転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#24 決着・落着

 私達の目の前に立っている漆黒の全身装甲(フルスキン)に身を包んだ『何か』は、色合いだけを見れば『クラス代表戦襲撃事件』に現れた無人IS(ゴーレム)に酷似していたが、その姿は全く異なっていた。

 ボーデヴィッヒのボディラインをそのまま表面化した少女のシルエット、腕と足に着けた最小限のアーマー、頭部のフルフェイスアーマーのラインアイ・センサーから赤い光が漏れる。

 そしてその手に握られた武器が目の前の『何か』が何者なのかを如実に物語る。

「《雪片》……!」

 それはかつて千冬さんが振るい、一時代を築いた刀。つまり、ボーデヴィッヒが願った最強の姿とは。

「『暮桜』……。そうか、それが君の答えか。ボーデヴィッヒ」

 私は我知らずそう呟いていた。

 

「−−!」

 一夏が《雪片弐型》を中段に構えた刹那、『暮桜』が一夏の懐へ飛び込む。刀を中腰に引いて構え、居合に見立てた必殺の一閃を必中の間合いから放つ。それは、学園のアーカイブで見た千冬さんの太刀筋と瓜二つだった。

「ぐうっ!」

 一夏が構えていた《雪片弐型》が弾かれる。そのまま『暮桜』は上段の構えを取る。この流れは、選手時代の千冬さんの必勝パターン。おそらく一夏も気づいている。

「!」

 唐竹一閃、落とすような斬撃が一夏を襲う。一夏の刀は弾かれているため、防御は不可能だ。

 瞬間、一夏は後方へ急速回避。間一髪で攻撃を回避したが、シールドエネルギーが底をついていた『白式』に一夏を守る術はなく、軽く刃が触れたのだろう左腕から僅かに血が滲んでいた。そして『白式』は力尽きたかのように光となって一夏の体から消えた。

「……それが……」

 一夏はポツリと呟くと、立ち上がって『暮桜』に向かい生身のまま駆け出す。

「それがどうしたああっ!」

 激しい怒りに彩られたその叫びと共に『暮桜』に突撃する一夏を私の《ヘカトンケイル》が掴んで引き戻す。それに気付いた一夏がこちらを睨みつける。

「何をしている?死にたいのか?」

「離せ!あいつ、ふざけやがって!ぶっ飛ばしてやる!」

 一夏はなんとか《ヘカトンケイル》を振りほどこうともがくが、その程度で外れるほど《ヘカトンケイル》はヤワではない。

「お前の気持ちが分からんとは言わん。だが落ち着け」

 取りあえず一夏を諭すが、一夏は全く聞いている様子がない。

「どけよ、九十九!邪魔をするならお前も−−」

「いい加減にせんか!このど阿呆が!」

 

ガツンッ!

 

 右腕の装甲を解除し、一夏の頭に向かって拳骨を振り落とす。同時に《ヘカトンケイル》の拘束を解除。拳骨を受けた一夏はそのままアリーナの床に倒れる。

「少しは落ち着いたか?では聞け。あれが何かは分かるな?」

 怒りの頂点が折れたのか、少しだけ冷静さを取り戻した一夏が口を開く。

「ああ……あれは千冬姉のデータだ。それは千冬姉のものだ。千冬姉だけのものなんだよ。それを……くそっ!」

 『暮桜』はアリーナ中央で動かない。原作同様、武器か攻撃に反応する自動攻撃プログラムのようだ。一夏の拳、私の《ヘカトンケイル》は攻撃とも武器とも見なさなかったらしい。

「やれやれ、お前はいつも千冬さん千冬さんだな。まあ、気に入らんのは私もだが。あんな不格好な剣を『本物』ぶって振るっているのだからな」

 千冬さんの必勝パターンである居合からの唐竹。これをもしも千冬さん本人がやれば、一夏では躱す事はおろか反応する事すら出来ないはずだ。

 しかし、今回それができた。その時点で目の前の『暮桜』が粗悪な複製品(デッドコピー)以外の何者でもないと分かる。

「それだけじゃねえ。あんなわけわかんねえ力に振り回されてるラウラも気に入らねえ。ISとラウラ、どっちも一発ぶん殴らねえと気がすまねえ。そのためにまずあいつを正気に戻す」

