転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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只管書いていたら、めっちゃ長くなってしまったので分割しました。
後編はできるだけ早く更新するつもりですので、平に御容赦ください。



#97 逆撃之刃(前)

「世界各国から緊急伝!現在起動中の全てのISが突如として一斉に暴走!各国の軍・企業の制止を振り切って移動を開始!方向と軌道から、目的地はここ、IS学園である可能性が非常に高い。とのこと!」

「なん……だと……?」

 山田先生から齎された情報は、圧倒的な衝撃を我々に与えた。世界中からIS学園に向かって暴走したISが殺到しようとしているというのだから、驚くなという方が無理だ。

「学園上層部は専用機持ち、及び学園守備担当に対し第一種戦闘態勢への移行を要請しています。織斑先生、指示を!」

「分かった。専用機持ち及び動ける教員はISを起動して滑走路に待機。状況が分かり次第打って……「駄目です!」村雲?」

 千冬さんが山田先生に指示を伝えるが、私はそれに「待った」をかけた。

「山田先生、一つ聞きます。暴走したのは、()()()()()()I()S()なんですね?」

「は、はい。そう報告が来ています。でも、それが一体……?」

「実は、ついさっきまでそこにクソ兎……もとい、篠ノ之束博士がいたんですよ」

「えっ⁉篠ノ之博士が⁉どうして……いえ、どうやってここに⁉」

「それは今はどうでもいい事です。で、彼女は会話の中で『計画は既に始動してる』と発言した。あのクソ兎が何を企図したのかは分かりませんが、その計画の一端が今回のISの同時多発暴走だとすれば……。コード・レッド(一斉弱体化指令)の一件もあります。まずは全機に起動停止状態でのシステムチェックを。話はそれからです、織斑先生」

「……一理ある。山田先生、まずは全機にシステムチェックを徹底させろ。ああ、起動はしないようにも言っておけ」

「はい!」

 千冬さんからの指示を受けて、オペレーションルームを飛び出す山田先生。さて、何が飛び出す……?

「……俺は……俺は、誰なんだ?」

 自分の存在とその意義に思い悩む一夏を置き去りに、事態は急速に進んでいっていた。

 

 

「何も出てこない?」

「はい」

 訓練用IS保管庫に並べられた『打鉄』と『ラファール』を整備科の生徒教員が徹底的にチェックした(この間約30分。驚異的な速さである)結果、出た答えは『目立った異常は無い』だった。

 そんな馬鹿な。ならば何故、起動中だった全ISが一斉に制御不能に−−

 

BEEP!BEEP!

 

「何事だ!山田先生!」

「航空自衛隊岐阜基地より緊急伝!領空侵犯をしている中国製IS『神虎(シェンフー)』に対してスクランブル発進した『防人(さきもり)1個小隊(4機)が突如暴走!『シェンフー』と合流し、IS学園へ進行中との事!」

「何だと⁉」

 どうなっている⁉動かす前は何ともないのに、動かした途端に暴走するなんてそんな事……。っ⁉そうか!

「やられた!マインプログラムだ!」

 

 マインプログラム。

 ISのOSに、普段は隠れているが特定の行動や操作を行ったと同時に発動するプログラムを事前、ないし追加で仕込む、プログラミングの一手法。

 軍のISには、持ち逃げ防止用に『拠点から無断で一定以上離れる事』を条件に発動する強制停止プログラムが、マインプログラムとして組み込まれている事が多い。

 

「そういう事ですか!『ISを起動させ、実際に操縦する事』を条件に、暴走プログラムが発動するんですね!強制停止プログラムより強力な命令として!」

「そういう事かと。山田先生、IS学園から国際開放回線(フルオープン・チャネル)を全ISに繋げますか?進軍中の暴走ISに話しかけてみます」

「お待ちください!……いけます、村雲くん。どうぞ!」

 山田先生が持ってきたマイクを手に取り、咳払いを一つ。意を決して言葉を紡ぐ。

「私は、IS学園1年1組、並びにラグナロク・コーポレーション代表候補生男子序列一位、『魔導師(ウィザード)』の村雲九十九だ。IS学園へ進軍中の全ISパイロット、応答願う。オーバー(どうぞ)

