♢
「ゴメンね、手伝ってもらっちゃって」
「気にする必要は無い」
茜色に染まる放課後の廊下を九十九とシャルロットが並んで歩いていた。二人の手には今月の行事である臨海学校について書かれたプリントが山になっている。
「でも、よかったの?今日は本音たちと街に行く予定だったんでしょ?」
「いいのだよ。君がいないなら、行っても仕方がない」
「えっ?」
「用事がプリント運びの手伝いでも、想いを寄せる相手と居たいと思うのは当然だろう?」
そう言う九十九の頬は微かに赤い。夕日の色だけが理由ではなさそうだった。
「九十九……」
「シャルロット……」
二人きりの廊下、お互いしか写していない瞳。そこに言葉は不要だった。光の中、二人の影が徐々に重なっていき……。
「−−あ、れ?」
呆けた頭で状況を確認。ここはIS学園一年生寮の自室。時刻は朝の6時半。
「………………」
はっきりとしない意識のままのシャルロットだったが、ゆっくりと二回瞬きをした所でようやく現状を把握する。
「夢……」
はぁぁぁぁ……
思わず深い溜息が漏れる。と、ここで横からこの場にいないはずの人物の声がした。
「随分と深い溜息だな。余程惜しく感じる夢だったのかね?」
「うん……って、えっ?」
声のした方へ振り返ると、そこにはさっきまで見ていた夢の登場人物である九十九が何かを肩に担いで立っていた。
「うわぁ!?つ、九十九!?」
ベッドの上で飛び上がるシャルロット。驚きに目を見開いている。まあ当然だが。
「おはよう、シャルロット。それと、驚かせてすまない」
「え、え?なんで……」
「なんでここに、かね?その話をする前に渡す物がある」
そう言ってシャルロットのベッドに抱えていた物を下ろす。
「………………」
それは、布団でぐるぐる巻きにされた挙句、その上からロープで縛られた状態でぐったりしている−−
「ラ、ラウラ!?」
なぜ彼女がこんな事になっているのか?それを語るには、時計の針を30分ほど巻き戻す必要がある。
午前6時、早朝の軽いランニングを終え部屋に戻った私は、ある異変に気づいた。一夏のベッドがまるでもう一人中にいるかのように大きく盛り上がっているのだ。それに気づいた時、他にも幾つかおかしい点があった事に気づく。
部屋から出る時になんの気無しに開けたドアだったが、確か鍵は掛けていたはずだ。それにいくら寝ていると言っても、物音がすれば気がつこうというものだ。
つまり、今一夏のベッドの中にいるのは、音も立てず非正規な方法でドアの鍵を開ける事ができ、これまた音も立てずにベッドに近づき、一夏に気付かせずにそこに潜り込める人物。私の知る限りでそんな事が出来るのはただ一人。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
思わず溜息が出た。原作通りの展開とはいえ、直面すると頭が痛い。早急に対処せねば。
「……《ヘカトンケイル》」
キィン……
私は『フェンリル』から《ヘカトンケイル》のみを
4本を私のベッドの掛け布団を持たせて一夏のベッドの足側に移動。掛け布団を空中で広げて待機させ、残り4本のうち2本を一夏のベッドの掛け布団の片側に、もう2本を真上に配置。準備完了。
「スタート」
掛け声とともに一夏のベッドの掛け布団を一息に剥がす。一瞬肌色が見えたので目を逸らす。
「うわっ!?何が……」
同時に真上に配置した腕がボーデヴィッヒを掴み上げ、広げられた私の掛け布団に放り込む。
「わぷっ!」
ボーデヴィッヒを受け止めた4本の腕が協力してボーデヴィッヒをぐるぐる巻きにして空中に固定。さらに、仕事を終えた残りの腕がその上からロープで縛りあげて完成。この間15秒。
「名付けて、銀狼八重奏『仕置』……。またつまらぬ技を作ってしまった。さて、おはよう一夏。いい朝だな」
「お、おう。おはよう。てか、何だそれ?」
一夏はいまいち状況が掴めていないらしく、目の前の簀巻にハテナマークを浮かべている
「た、助けてくれ!嫁よ!」
「って、ラウラか?なんでこんな事に……」
「お前のベッドに全裸で潜り込んでいたから、仕置をな」
「へ、へえ……じゃなくて!ラウラ!?なんでそんなことを!?」
