転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#70 策動

「だからよー、お前の瞬時加速(イグニッション・ブースト)にはムラがあんだって!」

「いや、それをイーリスさんが言います?あの時、思いっきり壁突き破ってたじゃないですか」

「てめ〜、口答えとはいい度胸だ」

「いたたたた!ギブ、ギブ!」

「何してんだか、全く……」

 戦闘現場に程近い臨海公園。そこで、一体何がどうしてそうなったのか、互いに戦術批評じみた事をしながらじゃれ合っている(ように見える)一夏とイーリス・コーリング女史。

 この二人、ついさっきまで互いに本気でやり合っていた筈だが、何がどうなればあそこまで仲がいい感じになるんだ?

「ん……簪ちゃん……?」

「あ、お姉ちゃん!気がついた?」

 半分呆れ、半分感心しながら二人のやり取りを見ていると、簪さんに膝枕されていた楯無さんが目を覚ました。

「ようやくのお目覚めですか。と言っても、ほんの10分かそこらですが」

「ねえ、簪ちゃん。悪いんだけど……」

 言いながら楯無さんが指差した先には、未だコーリング女史と言い合いともじゃれ合いとも取れるやり取りをしている一夏の姿が。

「チェンジで」

「はいはい。そういう冗談を言えるなら、もう大丈夫だね」

「はは……」

 簪さんは楯無さんの言葉をいつもの冗談と受け取ったようだが、今の言葉は本気だと私は思った。何故って?目がマジだからだよ。

(これ、ラヴァーズが楯無さんの想いに気づいたらエライ事になるだろうなぁ……)

 簪さんにバレないよう、そっと溜息をつく私だったが、その危惧は割と早い段階で実現する事になるとは、その時はまだ気づいていなかった。

 

 楯無さんが気づいた事に気づいた一夏が、コーリング女史と共に近づいてくる。どういう経過を経て和解に至ったのか少々疑問だったので訊こうとした瞬間。

「一夏くん」

 近づいてきた一夏に、楯無さんが声をかけた。

「はい?」

「あのー、ね?その……」

 何か言いたそうにもじもじする楯無さん。……ああ、そう言えば原作では高級レストランでディナーをする約束をしていたっけか。

「村雲くん、コーリングさん。こっち……」

 楯無さんに気を利かせた簪さんが、私とコーリング女史を連れて二人から離れる。

「……いいのかね?簪さん」

「今日はいい。お姉ちゃん、頑張ったから」

「その割に昼間必死に二人を探していたような……」

「……見てたの?」

「一瞬だけ、ね。一夏にだってプライベートはある。過干渉は奴に悪印象を与えるぞ、簪さん。ラヴァーズも」

「うう……」

 少しヘコんだ簪さんが話題を変えようと視線を動かす。すると、ある一点で目の動きが止まった。

「あの、村雲くん?」

「何かね?簪さん」

「その、右手薬指に着けてる指輪、昨日まではなかったと思うんだけど……もしかして……?」

「ん?ああ、これか。君の予想している通りの物だ。二人も、デザインは違うが着けているよ」

「そ、そう……。えっと、おめでとう?」

「何で疑問系だ?でも、ありがとう」

 祝辞を述べ、軽く頭を下げる簪さんに会釈を返す。すると、さっきまで聞き役に徹していたコーリング女史が私に話しかけてきた。

「村雲九十九、だよな?お前。なに?お前もう結婚相手いんのかよ?しかも二人も」

「ええ、まあ。二人共、私如きには勿体無い程の良い女です」

 そう言う私の頬は多分微かに赤く染まっていたと思う。ちょっと気障ったらしかっただろうか?

「そう言う事をサラッと言えるとか、お前スゲえな……」

「私も……そう思う」

 言いながら、急に口の中に飴玉でも放り込まれたかのような顔をする簪さんとコーリング女史。一体どうしたのだろう?

