転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#67 体育祭(午後)

「村雲くん、準備出来たわよ」

 競技場の設営を終えた先輩の報告に首肯で返し、私はマイクのスイッチを入れた。

『それではこれより、第五種目『軍事障害物競争』のルールを説明する』

 グラウンドに私の声が響いた途端、生徒達のざわつきが消える。全員が緊張の面持ちで私のいる実況席に視線を向けていた。

『各チームは代表者を3名選出、各選手はまず解体された状態のライフルを組み立てて弾を込め、それを持って各障害を突破。最後にゴール前のターゲットを撃ち抜いてゴール。但し、一度に持って行ける弾は1発まで。的射ちを外した場合は、弾を取りに戻ってもう一度やり直しとなる。以上、何か質問は?』

 

ズババッ!

 

 瞬間、挙がる無数の手。この時点で、私が『訊かないと答えない人』だという事は、この場の全員に完全に浸透したようだ。

『では、代表してラウラ』

「障害の内容を教えろ」

『そう言われても……見ての通りだが?網潜りに橋渡り、あと地雷原』

「「「地雷原!?」」」

 しれっと言った私の一言に、女子達は驚きの声を上げる。

『ああ、心配はいらない。地雷と言っても、害獣駆除目的に開発された特殊な地雷だ。音と光は派手だが、怪我はしないように出来ている』

「「「なーんだ、なら安心……できるかっ‼」」」

『うおっ!?』

 一年生徒全員によるノリツッコミの大合唱。ビックリした私は、椅子に座ったまま仰け反ってしまった。

「地雷原もそうだが、他の障害も危なそうな物ばかりではないか!?」

「ちょっと九十九!あの網なに!?ぱっと見茨じゃない!」

 鈴が指差す先には、刺々しい茨で編まれた痛そうな見た目の網が横たわっている。

『あの茨の網は、シリコンゴムで出来た特別製だ。棘は先が丸くなっているから刺さる事はない。危険はゼロだ』

「橋渡りと言うが、あれはどう見てもガラス製だろう!」

「しかも地上5mの位置にありますわよ!?」

 ラウラとセシリアが見つめる先にあるのは、数枚の一枚ガラスが掛かった巨大な橋。突貫工事感丸出しの無骨な物だ。

『耐荷重300㎏のアクリルガラスだから、破れる事はない。それに、落ちても大丈夫なようにウォーターマットが敷いてある。怪我をする事はない』

「……いくら音と光だけと言っても、地雷を踏んだら危険」

『目を凝らせば何処に埋まっているかは一目瞭然になっている。回避は可能だ』

 一夏ラヴァーズから矢継ぎ早に飛んでくる質問(と言うか非難)に、同様に矢継ぎ早に返す私。安全性は確保してある、という事が分かったのか、他の女子からの質問は無かった。

『質問は以上か?ならば、各チームは代表者を3名選出してくれ。それが終了し次第、競技を開始する』

 私が質問を打ち切ると、各チームは代表者を選ぶ作業に入った。さて、誰が出てくるかな?

 

 

『はい!という訳で、『軍事障害物競争』まもなく開始です!解説の九十九くん、今回のポイントは?』

『そうですね……。やはり、いかに素早くライフルを組み立てられるかでしょう。ライフルを組み立てるのが早ければ早い程、他の選手に先んじる事ができますから』

『なるほど……。一夏くんは?』

『えっと、九十九が仕掛けた障害物をどう攻略するか……ですかね』

 実況席で楯無達が本競技の見所を話している間に、第一走者が出揃った。その中には本音の姿もあった。

『あ、九十九くん。本音ちゃん出るみたいよ?』

『本音ー!無茶しない程度に頑張れー!』

『だから贔屓すんなって!』

『妻を贔屓して何が悪いか!?』

『言い切ったわねー、九十九くん』

 九十九から声援を受けた本音が少し恥ずかしそうに、だがとても嬉しそうに身を捩らせるのを、他の出走者が『いいなぁ』という顔で見ていた。

「んんっ!オンユアマーク……」

 スターターの先輩の声にハッとした出走者が一斉にコース方向を向いてスタート体勢を取った。

「セット……」

 

パンッ!