疑問を呈する一夏にボーデヴィッヒはさも当然とばかりに答える。
「日本ではこういう起こし方が一般的と聞いたぞ。将来結ばれる者同士の定番だと」
どうやらどこぞのジャパニメーションかぶれは余計な事しか教えていないらしい。軍隊暮らしが長く、俗世に触れる事のない生活を送っていたが故の弊害と言う奴か。
「君は一度、一般常識を学び直してこい。とにかく、君の事は千冬さん……織斑先生に報告する。覚悟はいいか?」
「ま、待て村雲。頼む、教官にだけは……」
「聞く耳持たん」
「嫁よ!助けて「ごめん無理」なっ!?」
簀巻になったボーデヴィッヒを抱えあげて肩に担ぐ。彼女が軽くて助かったな。
「……連行」
「嫌だあああっ!」
この後、千冬さんに(全裸のため)簀巻状態のまま強烈なお仕置きを食らったボーデヴィッヒは完全にグロッキーに。
私は千冬さんに命じられ、ボーデヴィッヒをシャルロットの部屋に持っていく事になった。
「という訳だ。朝から騒がせてすまないね。勝手に部屋に入った事と合わせて謝罪する」
「それはいいんだけど……ねえ、九十九」
「何かな?シャルロット」
「ラウラに、一体何があったの?」
改めてボーデヴィッヒの方を見るシャルロット。そこには身じろぎ一つしない屍のようなボーデヴィッヒが。
「……世の中、知らない方が幸せな事もあるのだよ?」
「分かった、聞かないでおく」
重々しい私の物言いに、何かを察したのかそれ以上の追求をやめるシャルロット。
「そうしてくれると助かる。ではまた後で。ああそうだ、言い忘れていた」
「なに?」
「ボーデヴィッヒに巻いてある布団は私のでね。放課後にでも返しに来て欲しいのだが」
「えっ!?」
私の発言にやけに驚くシャルロット。男の部屋に入るのに抵抗でもあるのか?
「嫌だというなら、この場で持って帰るが……」
「ううん!いいよ!持っていく!ラウラ裸なんでしょ?今すぐはまずいんじゃない?」
「あ、ああそうだな。では頼めるか?」
だから頼んでいるのだが。と言いたかったが、シャルロットの妙な迫力に頷く以外できなかった。
「うん!任せて!あ、干した方がいいかな?」
「そこまではいい。ではまた後で」
「うん、後で」
互いに挨拶を交わし、シャルロットの部屋を出る。そういえば、原作でシャルロットは夢から覚めた後、夢の続きを見ようとして二度寝したがここではどうなのだろう?
結論から言えば、シャルロットは原作通りかなり遅れて食堂にやって来た。
ただその理由は『夢の続きを見たくて二度寝をしたから』ではなく『グロッキー状態のボーデヴィッヒのリカバリーに時間をとられたから』だったが。
未だふらつくボーデヴィッヒを引きずるようにやって来たシャルロットは、手近にあった定食を取ると私と本音さんのいるテーブルの空いた席に座り、大慌てで定食を食べ始めた。
「災難だったな、シャルロット」
「半分は君のせいだよ……せめてラウラを起こしてから行ってくれればいいのに」
苦言を呈するシャルロット。確かにそうだ。失敗したな。
「それはすまなかった。気が回らなかったよ」
「ね~ね~つくもん。なにかあったの〜?」
「ん?ああ、実はな……」
ーーー村雲九十九説明中ーーー
「とまあ、そんな事があったのだよ」
「みんな大変だね~」
キーンコーンカーンコーン……
「む、いかん予鈴だ。急ぐぞ二人とも、今日のSHRは千冬さんの担当だ」
「待って!ラウラがまだ……」
話と食事をしている間も、ボーデヴィッヒは完全には戻ってきていない。やむを得ないか。
「私が運ぼう。二人は先に……おや?」
先に行くといい。と言いかけて前を見ると、二人はすでに食堂を出ていた。
「「ラウラ(らうらう)の事はよろしく!」」
「少しは待ってくれても良くないか!?」
文句を言いつつボーデヴィッヒを小脇に抱えて生徒玄関へ。
寮を出る時には外履きへ替え、校舎に入る時には内履きへ替える。これが結構な手間だ。
本音さんは足がビックリするほど遅いので、途中で捕まえて空いている方の小脇に抱えた。だが、小柄とはいえ女子二人分の重りは私の走行速度を奪うには十分だった。このままでは始業のチャイムに間に合わん!
