氷を纏いより白銀に輝いているパワーアーマーが、駆動音と蒸気を上げうなりをあげた。
「今度はこっちの番だこの白髪ゲイ野郎!!」
「こいつ・・・うぉぉ!?」
十数分ほど先に見ていたとはいえ、自分に振るわれると予想以上に速いロイズの拳をタッチの差でかわす。しかし続けて打ち込まれ続ける拳に対抗しきれず、がら空きになった脇腹へグリーズド・ライトニングの一撃が迫った。
「―――エルシルド!!」
「とどめぇーっ!」
電光石火の鉄の拳がウィルフレドの身体を跳ね飛ばし、山賊達の骸に作られた血の池に転がらせる。ぴくりとも動かず、遠目にはその口元から血が細く流れ出るのが見て取れた。
勝利を確信したロイズは握っていた拳を解くと、転がり倒れたウィルフレドの下にゆっくりと歩いてゆく。
この惨状を引き起こしたド外道の顔をもっとよく見てやろうと―――
―――慢心だった。
「え・・・?」
口の端から血を流し倒れていたはずの死体が起き上がり、天に向かって杖を掲げていた。
降伏の合図ではない、その先端は今まで以上に大きくなり、ローブの紋様は眩いほどに輝きを増す。仰向けになっていたためフードが上がってはっきり見えたその顔には、狂気と狂喜がこれでもかというくらい混在していた。
「やらせるか!」
「ゴーケーロ!!」
絶叫するウィルフレドに再び握られた拳が迫る、あと30cm、20cm、三寸、一寸―――ロイズの視界は、白銀に包まれた。
・・・辺りを見れば白いもやが深くたちこめている。
広場に溜まった真っ赤な血の池は氷が張っており、斃れていた骸の数々には白い霜が張り付いていた。
そしてその中央、立ち尽くす二つの影。
片や脇腹を押さえ、口の端から血を垂らし目を充血させながら、ヒビの入った杖を片手にふらりと立つ”魔法使い”ウィルフレド・シルベスター。
片や、拳を伸ばした姿勢のまま、右手を振りかぶったため身体を捻った体勢で霧の中に立つ白銀の騎士、”スクライブ”ロイズ。
―――その身体は、真っ白な氷が覆っていた。
「・・・へっ、へへっ・・・うはぁっ!!・・・ゴホッ、ゴホッ・・・。こいつを使うと身体がしばらく使い物にならないって話だったが、出し惜しみしないで正解だった・・・!やっぱり俺は王者の器だ・・・!なあ、そう思うだろ?」
一つの影、ウィルフレドは笑いながら、目の前で凍りついたままのロイズに語りかける。その目からは狂気がにじみ出ており、今の今まで苦痛に耐え彼らの戦いを見ていた村人たちに目を逸らさせた。
魔法使いにとっても禁忌とされる『栓詰まり』のその先を進んだウィルフレドの一撃は、彼の最大許容魔法、”エル”を超え一段階上の”ゴー”へとその威力を引き上げたのだ。
「防御魔法で受け止めてもこのザマだ!その拳の魔道具も、その鎧も、最高だな・・・!お前も最高だ・・・!俺と一緒に来る気は?ん?」
「・・・クソッタレ・・・だぜ・・・」
凍りついた鎧の中から声が響く。聞けば微かに鳴る
駆動音が、その拘束を打ち破ろうとモーターをフルスロットルにしていることを感じさせた。
「・・・あー、そーか・・・。お前みたいなのがいればスッゴク楽になったと思ったんだけどなー。・・・今度は外さねぇ、凍って苦しんでもがいて、砕けて死にな」
「やってみろよ・・・テメェなんざ・・・!」
言葉で足掻くのは容易いが、その威勢とは裏腹に身体は軽乗用車並みの出力を持つ60000Wのエネルギーを持つパワーアーマーの馬力を持っても動かない、せいぜい表面から霜が少し落ちる程度だ。
杖のヒビからマナが漏れるほど杖はその機能を喪失しかけていたが、それでも主に従い先端に冷気の塊を作り上げていく。
「テメェなんざ、なんだって?うん?」
宝石が光輝き、ヒビから漏れだすマナが時折塊を縮めながらも少しづつ冷気は膨らんでいく。
ウィルフレドは勝利の確信を得た笑みを浮かべ、その口元はかつての美形が分からなくなるほどに歪んでいた。
あとは呪文を叫ぶだけ、その段階までマナの準備が整うと、ウィルフレドは一度マナの供給を止めた。
「ほら、カチンコチンになるぞ、最後に言ってみろよ、いきがってみろよ、テメェなんざ・・・―――」