「どうやってだ?『白式』のエネルギーは枯渇して、現在展開すらままならんというのに」

「ぐっ……」

 私の言葉に声を詰まらせる一夏。考え無しだったのか?コイツらしいが。と、ここでアリーナに管制室から放送がかかる。

『非常事態発令!トーナメントの全試合は中止!状況をレベルDと認定、鎮圧のため教師部隊を送り込む!来賓、生徒はすぐに避難すること!繰り返す!来賓−−−』

「だそうだ、一夏。お前が何をせずとも状況の収拾はつく。無理に……」

「無理に危ない場所に飛び込もうとするな、か?」

「そうだ。と言った所でお前は聞かんだろうがな」

「ああ、これは俺が『やらなきゃならない』んじゃないんだ。これは俺が『やりたいからやる』んだ。他の誰がどうとか知るか。だいたいここで引いたら……」

織斑一夏()じゃ無い。だろう?」

「……やっぱお前、エスパーだろ?」

 一夏が苦笑混じりにいつものツッコミを入れる。それに私はいつものように返す。

「いや?お前ならそう言うだろうと思ってな。それで?正気に戻すはいいが、そのための『白式』のエネルギーはどうする?」

「そ、それは……」

 口籠り俯く一夏。やはり考え無しだったのか。

「無いなら別の所から持ってくればいい。でしょ?」

 今まで口を開かなかったデュノアが、ここで初めて口を開いた。

「普通のISは無理だけど、僕の『リヴァイブ』ならコア・バイパスでエネルギーを移せると思う」

 その言葉にばっと顔を上げる一夏。その顔は喜色に彩られていた。

「本当か!?だったら頼む!早速やってくれ!」

「けど!」

 デュノアが一夏を指差し、いつもより強めの語気で言った。それは有無を言わせない迫力をともなっていた。

「けど、約束して。絶対に負けないって」

「もちろんだ。ここまで啖呵を切って飛び出すんだ。負けたら男じゃねえよ」

「言い切ったな、一夏。ではもし負けたら、明日からお前には女子制服で登校してもらおう」

「あっいいねそれ」

「うっ……い、いいぜ?なにせ負けないからな!」

 冗談混じりのやり取りで、一夏の頭も適度に冷えたようだ。さて、私はどうするか?

「じゃあ、始めるよ。……『リヴァイブ』のコア・バイパスを開放。エネルギー流出を許可。−−一夏、『白式』のモードを一極限定にして。それで《零落白夜》が使えるようになるはずだから」

「おう、分かった」

 リヴァイブから伸びたケーブルが待機形態の『白式』に繋がれ、エネルギーの移譲が始まる。

「デュノア、一つ訊きたい。エネルギーを移し終えるのにどの程度かかる?」

「え?えっと、3分くらい……かな?」

「了解した」

 言って私は『暮桜』の前に出る。彼我の距離は約20m。何時でも攻撃可能な距離だ。

「お、おい九十九。何する気だよ?」

 私の突然の行動に、一夏が戸惑い気味に訊いてきた。

「言ったはずだぞ一夏。私もあれが気に入らないと」

 一夏達の方に向き直りながら、私は言った。

「優れた芸術作品に模倣品や贋作が多いのは、それだけ本物が素晴らしい物だからだ。だが、あれはいただけない。あんな物を私は模倣品や贋作と認めない。あれは……」

 一旦言葉を区切り、『暮桜』に視線を向けつつ言い放つ。

「ただの粗大ゴミ(ガラクタ)だ」

 《狼牙》を展開し『暮桜』に向ける。それに反応して『暮桜』が攻撃態勢をとった。

「一夏。お前の準備が整うまでの180秒、貰うぞ」

 さあ来い紛い物。少しだけ遊んでやる。

 

 

