春の日差しから梅雨に突入し、雨の日が多くなったある日。
国際IS委員会はとんでもない条約を発表した。
『織斑一夏、織斑照秋二名の男性IS操縦者の世界的一夫多妻認可法』である。
これには条件がある。
・前提として、この認可法に賛成した国のみとする
・婚姻時期は日本の法律に則り、織斑一夏・照秋両名が18歳になってからとする
・各国一名のみ、したがって一方に同国の妻がいる場合、もう一方に資格はない
・織斑一夏、照秋両名とも最大5名までとする
・資格者は15歳以上30歳までとする(織斑一夏、照秋両名が認めた場合これに限らない。また15歳の者は適性年齢になるまで婚姻は結べない)
・織斑一夏、照秋両名それぞれの同意なく婚姻は結べない
・自由国籍の者は除外
女尊男卑の世の中でとんでもない内容の条約だが、ほとんどの国がこの条約を認可した。
それほど男性操縦者という存在が貴重ということだ。
勿論この条約が発表された直後から女尊男卑の団体から抗議が起こった。
女性の尊厳を踏みにじる条約である、撤回せよと。
日本や韓国、EU圏内では女尊男卑擁護団体のデモが起こるほどに。
だが、日本政府はそんな団体など完全無視し、なんと織斑照秋と篠ノ之箒を公式に婚約関係であると発表した。
それに追随するように、イギリス政府もセシリア・オルコットと照秋が婚約関係であると発表。
二国は体よく照秋に予約をし、他国をけん制したのだ。
「ISも操縦できない老害共や、したこともない、覚悟もない一般女性がどれだけ大口を叩こうが知ったことか。文句があるなら受けて立つ。その時は君たちの大好きなISで相手してやろう」
イギリス政府の超強気発言は世界の度肝を抜かせ、虐げられている世界中の男から拍手喝さいが起こる。
その直後、篠ノ之束が世界中のネットワークをジャックし公言。
『イギリスはよく言った! この条約に文句あるならその国のIS動かなくさせるから。そうすれば女がエラそうに出来ないでしょ?』
もう無茶苦茶である。
というか、束が一夫多妻を認めていることに驚くのだが、そんなことよりも驚愕の事実が束の口から飛び出た。
束がその気になれば、いつでもISを停止させることが出来るのだ。
だが、そんな発言にも噛み付く女尊男卑擁護団体は、国を挙げて篠ノ之束を拘束し処罰しろと喚く。
自分たちがそこまで声高にある程度の地位を掴みとれた人間に対してなんという傲慢で無知な発言だろうか。
防衛の要としている国も多いので、これに戦々恐々とした各国はそんな過激発言や行動を行った女尊男卑擁護団体・企業を実力行使で黙らせた。
以前から女尊男卑の風潮に増長し過激な行動を行い犯罪スレスレ、むしろ権力を使って犯罪自体を有耶無耶させるような企業や団体組織に頭を悩ませていた各国は、これを好機と見て大々的に粛清した。
そこで自分たちに旗色が悪くなったと見るや世界中の女尊男卑擁護団体や企業が現役IS操縦者たちに対し自分たちに賛同するよう要請したが、大半の操縦者がその要請を断ったのである。
女尊男卑の急先鋒であるIS操縦者は今の地位にしがみつきたいという思いもあるが、そもそも彼女たちはISに深く関わったことで世の女尊男卑の風潮をよく思っていない者が意外と多い。
それまでは女尊男卑思想を持っていた者も多かったが、ISに深く関わることで女性だけでなく、むしろ多くの男性がISに深く関わっており、またなくてはならない存在であると気付き自覚しているからである。
ISは自分一人では動かせない。
日頃の整備、バックアップ、操縦者のケアなど様々な事に人が関わっている。
そんな陰で支えている人間がいて初めてISは動く。
実際問題、世界を代表する企業の社長や国の首相、大統領などは未だに男がほとんどである。
女尊男卑擁護団体、企業などはそんな国の現状をよくおもわず国の中枢に食い込むようになってきて
