転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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遂に我が県にもアニメイトができました!
これを橋頭堡にメロンブックスととらのあなも来てくれないかな?
と思う今日この頃。


#27 一日目(昼)

 着替えを終えて別館の扉を開けると、そこはもう海辺だ。

 青い空、蒼い海、白い砂浜、そして色とりどりの水着を纏った乙女達。眩しいのは真夏の太陽だけが原因ではないだろう。

「あ、村雲君だ!」

「えっ!?うそっ!?私の水着、変じゃないよね!?大丈夫だよね!?」

「ほほ〜。いい体してるねー」

「村雲君、あとでビーチバレーしない?」

 更衣室から浜辺に出てすぐに、隣の更衣室から出てきた女子数人と鉢合わせた。皆それぞれに可愛らしい水着を身に着けており、その露出度の高さに少々照れてしまう。

「すまないが先約がある。その後で良ければ」

「オッケー、あとでねー!」

 手を振りながら浜へとかけていく女子達。元気だな。

 

「「つくもん(九十九)、おまたせ!」」

 後ろからかかった声に振り向くと、そこにいたのは二人の水着姿の美少女。

 オレンジのミニパレオ付きセパレート水着のシャルロットと狐の着ぐるみ水着(下はマイクロビキニ)の本音さんだった。

「いや、さして待ってはいないよ。水着、よく似合っている。……本音さんはコメントし辛いが」

「うん、ありがとう九十九」

 私の言葉に、はにかんだ笑みを浮かべるシャルロット。

「え~?ちゃんとコメントしてよ~。こうなったら上を脱ぐしか……」

 不満顔で本音さんがそう言った途端、着ぐるみ水着の腕が垂れ下がる。中からファスナーを開けようとしているようだ。……ってそれはまずいだろ!

「「それはやめろ(やめて)本音(さん)!」」

「えぇ~?」

 慌てて二人掛かりで抑えにかかる。本音さんは不満そうにしていたが、やがて諦めたのか腕を戻した。この子、たまに心臓に悪い。

「じゃあ、行こ?九十九」

「れっつご〜」

 そう言って腕に組みついてくる二人。互いに水着という事もあり、その密着度は先程の比ではない。

 安全域(セーフゾーン)まで戻っていた理性は一瞬で危険域(レッドゾーン)まで逆戻り。ここは精神の安定を図らねば。

「二人とも、私は逃げないからせめて腕に組みつくのはやめてくれないか?」

「「え~?いいよ」」

「いいのかよ!」

 思わずツッコミを入れた私に気を悪くする風もなく、二人は私の腕を離し、その代わりなのか手を繋いできた。

「つくもん、いこ〜」

「ほら、はやくはやくっ!」

「わかった。わかったから引っ張らないでくれ」

 海でテンションが上がったのか、浮かれ気味の二人に急かされ砂浜へ。

 足裏を焼く砂の熱さに顔をしかめつつ波打ち際へ行くと、そこには顔を真っ赤にしたセシリアがいた。なんとなく何があったのか分かった。

「何があった?一夏と」

「一夏さんが何かしたのは確定ですの!?」

「「「え?違うの(か)?」」」

「ひどい言われようですわ!」

 むしろ一夏といて何も無い方がおかしいと思うのは、私だけだろうか?

 

 セシリアによると、一夏にサンオイルを背中に塗って貰い、更に下の方まで塗って貰おうとお願いした所で鈴が乱入。無理矢理、かつ無遠慮な塗り方に怒ってつい体を起こしてしまい……。

「紐を解いていた上の水着がそのまま落下、一夏に思いきり胸を晒してしまったと」

「それで怒られると思った鈴ちゃんがおりむーを連れて逃げて~」

「一夏の事だから『見えてはないから』とでも言って……」

「その言葉に振り上げた拳の下ろしどころをなくしちゃった。かな」

「あなた達エスパーですの!?」

 驚いたような顔をするセシリアにいつものように返す。

「いや、君達が分かりやす過ぎるんだ」

「最近私もわかってきた〜」

「僕はそこまでじゃないかな」

「あなた達ねぇ……」

 セシリアがなおも何かを言い募ろうとした時、不意に後ろがざわついた。

 振り返ると、顔を赤くした鈴が別館の方へ歩いて行くのが目に入る。そのさらに後ろには一夏がいた。どうやら今度は鈴と何かあったようだ。

「単刀直入に訊くぞ、一夏。何をした?」

「今回俺は何もしてねぇ!」

 嘘を言うなと言いたい。鈴が顔を赤くする理由はお前以外にないんだからな。

 

