皆様良いお年を。
追伸
新年初夢ネタは、ネタの枯渇と時間の不足により中止となりました。
代わりにコピペ改変ネタ集をお送りする予定です。元日投稿を目指しますが、もし出来なかったら申し訳ございません。
それではどうぞ!
♢
『世界から男の居場所を奪う会』残党の襲撃を辛くも脱し、英空軍基地に戻った私達は、その道すがら、男物の厚手のコートを羽織ったセシリアとバツの悪そうな顔の一夏、そしてメイド服姿の少し年上の女性……チェルシー・ブランケット嬢と鉢合わせた。
「ふむ……その様子だと、和解は成ったようだな。良かったな、セシリア」
「ええ。ありがとうございます、九十九さん」
ニコリと微笑むセシリア。が、私は彼女の格好と一夏の表情、そしてチェルシー嬢のそこここ裂けたメイド服がどうにも気になった。あの布の裂け方には見覚えがある。あれは刃物によって裂けたものだ。恐らく、剣を使った戦闘……決闘が行われたのだろう。
チェルシー嬢であれなのだから、セシリアも同等、もしくはそれ以上に服が裂けたとしてもおかしくない。それこそ、服としての体を成さぬ程に。と、いう事は……。
「セシリア、まさか……そのコートの下、裸−−「「九十九(つくも)それ以上言ったら怒るよ?」」はい!スンマセン!」
背後から圧をかけるシャルと本音にその場で全力謝罪。その様子を、チェルシー嬢がポカンとした顔で見て、その顔のままセシリアに目を向ける。それに対してセシリアはたった一言「いつもの事です」とだけ言った。
その後、セシリアの姿は他のラヴァーズによって見咎められ、何故か一夏が怒られていたのは、まあいつもの事だろう。
「………」
基地で合流を果たした私達は、英空軍が用意した大型ヘリで一路山中にあるという本作戦の要となる場所に向かっていた。
「では、改めて今回の作戦を説明する」
千冬さんが無線で全員に通達すると、場の空気がピリッとしたものに変わる。
「織斑、村雲、篠ノ之、凰、デュノア、ボーデヴィッヒは衛星軌道上の目標『エクスカリバー』に向けて重力カタパルトで上昇する。これはつまるところ、囮だ。『エクスカリバー』の攻撃が接近部隊に集中する間に、オルコットはBT粒子加速器によって地上から超長距離狙撃を行う。バックアップは山田先生と更識妹、更識姉と布仏は地上にてオルコットの護衛を担って貰う。いいか、この作戦の成否は、全てオルコットにかかっていると言っていい」
自分が作戦の要である事になみなみならぬ重圧を感じているのか、セシリアの表情は固い。そこに、向かいに座った一夏が手を差し出す。
「大丈夫だって。皆でやれば、きっと大丈夫だ」
「一夏さん……」
何やら良い雰囲気になっている二人の間に、割り込むように空中投影ディスプレイが開かれた。
「これが目標の画像だ」
それは、宇宙に漂う一振りの剣だった。全長15m程のそれが、太陽光を吸収・収束して地上に放つ画像が連続して流される。
展開時には刀身にあたる部分が割れて開き、レンズ様のフィールドを形成していた。
「これは……」
「なんか……ISみたいだな」
一夏の呟きに、私の中でいくつかの点が繋がった。
(これが軌道衛星砲で、今回の一件が只の機械的な暴走ならば、軌道上の都市にもっと被害が出ていなければおかしいし、そもそも亡国機業が協力を申し出てくる理由にならない。だが、あれがもしそうだとしたならば、いくつかの疑問が解消する。つまり……)
「『エクスカリバー』は軌道衛星砲である。この情報自体がフェイク。違いますか?千冬さん」
「「「えっ!?」」」
私の発言に驚く他のメンバーとは対象的に、千冬さんは眉一つ動かさず隣に立つチェルシー嬢に話を振った。
「ブランケット、説明を」
「はい。村雲様のご指摘通りです。『エクスカリバー』は米英共同開発の対IS用軌道衛星砲……というのは建前で、実際は生体同調型ISです」
淀みなく語るチェルシー嬢に一同は疑問を抱く。なぜそんなに詳しいのか?と。
「何故そんなに詳しいのかと申しますと、あれには私の妹、エクシア・カリバーンが搭乗……いえ、搭載されていますから」
