『続いての競技は、借り物競走です。出場される生徒の皆さんは準備してください』
参加することになってる競技の一つ、借り物競走が来てしまった。これ、お題によってはクリア不可だったりするからな。相当変なものが用意されてないならいいんだけど、そうはいかないんだよなここは。確か去年は、ToL〇VEる全巻だったっけ。誰だよあれ用意したの……すっごく恥ずかしかったぞ。
「あれ、火野先輩も出るんすか?」
「あー?…………ああ、木林か」
「今、完っ全に名前忘れてたっすよね?」
「気のせいだ、気にするな」
これだから不良は、とか失礼なこと言ってる後輩を適当にあしらって軽く準備運動。なるべく簡単そうなお題を引き当てて―――。
『ちなみに今回のお題は、生徒会の皆さんだけでなくボランティア委員会である暁の皆さんに用意していただきました。わざわざありがとうございます』
『いいぜ、これも修行だしな』
『そーそー。結構駄目にされたやつもあったけどな』
『当たり前だ!あんなの通るわけないだろ!』
「おい、木林」
「………あとでシメとくっす」
「お前も大概だな」
『それでは、選手の皆さん。いちについて、よーい・・・スタート!!』
放送委員の声と共に号砲が鳴り響くと、俺は走って落ちてるお題の紙を拾い上げる。さて、お題はっと。
「『尊敬する先輩』………物じゃないじゃん」
まあ、これならすぐにでも…………あれ、これ難しくないか?3年生に顔見知りとかいないんだけど。
「誰か金棒持ってませんかー!?」
「ロッカー!?絶対借り物競走に使うお題じゃないだろこれ!?」
「東雲どこだー!?」
「彼女なんていねーよ畜生が!!」
他の奴らの叫び声からして、俺のはまだマシなのかな。金棒とかロッカーと比べると……。いやそれでも、そんな先輩がいない俺にこれは。……かくなる上は。
「わざわざすみません、先輩」
「いいのよ別に、カグさんの頼みなら」
しらみ潰しに客席を見渡して、運良く来ていた月見原先輩を連れて走る。正直この人にはからかわれたり弄られたり辱められたりと苦い思い出の方が多いんだけど、それでも一応尊敬できる先輩ではある。一応は。
「ちょっ……ミヤビンっ、速っ……酔う……」
「あと少しだから耐えてくれ!てあれ、先輩!?」
「あー?なんだまた木林か」
後ろから誰かが追い上げてきてると思えば、木林が東雲をお姫様抱っこで抱え走ってた。なんでお姫様抱っこなんだろ。東雲真っ赤だし。あ、でも若干青ざめてやがる。
「あら、お姫様抱っこなんて羨ましい。ねえカグさん」
「しませんよ!?ていうかこの状況で出来るわけないでしょう!」
「カグさんのいけず。それにしても、久しぶりに走るから胸が苦しいわぁ」
「だからって胸元緩めないでくださいよ!?」
「何してるんすかその人!?」
「ミヤビン五月蝿い………」
「のどっ!?」
運ばれるがままの東雲が木林を殴ってよろめかせたお陰で、なんとか1位でゴールできた。借り物競走だから、この後先生が許してくれなきゃまた探しなおす羽目になるけど。
「ん、火野か。引いたお題は?」
「ほい」
「ふむ。……………お前、相手間違えてないか?」
「いくら何でもその発言は酷くないですか?これでも先輩の事は尊敬してますんで」
「ん、ならいいだろう。OKだ」
まさかこんなこと言われるとはね。いやまあ、確かに先輩はアレだったけど。
「ところでカグさん?エレナちゃんと付き合ってるってこと、どうして黙ってたのかしら?」
「えっ?あ、いや、それは………」
エレナの奴、結局言い忘れてたのかよ……。間宮先輩には言ってたのになんで月海原先輩には……忘れてた俺も俺だけど。まずい、久々にどれを切っても通らない危険牌しかない状態だこれ。どう言い逃れようか考えてると、
『今、ロッカーを担いだ先輩もゴール!先輩本当お疲れ様です!!それでは、午前の部はこれで終了となりましたので、お昼休みです。午後の部も頑張ったくださいねー!』
「っと、終ったみたいなんで俺弁当食ってきますね!先輩も早く戻った方がいいですよ!それじゃ!」
タイミング良く競技終了の放送が入ったから、先輩から逃げるように急いで走る。その後は、1年のテント内にいた鈴ちゃんと、例の如く体操着女子を追い掛け回してたエレナをとっ捕まえて観に来てくれてた春ちゃんのとこに行く。その途中、木林がボランティア委員会の2人をこの炎天下の中正座させてたけど、面倒だからスルーした。
「はぁ……女の子の可愛い姿がいっぱい撮れて満足だわぁ〜」
「お前は相変わらずか………。あ、鈴ちゃん、ほっぺにソース付いてるよ」
「んむ……すまない黒兄」
「春ちゃんも、お米こぼしてる。てかどうやったのそれ」
「おやぁ、ごめんなさ~い」
「トキさんトキさん、次からあげねー」
「おう、これだな」
それにしても、なんで母さん、父さんの膝上に乗ってるかなぁ。俺達みたいに知ってる人ならいいけど、周りの目気にならないのか?
