転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#18 露見

「出席番号順に一人づつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンドを百周させるからな!」

 千冬さんの鶴の一声を受け、7つのグループに分かれた一組・二組女子。

「最初からそうしろ。馬鹿者共が」

 ため息を漏らす千冬さん。それにバレないようにしつつ、各班の女子は小声で喋っていた。

「……やったぁ。織斑くんと同じ班っ。名字のおかげねっ……」

 一夏の班になった者は、自分の運の良さを喜び。

「……うー、セシリアかぁ……さっきボロ負けしてたし。はぁ……」

 セシリアの班になった者は、先程無様な負けっぷりを見せた人物が班長という事に落胆し。

「……凰さん、よろしくね。後で織斑くんのお話聞かせてよっ!……」

 鈴の班になった者は、鈴から一夏の話を聞き出そうとし。

「……デュノア君!わからない事があったら何でも聞いてね!ちなみに私はフリーだよ!……」

 デュノアの班になった者は、自分を売り込む事に余念がなく。

「……つくもん、よろしくね〜……」

「……村雲君、お願いだから『あの笑顔』はやめてね?……」

「……君達が私をどう思っているのか良く分かったよ……」

 私の班になった者は、私の笑顔に何故か恐れをなしていた。解せぬ。

「…………………」

 そんな中、一切の会話が無いのがボーデヴィッヒ班だ。

 張り詰めた雰囲気、コミュニケーションを拒むオーラ、他の生徒に対する軽視を込めた冷たい視線と一度も開かない口。

 おしゃべり好きな10代女子も、これだけの鉄壁城塞に対して有効な攻撃手段(話題)など持っている筈もなく、俯き加減で押し黙る以外にないようだ。

 可哀想だとは思うが、私にはどうにも出来そうにない。ボーデヴィッヒ班の班員諸君には、沈黙に耐えて頑張れ。としか言えそうに無かった。

 

「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一機取りに来てください。数は『打鉄』が3機に『リヴァイブ』が3機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」

 山田先生がいつもの5倍はしっかりして見える。先程の模擬戦で自信を取り戻したのかその姿は堂々としたものであり、眼鏡を外すだけで『仕事の出来るオンナ』に見えそうだ。

 が、堂々としているのは態度だけでなく、10代女子にはない豊満な膨らみを惜しげもなく晒している。

 山田先生が時折見せる眼鏡を直す癖。その度にたわわに実った『果実』に肘が当たって重たげに揺れる。う~ん、ダイナマ−−

 

ギュッ!

 

「いったぁ!な、なにをするのだね!?本音さん!」

「つくもん。今、山田先生の胸見てたでしょ〜?」

 私の脇腹をつねり、非難じみた視線を向けてくる本音さん。

「そ、そんな事はないよ?」

「じ〜……」

「……すみませんでした」

「うん、よろしい」

 非難の視線に耐え切れず、謝罪を口にしてしまう。まあ、見ていたのは事実だが。

 と、私達の後ろで二組の女子達がボソボソと喋りだす。

「ねえ、村雲君と布仏さんってさ……」

「うん。そうなのかも……」

 ゲスの勘繰りはやめたまえ。そう思いながら私は『リヴァイブ』を受け取りに行った。

 

 

「さて、始めよう。まずは……」

『各班長は訓練機の装着を手伝ってあげてください。全員にやってもらうので、設定で最適化とパーソナライズは切ってあります。とりあえず午前中は動かすところまでやってくださいね』

 ISの開放回線(オープン・チャネル)で山田先生が連絡してきた。

「だそうだ。では出席番号順にISの装着と起動、歩行まで行おう。一番手は−−」

「あ、私です」

「確かうちのクラスの柏崎由美(かしわざき ゆみ)さんだったね」

「はい、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく−−」

「「「お願いします!」」」

「ん?」

 やけに大きな声に振り返ると、そこではどこかで見た事のある展開になっていた。

 一夏、あるいはデュノアの前で腰を90度に折り、右手をさしだす複数人の女子。これは……。

「ねる○ん紅○団?」

 ポツリと呟く本音さん。いや、なんで知ってるんだ?生まれて間もなかったと思うんだが?とりあえず、班員達に忘れずに釘を刺しておく。

「あー、君達は決して真似をしないように。さもないと……」

「「「さもないと?」」」

 

スパーンッ!