自分たち女性にだけ有利になるような施策を押しすすめようとしたり、男の政治家を排斥しようとしたり、悩みの種だったのである。
それがここにきての追い風である。
このチャンスに乗らない手はないとばかりに世界各国は一斉に過激派に分類されるような女尊男卑擁護団体を反政府組織と認定、武力行使で排除することに成功、それにより世界中のないがしろにされてきた男たちは歓喜するのだった。
ただ、これは表面上で一時的のことであり、未だに根強く残る風潮をなんとかしなければならないのが各国の課題である。
さて、世界中でこんな条約が発表を受けてしまった織斑一夏と照秋はというと、照秋に関しては事前に聞かされていたことであるからそれほど驚くことはなかった。
ただ、箒とセシリア二人と婚約していたとか、それを政府が知っていたとか突っ込みどころが満載だったのだ。
「俺……箒と婚約してたのか……知らなかった……」
「わ、私も知らなかったぞ!?」
「わたくしも政府がハッキリ公表するとは思ってもいませんでしたわ……」
朝食を取りながら食堂で流れるニュースに、照秋たちだけでなく生徒全員が唖然としていた。
当事者たちは自分たちの知らないところで大人たちがいろいろ勝手に進められていることに恐怖を覚えると同時に、まさかの篠ノ之束承認という事実に、三人は疲れ果てもう考えるのをやめた。
更に言うと、これは婚約であって婚姻ではない。
言葉の意味の抜け穴を突いた強引な手口に近いが、これならば照秋の意思を無視して多少強引に発表しても条件には抵触しない。
婚約ならば、嫌ならいつでも解消しろと言っているのである。
ここで解消しないのならば脈ありとみなされ、日本とイギリス政府はしてやったりというわけで、これ以降に『・婚約も互いの同意がなければ結べない』と文言が追加されてしまった。
大人は汚い。
しかし、箒とセシリアはこの事をまんざらでもないと思っていた。
箒にすると彼氏彼女の関係から一気に婚約者にランクアップしたことに驚くが、人生設計では照秋といずれは……なんて考えていたことも事実である。
日本政府の発表に関しては、姉の束が何か言ったのだろう。
一夫多妻についても思うところはあるが照秋の置かれている状況を理解してしまうと納得するしかない。
まったく、仕方ない姉さんだなあ……ぐふふ。
箒はなんだかんだで喜んでいるのだった。
セシリアも、政府の勇み足で発表して照秋がどう思うか気が気でなかった。
実際問題として、セシリアは照秋の関係を友人以上に発展していないと自覚している。
自分は照秋に対し行為を持って猛烈アピールしているが、照秋自身はまだセシリアにそこまでの感情は抱いていないと分析する。
照秋は真面目で、箒と恋仲であると堂々と言った。
そんな人間に急きょ一夫多妻が認められるから自分も愛してくれと言ったところで戸惑うのは仕方のないところだ。
逆に考えると、照秋はそれだけ一人の女性に対し一途で誠実なのだと好意的に解釈できる。
だからこそ、セシリアはアピールしながらも時間をかけて認識を変えてもらおうと努力しているのだ。
だがここでイギリス政府の勇み足に、大企業の政略結婚や中世の貴族社会でもあるまいし……まあ、似たような境遇ではあるが、とにかくそんな恋愛感情もない相手に婚約だなんだと言われた照秋がセシリアをどう思うか。
そう危惧したのだが、照秋自身は「まあ、仕方ないんじゃないかな?」と意外にも寛容な態度。
これは、もしや……
そう思い照秋に確認してみた。
「テルさんはよろしいんですの? こんな勝手にわたくしたちが婚約関係を結んでしまって」
「ん? まあ急だったけど、前にセシリアから言われてたし。そ、それに……」
「それに?」
急にごにょごにょと口を動かしはじめ目をそらす照秋に、セシリアは訝しむ。
すると、照秋は言った。
「こんなこと言うと最低な男と思われて怒られるかもしれないけど、セシリアとそういう関係になれて……正直……その、嬉しいし……」
