「さ~あ、撮って撮って撮りまくるわよ~!!」
「張り切ってるとこ悪いけど、写真部含め他人様に迷惑を掛けないよう行き過ぎた行動はしないこと。風紀委員に目を付けられないこと。この2つは守ってくれよ?」
「大丈夫よ~。迷惑なんて掛けないわぁ」
本当に大丈夫か……?この上なく心配なんだが。
「もう、火野くん。大丈夫って言ってるんだから、少しは信用してくれないかしら?クラスメイトで、部活仲間なんだから」
「クラスメイトで部活仲間だからこそ信用ないんだよ。お前のフォローとかしてたの誰だと思ってる」
「あー、それはごめんねぇ」
かわいらしく舌をちろっと出して謝る望月。ちょっとムカついた。どうでもいいけど、犬耳を付けてる所為で舌を出したのが余計に犬っぽい。どうでもいいけど。
と、これ以上教室の前で漫才擬きを続けても仕方ないからそろそろ行くことにする。ところで、カメラを持った執事と魔女の2人組ってどうなんだろうか?
「おーい、クロチャー」
1、2年の階を大体回り終えて、3年の階を歩いてたら日比野先輩と遭遇した。
「あ、お疲れ様です先輩」
「お疲れさま〜」
「おわ、誰かと思ったらモッチーか。まあクロチャーと一緒にいる女子ってモッチーくらいか」
笑いながら言わないでください。それとどういう意味ですか、それ。風紀委員の命令が無かったらこいつと一緒になんていません。
「火野くーん、さすがにそれは傷付いちゃうわよぉ?」
「だったら少しは自重してほしいもんだよ……」
「……あーはは、苦労してんのなクロチャー」
「まぁ、はい……。ところで先輩、写真部の方は?」
写真部は、今まで撮ったものの中から部員全員で選んだ写真を部室で展示している。確か、何人見に来たのかカウントしていってたと思うけど、果たして何人来てくれたのか。
「あー、今はカスミンとスズがやってんよ?あたしはああいった作業苦手だから早めに逃げた」
「それはそれでどうかと……」
「まあ、後で差し入れ持ってくからへーきへーき」
そういう問題じゃないと思うんだけどな、それは。
先輩との雑談もそこそこに、一度クラスの様子を見る為に戻ることに。というか、俺達は手伝わなくてよかったんだろうか。
「おーっす」
「はいやり直しー」
今は休憩に入っているようで、準備中の札がかかってる教室の戸を開けたら、いきなり押し返されて閉められた。なんだ一体。望月を見ても首を振るだけ。とりあえず、理由を説明してもらうか。
「おーい、やり直しって何がだよ」
「はいアウトー」
またしても追い出された。まったく解らない。望月に先に入ってもらうか。
で、その結果、
「たっだいま~」
「おかー」
「お帰りなさい、望月さん」
「ただいま文緒ちゃ~ん!私がいなくて寂しくなかった~?」
「も、望月さん…そんな引っ付かれたら……!」
あっさり入れてもらってる。え、俺いじめられてるのか?でも、前から駄目なら後ろからだ。こっちの窓は装飾の所為で中は確認できない。でもそれは外からこっちを確認できないのと同じ。よって、後ろからこっそり入ろうと移動して、ゆっくり戸を開ける。
「………」
「………………」
すると、中腰なヘラクレスモチーフの某特撮ヒーローがいた。ついでに言うと、イナゴの怪人もいた。あんなコスプレ、聞いてないぞ。誰だお前ら。というかこれ、まさか。
「な、ナズェミテルンディス!?」
「……………」
まさかと思うけど、これの為だけに俺は二回も追い出されたのか?とりあえず、関わるつもりはないから無視して入る。
「オンドゥルルラギッタンディスカー! アウア」
「あ、やっぱりそっちから入ってきたんだ」
「そりゃな。で、なんで俺は二回も追い出されたんだ?」
「はぁ……火野君、君は今執事なわけ。そんな喋り方でいいと思う?」
「……あー」
「アンダドゥーレハ、ナカマジャナカッタンデ…ウェ!」
「そこ、うっさい。というわけで、今から執事になりきること」
そがんこつ言われても………。
「ほらほら、試しに望月さんをお嬢様って呼んでみ」
「……………」
「いや、そんな嫌そうな顔しないで」
してない。けど、あいつをお嬢様呼びは、なぁ……。違和感しかない。
「いいわいいわ〜!文緒ちゃんのメイド姿、そそるわぁ〜!!」
「も、望月さん……恥ずかしいですから………」
「恥ずかしがらなくていいのよ!こんなにも可愛いんだからー!」
「……あれを、お嬢様って呼べと?」
「言いたいことはなんとなく解るけどね。でもほら、お嬢様キャラって基本めんどくさい性格してるじゃん?」
「架空と現実は違うだろ……」
「いいから行け。でなきゃあそこの虫虫軍団の中に混ぜるよ?」
「ウェイ!」
「ボドボドダ!」
「ムッコロス!」
虫虫軍団って、あそこの…………なんか増えてる!?あとイナゴ何処行った!?