 

「「「いったああっっ!」」」

 炸裂する出席簿と見事なハモリ悲鳴。顔を上げたデュノア班女子はそこでようやく目の前の修羅に気づく。結局デュノア班は千冬さんが直接指導する事になった。

「……ああなる所だったと言っておく。では始めよう。柏崎さん、ISの搭乗経験は?」

「えっと、中学時代の特別授業で何回かだけ……です」

 大半の女子はそんな経験すら無い。それだけISは希少なのだ。

「なら問題はないな。まずは装着と起動まで行おう。時間超過をすれば放課後に居残りだ」

「それは良くないですね。急ぎましょう」

「焦りは失敗を生む。急ぎつつも丁寧に行こう」

「はい」

 というわけで一人目の装着と起動、歩行を問題なく終える。しかし……。

 

「柏崎さん、装着解除時には必ずしゃがんでくれと言わなかったかね?」

「え?あっ!ご、ごめんなさい」

 専用機の装着解除を行う場合は自動的に待機形態になるため関係ないのだが、訓練機の装着解除を行う場合、必ずISをしゃがませる必要がある。

 起立状態で装着解除をすれば、当然ISは起立状態で固定される。これでは、次に乗る人に迷惑がかかるし、なによりISが転倒する危険があるのだ。

 ちらと見れば一夏班でも同じ事態に陥っていた。事態に気付いた山田先生が一夏班に近づいていく。あちらは山田先生が何とかするだろう。

「いや、直前に警告しなかった私にも非はある。しかし、どうしたものか……いや待てよ」

 原作で一夏に山田先生が提案していた方法を使えばいいのだ。私は『フェンリル』を展開する。

「谷本さん、こちらへ」

 我が班の二番手、谷本さんに右手をさしだす。谷本さんが困惑しながら訊いてくる。

「え?ど、どうするの?」

「決まっている。コックピットの位置が高いなら、そこまで私が連れていけばいい」

「あの……どうやって?」

「横抱き以外に方法はないな。早くしてくれたまえ、時間が押している」

 実際、現時点で二人目が終わっていないのは私の班と一夏の班だ。ちなみにボーデヴィッヒ班だが、ようやく一人目が起動を終えた所だ。見かねた千冬さんが山田先生をボーデヴィッヒ班のサポートに回した。

「う、うん。それじゃあ失礼します……」

 おずおずと私の手を取る谷本さん。それを確認して一息に抱き抱える。

「きゃあっ!?」

「おっと失礼。変な所でも触ったかね?」

「ううん、大丈夫」

「よし、では行くぞ。落ちないようにしっかり掴まってくれ」

「う、うん」

 谷本さんが私の腕に掴まるのを確認し、1mほどゆっくりと上昇する。

 大した高さではないように思えるが、展開状態のISを装着する場合には背を預けるようにして乗るため、この高さでも落ちれば危険なのだ。

「では、背からゆっくりと乗り込んで。ああ、そちらの装甲に手をかけた方が格段に乗りやすくなるな。分かるかね?」

「だ、大丈夫」

 まだ体を離していないため密着状態での会話だ。男に体を触られているのが気になるのか、谷本さんはどこか落ち着きがなく、しきりに視線をさまよわせている。

「では離すぞ。いいかね?」

「え?あ、うん」

 谷本さんから体を離し、地面に降りる。どうやらうまく乗り込めたようだ。

 と、一夏班の周囲から声が上がる。やれ「何してるのよ!」だの「私もされたい!」だの「この名字にしたご先祖様を末代まで恨むわ!」だのと騒ぎ立てる。最後の女子は先祖を敬う気持ちを持とうか。

「やれやれ、えらい騒ぎだな。では谷本さん、起動を開始したまえ」

「う、うん」

 私に促され、谷本さんが起動シークエンスを開始。開いていた装甲が閉じ操縦者をロック、静かに起動音を響かせ『ラファール』が姿勢を直した。

「うむ。ここまではいいな。では次に−−」

 

