転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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この小説を書き始めてから、ふと気付けば三年が経過していました。完結まで一体どれだけかかるやら……。
でも頑張って書いていきますので、これからもよろしくお願いします。


#65 体育祭(午前・2)

『さあ、準備が完了しました!続いての競技はIS学園特別競技!『玉撃ち落とし』です!』

 元気一杯、楯無さんのマイクが唸りを上げる。

『玉……撃ち落とし?玉入れじゃないんですか?』

 そう訊ねる一夏に、私は丁寧に説明をしてやる事にした。

『『玉撃ち落とし』はIS学園の伝統的な競技でな。各チームは代表者1名を選出、ISを装備して空から降って来る玉をひたすら撃ち落とし、その得点を競うというものだ。なお、玉が小さい程得点は高い……が、それだけでは面白くないと思ってな。仕掛けをさせて貰った』

 私の言葉に各チームテントがざわつく。おそらく、借り人競争における私の『仕掛け』のえげつなさがまだ記憶に新しいのだろう。

『ああ、心配はいらない。今回の仕掛けは単純だ。降ってくる玉の中にこれを仕込むだけだ』

 そう言って私が取り出したのは小さなアタッシュケース。留金を外してパカリと開けると、中に入っていたのはテニスボール大の金の玉。

『九十九くん、それ何?』

『これは、我が社の技術者達が作った動体射撃訓練用ターゲットドローン『悪戯妖精(ピクシー)』です』

 コツンとボールを叩くと、『ピクシー』は丸めていた羽を広げてパッと飛び立った。

『『ピクシー』は、ハチドリからヒントを得た二枚の羽で空を飛び、超高速で動かす事で滞空が可能。更に……』

 言いながら『フェンリル』の右腕と《狼牙》のみを展開、『ピクシー』目掛けて一斉射を仕掛ける。すると『ピクシー』は見た目とは裏腹の機敏さで銃弾をヒョイヒョイと躱した。

『特殊なPICと高性能センサーを搭載する事で生半可な射撃では決して捉える事は出来ません。ついでに言うと……』

 私が『ピクシー』に目を向けると、『ピクシー』はその場で上下したり、最高速で観客席に飛び込んで観客を驚かせたり、かと思えばおちょくるかのように低速でフラフラ飛んだりする。

『乱数機動プログラムを搭載しているのでいつ、どこに、どのように動くのかは私にも予測不能です』

『九十九はアイツを落とせるのか?』

『《ヘカトンケイル》を使って周囲くまなく覆った上で、時間差射撃をしてようやく。と言った所だ』

『『うわぁ……』』

「「「うわぁ……」」」

『その「うわぁ」はそこまでしてようやく落とせる『ピクシー』の性能への賞賛か?それともそこまでする私の大人気なさに唖然としてか?』

 全員が何とも言えない顔をする中、『ピクシー』だけが実に楽しそうに宙を舞っていた。

 

 

『では改めてルール説明だ。各組代表者(専用機持ち)はISを装備。空から降って来る玉を各々の方法で撃ち落とし、その得点を競ってもらう。制限時間は20分。但し、制限時間内に『ピクシー』を誰かが撃ち落としたら、その時点で競技終了とする。なお、『ピクシー』の得点だが……500点だ』

