転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#34 逢引

 夏休みが始まって5日が経過。シャルはフランスでの用事を、私は会社での用事をそれぞれ終わらせて学園寮へと戻っていた。

 シャルの部屋に集まった私、本音、シャルの三人は、シャルの淹れた紅茶を飲みつつ、それぞれ近況報告をした。

「という訳で、新型の『ラファール』が形になるのは早くても10月くらいになるって」

「そうか。機体コンセプトは聞いている。なんでも『複数のパッケージの搭載と換装による擬似即時対応万能機(ニア・マルチロール・アクトレス)』だそうだな」

「うん」

 頷くシャルの顔は少し引きつっていた。なにせ新型の『ラファール』はデュノア社とラグナロクの共同開発機だ。どんなトンデモマシンになるか、今から気になっているのだろう。シャルなら使いこなしそうな気もするが。

「そっちはどうだったの?」

 シャルがこちらの状況を訊いてきたので分かった事を話す。

「《ヨルムンガンド》を解析した結果、吸収したエネルギーを攻撃に使える事が分かった」

 しかし、それが分かったのは偶然だ。データ取りのための模擬戦で、ルイズさんのグレネードランチャー無差別攻撃になんとか対抗しようと装甲を展開して拳を突き出したら、そこからエネルギー弾が飛び出したというだけに過ぎない。

 とは言え、これも『フェンリル』の能力の一つな訳で。

「《ヨルムンガンド》の攻撃モード。その名を……」

「《ミドガルズオルム》……かな?」

「……その通りだ」

「つくもん、よしよ〜し」

 先回りされた事に少し機嫌が悪くなったのを本音に見透かされたのか、頭を撫でられた。ささくれた心が急速に癒えていく。

「もう大丈夫だ。ありがとう、本音」

「ど~いたしまして~」

 いつもののほほん笑顔で私の礼に返す本音。そこにシャルが申し訳無さげに声をかける。

「ごめんね、九十九」

「いや、いい。連想できる武装名だからな。無理もない」

「ほえ?ど~ゆ〜こと〜?」

 頭上にハテナマークを浮かべる本音。どうやら北欧神話には詳しくないようだ。

「ミドガルズオルムは、ヨルムンガンドの別名だ。フェンリル同様、ロキの子供でな」

人間の世界(ミッドガルド)の周りをぐるりと囲んでる、とても大きな蛇なんだよ」

「へ~!」

 本音が一つ雑学を仕入れた所で、話は明日のデートの事に移る。

「それで二人とも、行く所は決まったかね?」

「うん、あのね−−」

 

 

 翌日、新世紀町駅北口。そこに降り立った私は、先に来ているはずの二人の姿を探していた。

 今回のデートは、シャルの「普通の高校生のデートがしたい」という要望で、こうしてわざわざ待ち合わせをしたのだ。

 一緒に出ればいいのにとも思ったが、本音に「待ち合わせもデートの醍醐味」と言われてはどうしようもなく、私は二人から20分遅れて学園を出る事になった。

 その間、私達同様出かける予定の女子一同の生温かい視線に晒された。あのニヨニヨした笑みはやめて欲しいと本気で思う。

「確か、北口の白騎士像前にいると……いた」

 視線を巡らせると、ライムグリーンのタンクトップにオレンジの半袖シャツ、ネイビーブルーのショートパンツを身に着けたシャルと、白いダル袖サマーセーターとパステルイエローのフレアスカートに身を包んだ本音がいた。うん、二人ともよく似合ってる。

 二人に声をかけるべく歩を進めようとした所で、事件は起きた。三人の男が二人に声をかけたのだ。

 ……いい度胸をしているじゃないか。私の歩行速度は自然と上がっていた。

 