何でもないように告げるチェルシー。一番驚いたのは、勿論セシリアだった。
「チェルシーに妹……?そんな事は−−」
「いたのですよ。戸籍から抹消された、私の妹が。……ずっと探していた妹が」
驚愕の事実だった。それを知った時のチェルシー嬢の心情を推し量りたくても、深く立ち込めた闇がそれを許さない。
「待って。日本では
流石に鋭いセシリアが、当然とも言える疑問をぶつけた。その答えは恐らく……。
「暴走したのだろう……な」
「はい。眠っていた自我が目覚めたのか、それとも別の理由があったのか、それは分かりません。しかし、今本来の軌道を外れた『エクスカリバー』は英国全土を射程圏内に収めています。そして、狙っているのは陛下の宮殿。一刻の猶予もありません」
(なるほど……な)
それを聞いて合点がいった。
故に、『エクスカリバー』を秘密裏に奪還、ないし破壊をするためにIS学園に白羽の矢を立てたのだ。最新鋭機の揃う学園は、もはや一国の概念を超越した巨大勢力と言っていい。
加えてこれは憶測だが、イギリスが篠ノ之博士の協力を取り付けるにあたって、彼女が出してきた条件に『IS学園の専用機持ちを参加させろ』があったのではないか、と思っている。イギリスとしても博士の協力は欲しい所。背に腹は変えられなかったのだろう。
「私は、極秘に開発が完了していた
言い終わって、チェルシー嬢は静かに目を閉じる。そこにどれほどの自虐が込められているのか、分かる者はいない−−セシリアを除いて。
「チェルシー、全てが終わったら……」
一夏の話によれば、チェルシー嬢はセシリアに対してさんざん挑発を行ったという。それはきっと、セシリアの成長を願ってのものだろう。それ程までに、彼女のセシリアへの忠誠は揺るぎないものだと、セシリアには分かっている。だからこそ……。
「罰を受ける覚悟は出来ています」
「そうではないわ。……今までで最高のお茶を淹れてちょうだい、チェルシー。よろしくて?」
「お嬢様……光栄でございます」
そんな二人のやり取りを冷めた目で眺めていたのは、いまや『黒騎士』となったBT2号機『サイレント・ゼフィルス』の操縦者であるマドカだ。千冬さんと別のヘリなのが彼女にとって気に入らないもののようで、露骨に舌打ちをしている。
「茶番だな」
そう告げる言葉はとげとげしい、どころではなくとげしかない。彼女は胸元のロケットを開いて中身を数秒見つめると、それを服の内側へ戻し、一夏に敵意丸出しの視線を向けた。
「決着は今度つけるぞ、織斑一夏」
その鋭い視線を正面から受け止め、一夏もまた静かに告げる。
「望む所だ」
互いの間にある確かな確執。その後二人は目的地到着まで無言を貫いた。
♢
「これが……本作戦の要か……」
人里離れた山林の奥地。そこにあったのはとてつもなく巨大な望遠鏡に似た装置だった。
「これがBT粒子加速器にして超高高度対空砲『アフタヌーン・ブルー』だ」
『アフタヌーン・ブルー』の威容に圧倒される私達に、別のヘリから降りてきた千冬さんが合流する。
先に降りていた私達を見て、千冬さんは何か言いたそうにしていたが、結局何も言わずじまいだった。恐らく、そこにマドカがいたからだろう。この二人の間にあるものは何なのか?疑問は尽きないが、今重要なのはそこではない、と意識を切り替える。
「では、各自準備に取りかかれ!BTシリーズ各機は『アフタヌーン・ブルー』との接続を、上昇班は『O.V.E.R.S』及び『スレイプニル』の最終調整だ!」
ついに、ISが宇宙に上がる時が来た。だがそれは『IS打倒の為にISを宇宙に上げる』という、矛盾を孕んだものであった。
「ついに宇宙へ、か……」
一人進捗の遅れている一夏の『O.V.E.R.S』調整作業を眺めつつ小さく溜息を漏らす。
いくら最新鋭機の揃うIS学園の、それも専用機操縦者とはいえ、一年にも満たぬ間に色々あり過ぎだと思うのは私だけだろうか?IS学園は一体、どこへ向かっているのだろう?と考えてしまう。
(それに……この妙な胸騒ぎ。私の中の危機管理意識が警告を発している?)