 九十九の説明にISを装備して待機していた専用機持ち組が色めき立つ。状況次第では一発逆転も可能なその得点は、狙わずにはいられない事請け合いだ。

『準備はいいか、諸君?……いいようだな。では、フィールド中央に全自動標的投擲機を設置する』

 フィールド中央に光の粒子が集まり、装置が構成されていく。

『最新技術の無駄遣いな気がすんだけど……』

『気にするな。技術とは世に広めてナンボなのだよ』

 一夏と九十九の会話も意に介さず、集中を深めていく専用機持ち達。その様子を新聞部副部長、黛薫子(まゆずみ かおるこ)がカメラ越しに見渡した。

「一意専心。常在戦場。心静かに参るのみ!」

 紅組代表、篠ノ之箒とIS『紅椿』。

「魅了されなさい。わたくし、セシリア・オルコットと『ブルー・ティアーズ』の奏でる輪舞曲(ロンド)で!」

 蒼組代表、セシリア・オルコットとIS『ブルー・ティアーズ』。

「射撃限定ってわけじゃないんだから、あたしの実力見せつけるわよ!」

 桃組代表、凰鈴音(ファン・リンイン)とIS『甲龍(シェンロン)』。

「これまでとは訳が違うんだから。始めるよ、『カレイドスコープ』」

 橙組代表、シャルロット・デュノアとIS『ラファール・カレイドスコープ』。

「己の無力、思い知るがいい」

 黒組代表、ラウラ・ボーデヴィッヒとIS『シュバルツェア・レーゲン』。

「……やるだけやってみる。いいよね、『弐式』」

 鉄組代表、更識簪とIS『打鉄弐式』。

 一学年の専用機が揃い踏みとあって、会場のボルテージは高まるばかりだ。

「篠ノ之さーん!やっちゃえ~!」

「セシリア、負けないでよ!」

「りーん!ぶっかませー!」

「デュノアさん、がんばってー!村雲君のために!」

「絶対勝ってよ、ラウラ隊長!」

「かんちゃん、しゃるるん、どっちもがんばれ〜!えいえいお〜!」

 それぞれの激を受け取って、六人は装置の周りを囲むように配置につく。慣らし機動とばかりに、それぞれが軽く飛翔した。

『ではこれより、第二種目『玉撃ち落とし』を開始する。カウント、5…4…3…2…1…スタート』

 開始と同時に、装置から色彩、大小様々なボールが吐き出される。

 一斉に舞い上がったそれらを真っ先に補足したのはシャルロットだった。

「《阿修羅(アースラ)》!からの、《レイン・オブ・サタディ》!」

 シャルロットは『カレイドスコープ』に中距離戦用パッケージ《アースラ》を装備すると、サブマシンガンを6()()呼び出して一斉射撃。次々とターゲットを撃ち落としていく。スコア表示のウィンドウには雨のように得点が加算されていく。

『流石だな、シャル。局面に合ったパッケージ選択と的確な射撃。惚れ惚れするぞ』

『いや、それはいいんだけど……』

『何だあれ!?腕が六本あんだけど!?』

『あれは『ラファール・カレイドスコープ』の中距離戦用パッケージ《アースラ》。自身の腕が二本とAI制御の腕が四本、合計六本の腕による手数の多さが特徴のパッケージだ。腕一本一本に別の火器を装備しての射撃戦や、長物を用いての格闘戦もこなせる。その代わり操縦はかなり煩雑で、使いこなすには相応の技量が必要になるがな』

 九十九の説明に、生徒達は『やっぱりラグナロクって変態だわ』と思うのだった。

 

「うわ、これだけの弾幕をひょいひょい避けてるよ。どんなセンサー積んでるのあの子」

 ターゲットを撃ち落としつつ『ピクシー』も合わせて狙い撃つシャルロットだったが、『ピクシー』は「その程度の射撃に当たってやれるか」とばかりに至近弾のみを見切って紙一重で躱していく。

 呆れるシャルロットの隣を、紅の影が飛んで行く。箒だ。

「はあああっ!」

 箒は『紅椿』の《空裂(からわれ)》と《雨月(あまづき)》を駆使して標的を切り裂きながら旋回上昇。その刃を『ピクシー』へと伸ばす。

「落ちろ!」

 しかしその一閃は直前でスルリと躱され、『ピクシー』は箒から離れて行く。

「くっ、入ったと思ったのに!」

「甘いですわね、箒さん。あのターゲットはわたくしがもらいましてよ!」

 

ビシュウウンッ!