 一夏によると、鈴と新世紀町駅前の喫茶店、@クルーズのパフェ(最安でも1500円の高級品)を賭けて泳ぎで競争中に、鈴が突然溺れだしたのでそれを助けあげてここまで戻ってきたのだと言う。

「なるほど。お前の事だからそのまま鈴を背負って別館まで連れて行くつもりだったんだろうが……」

「鈴ちゃんが恥ずかしがっておりむーの背中から降りて自分で行ったんだね〜」

「何度も言うけど、やっぱエスパーだろお前」

 苦笑しつついつものツッコミを入れる一夏。それにいつも通りに返す。

「何度も言うが違う」

「おりむーが分かりやすいんだよ~」

「ぐはっ……のほほんさんまで……」

 本音さんから『単純野郎』扱いを受けて打ちひしがれた一夏が砂に膝をついたのと同時、今度は別館の方が騒がしくなった。

 目を向けるとそこにいたのはボーデヴィッヒだった。だが、その恰好はおよそこの場に似つかわしくなく、しかしこれが学校行事である事を考えれば最も似つかわしいと言える物だった。彼女が着ているのは……。

「「「スク水!?」」」

 IS学園指定水着。絶滅危惧種を通り越し、保護指定種にランクアップした紺色の芸術ことスクール水着だった。

 しかもご丁寧に胸元の名札は『1-1 らうら』とひらがな表記。この名札を縫い付けた誰かさんは実によく分かっている。

 ……いや待て、ちょっと待て。どうしてこうなった!?ボーデヴィッヒの事だから一夏が出かけるとなれば堂々とかこっそりとかは別として、必ず付いて行くと思っていたのに!と、考えていると、こちらを見つけたボーデヴィッヒが歩み寄ってきた。

「ここにいたか、嫁よ」

「ラウラ?その恰好……」

「君の事だ。一夏が出かけると知れば付いて行くと思ったのだが」

「うむ、当初はそのつもりだったのだが……」

 

 ボーデヴィッヒによると、一夏が出かけると知って付いて行こうとした矢先、ドイツ軍からネット会議への出席命令が下ったため諦めるしか無かったと言う。

「会議が終わったのは昼を大分回った頃でな」

「今から一夏を追っても仕方がないと臨海学校の準備をしたと」

「うむ」

「それで水着を持っていない事に気づいて、とりあえずそれを持ってきたと」

「うむ」

 大きく頷くボーデヴィッヒ。しかしその結果持ってきた水着がスク水というのはどうなんだ?

「この水着は機能的に優れているからな。まあ、泳げればなんでも……」

「よくないよ!!」

「「「っ!?」」」

 突然砂浜に響いた叫びに全員がビクリとなって声の聞こえた方に振り向いた。叫び声の主はシャルロットだった。

「ど、どうした?シャルロッ「九十九!」……な、なんだ?」

 何事かと声をかけた私の肩を掴み、シャルロットは物凄い剣幕で私に詰め寄って来た。

「この辺で水着を売ってるトコ知らない!?」

「あ、ああ。旅館の売店と、ここから西へ徒歩5分の所にスイムショップが……」

「ありがと!」

 言うが早いか、シャルロットはボーデヴィッヒの手を掴んで旅館の方へ向かって行く。

「お、おいシャルロット。何をする!?」

「せっかく可愛いのにそんな恰好じゃもったいないよ!僕が水着を選んであげる!」

「いや、私はこれで「これでいいは無しで!」……」

 言い合いをしながら、と言うよりシャルロットが一方的にまくし立てながらボーデヴィッヒを引きずって行った。

 その様子をポカンとしながら見ていた私達。しばらくして再起動したセシリアが呟く。

「あれは……どういう事ですの?」

「えっとね~」

 

 本音さんによると、シャルロットは男としての振る舞いを身に着けるために女性的な物を徹底的に取り上げられていた時期があり、その反動で可愛い物に目がなくなったのだと言っていたと言う。

「それで元はいいのに野暮ったい恰好をしていたボーデヴィッヒが我慢ならなかったんだな」

「そ~いうこと〜」

 あの二人はしばらく帰ってこないだろう。暴走したシャルロットに振り回される事になったボーデヴィッヒに合掌し、私達は海を楽しむ事にした。

 

 

「で?私は何故こんな事になっているのかね?」

 今現在、私は砂に埋められている。いつの間にかあった落とし穴に落とされ、首から上を地面から出す形で縦にだ。

 本音さんに「こっちに来て〜」と言われ、ついて行ったらあれよあれよという間にこうなった。これはどういう事だ?

