♢
「では、状況を説明する」
IS学園特別地下区画、オペレーションルーム。本来なら生徒の誰一人として知らないまま卒業していくだろうこの場所に、現在学園にいる専用機持ち全員が集められていた。
私、箒、鈴、セシリア、ラウラ、簪さん、楯無さんが並び立っている。私達の前には、千冬さんと山田先生だけが居た。
なお、二年のフォルテ・サファイア先輩と三年のダリル・ケイシー先輩は、それぞれ母国にISの修理に行っていてここには居ない。
どうやらこのオペレーションルームは完全独立した電源で動いているようで、ディスプレイはしっかりと情報を表示している。ただし、空間投影型ではない旧式のディスプレイではあったが。
「しかし、こんなエリアがあったなんてね……」
「ええ。いささか驚きましたわ……」
それとなく室内を観察しながら、鈴とセシリアが呟く。すると、そこへすかさず千冬さんが注意の怒号を飛ばした。
「静かにしろ!凰!オルコット!状況説明の途中だぞ!」
「は、はいいいっ!」
「も、申し訳ありません!」
その声に思い切り萎縮する鈴とセシリア。ひそひそ話は強制終了である。
それから改めて、山田先生がディスプレイに表示している情報を拡大して全員に伝え始めた。
「現在、IS学園では全てのシステムがダウンしています。これは何らかの電子的攻撃……つまり、ハッキングを受けているものと断定します」
山田先生の声も、いつもより遥かに堅い。どうやら、この特別区画に生徒を入れるという事は、それだけの緊急事態だという事なのだろう。
「今のところ、生徒に被害は出ていません。防壁によって閉じ込められる事はあっても、命に別状があるような事はありません。全ての防壁を降ろしたわけではなく、どうやらそれぞれ一部のみの動作のようです」
だからトイレにも行けますよ、と山田先生が言うが、それに笑う者はいなかった。
「あ、あの、現状について質問はありますか?」
「はい」
ジョークが滑った事に慌てたのか、取り繕うように山田先生が言うと、ラウラが挙手をする。流石現役軍人、有事の際の行動は機敏だな。
「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされることなどあり得るのでしょうか?」
「そ、それは……」
困ったような顔の山田先生が視線を横に動かす。それを受けた千冬さんが口を開いた。
「それは問題ではない。問題は、現在この学園が何らかの攻撃を受けているという事だ」
「敵の目的は?」
「それが分かれば苦労はしない」
嘆息する千冬さん。ラウラは「確かにそうか」と小さく呟いて質問を終えた。他に挙手をする者がいなかったので、山田先生が作戦内容を説明しようと口を開いた矢先、オペレーションルームに緊急事態を告げるアラートが鳴り響く。
「何事だ!?山田先生」
「は、はい!今調べます!……えっ!?そんな!?」
ディスプレイを見た山田先生の顔が驚愕に歪む。そして、何が起こったのかを口にした。
「学園島、南西50㎞地点にIS反応!真っ直ぐこちらに向かってきています!」
「なにっ!?」
「光学映像、出ます!」
そう言って、山田先生がディスプレイに学園に接近中のISの映像を出した。そこに写っていたのは見慣れない外観のISだった。
「なんだ!?あのISは!?見た事がないぞ!」
「山田先生、映像を最大望遠に。パイロットの顔が欲しい」
「分かりました!」
山田先生がパネルを操作すると、飛んでくるISの姿が徐々に大写しになり、遂にパイロットの顔を捉える。その顔は、私の見知った者だった。
「あれは……メルティ・ラ・ロシェル!?なら、乗っているのは『
「は、はい!解析します!」
私の言葉を受けて山田先生がデータベースから『アルテラ』の情報を取り出し、現在のそれと照らし合わせる。
「出ました!機体形状一致率は、約65%です!」
「な、何よそれ!?」
「それはもう、完全に別物の機体ですわ!」
