メメント・モリ   作:阪本葵

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第54話 ラウラの本気

ラウラと照秋は自身のISを纏い、地下にあるドーム状の訓練施設で対峙する。

先程までいた階よりさらに下の階に陸上競技場のトラックほどの大きな訓練施設があることに驚き、非常識さを感じたが「まあ、束さんだからねえ」と照秋が苦笑しながら説明したので事実をそのまま受け止めることにしたラウラとシャルロット。

さて、何故ラウラと照秋がISを纏って訓練移設で対峙しているのかというと、これこそが束の「お願い」だったのである。

 

『テルくんと戦ってくれないかな』

 

照秋との戦闘など、こちらからお願いしたいくらいだ!

と目をキラキラさせ快諾したラウラ。

そうしてすぐに二人は地下に降り訓練施設に赴いたのである。

 

「ところで篠ノ之博士、なぜ私と照秋を戦わせることがお願いなのですか?」

 

ラウラは訓練施設の外の観覧設備で見学している束にISのオープンチャネルで質問する。

ちなみに、観覧施設にはクロエとマドカ、シャルロットもいる。

すると、束は空間投影モニタとコンソールを展開しはじめ、片手をあげる。

そして親指を折り四本指を立てた。

 

「単純に君のIS[シュヴァルツェア・レーゲン]の性能チェックが一つ。二つ目が君のIS操縦技量の見極め。三つ目が疑惑の解消だね」

 

「疑惑の解消?」

 

ラウラは怪訝な表情で首を傾げる。

 

「まあ、それは戦えば分るよ。ああ、一応シュヴァルツェア・レーゲンはOSだけだけど改修してるから処理能力向上しているよ。一応可動負担や伝達速度、あと各センサーが15%アップしているから気を付けてね」

 

「OSを改修しただけで15%アップ!?」

 

聞いただけで驚く数字である。

ソフトウェアの改修だけで機体性能が一割向上するなど、考えられない事なのだ。

しかも、改修時間は一時間もないのだから、驚くしかあるまい。

これは、もし全体的にハード部分も本格的に改修したらどんなことになるのだろうか……

ラウラは、恐怖と歓喜にぶるりと震えた。

 

「そして最後が重要。テルくんが強くなるための『踏み台』になってもらう」

 

「……踏み台?」

 

ようするに、噛ませ犬になれと言われているのである。

流石にラウラもムッとする。

ラウラとて、ドイツ軍のIS部隊の隊長として、代表候補生としてのプライドがある。

千冬に鍛え上げられた絶対の自信がある。

たとえ相手が千冬の弟だからといって、その彼が強くなるために負けろと言われてそう簡単に享受できるものではない。

それに、ラウラ自身照秋と手合せすることはIS学園に転入する前から希望していたことであった。

 

「ああ、勘違いしないでほしいんだけど、普通に、本気で戦ってね。そうじゃないと意味がないからね」

 

束の言葉に益々もってわけがわからなくなるラウラ。

踏み台になれと言われ、しかし本気で戦えという。

正直、照秋の技量はラウラが取り寄せ調べたデータでは『自分より少し劣る』と結論付けている。

これはラウラにとっては最大の賛辞である。

自分の力に絶対の自信を持っているラウラは、人を見下すきらいがある。

そんな彼女が、自分より少し(・・)劣るという、自分に最も近しい実力であると認めているのである。

それでも、ラウラは戦いが始まれば自分が勝つと疑わない。

その最大の根拠が『経験』である。

軍属であるラウラはISで任務を遂行することを常としている。

一応ISを軍事目的で利用することはアラスカ条約で禁止されているが、自衛や警護はこれに依らない事になっている。

グレーゾーンな活用ではあるが、世界各国が行っている事であるからドイツだけに難癖をつけることはできない。

つまり、ラウラは任務遂行という数多の経験によってISのスキルを磨き上げて行ったのだ。

 

「まあ、戦ってみればわかるよ」

 

束がそう言って、試合開始のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

まず動いたのはラウラだった。

シュヴァルツェア・レーゲンの性能がアップしたと言われたのでその確認のため、まずは軽い牽制として距離を取り右肩に装備されている大型のレールカノンを放ったのだが、ラウラは自身の攻撃に驚いてしまった。

 

「うおっ!?」

 