「だましてごめんね村雲君。という訳でっ!」

「第一回チキチキつくもん割り〜!」

「「「イエーーイッ!!」」」

 やけにテンションの高い本音さんと集まって来た女性陣。だが問題はそこではない。

「待て、ちょっと待て。なんだその不穏な響きのゲームは!?」

「それではルールを説明します」

「聞いて!?ねぇ聞いてっ!?」

 

 チキチキつくもん割り。それはルールだけを言えばスイカ割りだ。叩く対象が私であるという点と、使う棒がスポーツチャンバラに使うエアチューブ剣である事を除けばだが。

 そして見事ヒットさせた選手には、賞品として私に(18禁以外で)一つだけ何でも言う事を聞かせられる権利が与えられると言う。私の人権無視してないか?

「待ちたまえ淑女諸君。私に拒否権は……?」

「「「無い‼」」」

「理不尽だ!」

 これも女尊男卑社会の弊害という奴なのだろうか。涙が出そうだ。

 こうして、私の意志も人権も無視した(私にとって)恐怖のゲームがスタートした。

 

「えーいっ!」

「うおっ!近っ!風来たぞ今!」

 ヒュン、という軽い音を立てて私の顔の横を通り過ぎるエアチューブ剣。叩いた先は私から見て右方向、残り5㎝の所だった。

「アーン、おっしー」

 悔しそうな顔をする女子が開始位置に戻って次の子に剣を渡す。

「次は私だよっ!村雲君、覚悟!」

 受け取った剣をこちらにビシッと向けて言い放つ女子。何やらやけに気合が入っているが、何故?

「フッフッフ……村雲君に何としても剣を当てて、頭ポンポンしてもらうんだから……」

 お願い小さっ!それくらい言ってくれればやるのだが。と言ったら、空気読めないとか言われそうなので黙っておいた。

 結局、彼女の剣は私に掠りもしなかった。膝をついて悔しがる彼女を、他のメンバーが肩を叩いて慰める。麗しき友情だな。こんな状態でなければ拍手しているよ。

 

「それにしても……」

 この状況はそろそろまずい。なにせ的が私のスイカ割り。そのため、水着姿の女の子が目隠しをして、周囲の声を頼りにフラフラしながら私に向かって来るのだ。これは結構クルものがある。

 一歩歩み寄ってくる度に大小取り揃えた『禁断の果実』が目の前で揺れるし、思いきり剣を振り下ろすために腰を曲げるから深さそれぞれの『渓谷』が真正面に大パノラマで迫るのだ。

 正直、色々ヤバイ。このままでは私の『ユニコーン』のNT-Dが発動する!……こんな思考に至る時点で既に限界が近いな。

 助けてくれ!誰でもいいから……いや、本当に誰でも良い訳ではないが。とにかく誰か助けてくれ!と考えていると、斜め上から声がかかる。

「何してるの?九十九」

 声の主はシャルロット。どうやらボーデヴィッヒの水着を選び終えて帰ってきたようだ。その顔にはどことなく『やりきった』感があった。

「おおシャルロット、おかえり。ボーデヴィッヒはどうした?」

「あっち」

 私の後ろを指差すシャルロット。この態勢では見えない位置だった。まあ、昼食を取りに行く時に見る事が出来るだろう。

「それで、どうしてこんな事になってるの?」

「それはね~」

 

ーーー布仏本音説明中ーーー

 

「ってことなんだ〜」

「そうなんだ。……ねえ、本音」

「なに〜?」

 本音さんに目を向け、口を開くシャルロット。彼女ならきっと私を助けて−−

「僕も参加していいかな?」

「おっけ〜♪」

「なん……だと……!?」

 よりによってシャルロットは途中参加を表明。これで救いの手はどこにもなくなった。

「シャルロット!何故だ!?」

「ゴメンね九十九。僕もその賞品が欲しいんだ」

 悪びれない笑顔とペロリと出した舌。昔よく箒がやってたやつに似てた。確か『テヘペロ』とか言ったか。

「くっ!なんか腹立つ!」

「じゃ〜しゃるるんは最後ね~」

 そう言ってシャルロットを列の最後尾に連れて行く本音さん。そのままシャルロットの前に立つ……って!