「ねえ彼女たちぃ。女だけ?」

「良かったら俺らと遊ばねえ?」

 九十九が二人の前に現れる数十秒前。本音とシャルロットは、いかにもな雰囲気のナンパ男に声をかけられた。

「いえ、人を待ってますので」

 やんわりと拒否したシャルロットだったが、この手の男は諦めが悪いもので。

「いいじゃん、何ならその子も一緒にさぁ」

「きっと楽しいぜぇ」

「いえ、ですから……」

「いいから来いよ!」

 声を荒げ、シャルロットの腕を掴もうとする男。しかしその男の腕は横から伸びてきた別の手に掴まれる。

「やめて貰おうか」

「あ……」

 腕を掴んだ男はシャルロットのよく知る男−−

 

 私こと、村雲九十九だった。

「ああ?んだテメエ?」

「最近のナンパ師は随分と性急に事を運ぼうとするのだな。相手の事情も考えたまえ」

 掴んだ腕を自分の方に向け、諭すように声をかける。

「それに、その二人は私の連れでね。勝手に連れて行って貰っては−−」

「るせえっ!つか、離せや!」

 腕を掴まれた男が激昂して殴りかかってきたため、それを躱して顎にスナップをきかせた裏拳を掠めるように当てる。

「あ……が……?」

 顎に一撃を受けた男は一瞬で意識を失って崩れる。掴んでいた腕を離すと、そのまま重力に引かれてばたりと倒れた。

「た、拓ちゃん!?」

「おっとすまない。殴りかかられたのでつい。まあ、自業自得だ。さて……」

 倒れた男に近づいた残りの男達を睨みつけると、男達はビクリとして後退る。どうやら倒した男は彼等のリーダーだったらしい。さっきまでの勢いはどこへやら、青い顔をして震えている。

「その男を連れて失せろ」

「「はっ、はいっ!すんませんでしたーっ!」」

 気を失った男を両側から抱えあげ、逃げるように立ち去る男達。

「まったく……大丈夫だったか?二人とも」

 溜息をつき、二人の方へ向き直る。二人はホッとしたような顔を浮かべていた。

「うん、大丈夫」

「ありがと~つくもん」

「女を守るのは男の仕事だ。まして、自分の彼女なら尚更な」

 まあ、最近は女尊男卑の影響で男女の関係が逆になっているが。それはともかく。

「それじゃあ、行こうか」

「「うん!」」

 頷いて腕に抱き着いてくる二人。合計四つの『グレネード』が一斉に私を襲う。

「二人とも?その……当たってるんだが」

「「当ててるんだよ?」」

「……もう何も言わん」

 二人を諭して離れさせるのを諦め、そのままの態勢で目的地へ向かう。

「まずは映画鑑賞だったな。今は何をやっていたかな」

「あっ、それなら調べてあるよ」

「了解だ。何を見るかは任せる」

「おっけ〜。じゃ〜、れっつご〜」

 こうして、私と二人のデートは始まった。出だしから波乱があったが、気にしてはいけないのだ。

 

 九十九が現れてから居なくなるまでの一部始終を見ていた男達は、彼の背中に向かって怨嗟を込めた視線と共に叫んだ。

「「「おのれリア充。爆発しろ!!」」」

 それを聞いた周囲の女性達がドン引きしたのは言うまでもない。

 

 

「うう……ぐすっ……」

「ほら、もう泣くな。これを使え」

「うん、ありがと……」

 涙腺崩壊しているシャルにハンカチを渡すと、シャルはそれで涙を拭った。

「しゃるるんって感動屋さんなんだね~」

 そう言う本音の目も微かに潤んでいた。何故シャルが泣いているのか?それを語るには、時計の針を巻き戻す必要がある。

 