 

 話も終わり、一夏と楯無さんが何処かに夕食を取りに行ったのを見送った後、コーリング女史が「じゃあ、あたしはこっちだから」と言って歩き去っていく。

 ここから米軍に接触しようとするなら、最も近いのは横須賀基地だろう。ISの通信機能で連絡を取りながら、コーリング女史は夜の市街地へと消えて行った。

「さて、私も帰るとするか。シャルと本音が夕食を作って待っているはずだからな。簪さん、言っておくが……」

「分かってる。二人のことは追わない」

 コクリと頷いて学園最寄りの駅に向かう道を歩き出す簪さん。帰り道は同じなので、自然並んで歩く事になる。

「…………」

「…………」

 共通の話題が無い為、互いに無言の時間が続く。……間が持たん。

「……あの、村雲くん」

「ん?」

 と、思っていた所に簪さんが声を上げる。

「何か訊きたい事でも?」

「あ、うん。あの……本音のどこに惹かれたの?」

「最初は小動物のような愛らしさに。次に一緒にいるだけで心が穏やかになる、春の陽気のような雰囲気に。最後に自分を偽らず、常に本音で接してくれる姿勢に、かな」

「デュノアさんは……?」

「最初はあの吸い込まれそうな程に美しい藤色の瞳に。次にそれだけで落ち着いた気分になれる、夜空を照らす月のような雰囲気に。最後に柔らかくしなやかでありながら決して折れる事のない芯の強さに、だな」

「……二人のこと、よく見てるんだね」

「当然。愛した女を隅まで見なくてどうするんだって話だろ?」

「一夏に聞かせたい……」

 はぁ、と溜息をつく簪さん。ただ簪さん、この話を一夏にした所で「九十九ってスゲえな」で終わると思うぞ。きっと。

 

 その後、特に何か話をする事もなく一年生寮に帰って来た私と簪さんを、シャルと本音が出迎えた。

「お帰り、九十九」

「あれ〜?なんでかんちゃんと一緒なの〜?」

「『例の件』で出先でバッタリな。別々に帰る理由もないから一緒に帰った」

「そうなんだ」

「うむ、そうなんだ。さ、部屋に戻ろうか。ああ、そうだ。簪さん」

「……なに?」

 不意に声を掛けられた事に少し驚いた顔をしながら簪さんが私に目を向ける。

「今日はお疲れ様。明日()()よろしく」

「うん……よろしく……?」

 私の物言いに何処か引っかかる物を感じたのか、不思議そうな顔をして自室へと帰っていく簪さん。

「ねえ、九十九。今の簪に向けた言葉、どういう意味?」

「明日になれば判る事だよ。それより夕食にしよう。もう腹ペコだ」

 敢えて言葉を濁し、二人を連れて部屋に帰る私。二人はしばらく「気になる」と言って私に問うて来たが、私が「明日判る」の一点張りをした事でようやく諦めてくれた。さて、明日が楽しみだなぁ。ふはは。

 なお、遅れて帰ってきた一夏と楯無さんがラヴァーズとひと悶着起こしたらしく、学園正門近くから斬撃音と発射音と衝撃音が響くという事態が発生した。まあ、いつもの事だが。

 

 そして、翌日。

「という訳で……やっほー、一夏」

「や、やっほー、一夏。……昨日村雲くんが言ってたの、こういうことだったんだ……」

 朝のホームルームの時間。場所は一年一組教室。そこに、鈴と簪さんの姿があった。

「……どゆこと?」

 微妙にキャラが崩れた言い方で一夏が千冬さんに訊いた。千冬さんは、自分で説明しようかと思ったがやっぱり面倒臭いなという顔を一瞬だけして、山田先生に丸投げた。

「山田先生、説明を」

「はい。この度、一年生の専用機持ちは全て一組に集める事にしました。それもこれも、先日の大運動会の結果を、生徒会長なりに判断した結果です。……うう、今から胃が痛いです」

