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織斑一夏。『
無自覚にフラグを立て、そのフラグをやはり無自覚にへし折る男。
作中最強の朴念仁であり、前世でよく見ていた感想掲示板で『朴念仁って言うより朴念神』『無自覚リア充』『爆発しろ』と言われるような男。
そして、神の暇潰しの為にこの世界に転生した私、村雲九十九の友人の一人である。
「つくも~!!いっしょにあそぼうぜ!」
「構わないが、どこへ行くか、何をするのかを決めてから言ってくれ」
「わかった。んー……」
一夏と出会った当初、私は一夏とどのように付き合うべきかを考えた。
あくまで隣人として付き合うのか?それとも最も近い友人になるべきか?
だが原作での一夏の性格を考えれば、同い年である私とただの隣人として距離を置いた付き合いなど出来ないだろう。
よって隣人としての付き合いはそもそも不可能だ。ならば、友人としての距離をどうするか?
数いる友人の一人として付き合う場合のメリットは、一夏のファースト幼馴染みである篠ノ之箒の嫉妬を買い難い。これに尽きる。デメリットは、篠ノ之束に接触する機会が無い事。これに関して特に問題はない。後々嫌でも関わり合いになるだろうからだ。
最も近い友人として付き合う場合のメリットは、一夏の姉の織斑千冬、もしくは篠ノ之箒を通じて、篠ノ之束に早い段階で接触できる可能性が高い事。ただし、彼女が私に興味を持つかどうかは不明だが。デメリットは、数いる友人の一人として付き合う場合のメリットを失う事。
篠ノ之箒にとって一夏は初恋の相手であり、一夏の周りに自分以外の相手が居るのは、彼女からすれば何よりも面白くない事だろうからだ。もっとも、これは篠ノ之箒への接し方次第で覆す事は可能だ。
どっちをとってもメリットもデメリットも大きさはほぼ同じ。ならば、ここは近い友人として付き合う方がまだましだろう。この選択がどう転ぶかは、私にもわからないからだ。
「よし!近くの公園でキャッチボールだ!」
「ボールとミットが無いだろう。もっと考えて物を言え」
「うっ!じゃあ、えーっと……」
「まったく……」
ただ、周りから見た時の私達の関係が『面倒見の良い兄と腕白な弟』と言うのが少しアレだが。
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白騎士事件発生まで、そう遠くはないだろう。何故なら、その兆しは既にあったからだ。
ある日、一夏(と箒)に連れられて行った篠ノ之道場。剣の心得のない私が剣道の稽古など見ていても、暇なだけだった。
そんな私が「神社を探索したい」と言い出すのは、私を見た目通りの子供だと思っている大人達からすれば至極当然だった。
「ああ、良いよ。あまり奥に行かないようにね」
「はい。ありがとうございます(計画通り)」
この時の私は頭を深々と下げながら、どこぞの自称新世界の神の如き黒い笑顔を浮かべていたと思う。
許可を貰い、歩く事暫し。神社の中庭に私はいた。ここに来たのは、ある物を探すためだ。
「私の考えでは、この辺りに篠ノ之束の研究室への入口があるんだが……」
原作において、篠ノ之束がISの研究開発をしていた当時、それを両親はおろか妹の箒や親友である織斑千冬ですらはっきりと知っていたというような描写が無い。
その事から、研究室は誰も知らない場所、例えば地下や篠ノ之束しか知らない秘密の部屋があり、その入口がある場所として最も可能性の高い場所が中庭の何処か、次点で篠ノ之束の部屋の中だと考えた。
篠ノ之束の部屋に入るのは現時点では不可能。なので中庭を探しているのだ。
「とは言え、怪しい所は無し。となると入口は篠ノ之束の部屋か……ISの研究の進捗状況を確かめたかったのだが……」
『出来た~!!』
どこかから聞こえたやけに甘ったるい感じのする声に、驚いてつい反応してしまう。
「……っ!?貴女は……」
振り返った目の前に居たのは、エプロンドレスを身に纏い、やけに機械的な兎耳カチューシャを着けた女性。
「篠ノ之……束……」
「ん?君は誰だい?なんで束さんの事知ってるの?束さんには男の子の知り合いなんていっくん以外いないんだけど。まあいいや。それよりちーちゃんにようやく出来たって教えてあげなきゃ♪」
流石、興味対象と友人とその弟、そして自身の妹以外に一切関心を持たない女。あまりにも自然に人の心を折りに来た。知らなければ私は打ちひしがれていただろう。
しかしそれ以上に、さっきの「出来た」と言う言葉が気になった。もしかしたら……だが。
「出来た?一体何が……」
「ん?君まだ居たの?凡人に用は無いんだよ。早く帰ってくれるかな。ちーちゃーん!!ついに束さんの夢が叶う日が来たよ~!!」
さっきは敢えて知らない振りをしたが、走り去る彼女の言葉に私は確信する。完成したのだ。世界初のIS『白騎士』が。