 私達がやってきたのはショッピングモール『レゾナンス』西棟5階のシネコン。夏休みとは言え平日だからか人は少ない。

「さて、どれを観たいんだ?」

「「あれ」」

 そう言って二人が指差したのは、泣けると評判のラブロマンス映画のポスター。

「ふむ、分かった。チケット代は私が出そう」

「そんな、悪いよ」

 財布を出そうとする私の手を押さえてシャルが言う。その目には申し訳無さが宿っていた。

「これも男の甲斐性という奴だ。出させてやってくれ、シャル」

「……わかった」

 私の言葉にシャルは押さえていた手を離す。この間、本音は何をしていたかというと……。

「あ、これおいしそ~」

 受付横のスナックコーナーを物色していた。まだまだ色気より食い気か。あの子らしいけど。

 

 受付でチケットを購入し、スナックコーナーで映画鑑賞の定番スナックであるポップコーンを買って席に着く。それと同時に映画が開始。

 内容はよくある病床のヒロインとの恋物語だったが、俳優の真に迫る演技につい惹き込まれた。

 中でもヒロイン役の雪村あかりの演技は特に際立っていた。ヒロインが主人公に最後に一言「ありがとう」と呟いて天に召されるシーンは、不覚にも涙を流しそうになった。

 そうして、約2時間の上映が終わった。終わってみれば心地の良い余韻が残っていた。

「ふう、なかなか良い作品だったな」

「そ~だね~」

 席を立ちながら本音と意見を交わす。ふと横を見ると、立ち上がろうとしないシャルが。不審に思い、顔をのぞき込むと。

「シャル?どうし……うおっ!?」

「ふええええん……」

 なんとシャルは感極まって号泣していた。手にしたハンカチは濡れていない部分を探す方が難しい程で、頬を伝った涙が太腿を濡らしている。

「シャル、どうした!?何が……」

「つくも~!」

 ガタンと音を立てて席から立ち上がり、泣き顔のまま抱き着いてくるシャル。周りの目が痛いので、ロビーに出てシャルをベンチに座らせて落ち着かせる。そして冒頭に戻る、という訳だ。

 

「落ち着いたか?」

「うん……ごめんね、九十九」

 ようやく泣き止んだシャルは、申し訳無さそうに頭を下げた。渡したハンカチも涙でしっとりしている。

「これ、洗って返すね」

「いや、そのまま持っていてくれて構わない。ハンカチは他にもあるからな」

「そう?じゃあ……貰うね?」

「ああ」

 そう言ってシャルはハンカチをバッグに入れた。中の物が濡れないか心配だが、言っても仕方ないので言わなかった。

 ところで、何故シャルがあそこまで泣いたかと言うと、映画のラストシーンに母親が重なったかららしい。シャルの母親の今際の際の言葉も「ありがとう」だったそうだ。

「なるほど、それで……」

「うん……」

「しゃるるんはお母さん大好きなんだね~」

 シャルの意外な一面を見られた所で時間は昼時。私達が向かったのは−−

 

 

「本当にここで良かったのか?」

「うん」

「高校生のデートの定番は『ハンバーガー屋さんでお昼』なんだよ~」

 『レゾナンス』西棟6階フードコート、そこにあるハンバーガーショップだった。

 シャルと本音はチーズバーガーセット、私はビッグサイズバーガーセットをそれぞれ注文。ここの払いは割勘になった。二人曰く「出して貰いっぱなしも悪いから」らしい。

「私は企業所属でそれなりの給料も貰っている。デート一回分の経費を全て支払っても、十分釣りが来るんだが?」

「それでもだよ~」

「九十九を財布扱いなんてしたくないし」

 今時の女性は、この考え方をする方が珍しい。多くの女性は男を財布か足程度にしか思わず、中には奴隷扱いしているようなのまでいる程だ。改めて、この二人が恋人(仮)で良かったと思う。

 などと感慨にふけっていると、目の前にフライドポテトが差し出された。顔を上げると、シャルが顔をほんの少し赤くしてこちらに向かってポテトを持った手を差し出している。これはまさか……。