通常、どれだけ個人用にカスタムしたISでもその機体形状一致率が80%以下になる事は稀だ。
事実、
それが30%以上も形が違うとなれば、セシリアが言う通り完全に別物の機体と言っていい。一体どれ程の魔改造を施されているんだ?あの機体は。
「一体何が目的でしょうか……?」
「恐らく、私でしょう」
そう言った私にその場にいる全員の視線が集まる。
「あれに乗っているのはメルティ・ラ・ロシェル。フランス事変の際に私が撃破した女、ケティ・ド・ラ・ロッタの恋人です。そして同時に、専用機持ち限定タッグマッチ無人機襲撃事件の際、『復讐』と称して私に襲い掛かり、私が撃退した女です」
「では、奴の目的は……」
「私の首にあると思われます。織斑先生、出撃許可を。今の彼女は復讐と雪辱に凝り固まっているでしょう。私が出ねば、アレが学園に対し、何をするかわからない」
「…………」
「織斑先生、ご決断を。この場で機体が十全なのは私だけです」
「……いいだろう。行って来い、村雲」
絞り出すような千冬さんの声。相当の懊悩の末の結論だったのだろう。私は一つ頷いて、オペレーションルームを出た。
一方、残された他の専用機持ち達は真耶から改めて作戦内容を説明された。
それは、楯無を除く専用機持ちメンバーがISのコア・ネットワークを利用した電脳ダイブにより、直接侵入者排除を行う。と言うものだった。
これに驚いたのは、楯無以外の専用機持ち達だ。電脳ダイブとは、個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって電脳世界へ侵入する、アラスカ条約で規制された技法だからだ。
当然、この方法自体には危険性はない。だが、同時にそれをするメリットも無い。何故なら、どんなコンピューターであれ侵入者排除を行うならISの電脳ダイブを行うより、ソフトかハード、もしくは両方を弄った方が早いからだ。
更に言えば、電脳ダイブ中のIS操縦者は眠っているようなもので非常に無防備だ。もしアクセスルームを襲撃されればひとたまりもない。
加えて言えば、専用機持ちを一ヶ所に集めるというのは、危険ではないか?
こうした専用機持ち達の意見は、千冬によって一蹴された。
「駄目だ。この作戦は電脳ダイブによるシステム侵入者排除を絶対とする。異論は聞いていない。嫌ならば辞退しろ」
有無を言わせぬその迫力に、全員が気圧される。
「い、いや、別にイヤとは……」
「ただ、ちょっと驚いただけで……」
「め、命令とあらばやります」
「ベストを尽くします……」
「や、やるからには成功させてみせましょう」
それぞれの同意を得られたと見た千冬は、手を一つ打つと檄を飛ばした。
「よし!それでは電脳ダイブを始めるため、各人はアクセスルームへ移動!作戦を開始する!」
その激を受けた箒達は、オペレーションルームを出て一路アクセスルームを目指す。後に残ったのは千冬と真耶、それに楯無だった。
「さて、お前には別の任務を与える」
「なんなりと」
静かに頷いた楯無に、いつものおちゃらけた雰囲気は微塵もない。つまり、それだけ事態は切迫しているという事だ。
「恐らく、このシステムダウンや村雲が迎撃に行ったISとは別の勢力が学園にやって来るだろう」
「敵−−、ですね」
学園の全システムがダウンしているという事は、それだけ混乱も大きい。この機に乗じて介入を試みる国は必ず存在する。千冬はそう睨んでいた。
「そうだ。今のあいつ等は戦えない。悪いが、頼らせて貰う」
「任されましょう」
「お前には厳しい防衛戦になるな」
「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから」
そう言って不敵に微笑む楯無だが、千冬が顔色を変える事はない。
「しかし、お前のISも先日の一件で浅くないダメージを負っただろう。まだ回復しきっていない筈だ」
「ええ。けれど私は更識楯無。こういう状況下での戦い方も分かっています」