私は、私のいる世界がやはり『IS』の世界なのだと、この世界に生まれて6年目でようやく実感した。
結論を言えば、白騎士事件は概ね原作通りだった。
自分の夢の結晶を馬鹿にされて激怒した篠ノ之束は、全世界からミサイルの操作権限を強奪。日本の政治の中枢である国会議事堂へむけ、合計2341基と言うとんでもない数のミサイルを発射した。
騒然とする日本議会。このままでは『最悪の結末』を迎えてしまう。だがどうすれば……。
そこに現れたのは、人間サイズの人型機械。それは数日前、荒唐無稽なお伽話をした女子中学生の言っていた宇宙活動用マルチフォームスーツ。固有名称『インフィニット・ストラトス』一号機『白騎士』だった。
瞬く間に2341のミサイルを破壊して見せた『白騎士』は、その後各国から『白騎士』の捕縛・撃墜のためにやって来た戦闘機や戦艦をも戦闘不能にして茜色の空へ消えた。しかも、一切の人的被害を出す事なくである。
これにより、世界は『IS』の有用性を認めた。ただし、宇宙開発用のマルチフォームスーツとしてではなく、世界最強の兵器としてだが。
これが、私の経験した白騎士事件である。
自称
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それから2年、世界は急激に様変わりした。
ISの登場時に判明した『ISに乗れるのは女性だけ』という事実は、世の女性の社会進出を一気に押し進めた。
各国政府はIS搭乗者になれる女性を少しでも多く抱き込むため、こぞって女性優遇政策を実施。社会情勢はあっという間に男女平等から女尊男卑へと傾いた。
「ここまでは原作通り。IS学園も発足した。来年のモンド・グロッソでは千冬さんが総合優勝。その翌年には箒が要人保護プログラムに組み込まれる事になるはず。今の所は順調だ」
学校からの帰り道。私はこれまでの経過を思い返していた。そう、今の所順調。
しかし、私という存在が原作乖離を引き起こす鍵になりうる事を思えば、逆にこれだけ順調なのが怖くもある。いつ、どこで、どのような形で乖離が起きるかまでは予想できないからだ。
「……今考えても仕方ない。その時はその時だ」
徹底的に原作通りに行くなどとは思っていない。ここが『IS』の世界でも、私にとっての現実はここだからな。
「ただいま、母さん」
「……おかえりなさい。九十九、ちょっと来て」
「うん」
母が私を呼び止めた。居間に行くと、そこには父もいた。そしてテーブルの上に、二人に見られては一番拙い物が置いてあった。
「そ……れは……」
『これから起こる事ノート』私がこの世界で将来的に起こる事を、私自身が忘れない内に記録したノートだ。
「それが、なぜここに……?」
「お母さん、今日九十九の部屋を掃除したの。それで、勉強机の本棚に教科書を戻そうとしたら、これが落ちてきて……」
「悪いとは思ったが中を読ませてもらった。九十九、これは一体なんだ?なぜ未来の事がここに書いてある?」
父の「嘘は許さない」と言う強い眼差しに、私はもう逃げられないと悟った。やむを得ないか……。
「分かった、話すよ。まず最初に、これは誓ってその場限りの嘘でも、二人を言いくるめるための詭弁でも、頭がおかしくなって妄想と現実の区別がつかなくなった訳でもない。その上で敢えて言う。僕は……私は『転生者』だ」
私は両親に全てを語った。向こうの世界で25歳の時に逆恨みで殺された事。ロキを名乗る自称神に「暇潰しをしたかった」という理由でこの世界に転生させられた事。この世界で将来的に起こる事を『原作小説』という形で知っている事。
「信じて欲しいとは言わないし、言えない。でも、今私が語った事は私にとっての事実で真実だよ」
「「…………」」
居間を沈黙が支配する。無理もない事だろう。突然、自分の息子が前世の記憶を持っていると知って、平然としていられる方がおかしい。
「……私は一旦席を「信じるよ」っ!?」
「僕は信じるよ、九十九」
「父さん……」
「そうね。私も信じるわ」
「母さん……」
「息子の言う事を信じられないで、親だなんて言えないさ」
「前世の記憶があってもなくても、あなたは私達の大事な息子よ」
「……ありがとう」
この後、両親にはこの事は秘密にして欲しいと願い出た。
父さんは「安心しろ。墓まで持っていくさ」と力強く言ってくれた。
母さんも「九十九の困るような事はしないわ」と優しく微笑んでくれた。
私はこの時初めて、この二人と本当の親子になれた気がした。
次回予告
誰かが言った。「歴史上、全ての人が平等だった時はない」と。
誰かが言った。「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばかりだ」と。
誰かが言った。「こんな世界に誰がした」と。
次回 「転生者の打算的日常」
#04 女尊男卑
やれやれ、私の利は何処にある?