「ほら、早く行った」
「………了解」
おそらく残り1人のを着せられることに恐れた俺は、今なお興奮状態になってる望月を止めに入る。こうなってると周りに気を配れなくなるらしいから、後ろからカメラを取り上げる。
あっさり取られて望月はちょっとの間固まってたけど、すぐに後ろの俺に気付く。
「あら?……あ、なんてことするのー!」
「村上も困ってますから、そろそろお止め下さいお嬢様」
「いくら火野くんでも、私の大切な時間を………あの、今なんて?」
「ですから、村上も困ってますからと」
「うん、そう言うのは解ってた。えっと、そっちじゃなくてね?」
「望月さんをお嬢様って呼んだところじゃないですか?」
「執事服を着ているなら、執事になりきれと言われまして」
他の連中にも言えよと言いたい。でも、他はともかく村上は無理か。恥ずかしがって着ること自体拒んでたもんな。
「そういうわけでして、今日1日は、エレナお嬢様に仕える身となります」
「お、お嬢様って……………それはさすがに恥ずかしいけど、今日1日は火野くんを好きに出来るのよね?」
「違うと思いますけど……?」
「お嬢様のご命令でしたら、可能な限りお聞きします」
「火野さんがいいなら、構いませんが……」
どうせ無茶振りはしないだろうし。
「それじゃあ火野くん、カメラ返して」
「お嬢様はカメラを持っていると興奮して疲れが溜まりやすいでしょうから、今は休憩しておいた方がよろしいかと」
「んー……………火野くんがそう言うなら……」
お?珍しく引いたな。まあ、その方がこっちとしても有難いけど。
「そうなると、ちょっと退屈になるわねぇ」
「ところで、望月さんと火野さんはお昼は食べましたか?」
「あ、そういえばまだだったわ」
「では、僭越ながら私が何か作ってまいります」
一礼をして、厨房を借りる。さて、何を作ろうか。
…………ん、卵あるな。これならオムライスでも作ろうかな。
「お待たせしました」
少し時間かかったけど、その分今までの中で一番いいと思える出来になったと思う。
「わぁ、美味しそう……いただきまーす」
「火野さんって、お料理上手なんですね」
「作る機会が多かったので」
「んー、美味しいっ。火野くん、これ美味しいわぁ」
「そう言っていただけると、こちらとしても作った甲斐があります」
望月が食べ終るのを待って、少しの間くつろぐ。この後は、外とかでも見て回ってみるか。
「さあ、午後も撮りまくるわよ~!」
「あまり騒がないでくださいお嬢様。ただでさえ目立つ格好ですので」
「ぐふふふ。午前はそんなに見れなかったけど、かわい子ちゃんがいっぱいいるわぁ~」
聞いちゃいねぇよ人の話。
「それじゃあ火野くん、ちょっと行ってくるわね」
「え?あ、お嬢様?」
望月の思考に悩んでたら、軽く言い残して人混みの中に消えていった。あのバカ、勝手に行動するなって言っておいたのに。生肉を目の前にしたハイエナかあいつは!
「って、そんなことより、早くあいつを見つけないと」
誰かに迷惑かけたりしてなきゃいいけど………。幸い、あいつの格好は目立つしあんな性格だから探し出すのはそう難しくないだろう。
「ふぅ、いっぱい撮れたわぁ」
「まったく……」
結果として、望月は早めに見つかった。一般参加の子を撮りまくってたけど、その子はコスプレをしてたから満更でもなさそうだった。というかトムトムミッチーこと
「単独行動はなるべく慎んでください」
「も〜ぅ、火野くんってば固いわねぇ」
「あまり過ぎた行動をなさいますと、風紀委員の方々に「もう手遅れだよ」………ほら」
ずかずかと俺達に近付いてくる、3年の先輩。その左腕には風紀委員だと示す腕章。名前は忘れたけど、この学園の風紀を守る風紀委員長だ。
「写真部の活動だからある程度は見逃したが、今回軽い苦情が来てな」
「…………だから過ぎた行動は慎んでくださいと」
「はーい、反省してまーす……」
「口だけでは何とでも言えるので、2人とも、手を出してもらう」
「「?」」
言われた通り、俺は右手、望月は左手を出すと、カチャンと音がする。
何かと思って見てみると、お互いの手首に黒い手錠が掛けられてる。
「あの、委員長。これは何ですか?」
「手錠だね」
「それは把握してます」
「大丈夫、君達の部長には許可を得ているから」
写真部の活動に支障が出る、そう言いたかったけど先手を取られてた。というか、何で俺まで。
「君には彼女の監視をね。それと、風紀委員を1人付けるため、不穏な動きをすれば即刻捕らえる」
「だからって、手錠はやり過ぎよぉ〜」
「何なら足枷も加えようか?」
「………手錠だけでお願いします」
「ふん。ああ、鍵は櫻花祭が終れば渡すから」
委員長がその鍵を胸ポケットから取り出す。
それを見た俺は、悪いとは思いつつも手を弾いて鍵を奪い取る。今この場では外すのは難しいから、望月を抱え――所謂お姫様抱っこで――逃走する。
「ひゃっ!ちょっ、ちょっと火野くん!?」
「申し訳ありませんお姫様、ですが今は私と来てください!」
「う、うん……」
人混みに紛れ込むのは得策じゃなさそうだ、適当にどこかのクラスに潜り込むしかない。
「ここだぁーっ!!」
風紀委員を全て振り切る為に走り回って、体育館に逃げ込むことに成功した。……ふぅ、疲れた。何はともあれ、後は奪い取った鍵でこれを外すだ『おーっと、飛び入り参加者発見だーっ』……ん?
