♢
或いは決戦前夜と銘打ってもなんら問題ないその日は、セシリアがこの世に生を受けた日でもある。
オルコット家所有の大きな城の中では、メイド達が慌ただしく動き回っている。
セシリアの誕生夜会を祝おうと、皆いつもより張り切っているのが動きから伝わる。全ては我らが主の為に。これが彼女達の精一杯の忠節の示し方なのだ。
そんな慌しい城の一室、ドレスルームでは誕生夜会に招待された一夏ラヴァーズ+2が、ハンガーラックに吊された大量のドレスを前にどれにしようかと品定めをしていた。
「ふむ……やはり私は赤にするか」
「僕はオレンジにしようかな。九十九が1番似合う色だって言ってくれたし」
「じゃ〜わたしはピンク系にしよ〜っと」
「それじゃあ私達は……」
「……水色で」
「黒か紫か……どちらにするかが問題だ。だがそれ以上の問題が……」
「さっすがセシリア。名門貴族の当主だけあってなかなかの衣装持ちじゃない。けどさぁ……」
と、ひとりごちる鈴。そう、確かに色もデザインも目移りするほど豊富にある。あるのだが−−
「あたしのサイズに合わないのよ!あれもこれもそれも!」
「うむ!」
そう、ここにあるドレスは基本的にセシリアの為に用意された物。よって、セシリアの体型に合わせた作りになっている。
セシリアより頭半分は小さい鈴がこれをそのまま着ようとすれば、あちこちズレて見えてはいけないあれこれが見えてしまう。ラウラなど言わずもがなだ。本音は発育著しいある部分のお陰で何とか着れるが、それでも大分裾が余るのは否めない。
ではどうするか。それは、意外な事に裁縫を得手とする鈴だからこそ出た結論だった。
「ここにあるドレスで、合うサイズのドレスを作ればいいのよ!という訳で箒、ちょっと生地ちょうだい!」
言うが早いか、鈴はどこからか持ってきたのであろう裁ちばさみを手に、箒が着ようと手に取っていたドレスを引っ張る。
「お、おい待て鈴!これは私が「お嬢様方、失礼致します」って、はい?」
慌てる箒を尻目に、今まさに鈴のハサミが箒のドレスに入らんとした所でドレスルームの扉が開き、数人のメイドが入って来た。突然の訪問者に、全員の動きが止まる。
「えっと、何か?」
ポカンとしながらも要件を訊いてきた箒に、メイドの一人が「はい」と前置いてからこう言った。
「村雲九十九様のご依頼により、ドレスのサイズ合わせに参りました」
「村雲様が『多分ですが、鈴が自分に合うサイズのドレスがないからと無理矢理作ろうとするでしょう。セシリアのドレスが数着目も当てられない状態になってしまうのは忍びない。鈴の為にドレスのサイズ合わせをしてやって頂けないでしょうか?ご面倒でなければ他のメンバーも合わせて』と仰られて−−」
「それで、比較的手すきだった私達がセシリア様の許可の下、こちらへやってきた次第です」
「生憎ですが時間的余裕がありません。突貫工事になりますが、それでもよろしければお召しになりたいドレスをこちらへ」
「「「あ、はい」」」
メイド達に言われるまま、自分が目を付けたドレスを手渡し、採寸の上でサイズ合わせをして貰うラヴァーズ+2。
メイド達の手際の良さは目を見張る程で、ほんの40分程で全員分のドレスをジャストサイズに直してしまった。
「では、私達はこれで失礼致します」
「誕生会開始まで、今しばらくお待ちください」
恭しく一礼し、ドレスルームから去って行くメイド達の後姿を見ながら、皆は思った。
(((メイド凄い。でもこうなる事を予測した九十九は、ホント何者?)))