顔を赤くし呟く照秋を見て、セシリアはときめいてしまった。
(やだ、何この可愛いテルさん)
鼻から愛が溢れそうになったセシリアは、照秋の腕にに抱き付いた。
自分を受け入れてくれたと解釈したセシリアはその嬉しさを体で表現する。
「わたくしも嬉しいですわ!」
「ちょっ!?」
いきなり抱きつかれ慌てる照秋に、セシリアは問答無用で肩に頬擦りする。
ものすごくうれしそうな顔だ。
「おい何やってるセシリア!!」
箒はセシリアの行動に怒るが、当のセシリアはどこ吹く風である。
「あら、別によろしいでしょう? なんたって、わたくしとテルさんは婚・約・者! なんですから」
「そ、それは私もだー! というか公衆の面前でそんなことするな破廉恥だぞ!!」
「あら、古風ですわね。そんな悠長にしてたら”第一夫人”の座はいただきますわよ?」
「な、ななななあ!? だ、だだだ第一夫人だとー!! 譲らん! 譲らんぞセシリアー!!」
箒はセシリアに対抗しもう片方の腕に巻きつく箒。
「あら、公衆の面前はハレンチなのではなくて?」
「た、たまにはいいのだ! 何と言っても婚約者だからな!!」
ギャーギャー騒ぐ二人(主に箒)の間に挟まれる照秋。
騒ぐ二人(主に箒)に何も言えない小心者の照秋は、両腕に感じる二人の胸のボリューム、そしてやわらかさと格闘していた。
(ああ、いかん……堪えろ俺! ここで我慢しないと社会的に抹殺される!!)
照秋は下半身に集まりつつある血流をなんとか散らそうと、これまで行った剣道の試合を思い出し内容を検証し続けるのだった。
一方一夏はというと、突然の世界的発表に驚きつつも、堂々と一夫多妻を出来ることに喜んだ。
(やったぜ! さすが束さん話が分かる!! ぐひひひ、これで俺も誰に気兼ねなくハーレムが築けるぜ!!)
そう思いながらも、表情はさわやかな笑みを張り付けるのだった。
中学時代からモテた一夏だが、女に手を出したことは一度もない。
それは、IS学園でハーレムが確定しているためがっつく必要が無かったためである。
はたして一夏はIS学園に入学し女生徒にちやほやされる毎日を満喫している。
だが、ハーレム要員でもある箒とセシリアが照秋側についていることが気にくわない。
(くそ、あんなクズのどこがいいんだか。まあいいさ、俺は原作ではシャルロッ党だったんだ。シャルが俺に惚れればそれでいい。箒やセシリアより美人はごまんといる)
一夏は、この先近いうちに男として偽り転入してくるであろうシャルロット・デュノアを想い、内心ほくそ笑むのだった。
この世界的発表の後、危機感を覚えた凰鈴音は恥ずかしいなどと言ってられない状況であると自覚し一夏に告白、そして一夏は快諾。
その事を中国政府に申告した。
「私は織斑一夏を愛している。一夏も私を愛してくれている。だから一夏との婚姻を望む」
尻に火が付いた中国政府にはまさに渡りに船、起死回生の一発である。
出来ればワールドエンブリオと繋がりを持つために照秋との方が望ましかったが、この際背に腹は代えられない。
中国政府はすぐさま凰鈴音を織斑一夏と婚約関係であると発表したのだった。
織斑一夏と照秋の姉である千冬は、この”世界的一夫多妻認可法”の事を全く聞かされておらず、また箒とセシリア、凰までもが二人と婚約しているなどという事実に気絶しそうになった。
「一夫多妻で一人5人……計10人の嫁だと? しかもほぼ全員が国際結婚……私に10人の義理の妹が……ああ…胃が……」
最近胃薬が手放せなくなった千冬は、眉間を押さえ大きくため息を吐き、職員室にいる教員たちはそんな千冬に同情の目を向けるのだった。
一夫多妻報道から数日経ち、一夏と照秋の周囲の反応は様々だった。
興味本位で近付く者もいれば、国や企業からなんらかの指示を受けた者がアグレッシブに接触してくる者もいる。
だが、二人ともガードが固いため、迂闊に近付けないでいた。