「九十九!」
玄関で待っていたシャルロットが私に向かい手を伸ばす。その仕草に、私は彼女が何をしようとしているのかを察した。ならば私のすべき事は……!
「本音さん!私の背にしがみつけ!絶対に離すな!」
「え?なんで「いいから!」は、はい!」
私の剣幕に慌てたように私の背にしがみつく本音さん。制服越しに柔らかい感触が伝わって来るがここは無視。ともあれこれで片手が空いた。シャルロットの手を掴み敢えて訊く。
「なんとなく分かるが一応訊くぞ。どうする気だ?」
「飛ぶよ!九十九!」
「やはりか……って、うおっ!?」
「ひゃあっ!?」
言うが早いか、シャルロットは『ラファール』の脚部スラスターとウィングスラスターのみを展開。見事な飛行技術で一息に教室のある三階に到達。途中、シャルロットのスカートの下から水色の何かが見えたが見なかった事にする。
ちなみに、あれだけの高速飛行だったにも関わらずボーデヴィッヒの意識は未だ不完全だった。ある意味凄いな。
「到着!」
「お〜、はや~い」
「後は千冬さん……織斑先生がまだ教室に来ていない事を神に祈るしかないな」
「…………」
原作では到着時点ですでに教室にいたが、ここではどうだ?
「その祈りは届かんぞ、村雲」
「「「っ!?」」」
後ろからかけられた声に全員の体が固まる。織斑千冬、降臨。現実はいつだって無情だ。
結局、私達四人は規律違反を犯したという事で放課後の教室掃除を言い渡された。
ちなみにボーデヴィッヒだが、千冬さんの声を聞いた事で完全回復。その後何があったのかの説明をシャルロットから受け「理不尽だ」とぼやいていたが、現実は覆らないと知り消沈。
とは言え、そもそもこうなった原因は君にもあるぞ。と言いたかったが、とどめを刺すのは忍びなかったのでやめておいた。
本鈴が鳴り、SHR開始。「期末テストで赤点取るなよ」と言うありがたいお言葉を千冬さんから頂戴する。この後が本題だ。
「来週から始まる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。3日間だが学園を離れる事になる。自由時間では羽目をはずしすぎないように」
そうなのだ。IS学園では七月頭に校外実習−−臨海学校を行う。
3日間の日程のうち、初日は全て自由時間となっている。そこは勿論海なので、10代女子たる一組クラスメイトのテンションは先週からかなり高い。それこそ全身が紫に発光しそうな勢いだ。私も海は久しぶりなので、実は楽しみだ。
ちなみに、山田先生は臨海学校の現地視察に行っており不在との事。
それを聞いた花の10代女子は、「一足先に海に行ってるんですか!?良いなー!」「私にも声かけてくれればいいのに」「泳いでるのかなー。泳いでるんだろなー」と一気に賑わいだす。どんな小さな話題でも食いつく10代女子の会話力は凄いな。
「いちいち騒ぐな鬱陶しい。山田先生は仕事で行っているんだ。遊びではない」
千冬さんの言葉に、はーい。と揃った返事をする一組クラスメイト諸君。相変わらずのチームワークだった。
時は過ぎ、放課後。教室の罰掃除は罰を受けた人物が四人いたためかなり早く終わった。
ボーデヴィッヒは最後まで「なぜ私まで……」と愚痴っていたが、千冬さんの手前サボる事も出来ず、しっかり罰清掃を果たした。なんだかんだで真面目なのだ、ボーデヴィッヒは。
♢
自室に帰り、コーヒーを淹れて飲んでいると部屋のドアをノックする音がした。
「ふむ、シャルロットかな?」
布団を返しに来てくれたのだろう。ドアを開けて出迎える。するとそこには……。
「九十九、あの……これ返しに来たんだけど」
布団を抱えるシャルロットと。
「つくもん、これ一緒に食べよ~」
お菓子の袋を抱える本音さんがいた。
「まあ、立ち話もなんだ。入りたまえ。コーヒーで良ければ馳走する」
「「うん!」」
コーヒーを飲みながら本音さんが持ち込んだお菓子を食べつつ談笑する事暫し。話は来週から始まる臨海学校の事に及んだ。
「海、楽しみだね~」
「なにぶん久し振りだ。心が踊らないと言ったら嘘になるな」
「一緒に泳ご〜ね~」
「構わんが、君泳げるのかね?」
「あ、ムカ。ちゃんと泳げるもん!」
「海……泳ぐ……水着……あーっ!」
突然シャルロットが大声で叫ぶ。一体何事だ?