胸騒ぎ自体は数日前から微かに……それこそ無視できるレベルでしていたが、ここに来て突然無視できないほど大きくなっている。
(強すぎる力に対する恐怖……ではない。この感じは失う事への恐怖が一番近い……。私はこの作戦で何かを失うのか?だとして何を……?)
「九十九、そろそろ発進準備だって!」
「ああ、今行く」
シャルの呼ぶ声に返事をし、重力カタパルトへ足を向ける。止まぬ胸騒ぎを振り払うように頭を振り、頬を張るが、胸騒ぎは消えてくれなかった。
♢
「それでは作戦を開始する!」
地面に刺さった3つの突起物、重力アンカーの中心に各人が待機する。
一夏、九十九、箒、鈴、シャルロット、ラウラの6人が、それぞれ重力カタパルトにIS展開状態で身構えた。
「発射まで、10、9、8、7、6……」
真耶と共に施設内部でオペレーターを務める簪が、秒読みを開始する。
「…………」
それぞれが覚悟を決めた表情で、その時を待つ。
重力カタパルトに力が集中、一瞬の浮遊感の後、内向きだった重力アンカーが一斉に外側へと展開する。
「3、2、1−−発射!」
ドン!
短く大きな音と同時に射出が行われる。一気にISの限界速度に到達した6人は、大気圏を突破すべくそれぞれのパッケージを起動して加速を維持した。
「頼んだぞ……」
モニター越しに、地上を離れていく6人を見つめながら、千冬は僅かに感じている不安を振り払った。
「それでは、BT各機はBT粒子を集中して加速器に送り込め。狙撃はこちらの管理で行う」
「はい」
BTシリーズ3機の内2機が亡国機業の手の者という事態には危機感を抱かずにはいられないが、もうそんな事を言っていられる状況ではない。とにかくもう、時間が無いのだ。
施設内部では男女混成のスタッフ達が忙しく走り回っている。
「関係各相への説明とマスコミ対策、完了しました」
「皇室の避難、95%まで進んでいます」
「『アフタヌーン・ブルー』の稼働率、現在70%を維持。上昇、開始します」
「宇宙班のIS各機のエネルギーシェアリング、良好です」
各セクションからの報告を聞きながら、逐一動き続ける状況に千冬と真耶は全て目を通していく。何せ、今回の作戦には生徒の命がかかっている。些細な事でも見逃す訳には行かない。
(そもそも『エクスカリバー』暴走の原因は何だ?何故、このタイミングで……)
考えられる可能性は1つしか無い。
篠ノ之束。
希代の天才の、またしても計略だと言うのか。
(いいだろう。それなら−−私もまた、容赦はしない)
そう、心に誓う千冬だった。
♢
「これってどのくらい役に立つんだ?」
成層圏を間もなく突破しようかという時、一夏が持たされたシールドにふと疑問を持った。
「相手は
そう言いながらも、一夏はどこかのんきだ。
「一応、この物理シールドはISのエネルギー・シールドを接続する事で、その効力を何倍にも引き出せるという代物だ。問題はない。我がドイツの開発だしな」
とラウラが言う。その顔は、いつに無く緊張していた。
「ラグナロク開発の《スヴェル》も持って来てあるし、いざとなれば私の《ヨルムンガンド》で吸収すれば、『エクスカリバー』のエネルギー量が想定値内なら一度までは吸収しきれる。いける……筈だ」
そう自分に言い聞かせるが、胸騒ぎは収まるどころか宇宙が近づく程に大きく膨らんでいく。そこに、一夏が締まった声を上げる。
「−−箒、絢爛舞踏の
「一夏?急にどうし−−」
「前方に高エネルギー反応!来るぞ!」
「
一夏が叫ぶと同時、私達は一斉にその場から散開。直後、先程までいた空間を強力な熱線が薙ぎ払っていった。膨大な熱量に、空間に震えが走る。
「な、何だこの出力は!?」
驚愕を浮かべながら、ラウラは『エクスカリバー』のデータを取り出す。
「想定の3倍だと!?馬鹿な!これでは−−」
「ラウラ!集中して!」
シャルの注意にハッとしたラウラは、ウィンドウを閉じると再度襲い来る熱線を避ける。
「箒、鈴、シャル!対地警戒!セシリア達をやらせるな!」
「分かってるわよ!」
「任せて!」
そう言って、鈴とシャルは本作戦用に用意されたミサイルランチャーを構えて発射した。
特殊なレーダー妨害装置を搭載したそのミサイルは、ISのセンサーでは感知不可能……の筈だったが、ミサイルは実にあっさりと熱量に薙ぎ払われた。
「ちょっと、簡単に落とされたわよ!?」
「センサーが感知できないんじゃなかったの!?」
「ええいっ、肝心な時に役に立たん!」
これはだめだと、全員がミサイルを宇宙空間に放り捨てた。
「ついに、宇宙か」
IS、初の宇宙進出。だが、そんな感動はどこにもない。
襲い来る熱線を避ける私達は、宇宙のあまりの乱雑さに驚いていた。まず、散乱する大量の
「とにかく、近づきさえすれば!」
そう叫ぶと、一夏は
「……おいおい、嘘だろう?」
「分離した!?」
『エクスカリバー』はその刀身を4つに分け、それぞれが子機の役割を果たす多機能攻撃衛星へと変貌したのだ。
「箒!絢爛舞踏で全員にエネルギー・シールドを!」
「分かった!」
私の指示に頷く箒。しかし、そこで予想外の事態が起きた。
ボンッ!