生徒の長として、一歩たりとも引く気はない。その強い決意を楯無の瞳の奥に見た千冬は、溜息を一つついた。それから真っ直ぐに楯無を見詰め、一言告げた。
「では、任せた」
楯無はペコリとお辞儀をすると、オペレーションルームから出て行った。その姿がドアで閉ざされて見えなくなってから、千冬は重い口を開いた。
「私達は何をしているんだ……っ!守るべき生徒達に戦わせて、私達は……!」
「織斑先生……」
仕方がないとは言わない。言ってはいけない。
それは、千冬にとっても真耶にとっても、決して譲れぬ一線であった。
「さあ、ぼんやりしている暇はないぞ。我々には我々の仕事がある」
「はい!」
そうして、千冬と真耶も、ある準備に取り掛かった。
IS学園防衛戦、現在の状況−−
一夏ラヴァーズ−−アクセスルームに移動完了。電脳ダイブの準備を開始。
村雲九十九−−接近中の魔改造『アルテラ』の迎撃に出動。接敵まであと僅か。
更識楯無−−学園に侵入を試みる部隊の迎撃に出動。現在、学園内を探索中。
織斑千冬&山田真耶−−何らかの作戦準備を開始。現在位置不明。
♢
「……あら、迎えに行こうとしていたのに、そちらから来てくれるなんて。手間が省けたわ」
「貴女が着飾ってやって来たと聞いてね。慌てて出てきた、という訳だ」
IS学園島、南西3㎞地点。そこで私とメルティ・ラ・ロシェルは二度目の邂逅を果たしていた。軽口を叩き合いながらも、その視線はお互いを捉えている。どちらかが動こうとしたその瞬間、戦端は開かれるだろう状況。まさに一触即発だ。
「
「言うと思ってるの?」
「いや、微塵も」
更に軽口を続けながら、私はメルティのIS『アルテラ』を注意深く観察する。
元の姿から大きく変わったのは肩と脚。特に肩には巨大なアーマーが増設され、そのアーマーからはスラスターノズルが見え隠れする。脚の追加装甲はアーマー兼ブースターのようで、全体に機動力と防御力を同時に上げようとしている事が伺える。
その一方で、背中のランドセルには大口径の滑腔砲と荷電粒子砲が砲身を折り畳む形でマウントされ、両腕下部には小口径のガトリングガンが取付けられている。その手には先端にパイクの付いた大型メイスを握っていて、火力と接近戦における破壊力をも追い求めた形になっている。その威容に、私は内心唖然としていた。
つまり『アルテラ』を改造した
「私が来た理由……分かっているのでしょう?今度こそ、貴方を殺すわ。村雲九十九!」
だろうとは思ったが、よくあの組織が私怨で動く事を許したものだ。意外にその辺り緩いのか?亡国機業?
「熱心な事だ。そんなに私の首を
これは軽い挑発だ。これ対してメルティが「勝手に殺すな!」と突っかかってくれば良し。「安い挑発ね」と鼻で笑われても特に問題は無い。
「…………」
だが、私のその一言を聞いた瞬間、メルティは俯いて黙り込んでしまう。これは予想に無い反応だ。
「そう……やっぱり知ってたのね。あの方が死んだ、いえ、殺された事」
「!?」
小さく呟いた彼女の言葉に、私は驚いてしまった。ラ・ロッタが……殺された?
フランス国営超長期刑務所『バスティーユ』の警備レベルはあの国で最高クラスで、事実設立から50年が経過した現在までの間に脱獄に成功した服役囚は一人も居ない。また、脱獄幇助のために侵入できた者も一人も居ない。
「そんな厳重な警備を掻い潜り、
「その反応、どうやら今の一言はそうと知らずに言ったみたいね。でも、どうやったかなんて関係ないわ、村雲九十九。あの方は殺された。それだけよ」
そう言って、メルティは私にメイスを向ける。それに対して、私は同じ超重武器である《ミョルニル》を
「だから!」
短い咆哮と共にこちらに突進してくるメルティ。
「貴方の首をあの方の墓前に捧げて、あの方のお側へ行く!それが私に出来る、最後の奉公よ!」
「貴女が死ぬのは勝手だが、それに私を巻き込むな!迷惑だ!」
ガアンッ!
IS学園島の空に、鉄の塊のぶつかり合う音が響き渡った。
♢
……ガアンッ!