「九十九、えっと……あーん」

「シャル?衆人環視のある中でそれは……」

「早く。僕も恥ずかしいから……」

「……分かった。あー……ん」

 意を決し、シャルの差し出すポテトを口に入れる。

「……おいしい?」

「気恥ずかしさが原因か、味が分からない」

「そ、そっか。あはは……」

 きっと今の私の顔は火が出そうな程に赤いだろう。シャルの顔も同じ位赤い。

「つくもん、つくもん」

「な、なんだ本「はい、あ~ん」音……」

 本音に呼ばれてそちらを向くと、のほほん笑顔でポテトを差し出す本音。だが、その顔は微かに上気している。

「あ、あー……ん」

 毒を食らわば皿まで。覚悟を決めて本音の差し出すポテトを口に入れる。

「お味はいかが~?」

「さっぱりだ」

「そっか〜。それじゃ~、しゃるるん」

「うん。ねえ九十九」

 頷きあってこちらを向く二人。二人から「はい、あ~ん」をされた時点で嫌な予感はしていたが、その予感が確信に変わる。

「「あ~ん」」

「そう来るんじゃないかと思ったよ……ほら」

 こちらに口を開けて待つ二人に、ポテトを持った手を差し出す。二人と私の手の距離が徐々に縮まり……。

「「はむっ」」

 揃ってポテトを口に入れた。咀嚼する事しばし、コクリと飲み込んだ二人に問いかける。

「味はどうだね?」

「「分かんない」」

「だろうな。私もそうだった」

 顔を真っ赤にして答える二人。それに返事する私の顔もきっと赤い。結局「はい、あーん」はこの一回ずつのみで終了。後はごく普通に食事を楽しんだ。

「さて、腹ごしらえは済んだ。次はどこへ行く?」

「そうだね……」

「高校生のデートの定番と言えばゲーセンかカラオケだよね~」

「ではゲームセンターにしよう。この階からなら連絡通路一本で行ける」

「わかった」

「れっつご〜」

 食べ終わった跡を片付けてフードコートを後にする。向かう先は東棟5階のゲームセンター。何をして遊ぼうか。

 

 その日の閉店後、ハンバーガーショップの店員が店のアンケート用紙を見ると、なんと9割の用紙の自由欄に同じ言葉が書いてあった。

「「「おのれリア充。爆発しろ!!」」」

 紙面から漂う怨嗟の念に、店員は恐怖に震えたと言う。なお、同じフロアの他の店のアンケートも似たような内容だった。

 

 

 東棟5階のゲームセンター『アミューズメントパークレゾナンス』

 ワンフロア全てがゲームセンターになっているここは、アーケードゲームはもちろんの事、メダルゲーム、クレーンゲーム、プリントシールマシンなどの定番の物から、ボーリング場、ダーツ、ビリヤード、更にはカラオケBOXまで完備した、一日遊んでも飽きない場所だ。

