転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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こんな作品でも需要があるのかと思うと、小生涙で前が見えません。
これからも応援して下さる皆様のため、頑張ります。


#21 転落

「デュノア社を、僕の物にする」

 私の目の前の彼女、シャルロット・デュノアが放った一言は、私の思考が一時停止する程の破壊力を持っていた。

 シャルロット・デュノアがデュノア社を手に入れる。それは下手をすれば『本妻から全てを奪った愛人の娘』のレッテルを貼られかねない行動だ。本来なら止めるべきだが、彼女の決意に満ちた目を見た私は、その考えを捨てた。

「分かった。その願い、叶えよう」

 携帯を取り出しながら屋上の出入口へ向かって歩きだす。

「九十九?どうしたの?」

「いつまでもここにいては本当に風邪を引く。寮に戻ろう。君の部屋に集合でいいかね?」

「え?あ、うん。そうだね」

 激しい雨に打たれたせいですでに全身ずぶ濡れ。すっかり体も冷えてしまっている。

 寮に戻り、シャワーを浴びて温まってから改めて話をする事にした。

 デュノアが寮への道を進み、曲がり角で姿が見えなくなった所で、私は取り出した携帯である人に電話をかける。

「……村雲です。例の件に進展がありました。協力をお願いしたいのですがよろしいですか?」

 

 

 一夏とデュノアの部屋に集まった私とデュノア、そして一夏。

「さて、デュノア。これから君をウチの社長に紹介する」

「う、うん」

 言いながらパソコンを起動。テレビ電話用のカメラを取り付けて、ラグナロク・コーポレーション社長室へアクセス。

 しばらくして画面に一人の男性が現れる。彫りは深いが黒髪黒目の日本人的顔つき、ライオンのたてがみのような髪型、この人が。

『はじめまして、シャルロット・デュノア君。私がラグナロク・コーポレーション社長の仁藤藍作(にとう あいさく)だ』

「は、はい。はじめまして」

「社長、電話でお伝えした通り彼女は……」

 私の言葉を画面の向こうで手を突き出して止める社長。

『九十九君。私はシャルロット君の口から直接聞きたい』

「……わかりました。デュノア、君の思いの丈をぶつけたまえ」

「うん、僕は……いえ、私は……」

 デュノアは社長に自分の思いを語った。

 これまで父に愛されている事を知らず、知ろうともしなかった事。

 父と母の真実を知り、今まで世界で一番不幸だと思っていた自分の身の上を、今はそれ程でもないと思っている事。

 そして、父と母の幸せを横から出て来て無理無理奪い取り、今も奪い続けているエレオノール(あの女)を許しておけないという思いが芽生えた事。

「あの女がデュノア社にいる限り私と『お父さん』、何も知らないデュノア社の人達の今とこれからは暗いまま。だから……」

『エレオノール・デュノアから母の物になるはずだった全てを奪い返し、自分達の今とこれからを守りたい。そのためにデュノア社を君の物としたい。そういう事だね?』

「はい」

『しかし、自分一人に出来る事などたかが知れている。だから我が社に協力して欲しい。そう言うのだね?』

「不躾なお願いだとは思います。でも、他に頼れる人も頼れる所もありません。どうか、私に力を貸してください」

 テーブルに付く勢いで頭を下げるデュノア。画面を見ると社長が渋面を作っていた。これはまさか?

『え〜?いいよ』

「いいのかよ!?」

 思わずツッコんだ一夏。気持ちは分かるがいちいち反応していてはきりがない。

「一夏、社長は初めからそのつもりだった。でしょう?」

 ニヤリと笑みを浮かべて社長に声を掛ける。社長もニヤリと笑みを浮かべていた。

『まあね。シャルロット君、君の願いだが、実は叶える準備はすでに出来ているんだ』

「えっと、それって……」

 困惑した表情を浮かべるデュノアに社長が説明をする。

『実は、私とフランシスは以前から面識があってね。彼から「妻の専横を止めたいが、女尊男卑の今となってはそれも難しくて困っている」と相談されていたんだ。この一件、既にフランシスと話をつけて各方面への根回しをさせた。フランシスは妻の影響力を削ぎ落として会社の再建が出来る。私はフランシスに恩が売れる。両者Win-Winと言う奴さ。後は君がゴーサインを出せば、今週末には全てにケリがつく』