 九十九が右手に大口径銃を構えると同時、黒いISが九十九に向かって突進。居合に入ろうとした瞬間、突然その動きが止まった。

「え!?なんだ!?何が起こってるんだ!?」

「一夏。あの黒いISの背中を見て」

 言われた一夏が黒いISの背中を見ると、そこにはいくつもの《ヘカトンケイル》が『行かせるか』とばかりに掴みかかっていた。だが黒いISはそれに構わず、その場で居合からの唐竹を繰り出す。その様子に、一夏とシャルロットはぽかんとする。

「あいつ、何してんだ?」

 一夏の呟きに九十九が答える。その声には嘲りの色が混ざっていた。

「所詮は自動行動プログラム、特定の行動に対して特定の反応しか返せない。と言う事か。−−つまらんな」

 ポツリと呟き、黒いISを見据える九十九。その顔は無表情で、ひどく冷たい目をしていた。

 

 そこからは一方的だった。黒いISに《狼牙》から持ち替えた《レーヴァテイン》を向けて構える九十九。

 それに反応して九十九に向かう黒いIS。その刃が九十九に届く遥か前。

 

ガオンッ!ガオンッ!ガオンッ!

 

 黒いISの背後で発砲音。黒いISがそちらに目を向けると《ヘカトンケイル》の一機が《狼牙》を構えていた。黒いISが自分を攻撃した《ヘカトンケイル》を最大警戒対象に設定、それを撃墜しようと反転。接近し、剣を振りかぶった次の瞬間、真横から《グングニル》が飛来。その腕を弾いて体勢を崩させると同時。

 

ヒィィィィン……ドルルルルルルルッ!

 

 真上から《ケルベロス》の一斉射。分間3,600発の弾丸の雨が容赦なく降り注ぐ。

 黒いISが弾雨から脱出を試みるが、着弾点周辺を弾に当たらない距離で飛び回る無数の《ヘカトンケイル》がそれを許さない。黒いISの装甲はあっという間にボロボロになって行く。

 そして戦闘開始から150秒後。そこには無惨な姿になった黒いISがいた。

 

 

「少々やり過ぎたか……?」

 どうやら私は、自分で思った以上に憤慨していたようだ。私の目の前にはボロボロになり、あちこちから紫電が上がっている『暮桜』がいた。

 あと一撃加えれば、このISは倒れるだろう。もう少し加減して、一夏に花を持たせるつもりだったのだがな。

「まあ、いいか。一夏、デュノア、準備は?」

「もう少し……完了。『リヴァイブ』のエネルギーは残量全部渡したよ」

 言い終わると同時、デュノアの体から『リヴァイブ』が光になって消える。それに合わせるように、『白式』が再度一夏の体に一極限定で展開する。

「やっぱり、武器と右腕だけで限界だね」

「十分さ。ってか、相手があんなだし」

 一夏がこちらに視線を向ける。そこにはボロボロになった『暮桜』が力無く佇んでいた。

「お膳立てが過ぎたな。あと一撃加えれば終わりだろうが、油断はするなよ」

 一夏へ歩み寄り、その肩を叩く。

「決めて来い」

「おう」

 それだけのやりとり。一夏は目の前の『暮桜』に歩を進める。ちらと目を向けられたデュノアが、無言で一つ頷いて答えた。

「じゃあ、行くぜ偽物野郎」

 一夏の右手に握られた《雪片弐型》が、その意志に呼応して刀身を開く。

「零落白夜−−発動」

 

ヴン……

 

 小さな駆動音と共に、あらゆるエネルギーを無に帰す光刃が現れる。その長さ、本来の刀身長の実に二倍。しかし一夏はそれを構えず、更に深く集中していく。

 次の瞬間、《雪片弐型》に変化が起きた。これまで漫然と解放されていたエネルギー刃が、その姿を細く鋭い日本刀状へと集約したのだ。ここで初めて一夏が構えをとった。

 腰を落とし、刀を持つ手を背に回す。その行動に『暮桜』が反応。刀を持ち上げ振り下ろしに掛かるが、その動きはひどく緩慢だ。一夏から見ればそんなものは−−

「真似事ですらねえよ」

 一夏が《雪片弐型》を横一閃して『暮桜』の刀を弾き、すぐさま上段から唐竹一閃。すると『暮桜』は正中線から左右に分かれ、その中からボーデヴィッヒが崩れるように一夏に倒れ込んできた。