「テメェなんぞ、俺の最高の相棒が仕留めてくれる、だろ相棒?」
冷たい空気を震わせ爆音が響き、瞬間、ウィルフレドの指から先が吹き飛び、杖は持ち手の部分を木端微塵に砕かれ宙を待った。
「―――ああぁぁぁぁあぁ!!?」
「俺より怖い顔だと思えば俺より怖い声もできるのか、お前将来有望だぜ」
男の声、だが普通のそれとは違い、喉を焼かれたようなガラガラ声が響く。
「グール・・・!」
「少し遅くなったな、相棒。装備が足りないと思ったからライフルと、マシンガンと、あとスティムをいくつか取りに行ってた」
「おせぇよ・・・!オレ死ぬところだったんだよ・・・!」
「本当に悪いと思ってる、相棒。バトンタッチだ、口先と精密射撃ならお前より俺向きだぜ」
ようやく指先が動くようになってきたパワーアーマー、そのヘルメットの下から涙ぐんだ声が通った。それを聞いた乱入者――― 弾帯ベルトを巻いたコンバットアーマーの上に焦げ茶のトレンチコートを羽織り、頭には赤いツーピースレンズをはめた黒色のガスマスク型ヘルメットを装着し、背には一挺のアサルトライフル、手にはスコープ付きのハンティングライフルを持った”レンジャー”。
レンジャー・ティコは、指先から血を流し転がるウィルフレドのもとに近寄ると、引き倒し銃口をつきつけ一言加える。
「俺の相棒をいじめてくれるとはな、怖い兄ちゃん。磔の爺さん達といい、落とし前はつけてくれるんだろうな?」
「ああっ、ああ・・・っ!!痛い痛い痛いっ!」
「ああ!?そこの人ら全員分の痛みを合わせりゃお前のなんてなんてことないだろ!」
対するウィルフレドはその端正な顔を苦痛に歪め、地面に倒れたまま白目を剥き悶える。そしてティコが容赦の無い攻めを浴びせ続けると、彼はとうとう気を失ってしまった。
「なんだ、軟弱じゃねぇか・・・どんな豪傑が出てくるかと思ったが、大したタマじゃなかったってことかね、俺より若いし」
マスクの下でため息をつき、銃を背にしまうとティコはトレンチコートのポケットから一本の手術用チューブを取り出した。
「それでそいつ縛っといてくれ、相棒。早いとこ村の人ら降ろさないと死人が出るぜ」
「・・・生かしておくのかよ?」
「・・・まあ、来る途中俺なりに色々考えてはみたわけだよ」
小さなハンマーとライターを取り出し、脚立を民家から引きずってくると一人ずつ、氷の手枷と足かせを溶かしていくティコはロイズが聞くとヘルメットを悩ましそうにポリポリと掻き、また作業を再開すると共に口を開いた。
「・・・俺らはよそ者だ、だからといって遠慮する必要があるというとそうでもないが、俺達のルールがあったようにこの世界にはちゃんとした司法があって、暗黙のルールがあって・・・奇妙なことにそれで齟齬なく回ってくれてるらしい」
ティコが氷を溶かし、助けだされた村人が涙を流し礼を述べるとすぐに次へ移る。
「だからよ相棒、できること大体は・・・そいつみたいな悪人もこの世界のルールに任せて流されて、信じてみようって魂胆で今後やるのはどうよ、って思うんだよ」
「ルールが正しいとは限らないだろ」
鋭くロイズが口を挟むと、ティコはまた悩ましげにヘルメットを掻く。
それからまた氷をハンマーで叩き、ライターで炙り溶かし、一人を救出すると、今度はしっかりとロイズの方を剥き口を開いた。
「当然だ、どうやったってルールの穴通ろうとする奴は出るし、悪人事態が消えることなんてあるはずねぇ、
「その時は、俺らのルールを通してやるのさ。
盗みも見られなければお咎め無し、死体も荒野にあれば誰も知らない、だが悪人は法や組織が許そうがいつかは人民が銃を取って報いを受ける・・・自分が正しいと思ったことが誰にだってできる、そんな・・・」
「荒れ地の、流儀を通すのさ」
脚立から降り、ティコはグローブ越しのその手をロイズに差し出す。
「相乗りしてくれるか?相棒?」
差し出される手に目をやり、一瞬の迷いのあと、ロイズはパワーアーマーの駆動音を再び響かせ右手を伸ばす。
差し出された手を受け取ると、ティコはしっかりと握り返す。それからティコはマスクの下で微笑み――― また脚立を登り、心なしかペースを上げて氷を溶かしはじめた。
次でエピローグ。