 この先、確実にこのクラスを中心に騒動が起きる事を予想してか、山田先生が胃の辺りを押さえて弱々しく呻いた。

「山田先生、我が社の薬学部門がストレス性胃炎に良く効く胃薬を開発したそうです。私の伝で安く仕入れましょうか?」

「お願いできますか?村雲くん」

「お任せを。……私で良ければ、愚痴聞きますよ」

「うう、ありがとうございます……」

 私と山田先生のそんなやり取りを尻目に、千冬さんが言葉を続ける。

「これで事実上クラス対抗戦は出来なくなってしまった訳だが、専用機持ちの訓練はこちらで特別メニューを組んでやる事にした。喜べ、ヒヨッコ共」

 千冬さんの容赦ない言葉に専用機持ち達がげんなりする−−と思いきや、実際にそうなったのは私とシャルだけで、ラヴァーズは早速一夏の隣の席の奪い合いをしていた。

「じゃあ、あたし一夏のとーなりっと!」

「ちょっと鈴さん、なにを勝手に席を決めてますの!?」

「そうだぞ、嫁の隣は私とて希望したいところだ」

「おい、席をくっつけ過ぎだ!」

「……先生、席替えを希望します」

 わいわいと騒ぐ一同を、深い溜息をついた千冬さんが一人づつ出席簿で叩いて回った。

「やれやれ。歴代最強にして最大の問題クラスになったな」

「心中お察しします、織斑先生」

「もう一人の災禍の中心が何を言うか」

「あれ?私って千冬さんの中でそんな認識?」

「「気にしないで、九十九(つくも)」」

 千冬さんに火付け役(トラブルメーカー)扱いされてちょっとヘコむ私を二人が慰めてくれた。やはり私の天使だよ、この二人は。

 

 ちなみにこの後、私達三人の右手薬指に輝く物の事でもうひと騒動あったのだが、それは甚だ余談だろう。

 

 

 時間を遡り、九十九達がそれぞれの帰路に着いた頃−−

「はぁ。まったく……」

 都内某所、亡国機業(ファントム・タスク)所有の隠れ家(セーフハウス)

 ようやくの思いでそこに辿り着いたスコールは冷たい床に倒れ込んだ。損傷を受けた左腕からはグリスがじわじわと漏れ出し、時折火花が散っている。一刻も早く修理したい所だが、完全な機械義肢(サイボーグ)というのは一度ダメージを受けるとその修理と調整に酷く手間がかかるのだ。

「代わりの腕を取りに行きたいけど、これじゃあねぇ」

 あちらこちらが裂け、煤と泥でボロボロのドレスを一瞥し、スコールは一人苦笑する。

「囮でスコールの名前を残して置いたのが仇になったわね。そう思わない?オータム」

「…………」

 スコールが暗がりに向かって声を掛ける。すると、いつからそこに居たのか、暗がりに潜んでいたオータムが姿を現す。

「感想を聞かせてちょうだい」

 そう言って、スコールは二の腕からちぎれた機械義肢をオータムに向ける。

「がっかりしたかしら」

 オータムはただ黙ってスコールに近づくと、剥き出しになった機械部分をグリスが手に付くのも構わずに優しく撫でた。

「知っていたさ。お前の体のことは」

「あら、意外」

 スコールは少し驚いてから、少女のようにくすくすと笑う。その笑い声には僅かだが自虐の色が含まれていた。

「無理をするなよ。機械の体でも、痛みはあるんだろ?」

 続けざまの意外な言葉に、スコールは目を丸くする。

「私が敵を討つさ。今は少し、休んだ方がいい」

 優しいオータムの言葉は、恋人であるスコールを思ってのものだ。その優しさに甘えたくなる気持ちを抑え、スコールはあえて突き放すように冷たく言い放つ。

「……少し遠いけれど、パーツを取りに行きましょう。そこには、私とあなたの追加武装もあるわ」

「ああ、そうしよう」

 オータムは頷いて、スコールの隣に腰掛ける。スコールは何も言わない。オータムも何も言わない。

「ねえ」

 どれ程時間が立ったろうか、長い沈黙の後でスコールが言った。

「キスしましょう?」

「ああ」

 二人は寄り添うように、恋人同士の口づけを交わした。

 

 

 スコールとオータムが互いの愛を確かめあっていた頃−−

「でっきたよーん!」

 スコールが用意したホテルの最上級スイートルームを勝手に改造して開発室化していた束は、そう言うなりマドカに抱きついた。

 マドカが反射的に引き抜いたナイフを、束は軽く指二本で挟んで圧し折った。

「ああん、もう。可愛いなあ、マドちゃんは!」

「やめろ……それより、私の機体は仕上がったのか?」

 心底鬱陶しそうにするマドカに、束はかつての千冬を重ねて見ていた。

「んふふー、モチのロン!さあさ、ご覧あれ!これぞ白を討ちし闇の担い手!その名も−−」

 

バサアッ!