 それを抱きかかえ、何かをポツリと呟いた後、こちらに向かって一夏が歩いて来た。私は何を言ったのか知っていたが、敢えて訊いてみた。

「どうした一夏?ぶっ飛ばすのではなかったか?」

「……まあ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやろうかなって思ってさ」

「そうか。だが、私は一発殴っておく」

 言いながら私は拳を握り、一夏が抱えているボーデヴィッヒに振り下ろす。

「お、おい九十九!?」

 コツン。と、ごくごく軽く。

「これで私も勘弁してやろう。さあ、これから忙しいぞお前達」

「「え?」」

「この後私達は間違いなく事情聴取を受ける事になる。さて、いつまでかかるやら……」

 私の呟きに一夏とデュノアがどこかげんなりとした顔をしていた。

 

 こうしてVT事件は一応の決着を見た。

 自称知恵と悪戯の神(ロキ)が『いっそ美味しいとこ全部もってきゃ良かったのに。転生オリ主なんだし』と不満そうに言っていた気がした。

 あんたの希望なんか知らんよ。

 

 

『よってトーナメントは中止。ただし今後の指標とするため、一回戦は全て行う事とします。以上、放送部がお伝えしました』

 学食のテレビから流れる告知を聞きながら、私達は食事をとっていた。

「まあ、こうなるとは思っていたが」

「シャルルと九十九の予想通りになったな」

「そうだねぇ。あ、九十九、七味取って」

「ああ、ほら」

「ありがと」

 当事者なのに随分のんびりしたものだと批判がきそうだが、つい先程まで教師陣から事情聴取を受け、解放されたのは食堂終了時間30分前。慌てて戻ると、そこには話を聞きたかったのか相当数の女子が残っていた。

 まずは食事をとってから、と言う事で私達は夕食優先でテーブルに着いたのだが、そこで重大な告知があるとテレビに帯が入り、先程の内容が放送されたというわけである。

「ごちそうさま。学食と言い寮食堂と言いこの学園は本当に料理がうまくて幸せだ。……ん?」

 一夏が何かに気づいたのか後ろを振り返る。そこには私達の食事が終わるのを心待ちにしていた女子一同の酷く落胆した姿。ああ、そういう事か。

「……優勝……チャンス……消え……」

「交際……無効……」

「「「……うわああああんっ!」」」

 

バタバタバタバター!

 

 食堂にいた数十人の女子が泣きながら一斉に走り去った。一夏とデュノアがぽかんとした顔をしている。

「どうしたんだろうね?」

「さあ……?」

「女は摩訶不思議な生き物だという事だな」

 ちなみにこの後、呆然と立ち尽くす箒に一夏が「付き合ってもいいぞ……買い物くらい」と朴念仁発言をかまし、箒の怒りの正拳とみぞおちへのつま先蹴りを受けて食堂の床に沈んだ。

「あれでわざとでは無いのだよ、デュノア」

「それはそれでひどいと思うけどね」

 5分後、なんとか復活した一夏がデュノアに相互意識干渉(クロッシング・アクセス)の事を訊いてきたので、それにデュノアが丁寧に答える。

 食器を片付けて食堂を出ようとした所に、山田先生が嬉しい報告を持ってきた。今日から大浴場の男子使用が解禁になったのだ。なんでも、今日は大浴場のボイラー点検日で元々生徒が使用できない日なのだが、点検自体は終わっているので折角だから男子二人に使って貰おうという学園側の計らいだとの事。

「ありがとうございます、山田先生!」

 感動のあまり、山田先生の両手を自分の両手で包み込むように握り、キラキラした目で山田先生を見つめる一夏。それに山田先生が落ち着きを無くし、視線をさまよわせる。

「もう一度言う。あれでわざとでは無いのだよ、デュノア」

「やっぱりひどいと思う」

 あいつ、いつか後ろから刺されやしないか?いや、もっとひどい目にすでにあってるか。

 

 