「さて、まずは何をしようか」

「う~ん、そ~だね~……」

「九十九、あれ何?」

 シャルが指差したのはアーケードゲームの大型筐体。モニターの正面にフットパネルが設置されたものだ。

「あれはダンスタイプのリズムゲームだな。やってみるか?」

「うん!」

 コクリと頷くシャル。その顔は興味津々といった表情をしている。

「本音はそれでいいか?」

「うん、いいよ~」

 という訳でダンスゲームの所へ。ちょうど前のプレイヤーがプレイを終えた所だった。

「このゲームはシングルプレイと二人同時プレイがある。どっちに……」

「「同時プレイで!」」

 声を合わせて言う二人。二人分のプレイ代金を筐体に入れて曲と難易度を選択。プレイ開始だ。

「よっ、とっ、結構難しいねこれ」

「あわわ。ミスっちゃった〜」

 慣れていないためか、なんとかついていくので精一杯な二人。それでもその顔は楽しそうだ。が、邪な奴等というのはどこにでもいるもので……。

「おい、見ろよあの二人」

「うわ、めっちゃ可愛いじゃん。特に金髪の子」

「いやいや、あっちのちっちゃい子だろ。見ろよ、すげー揺れてんぞ」

「うおっ、マジかあれ。スゲー」

 周りで見ていた男どものゲスな言葉についイラッとした私はきっと悪くない。

「そこの男性諸君」

「「「は?なに?」」」

「人の女友達をゲスな目で見るのはやめてくれんかね?(ニッゴリ)」

「「「は、はいっ!すんません!」」」

 自分なりに最高の笑顔を出したつもりだが、その顔はきっと苛立ちに歪んでいたのだろう。男共は90度のお辞儀をした後、一目散に逃げていった。怖がらせてしまったな。

「あ、やった!ゲームクリア!」

「つくもん、見てた~?」

「ああ、ちゃんと見ていたよ。ほら、もう一曲できるぞ」

「「うん!」」

 私に言われて、画面に向かってどの曲をプレイするかを相談し、曲を決めてプレイを始める二人。それを眺めていると横から声をかけられた。

「あれ?九十九じゃねえか?」

「ん?ああ、弾ではないか。久し振りだな」

 そこに居たのは、赤髪をバンダナで纏めた男。私のもう一人の男友達、五反田弾だった。

「おう、久し振り。てか、なんでここに?」

「ああ、それは……」

「楽しかったね、本音」

「うん。あれ?つくもん、その人だれ〜?」

 プレイを終え、私に近づいてきた二人。本音が弾に気づいて私に誰何する。弾は私を見て、二人を見て、もう一度私を見た。

「つ、九十九?この子達は……?」

「ああ、紹介しよう。本音、シャル、こちら五反田弾。私のもう一人の男友達だ」

「よ、よろしく」

「弾、こちら布仏本音とシャルロット・デュノア。私の……女友達だ」

「よろしく」

「よろしくね~、だんだん」

 互いに挨拶を交わす三人。だが、弾の目は私から離れていない。その目には不審が浮かんでいた。

「……九十九。お前今、一瞬言い淀んだな」

 弾の指摘にギクリとする。こいつ、こういう時だけ勘がいいんだよな。と、弾がいきなり私の肩を掴んで前後に揺らす。

「女友達とか嘘だろ!言え!どっちだ!?どっちがお前の彼女だ!?」

「だ、弾、揺ら、すな。何、も、言えん」

 私の指摘に肩を揺する手を止める弾。その息は荒い。

「はあ……はあ……で?どっち?」

「……どっちだと思う?」

 私の答えにもう一度私の肩を掴んで揺らす弾。その揺すり方は先程よりさらに強い。

「そんな言い方するって事は両方かっ!?両方なんだなっ!?おのれリア充!爆発しろ!!」

「だから、揺ら、すな。ええい、いい、加減に、せんか!」

 流石に揺られすぎて気分が悪いので、鳩尾に一発入れて黙らせる。

「ぐふうっ……!九十九、テメェ……」

「男の嫉妬はみっともないと何度言えば分かる。弾」

 膝をつき、こちらを睨む弾。加減したからすぐに回復するだろうが、これ以上相手をする気は無かった。

「ではな、弾。次は隣に女性がいる所を見せてくれ。行こう、シャル、本音」

「あっ、待って」

「つくもん、足速いよ~」

 弾に背を向けて歩き出す私の後をついてくる二人。後ろから弾の怨嗟の篭った捨て台詞が聞こえた。

「見てろよ!絶対その二人より良い女見つけて、幸せになってやるからなあ!」

 その叫びの直後「お兄うっさい!」という叫び声とガツン!という衝撃音。その後何かを引きずるような音がした。蘭もいたのか。挨拶しそびれたな。

 この後、メダルゲームで大当たりを出して引くほどメダルが手に入ったり、クレーンゲームで二人の欲しがったぬいぐるみを取ってあげたりと、楽しい時間を過ごした。

 

