カメラと棒付きアメと   作:クロウズ

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6話目

 昨日間宮先輩に相談に乗ってもらった結果、まずは話し合いをした方がいいと言われた俺は、最近取り付く島もない望月とどう話せばいいのか、昼休みになっても悩んでいるんだが、

 

 

「はぁ……」

「……」

 

 

 その望月はさっきから俺の顔を見ては憂いを帯びたような表情で溜め息を吐き、俺と目が合いそうになると慌てて窓の外を眺めたり教科書で顔を隠したりする。何なんだよ一体。というか先輩も、望月がこうなった原因は解ってるみたいなのに教えてくれなかったし。ほんと何なんだよ一体。

 

 

「望月さん。さっきから溜め息吐いてますけど、大丈夫ですか?」

「…………」

「望月さん?」

「ふわっ、え、あ、なに、文緒ちゃん?」

 

 

 心配して声を掛ける村上には普通に接するんだよなこいつ。もう村上に原因聞いてもらった方がいいかな。

 と思っていたら、珍しく村上の方から声を掛けてきた。

 

 

「……。あの、火野さん。少しいいですか?」

「ん、あぁ、いいぞ」

 

 

 困ったような、でもどこか怒ったような表情の村上に、箸を置いて向き直るとここで話すのはなんだからと、廊下に連れ出される。その時に望月が何か言いたそうにしてたけど、俺が声を掛けると、目を逸らして小さな声で何でもないとだけ言って不貞寝しだした。なんか、よく考えたら去年の鈴ちゃんみたい。

 まぁ、今は望月はいいとして。どうせ望月とのことについてだろうと思いながら廊下で村上と向き合う。

 

 

「で、話って?まぁ、望月とのことなんだろうけど」

「……はぁ。そういうのは解るのに、望月さんの気持ちは解らないんですね」

「あいつの気持ちって。部活に出れないのはスランプだから、とかだろ?ここ最近、あいつカメラ構えても溜め息吐くだけだし」

 

 

 それと俺を避けることに共通点があるかは知らないけど。俺関係で悩んでるなら、それこそ当人である俺に言えばいいだろうにと思う。そう言ったら今以上に困った表情をされた。困ったというか、むしろ呆れた表情だこれ。そんな顔するな。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。

 

 

「誰の所為ですか、まったく……。それより、今は望月さんです」

「俺避けられてるから、代わりに聞いてほしいんだけど……」

「それじゃあ意味がありませんし。って、そうではなく」

 

 

 望月のことなのに違うのか。じゃあいったい何だ?

 

 

「火野さんは、望月さんのことをどう思ってますか?」

「成績優秀で気配りとかも出来るけどプラス面をマイナスで埋め尽くすほどに女子相手へのテンションが高かったり変態染みてたりで性格が残念すぎるかわいそうなクラスメイト」

「た、確かに、望月さんは女の子には積極的ですけど………わたしが言いたいのはそういうことじゃ」

「解ってるよ。……多分、好きなんだと思う」

 

 

 いや、多分じゃない。俺は本気であいつが、望月が好きだ。

 女好きで、トラブルに巻き込んで、風紀委員に目を付けられて、毎回人を振り回したりと、なにかと迷惑かけられたりしたが、あいつと一緒にいると、今までにない暖かさがある。なんだかんだ言って英語を教えてくれたりするし、いつだったか風邪で寝込んでる時にわざわざ看病しに来てくれたこともあったっけ。去年の櫻花祭では、風紀委員長から逃げるためにお姫様抱っこしたんだよな。あの時はほぼ無意識にやっちまったけど、あいつには恥ずかしい思いさせたな……。

 今までのことを思い出してたら、村上が暖かい目で見てたから誤魔化すように慌てて咳払いをする。……くそっ、顔が熱い。

 

 

「ふふ、顔赤いですよ?」

「う、五月蝿い………!」

 

 

 解ってるから言わないでくれ!