 しばらくして、ノイズ混じりの通信が返ってきた。

『こちら、中国代表『シェンフー』パイロットの張華(チャン・ファ)です。現在当機は、パイロットの操作を一切受け付けず、IS学園へ向けて進行中!何か分かっていることがあったら教えて!オーバー!』

『こちらは航空自衛隊岐阜基地所属、『防人部隊』第1小隊長の各務大和(かがみ やまと)少尉であります!我が小隊も『シェンフー』同様現在一切の操作を受け付けません!情報提供を乞う!オーバー!』

 日中からの返信を呼び水に、世界中から次々と通信が届く。その返信を送ってくるパイロットのまあ豪華な事。

 イギリス空軍特務隊『円卓の騎士団(ラウンド・ナイツ)』隊長のアルトリア・ペンドラゴン中尉。

 ドイツ空軍203航空機動大隊長にして現国家代表『白銀(ホワイトシルバー)』のターニャ・デグレチャフ少佐。

 現アメリカ国家代表『虎女王(タイグレス)』のイーリス・コーリング大尉。

 ロシア空軍IS配備部隊『コザック』隊長のイリーナ・イエラーヴィチ・烏丸少尉。

 更に、イタリア、フランス、スペイン、ブラジル、インド、カナダ、UAE、ルクーゼンブルク、豪州連合(AU)東南アジア諸国連合(ASEAN)、統一朝鮮、中東諸国連合、北欧三州協商連合、中米海洋国家連合、アフリカ大陸諸国連合と、国際IS委員会に加盟している全ての国家・地域から、最低でも一機は飛んで来ているというのだから驚きしかない。

 とはいえ、驚いてばかりもいられないので掻い摘んで経緯を話す。

 

ーー村雲九十九、説明中ーー

 

「以上が事の経緯です。各パイロットにおかれては、自機のシステムチェックをお願いしたい。オーバー」

『『『了解、オーバー』』』

 私の要請にすぐさま返事を返してくる各国パイロットの皆さん。できれば早々に結果が分かればいいが、『シェンフー』と『防人』は既に学園を目視範囲に捉えているはずだ。迎撃に出るしかないが、しかし……。

「ちょっと何よ、今の通信⁉何がどうなってるわけ⁉」

「先ほどの話、本当なのですか⁉」

「九十九はこんな時に嘘も冗談も言わないよ」

「……では、我々は迎撃に上がる事も出来ないのか……!」

「……だけじゃない。フルオープンチャネルで通信した以上、各国の未起動のISも出動を控えるはず。応援は望めない」

「嘗てない大ピンチって訳ね……」

「どうするの、つくも?」

「と、言われてもな……」

 本音が問うてくるが、私は具体的な現状打破方法を思い浮かべられずにいた。全てのISが起動・一定時間の操作を経て暴走状態に陥るなら、全員で迎撃に上がっても結局『ミイラ取りがミイラ』になってしまう。

 かと言ってこのまま何もしなければ、殺到した暴走ISによってIS学園が焦土と化してしまうかもしれない。せめて、少しでも暴走ISの目的が分かれば……。

『こちら『シェンフー』。IS学園、応答願います。オーバー』

 そこへ張華さんから通信が飛び込んできた。フルオープンチャネルでの通信のため、他の暴走ISにも聞こえているだろう。

「こちらIS学園。村雲九十九です」

『状況報告。現在当機は、IS学園西側の沖10㎞地点にて、日本航空自衛隊『防人』部隊と共に完全停止中。相変わらず操作は受け付けず。オーバー』

「IS学園、了解。他に異変は?オーバー」

『IS学園に向けて発光信号を発信中。しかし、当方には解読不能。オーバー』

『横から失礼。『防人』部隊の各務であります。『シェンフー』の発光信号は、日本語式のモールス信号と思われます。オーバー』

「了解。解読は可能か?オーバー」

『できます。……「デ・テ・コ・イ・ク・ソ・オ・オ・カ・ミ」……。「出て来い、クソ狼」であります。オーバー』

「……失礼。電波障害があったようだ。もう一度言って頂きたい。オーバー」

『発光信号の内容は「出て来い、クソ狼」。繰り返す、発光信号の内容は「出て来い、クソ狼」!』

 

ババッ!