「で、最後はこれか」

「うん、今日の記念に」

「一枚撮っとこ~と思って〜」

 やってきたのはプリントシール機。中に入って代金を入れ、撮影開始。

 私とシャル、私と本音、そして三人でそれぞれ撮影。そして最後の一枚になる。

「最後の一枚だ。どうする?」

「それじゃあ……」

「つくもん、真ん中ね」

「わかった」

 左からシャル、私、本音の順に並ぶ。筐体が撮影開始をコールし、フラッシュが焚かれる数瞬前。

「「ちゅっ……」」

 二人から頬にキスされた。不意打ちを受けた私はポカンとしてしまう。

「……二人とも?」

「記念記念〜」

「うん、そうだね。記念だね!」

 その顔は揃って真っ赤。かく言う私も赤いだろう。撮影を終え、出てきたプリントシールを三人で分ける。

 頬にキスを受けている自分の写真を見た時はその呆け顔がなんだか面白くて、つい笑ってしまった。

「そろそろ帰ろうか。モノレールの時間が近づいている」

「「うん」」

 時計を確かめて、二人に声をかける。また腕に抱き着いてきた二人を伴ってゲームセンターを後にした。

 抱き着かれる事に既に慣れが出てきた自分が怖かった。

 

 この三人がゲームセンターにやってきてから帰るまでの間にいた男達は、三人の姿が見えなくなった後で一斉に叫んだ。

「「「おのれリア充。爆発しろ!!」」」

 あまりの声の大きさに遊んでいた子供達の手が数瞬止まった。

 

 

「今日は楽しかったね~」

「うん、楽しかった」

「そうだな。実に楽しかった」

 帰りのモノレールの中で今日の事を三人で話す。シャルも本音も満足げな表情をしていた。

「また行こうね~」

「うん、今度も三人で」

「君達がそれでいいなら、私に否はないよ」

 次のデートに思いを馳せる二人。さて、次はどこに行こうか。まあ、この二人と一緒ならどこでもきっと楽しいだろうけど。

 

 ちなみに、この後寮食堂で興味津々の女子達に何があったか根掘り葉掘り聞かれる事になった。

「それでね~……」

「うんうん、それでそれで?」

「……って事があったんだけど……」

「「「キャーッ!!」」」

「村雲くん!今の話本当!?」

「……もう勘弁してくれないか……?」

「「「だめ!」」」

 結局この質問攻めは千冬さんが怒鳴り込んでくるまで続いた。

 なお、翌日にはその場にいなかった他の女子達にも知れ渡り、思い切りイジられるはめに。もう、本当に勘弁してくれ……。

 

 

 九十九は気づいていなかった。デートをしていた時、男達の怨嗟の視線や女達の侮蔑や憧憬の視線に混じって無機質な視線を向けられていた事に。その視線の持ち主は銀色のリス。その主は……。

「う~ん……どう見ても凡人なんだけどなあ」

 モニターに映る九十九とその他二人を眺める、機械的な兎耳のカチューシャを着けたエプロンドレス姿の豊満な肢体の女性。

「でも、こいつの機体は第二形態移行(セカンド・シフト)と同時に部分的とはいえ展開装甲を手に入れた」

 その事が、自分の身内以外どうでもいいと考えるこの女性の好奇心を僅かに刺激した。

「しかも、『白式(いっくん)』にも『紅椿(箒ちゃん)』にも対抗できる唯一仕様特殊能力(ワンオフ・アビリティ)まで……」

 この男、本当に何者なのか?彼女の興味は尽きない。

「村雲九十九。その名前、覚えといてあげるよ。この天才の束さんがね!」

 篠ノ之束。当代最高頭脳の記憶に留まった事を、当の九十九本人は未だ知る由もない。




次回予告

期待を裏切られた女が二人。
期待に答えてもらえた女が二人。
その手に宝を掴むのは、はたして……。

次回「転生者の打算的日常」
#35 屋内水泳場攻防戦

それは僕達(あたし達)のものよ(だよ)!

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