 

 

「……なぁ、村上。少し思ったんだけど、なんでお前がここまでするんだ?」

「望月さんとは友達ですし、それに……」

「それに?」

「…………お2人の今の距離感は、正直見ていられませんから。他の方も、きっと思ってますよ。空気が悪いとか、火野さんは早く謝った方がいいとか」

 

 

 正直、ここまでする理由なんてないと思って聞いてみたら、村上らしい答えが返ってきた。その直後には村上らしくない答えになったけど。お前そんな風に思ってたのか。そんな困り顔で毒付かないでほしい。

 

 

「村上も、言う時は言うんだな……」

「あ、すみません。ですが、こういうことははっきり言わないといけないと思って」

「……ほんとズバッと言うな、いいけど」

「ふふ。わたしは図書室に向かいますが、火野さんはこの後どうしますか?」

「放課後、あいつに告白する」

「ヘタれないでくださいね?火野さん、そういう時ヘタれそうですし」

「誰がヘタレだ、誰が!」

「冗談ですよ。でも、ちゃんと言ってあげてくださいね。そうすれば、望月さんの悩みも、きっと解決されますから」

 

 

 そうはっきりと伝えて、俺は教室に戻る。

 教室内では大半が昼飯を食べたり友人と駄弁ってたり委員会などでいなかったりだが、望月はいまだ不貞寝中なのか、顔を伏せたままだった。こいつ、昼食べ終ったのか?

 

 

「望月、起きてるか?」

「……んぅ…だれぇ………?」

「俺だ、寝ぼけてんのか」

「ん………火野く…………火野くん!?」

「おわ、っと……危ないなおい」

 

 

 寝起きからの頭突きとは、穏やかじゃない。体を引いて頭突きを避けた後は、慌てて顔を伏せようとする望月の肩をつかむ。伏せるならせめて俺の話を聞いてからにしてもらおうか。

 

 

「望月、お前今日って掃除当番だったよな?」

「え、えぇ……ところで火野くん……近い…」

「ああ、悪い。でだ、放課後話があるから、掃除済んだら屋上に来てくれ」

「あ、うん……わ、私も……火野くんに話したいこと、あるし…」

「ん、解った」

 

 

 そういえば、望月は結局何に悩んでるんだろうか…?村上は俺が告白すれば解決できるとか言ってたけど。まぁ、放課後まで待つか。

 

 

 

 

 

 そして、午後の授業も終って放課後。

 授業中は午前同様、いや、もしかしたら午前よりもチラチラと見てきてはすぐに目を逸らし、を繰り返してた望月にもう一度声をかけてから、先に屋上に向かう。

 

 

 

 屋上に出ると、まず人の気配がしないか、人影はないか確認する。……よし、今日は幸い、東雲を含め誰もいないみたいだ。俺は一息ついて、ベンチに座っていちごミルクを飲みながら望月が来るのを待つ。これから、あいつに告白するんだよな……。……………うっわ、口に出して言うとすっげぇ恥ずかしい!やばい、こんなんでちゃんと告白出来るのか!?………いや、落ち着け。とりあえず、卓に着いてる時をイメージしよう。………………………なんで役満に振り込んだ!!……って違う違う。イメージ内で対局してどうする。対局前の方でいいんだよ。………はぁ、何やってんだ俺は。こんなんで大丈夫か………いや、大丈夫だと思わないと、変に滑る。しっかりしろ、腹括れ。

 

 

「……よし、大丈夫だ」

「何が?」

「うぃらうわこすか!?!!」

「ひゃっ、びっくりしたぁ」

 

 

 こ、こっちのセリフだ!心臓が止まるかと思ったじゃんか……!

 思わず飛び上がってしまったけど、息を整えて向かい合う。

 

 

「………ふぅ。悪いな、呼び出して」

「ううん、平気。それより、私もごめんねぇ。ちょっと避けてて」

「あれな。軽く傷付いたんだぞ?」

「ごめんってぇ」

 

 

 顔の前で手を合わせて何度も謝る姿に苦笑して、隣り合わせでベンチに座り、話をする前にといちごミルクを渡してやる。望月がそれを飲んでる間、俺は望月から貰ったアメを舐めておく。…ん、プリン味か。美味い。

 飲み終ってから話し出そうと思ってたら、一息入れた望月が、立ち上がって先に口を開いた。

 

 

「えっと、私から話していい?」

「ん、いいぞ」

「じゃあ……。実は私、最近ね………女の子に全然ときめかないの!!」

「……………………」

 

 

 あまりの衝撃に、口の隙間からアメを落としてしまう。スランプなのは解ってたけど、そんなことがあったのか…。

 