「今週末と言えば、学年別トーナメントの開催前日だな」

「どうする?デュノア。決めるのは君だ」

「……お願いします」

『万事任せておいてくれ。ではまた、全てが終わった後で』

 パソコンの画面がブラックアウト。通話終了だ。緊張から解放されたのか、デュノアが大きく息をつく。

「良かったなシャルル」

「うん、ありがとう一夏。九十九も」

「礼は全てが終わってからにしてくれ。それにしても……」

「「それにしても?」」

「いや、なんでもない」

 フランスの大企業の社長と面識を持ち、身内の事で相談まで持ちかけられる日本の中小企業の社長。

 ラグナロク・コーポレーション社長仁藤藍作、あの人は本当に何者なんだ?

 

 

 翌日の放課後、場所は保健室。ベッドの上には包帯を巻いた痛々しい姿のセシリアと鈴。

 その横には私と一夏が座っていた。何故こうなったのか?それを説明するには、時計の針を少々巻き戻す必要がある。

 

 事の発端は、第三アリーナでセシリアと鈴が鉢合わせた所からだ。

 学年別トーナメントに向けた特訓を行おうとした二人は、どちらからともなく模擬戦をしようとした。

 そこにボーデヴィッヒがレールカノンを撃ち込むというとんでもない方法で乱入。

 ボーデヴィッヒの挑発的な物言いに、もともと切れやすい堪忍袋の緒が切れた二人は二人がかりでボーデヴィッヒと対戦。

 ボーデヴィッヒの乗機であるドイツ製第三世代IS『シュヴァルツェア・レーゲン』の特殊兵装《停止結界(AIC)》の前になす術もなく追い込まれるセシリアと鈴。

 鈴の衝撃砲は発射寸前でボーデヴィッヒの実弾砲撃によって爆散させられた。

 セシリアの自爆(零距離ミサイル攻撃)もさしたるダメージを与えられず、攻撃手段を失った二人を待っていたのは、ボーデヴィッヒによる一方的蹂躙だった。

 二人のISのシールドエネルギーは見る間に減少。機体維持警告域(レッドゾーン)を超えて遂には操縦者生命危険域(デッドゾーン)へ突入。

 これ以上のダメージ増加はISを強制解除に陥らせる。もしそうなれば、二人の生命に関わる。

 しかし、ボーデヴィッヒは攻撃の手を緩めない。淡々と攻撃を加え二人のISを破壊していく。無表情なボーデヴィッヒの顔が愉悦に染まるのを見た時、一夏の何かが切れた。

 『白式』の展開と同時に《雪片弐型》を構築、全エネルギーを集約して『零落白夜』を発動。アリーナのバリアに叩きつけてバリアを切り裂き、その間を突破。ボーデヴィッヒを射程に捉えると同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)、ボーデヴィッヒに急接近し刀を振り下ろすも『シュバルツェア・レーゲン』のAICに捕らえられてしまう。

 一夏と共に切り裂かれたバリアからアリーナに進入したデュノアの射撃によりAICから逃れた一夏は、ボーデヴィッヒが手放したセシリアと鈴を抱えて瞬時加速で離脱。二人は事なきを得る。

 デュノアの連続射撃によって釘付けにされていたボーデヴィッヒが攻勢に転じようと瞬時加速を仕掛けようとしたその瞬間、千冬さんが横からIS用のブレードを突き出す事でそれを制した。

 結局、千冬さんのとりなしで決着は学年別トーナメントで付ける事となり、その間の私闘の一切禁止が言い渡された。

 

「って事があったんだ」

「私がいない間にそんな事になっていたのか」

 私が教室棟の屋上で社長とエレオノール追い落とし計画の進捗状況を確認している間に原作エピソードが発生していた事に、若干のショックを覚えつつ答える。

「「…………」」

 ベッドの上で治療を受けたセシリアと鈴があらぬ方へ視線を向け、いかにも不機嫌そうな顔をしている。

「それで?なぜ君達はそんなに不服そうなのだね?」

「……別に助けてくれなくても良かったのに」

「あのまま続けていれば勝っていましたわ」

 話を聞く限り原作と同じ流れなので、放置していれば確実に大怪我をしていたし、最悪死亡していただろう。感謝ぐらいしてもいいだろうに、この跳ね返り共と来たらこれだからな。