薄暗いと思ってたら、いきなり照明を当てられる。
『しかもこの飛び入り参加者、お姫様抱っこでの参戦だぞこれはすごい。すごいというか恥ずかしい!』
「うわ、しかも魔女と執事だし」
「あれって写真部の1年じゃね?」
「カグさんとエレナちゃんってそういう関係だったかしら?」
「お姫様抱っことは、見せ付けてくれるわね……」
「俺らもやるか?」
「やだキモい」
「うーん、すばらですねっ」
「えーっと、何かしらこれ……?」
「私にも解りません」
ステージの上には5組くらいの男女がいて、下には大勢の生徒や一般客がいる。何が何だかさっぱり解らない俺と望月は、何の説明もされないままステージに上がらせられる。
『さあ、学年とクラス、名前をお願いします』
「え、えっと、1年A組の望月エレナです」
「同じく1年A組の火野霞黒と申します」
『ほほう、クラスメイトですか。では、付き合ってどれくらいですか?』
「「は?」」
声を揃えて聞き返した。付き合ってどれくらい?何を言って………まさか、他の人達は全部カップルか?
『おやおや?まさか知らずに飛び入りですか?これは今年度No.1カップル決定戦ですよ』
「No.1カップル……」
「決定戦?私と火野くんは、そんなんじゃ…」
『今年度までまだ数ヶ月あるのに?細かいことはいいんですよっ。ところでお二人は、何故手錠をしてるので?』
「リザベやろか?」
「リザベですかね?」
「すばらくないですよ、お二人とも」
「風紀委員長って奴の仕業です」
『何だって!それは本当かい!?ま、それはいいとして。それではっ、今年度No.1カップル決定戦始まるよ!!』
「いえ、ですから私達は」
『問答無用だーーっ!!』
無茶苦茶だ!?
俺達のことなんて御構い無しに、司会者はこの謎企画を進行させていく。逃げるに逃げれない状況のため、(付き合ってもないのに)最後まで参加させられることとなってしまった。
「っ、あー……………やっと終った…………」
No.1カップル決定戦を何とかやり過ごし、その後観客としていた月海原先輩や部長の誤解を解いたりしたが、櫻花祭は無事に終った。ここまでしんどくなるとは思わなかったけどな……。
「その後、風紀委員に説教されたけどねぇ〜」
「……まぁ、鍵を奪い取って逃走したからな」
櫻花祭が終った今、服装も執事服から制服に戻した。これは記念に貰えることになったけど、今のところ年に2回くらいしか着ないんだよな。ま、着る機会はあるからいいけど。
「いくら何でも、あれはやり過ぎじゃないかしら?」
「今は反省してる……」
風紀委員長に対してしたこともそうだし、逃げる時に望月をお姫様抱っこしたこともだ。しかもそのことがクラスに知られて、軽くいじられた。数日は覚悟しとかないと。
「確かに、ちょっと恥ずかしかったけど……でも、そんなに嫌じゃなかったわよ?」
「そう言ってくれるとありがたいよ………。じゃ、俺はこっちだから」
「えぇ、また明日ね〜」
「明日は休み………って、部活か」
いつもの交差点で望月と別れる。さて、今日も疲れたし、帰って寝るか。
投稿に1ヶ月かかったのは私の責任だ、だが私は謝らない。どうも、クロウズです。
この回、なんと5000字超えてます。うわぁいいっぱいだぁ(錯乱)。実際エレナをお嬢様呼びしたらどんな反応してくれるんでしょうね?
次回は内容・執筆開始日・投下予定日すべて未定です。………ちょっと小ネタに走ろうかなぁ(逃避)。
そんな感じですかね、じゃまた