 

 束がISに被さっていたカーテンを勢いよく取り払う。果たして、そこに現れたのは−−

「『黒騎士』!マドちゃんの専用機さ!」

「『黒騎士』……。これが、私の……」

 全体に鋭角的なフォルム。宵闇より尚暗い漆黒の装甲。それらが、圧倒的なパワーと禍々しさをマドカに伝えてくる。

「これで、私は……姉さんを超える……!」

「おっとっと。焦っちゃダメダメなのさ~。物事には順番があるよね?」

 そう言って、束はマドカの顔を覗き込む。その顔は、悪戯を思いついたかのようなニンマリ笑顔だった。

「最初のターゲットは、ね−−織斑一夏(いっくん)がいいと思うな♪」

 

 

 束がマドカに『黒騎士』を披露していた頃−−

 米国某所、地下会議室。そこで、12人の男女が膝を突き合わせていた。

「エイプリル、君の『ラファール』の戦闘記録(ログ)は見せて貰った……」

「ISの記録映像は、基本的に改竄出来ないようプロテクトがされている事は勿論知っている」

「その上で敢えて訊こう。あれには、一切の加工も編集もないのだな?」

「ええ、そうよ。この映像は、紛れもなく私の目の前で実際に起きた事。私の名と誇りにかけて、一切の改竄はないと誓うわ」

 男女が見ているのは、メルティが九十九に2度目の復讐戦を仕掛けた時の記録映像。そこには、鮮血に塗れ、鮮やかな碧い瞳を輝かせながら酷薄な笑みを浮かべる九十九が映っていた。

「ありえん……女の細首とはいえ、徒手空拳で首を刎ね飛ばすなど……」

「でも、事実彼女の首は切り落とされた。それができる程の膂力と速さがあったって事でしょう?」

「だが見ろ。彼自身の腕もズタズタだ。そのパワーに体がついて行っていない証拠じゃないか」

 意見を交わす男女を尻目に、映像は進んでいく。九十九はエイプリルの足下にメルティ()()()()を放り捨てると、こう言い放った。

『これを持って帰り、お主の仲間に伝えよ。「村雲九十九(これ)は神たる我の所有物。迂闊に手を出せばこうなるぞ」とな』

「……神たる我……ねえ。すると何?村雲九十九は『神に愛された男』って事?」

「いや、その前にこの自称『神』は彼の事を『我の玩具』と言っている。むしろ『神の遊び道具』なんじゃないかい?」

「ふん、何が神だ馬鹿馬鹿しい。どうせ解離性同一性障害……いわゆる多重人格だろう」

「いえ、彼の家庭環境は多少突飛な所はあっても平穏そのもの。解離性同一性障害を起こすとは考え難い……」

 彼らの目の前に広がる資料には、九十九の家庭環境やこれまでの経歴が事細かに記載されていた。それを見れば、九十九が解離性同一性障害を起こす事は考え難い事はすぐ分かる。

「まあ、その自称『神』の事は置いておいて……。凄いな、彼。手紙一枚で悪童共を押さえつけるなんて」

「クズ教師を自分の仕業と悟らせずに学校から追い出す、なんてこともしてるわね」

「友人にイジメの相談を受けて、言い逃れ不可能な程大量のイジメの証拠を揃えて学校長と教育委員会と警察に提出とか……当時小学生だろ?普通考えつくか?」 

「情報が何よりの『武器』になる事を知っているのよ。味方になれば頼もしいけど、敵に回せば恐ろしい相手だわ」

「確かに……では、彼をどうする?」

「取り込みはまず不可能でしょう。彼が我々に味方するメリットがない」

「なら、暗殺でも仕掛ける?」

「既に15人の殺し屋を送り、その全てが帰って来ていない。この意味分かるか?誰もあの少年に指一本触れる事はおろか、顔を見る事すらできずに返り討ちに会ってるんだよ」

 俺の手駒でもトップクラスの実力者が、だぞ。という男に、暗殺を提案した女が戦慄した。つまり九十九の周りには、殺し屋を殺せる殺し屋、もしくは守り屋が常駐している。という事になるのだ。恐らく、当の九十九本人は知らない事だろう。

