yahoo!知恵袋の回答を元にしています。
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モンド・グロッソ。ISが世界に現れた4年後に、各国政府の協議と各国企業の出資により開催されたISの世界大会である。
格闘・射撃・機動・総合の四部門があり、その内総合を除いた三部門は、さらに二つの部に分かれる。
格闘部門は刀剣類や槍等の近接戦闘用武装を用いる『武器の部』と、
射撃部門は拳銃や機関銃等、小口径の射撃武器に限定した『銃の部』と、グレネードやガトリング等の重火器に限定した『砲の部』に。
機動部門はスピードを競う『飛行の部』と、フィギュアスケートのように飛行の美しさを競う『技能の部』に分かれる。
総合部門は文字通り、全ての部門の出場選手から世界最強のIS乗りを決定する部門である。
各部門の優勝者には『
初代総合部門優勝者は織斑千冬であり、次の大会に出れば連覇は間違いないという意見が大半だった。だが−−
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モンド・グロッソ総合部門決勝戦の前日。私と一夏は大会の行われているベルリンにいた。
「ふむ、ベルリンと言う所は空港に似ているな」
「いや、ここは空港だぜ九十九。ってか、なに言ってんだ?」
「なに、古いボケさ。忘れてくれ」
また何やらおかしな電波を受信したようだ。一夏は「逆に気になるけど……まあいいか」と呟いた後、話題を切り替えた。
「そう言えば、千冬姉には今日行くって伝えたんだけど、迎えには行けないって言ってた」
それは当然だろう。明日の決勝戦に向け、機体の調整や本人の体調管理など、やるべき事はいくらでもある。
「アリーナ近くのホテルを押さえてくれただけでもありがたいだろ。適当に観光してからホテルに入って、明日に備えよう」
「おう!」
そう、明日は本当に色々ある。
明日、一夏は何者かに誘拐され、その後決勝を棄権して駆けつけた千冬さんに救出される。そしてこの事件を切っ掛けに、一夏は『誰かを守る為の強さ』を求めるようになる。
私に出来る事はあまりない。精々千冬さんに一夏の居場所を教えるくらいだろう。あまり極端に原作の流れを変えるわけにはいかないのだ。
「そう言えば、観光するはいいけど金がないぜ?」
困った様な顔で一夏が呟いた。
「心配するな。父さんがいくらか持たせてくれた。お前の分も出せるくらいはあるだろう」
私は出発前、父さんに渡された封筒を開けて中を確認する。瞬間、私は顔が引き攣ってしまった。
「いくら入ってたんだ?」
一夏が怪訝な表情で聞いてきた。
「……1万だ。ユーロでな」
「えっと……それって……」
「日本円に換算して、およそ136万円だ」
1泊3日の旅行の小遣いにしては額が大き過ぎた。いくらなんでも持たせ過ぎだ、父さん。
明けて翌日。モンド・グロッソ総合部門決勝戦の開始3時間前。私達はアリーナに向かうための準備を終え、ホテルを出ようとしていた。
「さて、行こうか。一夏」
「ああ。ところで九十九、なんで帽子かぶってるんだ?普段はかぶらないのに」
「なに、気にするな。ただの気まぐれだ」
誘拐犯達が一夏を誘拐しようとするなら、アリーナの中では人目が多過ぎる。私が誘拐犯だとして、仕掛けるのなら−−
予想通りホテルを出た直後、いかにもといった感じの男達に囲まれた。彼等が一夏誘拐の実行犯という事か。
「なんだよ?あんたら」
「織斑一夏だな?我々と一緒に来てもらおう。断わると言うなら……」
言って男の一人が懐から銃を取り出し、私に向ける。……なるほど、そう来たか。
「っ!?」
「お友達がどうなるか……分かるな?」
私を簡易な人質にする犯人一味。これで一夏に拒否するという選択肢は無くなった。
「九十九!クッ……分かった」
心底悔しそうに一夏は首を縦に振った。
「いい返事だ。来い」
男が顎で停めてあるバンを示す。
「ああ。九十九には……」
「安心しろ。何もしないさ。何も……な!!」
後頭部に衝撃が来る。どうやら銃のグリップで殴られたようだ。
「グゥッ!?」
瞬間、意識が遠くなった私は、バタリと地面に倒れる。
「九十九!?」
「安心しろ。気を失ってもらうだけだ」
「クッ……一夏……」
最後に私に出来たのは、男の一人の足を掴む事だけだった。だがそれも、あっさりと振り払われてしまう。
「ふん、行くぞ」
男達はバンに一夏を乗せ、そのまま去って行った。
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「……さて、そろそろいいか。流石父さんの会社の対衝撃防御機能付きキャップ。良い仕事だ」
私は地面から起き上がり、服に付いた砂を払う。そして携帯電話を取り出し、あるアプリを起動する。画面にはベルリン市街の地図上を動く光点があった。
「ふむ、どうやら港の方に行っているようだな」
あの時、私は気絶間際の最後の抵抗のフリをして誘拐犯の一人の足に小型の発信器を付けたのだ。父さんの会社の商品で、本来の使い方は迷子になりやすい子供や、徘徊癖のある認知症患者等を探す為の物らしい。
『道に迷った時の為に持って行け』と渡された物だが、どうやら役に立ったようだ。
「後はこれをどうやって千冬さんに教えるかだが……」
悩んでいると、後ろから風切り音が聞こえてきた。振り向くと、こちらに飛んで来るISが一機。千冬さんの『暮桜』だ。必死の形相で一直線に港の方に向かっている。となると、ドイツ軍から既に情報提供を受けたと言う事か。
「千冬さん!!」
聞こえるか分からないが取り敢えず叫ぶ。と、『暮桜』が急停止。こちらに振り返った。
「九十九!?なぜそこに!?一夏と一緒に誘拐されたとばかり……」
私に気づいた千冬さんが驚いたような顔をする。
「私に用は無いようでした。気を失わされただけです」
「そうか。ドイツ軍からは一夏が誘拐され、誘拐犯は港に向かったらしいとしか聞いていなくてな」
そう言う千冬さんに、私は携帯の画面を見せる。
「ここです。この光点の位置に一夏が、正確には一夏を誘拐した犯人がいます」
「なぜ、お前がそんな事を知っている?」
「気を失う直前、犯人の一人の足に父さんの会社が作った発信器を取り付けました。十中八九、一夏はここです」
千冬さんに携帯を投げて渡す。千冬さんはそれを受け取りながら訊いてきた。
「来ないのか?」
「生身の私がISの飛行速度に耐えられると?」
「そう言えばそうか。九十九」
「はい、なんでしょう」
「ありがとう」
言って、千冬さんは再び空を駆けた。しばらくして、港の方から盛大な破壊音が響いてきた。一夏の救出には成功したが、その際港の倉庫が一軒ダメになったのだろう。
やはり、あの人を一夏がらみで怒らせてはいけないと改めて感じた。
その後、千冬さんは情報提供をしたドイツ軍に恩を返すため、1年間ドイツ軍のIS教官として従軍。
帰国後、しばらくして突然の引退宣言。その後、IS学園に教師として赴任し後進の指導にあたっている。一夏には「IS関連の仕事」とだけいってあるようだ。
これが、私の見た一夏誘拐事件の顛末だった。
自称
したよ。見てたろ?アンタの事だからきっと。
次回予告
それは、ありえないはずの事だった
それは、常識外れの出来事だった
例えそうなった理由が、「道に迷ったから」であったとしても。
次回 「転生者の打算的日常」
#07 発覚
これは、私の利になるのか?