カメラと棒付きアメと   作:クロウズ

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III話目

「あ゛ぁー………あづい…………」

 

 

 7月に入って暑さが増し、俺の席が窓際の所為でさらに暑く、いくら今日が終業式で後は帰ればいいだけでも、何もやる気が起きない。その上、

 

 

「ほんと、暑いわよねぇ……」

「そう言うなら離れてくれ頼むから………」

 

 

 背中にエレナが引っ付いてきてるから余計に暑い。暑いだけじゃなく、薄着の所為で制服越しでもエレナの胸の柔らかさが伝わって非常によろしくない。普段から時間と場所をなかなか弁えない奴だけど、今日みたいな日まで弁えないのはどうしたものか。

 

 

「霞黒く~ん、扇いでぇ~……」

「扇ぐ力ない……」

「そんなぁ~」

「あらぁ、相変わらず仲良いわねぇ」

「あー……?あぁ、天都(あまつ)か」

「かなたちゃ〜ん………」

 

 

 この、のんびりとした生徒会長はこの暑さでもいつも通りのんびりとしてた。ドのつく天然なのになんで生徒会長になれたのか疑問なんだけど、こいつに頼み事をされたら基本誰も断れない。正確には、何度断っても頼み続けてくるから、頼まれた側が折れるしかない。あの神楽坂ですらそうだったし。あと、こんなに暑いのに汗一つ掻いてないのは凄いと思う。

 

 

「いいなぁ。私なんて京に逃げられたのに」

「あ~、乙女ちゃんも~……」

「あらぁ、そうだったのぉ?」

「栢嶋弟が嫌がる姿が想像できる………エレナは早く離れて…」

「んもぅ~…………」

 

 

 ようやくエレナは離れてくれた。その際に首筋を舐められたから額に凸ピンしたけど悪くないよな。天都や栢嶋もいたんだし。

 

 

「もうっ、痛いじゃない」

「お前が悪い……」

「喧嘩は駄目よ?」

「それにしても、ほんと暑いね。こうも暑いとプール行きたくなる」

「あらぁー、いいわねそれ」

「プールと言えば水着の女の子ね!」

「騒ぐな暑いから……」

 

 

 しかしプールね……俺泳げないんだよな。まあ、この暑さを回避できるならなんだっていいけど。

 

 

 

 で、この他に栢嶋弟や村上、向こうで会ったボランティア委員会の連中なんかが加わって結構大変なことになったのは、言うまでもない。主に俺が溺れたりで。

 

 

「おわー!火野先輩が流された!!」

「えぇ!?霞黒くん泳げないのに!」

「よし、それなら俺らが助けに!」

「いけぇ、キョン!!」

「キバっていくぜ!って言ってる場合か!!」

「火野ー!!」

「いや、春瑚と一緒に浮き輪に乗ってるだけなんだが………」

 

 

 

 

 

 あれは大変だったな。勘違いとかあったみたいだけど。

 それから数日、暑さと課題に追われながら夏休みの最終日を迎えることに。この最終日、8月31日には毎年夏祭りがある。普段は鈴ちゃん、春ちゃんの2人と回って、去年はエレナも一緒。で、今年はエレナと2人きりで回ることになった。祭り会場に浴衣姿で来た俺達は今、

 

 

「あぁ~ん、破れちゃったー……」

 

 

 金魚すくいに興じていた。俺は後ろから見てるだけだけど。どうやらエレナはこれが苦手なようで、1匹もすくえないままポイの紙が破れたらしい。そういえば、このすくうやつがポイって名前なのを知ってる人ってどれくらいいるんだろう?

 

 

「残念だったな」

「うぅ、霞黒くーん………」

「仕方ない、仇とってやるよ」

「お、兄ちゃん。彼女に良いとこ見せてやんのか?」

「そんなとこ」

 

 

 200円払ってボウルとポイをおっちゃんからもらい、水槽を覗き込む。金魚のタイミングを見計らって、せやっ!