 

 号砲一下、走り出す選手達。すると、当然と言うか何というか、本音が集団から一歩出遅れた。

『のほほんさん、やっぱり遅っ!』

『大丈夫だ。あの程度の遅れならすぐ取り返す』

『え、でも……』

『まぁまぁ、見てなさい』

 最後にテーブルに辿り着いた本音は、銃のパーツをコトコトと並べ替えて行く。その間にも、他の選手達はテキパキと銃を組み立てていく。

『何してんだよのほほんさん……!』

『一夏、焦れるのも分かるがよく見ていろ。一瞬だ。見逃すなよ』

 焦れる一夏を九十九が窘めた次の瞬間、本音の手には組み上がった銃が握られていた。

「じゃっじゃじゃーん♪」

 どこにも歪みのない、完全な完成形のライフル。それを誇らしげに両手でかざし、本音は他の選手が唖然とする中、二歩も三歩もリードして走り出した。

『見事!流石だ、本音!』

『う、ウソだろ。あののほほんさんが……』

『あの子、物を組み立てるのが上手なのよ』

『上手ってレベルじゃないでしょ、あれ!』

『姉妹揃って整備科のエースね。九十九くんが本音ちゃんに自分のISの点検整備(メンテナンス)を任せるのも当然だわ』

 自慢げに語る楯無の言葉に、一夏はそう言えばそうだったと思い出した。

 どんな物でも『分解』する虚。あらゆる物を『組立』る本音。IS学園でも有名な布仏姉妹とは、彼女達の事だったと。

 

 実況席が盛り上がる中、本音は(シリコンゴム製)茨の網を「ちょっと痛い〜」と言いながらもクリア。更に5mの梯子を登って強化アクリルガラスの橋に辿り着いた所で、黒組の代表が追いついてきた。

「追いついたわよ布仏さん。ラウラ隊長の特訓が役に立ったわ!」

 一気の追い上げをすべく、黒組代表がガラスの橋に足を踏み出した瞬間、それは起きた。

 

バリ……

 

「え?」

 足下から不穏な音がしたのを聞いた黒組代表が足下に目をやると、そこには蜘蛛の巣状の罅が入ったガラスの橋が。

「ひっ……!きゃあああっ!?」

 突然の出来事に慌てた黒組代表は踏み出した足を戻してへたり込み、その状態のまま九十九に抗議をする。

「む、村雲くん!どこが破れることはないよ!」

『何の事だ?』

「何のって!さっき橋がバリって……あ、アレ?直ってる?どういうこと?」

 黒組代表の呆然とした顔に、九十九はしたり顔で解説を始める。

『その橋には、強化アクリルガラスの間に重量センサーと有機ELを用いたディスプレイが挟んであってな。20㎏以上の荷重がかかるとガラスが割れるような音と共に、足を置いた所を中心に罅の画像が映るようになっているんだ。実際には割れていないから、安心して進んでくれ』

『「「悪趣味!」」』

 九十九の説明に、生徒全員のツッコミが飛んだ。そんな中。

「つくもんがそう言うなら大丈夫だね~」

 そう言って、本音はガラスの橋に一歩を踏み出す。

 

バリ……

 

 途端、本音の足下に罅が広がる。

「ひうっ……!こ、怖くない、怖くない……つくもんを信じて進も〜!」

 足下から響く不穏な音に恐怖を感じつつも、少しづつ前に進む本音。1分後、本音はガラスの橋をクリアした。

 追いついてきていた他の選手も、本音が無事に渡り終えたのを見てようやく橋を渡り出す。その間に、本音は地雷原に差し掛かっていた。

「よ~く目を凝らして見ればわかるって……あ、ほんとだ~」

 実際、よく目を凝らせば分かる。地雷が埋まっている所は、他の場所に比べて若干色が明るくなっている。本音は、その色の明るくなっている場所を避けるようにしながら、慎重に進んで行く。

『そう言えば九十九くん。地雷って実際どのくらいの物なの?』

『小型の熊が失神する程度のレベルですね』

『それ結構シャレにならない奴じゃねえ!?』

 一夏がツッコミを入れた次の瞬間。

 

バアアアンッ‼

 

「きゃあああっ!?」

 派手な破裂音と共に強烈な光が迸り、地雷を踏んだ蒼組代表の姿を一瞬隠した。

「きゅう……」

 光が消えると、蒼組代表は目を回して倒れていた。

『おーっと!ついに九十九くんのあくどい仕掛けの被害者が出てしまったーっ!』

『あれは暫く目を覚ましそうにないですね。回収班の先輩方、お願いします!』

「「「はーいっ!」」」

 九十九の掛け声に応じたIS装備の先輩が、蒼組代表を慎重に抱え上げて救護テントへ連れて行った。

 それを見た他の選手達は、より慎重に慎重を重ねて地雷原を進んで行く。その為、本音との差が縮まる事は無かった。

『さて、最後の障害、実弾射撃に本音ちゃんが到着しました!けど……』

『けどなんですか?楯無さん』

『本音ちゃん、射撃はからっきしなのよね』

『あ、そう言えばそうだった』

『甘いな。この私が、本音の苦手を苦手のままにさせると思うか?』

『『え?それって……』』

『本音!『アレ』を見せてやれ!』

「おっけ〜、つくもん!ん〜……えいっ!」

 

バンッ!