 

 瞬間、その場に居る全員の視線が私に突き刺さる。現状、全世界に存在するISの中で『狼』を機体の意匠にしているのはたった一機。そう。

「村雲、あの馬鹿()はお前をご指名だ」

 私の愛機『フェンリル・ルプスレクス』だけである。しかしだ。

「『フェンリル』もまた、例の暴走プログラムの影響下にある可能性が……」

『こちら『純白の妖精(ライン・ヴァイス・フィー)』、デグレチャフ少佐だ。村雲九十九、応答願う。オーバー』

 あります。と言いかけたところにデグレチャフ少佐から通信が来た。その声に肩をビクッと震わせたのはラウラだった。

「デ、デグレチャフ少佐殿⁉」

『その声は『黒ウサギ隊』のボーデヴィッヒ少佐か。久しいな。だがすまん、積もる話は後だ。村雲九十九、たった今私の『ライン・ヴァイス・フィー』のシステムチェックを完了した。それにより、今回のIS同時多発暴走事故の原因が分かった』

「詳細を。オーバー」

『システム内に『コード・カタストロフィ』なる、入れた覚えの無いプログラムが入っていた。これがIS暴走の原因だ。その内容は『造物主(篠ノ之束)からの命令を至上命令として実行する』プログラム。現在出されている命令を端的に言えば『村雲九十九を半殺しにして、篠ノ之束の元へ連れて来い』というものだ。村雲九十九。貴様、随分と博士の恨みを買っているようだが……何をした?』

「……まあ、色々と。ただ、それらは全てあのクソ兎の自業自得ですから」

 呆れ混じりのデグレチャフ少佐の質問に、私は溜息混じりに答えた。

 とはいえ、あのクソ兎が私をご所望だと言うなら出るしかない。あいつの事だから、『一定時間が経過しても『フェンリル』が姿を見せなかった場合、IS学園に直接攻撃を仕掛けろ』とか命令してあっても不思議ではないしな。

「という訳で、行って来ます」

「すまない、村雲。またお前に頼る事になる」

 心底すまなそうな顔で声を絞り出す千冬さん。そんな彼女に、私は口角を上げる笑みを浮かべて答えた。

「おや、随分とらしくない物言いですね、()()()。もっと不遜に『行って来い。負けは許さん』とでも言ってくださいな。調子が狂うんで」

「お前は……。ふん、ならばリクエストに答えてやろう。行って来い、村雲九十九。負けは許さん」

 少しだけいつもの調子を取り戻した千冬さんに首肯で答え、私はIS保管庫から『フェンリル』を纏って飛び出した、

 

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 『シェンフー』と『防人』部隊のいる空域に向かうと、こちらを捉えたのか『シェンフー』達が私の方へ突撃してきた。と同時に、この場では聞きたくない女の声が耳に届く。

『これを聞いてるって事は、出撃したって事だよね。村雲九十九』

「篠ノ之束……⁉」

『一応言っておくけど、これは録音だから逆探知を仕掛けても無駄だよ』

「村雲さん!躱してください!」

 クソ兎の音声データが続く中、各務少尉の悲痛な叫びと共に『防人』部隊によるアサルトライフル一斉射が眼前の空間を埋め尽くす。私はそれを乱数機動回避で躱しつつ『防人』部隊に肉迫する。

『分かってると思うけど、今の状況を作ったのは私だよ』

 《レーヴァテイン》を呼出(コール)し、トリガー。赤熱した刀身で『防人』のアサルトライフルを切断する。自衛隊員の皆さんがホッとした顔を浮かべるが、それはすぐに絶望の表情に変わる。