「なっ!?」
爆発音と共に、『紅椿』の背に搭載されていた『O.V.E.R.S』が弾け飛んだのだ。
「おのれ、欠陥機か!」
箒はすぐさま『O.V.E.R.S』を切り離すと、単独での絢爛舞踏を展開する。しかし、その間に『エクスカリバー』は地上で集中する高エネルギー反応に気がついた。−−セシリア達だ。
「いかん!」
「まずい!」
私と一夏は瞬時加速で『エクスカリバー』の射線上に飛び込む。
「一夏!私は《ヨルムンガンド》で出来る限りエネルギーを吸収する!お前は−−」
「分かってる!エネルギー・リンク、《雪羅》のシールドを多重展開!これで!」
正面から襲い来る熱線。それを《ヨルムンガンド》で吸収するが、すぐに許容限界が訪れた。
「駄目だ、これ以上は受け止めきれん。シャル!」
「了解!エネルギー・リンク、『フェンリル』の余剰エネルギーを受け入れ……って、ダメ!エネルギー量が多すぎる!これじゃあ、こっちもすぐいっぱいになっちゃう!」
『スレイプニル』のエネルギー許容量は、一般的なIS3機分はある筈なのだが、その許容量を持ってしても数秒で限界が訪れてしまう。
「シャル!エネルギーを明後日の方向へ放出するんだ!それでどうにか……」
「ごめん!切り替えが間に合いそうにない!」
「くそっ……!」
シャルの悲痛な声に思わず悪態が出てしまう。と、突然横あいから衝撃が加わり、私は大きく弾き飛ばされた。一夏が瞬時加速で私を押しのけ、熱線をシールドで受け止めたのだ。
「くっ!」
「「「一夏!」」」
その場にいた全員が叫んだ。一人で受けとめるにはあまりにも強大なエネルギーを前に、一夏のシールドは徐々に融解していく。
「何という無茶を……!待っていろ!今私も−−「九十九!」っ!?」
突然、一夏から名を呼ばれ、思わず身がすくんだ。胸騒ぎが、最高潮を迎える。
「あとは……頼んだ!」
決意を秘めた顔でそう言う一夏。……そんな顔をされたら、こう言うしかないじゃないか。
「……ああ、任された……っ!」
絞り出すように言う私の心中を知ってか知らずか、一夏は一瞬微笑んだ。直後、一夏は光の中に呑み込まれた。
「「「一夏ああああっ‼」」」
「そんな……そんな……っ‼」
3人の叫びと、シャルの嘆きが、漆黒の宇宙の闇に木霊した。
♢
「お、織斑くんの
真耶が驚愕の事態を告げる。千冬は呆然と、目の前のモニターを見つめていた。もはや、その目には絶望しか映っていない。
織斑一夏は……死んだのだ。
次回予告
最愛の人を失い、悲嘆に暮れる少女達。しかし、時は待ってくれない。
彼女達はせめて一夏への手向けにと、聖剣を破壊する事を決意する。
だが、往々にして奇跡とは、最高のタイミングで起こる物だ。
次回「転生者の打算的日常」
#83 白之帰還
お前って奴は本当に……最高だな!