 

「そ、そんな驚かなくていいじゃない」

「あ、あぁ……悪い」

「もう……。それで、そうなったのは、5月の半ばくらいなの。その頃から、いつもみたいに女の子を撮ろうとしたら、女の子に対して昂ってたときめきが、胸の中からするするーって、どこかへ抜けていっちゃうの………。そのまま撮っても、写ってるのは少し恥じらってるだけの女の子。その写真の中に、私が求めてるイマジネーションはないの……」

 

 

 そう言って見せてくれた写真には、確かに普段の望月らしい女子への貪欲さというか、並々ならない意欲が見えない。ここまでだと、一体何が原因なんだろうか。

 

 

「原因?あー……原因は、心当たりがあると言えばあるんだけど……」

「あるけど?」

「………はぁ。本当に鈍いんだから……」

「え?」

「……………火野、くんが………だから」

「え、悪い。よく聞こえなかったんだけど」

「もーっ!だから、火野くんが原因なんだからねっ!!私の中で、キミの存在が大きくなっちゃって、女の子へのときめきが全部キミに変わっちゃうの!今までこんなことなかったのに………どう責任取ってくれるの!?」

「え、あ、俺の所為だったのか…………」

 

 

 ズイッ、と距離がなくなるくらいに詰め寄ってくる。近い近い……。それに、責任って…………。そういえば、俺の話をしたら望月の悩みも解決されるって村上が言ってたな。どういう意味か解らなかったけど、そういうことだったのか。

 

 

「だ、だって、男の子にこんな感情持つのなんて初めてだし………。それにね?火野くんのこと考えると胸の奥があったかくなるの………」

「望月…」

「……私の話は、こんな感じ。火野くんの話って?」

「俺の話は………」

 

 

 正直、こいつの話を聞いてる間は、告白しない方がいいんじゃないかって思いもしたけど、こいつにだけ話させて、俺はだんまりなんて、フェアじゃない。それに、責任も取らなきゃいけないしな。

 俺は立ち上がって、望月の前に立つ。

 

 

「単刀直入に言う。望月、いや、望月エレナ」

「は、はいっ」

「俺は、お前が好きだ。俺と、付き合ってくれ」

 

 

 まっすぐに目を見て、はっきりと告げる。

 

 

「え………」

「本当なら、もう少し早く言うべきだったんだけどな。どうも俺は、結構ヘタレみたいで」

「あ……う、ほ、ほんとよっ。もっと早くにしてくれてたら、スランプに陥ることもなかったのに……。しかも、私の話の後に言うなんて、ずるい、わよ………」

「あの時に言ったら、お前ミルク噴き出してただろ、恥ずかしさで」

「そ、そんなことしないわよ!」

 

 

 思わず普段のやり取りみたいな空気にしてしまったが、こうでもしないと気恥ずかしさで発火しそうだ。顔が特に熱いけど、夕日が背にあるから真っ赤になってるかは、望月からは確認し辛い筈だ。とはいっても、当の望月は顔を手で覆ってるからこっちは見てなかった。

 

 

「う、うぅ………」

「……………」

 

 

 今の内に熱を冷ましたいところなんだけど、この間がさらに緊張させてくる。握り拳から汗が出てきた。やっぱり、しない方が良かったか!?っていやいや。だからヘタれるな、俺!

 

 

「ね、ねぇ……火野くん」

「お、おうっ、なんだ!?」

 

 

 急に話しかけられて、思わず返事が裏返ってしまった。

 望月は両手を後ろに回して、もじもじしながらどこか迷った風に俺を見る。そしてすぐに吹っ切れたのか、今度ははっきりと俺に向き直る。な、なんだ?

