カメラと棒付きアメと   作:クロウズ

17 / 50
3話目

 俺達聖櫻学園の2年生は、今日から修学旅行だ。それで、俺達が今何処にいるかと言うと。

 

 

「奈 良 だぁーーっ!!」

「火野くん静かにねー」

 

 

 思わず叫んだことで、佐藤先生に軽く注意されたけど気にしない。他クラスは何事かといった顔で、クラスメイトが苦笑してるのも気にしない。奈良は行きたかった県の1つだからすごく嬉しいものだ。

 

 

「ほんとうれしそうね火野くんは」

「で、なんでそんなにテンション高いのさ」

 

 

 点呼が済んで、望月と朝田に呆れられる。ちなみにこの2人のほか、女子は村上、正岡、ルメールが、男子は浜風と転校生の桐崎が同じグループだ。

この転校生、桐崎(きりさき)剣丞(けんすけ)は運の悪いことに中等部時代の俺を知ってる奴だ。あの頃を知ってる奴が転校してくるのは予想外だった。しかも奈良出身らしく、1人だけ修学旅行と言う名の里帰りになってる。

 

 

「だって、奈良だぞ?鹿に触れるし、王者がいるし」

「王者、ですか?」

「ワタシ知ってます。凶悪犯が変身する、とても強いライダーですネ」

 

 

 違うルメール、それは王蛇だ。王者は麻雀の県大会で個人優勝した女子生徒の事だ。あの圧倒的な強さと打ち筋はまさに王者だった。観たのはリアルタイムじゃなくて配信動画だけど。

 

 

「あいつも忙しいだろうから、会えないと思うぞ?」

「だよなー……」

 

 

 解ってはいたけど、桐崎の言葉で落胆する。転校前はあの王者と同じ学校でクラスメイトだったから知ってるようだ。でもこいつは剣道部らしい。あそこって、男子も結構強くなかったっけか?いいけど。

 

 

「はいはい、火野くんが意外とミーハーなことが解ったことだし、そろそろ荷物置きに行きましょ」

「おいちょっと待て望月誰がミーハーだ」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「散策って明日だっけ?」

「明日明後日だな。といっても、明後日は京都だが」

「あー、なるほど」

 

 

 京都、は何があったかなぁ……。家と2人へのお土産も考えとかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと見慣れない天井と古臭い匂い。体を起こして辺りを確認してから、朝田と簀巻きにされた浜風を見てようやくどこかを思い出した。

 

 

「…………あぁ、そういえば修学旅行中だったか」

 

 

 道理でシロの鳴き声もないわけだ。それにしても、外観とかロビーその他はホテルなのに、どうしてこの部屋は畳み掛けの和テイストなんだろうか。他の部屋もこうなのか、それともこの部屋だけこうなのか。

 と、そういえば今何時だ?時計、時計っと。なんだ、まだ7時か………ん?

 

 

「あれ、桐崎のやつどこ行ったんだ?」

「ん……ふわぁーあ……おはよ火野くん…」

「あぁ、起きたか朝田。桐崎はって、聞いても無駄か」

「桐崎くん……?どっか行ってんの………?」

「今いねぇからな。おら、起きろ浜風」

「ふげっ」

 

 

 いない奴はひとまず置いといて、簀巻き太郎を転がす。ところで、こいつなんで簀巻きにされてたんだ?

 

 

「火野くん真っ先に寝たから知らないのか。それ、寝相悪くてウザったいからって桐崎くんが」

「あー……あいつなら納得だ」

「くっ……ぁー、よく寝たぜ」

 

 

 簀巻きを解いてたら、浜風も起きる。こいつ、あの状態で安眠出来たのかよ……。しかも簀巻きだったのまったく気付いてなさそうだし。

 まぁこいつはいいとして、そろそろ朝食かな。

 

 

「ふぅ、さっぱりした」

 

 

 行方不明(仮)になってた桐崎が風呂場から出てきた。なんだお前、朝風呂派か?

 

 

「素振りで汗かいたからシャワー浴びてただけだ」

「お前、竹刀持ってきてたのか?」

「雀卓持ってこようとした火野くんが言う?」

「オレもバットなら持ってきてるぞ」

「他には?」

「………あっ」

 

 

 いや、そもそもボールとか持ってきてたとしても俺らはしないぞ?

