転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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本編に行き詰まってしまいました。
気分転換に書いたネタなので、脈絡がないのはご勘弁を。


#EX 村雲九十九の受難1 村雲九十九と不思議な薬

「……出来ちゃいました……」

「……出来ちゃったかぁ……」

 ラグナロク・コーポレーション地下一階、IS開発部門中央ロビーの一角。そこで一組の男女が膝を突き合わせ、揃って意外そうな顔をしていた。

 男性の名は仁籐藍作(にとう あいさく)。ラグナロク・コーポレーション社長である。

 女性の名は奥田愛美(おくだ まなみ)。最近新設された医学・薬学部門の研究員として入社したばかりのルーキーだ。

 その二人の目の前には液体の入ったペットボトル。だが、二人がこれを見て揃って妙な顔をしているという時点で、この液体が只の液体ではない事は明々白々だった。

「一週間前、急に降りてきたアイデアを深夜テンションそのままで作ったら……」

「ものの見事に完成。マウス実験も成功済み……か。とは言え、こんな物を世に出せば混乱間違い無しだな。少し勿体無いけど、これは廃棄して……」

 

バタンッ!

 

「はあっ……はあっ……はあっ……」

 廃棄してしまおう、と言おうとした藍作の言葉を遮って、九十九が大きな音を立ててロビーに飛び込んできた。その額には大粒の汗が浮かんでいて、息も絶え絶えだ。

「つ、九十九くん?一体どうした、そんなに汗だくになって」

「ル、ルイズさんの癇癪に巻き込まれまして、今ようやく逃げおおせた所です」

「そ、それは災難だったね……」

 そう言いながら藍作の座るテーブルの空いた椅子に座り、テーブルにグッタリと突っ伏す九十九。その目に、液体の入ったペットボトルが入った。

「すみません、卑しい事を言うようですが、これ貰って良いですか?もう喉がカラカラで」

「え?」

 言うが早いか、九十九はペットボトルを手に取ると、蓋を開けて中に入った液体を一息に飲み干した。

「「ああーーっ!!」」

「え?」

「つ、九十九くん、それ……飲んじゃったのかい!?」

「え、何かまずかっ……うっ、ぐ!?何だ……これ?身体が……熱い!?……ぐ、ああああああ!!」

 何かに悶え苦しむかのような九十九の叫びが、ロビーに響いた。

 

「で?どういう事か説明して頂けますよね?」

「あ、ああ。実は君が飲んだのは−−−」

 

 −−社長説明中−−

 

「という訳なんだよ」

「……効果期間は?」

「およそ一週間……です」

「解毒剤、もしくは中和剤の開発は?」

「出来ません。私自身、この薬を一体どうやって作ったのか憶えていませんし、中和剤の開発をしたくても対象の薬は……」

「全て私の腹の中……か」

 九十九は一つ大きな溜息をつくと、諦めたかのような表情で席を立った。

「やむを得ません。学園に事情を話して、しばらくこのままで登校出来るように手配して貰います」

「ご、ごめんなさい!村雲さん!」

 九十九に頭を下げる愛美を九十九は手で制した。

「いえ、これは中身が何かを確かめもせずに飲んだ私のミスです。奥田さんが謝る必要はありません」

「でも……」

「いいんです。私の消したい記憶(黒歴史)に、新たな1ページが増えるというだけですから。ははは……はぁ」

 肩を落として歩く九十九の背中は、それはもう煤けていた。

 

 

 翌日、IS学園一年一組教室。生徒達が目を向ける教壇には、見知らぬ少女が制服を着て立っていた。その少女の事を、真耶が何やら言いづらそうな顔で紹介した。

「えっと……という訳でして、村雲くんはしばらく『村雲さん』として登校する事になりました」

「皆混乱しているかも知れないが、正直私が一番混乱している。しかし、学業の遅れはここでは致命的だ。よって、やむを得ない事態として学園から了承を得た。約一週間、このままでよろしく頼む」