 

 歯噛みする箒の周りから蒼い閃光が飛んだ。セシリアの『ブルー・ティアーズ』、そのビットから放たれたレーザーだ。

 レーザーは鋭いターンで周辺のターゲットを薙ぎ払いながら『ピクシー』を追い込んで行く。レーザーに行く手を遮られた『ピクシー』が一瞬止まったその隙を、セシリアは見逃さない。

「今っ!狙い撃ちますわ!」

 《スターライトmk-Ⅲ》で『ピクシー』を撃とうとした直前、『甲龍』の近接武装《双天牙月》を最上段に構えた鈴が『ピクシー』を両断せんと迫る。

「なっ!?鈴さんっ!?」

 それに驚いたセシリアは《スターライト》を撃つのを一瞬躊躇ってしまい、絶好のタイミングを逃してしまう。

「貰っ……」

 鈴が『ピクシー』に《双天牙月》を振り下ろそうとした矢先、何を思ったか『ピクシー』は鈴の顔面目掛けて突撃した。

「ったぁ!?」

 突然の事に反応が遅れた鈴は『ピクシー』の体当たりをまともに顔面に受けてしまう。その隙をついて、『ピクシー』はまたどこかへと飛び去ってしまう。

「あんにゃろう……やってくれんじゃない!」

 目当てのターゲットを落とせなかった苛立ちを、自身直下の標的に向かって《龍砲(衝撃砲)》を最大出力で放って晴らそうとした鈴だったが、そのエネルギーは命中直前で雲散霧消した。よく見ると、周辺のターゲットもまるで縫い付けられたかのように空中に留まっている。

「これは……ラウラね!」

 現象の正体は『シュヴァルツェア・レーゲン』の第三世代兵装《AIC》。物体の慣性を停止させる結界が、ターゲットの落下を止めたのだ。

「ふっ。……貰った!」

 

ドゴォォンッ!

 

 空気を揺るがす巨大な咆哮と共に放たれたレールカノンの弾丸は、《AIC》によって静止させられていたターゲットを一直線に薙ぎ払う。その先に居たのは『ピクシー』。無慈悲な弾丸が『ピクシー』にその牙を剥く。

「最高得点のターゲットは私の物−−」

 私の物だ。と言おうとしたラウラは、次の瞬間驚愕に目を見開く。なんと『ピクシー』はその羽の動きを止めて風に乗り、レールカノンの弾丸を柔らかな機動で回避したのだ。

「なっ、なにぃっ!?」

『なんだ今の動き!?』

『あれこそ『ピクシー』最強の空中機動『必殺・竜鳥飛び』だ。あれを捉えるのはかなり難しいぞ』

『必殺って言うけど、別に攻撃技じゃないわよね?あれ』

『……開発者の趣味です』

 『ピクシー』開発者太尊勇(だいそん いさむ)。元航空機開発者の彼の夢は『人型に変形する戦闘機』の開発だったらしい。

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

『今の一発でラウラがトップに躍り出たな。ほら、一夏。何か言ってやれ』

『うえっ!?ええと……いいぞ、ラウラー!』

 九十九の無茶振りに何とか応えようとした一夏だったが、出た言葉は無難この上ないものだった。しかし、それはラウラの頬を赤く染めるには十分な攻撃力を持っていたようだ。

「う、うむ!わ、私にかかればこの程度のことは……ふふ」

 照れくさそうに両手の人差し指をちょんちょん合わせるラウラを他のメンバーがジト目で見ている。

 だが、その瞬間を好機と捉えた者が二人いた。簪とシャルロットだ。

「マルチロックオン、完了」

「《九頭毒蛇(ハイドラ)》!からの……全弾発射!」

 吐き出され続ける標的にロックオンマーカーをつけてミサイルを全弾発射するのは簪の『打鉄弐式』とシャルロットの『ラファール・カレイドスコープ』遠距離火力支援パッケージ《ハイドラ》の一斉攻撃だった。

 簪の放った48発のミサイルと、シャルロットの放った81発のミサイルがスモークを引きながらターゲットを撃ち落としていく。今この瞬間、競技空間の全てをスモークと爆炎が支配していた。