 

 本音の撃った弾は、的を大きく外れた場所に飛んでいく。が、その瞬間。

 

カンッ、ビシッ!

 

『『へ?』』

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「わ~い!あたった〜!」

 そう、本音は的を直接狙うのは非常に苦手だが−−

『何故か跳弾狙撃は百発百中という、なんでやねんと言いたくなる射撃技能の持ち主だったんだ』

「「「なんでやねん!」」」

「ほえ?」

 基本は出来ないのに応用は出来るという不思議な能力。この場にいたほぼ全員がツッコミを入れたのは、当然と言えた。

 結局このレースは、本音が終始首位を守り抜いてゴール。他の2レースは、黒組の選手が首位を独走。得点を伸ばす結果となった。

 

 第五種目『軍事障害物競争』終了。現時点での各組の得点−−

 

 紅組 680点

 蒼組 1020点

 桃組 1040点

 黒組 1130点

 鉄組 1135点

 橙組 1175点

 

 僅差で橙組が一位をキープ。続いて第六種目『コスプレ生着替え走』開催準備中。

 

 

 第六種目『コスプレ生着替え走』は、一言で言えば真っピンクだった。

 当初、衆人環視の中で着替える事に(ラウラ以外)反対した各組代表。しかし、『一位は500点』という楯無さんの発言に結局全員が出場を表明。レース開催の運びとなった。

 各人が引き当てた衣装は−−

 

 箒 鈴の用意したミニスカートのチャイナドレス。

 鈴 セシリアの用意したパーティードレス。

 セシリア 箒の用意した巫女服。

 シャル ラウラの用意したドイツ軍服(黒ウサギ隊仕様)。

 ラウラ 簪さんの用意した姫騎士服(ビキニアーマー風)。

 簪さん シャルの用意した白猫着ぐるみパジャマ。

 

 となった。

 各人、衣装に着替えて走り出したものの、そもそも衣装のサイズがあっていない箒は動く度に服がズレてチラチラと『梱包材』が見え隠れして羞恥に身を焦がし、鈴もまた胸元のサイズが合わないドレスに気が気でない様子だった。

 第一関門の『跳び箱』では、セシリアが真っ先に挑みかかったものの、慣れない草履で踏み込んだ為に袴の裾を踏み、結果としてその場に袴を置き去りにして跳び箱の上に飛び出す。というハプニングが発生。

 セシリアはその場にいた全員に『高級そうなラッピングを施した大きな桃』を披露する事に。これには会場も大盛り上がり。

「「「まったく、セシリアはエロいなぁ!」」」

 大合唱が響く中、セシリアは涙目になりながらどうにかこうにか袴を履き直すのだった。

 

 第二関門は『平均台』。

 これに固まったのは箒、鈴、セシリアの3名。というのも、平均台をクリアしようとするなら、バランスを取るために両手を広げる必要に駆られる。そうなれば、衣装のサイズが合っていない箒と鈴、そして、半端な着直しが原因で今にも袴がずり落ちそうになっているセシリアは、平均台に乗った瞬間に色々見えてしまう事は想像に難くない。

 うぐぐ、と立ち止まる三人を横目に、今度はシャルが一歩リードする。

「お先に!」

『いいぞ、シャル!ドイツ軍服もなかなか様になってるじゃないか!特に軍帽!凄く似合ってる!』

「えへへ。ありがとう、九十九」

 私の声援にはにかんだ笑みを浮かべるシャル。うん、可愛い。

『いや、だから贔屓すんなって!』

『もう一度言うぞ。妻を贔屓して何が悪いか!