『安心していいよ。お前のISに『コード・カタストロフィ』は仕込んでない』

 『防人』部隊の手に、強制的に近接戦闘用片刃剣《桔梗》が呼び出され、私を取囲もうとする動きを見せる。

「村雲さん!即時離脱を!」

 振るわれる《桔梗》の一撃をどうにか躱して『防人』部隊と距離を取る。

『これからお前には、世界中のISが襲い掛かって来る。そしてお前の仲間は、誰もお前を助けに来られない』

「村雲くん!そこにいちゃだめ!」

 『シェンフー』……張華さんの悲鳴にも似た声に振り返ると、『シェンフー』の腕からワイヤーで繋がれた分銅−−流星錘−−が飛んでくるのが見えた。咄嗟に身を捩って回避するも、大きく体勢を崩してしまう。

『たった一人で精々足掻け、村雲九十九。そうしてボロボロになったお前を……』

「だめ!止めなさい『シェンフー』!止めて!」

 大きく手を広げた『シェンフー』の胸元の装甲から砲身がせり出し、砲口が強い光を発しだす。拙い。あれは『シェンフー』の最大兵装《天愕覇王荷電粒子重砲(エンペラーバスター)》!直撃すれば、軽装甲の『フェンリル』はひとたまりもない!ここは《ヨルムンガンド》で吸収防御を!

『最後に私が殺すから』

「村雲くん!逃げてぇぇぇっ‼」

「くっ!」

 

ズバアアアッ!

 

 張華さんの絹を裂くかのような絶叫と共に撃ち出された荷電粒子砲の一撃は、私に届く直前に展開した《ヨルムンガンド》によって吸収されていく。しかし……

(エネルギー密度が予想以上に高い!このままではパンクする!)

 そう判断した私は、右手で吸収したエネルギーを左手でそのまま垂れ流す事に決めた。途端、左手から溢れ出す荷電粒子のエネルギー。これでどうにかパンクは免れたが、この照射がいつまで続くか分からない上に、『防人』部隊も包囲を徐々に狭めつつある。どうすれば……!

「村雲さん、今垂れ流しにしてるそれを私達に向けてください!」

 そこに意外な提案をしてきたのは、各務少尉だった。突然の申し出に、私はギョッとしてしまう。

「各務少尉⁉しかし!」

「早く!このままでは、護るべき国民(あなた)を傷付けてしまう!それは『防人(この子)』達の本意では無い筈です!さあっ!」

 覚悟のこもった声で言う各務少尉。他の部隊員も、一様に頷いている。

「……分かりました。行きます!」

 その覚悟を受け取って、私は『防人』部隊に向けて荷電粒子砲を放つ。当然、『防人』部隊はそれを回避する。やはり、そう簡単に当ってはくれないか。

 『シェンフー』の攻撃が続いているためにで身動きが取りづらいのもあるが、『防人』の動きの良さもある。本当に一定のプログラムに則って動いているのかと疑う程にその動きに乱れは無く、それでいて連携は完璧に近い。撃ちっぱなしでは当たりそうにないな……。

 私の攻撃を躱しながら、なおも接近して来る『防人』部隊。拙い、狙いを定めきれない!

 

ボンッ!

 

「ああっ!」

 焦りが生まれていた私の耳に爆発音が届く。見れば、『シェンフー』の胸部から黒煙が上がっていた。砲身が限界を迎えて爆発したのか。張華さんには悪いが、これは好機だ!

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)で瞬時に『シェンフー』に肉迫。オーバーヒートで動けないでいる『シェンフー』に向けて、吸収したエネルギーを開放する。

「すみません、張華さん。落とします!」

 至近距離からのエネルギー砲を受けて『シェンフー』はエネルギーエンプティ。張華さんはどこか安堵したような表情を浮かべて、ゆっくりと海に落ちていった。

「まずは一機……!次は!」

 四方から迫る『防人』部隊に敢えて背を向け、全速力で高度を上げる。当然、『防人』部隊も追ってくるが、第二世代機の強化改修型でしかない『防人』と、第四世代相当機である『フェンリル・ルプスレクス』とでは、速力が違い過ぎる。結果、『防人』部隊は置いてきぼりだ。

(現在高度10000m。速度800㎞。ここで……切り返す!)

