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未だざわつく教室で、なんとか落ち着いた箒と照秋は、お互い顔を赤くしながら見つめ合う。
「あの……よろしく……」
「う、うむ……よ、よろしく」
モジモジ小声の二人は初々しい。
それを見てニヤニヤ顔のスコールに、目をキラキラさせるユーリヤ。
そして、嫉妬や羨望の眼差しを向けるクラスメイトと外野。
「あらあら、かわいいです~」
ユーリヤの発言は何か的がずれている。
「うふふ、初々しいわ―」
スコールは新しいおもちゃを見つけ、うれしそうだ。
マドカは、どうせ急場凌ぎで改めて部屋の調整が行われて別の部屋になるのだろうとスコールに聞いたが、それはないとはっきり言われた。
「というか、させないわ私が!」
断固阻止! と高らかに宣言するスコールに、パチパチ拍手を送るユーリヤ。
拳を握るスコールが本当に楽しそうな顔だ。
「……まったく、いい性格してるよ」
「あらありがとう」
「褒めてねーよ」
げんなりしたマドカだった。
ちなみに、何故ユーリヤがこんなノリノリなのか後日聞いてみた。
「え? だって~二人は幼馴染で~、二人とも少なからずお互いを思ってるってスコール先生が言ってたけどー」
「え? まあ、そうだな」
「若い果実のような甘酸っぱい二人が同じ部屋で過ごす……そんな甘い空間を想像したらボルシチも鍋でぺろりとイケるわー!!」
「意味わかんねーし怖えーよ」
ユーリヤはやはりよくわからなかった。
「ということで、照秋君はこれから時間ができたわね。これからどうするの?」
スコールは、IS使うなら、今からアリーナ用意するわよ、と言った。
これに、周囲に集まって照秋を見に来ていた生徒たちはざわつく。
照秋が所属するワールドエンブリオ社が発表したISは記憶に新しい。
さらに、その際照秋はISを操縦できるというデモンストレーションに絶賛世界で受注を受けている量産第三世代機『竜胆』を巧みに動かせて見せた。
同社に所属するマドカは勿論、箒に至っては第四世代機の『紅椿・黎明』を所持しているのだ。
まさか初日から話題の機体と人間の技量が見れるのかと、沸き立った。
だが、照秋は首を横に振った。
「いえ、今日は部活動を見に行って、できれば参加しようかと」
その後、照秋と箒、マドカは剣道場へ向かい剣道部を見学した。
剣道部員たちは、箒と照秋の事は知っていた。
それはISのことではなく、剣道の事だ。
「まさか、入学式初日から来てくれるなんて……!」
剣道部主将が感激したと言わんばかりに歓喜した。
「本物の
「こんなに間近で見れる日が来るなんて……!」
「小さい頃から剣道やっててよかったー!」
部員達も各々喜んでいる。
「若輩者ですが、精いっぱい頑張りますので、よろしくお願いします」
「私も、先輩たちに追いつけるよう頑張ります。よろしくお願いします」
パチパチパチパチ!