 という訳で、一年生寮大浴場にやって来た私と一夏。当然と言えば当然だが、女バレしたデュノアはここには居ない。

「シャルル、残念っちゃあ残念だよな」

「デュノア『が』入れなかった事か?それともデュノア『と』入れなかった事か?」

 脱衣場でそんな事を言う一夏にからかい混じりに訊いてみる。

「シャルル『が』だよ!何言ってんだよ!」

「冗談だ。先に行くぞ」

 服を脱ぎ、大浴場の扉を開けるとそこはパラダイスだった。やや遅れて一夏もやって来る。

「うおー」

「これはまたすごいな」

 広い。とにかく広いのだ。30人位が一度に入ってもなお余裕があるだろう大きな湯船が一つ、ジェットバスとバブルバスが一つづつ、さらに檜風呂まである。おまけにサウナ、全方位シャワー、打たせ湯まである充実の設備内容。しかも入り放題だ。

 これは日本人なら気分が高まること間違いなしだ。今すぐにでも飛び込みたい衝動を抑えて全身をくまなく洗い流し、その後湯船(大)へ身を沈める。

「ふうぅぅ〜〜……」

「ぬあぁぁ〜〜……」

 思わず溜息が漏れる。全身を包む安堵感、疲労が溶けていく虚脱感と湯の熱さが連れてくる圧迫感、そして心地の良い疲労感。それら全てに身を委ね、私達はただ無心に風呂を満喫した。

 余談だが、一夏が寝落ちして溺れ死にしかけた。私がいなかったらどうなっていたか。

 

「ふう、いい湯だった」

「おかえり〜つくもん」

「お、おかえりなさい、九十九」

 大浴場を十分に堪能して部屋に戻ると、本音さんの他にデュノアがいた。

「私に何か用かな?デュノア」

「う、うん。九十九にお礼を言おうと思って。ありがとう。僕を、お父さんを、会社を守ってくれて」

「私は仲立ちをしただけだ。感謝するならうちの社長にしてくれたまえ」

「それでもだよ。ありがとう」

「ふう。では受けとっておこう」

「ね~ね~つくもん、ど~ゆ〜こと?」

「ん?ああ、実はね……」

 

ーーー村雲九十九説明中ーーー

 

「という訳なのだよ」

「そ~だったんだ〜」

「そういえば、確か今日の今頃の時間にエレオノールが刑務所へ護送されるはずだが」

 気になってTVをつけてみる。すると信じられないニュースをやっていた。

『速報です。フランス国営超長期刑務所に護送中だったエレオノール・デュノア受刑者が、男性復権団体過激派『イエスタデイ・ワンス・モア』と思われる集団に襲撃を受け死亡しました。犯行声明で彼らは「エレオノール・デュノアは女であり妻でありながら夫を立てる事をせず、あまつさえ犯罪行為に手を染めて会社の男達を窮地に立たせた。その罪は死を持ってのみ償われる。よって我々の手で天誅を下したものである」と語っており、フランス警察は現在逃亡した実行犯を捜索中です。繰り返しお伝えします−−』

「え……?」

「そんな……」

「まさか、こんな結末とはな……」

 思ってもいなかったエレオノールの無残な最期に、私達は呆然とするしかなかった。

 

 男性復権団体過激派『イエスタデイ・ワンス・モア』通称YOM。

 女尊男卑主義が蔓延り、男の地位が下がった事をよしとしない男達が結成した、男性の地位の再向上と男女平等の復活を目標に活動している、いわゆる男性復権団体の中でも特に男尊女卑思考の強い者達が集まったテロ組織である。

 主にヨーロッパを中心に活動している。

 女性に対する暴力行為や女尊男卑主義者の殺害、陵辱行為を平然と行うため、世界中から『悪の組織』として認識され、幹部クラスの者は全員が国際指名手配を受けている。

 

 お互い何かを話し合う空気でなくなってしまった私達は、とりあえず明日また話をする事にした。

 デュノアが部屋を出ていってしばらく後、部屋のドアがノックされる。誰だこんな時間に?