 十分に高度差がついた所でUターン。今度は『防人』部隊に向けて突撃する。ブーストと落下加速の組み合わせで、その速度はほんの一瞬だけ1000㎞を超える。

 超高速で突っ込んでくる私に『防人』部隊が専用拳銃を呼び出し、迎撃隊形で構える。だが、私からすればその行動は−−

「それは悪手だ『防人』」

 発砲より遥かに早く、私が『防人』達の中央に陣取った。AIからすれば『自ら死地に飛び込む』という意味不明な行動に、『防人』達の動きが止まる。その隙を、私は見逃さない。

「チェックメイトだ」

 

パチンッ!

 

 

 フィンガースナップと共に現れた《ヨルムンガンド》が『防人』の胸元に触れ、直後荷電粒子の白い光が迸った。エネルギーエンプティを起こした『防人』達が海に落ちていく中、各務少尉の「ありがとう……」の声が、やけに強く耳に残った。

「これで、第一波は凌いだか……一旦帰還して補給を−−」

『レーダーに感!統一朝鮮の『高麗(コリョ)』、インドの『象神王(ガネーシャ)』、ASEANの『迦楼羅(ガルーダ)』です!接敵まであと300(5分)!』

「お代わりが早すぎる!息くらいつかせてくれよ、あのクソ兎!」

 この場に居ないと分かっていても、悪態をつかずにはいられない私だった。

 

 

「見ているしか出来ないというのは、何とももどかしいな」

 モニターの向こうで『コリョ』の突撃槍(ランス)の一突きを掴んで止め、『ガネーシャ』の鉄球振り回し攻撃を『コリョ』を盾にして防ぎ(ここで『コリョ』撃墜)、『ガルーダ』の手足による高速連続攻撃を必死に捌きつつ『ガネーシャ』の鉄球をギリギリで躱す九十九を見ながら、箒が呟いた。

「更にレーダーに感!ロシアの『モスクワの白い吹雪(ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ)』です!接敵まであと600(10分)!」

 真耶の報告に、普段は決して出さないような焦燥感満載の声で九十九が叫ぶ。

『『ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ』⁉イエラーヴィチ女史のお出ましか!せめてもう少し遅れてきて欲しかったんだが⁉』

『文句はアタシじゃなくて、束博士に言ってよ!こっちは必死に止めようとしてんのに、ちっとも言う事聞かないんだから!ってか、世界中のIS差向けられるとか、よっぽど恨まれてなきゃされないでしょ⁉アンタ、博士に何したの⁉』

『黙秘する!知ったらドン引きだから!』

『ホント何したの!?』

 ギャーギャー言い合う九十九とイリーナ。初対面の筈なのに妙に息が合っているのは何故だろうか?

 ちなみに、この間に『ガネーシャ』『ガルーダ』両機をかなり手こずりながらも撃破している。

「これで8機撃墜。これが戦時中ならエース……いや、エースオブエースに認定されているだろうな」

「ですが、動きに疲れが見えますわ。先程の『ガネーシャ』と『ガルーダ』も、強引に勝負を決めに行っていましたし……」

「敵の来るペースが早すぎて補給に戻れないのが痛いね。このままじゃジリ貧だよ」

「他にも続々来てる訳だし、流石に厳しいわよね……」

「……ステータスから見て、エネルギーと弾薬の消耗を抑えて戦ってもあと1時間が限界。そこを超えれば……最悪の事態もあり得る」

「つくも……がんばって〜」

 『ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ』の到着までの僅かな時間を、息を整えるのに使うのが精一杯の九十九の現状に、他の専用機持ち達の焦りと不安もまた募っていく。

 と、ここで鈴が気づいた。何も言わないのだ。こういう時真っ先に「九十九を助けに行こう!『コード・カタストロフィ』?大丈夫!なんとかなる!」と言うだろう男が、何一つ言葉を発さずにただ部屋の隅で膝に顔を埋めてじっと座っているのだ。