まず、距離を取るために動いたときの加速がアップしていることに驚き体勢を崩し、すぐに整えレールカノンを放つと、今まであった砲撃の反動が無かったのである。

 

(すばらしい性能アップだが、これは慣れるのに時間がかかるな)

 

嬉しい誤算とでもいうのか、今までのクセを修正しなければならない作業を強いられるラウラは、しかし笑顔だった。

そんなラウラに構わず、照秋はラウラの放ったレールカノンを避け、接近する。

右手に近接ブレード[ノワール]を装備し、八双の構えで自分の間合いまで接近する照秋。

 

(速いっ)

 

ラウラは素直にそう思い、すぐにプラズマ手刀を展開、迎え撃った。

だが、ラウラはその攻撃で吹き飛ばされる。

 

(なんという力だ! 私が受けきれなかっただと!?)

 

吹き飛ばされた力を利用しそのまま距離を取るラウラは、両肩から2本のワイヤーブレードを展開し不規則な攻撃で照秋を襲う。

しかし、照秋はその攻撃をノワールの高速剣捌きで弾く。

 

(なかなかやる。だが、これならどうだ!)

 

ラウラはワイヤーブレードをリアアーマーからも展開し、計6本のワイヤーブレードを照秋に向けて放つ。

ワイヤーブレードは前後左右上下と6方攻撃を仕掛ける。

逃げ場はないが、照秋は焦ることなく、ノワールを回転するように大きく振るった。

 

[ルシフェル・マグナ(光を帯びた裂け目)]

 

女性の電子音声が聞こえた瞬間、ノワールの刀身が光り輝き衝撃波を放ち迫りくるワイヤーブレードを全て弾き飛ばした。

 

「飛ぶ斬撃だと!?」

 

ラウラは予想外の攻撃に、おもわず叫んでしまった。

 

 

 

ドーム状の訓練施設内で高速で飛び交い、交差する黒と黒。

その戦いを観覧設備で見ていたシャルロットは、ラウラの戦闘スキルより、そのラウラに負けない、いやむしろラウラを上回っている照秋の技量に驚く。

 

「……ここまで出来るなんて……手に入れた映像ではここまでの技量はなかったはず」

 

シャルロットはそうつぶやく。

シャルロットが入手したという映像とは、ワールドエンブリオが3月に竜胆と赤椿、照秋を発表した時のものと、クラス代表決定戦でのマドカとの戦闘記録である。

 

「そりゃあ、おまえ、日本のことわざにもあるだろうが。『男子三日会わざれば刮目して見よ』ってな」

 

マドカが頬杖しながら戦いを眺める。

 

「それに、テルは練習バカだからな。これくらいの成長は当然だ」

 

「その一言で納得しちゃったよ」

 

シャルロットは苦笑しながら照秋とラウラの戦いを見つめる。

 

「でも、あの飛ぶ斬撃はなんなの? あんなの今まで見せたことなかったよね?」

 

「あれは、メンテナンスついでにノワールのバージョンアップした追加コマンド[ルシフェル・マグナ]です」

 

クロエが束の横で束と同じく空間投影モニタとコンソールを展開し凄まじい速度でタイピングをしながらそう答える。

コマンドを追加した理由として、メメント・モリの兵装であるインヘルノとハシッシが封印処置されており、現状メメント・モリの兵装は刀剣武装のノワール一本のみという、ある意味白式と近い状態である。

 

「赤椿の武装[空裂]のデータを元にしていますので、エネルギー刃というのは変わりませんが、特筆すべきは前方ではなく、振るった方向すべて展開されるという事です」

 

「つまり、全方向攻撃ってこと?」

 

「そうです。まあ、立体攻撃が出来ないというのが欠点ですが」

 

エネルギー刃による平面斬撃であるため、縦の幅が少ない。

それが欠点であるというが、シャルロットはとても欠点だとは思えなかった。

 

 

 

ラウラの攻撃を悉く捌く照秋に、ラウラはニヤリと口元を歪め笑う。

 

「おもしろい。いいぞ織斑照秋!」

 

瞬時加速で照秋に肉迫しプラズマ手刀を振り降ろす。

照秋はそれを難なくノワールで受け、剣戟を繰り返す。

受けてわかる照秋の実力と、力に込められた想い。

肌が泡立つ殺気。

まさに、ここは戦場だ。

……なるほど、これは強い。

そう、今まで戦った国家代表のどの攻撃よりも重い。

 