『ミサイル祭りだー!』

『九十九くん!?シャルロットちゃんのアレ何!?』

『あれは『ラファール・カレイドスコープ』の遠距離火力支援パッケージ《ハイドラ》です。全身に装備したマイクロミサイルポッドから最大81発のミサイルを一斉発射可能です。ちなみにマルチロックオン可能、各種弾頭への交換もほぼ一瞬です。他にも遠距離攻撃用兵装を装備していますが、時間がないので割愛します』

『え~……なにそれ……』

『ラグナロクの技術力マジやべぇ……』

『褒め言葉として受け取ろう。いいぞ、シャル!そのまま突き放せ!『ピクシー』も君が落とすんだ!』

『簪ちゃん、頑張れ!簪ちゃんならそんなどこかの魔法学校にありそうな空飛ぶ玉なんてイチコロよ!』

『って二人とも!なに普通にえこひいきしてんの!?』

『『え、いや、ちょっとくらい良いかなって』』

 そんな実況席のドタバタに、「もう、恥ずかしいよ九十九」「やめて、お姉ちゃんやめて」と顔を真っ赤にするシャルと簪だった。ただ、両者の間には『照れ』と『羞恥』という感情の差があるのだが。

 

 競技終了まで残り5分。ポイントがほぼ横並びになった所で、専用機持ち達はターゲットを『ピクシー』のみに絞って撃ち落としにかかっていた。

「食らいなさい!……ってこれもダメなの!?」

「お行きなさい!ティアーズ!」

「AICの発動範囲を見切っているのか!?捉えきれん!」

「もう!大人しくしてよ!」

「埒が……開かない……っ!」

 空中でドタバタと『ピクシー』を追いかける他の5人を置いて、箒は一人考えていた。

(おそらく、あいつらがあの玉を残り時間内に落とす事は無い。となれば、ここで一発逆転を狙うしか無い。何か方法は……)

 一気に(今は)ライバル達を突き放し、一夏に「どうだ!」と胸を張って自慢できるような、そんな方法。と、箒に天啓が降りた。

(そうだ!射出装置の射出口ギリギリに《穿千(うがち)》を放てば、いけるのではないか!?)

 この作戦で重要なのはタイミングを見誤らない事、そして、他の連中に行動を悟られない事だ。箒が空を見上げると、そこでは『ピクシー』と他の連中が今も激しい後追戦(ドッグファイト)を繰り広げている。

「いい加減落ちなさいよ!この金玉!」

「鈴さん!?表現が微妙に卑猥でしてよ!?あと、あれはわたくしの獲物ですわ!」

「今度こそ落とす!」

「それは僕の台詞だよ!ラウラ」

「……私も、負けない……!」

 今、5人は『ピクシー』を追いかけるのに夢中になっている。ならば。

(今が好機!)

 箒の目がキラーンと光った。肩部大出力エネルギーカノン《穿千》を使うべく、素早く着地する。そして腰を落とし、肩部ユニットを展開、エネルギーの充填を開始する。

(このタイミングならばいける!)

 確信に満ちた笑みを浮かべる箒だったが、次の瞬間、後に九十九をして「あれだけ見事な負の連鎖(ピタゴラスイッチ)は後にも先にも無かった」と言わしめる出来事が発生した。