 そう言うとショックを受けてorzみたいになってる浜風は無視して、朝食を食べに下に降りる。

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ行くか」

 

 

 食べ終って少し休憩した後、自由行動なので望月達女子と一緒に奈良散策に。今更思うけど、何で班は男女混ぜたんだろう。

 

 

「奈良の街、ワクワクしますネー」

「とりあえず、最初は大仏とか見てく?」

「賛成デース!」

 

 

 ホテルにあったガイドマップを見て提案した朝田にルメールが乗っかる。大仏なら鎌倉の方にもあるだろうに、って言っても、あっちとこっちで別物だし、興味ある奴は両方に足運びたいんだろうな。俺にはよく解らんけど。

 そんなわけで、途中鹿とエンカウントして時間取られたけど、何とか大仏殿に着いた。

 

 

「オー、立派な大きさですネー」

 

 

 真っ先に大仏像に向かい、1人はしゃいでるルメール。そういえばこいつ、寺社仏閣とか好きだったな。見上げ続けてたら首が痛くなるなこれ……。

 

 

「火野サン火野サン、写真撮ってくださイ!」

「大仏って、原則撮影禁止じゃなかったか?」

「ガーン……出鼻をくじかれマシタ………」

 

 

 まあ、今回は運が悪かったと諦めろ。手続きしたら可能だとしても手続き面倒だし(本音)。

 それでもルメールは諦めきれてないのか、大仏の付近をうろうろしてる。

 

 

 

 あのまま迷子になられたら困るから、地元民の桐崎に付き添ってもらい、そのこともあって、昼頃までそれぞれ別行動をとることにした。ルメールと桐崎、女子3人組、男子2人組、俺1人に分かれる。別に、1人になったのは雀荘に入り浸りたいとか王者を見つけてサイン貰ったり対局してもらいたいとか、そういうんじゃないから。ただ人目をはばからず鹿と戯れたかっただけだから。現在進行形で鹿に囲まれてるけど。こら、服を噛むな。鹿せんべいあげるから。ちょ、待てちゃんとあげるから我先にと来るなお前ら毛皮硬いんだから………うにゃあぁああああああ!?

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇー………ぜぇー…………危なかった……。まさか地元民が止めるまで流されることになるなんて………」

 

 

 鹿せんべいどれだけ人気だよ……あーもうびっくりした…。周りも唖然としてるし、こんなこと今までになかったって言うし。さて、トラブルはあったものの鹿と戯れたし、どこかで先に昼でも食べておこうか「止めてください!」――ん?今の、望月か?

 

 

 

 

 

「いやいやそう言わずにさぁ、ちょっと付き合ってくれりゃいいんだよ」

「おとなしくしてたら悪いようにはせぇへんでー」

「だから、友達を待たせてるから……!」

 

 

 声のする路地裏の方へ行ってみると、高身長のチンピラ3人組に望月が囲まれていた。あれだけ望月の声が響いてるにも関わらず誰も助けようとしないのは、あいつらが手におえない連中だからかな。でも、そんなことは俺には関係ない。昼食前の運動も兼ねて、うちの大事なクラスメイト兼副部長に手出したらどうなるか教えておこう。

 

 

「おい、そこのチンピラ3匹」

 

 

 その為にはこっちに注意を向けさせなきゃだから、この手の奴に有効な言葉をふっかける。

 するとチンピラ共は面白いくらいに釣れて、望月から離れて俺の方へ顔を向ける。

 

 

「あぁん?んだてめぇ?」

「誰がチンピラだゴルァ!」

「口の利き方には気ぃ付けなされよー」

 

 

 口の悪いというか、頭の悪そうな反応だよ。チンピラ共が俺に気を取られてるすきに、望月に軽く手を振って物陰に隠れるよう指示する。この程度のレベルだと、ほんと少しキレさせるだけで周り見えなくなるのな。

 

 

「んだよてめぇコラ。女みてぇな顔しやがぶげっ!?」

「誰が、女みたいだって……?」

 

 

 1番手近にいた、女みたいだと言いやがった奴の顔面に飛び膝蹴りからの踵落としを喰らわせる。残りの2人はそいつが地面に叩きつけられてからようやく反応して鉄パイプを持つ。鈍い奴らだな。