「お前らなあ……。でもまあ、怪我が大したことなくて安心したぜ」

「下手をすれば死んでいたかもしれんのだ。その程度で済んだ事を感謝するんだな」

「こんなの怪我のうちに入らな−−いたたたっ!」

「そもそもこうやって横になっていること自体無意味−−つううっ!」

 私と一夏に言い募ろうとこちらに向き直った途端、痛みに呻く二人。一夏が「馬鹿なのか?」と言っているような顔をしている。

「バカってなによバカって!バカ!」

「一夏さんこそ大バカですわ!」

 ひどい反撃を受ける一夏。「なぜバレた?」と言っているような顔をしている。

 とは言え、怒髪天を衝く状態の怪我人が二名。まあ、怒っている理由は分かりやすいもので。

「「好きな人(想い人)に格好悪い所を見られたから、恥ずかしいんだよ(のだろう)」」

「は?」

 飲み物を買って戻って来たデュノアと私の台詞が重なる。しかし、一夏の耳には届かなかったようだ。

 それでもセシリアと鈴にはしっかり届いたらしい。顔を真っ赤にして怒り出す。

「なななな何を言ってるのか全っ然っわかんないわね!ここここれだから欧州人って困るのよねえっ!あと九十九も!」

「べべっ、別にわたくしはっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわね!」

 二人ともまくしたてながら更に顔を赤くする。ツンデレ乙とでも言っておこうかね。

「はい、ウーロン茶と紅茶。とりあえず飲んで落ち着いて、ね?」

「ふ、ふんっ!」

「不本意ですがいただきましょう!」

 渡された飲み物をひったくるように受け取り、ペットボトルの口を開けて一息で飲み干す。一夏なら「冷たいものを一気に飲むと体に悪いぞ」とか言いそうだ。

「まあ、先生も落ち着いたら帰っていいと言っているのだし、暫く休んでい−−」

 

ドドドドドドッ……!

 

「な、なんだ?何の音だ?」

「地鳴りか?その割には少しづつ近づいて来ているようだが……」

 

ドカーンッ!

 

「「なっ!?」」

 保健室のドアが比喩でもなんでもなく、文字通り吹き飛ぶ。ギャグ漫画か!とツッコミそうになったよ。

「織斑君!」

「デュノア君!」

「村雲君!」

 入って来た−−などという生易しいものではなく、まさに雪崩込んできたのは数十人の女子の群れ。五床のベッドが入る広い保健室は一瞬で埋め尽くされた。

 しかも私達を見つけるなり一斉に取り囲み、バーゲンセールの取り合いさながらにこちらへ手を伸ばす。軽いホラーだなこれは。人垣から伸びる無数の手とか、普通に怖いぞ。仕方ない、少し落ち着かせる必要があるか。

「諸君、ここは保健室だ。騒がんでくれるかね(ニッコリ)」

「「「アッ、ハイ。ゴメンナサイ(プルプル)」」」

「一夏、今すごくゾッとしたよ!何アレ!」

「アレが九十九の『怖い笑顔』だ」

「相変わらずすごい威力ね」

「わたくし、やっぱり慣れませんわ」

 口々に言う我がクラスメイトと幼馴染。人の誠心誠意に対して本当に失礼だな君ら。

 

「それで?君達は何故大挙して押し寄せて来たんだね?」

「あ、あの……これ」

 そう言って女子生徒の一人が手渡してきたのは、学内の緊急告知文付き申込書だった。

「なになに……?」

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、二人一組での参加を必須とする。なお、ペアができなかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締切は』−−」

「そこまででいいから!とにかくっ!」

 説明文を読んでいた私を遮り、再び一斉に伸びてくる手の群れ。だから怖いって。

「私と組もう、織斑君!」

「私と組んで、デュノア君!」

「お願いします、村雲君!」

 学年別トーナメントの突然の仕様変更。その背景にあるのは、クラス対抗戦での無人機襲撃事件だ。一般には『反体制組織によるテロ行為』とされたこの事件は、各国に疑心暗鬼を呼んだ。