「「「ええーーっ(なにーーっ)!?」」」

 真耶が九十九を紹介し、九十九が挨拶をした瞬間、教室は爆発した。

「え、うそ!?あれ、ほんとに村雲くん!?」

「村雲くんがもしも女の子だったらこうなってたって事!?」

「くっ、この強烈な敗北感はなに?」

「……お姉様と呼びたい……」

 などと口々に言う一年一組女子一同。その一方で、一夏は口を開けてポカンとしている。

「どうした、一夏。いつもの間抜け面が一層間抜けて見えるぞ?」

「お、お前、九十九……なんだよな?」

「ああ。お前の目の前にいる『女の子』は、間違いなくお前の知る村雲九十九だよ。何ならお前の子供時代の恥ずかしい失敗談でも語ってみせようか?そうすれば信じられるか?」

「いや、いい!信じる!」

 そう言って勢いよく頭を振る一夏。九十九はそれに「そうか」と言って微笑んだ。一夏はその笑みに胸が高鳴ってしまい、心の中で『あいつは男、あいつは男』と呟くのだった。

「つくもん、すっごいキレイだよ〜」

「うん、八雲さんにそっくり」

 そう声をかけたのは、九十九の最も大切な二人。シャルロットと本音だ。

 実際、今の九十九は九十九の母、八雲の若い頃(今も十分若いが)に瓜二つだといえる。

 腰まで伸びた黒髪は太陽の光を受けて輝いている。切れ長の大きな目は凛とした雰囲気を与え、鼻筋はすっと通っている。唇はふっくらと厚く上品な色気があり、その顔は総じて『男受けする顔』と言えた。

 出ている所はしっかりと出て、引っ込んでいる所は思い切り引っ込んだプロポーションは、女から見ても羨ましい限りだ。

 が、生来男である九十九にとって「綺麗」だの「お母さんにそっくり」だのと言われても嬉しいものでは無いようで−−

「あ、ああ。ありがとう」

 と、曖昧な表情で礼を言うのが精一杯だった。

「お前達、村雲に聞きたい事は多いだろうが後にしろ。授業を開始する」

 千冬がパンパンと手を叩き、授業開始を告げた事でその場は一旦の終結を見たが、授業が終われば質問責めは免れ得ないだろう。この後の事を思い、九十九は深い、それは深い溜息をついた。

 

 

 昼休憩に入ると同時、鈴が一組の教室に飛び込んできた。

「一夏!食堂に……えっ!?八雲さん!?なんでここに!?」

「鈴、落ち着いて聞けよ?……こいつは九十九だ」

「……はあ?あんた何言ってんのよ?どっからどう見ても八雲さんじゃない。てか、九十九はどうしたのよ?休み?」

「鈴。気持ちは分かるが……」

「この方は間違い無く九十九さんですわ」

「シャルロットと本音が腕にくっついているのが何よりの証拠になると思うが?」

 箒、セシリア、ラウラからそう言われた鈴は、改めて自分が『八雲』だと思った少女に目を向ける。

 その少女の両腕にはシャルロットと本音が組み付いて幸せそうな笑みを浮かべていた。相手が八雲なら、二人はここまでの笑みを浮かべるだろうか?いや、無い。間違いなく、無い。つまり、目の前にいる少女は−−

「……ほんとに九十九?」

「ああ。間違いなくお前の知る村雲九十九だ。証拠が必要だと言うなら、お前が中学時代に書いた『誰かさん』宛のラブレターの内容を事細かに語って見せようか?」

「だーっ!分かった、分かったから止めて!……こいつ、間違いなく九十九だわ」

 八雲ならこういう物言いをしない事は、鈴自身が良く知っている。例え姿形が変わっても九十九は九十九だと知った鈴は、深い溜息をつくのだった。

 

 所変わって、学生食堂。

「で?結局、何であんたそんなことになってんのよ?」

「ああ、それなんだが……」

 