「どうしよう九十九。僕、水着持ってないよ……」
シャルロットによると、性別バレが無かった場合に臨海学校で着る予定だった『男に見える水着』はあるのだが、女物の水着は持っていないのだと言う。
臨海学校に行って海に出ないのは片手落ちだ。となれば、買いに行くしかないだろう。だが、遠慮がちな彼女の事だから自分からは言い出しにくいだろう。私は助け舟を出す事にする。
「なら丁度いい。私も去年の物がサイズが合わなかったのでね。明日買いに行くつもりでいた」
ちらりと本音さんに目配せをする。私の意を汲み取ったか、それとも本人の希望か、本音さんも私の言葉に乗る。
「私も去年の水着がきつくって~、新しいの欲しいなって思ってたんだ〜。あと、持っていくお菓子も買わないとね~」
「え、え?あの、二人とも?」
困惑するシャルロット。どうやら流れに乗れていないようだ。仕方ないな。
「という訳だシャルロット。明日の休日、買物に行く。君も付き合え」
「集合は10時、場所は『IS学園駅』北口で~」
「えっと……うん、わかった」
私達の有無を言わせぬ勢いに頷くシャルロット。
「決定だな。では明日を楽しみにしつつ、食堂へ行こう」
「「うん!(う、うん)」」
話を切り上げ、三人で食堂へ向かう途中でふと気づく。原作ではシャルロットを誘ったのは一夏だったが、それは私がやっている。では、一夏が誘うのは誰になるんだ?
♢
翌日、『IS学園駅』北口。
IS学園内外へのアクセスはこのモノレール駅以外になく、そのため休日ともなれば街へ繰り出す10代乙女で溢れかえる。
時間は9時半、早く来すぎたかと思っていると後ろから声がかかる。
「「つくもん(九十九)おまたせ」」
振り返ると、よそ行きの格好をした本音さんとシャルロットがいた。
シャルロットは季節感のあるホワイト・ブラウスにライトグレーのタンクトップ、下はタンクトップと同色のティアードスカート。短めのスカートから伸びる脚線美が眩しい。
本音さんはライトイエローのノースリーブワンピース。胸元が少し大きめに開いていて、健康的な色気を放っている。二人ともよく似合っていた。
「どうかした?」
こちらが何も言わないのを気にかけたのか、シャルロットが顔をのぞき込んできた。
「いや、何でもない。似合っているよ、二人とも」
「そ、そう?ありがとう」
「てひひ〜、ありがと〜つくもん」
はにかんだ笑みを浮かべるシャルロットと満面の笑みの本音さん。
「さて、では行こうか」
「うん!」
「れっつご〜!」
駅のホームに向かい三人で並んで歩く。これが一夏ラヴァーズなら誰が腕を組むかで壮絶な争いが起きるだろうが、この二人にそんな事はなかった。実に平和だ。
『IS学園駅』からモノレールで『IS学園入口駅』まで行き、更にそこから電車で15分。『新世紀町駅』の駅舎も含んだ地下街と繋がった大型ショッピングモール。ここが……。
「ようこそ『レゾナンス』へ!」
ショッピングモール『レゾナンス』
洋の東西を問わずあらゆる飲食店と食料品店が軒を連ね、衣服も量販品から超一流メーカーまで網羅。
家具・家電量販店はもちろん、玩具店やゲームセンター、スポーツジム等のレジャー施設もあり、老若男女を問わず幅広い対応が可能。曰く『ここにないなら市内の何処にもない』とまで言われるほどの巨大店舗だ。
「フフ、少し懐かしいな。中学の頃、弾と一夏と鈴の四人で放課後に繰り出したものだ」
「そ~なんだ〜」
「まずなにから見ようか?」
入り口の案内表示を眺めつつ思案する。
「取り敢えず、一番入手しなければならない物からではないか?」
「そうだね。じゃあ水着売り場は……」
「西棟二階、エスカレーターを降りて左だね~」
「了解した。では行こうか」
エスカレーターに向かって歩いていると二人から同じ要請が飛んできた。
「「つくもん(九十九)、わたし(僕)の水着選んでくれない?」」
「構わんが、まず自分である程度選んでからにしてくれないか?」
「わかった〜」