 そこで、より実戦的な模擬戦闘を行うことで戦闘経験を積ませ、特に専用機操縦者の自衛能力を向上させる目的で今回の二人一組での開催となったのだ。しかし、そうなると問題が発生してしまう。それは……。

「え、えっと……」

 そう、デュノアの事だ。ここにいる女子は気づいていないようだが、デュノアの本当の性別は女。誰かと組むというのは問題だ。ペア同士での戦闘訓練を行えば、いつどこで性別バレをするか分からない。

 同じ事を考えたのか、一夏がデュノアの方を見る。デュノアがその視線に気づいて目をそらすが、その先には私がいた。デュノアが慌てて私からも目をそらす。

 遠慮がちな所はそう簡単には変わらんか。思わず苦笑してしまう。とここで、一夏が大きな声できっぱりと宣言した。

「悪いな。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 しんとする室内。いきなりの沈黙に一夏が後退る。

「まあ、そういうことなら……」

「他の女子と組まれるよりはいいし……」

「男同士っていうのも絵になるし……ゴホンゴホン」

「待って、まだもう一人いるわ!」

 バッ!と視線が私に向く。これはまずいな。ここで誰かと組めば、最悪VT事件の際に完全に蚊帳の外になりかねない。何かうまい逃げ方は……そうだ!

「済まないが、私は当日の抽選を当てにする」

「え?なんで?」

「今からペアを組み、そこから連携訓練をしても付け焼き刃にしかならない。なら最初から連携に期待せず、お互いに出来る事だけを別々にやった方がまだましだからな」

 再びの沈黙。苦しい言い訳だったろうか?

「まあ、そういうなら……」

「ワザとペアを組まなかったらチャンスはあるわけだし」

「暗に『誰と組んでも変わらない』って言われた気もするけど、まあいっか」

 とりあえず納得したのか、女子達は各々仕方ないと口にしつつ保健室から去って行こうとする。が、そうは問屋が卸さんよ。

「ところで……保健室のドアを破壊した件、織斑先生に報告するのでそのつもりで」

「「「え?」」」

「何か?(ニッコリ)」

「「「イエ、ナンデモアリマセン!」」」

 ババッ!とぎこちない敬礼をし、足早に去っていく女子達。ここから改めてペア探しを始めるのだろう。廊下から再び喧騒が聞こえてきた。

 

「ふう……」

「やれやれ……」

「あ、あの、一夏−−」

「「一夏(さん)っ!」」

 安堵の溜息をつく一夏にデュノアが声を掛けようとして、それ以上の勢いでセシリアと鈴がベッドから飛び出す。二人の用件は全く同じ「自分とペアを組め」だ。

 この二人を説得するのは困難と思われたが、山田先生がやって来てそれに「待った」をかけた。

 山田先生曰く「ISのダメージレベルがCを超えている。当分は修理に専念するべきであり、トーナメントへの参加は許可できない」との事。この説得に二人はあっさり引き下がった。不思議そうにする一夏にデュノアが説明する。

 デュノア曰く「ISのダメージレベルがCを超えた状態で起動をすると、不完全状態でのエネルギーバイパスを構築。それが平常時での稼働に悪影響になりかねない」との事。要は『骨折ってんのに無茶したら、今度は筋肉痛めるぞ』という事だ。

 話も纏まった所で一夏がセシリアと鈴にボーデヴィッヒと戦う事になった理由を訊くと、二人はやけに言いにくそうにする。一体どんな挑発だったのか?まあ知っているが。

「「ああ。もしや(もしかして)一夏の事を−−」」

「あああっ!デュノアも九十九も一言多いわねえ!」

「そ、そうですわ!まったくです!おほほほほ!」

 閃くものがあったデュノアと元々知っている私の台詞がまたも重なる。それを鈴がデュノアを、セシリアが私を取り押さえ、口を塞ぐ事で制す。これは苦しい。と言うか、怪我人が無茶をするな。デュノアも苦しそうだ。