((やっぱり九十九(つくも)は凄いな〜))
誕生夜会開始まで、あと20分。
♢
「それでは、セシリア・オルコット様の誕生日パーティーにお集いの皆様、今宵は盛大な祝福をよろしくお願い申し上げます」
メイド長のチェルシーがそう告げると、パーティーに集まった紳士淑女が一斉にセシリアの元へと詰めかけた。
「セシリアさん、聞けば英国の危機を救ったとか。流石ですわね」
妙齢の女性が楽しげに微笑む。
「セシリア君、英国代表候補生としての君の働きは非常に大きなものになっているね」
初老の男性軍人が恭しく頭を垂れる。
「セシリア様、折角のご帰郷ですのに、学園にお顔を出して下さらないなんてつれないですわ」
学友の少女が少し唇を尖らせる。
その他にも、様々な人物がセシリアの周りを取り囲み、いっこうに開放してくれない。
(ああもう、一夏さんはどこへ?)
奇跡の生還を遂げたもう一人の英雄は、社交界の空気に耐え切れず一人逃亡したらしい。
見れば、セシリアが用意したドレスを身に纏ったいつもの面々もまた、一夏を捜している。と、そんな彼女達に同じくドレスを身に纏った二人の(確定未来の)妻を連れた九十九が近づいていく。
「お前達に話しておきたい事がある。セシリアを連れて来るから少し待っていろ」
それだけ言うと、今度は
「失礼、皆様方。ご歓談中誠に申し訳ないのですが、セシリア嬢に少々込み入った話がございまして……セシリア」
「はい。みなさん、少し失礼しても?」
周囲を取り囲んでいた紳士淑女達は何かを悟ったように道を開けた。
「行ってらっしゃい、セシリア様。よい夜を」
「ええ、みなさんも。よい夜を」
ぺこりとお辞儀をして、セシリアは九十九と共に他の皆のいる所へ出向いた。
「ここでは誰に聞かれるか分からん。セシリア、人のいない場所は?」
「でしたら、この部屋の奥に使用人用の控え室が。今の時間なら、誰も居ないはずですわ」
「……分かった。付いて来い」
そう言うと、九十九は足早に控え室へと向かう。ラヴァーズは何事かと思いつつも九十九の後を追った。
使用人控え室に入ってもなお、自分達に背を向けて話を切り出す素振りのない九十九に、鈴が声をかけた。
「ちょっと九十九、何の話があるって言うのよ?黙ってないでさっさと言いなさいよ」
「無駄話がしたいなら後にしてくれ、私達は一夏を捜して……「その一夏の話だ」っ!?」
九十九の語調が常になく重い。それに気づいた箒は、言葉の続きを飲み込んだ。ゆっくりと振り返った九十九の顔は真剣で、その眼光は常より遥かに鋭い。
ラヴァーズは悟った。九十九はこれから、極めて重要な話……それこそ、自分達の今後に関わる話をするつもりだと。
「なあ、お前達……
ドクンッ
誰かの……いや、誰もの心臓が大きく跳ねた。それを知ってか知らずか、九十九は言葉を続ける。
「一夏は……あいつは誰かが危機に陥った時、自分の身を顧みずに守ろうとする奴だ。クラス代表戦の時も、福音事件の時も、学園襲撃事件の時も、そして今回も。あいつは誰かを守る為に自分を擲った。一切躊躇なくだ。そんなあいつの在り様が、私は堪らなく恐ろしい」
「九十九……」
「一夏はきっとこれからも、誰かを守る為に命を張るだろう。これまではなんだかんだ生き残る事が出来たが、次は今度こそ死んでしまうかも知れない。そうなった時、お前達は『一夏が死ぬ前に自分の気持ちを伝えられたからそれで十分だ』と……そう言えるのか?それで満足か?」
「九十九君、つまり何が言いたいの?」
楯無の質問に、九十九はラヴァーズに頭を下げながらこう続けた。
「頼む。あいつの楔に……『死ねない理由』になってやって欲しい。あいつにお前達の存在を心の奥深くにまで刻み込んで、あいつの無鉄砲を止める一助になって欲しい。私ではその役は力不足なんだ。お前達にしかできない、お前達にしか頼めない……お願いします」