「そうだね」
そうこうしている内に二階水着売り場へ到着。
「では、男女で売り場が違うし、一旦別れて探すとしよう」
「「うん」」
さて、あの二人はどんな水着を選ぶかな?原作通りか全く違うのか、それも楽しみだな。
とは言え、男の水着選びなど15分もあれば終わってしまう。
私が選んだのはグレーに青いラインの入ったトランクスタイプ。『フェンリル』と同じカラーリングが気に入ったからだ。
会計を済ませて待ち合わせ場所へ。ふと見ると、手招きをしているシャルロットが。そちらに歩み寄ると、二つの水着を持っているようだった。
「もう選び終わったのかね?」
「うん、九十九に見て選んでほしいなって」
そう言ってシャルロットがかざしたのは、パステルブルーのワンピースとオレンジのミニパレオ付きセパレート。どちらも似合いそうだが……。
「君には暖色系の方が似合うと思う。オレンジのセパレートを勧めよう」
「そ、そう?じゃあそうするね」
「サイズは大丈夫かね?」
「うん。一回着てみたから」
そう言ってレジへ向かうシャルロット。
「つくも〜ん、私のもえらんで〜」
試着室辺りから本音さんの声がするのでそちらに向かう。途中で会計を終わらせたシャルロットも合流。二人で声のした方へ行くが、そこには誰もいない。はて?確かにこの辺りから声がしたんだが……。
「本音さん、どこだね?」
「ここだよ〜」
シャッ!と軽い音とともに試着室のカーテンが開く。そこにいたのは……。
「「……狐?」」
の着ぐるみのような、本当に水着なのか怪しい物を着た本音さんだった。
「ど~かな~?」
「それは……本当に水着かね?」
「ちゃんと水着だよ~」
と言って私に手を差し出す本音さん。触ってみると確かに水着特有の感触だった。
「ねえ、本音。その下どうなってるの?まさか……」
「下にも着てるよ〜」
そう言って着ぐるみのファスナーを開けて上半身部分を脱ぎ去る。そこから現れたのは。
「ぶうっ!?」
「ええっ!?」
本音さんの『発育の暴力』を申し訳程度に隠したマイクロビキニだった。
「ペンギンさんのもあるよ~。下はおんなじかんじ〜」
そう言ってペンギンの水着の中を見せる本音さん。そこには本音さんが着ているものと同じ水着が。
「下に着るそれは変えられんのかね!?と言うか変えてくれ!」
「え~?無理だよ~」
本音さんによると、この着ぐるみ水着はインナーのマイクロビキニとワンセットであり、分売は不可なのだそうだ。
「他の選択肢は?」
「ない(キリッ)」
無駄にかっこつけた言い方に少し腹が立ったが、本人に買う水着を変える気がない以上どうしようもなく、私は「狐で」と力無く答える事しかできなかった。
水着を買った後、三人で昼食をとってこれからどうするかを話し合う。
「お菓子買お〜」
「移動中の暇潰しに、カードゲームがあるといいかもね」
「仰せのままに、お嬢様方」
本音さんのリクエストでお菓子コーナーで買い物をし、その足で玩具店へ。シャルロットが希望したカードゲームを入手。
他にもアメニティグッズなどを買い揃え、帰り着いた時にはすっかり日も暮れていた。
「明日から臨海学校か〜」
「楽しみだね」
「二日目からはいろいろ大変だがな」
臨海学校二日目には、原作通りならば
「それは言っちゃダメだよ〜」
本音さんがプンスカといった感じで私に言ってくる。
「すまない、不躾だったね。その分しっかりと自由時間を楽しみたまえ」
「「うん!」」
力強く頷く本音さんとシャルロット。明日は私も楽しむとしよう。
買物と準備は終わらせた。明日から臨海学校が始まる。
訪れるだろう一学期最大の事件と天災的天才にどう対処するか。私は今から考えていた。
ちなみに一夏だが、どうやら一人で水着を買いに行ったらしい。どうしてそうなった?
次回予告
青い空、蒼い海、白い砂浜。
そして水着の乙女達。
さあ、今を全力で楽しもう。
次回「転生者の打算的日常」
#26 臨海学校
さて、私はどうするかな。