自己紹介を済ませ、拍手の雨が降る。
そして挨拶もそこそこに、照秋と箒は練習に参加した。
ちなみにマドカはあくまで二人の護衛なので、入部はせず、見学している。
剣道部に限らず、IS学園の運動部は全体的にレベルが高い。
それは、ISを操縦し国家の代表を目指そうという人間が多く在籍するエリート校であるため、個人のポテンシャルが他の高校より高いのだ。
野球で例えるなら、全部員が全国の高校にいるプロにドラフト一位指名される逸材というような状態である。
とはいえ、IS学園の本分はクラブ活動ではなくIS操縦である。
だから、IS学園のクラブ活動は基本的に『目指せ全国大会!』とは謳わず『自身の精神を鍛える。本分はIS』を基本としているため、あまり大会等に参加しない。
そもそも、他校もIS学園が参加してくるとモチベーションが下がり、白けるらしい。
各運動協会も、IS学園の大会参加にはあまりいい顔をしないのが現状である。
さて、そんな剣道部もやはり個々人のレベルは高い。
運動部の中でも剣道部はかなり硬派で、顧問はさほど部活に参加しないのだが、伝統なのか部長が一切の妥協なく厳しい練習と指導をすることで有名なのだ。
そして、今日は走り込みと筋トレがメインのメニューだった。
個人レベルが高く、さらに強くなろうと練習量も多い。
例年新入部員はこの練習量の多さと厳しさに倒れたり、辞める生徒もいる。
しかし、照秋と箒にはそれは当てはまらなかった。
「……まさか、初日から平然と付いてくるなんて……」
主将が息を切らせ照秋と箒を見る。
箒は膝に手を乗せ息を切らせているが、照秋は汗はかいているがケロッとした表情で屈伸を行っていた。
初日の練習内容は、基本運動の
「……400メートルダッシュ8本……間違って陸上部に入部したのかと思いましたよ……」
息も絶え絶えに箒は何とか呼吸を整えつつ、愚痴る。
箒が周囲を見渡すと、剣道部の先輩たちも汗だくで辛そうにしていたが、立ち止まらず歩いたり軽く体操をしたりしている。
「……照秋は相変わらずこのくらいの練習ならケロッとしてるな」
「ん? これくらい普通だろ?」
ウォームアップなら。
その言葉を聞いて、ざわつく部員たち。
「……織斑君?君の学校の剣道部の練習メニューだったら、この後何をするのかな?」
主将が顔をひきつらせ聞く。
それに気づかず、照秋は体に染みついたメニュー内容を説明した。
「まず立木打ちですね」
立木打ちと聞いて主将の顔がさらに引きつる。
「……何回?」
「朝に三千、夕方に六千、これを毎日行ってました。それから打ち込みですね。休憩なしの30分連続」
そこまで聞いて、主将は顔を青ざめさせた。
その練習メニュー、いや、練習メニューというよりただのシゴキに呆然とする。
そして照秋の学校の特殊性を思い出した。
照秋の通っていた学校は、運動部活全般に力を入れている。
その中で全国大会常連の剣道部は特に厳しいと有名だった。
しかも全寮制ということもあり、かなり閉鎖的な学校でもある。
更に剣道部の顧問が、また特殊な人だった。
「顧問は示現流を修めた新風先生だったわね」
「ええ、そうです」
それで納得した。
剣道界でも示現流にこの人ありと謳われた剣豪『新風三太夫』が照秋の学校で剣道部顧問に就いていたのだ。
示現流の稽古には、地に背丈ほどの丸太を立て、山から切り出したユス、樫、椿などの堅い木の棒を木刀とし、気合を込めて袈裟斬りの形で左から右から精根尽きるまで打ち込む稽古がある。
これが「立木打ち」である。
打ち込みは腕の力に頼らず、胸と肚のうちから出る力を剣に込めることが肝心で、そのうえでひと気合のうちに30回打つのが理想とされる。
その稽古を、中学生に毎日朝夕計九千回行わせていたのだ。
「そりゃ強くなるわけだ。そんな稽古を三年間やり通したんだからね」
「今まで三年間、一日も欠かしていません。それが新風先生の教えですから」
主将は納得といった顔で、しかし呆れたように笑った。
しかし、立木打ちを朝に三千、夕に六千を毎日なんて、新風先生は示現流開祖、東郷重位でも育てようとしていたのだろうかと主将は照秋の出身校を心配した。
箒も、照秋の中学時代の練習メニューの事は知らなかったようで、驚いていた。
二人は卒業後ワールドエンブリオ社にお互い住み込み、同じくトレーニングに励んだ。
トレーニングルームで専用の立木打ちスペースを作っていたし、一緒に練習もした。
たしかに立木打ちはキツイ。
だが、力と技、胆力を鍛えるには絶好の稽古だと思った。
原始的な稽古だが、近代スポーツの科学的トレーニングでは得られないモノを得られる。
この後、練習は終わったが、照秋はやはり物足りなかったようで、主将に許可を貰って道場の外に立木を立て、日課の立木打ちを行ったのだった。
練習も終わり、照秋たち三人は自分たちに宛がわれた寮の部屋に向かい、入る。
その際にマドカから『我慢は体に毒だからな。遠慮するなよ』と、とんでもない言葉を投げかけられた照秋は、顔を赤くして部屋に入った。
部屋に入ると、高級なホテルのような内装だった。
ベッドは二つ、机にパソコンが二台、キッチンに冷蔵庫、洋服箪笥、洗面台とシャワールームと至れり尽くせりだが、何故かトイレが無い。
寮の地図で確認すると、それほど遠くない場所に設置されていたので安心だ。
大浴場の使用は女生徒との調整がつくまで禁止された。
まあ、当然だろう。
床には大きな段ボールが六つあった。
二つと四つに分けられており、マジックで二つの段ボールに『てるくん』四つの段ボールに『箒ちゃん』と書かれていた。
女性はやはり荷物が多いのだろうが、一体何が入っているのだろうか?