主に婚約者たちが選定し、相応しくなと思うものは弾いているのだ。
クラスメイトのような友達とは気さくに話すが、女の勘で”こいつ狙ってるな?”と感じるや尋問し
結果、一夏や照秋に好意を抱かず命令で動くような女は全て却下し、釘をさすという作業を行っていた。
そんな婚約者達の涙ぐましい努力を知らない一夏と照秋は、平常運転である。
「……こうも多いとうんざりするな」
箒が愚痴る。
「ええ、まったく」
同意するセシリア。
「あいつら本当に好きでもない男と結婚してもいいって思ってるのかしら?」
凰がため息を吐く。
「たぶん、結婚したら男を言いなりに出来るとかそんなふうに考えてる、もしくはそう国か企業に言われてるんじゃないかしら。いわゆる旦那を尻に敷くってやつ?」
スコールが自身の見解を話す。
「各国が過激派女尊男卑擁護団体を大々的に駆逐したからといってもそれは氷山の一角であるし、その思想がなくなったわけではない。まだまだ女尊男卑思想は根深く息づいている」
千冬が腕を組みため息を吐く。
「大変ですねぇ」
山田真耶が頬に手を当てため息をつく。
「でも私、照秋君はドMだと思うんですよね~。じゃなきゃあんな無茶な訓練毎日しませんよね~。だから、照秋君は尻に敷かれるのが好きなんじゃあ?」
「あなたは黙ってなさいユーリ」
ユーリヤの天然発言に釘をさすスコール。
もはやユーリの不思議ちゃん行動に慣れた女性陣は、軽く流していた。
織斑兄弟の婚約者と各担任、副担任は山田真耶の部屋に集まり愚痴大会を開いていた。
最初は千冬かスコールの部屋に、ということだったが千冬の部屋はごみ屋敷バリに散らかっている。
スコールの部屋は酒が大量に飾っており、それを見た千冬が生唾を飲む姿を見てダメだと判断。
結果、一番真面目な山田真耶の部屋に集まり話し合いをするのだった。
さて、箒・セシリアと凰の仲であるが、関係はある程度修復している。
それは先日凰が誠意をこめて照秋に謝罪したこともあるが、お互い想い人と婚約し、悪い虫が付かないように監視する大変さを分かち合い急速に仲が良くなっていった。
今では名前で呼び合う仲である。
そして一組の担任であり二人の姉である千冬は気苦労が絶えないのか、最近はめっきり元気がない。
スコールにしても三組の担任であり一夏に掛かりきりの千冬に変わり照秋の保護者として見守っている手前、他の生徒の執拗なアピールに辟易していた。
そこで副担任の山田真耶とユーリヤがそれぞれのストレス発散の場を設けようと提案し今に至るわけだ。
するとまあ出てくるわ出てくるわ、愚痴の数々。
千冬やスコールさえ知らないことも箒たちが愚痴り、驚く場面も多々あった。
それほど一夏と照秋が世界的に重要なポジションであるという事だろう。
さらに千冬達の悩みどころとして、世界各国のお見合いの催促だろう。
IS学園に送り付けられる各国の綺麗所の写真の数々。
そして添付される言葉は「是非一度会って話を聞いてください」である。
ワールドエンブリオにも多数送り付けられているそうだが、そちらは完全無視、来た途端シュレッダー行きだそうだ。
ワールドエンブリオのように完全無視を決め込めば簡単なのだろうが、そうはいかない。
千冬にしろスコールにしろ、現在は宮仕えであるが国の要請はなかなか断ることが出来ないし、なにより国際IS委員会がやかましい。
近々二人にはお見合い写真を渡し数人選定してもらい、お見合いを敢行してもらわなければならない。
ちなみに、そのお見合い写真の中に千冬やスコールの知る者もいたことは伏せておく。
「……ドイツめ……なんでクラリッサなんだ……」
「……あの泣き虫ナタルがねえ……」
担任二人の気苦労は絶えないのだった。
そんな女の愚痴大会が行われているとき、照秋はマドカとともに訓練を嬉々として行っており、一夏も部屋でゴロゴロくつろいでいるのだった。