「予想以上だ! なるほどこれは気を抜けば負けるな!」

 

そう言ってラウラは、一旦距離を取り左目を隠していた眼帯を外す。

隠されていた瞳は金色に輝いていた。

その瞳を見て、照秋は直感で飛び出しそうになった体制を無理やり止めた。

明らかに眼帯を外してからラウラの纏う雰囲気が変わったのである。

 

『ラウラの左目はヴォーダン・オージェと呼ばれるIS適合を向上させる能力を有しています』

 

クロエからプライベートチャネルで助言を受け、一層警戒する。

だが、いつまでもあれこれ考えるというのは照秋の性に合わない。

そんな一瞬の油断を見逃すラウラではなく、先ほどとは全く異なる速度でワイヤーブレードを展開し攻撃を仕掛けてきた。

基本直感に頼らず目で追い対処する照秋は、迫りくるワイヤーブレードをノワールで弾きながらラウラを観察する。

 

『ルシフェル・マグナ』

 

女性の電子音声と共に、照秋はノワールを振り一回転、迫りくるワイヤーブレードを弾き距離を取る。

だが、そんな行動を予想していたかのようにラウラは照秋が移動した位置に接近し、プラズマ手刀で攻撃する。

照秋はそのプラズマ手刀をノワールで受けようとしたが、予想外のことが起こる。

なんと、ラウラがそのプラズマ手刀を振り降ろす軌道を変え、ノワールを躱し照秋に一撃を与えたのだ。

その攻撃に驚きつつも、追撃されないようにさらに距離を取ろうと後ろに下がった照秋だったが、またも予想外のことが起こる。

なんと、ラウラが照秋の行動を予想したかのようにピッタリと追随してきたのである。

驚き、今度は上に軌道を変えたが、それすらもラウラは予測したかのようにピッタリ張り付いてきた。

 

『言い忘れましたが、ヴォーダン・オージェは【未来予知能力】が備わっています』

 

(先に言っとけよ!!)

 

クロエからプライベートチャネルで重要な事を今更言われ悪態をつく照秋。

だが、予知能力などそんな超能力の様な非科学的なもの、そう簡単に信じることはできない。

しかし、照秋はこの予知能力に心当たりがあった。

 

目がいいんだな(・・・・・・・)

 

照秋のこの言葉に含まれる意味に、ラウラは驚くと共に、ニタリと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「そうか、わかるか『この目』の力が」

 

「集中力が高まった極みに、『光が見える』んだろう?」

 

「――はっ! ははぁっ!!」

 

声を上げて笑うラウラは、本当にうれしそうに、新しいおもちゃを手に入れた子供の用に無邪気な顔をして照秋を見る。

 

「そうだ! この目は相手の次の行動が『光の点』でわかる! だから、お前が次に繰り出す攻撃もわかるぞ!!」

 

そう言って、ラウラは照秋の右肩めがけてプラズマ手刀を繰り出し、ギリギリ避ける照秋。

 

「避けるか! おもしろい! おもしろいぞ織斑照秋!!」

 

ラウラはプラズマ手刀とワイヤーブレードを織り交ぜて照秋を攻撃する。

先程とは打って変わって防戦一方の照秋は、致命傷はないものの避けきれない攻撃が増えISの装甲を徐々に削って行く。

しかも。

 

「いやらしく急所ばかり狙ってくる……!」

 

「戦いのセオリーだ!」

 

「そりゃそうだ!」

 

照秋とラウラは軽口を叩きあいながらも、その攻防が止むことはない。

それどころか、先ほどより互いの移動や攻撃速度が上がり、苛烈を極めぶつかり合う金属音と火花が絶え間ない。

 

「楽しいな! 織斑照秋!!」

 

ラウラのテンションは上がりまくり、笑い声を上げながら攻撃を繰り出す続ける。

任務という殺伐としたものではない、純粋に互いの技量をぶつけ合う試合において、ラウラは本気で戦ったことが無かった。

本気というのは、つまり「殺す気」で戦うという気持ちでの意味である。

試合というスポーツにおいて、殺すという感情は必要ない。

しかし、生粋の軍人であるラウラにとって、本気イコール相手を殺すという事に相違ない。

試合などというおままごとで相手を殺す必要などないのだ。

この心構えによって、出す力というのは変わってくる。

たとえ全力を出したとしても、その力をスポーツレベルで押さえる力を出すのか、さらにその先の相手に致命傷を与える力を与えるのか、その覚悟の差が試合と戦争の違いでもある。