 一通りの起動と歩行訓練を終え、装着解除という所で事件は起きた。

「……谷本さん?」

「ごめん、村雲君。他の子の視線が強制力を持ってて……」

 なんと谷本さんは、ISを起立状態で装着解除したのだ。他の子とは同じ班の女子の事。その視線は『自分だけいい目見る気かコラ』と言っている。これは怖い。

 ちなみに一夏班を羨ましそうに眺めていた女子達は、千冬さんのきつい仕打ち(グラウンドを20周)を受けるハメになった。

「はあ……仕方ないか。次は誰かね?」

「わたしだよ〜」

 手を上げたのは本音さんだ。どこか嬉しそうな顔をしている。

「了解した。では始めよう」

「うん。よろしくね〜」

 私の差し出した手を取り、笑みを浮かべる本音さん。

「では、抱えるぞ。しっかり掴まってくれるかね?」

「は~い」

 本音さんを抱きかかえると、本音さんは私の腕に掴まった。のだが……。

「あー、本音さん?当たってるんだが……」

「当ててるんだよ〜」

 本音さんのその見た目の幼さからは想像が付かない程大きな『水風船』が、私の腕に思い切り当たっている。しかも本人の弁を信じるならわざと当てているのだ。

 おかしい。この娘はこんなにあざとかっただろうか?これも原作乖離の一環か?

「どうしたの~?つくもん」

「いや、なんでもない。では行くぞ」

 コックピットに近づき、本音さんを乗り込みやすい位置へ。

「では離すぞ。いいかね?」

「もうちょっと~」

「馬鹿言ってないで早くしたまえ。居残りしたいのかね?」

「う~、わかった~」

 本音さんは私から体を離し、『ラファール』に乗りこんだ。ここまではいいな。

「では、起動と歩行までやったら交代だ」

「わかった~。あ、つくもん、お昼いっしょに食べよ〜?」

「ああ、構わんよ」

 正直、本音さんの提案は有難かった。もしこの提案が無ければ、おそらく一夏が昼食に誘ってくる。そこでセシリアのサンドイッチ(劇毒物)を食べる破目になりかねないからだ。

 まさに渡りに船。一夏には悪いが、原作乖離を少しでも抑える為に利用させてもらおう。

「終わったよ~つくもん」

「よし、では交代だ。今度こそしゃがんで降りるように」

「つくもん、後ろを見てそれでも同じこといえる〜?」

 言われて後ろを見ると「次は私だよね?」という期待混じりの視線。残り時間はぎりぎり。仕方ない、ここは一つ誠意を持った話し合いと行こう。

「諸君」

「「「はい!なんでしょう!?」」」

「これ以上の遅滞は許されない。だから、ここは堪えてくれんかね?(ニッコリ)」

「「「アッ、ハイ。ワカリマシタ(プルプル)」」」

 私のお願いを快く承諾してくれた残りの班員。これも人徳か。

「いや、だからその笑顔怖いんだって」

 谷本さんがボソリと呟いた。何故だ?

 

「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」

 なんとか時間内に全員起動訓練を終えた私達一組・二組合同班は格納庫にISを移して再びグラウンドへ移動。

 本当に時間いっぱいだったため全員が全力疾走。ここで遅れる事があれば、かの鬼教官に何を言われるか分からないからだ。

 そういう訳で肩で息をする私達に、千冬さんは連絡事項のみを伝えて山田先生と共に引き上げていった。

「あー……。あんなに重いとは」

「カートに動力がついていないとはな。ハイテクなのかアナログなのか……」

 二人して溜息をつく。訓練機は運搬専用のカートで運ぶのだが、そのカートには動力が無い。強いて言えば動力源は『人間』という事になる。

 私の班は私の『誠意あるお願い』によって班員全員で運んだため苦労は無かったが、一夏の班は一夏が一人で運んでいた。

 これも女尊男卑の弊害と言う奴か。表には出さずとも、根強く残っているらしいな。

 なお、デュノア班は「デュノア君にそんなことさせられない!」と、数人の体育会系女子が訓練機を運んでいた。一夏と扱いに差があり過ぎないか?