 そのあまりにも鬱々とした姿が気になり、鈴は一夏に近づいて声をかけた。

「一夏……?あんたどうし「……鈴」−−っ⁉」

 顔を上げた一夏の目を見て、鈴は思わず言葉に詰まる。その瞳に光は無く、どこまでも虚ろ。明朗快活を絵に描いたような普段の雰囲気さえ、欠片も感じさせない。

 一体何があったのか?鈴がそれを聞こうとした矢先に、一夏が口を開いた。

「鈴……。俺は、誰なんだ?」

「は?」

 あまりにも小さく、震えた声。そこにいつもの強気な態度は無かった。一夏の異変を察知したラヴァーズも何事かと一夏に近づく。

『『ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ』の弱点は、強襲突撃戦に特化させ過ぎて遠距離攻撃手段がほぼない事だ!』

『その通りよ!だから、サッサと遠くから狙い撃って私を落としなさい!そんでもって休憩に行きなさい!アンタ顔酷いわよ⁉』

『ああ是非そうさせて頂きますよ!そんな時間があればね!という訳で、《火神(アグニ)》フルバースト!』

 なお、モニターの向こうで奮闘している九十九の事は、シャルと本音だけがが絶賛応援中である。

 

 

「よくやったわ、坊や……。ありがとね、この子を止めてくれて」

 『ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ』の突撃を躱しつつ、その隙を見て《アグニ》を撃ち込む。を繰り返す事約10分。ようやく『ヴィリェーリャ・メティル・モスクヴェ』を撃墜する事に成功した。

「はー……はー……。山田先生、次は⁉……山田先生?」

 作戦室に通信を繋ぐが反応がない。なんだ?どうした?

「山田先生、応答を!山田先生!」

『……はっ!は、はい!村雲くん、どうぞ!』

 何があったのかは分からないが、呆けていたらしい山田先生が慌てて返事を返してきた。

「次の敵襲までの時間と規模を」

『はい!……次はドイツ・イタリア・フランスが約2時間後に襲撃予定です!』

「少しは休めそうか……。一時帰投します。『フェンリル』の補給と整備をお願いしたい」

『了解です。村雲くんは第3アリーナへ。整備班が待機しています』

「了解。村雲九十九、帰投します」

 ようやく一息つける事に安堵しながら、私はIS学園に戻るのだった。

 

「お疲れさまでした、村雲くん。補給と整備は私達に任せてください」

「高カロリーのゼリー飲料と横になれる場所を用意しました。村雲くんは体を休めていてください」

「感謝します」

 『フェンリル』から降り、ゼリー飲料を手早く胃に収め、用意された簡易ベッドに横に−−

 

バンッ!

 

「「「九十九(さん)!説明(してください)!」」」

 なろうとして、ラヴァーズの襲撃を受けた。

「説明?何のだ?というか、少し寝たいので後にして欲しいんだが?」

 努めて億劫な空気を醸しつつそう言うと、後頭を掻きながら鈴が言った。

「あー、じゃあ寝てていいから説明しなさい!一夏に何があったの⁉訊いても答えてくんないのよ!」

「千冬さんならば何か知っているのではと思って訊いてみたが『私からは話したくない。どうしても知りたければ村雲に訊け』の一点張りでな」

「お疲れの所、申し訳無いとは思います。ですが!」

「簡潔でいい。答えろ、九十九」

「……お願い、します」

「皆、一夏くんが心配なのよ。ね?お願いっ!」

「……話しても良いが、少々……いや、大層胸糞悪い話だ。それでも良ければ聞かせよう」

「「「お願いします!」」」

 私の前置きに間髪を入れずに答えるラヴァーズ。私は小さく溜息をつき、私自身あまり口にしたくない話を口にした。

 

ーーー村雲九十九、説明中ーーー

 