『開き直ったわね~……』

 呆れたように言う楯無さん。が、ある人物が目に入った瞬間、椅子を蹴立てて立ち上がる。それは−−

「私も、先に……」

 本音ほどではないにしろ、足が遅い故に追いつくのがやっとの簪さんだ。躊躇する三人を尻目に平均台に飛び乗る。

 ここまで大胆になれるのは何故か?それは、彼女の衣装が白猫着ぐるみパジャマだからだ。非常に楽な上、現状脱げる心配も無い。

『きゃーっ!簪ちゃん可愛いーっ!グッドよ!ぐっと来るほどグッドだわ!』

『ぶふっ!』

「ぷぷ」

 楯無さんが簪さんに駄洒落混じりの声援を送った途端、一夏と簪さんが噴き出した。どうやら揃ってツボにはまったらしい。

 やはり姉妹というかなんというか。揃って笑いのツボがずれてるんだな。あと一夏、ツボってないで「贔屓は駄目」と言え。

『ぐっと来るほどグッド……。やばい、ツボった……!』

 ……あ、駄目だ。完全にツボにはまって悶絶してるわ。

 

 シャルと簪さんに先を越された三人は、衣装の乱れを我慢して平均台に飛び乗る。途端、見えてはいけないあれこれを衆目に晒しそうになる三人。沸き上がる黄色い声援に三人は顔を赤らめる。が、今はそんな事を気にしてはいられないだろう。

「「「とにかくトップにならないと!」」」

 勝てば官軍−−。それが三人の共通認識となっていた。

 羞恥心をかなぐり捨て、下着が見えるのも一切構わず平均台を進む三人。その姿に周囲の歓声はますます大きくなる。

 三人が平均台を順調に進んでいたその時、いきなり突風が吹いた。

「「「!?」」」

 突風の正体は、ピンク色のビキニアーマーの上から『シュヴァルツェア・レーゲン』を纏ったラウラだった。

「ハハハハハ!ISを使えばこの程度の障害など!」

 高笑いを上げながら上空10mの地点を飛ぶラウラ。だがその行為は−−

 

ピピーッ!

 

「はい、ラウラちゃん失格〜」

 当然、ルール違反である。ラウラはレッドカードで一発退場。楯無さんの判断は的確だった。が、それでラウラの感情が収まるかは別問題である。

「ふ、ふ、ふざけるなあっ!こんな格好までして失格だと!?ええい、もういい!貴様ら全員、吹き飛ばしてくれる!」

 金属同士の擦れる特有の重い音を立て、『シュヴァルツェア・レーゲン』の大口径リボルバーカノンが直下にいる他の選手に狙いを定める。ラウラは今、羞恥心で完全に錯乱していた。

「消え−−「させるかこのバカチンが!」なにぃっ!?」

 

ザンッ!

 

 ラウラの砲撃より一瞬早く、『フェンリル』を纏った私の《フルンティング》による斬撃がリボルバーカノンを斬り裂いた。

「ルールは守ってこそルールだ。あと、シャルを吹き飛ばそうなど、この私が許さん!」

「ば……」

 ラウラが何か言おうとした瞬間、リボルバーカノンの炸薬に火が移ったか、『シュヴァルツェア・レーゲン』は爆炎に呑み込まれた。

「馬鹿なあああっ!」

 ラウラの非常に悪役的な叫びは、爆音に掻き消されて誰の耳に届く事もなかった。−−私を除いて。

 

 第六種目『コスプレ生着替え走』−−ラウラ・ボーデヴィッヒの暴走により無効試合(ノーコンテスト)。得点変動なし。

 

「えーと……九十九、これどういう状況だ?」

「ちょっと待て!?なぜ私までここに!?」

 ふと気がつくと、轟々と風の吹く場所にいた。一夏と一緒に。

『一夏くん、九十九くん。地上50mからの見晴らしはどう?』

「この状況の説明を願います。ってか九十九!お前絶対なんか知ってるだろ!?」

 一夏の疑問ももっともだ。なにせ−−

「お前が「腹減ってないか?まあ食え」って渡してきたパンを食ったら急に意識が遠のいて、気がついたらこの状況だぞ!」

「うむ、当初はこの競技に参加させる為にどうにか説得しようと思ったのだが、説得しきれるビジョンが見えなくてな。パンに即効性の睡眠薬を染み込ませて、お前に食わせた」

「なにしてんの!?ほんとなにしてんの!?」

「で、その直後に楯無さんに『九十九くん、喉渇いてない?これどうぞ』と渡されたジュースを飲んだら意識が遠のいて、気がついたらこのザマだ。おのれ、楯無さんめ……」

 策士策に溺れるとはこの事か。自分は安全圏にいると思っていたのが仇になった。

「お前、たまに抜けてるよな……。で?これからなにすんだよ?」

「最終種目『バルーンファイト』だ。ルールは簡単。一夏の乗ったゴンドラに括り付けた大量の風船を割りながら、最終的に一夏をゴンドラごとキャッチして地上へ下ろした者の勝ち。勝者には、現在の一位チームの総得点と同じ点数が与えられる。つまり−−」