 見かねた一夏がデュノアと私を助けようとセシリアと鈴の肩を指で軽く突く。

「「ぴぐっ!?」」

 相当の痛みが走ったのか面白い悲鳴をあげて凍りつく二人。その痛みは、二人の沈黙と恨みがましい視線でおおよそ分かる。

「あ……すまん。そんなに痛いとは思わなかった。悪い」

 流石にやり過ぎたと思ったのか、すぐさま謝る一夏。

「いちかぁ……あんたねぇ……」

「あとで……おぼえてらっしゃい……」

 体が無事なら鉄拳を振るっていただろう気迫の二人。まあ、この様子なら明日には起き上がってくるだろう。

 私は「お大事に」とだけ言い残して、保健室を出た。

 

「という訳で、今は君と組む事はできない。すまないね、本音さん」

「むっす~」

 夕食を終え、部屋に戻って本音さんに事情説明。本音さんはやや不機嫌だ。

「まあ、君がペアを組まなければ当日私と組める可能性はあるのだし、そんなに気を悪くしないで欲しい」

「う~、わかった」

「ご理解頂けたようで何よりだ」

「でもなんでそうしたの~?」

「先ほど語った理由ともう一つ、極めて個人的な理由からだな」

「それってなに~?」

「流石に言えんよ。極めて個人的な理由なのだから」

「う~ん、気になる〜」

 なんとか聞き出そうと食い下がる本音さんをどうにか宥めて床につく。本音さんは未だに諦めてはなさそうだったが、こればかりは言えない。「ボーデヴィッヒと組む事が出来ればVT事件(原作イベント)に関われるから」などと。

 

 

 それから3日後、学年別トーナメント開始の前日。世界に激震が走った。

 フランス代表候補生シャルル・デュノアが、所属企業であるデュノア社の社長夫人であり義理の母でもあるエレオノール・デュノアに強制されて男性IS操縦者としてIS学園に転入した『女性』である事と、エレオノールの乱れた私生活と悪事の数々、そしてフランシスがエレオノールを妻に迎える以前に存在した恋人とフランシスの真実の愛が、『どこかの新聞記者』によってすっぱ抜かれたのである。このニュースは瞬く間に世界を駆け巡った。

 この時、フランシスが恋人とその間に生まれた娘に対して行った有形無形の支援がフランシスの愛が本物であると強烈に印象づけ、逆にエレオノールを『フランシスが弱っている所につけ込んで、恋人から全てを奪った最低の悪女』として際立たせた。

 これによりエレオノールのデュノア社内での影響力は完全になくなった。

 さらに、エレオノールと一部の政府高官との黒い交際や多額の脱税、下請け業者への強要や脅迫等、枚挙に暇がない犯罪行為の数々で裁判にかけられ、追徴金や下請け業者への謝罪金という名目で全ての資産を没収された上、累積刑で仮釈放無しの懲役120年の判決を受ける事になった。

 当然、エレオノールに与していた者達も『どこかの調査員』が持ってきた情報により犯罪行為が露見。けして軽くない刑罰を受ける事となった。また、エレオノールから贈賄を受けていた政府高官もあわせて罰せられる事となった。

 フランシスは一連の出来事を「妻を止められなかった自分の責任」として社長職を辞任し、娘であるシャルロット・デュノアを次期社長に指名。同時にシャルロットが学生である事、今現在会社経営のスキルを持っていない事を理由に、しばらくの間社長代行として自分が業務を行う事を決定した。

 この決定は、『事実』を知ったデュノア社社員ほぼ全員に好意的に受け止められた。これにより、デュノア社は名目上ではあるもののシャルロットの物となった。名実共にそうなるのには、今しばらく時間がかかるだろう。

 

 

 こうして、悪女は頂点から転落した。

 私はふとある事に気づいた。

「あれ?ひょっとして一夏とデュノアの混浴イベント潰しちゃってないか?」と。




次回予告

白い剣閃と橙の疾風。
対するは黒い雨と灰銀の狼。
雨は己の内にあるものを未だ知らず……。

次回「転生者の打算的日常」
#22 学年別勝抜戦

君にとって、強さとはなんだ?ボーデヴィッヒ

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