 −−九十九説明中−−

 

「という訳で、飲んだそれがよりにもよって『性転換薬』だった。という、なんとも笑えないオチだよ」

「それはまた……」

「なんと言っていいか……」

「災難でしたわね、九十九さん」

「いや、むしろ一時的にとは言え、性別を逆転させる薬を作ったその科学者がとんでもないと思うんだが……?」

「完全に漫画の世界……」

 九十九の説明に揃って微妙な顔をする一夏ラヴァーズ。

 いくら妙なテンションになっていたとはいえ、人体を遺伝子レベルで作り変える飲み薬をあっさり完成させたラグナロクの科学者マジヤバイ。というのが全員の共通見解だった。

「おかげで色々大変だ。着替える時や用を足す時もそうだが、特に風呂がな……」

「どういうことだよ、九十九」

 一夏の質問に九十九は溜息をついて口を開く。

「いくら自分の体とはいえ、女性の裸体だぞ?気恥ずかしくなって当然だ」

 精神は男のままなんだからな。と九十九が言うと、一夏は「あー……」とバツの悪そうな顔をした。

 ちなみに、昨日は八雲と一緒に風呂に入り全身隅から隅まで洗われている。九十九は後にこの事で八雲に散々からかわれ、その度に羞恥に身悶えする事になるのだが、今はそれを知る由もない。

「じゃあ、あんたどうすんのよ?自分の裸を自分で見られないとか、お風呂入れなくない?」

「あ、それは大丈夫」

「織斑先生がね~、「お前達が面倒を見てやれ」って〜、元に戻るまで一緒に暮らして良いって言ってくれたんだ〜」

「まあ、それなら大丈夫そうね。なんかあったら言いなさい。助けになったげるから」

「私もだ。幼なじみが困っていると知って、知らんぷりなどできん」

「ああ、ありがとう。箒、鈴」

「お、俺も!俺も手伝うぜ!」

「「「いや、お前(あんた)は手伝わなくていい」」」

「なんでだよ!?」

 学生食堂に、一夏の憤懣遣る方無いと言わんばかりの叫びが響いた。

 

 

「話は聞いたわ、九十九くん!あなた、女の子になっちゃったんですってね!」

 放課後、生徒会室にやって来た九十九達を出迎えたのは、やけにテンションの高い楯無だった。

(よりによって一番知られたくない人に知られている!?IS学園の女子ネットワークを甘く見すぎていたか!)

「最初聞いたときは『まさか』って思ったけど、本当なのね。それも結構な美人じゃない。これは期待が持てるわねぇ」

 愕然とする九十九を他所に、楯無はスルリと九十九に近づくと、その手を取って実に『イイ』笑顔を浮かべた。

「こういった性別逆転(TS)物のお約束と言えば?はい、本音ちゃん!」

「え?えっと~……性別逆転した人の周りが大混乱する?」

「正解!他には?はい、シャルロットちゃん!」

「え、あ、はい!そ、そうですね……。性別逆転した人が普段と違う生活に四苦八苦?」

「それも正解!でもね、二人とも。もう一つ、大事な事を忘れてるわ。それは……」

「「それは?」」

 二人が首を傾げて質問を返すと、楯無は生徒会室の隅にいつの間にか置かれていたハンガーラックを引っ張ってきた。上から中が見えないように白い大きな布が被さっていて、そこに何があるのかはわからない。

「それは!『周りの理解ある人が性別逆転した人を着せ替え人形にする』よ!」

 楯無がバサリと布を取ると、ハンガーラックに掛かっている物が姿を現す。それは、何着ものコスプレ衣装だった。

「あ、私用事を思い出しましたので、今日はこれで」

 

ガシッ!