とりあえず、箒と簡単に共同生活をするうえでのルールを決めた。
ベッドは箒が窓側、照秋が壁側、シャワーは箒が先、時間は19時~20時で、もしその時間に入れなければ大浴場もしくは部室のシャワーで済ませる。
後の細かいことはこれから決めていこうということで、二人は自分の荷を解くことにした。
照秋の物はクロエが用意してくれると言っていたので、とりあえず段ボールを開封し、着替えやIS関連や剣道の本などを確認した。
「て、照秋よ」
箒が顔を赤くして照秋を見ている。
しばらくモジモジして視線もきょろきょろと挙動が不審だ。
なんだ?と首をかしげると、おもむろに箒が床に正座し、ゆっくりと三つ指をついた。
「……不束者ですが、よろしくお願いします」
なんかお嫁さんみたいだなあ、と思いながらも、まんざらでもなかった照秋は、同じく床に正座し箒の言葉を受け止めた。
「こちらこそ、これからもよろしく、箒」
「う、うん」
ニコリと笑う照秋に、顔を赤くしながらも嬉しそうな箒。
やがて、どちらともなく声を出して笑いあった。
ようやく荷解きが終わろうかとした時、照秋の段ボールの底に、小さな箱が入っていた。
何だこれは?
箒の私物が間違って入っていたのかと思ったが、箒が持つような可愛らしいものではない普通の箱だった。
とりあえず何が入っているのか中身を確認し――すぐに箱を閉じた。
(クロエ……)
照秋は目を閉じ項垂れる。
箱の中身は、エロ本やAVのDVD、BDだった。
たしか、IS学園入学前に、クロエが夜のおかずはまかせろとは言っていた。
言っていたが……
(……あいつ、本当に入れやがった……しかも、全部巨乳ものだった……)
照秋はおっぱい星人だった。
だから、クロエのチョイスに何を思うかと言えば……
(よくやった! ……よし、箒がいないときにこっそり見よう!)
顔には出さず、しかし心の中で歓喜する照秋だった。
「ああ、そうだ。照秋?」
いきなり背後から声をかけられビクッと肩を揺らす照秋。
平静を装って振り向くと、ニコニコ笑顔の箒が手を差し出していた。
「……なに?」
なんで手を差し出しているのかわからない照秋は箒の手と顔を交互に見る。
すると、箒は言った。
「出せ」
言われて、ドッと汗が噴き出した。
「……なにを?」
とぼける照秋だったが、笑顔の箒から、威圧感が増した。
「今、素直に差し出せば、不問にするぞ? しかし……とぼけて、後日見つけた場合……」
「すいません出します」
箒があまりにも怖かったので、すぐさまクロエが用意してくれた箱を差し出した。
箱を受け取った箒は中身を確認せず、鍵のついた引出しに押し込み、鍵をかけた。
「あ……あぁ~……」
情けない声を出す照秋。
溢れる性欲を持て余す10代の青少年には号泣するほどの事件である。
ガックリ項垂れる照秋を見た箒は、ため息を吐き、そして、顔を真っ赤にして言った。
「……が、我慢できなくなったら……私が手伝うから……」
最後の方は小声でぼそぼそ言っているくらいにしか聞こえなかったが、照秋にはバッチリ聞こえた。
「マジっすか!?」
項垂れた頭を思いっきりあげる照秋の箒を見る目は、ものすごくキラキラしていた。
あまりにも期待の眼差しで見てくるので、箒は早まったか!? と考え直し『手伝う発言』を撤回し、照秋は再びガクーンと項垂れた。
「……男って……本当に馬鹿だな……」
普段無口で凛々しい照秋が、こんなことで一喜一憂する様を見て、呆れる箒だった。