「誰だろ〜?」

「私が出よう」

 立とうとする本音さんを制し、来客の応対に向かう。扉を開けたその先にいたのは。

「やあ、もう歩き回って大丈夫なのかね?ボーデヴィッヒ」

 今回の事件の加害者にして被害者、ラウラ・ボーデヴィッヒであった。

「立ち話もなんだ。入りたまえ」

「いや、ここでいい。すぐに済む話だ。聞かせろ、貴様にとって……」

「強さとは何か、かね?」

 コクリと頷くボーデヴィッヒ。それは試合開始前にした話の続きだった。

「私にとって強さとは、力の使い方だ」

「力の使い方?」

 ボーデヴィッヒが話の続きを促してくる。ふと視線を感じて後ろを見ると、本音さんも私の話を聞いていた。

「人によって手にする力はまちまちだ。例えば腕力や知力、経済力、あるいは権力と言った風にな。それは望んで得たものかもしれないしそうじゃないかもしれない。だが、それよりも大切なのは、手にしたその力はただ力でしかないと理解する事だ。力とは、手にした者が何に使うかで善にも悪にもなる物だと私は考える」

「力はただ力……か」

「納得のいく答えだったかね?一夏あたりならきっと『強さとは心の在り処、己の拠り所。自分がどうありたいかを常に考える事』と言うだろうね」

 私の言葉にボーデヴィッヒの頬がかすかに朱に染まる。この反応……やはりか。

「一つ、私からも良いか?」

「な、なんだ!?」

「一夏は相互意識干渉の中で君になんと?」

「そ、それは……」

 言い淀むボーデヴィッヒ。どうやら相互意識干渉の中で交わした会話は原作通りで間違いなさそうだ。

「あいつの事だ。大方『お前も守ってやる』とか言ったんだろうな。あいつの事だから」

 大事な事なので二回言いました。私の言葉にボーデヴィッヒの顔がさらに赤くなる。

「君にアドバイスだ。あいつの鈍感ぶりは超弩級だ。想いを伝えるなら、曲解も聞き間違いも出来ないど真ん中ストレートでいけ。あいつのストライクゾーンはそこだけだ」

 真っ赤な顔でコクリと頷き、そのまま部屋へ帰っていくボーデヴィッヒ。帰り際小さく「ありがとう」と言っていた。

 さあ、これからが大変かもな。一夏が。

 

 

 明けて翌日。ホームルームの時間になったが、そこにデュノアの姿がない。おそらく改めて紹介されるのだろう。

 女子達もそれがわかっているのか少しざわついている。と、そこへ山田先生がやって来た。

「皆さん、おはようございます。今日は転校生を紹介します……と言っても、もう紹介は済んでいますが。じゃあ、入ってきてください」

「失礼します」

 やはりと言うかなんというか。果たしてそこにいたのは女子制服を纏った−−

「シャルロット・デュノアです。改めてよろしくお願いします」

 言ってペコリと頭を下げるデュノア。その制服は原作通りの超ミニスカだった。あざとい、さすがデュノアあざとい。

「男子制服も良かったけど、これはこれで……いい!」

「……Cはある……一体どうやって隠してたの……?」

「眩しい!スカートから覗く生足が眩しい!」

 キャイキャイと騒ぎ立てる女子諸君。一部男性的な感想があったような気もするが、いつもの事としてスルー。その一方で。

「今からでもいい。ウソだと言ってよ、バー○ィ!」

「さよなら、私の初恋……」

「グッバイ、青春……」

 デュノアの事を男だとつい先日(#22)まで思っていた女子達が、女子制服のデュノアを見て改めて真っ白になっていた。ご愁傷様としか言えないな。ふと、デュノアと目があった。こちらに向かって来るのを席を立って迎える。