 

 咄嗟に逃げようとした九十九だったが、楯無に肩を掴まれてその動きを止められてしまう。

「ふふふ、知ってた?生徒会長(大魔王)からは逃げられないのよ」

「ま、待ってください楯無さん!女子制服を着ているというだけで結構いっぱいいっぱいなのに、その上そんな物を着せられては私のライフが……!そ、そうだ!シャル、本音!助けて−−」

 シャルロットと本音に助けを求めた九十九だったが、その目に映ったのはハンガーラックの前でキャイキャイとはしゃぐ二人の姿だった。

「これなんか似合いそうじゃない?」

「え~?こっちがいいよ~」

「って、品定めしてる!まさかの裏切り!?」

「どうやら二人はこっち側みたいね。さあ、覚悟はいいかしら?」

 もはや逃げ場は無いと悟った九十九は、諦念の篭った声で「好きにしてください」とだけ言って、抵抗をやめるのだった。

 

 その後、九十九は生徒会メンバーに3時間以上に渡って着せ替え人形にされ、大量の写真を撮られた。

 メイド服やどこかの喫茶店のユニフォームといった定番の物から、体操服、スクール水着、巫女服やバニーガールといったマニアックな物まで、着せられた衣装は実に様々だ。

 特に『しっくり来る』と言われたのが、どこかの『人間扱いされない人間に落とされた元皇女』が皇女時代に来ていたドレスと、どこかの『里長の嫁の内気な巨乳くノ一』の忍び装束、そしてどこかの『脱ぎ癖のあるスピード狂な黒い魔法少女』のコスチュームの三つだった。

 何故かと九十九が訊いてみると、「何か声が似てるから」と返されたが、九十九にはいまいちピンとこないのだった。

 

「つ、疲れた……」

 部屋に帰るなり、九十九はバッタリとベッドに倒れた。その後ろにはホクホク顔の本音とシャルロットがいた。

「あ~、楽しかった〜」

「うん。いい思い出になったよ」

「私にとっては黒歴史になったがな」

 ベッドに突っ伏したまま、二人に向けて怨嗟の視線を向ける九十九だったが、二人は携帯で撮った九十九のコスプレ写真を見ながら「わたしはこれが一番よく撮れてると思うんだ〜」「僕はこれかな、ほら」「お〜、これもいいね〜」とお互いの写真を寸評し合っていて全く気づいていない。

「はぁ……」

 そんな二人に呆れながら寝返りを打った九十九は、度重なる着替えと撮影で汗をかいていたのを思い出した。

「風呂入りたいな……」

 ポツリと漏らしたその一言は、シャルロットと本音の耳に届いた。

「お風呂に入りたいの?じゃあ、約束だし、手伝ってあげるね」

「という訳で、大浴場にれっつご〜!」

「え?いや、別に部屋のシャワーで十分−−」

 

グッ!グッ!

 

「「れっつご〜!」」

「いや、だからちょっとま……ああーー……」

 普段からは考えられない力で九十九の腕を掴み、大浴場へと引き摺って行くシャルロットと本音。

 元の体と作りが違うせいか、本来の力が発揮出来ない九十九は、そのまま大浴場まで連れて行かれるのだった。

 

 −−入浴シーンは音声だけでお楽しみください−−

 

「つくもん、きれ〜」

「あ、あまりジロジロ見ないでくれ。恥ずかしい……」

「九十九、こっち来て座って」

「あ、ああ。それじゃあ、よろしく頼む」

「うん。任せて」

「しつれ〜しま~す。わ~。つくもん、お肌スベスベ〜」

「ふわっ!?ほ、本音!擽ったいって!というか、何で素手で体を洗うんだ!?」

「これが一番お肌にいいんだよ〜。えい、うりうり〜」

「ひゃっ!ちょ、んっ!」

「じゃあ、僕は前を失礼するね。うわ、このサイズで重力に逆らうんだ。凄いなー」

「ひうっ!シャ、シャル!触り方が何か卑猥だぞ!ちょ、コラ揉むな!」

「柔らかいけど奥の方に芯がある……まだ育つの!?これ!」

「痛っ!シャル、もう止め……あんっ!」

「腰ほそ〜い、脚ほそ〜い、おしり小さ〜い。いいな〜、うらやましいな~」

「ほ、本音!それ以上は!って、うわっ!?」

 

ドタンッ!