「以上が、一夏と千冬さん、そして織斑マドカを自称する少女の秘密だ。いつの時代も上の人間の考える事は『理解不能』という点で同じだな」

「「「…………」」」

 私の話を聞いたラヴァーズ達は、その話のあまりの重さに俯いて声も出ない様子だった。

「そして、それを聞かされた一夏は己の存在証明(レゾンデートル)を見失い、呆然としている。さて、ここまで聞いた諸君に訊く。……どうしたい?」

「「「っ⁉」」」

 私の問いにハッと顔を上げるラヴァーズ。私は彼女達一人一人の目を見ながら、彼女達を煽る為の一言を放つ。

「己を見失い、憔悴しているあいつに、お前達は何が出来る?何をしてやれる?まさかとは思うが『そっと見守る事しか出来ない』なんて言わんよな?」

 私の一言はラヴァーズの心に火を着けたようで、彼女達の目には並々ならぬ気合が宿っていた。

「はっ、あったりまえじゃない!」

「無論だ。あいつの事は尻を蹴飛ばしてでも元の一夏に戻してやる!」

「ええ、こうも煽られて『何も出来ません』なんて、口が裂けても言えませんわ!」

「やってやろうではないか。嫁を生き返らせるは私の……いや、私達の使命だ!」

「……頑張る!」

「あ~らら、皆燃えちゃって……。ま、それは私もだけど!」

「ならば行け。あいつを絶望の淵から引きずり上げて来い。私では無理だ。千冬さんにも出来ない。……任せるぞ!」

「「「ええ(おう)(はい)‼」」」

 私の激を受け、意気軒昂のラヴァーズ達は一路、作戦室の一夏の元へ向かった。

(まあ、あいつ等に任せておけば一夏も立ち直ってくれるだろう……)

 ところで、箒が『一夏の尻を蹴飛ばしてでも』と言っていたが、流石に本当に尻を蹴飛ばしたりせんよな?と、思いながら時計を見ると、第四波到達まであと90分を切っていた。眠るのは無理でも、目を瞑って横になるくらいは出来そうか。まあ、横にはなっていたが。

 仰向けになるように寝返りをうち、目を瞑って休もう−−

「む、村雲くん!村雲くん!」

 とした所で、今度は大慌てで山田先生がやって来た。……休ませてくれよ。

「どうしました?山田先生。まさか第四波到達が早まったとか、暴走ISの総数がエラい事になっていたとか言いませんよね?」

「……どっちも当たりです。ドイツ・フランス・イタリアの暴走ISは、偏西風を利用して加速。予想到着時刻が30分早まりました。更に……」

「更に……?」

 青褪めた顔で報告をしてくる山田先生に、嫌な予感が止まらない。

「戦力報告によると、ドイツ軍203航空機動大隊・IS中隊(12機)にフランス軍所属のIS1個小隊、イタリアからはIS1個分隊(2機)。途中でイギリス空軍機が1個小隊と北欧三州協商連合軍1個分隊、ルクーゼンブルク公国軍から1個分隊が合流したとの事。次いでAUから1個小隊、UAEから1個分隊、アフリカ大陸諸国連合から1個小隊、アメリカ・カナダ・ブラジルから合計1個中隊分もあと2時間以内に日本領空に進入する見込みです。つまり……」

「今から約2時間後には、私の所に1個増強大隊規模(48機)のISがやって来ていると……?」

「……はい」

 沈痛な面持ちで是の返事を返す山田先生。そうかー、1個増強大隊かー。……死ぬな、私。

 

 

 同時刻、ラグナロク・コーポレーションIS開発部研究室。

「完成しました……!これがあれば、窮地の九十九くんを救えます」

「よし、急いで持っていこう。ヘリを用意しろ!各空港の管制に発着時刻とルートの通告は忘れるな!」

「「「はっ!」」」

「待っていろ、九十九くん。君を独りにはせんぞ……!」

 そう言いながらモニターを見つめる藍作。そこには、たった一文こう書かれていた。

 『コード・リベリオン』

 逆撃の刃が九十九に届くまで、あと約2時間半……。




次回予告
『コード・リベリオン』それは、反逆の意志持つ者への福音。
神を喰らう魔狼の咆哮に応え、反骨の戦士はここに集う。
さあ、反撃の時間だ。

次回「転生者の打算的日常」
#98 逆撃之刃(後)
ここからは私の……私達のターンだ!

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