「あ、そういえばさっき、カスミン先輩に会ったわよぉ」
「げっ……何か言ってたか?」
「んー、付き合ったことに、おめでとうって。あと、霞黒くんによろしくって」
「…………嫌な予感がするな」
あの人のよろしくは碌なことがないからなぁ……。まあ、その辺はまた後で考えるか。と、先延ばしにして弁当を平らげる。
昼休みも終り午後の競技も滞りなく進み、やってきました部活・委員会対抗二人三脚。他のリレーとかでだと、人数の少ない部や委員会があるからだろうなぁ。と言っても、その場合参加しないでいいとも思うんだけどな。
「さあ、頑張るわよぉー」
「正直俺走り疲れたんだけど」
「文句言わないの。ほら、足結んで」
「はいはい」
事前に渡された紐を俺とエレナの足に巻いて、解けないように少し固く縛る。よし、こんなもんかな。他のペアも準備し始め、指定されたレーンに並ぶ。こうして見ると、結構多いな。
『皆さん準備はいいですね!?真っ先にゴールイン出来る2人組は―――ああ冗談ですから睨まないで。では、気を取り直して、よーい・・・スタート!!』
「行くぞ、エレナ」
「もっちろん」
号砲が鳴り響いてから呼吸を合わせて走り始める。他のペアよりは早く出れたと思ったけど、号砲と共に走り出して俺達よりも先を走ってるのがいた。
『先頭を走るは、剣道部所属の五代・桐崎ペア。2人は従姉弟とのことですから、スタートダッシュの息も合ったんでしょうね』
「凄いわねぇあの2人は」
「あいつに負けるってのは癪だし、速度上げるけどいけるか?」
「大丈―――あっ、あんな所に美少女がぁ~!!」
「うおっ、おい!」
こいつのセンサーはどうなってるのか、誰のことを言ってるのか解らないけど急停止した所為でバランスを崩して、固く縛ってるからエレナ諸共こける。この馬鹿!せめて競技中は抑えろっての!
『おーっと、写真部のお2人が転倒したぞー!いちゃつくなら他所でやれや』
「黙ってろ放送委員!ったく、大丈夫かエレナ?」
「う、うん。ごめんね」
すぐに起き上がったエレナに手を引っ張られて立ち上がり、走る前にエレナを小突く。怪我とかなくて良かったけど、急に止まった事に対しての罰としてな。それで反省した(と思いたい)エレナと肩を組み、もう一度走る。これ以上トラブルがなかったら、さっきの分は取り戻せると、そう思ってたら、
――ぷちっ。
と、何かが切れるような音がした。もしやと思って下に視線を向けるも、俺達の靴紐も二人三脚用の紐も切れてはない。じゃあ、一体何の音なんだ?そう思ってエレナを見ると、何故か顔を真っ赤にして肩を震わせてた。え、どないしよっと?
「か、霞黒くん………棄権していい……?」
「……何があった?」
「じ、実は……」
恥ずかしそうに耳打ちするエレナの言い分を聞いて、俺は納得して紐を解こうとして固すぎたから千切った後棄権して、その後はテントに戻って観戦することに。棄権理由はこけた際に俺が足を挫いたってことにしておいた、一応本当のことだし。棄権本来の理由は察してほしい。で、エレナは1日中顔を赤くしてたから熱中症なんじゃないかとか別の心配をされることになってた。南無。それにしても、あんな漫画みたいな事って実際に起きるものなんだな。
これ以外には特にトラブルも何も起きず進行して、体育祭は無事終了。明日は振替で休みだし、ゆっくり休むとするかな。
あてーんしょーん、はろはろ~。基本ぼっちの決闘者クロウズです。俺と決闘しろぉおおおおおお!!
借り物競走も二人三脚も、体育祭ではやったことありません。そもそもその種目すらぬえ。ムカデ競走はありましたけど。もー体育祭とかやりたくないです。
2年生もそろそろ終る頃に最後に待ち構える期末テスト、それを乗り越えた先にあるクリスマスに正月。この2大イベントで2人はついに一線を越えるのか!?次回、『冬の寒空と人肌の暖かさ』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(うそです)
それではこの辺で。はらたま~きよたま~。