 

 

「火野くんの告白、嬉しかった。だから、私の返事は―――これ」

 

 

 そう言って望月は俺に近付くと、寄り掛かる風に背伸びして顔を近付け、

 

 

「―――ん」

 

 

 数秒後、唇に柔らかい感触が押し付けられ、目の前には少しだけ開かれた望月の綺麗な碧い眼が映ってた。理解が遅れて何事かと思ってる間にそれらが離れ、目の前では自身の唇を指でなぞってる望月が微笑んでた。

 

 

「今の、もしかして……」

「………よくファーストキスはレモン味って言うけど、私たちのは、キミがくれたいちご味だったね。………ねぇ、もうちょっとだけ、味わっても…いいかな?」

「あ、あぁ……」

 

 

 さっきのがキスだと理解して望月と目が合うと、彼女は目を閉じて唇を軽く突き出す。俺は彼女の頬に手を触れ、ゆっくりと顔を近付けて唇を重ねる。

 そのまま優しく抱き締めると、向こうも俺の背中に手を回し、さらに舌を入れてきた。いきなり侵入してきた違和感に震えたけど、俺は離すことなく受け入れ、さっきのように解らないまま終らないよう、エレナとのキスを堪能する。

 

 

「ん……っ、ふ………」

「…ちゅ………はぁ…………」

 

 

 数秒か、数分か。時間を忘れてし続けてたけど、名残惜しいけどゆっくり離れる。その時、俺達の間には夕日に照らされた1本の橋が架かり、音を立てて切れる。

 

 

「……うふふ。いっぱい、しちゃったね…………♪」

「あぁ…そうだな……」

 

 

 俺達は笑い合い、しばらくの間そのまま抱き合ってた。

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、スランプからは脱出出来たと言うエレナと屋上でツーショットを撮り、いつものように電車に揺られて、いつも通り分かれ道の目印にしてるコンビニの近くにまで歩く。今までと違うのは、その際の距離が縮まったことと、お互いが名前呼びになったことだろう。恋人同士になったから、名前で呼び合おうってことらしい。俺、二度目のキスの時には名前で呼んでたっけ……。そういえば、まだエレナの口から好きだって聞いてないな。もう少しで別れることになるから、別れ際に聞かせてもらおうかな。

 

 

「なぁ、エレナ。まだお前の口からきかせてもらってない言葉があるんだけど」

「ふぇっ!?そ、それは……か、代わりに行動で示したじゃない………」

「そうだけど、それとこれとはまた違うだろ?」

「うぅ………霞黒くんの意地悪……」

 

 

 恨めしそうに言いながらも、手を握って離さないエレナ。やべ、かわいい。

 

 

「むーっ……………んっ」

「……っ」

 

 

 突然のキスに不意を突かれて、油断したところで離れて交差点を渡ってしまう。ちょっとからかいすぎたと反省して信号が変わるのを待ってる。と、エレナは昇りかけの月を背にしてこっちを向くと、

 

 

「霞黒くーん!」

「なんだー?」

「うふふ、大好きよー!」

 

 

 今日一番の笑顔で、そう告げてきた。

 

 

 

 

 

 余談だが、その日の夜、家に来て落ち込んでた鈴ちゃんを春ちゃんと一緒に宥めるのは大変だった。




 あてーんしょーん、はろはろ~。人生初のコミケと、聖櫻学園真夏の音楽祭2015に行ってたクロウズです。コミケは戦場、それを体感しました。熱気すごいです。
 さてさて~、ようやっとくっついてくれましたこの2人。ここまで来るのに長かったのは、遅筆な所為だね!ごめんなさい!書いてる途中は壁を殴りすぎて手が痛いです。誰か壁殴り代行サービスの番号教えてください。
 今回もっとも重要なシーンは、やっぱりディープキスのシーンですかね?最初は入れようか迷ったのですが、メモリーのを聞いた人は知ってると思いますが、あれ、舌入っちゃってますからねぇ。しかもあっち中庭ですよ。放課後とはいえ中庭なんて人目に付きやすそうな場所で何してんでしょうね。まぁこっちのも最後、まだ人の多いコンビニ周辺で愛を叫びましたけど。


 さて、はれて恋人同士になった霞黒とエレナ。ラブラブな学園生活を送れるかと思ったがしかし、屋上での行為を見ていた人影や冷やかす野次馬達、果てには妹や母親、生温かい目で見るクラスメイトにOBOG達まで!?弄る為のネタとなりやすい出来立てカップルの2人は、平和なイチャラブ時間を過ごせるかっ!?次回『愛の逃避行』。あの子の笑顔に、シャッターチャンス!!(嘘です)




それではこの辺で。はらたま~きよたま~。





人物紹介に〈村上(むらかみ)文緒(ふみお)〉を追加します(今更?)

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