『どのチームにも優勝の可能性があるってわけ!でも、一夏くんだけじゃあシャルロットちゃんのモチベーションが上がらないかもって思って、九十九くんにも参戦をお願いしたの。ちなみに、九十九くんをキャッチした人には500点が与えられます!』

「無理矢理ですけどね!?」

 しれっとのたまう楯無さんにツッコむが、それは吹き付ける風に掻き消されて楯無さんには届かなかった。

「「「ふっふっふ……」」」

 

ゾクッ!

 

 ゴンドラの外から響いた不気味な含み笑いに周囲を見回す私と一夏。そこには−−

「覚悟しろ、一夏!」

 『紅椿』を纏い、二本の刀を構える箒が。

「その首、貰いましてよ!」

 『ブルー・ティアーズ』を纏い、スナイパーライフルをこちらへ向けるセシリアが。

「年貢の納め時ってやつね!」

 『甲龍』を纏い、青龍刀を振り回す鈴が。

「一夏。お前は私の嫁だ!」

 『シュバルツェア・レーゲン』を纏い、交換したリボルバーカノンをアクティブにするラウラが。

「一夏、いただく……」

 『打鉄弐式』を纏い、全ミサイルを発射待機状態にした簪さんが。

「九十九、待っててね。すぐ助けるから!」

 『ラファール・カレイドスコープ』を纏い、ショットガンをポンプアクションさせるシャルが。

 各々の想いを背負って私達の乗るゴンドラを取り囲んでいた。

「こ、殺されるのか!?俺はついに−−くそっ!死んでたまるか!『白式』!……って、あれ?」

 死への恐怖から『白式』を展開しようとした一夏だったが、それは叶わなかった。

『一夏くーん、『白式』は今、半強制スリープモードにしておいたからー。あ、九十九くんの『フェンリル』もねー』

「なんだろう……悪魔がいる……」

「いつもの事だろう?世界には、悪魔はいても神はいないのさ」

「カッコつけてる場合か!?」

 諦念の笑みを浮かべる私に一夏がツッコむと同時に、楯無さんが競技開始を宣言した。

『それでは!最終種目『バルーンファイト』!レディ……ゴー!』

「ちょ、ちょっと待っ−−」

「チェストオオオッ!」

 一夏の声を掻き消したのは、箒が気合の叫びと共に放った飛ぶ斬撃だった。軽い破裂音と共に大量の風船がちぎれ飛んで行く。途端、私達の乗ったゴンドラの浮力が大きく減少。一気に地表に近づく。

「うおお!?」

「ぬうっ!拙いな。このペースと速さで落ち続けると、死にはしないまでも大怪我をするぞ!」

「マジかよ!?」

「マジだ。なので……」

 言うなり、私はゴンドラの縁へ足をかけ、そこに立ち上がる。

「お、おい九十九!?何して……」

「シャル‼」

「は、はい!」

 私の呼び声に、一瞬ビクッとして振り向くシャル。そのシャルに、私はたった一言だけ言った。

「信じるぞ」

 直後、私はゴンドラから飛び降りた。

「「「なっ!?」」」

 途端、地上に向かって落下して行く私。驚愕する一同。私の突然の行動に反応できたのは、シャルだけだった。

「九十九!」

 落ちて行く私を抱き止めて、ゆっくりと地上へ降りていくシャル。

「もう、無茶しすぎだよ」

「信じていたからな、君を。だが、こういうのは二度と御免だ」

『シャルロットちゃん、九十九くんゲット!500点獲得です!』

 楯無さんがそう言うと、会場は歓声に包まれた。シャルロット・デュノア、(村雲九十九)の救出に成功。500点獲得。

 