 

 

「よし、まず1匹」

「やった、さすが霞黒くん。じゃあ次は、あの大きいのすくってみて」

「あいつか。やってみる」

 

 

 エレナが指差したのは、この中で一番大きい金魚だった。ここは慎重に、と見せかけてポイを一閃させる。

 

 

「わ、すご~い」

「ほー、こりゃやられたなぁ」

「まあ、何度もやりましたからね」

 

 

 小さい頃、鈴ちゃんがどうしてもって言ってたから、その時の小遣い全部を使ってでも取ろうと悪戦苦闘してたからな。ちなみに、その頃は一回も取れたためしがなかった。今日のは運が良かったってことかな。紙はまだ破れてないし、このまま続行するか。

 

 

「がんばれ霞黒くーん」

「うわ、解ったから揺らすな紙が破れ―――あ゛っ」

 

 

言ってるそばから破れた。ちくしょう。

 

 

「あちゃー……」

「はっはっは、残念だったな兄ちゃん」

「くっ、仕方ないか……」

 

 

 取った金魚をもらって、金魚すくいの屋台を後にする。

 

 

 

 

「霞黒くん、こっち向いてー」

「ん?なんだ――なに撮ってんだよ」

「うふふ、わたあめにかぶりつく大きな子供みたいよ、ほら」

「見せなくていいよ」

 

 

 あの後色々と屋台を見て回り、エレナはリンゴ飴を、俺はわたあめを食べながら歩き回る。その最中で、言ったようにエレナは俺がわたあめを食べてるところを小型のデジカメに収めたようだ。人混みの中なんだから落としたりしないようにしてほしい。落としたら最悪壊れる。そういえば、小さい頃は春ちゃんがよく迷子になったっけ。

 それから盆踊り会場に行って一緒に踊り、少しの休憩も兼ねて河原の方へ行く。祭り会場と違ってこっちは相変わらず人が少なく静かだ。

 

 

「っくぁーー、歩き疲れたなぁ」

「そうねぇ。……風が気持ちいいわね」

「だな」

 

 

 向こうは密度もすごかったから夕方とはいえ暑かったけど、夜にもなって風も出てると涼しくて気持ちいい。ふと横を見ると、風で髪を押さえてるエレナが映った。月も出てて、その姿はとても綺麗だった。

 

 

「ん、霞黒くん、どうかした?」

「綺麗だなって」

「綺麗?……あ、ほんとだぁ。綺麗な空ねぇ」

「いや、空じゃなくて」

 

 

 お前が。そう言ったらエレナは少し固まってから顔を赤くして取り乱した。不意打ちに弱いなぁこいつ。1年の頃もそうだったし。あの時は月のことだったけど。

 それからすぐに花火が上がり、空に咲く色とりどりの花を俺もエレナも見上げる。

 

 

「今日で、夏も終りね」

「あぁ。高校最後の夏だ」

「色々あったわよねぇ」

「去年から付き合いだして、ほんと色々あったな」

 

 

 花火を見上げたまま、そんな他愛もない風に言葉を交わす。それも長くは続けず、大きな花火が上がりだすと会話も止まり、花火を眺める。もちろん、写真を撮るのも忘れない。それも一段落着くと土手に座り、お互い顔を見合わせる。

 

 

「今日、来て良かったな」

「うん」

 

 

 笑顔で頷いたエレナはそのまま目を閉じて顔を近付けてきたから、俺は打ち上がる花火を背に、その唇に自分のそれを重ねる。




 \(`д´)ゝデュエッ!クロウズです。
 今回は夏の一時、後半はきみと過ごす夏休みをなぞったような展開にしました。ちなみに霞黒はわたあめの他に今川焼やリンゴ飴、チョコバナナなど甘味を全制覇する勢いで食べてました。自分も地元の花火大会やどこかのペーロン祭りにはよく行ってます。どうでもいいですけどね。



 2学期に入るとイベントが盛り沢山。中でも一番人気の櫻花祭ではまたしてもNo.1カップル決定戦が。去年は惜しくも敗退した2人だが、今年こそは優勝を目指す。2人は強敵を倒し、No.1カップルになれるのか!?次回、『砂糖テロ勃発!?』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)



 そろそろ嘘予告ネタが尽きてきた……。俺達の満足はこれからだっ!

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