実際、ラウラはドイツの国家代表と数度模擬戦をしたことがあり、その全てで負けたのだが彼女はたしかに全力は出したがそれはスポーツでの全力であり「本気」で戦わなかった。

本気で戦う相手と認識できなかったのである。

 

相手の国家代表の攻撃が温い。

殺気が足りない。

ああ、国家代表とはこんなものなのか。

他国の国家代表もこんなものだろうか。

本気で戦うに値しない、ぬるま湯に浸かった者の集まりか。

 

そう判断し、ラウラは国家代表に興味を捨て、軍属として国を守るために命をささげると誓ったのだ。

 

しかし、今ラウラは本気で戦っている。

生まれて初めて、任務や軍事介入以外で相手に対し殺すつもりで戦っているのである。

そして、その本気と対等に殺り合える相手が、目の前いる。

 

これほど楽しいことはない。

 

これほど嬉しいことはない。

 

私が、私が、私が。

 

「本気というのは楽しいなあ! 織斑照秋!!」

 

 

 

「……あいつ、国家代表クラスの実力持ちじゃねーか」

 

「えっ!?」

 

目の前で繰り広げられている高速戦闘にマドカが呟き、シャルロットが驚く。

 

「ラウラは生粋の軍人ですからね、殺し合いでないと本気が出せないのですよ」

 

クロエの補足でさらに驚くシャルロットは、理解してしまった。

つまり、今目の前で繰り広げられている戦いは、殺し合いだという事だ。

 

「ISの表向きの活用方法は所詮スポーツだ。命のやり取りなんて関係ない健全なエンターテインメントだし、絶対防御なんて生命保証もついてる。各国の国家代表つっても命がけで戦ったことがある人間なんて数えるほどしかいないだろうよ」

 

マドカが頬杖を付きラウラと照秋の戦いを眺め、呟く。

それに、クロエが付け加える。

 

「そんな現状に落胆したラウラは、国家代表に興味を無くし軍属として使命を全うすること誓ったのでしょうね。しかし……」

 

「今まさに本気で戦える相手が目の前にいる、と?」

 

シャルロットの言葉に頷くクロエ。

 

「あんなにうれしそうに戦う彼女は記録でも見たことがありません」

 

「そりゃ嬉しいだろうさ。自分と対等にやり合える相手に初めて出会えたんだからな」

 

マドカもラウラの気持ちがわかる。

自分も、ラウラと同じ思いをしたのだから。

 

ああ、楽しいだろう。

嬉しいだろう。

だからこそ、マドカはラウラの奇妙な行動(・・・・・)にも納得してしまう。

シャルロットは、その事を疑問に思いつつ戦いを見ていたが、おもわず呟いた。

 

「なんでラウラはAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を使わないんだろう?」

 

そう、ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを第三世代機としている装備、AICを一切使用していないのだ。

AICとは、ISの代名詞でもあるPIC(パッシブ・イナーシャル・キャンセラー)の発展型である。

停止結界とも言われている。

PICは読んで字の如く「受動的に慣性を取り消す」もので、ISの操縦において浮遊・加減速などを行う慣性制御を主な仕様にしている。

AICはその操縦部分ではなく、対象物に向けて故意に働きかける行為で、まさにこちらも読んで字の如く「能動的に慣性を取り消す」のだ。

つまり、AICを対象物に発動すれば、動いている物は停止してしまう。

まさに停止制御結界である。

この兵器を使用すれば照秋の動きを止めることができ一気に優勢に立つことが出来るのだが、ラウラはAICを使用する気配がない。

 

そんなラウラの奇怪な行動に、マドカはふんと鼻を鳴らし言い放つ。

 

「使いたくても使えないんだ」

 

「どういうこと?」

 

シャルロットは首を傾げる。

 

「AICには致命的な弱点がある。それは、対象物に狙いを定め集中しなきゃダメというところだ」

 

「……あっ、なるほど。つまり、今の高速戦闘では狙いを定められないから集中できない。だからAICを発動させるのは難しいってことなんだ。へー、照秋も考えてるんだねー」