 

 

「兄貴!てめぇ、覚悟出来てんのか!?」

「やっちまうでー」

 

 

 そう言って特攻してくる奴が振り回す鉄パイプを何度か避け、タイミングを合わせて腕を掴み、そのまま腹をコークスクリューで力強くぶん殴り、手を離して壁に蹴飛ばす。

 残りの1人はいつの間にか後ろに回っていたらしく、鉄パイプを振り下ろしてくる音が聞こえたから回し蹴りで払い、その勢いで一回転して、今度はそいつの首に回し蹴りを叩き込む。

 

 

「次俺を女みたいだと言ったら、病院送りだからな雑魚共がっ」

 

 

 

 久々に暴れた所為でボサボサになった髪を軽く戻して、くたばったチンピラ共を壁に退かし望月の様子を見る。

 

 

「望月ー、大丈夫だったか?」

「え、えぇ。火野くんが来てくれたから」

「そっか、良かった。それじゃ、あいつらが起きる前にさっさと出ようか」

 

 

 路地裏から出た俺達は、村上達が待ってるらしい喫茶店に向かう。望月は忘れ物を取りに2人と別れて、そこに向かう途中で絡まれたらしい。ちなみに、その喫茶店で昼を食べることにしようと、村上はそのことをメールで伝えたんだが俺には届かなかった。というのも、俺は村上と連絡先を交換してなかったからだった。

 それと、望月はさっきのことにまだ少し怯えてる様子だから手を繋いで引っ張ってやる。望月は顔を赤くして困惑してるけど、こんな場面に出くわしたら普通はビビるから恥ずかしがる必要ないぞ?

 

 

「そういうのじゃないけど…………ね、ねぇ。火野くんって、もしかして不良だったりする?」

「授業サボってばっかの俺が、真面目に見えるか?」

「そっちじゃなくて……」

 

 

 じゃあどっちだよ。いや、言いたいことは解るけど。ヤンキーとかの意味でなら答えは一応イエスだぞ。中等部ん時はよく喧嘩してたし。

 

 

「そうだったんだ……」

「さっきのお前みたいに、絡まれてる奴のとこ割り込んだらその不良グループにつけ回されたりとかでな。で、鈴ちゃんと春ちゃんにまで手出そうとしたからぶっ潰し回って、その所為で黒狗って呼ばれるわ他の不良共にビビられるわ中2から卒業まで学年間ではぼっちだわと……」

 

 

 しかも当時は黒服ばっかだったから、不良共には黒狗なんて呼ばれるし。あの頃はほんと黒歴史だよ……。あ、この話は誰にも言うなよ?2人以外では、桐崎とどうしてか神楽坂しか知らねぇから。

 

 

「砂夜ちゃんはともかく桐崎くんもって……火野くん、中学の修学旅行でも喧嘩したの?」

「修学旅行ではしてないし、あれは巻き込まれたんだ……」

 

 

 あいつの家族が従姉に会いに来てたらしい時にあいつが絡まれてて、その現場に居合わせた俺が止めようとしたら木刀抜いてねじ伏せ、俺を連中の仲間と勘違いしてやられ、いや、殺られそうになったんだ。

 

 

「貧乏くじ引いたわね……」

「あぁ……。ちなみに、桐崎の従姉は五代らしい。剣道部の」

「律ちゃん?へぇー、そうなんだぁ」

 

 

 と、黒歴史なのに他人に話してることに違和感を覚えながら喫茶店に向かった。昼からどうするかはそこで決めるんだろうな。とりあえず、その喫茶店に雀卓あるといいなぁ。




 あてーんしょーん、はろはろ~。どうも、クロウズです。
 今回と次回は修学旅行編ですが、奈良とか小学校以来行ってねーんですよね。鹿が可愛かったことしか覚えてません。しかも奈良はあまり関係なかったり。
 霞黒を不良っていうのは、サボり癖があるだけじゃつまらないと思って考えてたやつです。たまに口悪いのはそれが理由だったりします。



 それではこの辺で。はらたま~きよたま~。





 人物紹介に〈桐崎剣丞〉、〈浜風〉を追加します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。