「いただきましたわ!」

 セシリアが『ピクシー』に向けて放った狙撃が鈴に迫る。

「ちょっと!危ないじゃない!」

 その狙撃を慌てて回避する鈴の体が、シャルロットとぶつかった。

「うわっ!?」

 鈴との激突で姿勢を崩したシャルロット。ビックリして思わずマシンガンの引金を引いた為、周囲に弾丸がばら撒かれる。

「あっ……」

 その弾丸が発射したばかりの簪のミサイルに直撃。爆風が巻き起こる。

「ぬっ!?な、何だ!?」

 爆風に背を押されたラウラは、その弾みでレールカノンを発射してしまう。−−箒の足下に向かって。

「な、なにっ!?」

 突然足下の地面が抉れ、前のめりになる箒。その瞬間、『紅椿』の肩から《穿千》が放たれてしまう。そのエネルギー弾の行き着く先は。

『ちょ、ちょっとちょっと!その装置、高いのよ!?』

 楯無の声も虚しく、エネルギー弾の直撃を受けたターゲット射出装置は轟音を上げて爆散した。

「あ、いや、これは、その……」

 会場全体から、箒に向けて非難めいた視線が集中する。

「ふ、ふん!ヤワな機械だっ!」

 しんと静まりかえる会場。そんな中、楯無と九十九が箒に対して口を開いた。

『九十九くん、あなたの真実は?』

『……紅組代表、篠ノ之箒……得点没収(ボッシュート)だ』

「そ、そんなああっ!」

 箒の悲鳴と、『世界各地で不思議を発見するあの番組』のSEが会場全体に響いたのだった。

 そんな地上を喧騒を知ってか知らずか、『ピクシー』は悠々と空を舞っていた。

 

 第二種目『玉撃ち落とし』終了。現時点での各組の得点−−

 

 紅組 500点

 蒼組 900点

 桃組 860点

 黒組 950点

 鉄組 1000点

 橙組 1060点

 

 橙組が一位をキープ。続いて第三種目『パン食い競争』開催準備中。

 

 ちなみに−−

『あれ?九十九、『ピクシー』が急に落っこちてきたんだけど?』

『ああ、あれか?心配いらん、ただの電池切れだ』

『『あれ電池で動いてたの!?』』

 

 

『ではこれより、第三種目『パン食い競争』を開始する』

 私の宣言にあわせて、トラックにパンが吊るされた棒を持った先輩達が現れる。

『ルールは単純。走って、口でパンを取って、ゴール前の完食ゾーンでパンを食べ切ってゴール。それだけだ。何か質問は?』

 瞬間、幾つか手が挙がる。どうやら、漸くこの体育祭の『仕組み』を理解したようだ。

『では、代表して鈴』

「九十九。アンタ今度は何仕掛けたの?」

『なに、どうという事は無い。各レースに使用するパンの中に一つだけ、カスタードクリームではなく激辛の辛子マヨネーズが入っている。というだけだ』

「「「地味にキツい!」」」

 私の発言に一斉に声を上げる女子一同。

『なお、例によってリタイアは受け付けている。無論、最下位扱いで得点は無しになるがな。では、各組代表者5名は前へ』

 呼ばれて出てきた代表者達は、一様に『激辛辛子マヨパンが当たったらやだなぁ』という顔をしている。

『では、競技を開始する。第一走者はスタート位置へ』

 指示に合わせて選手がスタートラインに立つ。スターター役の先輩がスタートピストルを頭の上に挙げる。

「オンユアマーク……セット……」

 

パンッ!

 

 号砲とともに一斉に駆け出す選手達。中間地点に用意されたパンを吊るした棒に飛びついてパンを咥えて完食ゾーンへ。

「「「せーのっ!」」」

 全員が一旦完食ゾーンで立ち止まり、せーので齧り付く。と、その瞬間。

「から~い!」

 悲鳴を上げたのは、紅組の相川さんだ。その目には涙が浮かんでいるが、それでもリタイアしようとせず必死に激辛辛子マヨパンを食べていく。

『おっと!紅組相川さん、リタイアをする気はないようです!』

『紅組は現在最下位ですからね。少しでも得点が欲しい状況で、リタイアという選択肢は無いでしょう』

 結果、相川さんは激辛辛子マヨパンを完食。3位でゴールテープを切った。

 以下、その他のレースをダイジェストでお送りする。

 

 第2レース、辛子マヨパンの被害にあった女子を含む2名がリタイア。1位は黒組。

 第3レース、鉄組の原さんが一口でパンを飲み込み、悠々と1位でゴール。曰く「飲み物よ、パンは」との事。

 第4レース、蒼組のスカリエッティさんが激辛辛子マヨパンにヒットして失神リタイア。1位は紅組。

 