上空で響いた音に反応して顔を上げた楯無は、そこから断続的に響くその轟音に、九十九が戦闘状態に突入した事を悟った。
鉄の塊がぶつかり合うようなその音は、本校舎の方に少しづつ近づいて来ている。それに楯無が思案顔をした。
(全校生徒は大体の避難は終わったようだし、まあ大丈夫ね)
一瞬で思考を終えた楯無は、その目を正面……遠くまで真っ直ぐ続く廊下に向けた。
「上ではもう始まったみたいね……。じゃあ、こっちも始めましょうか、侵入者ご一行さん?」
そう言う楯無の前には、一見誰もいないように見える。しかし、楯無のIS『ミステリアス・レイディ』は確かにそこに『人間』がいると告げていた。
プシュ!プシュ!
瞬間、何も無い空間から、空気が抜けるような音と共に特殊合金製の弾丸が楯無に飛んでくる。しかし、それらは全て楯無の目の前で止まる。
「!?」
「ふふん。なんちゃって
微笑んで
目に見えない敵兵の動揺を感じ取り、楯無の笑みは一層深くなる。
そもそも、目に見えない彼らを真っ先に捉えたのもこのアクア・ナノマシンだ。音も無く、姿も無い彼らだが、そこにいる以上空気には触れる。その空気に
「ポチッとな」
楯無が拳から唯一立てていた親指を閉じる。刹那、大爆発が廊下を飲み込んだ。
「IS『ミステリアス・レイディ』の技の一つ。《
『ミステリアス・レイディ』の真骨頂は、屋内やアリーナと言った限定空間内での戦闘にある。『ミステリアス・レイディ』の最大戦力であるアクア・ナノマシンは、分布密度から流動まで、閉じた空間であればその全てが思いのままだからだ。
しかも相手は最新装備の特殊部隊とはいえ、只の人間。いくら
「なーんか、弱い者イジメみたいよねぇ」
はぁ……と溜息をつく楯無。……しかし。
「うふふ、そういうのって大好き♡」
魔性の女が、嗜虐的な笑みを浮かべた。そもそも、目の前の(見えないが多分)男達は、殆どの生徒が非武装の女子校に完全武装で乗り込んで来る無粋者達だ。大義名分は楯無にこそある。
「さあ、行くわよ。必殺、楯無ファイブ!」
楯無が叫んだ瞬間、その姿が5人に分かれる。そこに居並ぶのは、制服姿にランス装備の更識楯無✕5。
「まあ、ぶっちゃけ『ミステリアス・レイディ』の機能なんだけどね」
ヘラリと言う楯無の言葉に、特殊部隊員達は戦慄した。
つまり、目の前の楯無達は、5体中幾つかはアクア・ナノマシンを使った特殊レンズによる幻で、その他はナノマシンで製造した水人形であるという事だ。問題はその内訳が分からない事。しかも、水人形の方は爆発機能の付いた実体だ。
「うわああっ!く、来るな!来るなあああっ‼」
微笑みを浮かべて、一歩づつゆっくりと近づいてくる楯無(水)に、恐慌状態に陥った最年少の隊員が銃を乱射する。しかし、水で出来た人形である以上、銃弾は一切効かない。
「はい、ドーン!」
「「「ぐわあああっ!」」」
楯無の合図で一斉に爆ぜる水人形。爆発をまともに受けて倒れ伏す隊員達。阿鼻叫喚がそこにはあった。
「は、班長!このままでは……!」
「ぐ、ぬぅ……っ!」
訓練された兵士、それも最高のスペックを持った男達がどんどんとやられていく。救援要請を受けた別働隊が合流して事に当たろうとするも、楯無に一切歯が立たず一人、また一人と脱落して行く。
「ひ、退け、総員撤退!」
これで若干16歳。おまけに機体、本人共に本調子では無い。にも関わらずこの有様なのである。
つくづく、ISとは既存の認識を破壊し尽くしたのだ。撤退支援をしながら、班長と呼ばれた男は改めてそう実感していた。
「うふふ♪」
燃え盛る炎の中で艶然と微笑む楯無。その様は完全に
♢
「…………」
上階の爆発音を遠くに聞きながら、千冬は一人真っ暗な通路に佇んでいた。その姿は常のスーツ姿ではない。