ポタッ
頭を下げたままそう言う九十九の足下に一滴、透明な液体が落ちた。それを見たラヴァーズの心は、一致した。
「九十九、お前の気持ちは理解した。一夏の事は、私達に任せろ」
「た・だ・し、やり方はあたし達に一任してもらうわよ」
「うむ。行くぞお前たち。まずは一夏を捜し出す」
「いくつか居場所に心当たりがあります。まずはそちらを捜しましょう」
「……了解。その後は……」
「みなまで言うなよ、簪ちゃん。さ、行きましょ」
覚悟を決めたラヴァーズ達が控え室から出て行くのを、九十九は頭を下げたまま見送った。後には、九十九とシャルロット、本音だけが残された。
♢
「ククク……ハハハ……アーハッハッハ!大成功だ!これで一夏の恋愛問題は一気に解決だ!これでクソ重い肩の荷が下りるぞ!フハハハハ!あ、因みにさっきの雫の正体は
「やっぱり、そんなことだろうと思ったよ〜」
「巧みに言い方暈してたけど、あれ要するに『一夏を襲え。でもって責任取り合え』って事だよね?」
シャルの言葉に頷く。一夏は『皆を守りたい』という思いも強いが、同時に『やった事の責任は取らなければ』という思いも強い。どちらが先に仕掛けたかは別として、繋がり合った(意味深)関係になれば、一夏は間違いなく彼女達の想いに全力で応えようとするだろう。
だいいち、あいつはど鈍感な朴念人だ。それぐらいして漸く自分の中の気持ちに気づくんじゃないかと思う。
「さて、あとはあいつらに任せるとして……ちょっと出てくるな」
「どこに行くの〜?」
本音の質問に振り向かず答える。
「なーに、ちょっとばかり……
「……うん。行ってらっしゃい」
「あんまりやりすぎちゃダメだよ〜」
「大丈夫、殺しはしねえよ……殺しは、な」
そう言い残して、俺は控え室を出て行った。さあ、覚悟しなクソ兎!
♢
「あれ?どういう事?これ」
超望遠オペラグラスで城の様子を眺めていた束は、ひたすら困惑していた。
一夏のいたバルコニーに箒を始めとした彼に想いを寄せる者達がやって来たかと思えば、彼女達は次々に一夏に抱き着き、その唇に自らの唇を押し当て、更に混乱の只中にある一夏を連れ去って行った。その直前、箒の口がこう動いたのを束は見た。
『私達が、お前の死ねない理由になる。私達は、お前を愛しているんだ、一夏』
「参ったなぁ、これじゃあ計画の練り直しだよ」
頭を掻きながらボヤく束。『紅椿』の成長には箒の精神的抑圧が必要だったのに、これではそれを見込めない。
「まあ、いいや。それならそれで次を考えるだけだよ。行こ、クーちゃん」
「はい」
「何処へだ?」
ゾワッ
「!?」
突然聞こえた男の声。それと同時に周囲の空気が一気に冷えたような感覚が束を襲った。
ザッ ザッ ザッ
「もう一度訊く、どこへ行く気だ?俺の用事が終わってないってのに」
「あ、あ、あ……」
「束様?どうされたんです……っ!?」
急に震えだした束を心配したクロエが束に近寄った直後、戦慄がクロエの全身を襲った。
「なあ、聞かせてくれよ。俺の用事をほっぽって、何処行こうってんだ?あ?」
全身から殺意と怒気を迸らせながらこちらにゆっくりと歩いてくる男。クロエはその声に聞き覚えがあった。
「村雲九十九……!」
不遜にも敬愛する束に宣戦布告を行った、クロエにとっては大敵と言える男が、一体どうやってか自分達の前にいる。だがどうやってかなど今はどうでもいい。
(自分からやってきたのなら好都合、ここで叩く!)
震え上がる自分の体を叱咤して、束の前に立つクロエ。その様に、束が哀願と焦燥の混じった声を上げる。
「ダメ、クーちゃん。お願い逃げて」
「大丈夫です、束様。この男は、ここで消します」
言って、クロエは両目を開く。
(《ワールドパージ》で感覚を奪えば、後はどうとでも!)