()()()()()()、シャルロット・デュノアです」

 そう言って握手を求めるように右手を差し出す。私はそれに答えて握手を返し、言った。

()()()()()()()()()()()、村雲九十九だ」

「僕のことはシャルロットでいいよ」

「では、私も九十九と呼んで貰って構わない」

 このやりとりを周りは不思議そうに眺めていた。お互い手を離して、会話をする。

「この事は一夏から?」

「うん、九十九は相手が自分から本当の名を名乗って初めて名乗り返してくれるって」

「まあ、小さな拘りさ。本当の名を知らずに本当の友にはなれんからな」

「そうかもしれないね」

 言って二人で微笑み合う。と、教室の扉が開いて千冬さんに連れられて誰かが入ってきた。銀髪赤眼の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。瞬間、教室に緊張が走る。と、ボーデヴィッヒは一夏の席の前で足を止め、一夏へ顔を向ける。

「……織斑一夏」

「な、なん−−むぐっ!?」

 それは突然の出来事だった。ボーデヴィッヒが一夏の胸倉を掴んで引き寄せ、その唇を奪ったのだ。教室内の時が止まった。

 そして時は動き出す。一夏の唇から自分の唇を離したボーデヴィッヒは開口一番のたまった。

「お前は私の嫁にする!決定事項だ!異論は認めん!」

「……嫁?婿じゃなくて?」

 混乱でもしているのか、ツッコミ所がおかしい一夏。

「日本では気に入った相手を『嫁にする』というのが一般的な習わしと聞いた。故に、お前を私の嫁にする」

 間違ってはいないが間違っている。それはあくまで二次元少女やアイドル(会えないあの子)を対象にしたもので、断じて一般的風習ではない。教えたのは誰だ?ああ、あの日本のサブカルかぶれ(副長さん)か。

 突然一夏が教室後方のドアへ駆け出す。命の危険でも感じたのだろう、顔が青い。ドアに手がかかった瞬間。

 

ビシュンッ!

 

 その鼻先をレーザーが掠める。一夏がぎこちなく振り返るとそこには。

「一夏さん?どこかにお出かけDeathか?聞きたいことがありますのに」

 「です」の発音がおかしくなる程に激怒したセシリアが《スターライトMk-Ⅲ》を構えていた。遅れて『ブルー・ティアーズ』が展開完了。廊下への脱出は不可能だ。それに気づいた一夏が今度は窓へ向かう。

 ここは二階だから、着地さえ誤らなければなんとか無事だろうし、最悪『白式』を展開すればどうにかなる。と思ったのだろうが。

「そこは死路だ。一夏」

「へ?」

 

ダンッ!

 

 一夏が窓に手をかけようとした所で、その目の前に日本刀が突き立った。

「一夏、貴様どういうつもりか説明してもらおうか」

 怒りのオーラを纏った箒が一夏に詰め寄る。普通に怖いぞ。

「待て待て待て!説明を求めたいのは俺の方で−−おわあっ!?」

 聞く耳持たん!と言わんばかりの鋭い斬撃。あれ真剣だよな?このままでは本当に一夏が死にかねない。仕方ない、助けるか。

「二人とも」

「「なんだ(なんですの)!」」

 私に対して射殺さんばかりの視線を向ける箒とセシリア。

「気持ちはわからんでもないが、今は堪えてくれんかね?(ニッコリ)」

「ハイ!ゴメンナサイ!」

 私の誠意が通じたのか、二人揃って90度のお辞儀。セシリアはISを待機状態に戻し、箒も刀を納めている。うん、とりあえずこれで良し。

「よろしい。では二人の処遇、お任せしても?織斑先生」

「ああ」

 静かな怒りを孕んだ低い声に、箒とセシリアの体がビクッ!と跳ねる。自業自得だ阿呆。

 

 結局、セシリアはISを臨海学校当日まで没収、箒は日本刀の没収と持ち歩きの禁止。さらに両名に対し5日間の懲罰房行きと反省文50枚が言い渡された。これで少しは懲りてくれればいいのだが。

 

 

 二人の転入生がやって来た事に端を発する一連の事件は、こうして落着した。

 私はかなり原作から離れたが、あるいはこれが最善だったのかもしれないと考えていた。




次回予告

臨海学校にはいろいろとものいりだ。
着替え、アメニティグッズ、カードゲーム、そして水着。
無いものがあるなら手に入れなくてはならないだろう。そのためには……。

次回「転生者の打算的日常」
#25 買物

つくもん(九十九)これなんてどうかな?

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