 そして、最終レース。

『今回も団長揃い踏みとなりました!白熱が予想されます!一夏くん、九十九くん。注目選手は?』

『え、えっと……ラウラかな。この手の競技初めてだろうし』

『私はシャル……と言いたい所だが、今回は箒だな』

『あら、またなんで?』

『今までの箒の引きの悪さを考えると、箒が激辛辛子マヨパンに当たる気がするんです。今からリアクションが愉しみで……』

『『趣味が悪いぞ(わよ)!この腹黒ドS!』』

 自分でもそうと分かる程あくどい笑みを浮かべる私に二人のツッコミが入ったと同時に号砲が鳴った。

 先頭は素晴らしいスタートダッシュを見せた鈴。そこからやや遅れて箒。ラウラ、シャル、セシリアはほぼ横並びだ。

「とりゃああっ!」

 ジャンプ一番パンに齧り付いた鈴は、勢いそのまま完食ゾーンへ走り込む。他のメンバーも殆ど一度のジャンプでパンを取る事に成功、鈴の後を追って完食ゾーンへ入った。

「うーん、おいしー!」

 一足早く完食ゾーンに入った鈴のパンはカスタードクリーム入りだったようで、実に美味そうな顔でパンを片付けていく。

 他のメンバーは鈴の様子を見て、緊張の面持ちで手に持ったパンに目を落とす。

「安全牌が一つ減ったか……」

「この中のどなたかの手に、激辛辛子マヨパンがありますのね」

「では……」

「……うん」

「みんな、せーのでいくよ!」

「「「ああ(はい)!せーのっ!」」」

 シャルの音頭で一斉にパンを口にする5人。その結果は−−

「からーい!」

『あっはっはっはっ!流石!見事だな!』

『お、おい九十九。笑っちゃ悪いって……ぶふっ』

『ここまで来るともう笑うしかないわよ……ご愁傷様、箒ちゃん』

 私の思った通り、激辛辛子マヨパンに当たったのは箒だった。もはやここまで来ると『神の意思』と言う奴が絡んでいるのではないか?と思う程、今日の箒はツキがない。

「ぐ、ぐう……っ。だが、負けるわけには!」

 しかし、『玉撃ち落とし』での失態を少しでも挽回したい箒は、リタイアする事無く必死の形相で激辛辛子マヨパンに喰らいつく。

 だが、やはり辛いのかその口の動きは緩慢で、その間に箒以外のメンバーは次々とパンを食べ終わってゴール。

 結局、箒は一口が小さいためにパンに苦戦していたセシリアと最下位争いを演じ、辛くも勝利したのだった。

 

 第三種目『パン食い競争』終了。現時点での各組の得点−−

 

 紅組 650点

 蒼組 1000点

 桃組 1010点

 黒組 1080点

 鉄組 1100点

 橙組 1150点

 

 なおも橙組がリード。続いて第四種目『騎馬戦』準備中。

 

 第四種目の『騎馬戦』は、一言で言えば『グッダグダ』の一言に尽きた。

 なにせ、シャルと簪さんを除く代表候補生達が揃って武器を持ち込もうとするは、楯無さんによって一夏が騎馬として乱入させられるは、攻撃から身を守ろうとした一夏の手が相川さんの『お餅』を鷲掴みするは、それに怒ったラヴァーズがISを展開して一夏を追い回すはと、もはや『騎馬戦』でも何でもない状態になってしまった。

『……どうしようか、九十九くん』

『……無効時合(ノーコンテスト)で』

 上空で簪さんの放ったミサイルの爆発に飲まれる一夏を見上げながら、私はそう言うのが精一杯だった。

 

 第四種目『騎馬戦』無効時合により全組得点変動無し。午前の部終了時点での各組の得点−−

 

 紅組 650点

 蒼組 1000点

 桃組 1010点

 黒組 1080点

 鉄組 1100点

 橙組 1150点

 

 1時間の昼食休憩を挟んで午後の部を開始。第五種目は『軍事障害物競争』。




次回予告

英気を養うのに必要な物は、何と言っても美味しい食事だ。
それが愛しい人の作った物なら、なお良いと思う。
さあ、両手を合わせて口にしよう、「いただきます」と。

次回『転生者の打算的日常』
#66 体育祭(昼休憩)

ああ、愛が美味い。

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