そう考え、クロエは九十九の
(え?碧い瞳?村雲九十九の瞳は黒のはず……)
クロエの思考が僅かに逸れた、その瞬間。
ゴシャアッ‼‼
クロエの脳内に、自分の顔面が九十九の拳によって殴り潰されるイメージが浮かんだ。
しかも、《ワールドパージ》によって感覚を支配しようとしていた事が仇となり、自分の顔に九十九の拳がめり込む感触も、鼻と頬の骨が砕けた痛みと音も、血の味と匂いも全て鮮明に再現されてしまっていた。
「あっ……」
あまりに鮮明なイメージを脳に叩き込まれたクロエは、強烈な幻痛にその意識を手放した。
「クーちゃん!」
糸の切れた操り人形のように倒れるクロエを、寸前で抱き抱えた束。しかしその行為は、自分が逃げる時間を失わせる行為だった。
「よう、クソ兎。
声をかけてきた九十九と束の視線が交差した。その目を見た束は、自分がマグマと液体窒素をそれぞれ半身に浴びせ掛けられたような感覚を覚えた。
「ひっ……」
「いいみたいだな」
ミシッ……
筋肉が軋む音がする程に強く拳を握り込む九十九に、束が慌てて声をかけた。
「ま、待って「待たねえ」」
言うが早いか、九十九の拳がブレた。
バキイッ!
束が自分が殴り飛ばされたのだと気づいたのは、頬の痛みと流れて行く周りの景色によってだった。腕の中にクロエはいない。殴られた衝撃で手を離してしまったのだ。
束の体は、立木にぶつかって止まった。それを見た九十九は、再び束に向かってゆっくりと歩を進める。
「あ、が……はっ……!」
殴られた頬が灼けるように熱い。間違いなく頬骨が折れている。口の中が砕けた歯の欠片でジャリジャリする。口中鉄臭い味と匂いしかしない。木に叩きつけられたためか、体中が悲鳴を上げている。
たかが15、6の少年の、それも凡人の一撃で、自分がここまでダメージを受けた事に、束は精神的ショックを受けていた。何より、九十九の目を見た瞬間のあの恐怖感。あれは−−
(
目が合っただけで、本能が負けを認める感覚。それは、束が今まで感じた事の無いものだった。だからこそ、咄嗟に動けなかった。
「お前は、俺の大切なもんを殺そうとした。赦せねえ、赦す訳にゃあいかねえ。報いを受けさせてやるよ。この俺がなあ!」
足元の木の根が潰れる音がする程の強い踏み込みで、一足飛びに束に突っ込む九十九。拳は既に引き絞られていて、後は自分に叩きつけるだけになっている。
(避けないと……でもどっちに!?)
殴られた事で脳が揺れたのか、思考が纏まらない束はどうにか九十九の一撃を躱そうとして足が縺れ、その場にうつ伏せに倒れ込んだ。直後、頭上を九十九の拳が通り過ぎた。
生木を鈍器で殴りつけたような音がした後、束の背後にあった木がメリメリと音を立てて倒れた。
(た、助かった……。偶然、足が縺れたお蔭で)
「チッ。運の良い女だ」
舌打ちして吐き捨てる九十九。
(少しだけど足に力も戻って来た。これなら、反撃して逃げる事も……)
ベキッ
「ぎっ!」
束が立ち上がろうとした瞬間、右膝に激痛が走り、再び足に力が入らなくなった。九十九が膝を裏から踏み砕いたのだ。
「逃げようってか?そうは問屋が下ろさねえよ」
踏み砕いた膝を更に踏み躙る九十九。束は自分の右膝はもはや修復不能な程に破壊された事を、激痛に喘ぎながら理解した。
ズンッ!