「君は!君だけは私の味方だと思っていたぞ!本音さん!」

「ゴメンね〜つくもん。これわたしの持ち込み企画なんだ〜」

 言って『テヘペロ』をする本音さん。

「くそっ!やっぱり腹立つ!」

 これ考えた奴出てこい!……あ、箒か。

「それじゃ〜、ゲームさいか〜い」

「「「イエーーイッ!!」」」

「もう勘弁してくれ……」

 助けてくれる者のいなくなった私には、もはや項垂れる事しか出来なかった。

 

 結局、この『つくもん割り』は参加者24名中6名が命中に成功。その中にはシャルロットと本音さんもいた。

 私は砂まみれだわ頭が色々な意味で痛いわと散々な目にあった。

 ちなみにお願いだが、シャルロットが「お昼ご飯の時『あーん』して」と言ったのを皮切りに、全員『あーん』になった。

 

 

 という訳で昼食時間である。本日のメニューは海鮮丼。丼の縁からはみ出る程大きな刺身が実に美味そうだ。美味そうなんだが……。

「「「あーん」」」

「一斉に口を開かれた私はどうすればいい?」

 私の対面に一列に座り、目を瞑って口を開ける女子諸君。しかし私の腕は二本だけ。とてもではないが全員の口に同時に料理を運ぶのは不可能だ。さてどうするか……ああそうだ。

「ヘカトン「「「それはダメっ!」」」あ、はい。すみません」

 《ヘカトンケイル》を使った一斉『あーん』は一瞬で却下され、一人づつ丁寧に『あーん』をする事になった。

 最後の一人である本音さんへの『あーん』を終わらせた時には、既に異変は起きていた。何故か対面にいる人数が増えているのだ。6人だったはずなのに、今は20人はいる。しかも。

「「「あーん」」」

 全員が目を瞑り口を開けている。さっきまで物理的に痛かった頭が、今度は精神的に痛くなった。

 仕方ない、ここは誠意を込めたお願いをするしかないな。

「すまないが、これは彼女達が自ら勝ち取った権利だ。誰にでもやる訳ではない。なので……諦めて貰えるかな?(ニッコリ)」

「「「アッ、ハイ。スミマセン」」」

 首をカクカクと振り、それぞれ席について大人しく食事を始める女子諸君。私の誠意を込めたお願いが功を奏したようだな。

「そうじゃなくて……」

「つくもんの『怖い笑顔』にやられたんだよ〜」

「「「うんうん」」」

 いつの間にか周りにいて重々しく頷く一組女子一同。解せぬ。

 

 昼食後は皆でビーチバレーを楽しんだ。

 私は、対戦相手や私のチームメイトがビーチボールを叩く度に弾む『別のボール』の方に目が行ってどうにも集中できず、結果私のチームは全敗した。いろんな意味で悔しかった。

 本音さんとシャルロットと砂の城も作った。

 高校生にもなってそれは無いだろうとも思ったが、やってみると意外と楽しかった。私もまだまだ子供という事か。

 そう言えばボーデヴィッヒの水着だが、原作通りのフリルをふんだんにあしらった、ともすれば大人の下着(セクシー・ランジェリー)にも見える黒のセパレートだった。恥ずかしがるボーデヴィッヒがなんとも可愛らしかったと言っておく。

 

 

 こうして一日目の昼は騒がしく過ぎて行った。

 自称知恵と悪戯の神(ロキ)が「ちょっと待ってちょっと待ってお兄さん。鈴ちゃんの出番あれだけなん?」と妙にリズミカルなツッコミを入れてきた。

 あんたの希望なんて知らんよ。




次回予告

真夏の夜は長いようで短い。
なら、一分一秒も無駄にはできないとは思わないか?
よろしい、ならば女子会だ。

次回「転生者の打算的日常」
#28 一日目(夜)

お前たち、あいつ等のどこがいいんだ?

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