黒を基調としたボディースーツに身を包み、普段下ろしている髪をポニーテールに纏めている。両腰のブレードホルスターには計六本の日本刀型ブレードが下がり、それとは別に両手に一本づつ刀を握り、直立不動の姿勢を取っていた。
(楯無め、派手にやりおって……)
本校舎が受ける事になるだろう被害とその修繕費を思うと頭が痛いが、一旦その考えは捨て、自身正面−−地下特別区画の
静かな空間に小さく配管の駆動音が響く中、千冬の耳がこの場に有ってはならない音を捉えた。それは、ISの駆動音。それも極めて小さいものだ。
(これだけの小さな音……相手はステルス機か)
臨戦態勢を取った千冬の目の前に現れたのは、アメリカ製軍用第三世代機『ファング・クエイク』を纏った女だった。
しかし、その機体はアメリカ代表IS操縦者『
イーリスの強襲仕様高速格闘モデルと違い、拳部分にナックルガードが装着されておらず、ウィングは小さく、
何より違うのは機体色。派手な
その姿を見た千冬は、目の前の女がどこの何者かを理解した。
(なる程、噂の米軍特殊部隊『
『名も無き兵達』
この部隊に所属する兵士は、全員が国籍も民族も宗教も名前も無い、まさに『アンネイムド』と呼ぶに相応しい部隊である。
その活動は完全に部外秘とされ、米軍所属である事も記録上、書類上のどこにも無い。
その性質上、表沙汰に出来ない汚れ仕事を主に請け負うと言われており、その存在は各国で噂されていたが、彼等彼女等に繋がる証拠は一切出ておらず、真相は藪の中である。
(こいつが来た、という事は相手はアメリカか……となると、目的は
千冬が相手の目的を正確に見抜いたと同時、千冬の存在に気づいた女の前進が止まる。瞬間−−
「参る」
「−−!?」
短い言葉と共に、千冬が一陣の風となって駆け抜けた。
ガインッ!
盛大な音と火花を立てて、千冬は女の後ろへと跳ぶ。着地と同時、通路全体の灯りが点灯して互いの姿を照らし出す。
千冬の姿を捉えた女は、目の前の人物が誰なのかに気づいて思わず呟いた。
「
目の前に千冬が現れた事にも驚いた女だったが、その姿にも驚いた。
(本気か……?)
女が思ったのはまずそれだった。ISのセンサーを使って何度確認しても、千冬は生身にボディースーツという装備だ。ダイビングスーツのように全身を覆うそれを着込み、ブーツは強化仕様のゴツい物を履いている。手には格闘用グローブを嵌め、露出している部分は顔のみ。
その腰に三対六本のブレードを下げ、両手にも二本の刀を持っている。先程『ファング・クエイク』の装甲に刃を立てたのは、どうやらそれらしい。一見すれば完全装備だが、女からすればふざけているように見えた。
(このような対通常兵器用のスーツで……どういうつもりだ?)
無論、防弾効果や対刃性はあるだろう。しかし、それにした所でISの火力の前では裸であるのと変わらない。が−−
「どうした」
「……?」
女に声を掛けた千冬は、手に刀を持ったまま手招きをする。
「かかって来い。お前の目の前にいるのは初代ブリュンヒルデだぞ。世界で初めて最強の名を手にした女だ。全身全霊をもっと挑むがいい、一兵士」
挑発的な笑みを浮かべる千冬。そこには、圧倒的強者の余裕が見て取れた。
IS学園防衛戦、現在の状況−−
一夏ラヴァーズ−−電脳ダイブ開始。簪のバックアップの元、行動中。
村雲九十九−−IS学園上空にてメルティと戦闘開始。やや形勢不利。
更識楯無−−IS学園本校舎内にて所属不明の部隊と戦闘開始。圧倒的に形勢有利。
織斑千冬−−IS学園地下特別区画にて『名も無き兵達』隊長と戦闘開始。形勢有利。
次回予告
狼は狙う。神が見せる一瞬の隙を。
白の騎士は走る。囚われの淑女を救う為に。
戦乙女は魅せる。最強と呼ばれる由縁を。
次回『転生者の打算的日常』
#60 IS学園防衛戦(後)
メルティ、貴方に私の『本当の戦い方』を見せてやろう。