 

感心するようにうんうん頷くシャルロット。

 

「まあ、テルはそれを狙ってやってるわけじゃないだろうがな。あいつAICの事なんて知らないし」

 

「……天然て怖いね」

 

シャルロットは照秋の格闘センスに脱帽するが、しかしマドカはさらにこんなことを言った。

 

「それに、ラウラはAICなんぞ使って戦いが終わることを嫌っているんだよ」

 

「……は?」

 

「さっきも言ったが、ラウラは今までISを”競技の範疇”では本気で戦ったことが無い。それは自分が本気になれる相手がいなかったからだ」

 

「……でも、照秋はラウラが本気になれる初めての相手だった。だから、少しでも楽しい時間を過ごしたくて、長く戦いたくて、たとえAICを使えたとしても使わないってこと?」

 

わかるような、わからないような。

シャルロットはラウラが楽しんでいるという事は理解したが、その手段には到底共感出来なかったので微妙な表情だった。

 

しかし、始まりがあれば、終わりもある。

 

「そろそろ12時の鐘が鳴るぞ、シンデレラ」

 

マドカの声は、誰にも聞こえることはない。

しかし、マドカの言葉通り戦局が動いた。

 

 

 

ラウラのスピードがガクンと落ちた。

それを見逃す照秋ではなく、猛攻に出た。

ラウラはその攻撃を避けることが出来ず、悉く受けISの装甲がボロボロになっていく。

シールドエネルギーもあっという間に二ケタに突入しダメージレベルも深刻なものになってしまった。

ラウラの額には玉のような汗、激しい息切れ、青白い顔。

ボロボロな体で、膝をつきそうなほど疲労しているがなんとか踏ん張る。

しかし、笑顔は崩れない。

 

「はあっ、はあっ、楽しい時間も、終わり、か……!」

 

ヴォーダン・オージェには欠点がある。

発動することによってISとの適合率が向上し、予知能力を得ることが出来るが人体への負担が大きく、あまり長い時間発動できないのである。

 

持って、5分。

 

今までヴォーダン・オージェを使った戦いで5分以上長引いたことはなかった。

自身がボロボロになることは今まで何度も経験したが、ヴォーダン・オージェでの疲労感はラウラにとっても初めての経験である。

 

(こんなに辛いのか……やはりヴォーダン・オージェは諸刃の剣だな)

 

そんなことを考えながら目の前の相手、照秋を見る。

ISの装甲が削れダメージを負っているように見えるが、操縦者である照秋自身は汗はかいているがさほど息を乱さず、全く疲れた様子はなく気魄も衰えていない。

 

(なるほど、体力バカというのは本当らしい)

 

ラウラは苦笑する。

 

ああ、残念だ。

この楽しい時間が終わってしまう。

そう、私の負けという結果で。

それはいい、不思議と照秋に負けることに悪感情は湧かない。

だが、残念だ。

私相手では織斑照秋は満足できなかったようだ。

 

もっと

もっと、もっと

もっと、もっと、もっと!

 

戦いたい

戦いたい!

私に力があれば

私にもっと織斑照秋を満足できるのに。

私が満足できるのに!

 

力があれば――!

 

『――願うか……? 汝、力を欲するか……?』

 

突然頭の中から何かが呟くのを聞こえた。

ラウラはその声に疑問を持ちながらも、自分の気持ちを吐露する。

 

(ああ、力が欲しい。織斑照秋を満足できる力が、私が満足できる力が、もっと戦える力が欲しい!)

 

 

その瞬間、ラウラの左目から英語の暗号が流れた。

 

『Damage Level………D

Mind Condition………Uplift

Certification………Clear

 

≪Vallkyrie Trace System≫………boot』

 

そして、ラウラの意識は途切れた。

 

 

 

観覧施設で見ていたマドカ達が、ラウラのISの変化に気付く。

 

「……おい、まさか本当に……」

 

珍しくマドカが焦った表情をする。

そんなマドカの変化に首を傾げるシャルロットだったが、現状があまり良くない事であることはわかった。

 

「ね、ねえ、あれって何?」

 

シャルロットの呟きに答える人はおらず、束が照秋をみてニヤリと笑う。

 

「さあ、ここからが本番だよ、テルくん」

 

 

 


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