 一方の一夏だが、片側の風船が割れ過ぎた事でバランスが崩れ、空中に放り出された一夏をまず簪さんが抱き止めたものの−−

「私の嫁を離せえっ!」

「当たら、ない……」

 プラズマ手刀を展開して突撃して来るラウラに対応する為、あっさり放り捨てられる。それを拾い上げたのはセシリアだ。

 すぐさま向かって来る他のISをビットで牽制しながらゆっくりと地上に降りて行くが−−

「すまんっ、セシリア!」

 一夏は突然、セシリアの両腕をすり抜けて空中に飛び出した。

「えっ!?なんで!?」

「多分だが、セシリアの色香にやられそうになって逃げたんだろうな」

 一夏としては、近くの木にでも掴まれば骨折程度で済む。と思ったのだろうが、一夏から最寄りの木まで10mはある。何かいい手でもあるというのか?一夏。

「残酷すぎるうううっ!」

 だが、結局何も方法が浮かばなかったのか、一夏が悲痛な叫びを上げる。それに呼応するように、箒達が一点集中の加速を行うが、如何せん一夏と距離がありすぎる。

 もう間に合わない。そう思った次の瞬間、私は横からの突風に煽られて吹き飛ばされた。

「どわああっ!?」

「つ、九十九ー!」

 突風の正体は楯無さんだ。一夏の危機に、実況席から慌てて飛び出してきたのだろう。

「大丈夫!?一夏くん!」

「た、楯無さん……。助かりました」

 一夏の返事に心底安心したかのようにホッとため息をついた。そしてそのまま、二人は地上に降り立った。

「その影で被害を被った人間がいる事も忘れないで欲しいんだがな……」

「九十九、大丈夫!?」

「つくもん、しっかり〜!キズは浅いよ〜!」

 楯無さんが起こした突風に吹き飛ばされた私は、全身砂まみれになってグラウンドに転がっていた。

 シャルと本音が私に心配の声を上げる中、いつの間に実況席にいたのか、山田先生が微笑みを浮かべて言葉を紡いだ。

『はーい。それではこの種目は更識楯無さんの勝ちという事でー』

「「「え……」」」

 ポカンとする一同。その中には楯無さんもいた。

『ルールはルールですし』

「いや、でもあの、学年が違うじゃないですか」

『そうですねぇ〜。どうしましょう?あ、そうだ。ここは村雲くんに判断して貰いましょう』

 実行委員ですし。と山田先生が私に判断を委ねてきた。ふむ、ここは……。

「そうですね……この種目の勝者は楯無さん。ただし、学年が違う為得点はなし。よって優勝は、この競技で私を助けて500点を獲得し、総合1675点となった橙組とします」

 瞬間、爆発的に盛り上がる橙組チームテント。

「「「やったあっ!」」」

「おめでとう、デュノアさん!」

「本音も!」

「これで合法的に同棲できるね!」

「よっ、憎いね村雲くん!この幸せもん!」

 そう言って口々に囃し立てる橙組一同。しかし、それでは面白くないのが他の専用機持ち一同で。

「くっ、納得いかん!」

「ルールに則ればそうなんだけど……でもなーんか気に入らないのよねえ!」

「結局シャルロットさん……いえ、九十九さんの一人勝ちに見えますわ!」

「はっ、もしや奴は、初めからこうなる事を見越していたのでは……」

「腹黒い。流石村雲くん、腹黒い」

 何やらぶつくさ言っている一同の頭を、千冬さんが勢い良く叩いた。

「文句を言うな。実行委員の決定は絶対だ。これにて大運動会は終了!各員、片付けにかかれ!」

 千冬さんの凛とした声が響き、大運動会はこれにて閉幕となった。専用機持ち一同は不満げな表情のまま片付けに参加して行った。そして−−

「えっと、九十九」

「つくもん」

「ん?なんだ?」

「「これから、よろしくお願いします」」

「ああ、こちらこそよろしくお願いします」

 一学年修了まで同棲が決まった私達は、お互いに改めて挨拶し合うのだった。

 それを見ていただろう他の女子生徒達が、突然口に飴玉を放り込まれたような顔をしていたが、あれは何だったのだろうか?

 

 一年生対抗織斑一夏争奪代表候補生ヴァーサス・マッチ大運動会、全日程終了。最終結果は−−

 

 紅組 680点

 蒼組 1020点

 桃組 1040点

 黒組 1130点

 鉄組 1135点

 橙組 1675点

 

 優勝は橙組。シャルロット・デュノア、布仏本音。村雲九十九との一学年修了までの同居権獲得。




次回予告

それは、男の覚悟の証。
それは、女の約束の証。
そしてそれは、消して切れない絆の証。

次回『転生者の打算的日常』
#68 婚約指輪

改めて誓おう。君達は、私が幸せにする。

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