死ネタを含むので閲覧注意
瞼が重い。体もうまく動かせない。まるで石みたいに、びくともしない。いつもならご主人を引っ張って走るけど、今日はゆっくりと、ご主人に抱っこされていつもの公園に向かってる。
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僕の名前はシロ。その名前通り真っ白な毛が特徴の犬だよ。小さい頃に大っきいご主人に拾われてこの火野家に住むようになったんだ。大っきいご主人とちっさいご主人は家にいないことが多いから、2人の子供のご主人が僕の遊び相手。この頃から僕は、散歩の時に見つけた公園の砂場が大好きだ。ご主人と一緒に砂まみれになるまで遊んで帰って、ちっさいご主人に叱られた。
「シロー、砂落とすから大人しくなー」
「ワンッ、ワンッ」
「あ、こら!暴れるなって!」
ご主人は僕の毛についた砂を全部払うために体中をわしゃわしゃしてくるからとってもくすぐったい。
たまにご主人に会いに、ちっさいのが2人やってくる。2人とも絶対に花か土の匂いがするから、来たらすぐに解るし、ご主人もちょっと嬉しそうにしている。この2人も僕の遊び相手だ。
「シロちゃーん、よしよし〜」
「相変わらずもちもちしたほっぺだな、お前は」
「ワフン…」
2人はよく僕を撫でたりほっぺたを引っ張ったりする。ご主人とは違う手つきで、すぐ力が抜ける。特にご主人から春ちゃんって呼ばれる方は、のんびりしてる子だから僕と一緒にお昼寝をすることが多い。逆に鈴ちゃんって呼ばれる方はしっかりしてて、ご主人が忙しい時は代わりに散歩に連れて行ってくれる。
いつからか、ご主人は家にいる日が多くなった。そういう時はいつも怪我をしてたり、血の匂いをつけてたり。散歩の時によく見かける大きい犬みたいに、気が立ってる。この頃のご主人は、ちょっと怖かった。だから僕は、いつもよりもご主人の傍をうろうろする。そうするとご主人は何も言わずに僕をわしゃわしゃしてくれるから。
「クゥ〜ン……」
「ん、なんでもないから、シロは心配しなくていいよ」
ご主人がこういう時は、いっぱい怪我したりした時だ。だから大っきいご主人とちっさいご主人を呼んできて、2人と話し合いさせる。ご主人達の話は解らないけど、最後はいつも笑ってるから大丈夫だと思う。僕がいないとご主人はダメダメみたいだ。
ご主人達の家に来てからいっぱい時間が経ったある時、大っきいご主人やちっさいご主人、ちっこい2人とは違う匂いがご主人からするようになった。初めて嗅ぐ、まったく知らない人の匂い。どんな人なのか気になる。
その人と初めて会ったのは散歩の時。ご主人とぶつかってご主人に乗っかってるのを見た。望月って呼ばれてるその人と話してる時のご主人は、他の4人といる時とはまた違う、困ってそうな、けど楽しそうな顔してた。少なくとも、危険はなさそうだ。でもちっこい2人に興奮してるとこを見ると、ちょっと危険かもしれない。
この望月って人は、ちっこい2人ほどじゃないけどよく家に来る。鈴ちゃんはその度に警戒してるけど、春ちゃんは懐いてるみたい。あと、ご主人の事で悩んでるみたいで、僕のほっぺをもちもちしながら色々話してくれる。
「火野くんったら、今日も授業サボってて…困ったご主人様よねぇ」
「ァオン?」
「シロちゃんからも叱ってあげてね」
「ワンッ」
何のことかはよく解らないけど、今度ご主人の指をがじがじ噛んじゃお。しっかりしないご主人が悪いことは解ったから。
時間がいっぱい経つと、色んなことが変わっていく。例えば、鈴ちゃんがご主人に甘えたり、ご主人から望月って人(今はエレナって呼んでた)の匂いがいっぱいしたり、近所の犬たちが増えて縄張り争いしたり、いつもの公園に人が増えてきたり。
でも、一番変わってきたのは僕だ。しかも、悪い方に。いつもならいっぱい食べれたご飯も残すようになったし、走り回るような体力もなくなってきた。大っきいご主人に病院に連れて行ってもらうと、もう長くないって言われた。それはそうだ。僕は元々捨てられてて、体は弱かったんだから。ここまで生きれたのは、ご主人達に会えたからだ。
家に帰ってからの僕は、基本寝たきりになった。たまに家の中を少し歩いて、少しご飯を食べて、ご主人達に撫でられながら寝て。こんな日がいっぱい続いたある日、僕はリードを咥えてご主人にすり寄る。もう、今日が最期だと思ったから、いつもの砂場でご主人と遊びたくて、散歩に行く時のいつもの行動をする。ご主人は悲しそうな顔で、でも解ってくれたのかリードを首輪に付けて、僕を抱っこしてくれた。
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「ほら、着いたぞシロ」
「……ヮン」
いつもの公園のいつもの砂場に降ろしてもらって、なんとか足を動かして砂を掘る。少し掘ってぺたんと伏せてご主人を見ると、やっぱり悲しそうな顔をして僕の傍に座って撫でてくれる。ご主人、僕がいないとダメダメなのに、これから大丈夫かなぁ……。
「……おやすみ、シロ」
「ヮン……」
いつもよりもゆっくり、優しく撫でてくれるご主人の手を小さく舐めて、僕は目を閉じる。
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「……おやすみ、シロ」
「ヮン……」
撫でながらそう言うと、シロはか細い声で小さく鳴いてゆっくり目を閉じた。少しの間シロの毛を梳きながらお腹に手を当てる。いつもなら呼吸でゆっくり動くそこは、今はまったく動かない。その事が、シロが息を引き取った事実が、どうしようもなく辛かった。小さい頃からずっと一緒だった家族を抱き締めて、誰もいない公園で1人声を出して泣いた。
散々泣き疲れて、シロを抱っこして重い足取りで家に帰る。正直、色んな事にやる気が出ない。それくらい、俺にとってシロの存在は大きいものだった。……でも、この事を引きずってばかりだとシロも安心出来ないだろうから、しっかりしないと。ただ、数日は許してほしい。
後日、庭に小さいけどお墓も作って、春ちゃんが用意してくれた花を供える。葬儀には俺たち家族だけじゃなく、鈴ちゃんに春ちゃん、それとエレナも来てくれた。3人ともシロのことを可愛がってくれてたから、来てくれたのは嬉しかった。……泣かないように堪えたけど結局号泣した所を見られたのは恥ずかしかったけど。
来世では、もっと元気に過ごせるように。シロ、いままでありがとう。
どーも、クロウズです。
火野家のマスコット、シロとお別れする話です。7月中に向こう2作品の更新が達成出来なかった罰として書きました。
実は2ヶ月程前にクロウズ宅の愛犬が亡くなりまして。10数年いた子だったので、シロも同じくらい火野家にいたのでうちの子が亡くなったのを忘れないようにとも思いつつ、霞黒くんにも悲しんでもらおうと思って書きました。(ゲスい)
とはいえ前書きにも書いた通りこちらはIFなので、本編でのシロは今でも元気に走り回ってます。長生きしてます。
ではでは、今日はこの辺で。はらたま〜きよたま〜