「あぐっ!」
更に、九十九は束の背を踏みつけて逃げられない様にした後、そのまましゃがみ込み、拳を振り上げた。
「今度は外さねえ。安心しろ、二目と見られねえようにするだけだ。殺しゃしねえよ。嫁達に悪いからな」
次こそ間違いなく、生木を殴り折る程の威力を持った拳が自分に突き刺さる。そうなれば、自分は命は助かっても女として死ぬ。束は何とか拘束から抜け出そうともがくが、九十九の足下から這い出る事すら出来なかった。
「じゃあ、覚悟はいいか?」
ミシッ……
2度目の筋肉が軋む音が束の耳に届く。自身の女性生命の危機に、束は届かないと知りながら呟いた。
「ちーちゃん……助けて……っ!」
「あばよ、クソ兎」
九十九の全力が込められた拳は、束の顔面を確実に捉えた。
メキイッ!ベキゴキ!
骨の砕ける鈍い音が周囲に響く。束の体は一度大きく跳ねた後、ピクリともしなくなった。
♢
「すうー……ふうー……」
「終わったか」
大きく息を吐いて、心中に渦巻く怒りの念を一気に追い出していると、目の前の茂みから千冬さんが未だ気を失っているクロエを抱えて現れた。
「どうして助けなかったんです?
「……こいつは、一度徹底的に『痛い目』に会うべきだ。と思ってな」
篠ノ之博士の隣にクロエをドサリと下ろすと、ああ疲れたと言わんばかりに首を鳴らした。
「行くぞ、村雲」
踵を返してその場から離れようとする千冬さん。私はその理由について少し考えて、ふと思い至った。
「……ああ、下手に逮捕拘束して亡霊共が学園に殺到しても困るから、このまま連中に回収させてついでに治療も丸投げしてしまおうと。悪い人ですねえ」
「…………」
何も言わずに歩を進める千冬さん。……図星か。
「聞いたろう?
後ろに現れた気配にそれだけ告げて、私は千冬さんと共にそこから離れるのだった。
♢
明けて翌日、私達は日本に帰るべく城のエントランスホールに集まっていた。そこには、少しだけ歩き辛そうにしながら幸せそうな笑顔を浮かべ、何かツヤツヤしているラヴァーズと、それとは正反対に非常にゲッソリしている一夏がいた。
私はそんな一夏にそっと近付くと小声で耳打ちした。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
「っ!?」
途端、バッと音がする勢いでこちらに振り返る一夏。その目は『まさかお前が……!?』と訴えている。
「その通りだ」
「お、おま、お前……!」
「どうあれ、これでお前も分かったろう。アイツ等の想いは本物だって事が」
「お、おう。けどよ、もっとやり方……っつかやらせ方あったんじゃねえか?」
「言葉で伝わらないなら肉体言語(意味深)で伝えるしかなかろう。私もシャルと本音相手によくするし。というか、昨日もした」
ほれ、と指で差す方にはラヴァーズ同様のツヤツヤ感を魅せるシャルと本音が、ラヴァーズ達を気遣っている……のだが、その表情は言い表すなら『ニヨニヨ』で、かつての自分達を見ているかのような雰囲気だ。
「で?アイツ等の想いを受けて、お前はどうするんだ?
「……分かってる。急過ぎてまだ気持ちが追い付いてないけど、必ず皆の想いに応える。それまで……死ねないし、死なない」
「いい覚悟だ。私は……私達は、お前達を全力応援する」
男の顔になった一夏に、私は弟の成長を喜ぶ兄のような心持ちになったのだった。
こうして、一夏を巡る恋模様は一応の完結を見た。私は、もはや原作展開など影も形も無くなっているのだろうな。と頭の隅で考えていた。
♢
3日後、ラグナロク・コーポレーション第三野外演習場−−
「決着をつけよう、スコール・ミューゼル」
「ええ。これで終わりにしましょう、村雲九十九」
雪の舞う平原で、灰銀の魔法使いと炎の魔女の最後の戦いが始まろうとしていた。
次回予告
九十九とスコールの最後の戦いが始まる。
スコールの放つ紅蓮の炎に劣勢を強いられる九十九。
彼が繰り出す、起死回生の策とは……。
次回「転生者の打算的日常」
#85 魔狼対金旭(前編)
さようなら、村雲九十九くん。
まだだ!まだ終わらん!