「じゃあ、ハニートラップを−−「無駄だな。彼の身持ちは固い。徒労に終わるだけだぞ」…………」

 実際、亡国機業の女性エージェントが街中で九十九にモーションを掛けたが、九十九は相手にしないどころか完全に無視を決め込んだため、その女性エージェント(顔とプロポーションに絶対の自信あり)は物凄く落ち込んだらしい。

「彼自身の能力と、彼の周囲の人間の能力が高すぎて迂闊に手出しが出来ん、という事か……」

 九十九の事が邪魔といえば邪魔だが、下手に手を出せば余計に面倒な事になりかねない。解除しようとした瞬間に爆発する爆弾。それが、彼らにとっての九十九という存在だった。

「……やむを得ん、村雲九十九に関しては当面手出し無用とする。という事で良いか?」

「「「異議なし」」」

「よろしい。では次だ。京都で進めている作戦だが、どうも更識に嗅ぎ付けられたようだ」

「好都合じゃない?彼女の性格なら、間違いなく京都に学園の全戦力を投入するでしょうね」

「では……?」

「ええ。その隙を突いて学園所有のIS30機、全部奪ってしまいましょう」

「ふむ、悪くない提案だ。では諸君、京都での作戦は『モノクローム・アバター(スコール隊)』に全権を委任し、我々はIS学園襲撃の別部隊を編成して事にあたる。という事で良いか?」

「「「異議なし」」」

 夜より暗い闇の中、歪んだ欲望の魔の手が学園に迫ろうとしていた。

 

 

 亡国機業の上層部が行動選択のための会議を重ねていた頃−−

「藍作。連中の次の動きが分かったぞ。京都だ」

「そうか……。槍真、更識のお嬢さんはどう出ると思う?」

 マホガニーの机から葉巻を取り出し、火を着けながら槍真に訊く藍作。それに槍真は、顎に手を当てて僅かに思考した後答えた。

「多分、学園にいる全ての専用機持ちを動員して、敵の実動部隊の壊滅に乗り出すだろうね。そうなれば……」

「ああ、学園の戦闘力がガタ落ちするタイミングを、亡霊共が見逃すはずが無い。必ず何かを仕掛けてくるぞ」

 そう言うと、藍作はIS開発室に内線を繋いだ。

『はい、IS開発室です』

「私だ。絵地村君に繋いでくれ」

『はい、社長。少々お待ちください…………はい、絵地村です。御用ですか?社長』

「ああ。例の機体、進捗が訊きたくてね」

『現在最終調整に入っています。あと1週間あればロールアウト可能かと』

「遅いな。4日でやってくれ」

『それは……いえ、やって見せましょう。……社長、このISは歴史を変えますよ』

「ああ、局地的気候操作兵装《ユピテル》を搭載した空間支配を得手とする第三世代IS。その名は−−」

『「『プルウィルス(雨を齎す者)』」』

『それで社長。この機体のパイロットですが……本当によろしいのですか?』

「ああ、九十九くんの伴侶となる以上、あの子も今後狙われないとは限らない。自衛の手段は必要だ」

『……分かりました。ではIS学園には私から話をいたします。『プルウィルス』のパイロットに、布仏本音嬢を指名する。と』

 

「はくちっ!」

「ん?どうした本音?」

「体調でも悪くした?」

「ん〜、そんなことはないけど〜……誰か噂したのかな〜?」

 鼻の下を擦りながらのほほんと言う本音。だがこの時、彼女はこの後自分の身に起きる事を全く予想できていなかった。

 楯無が専用機持ち全員に『京都研修旅行の下見に行く』と宣言するまで……あと1週間。




次回予告

ついに掴んだ亡霊の尻尾。その在り処は、千年王都。
専用機持ち達は亡霊を祓うべく西に向かう。
その一方で、手薄になった学園に忍び寄る影もあった。

次回『転生者の打算的日常』
#71 上洛

これが君の専用機『プルウィルス』だ。

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