「まあいいや。九十九、シャルル、着替えに行こうぜ」

「そうだな。私達はまたアリーナの更衣室に着替えに行く必要があるからな」

「え、ええっと……僕はちょっと機体を微調整してから行くから、先に行って着替えててよ。時間がかかるかもしれないから、待ってなくていいからね」

「だそうだ。行くぞ一夏」

「いや、別に待ってても平気だぞ?俺は待つのには慣れ「いいから」アッ、ハイ」

 私の気迫にカクカクと頷く一夏。後ろでデュノアがホッとしている様子を見せた。

「では、また後でなデュノア。ほら、行くぞ一夏」

「お、おい押すなって九十九!」

「う、うん。また後で」

 一夏の背を押しつつ更衣室へ。デュノアは私達のいなくなったタイミングで着替えを始めるだろう。女が軽々しく男に肌を見せるわけにもイカンだろうしな。

「あ、そうだ九十九。一緒に昼飯食わないか?」

「すまんが先約がある。また次にしろ」

「そうか、分かった。じゃ、後でな」

 着替えを終え、タオルで頭を拭きながら一夏は更衣室を出て行った。

「あの阿呆め。授業開始前の私のアドバイスをもう忘れたのか」

 着替えの際、一夏はISスーツを脱いだのだ。私はため息をひとつつくと、ISスーツの上から制服を着て更衣室を出た。

 

 

 午後の授業『IS整備実習』開始前に、私は千冬さんから質問を受けた。

「村雲、織斑はどうした?」

 そう、授業が始まるというのに一夏が格納庫にいないのだ。なぜなら……。

「一夏なら、私が保健室へ連れて行きました。今頃はベッドの上かと」

「それは何故だ?」

「激しい腹痛に襲われていたようです。本人によると、昼食時に食べた物が原因だとか」

「一体何を食べたんでしょうか……?」

 山田先生が心配そうに呟く。組んだ手で胸が潰れてエロい……もとい、エライ事になっている。女生徒の嫉妬と羨望の目がそこに向いていた。先生は気づいてないようだったが。

「これも本人によると、昼食時に食べた物は箒の唐揚げ弁当、鈴の酢豚、それから……」

「「それから?なんだ(ですか)?」」

「セシリアのサンドイッチ」

 

ババッ!

 

 鈴と一組女子の視線がある一点に集中する。二組女子もそれに倣って一組女子の向いている方を見る。そこにいたのは急に注目を浴びた事に驚くセシリアだった。

「な、何ですの!?」

 そう、一組女子は知っている。セシリアの料理の腕が壊滅的である事を。私の身に何日か前に起きた事をありのまま話そう。

 『家庭科の調理実習でセシリアが作った料理を食べ、ふと気付いた時には夕方だった』

 ……何を言っているかわからないと思うが、私も何が起きたのかわからなかった。頭がどうにかなりそうだった。『料理ベタ』とか『メシマズ』なんてチャチなものでは断じて無い、もっと恐ろしい何かの片鱗を味わった気分になった。

「セシリアぇ……」

「なんてひどい……」

「織斑君大丈夫かな……」

「そんなになんだ……」

「皆さんヒドイですわ!」

 セシリアの叫びが格納庫に響き渡る。この後一夏の班は千冬さんの鶴の一声により、セシリアに見てもらいつつ訓練機の整備実習を行った。

 自分の専用機と訓練機二機の整備をする事になったセシリアは「理不尽ですわ!」と涙目になりながらも、何とか時間内に整備実習を終えた。

 ちなみに一夏だが、寮の夕食時間にようやく復帰。しかし、未だ胃が受け付けないのか玉子雑炊だけを食べて早々に部屋へと帰っていった。そんなにダメージでかかったのか……。

 セシリアの『メシマズ』は翌日には学年全体に知れ渡り、『マズメシリア』という本人にとってはかなり不本意なあだ名がつく事になった。

 

 この一件でセシリアの最大の弱点が露見した。

 私は「余計な事言ったかな?」と、若干後悔した。

 

 

 それから3日後、私の手元に一冊の資料と一枚のDVD、一通の手紙が届いた。差出人の名は「烏丸夢路(からすま ゆめじ)」ムニンの偽名だ。

 資料の表題は『フランシス・デュノア、並びにデュノア社に関する最深度調査報告書』

 流石はフギンとムニン、仕事が早い。私は早速資料に目を通した。

 DVDの方はついてきた手紙に『シャルロット・デュノアにのみ閲覧させる事』と書いてあったため、確認はしなかった。

「……なるほど、やはりそうだったか。真の黒幕は……」 

 これで全て整った。後は一夏がやらかすのを待つだけだ。




次回予告

それは、知りたくないものかもしれない。
だが、知らなければいけない事かもしれない。
事実を繋いだその先に、それがあるのならば。

次回「転生者の打算的日常」
#19 真実

君に、全てを知る覚悟はあるか?

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