 

「痛たたた……」

「「えっ!?薄っ!」」

「どこ見て言った!?(バッ!)」

「いいな〜。わたし少し濃い目だから、お手入れが欠かせなくて〜」

「それ分かる。しかも、ちょっとでも怠けると、伸びかけのがチクチクして痛痒いんだよね」

「やめて!(少なくとも精神は)男の前でそういう生々しい話しないで!」

「あ、ごめんね九十九。じゃあ、続けるよ?」

「い、いや、いい!もう十分綺麗になったから!」

「だーめ。まだ洗い残しがあるでしょ?こことか、そことか」

「よいではないか〜、よいではないか〜」

「あ、ちょ、ま、い……いやあああっ!」

 10分後……。

「はあ……はあ……(グッタリ)」

「うん……やり過ぎちゃった……」

「だね~……」

「そう思うなら……もっと早く……止めて欲しかったよ……」

 

 −−以上、入浴シーンでした−−

 

「疲れを癒やすはずの風呂場で、なぜ更に疲れねばならんのだ……」

「ご、ごめんね九十九。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった」

「反省はしてる〜。でも後悔はしてない(キリッ)」

「はぁ……もういい。寝る」

 何を言っても無駄だと思った九十九は、そのまま布団を被って寝る態勢に入る。

「え?九十九、ご飯は?」

「いい。食欲が湧かない……。というか、疲れ過ぎて……もう……眠い……すぅ……」

 言っている間に九十九の意識は沈んでいき、すぐに寝息を立て始める。しかし数十秒後。

「……ぷはあっ!」

「「ひゃっ!?」」

 突然飛び起き、荒い息をする九十九。何事かと思って二人が近づくと、九十九は本音に目を向けてこう言った。

「本音、君が普段うつ伏せで寝る理由が理解出来たよ」

「ほえ?……あ、あ~……」

 九十九が何を言いたいのか理解した本音は、そこを理解されてもな~、と言いたげな微妙な顔をしたのだった。

 こうして、九十九の性別逆転生活一日目は終了した。

 

 

 残りの日々を一から十まで書くと途轍もなく長大になってしまう為、ここからはダイジェストでお送りする事を許して欲しい。

 

 二日目・朝

「あ、九十九。おはよう」

「ん?鈴か、おはよう」

 寮の廊下で鈴に声を掛けられて振り返った九十九。その瞬間、九十九の『大口径グレネード』が不自然な揺れ方をしたのに鈴は気づいた。

「ねえ、九十九。あんた……ブラは?着けてないの?」

「一度着けてみたんだが、胸が締め付けられて苦しいわ、精神は男だから妙な罪悪感が湧くわでな。外した」

「あんたねえっ!いくら少ないっつっても、男の目があんだから少しは気にしなさいよ!ほら来なさい!あたしの貸したげ……ごめん、何でもない」

「最後まで言ってくれ。ツッコみ辛いから」

 結局この日から、『元に戻るまでの間だ』と、九十九は息苦しさと妙な罪悪感に耐えながらブラを身に着けたのだった。

 

 三日目・合同授業の時間

 この日の第一アリーナは、一部が血の海になっていた。その理由は−−

「あ、あまり見ないでくれないか……?」

 ()()()()ISスーツを纏い、突き刺さる視線に身をよじる九十九を見た一部の女子が、鼻から『情熱』を吹き出して倒れたからだ。

「九十九ちゃんの体つきがエロすぎて生きてるのが辛い……」

「お尻が小さくてプクッとボインとか……どこのキューティーなハニーよ!」

「腰も脚もすっごい細い!何食べて何したらあんな風になるの!?」

「谷間深い!それも寄せて上げた『Y』じゃなくて自然に出来た『I』!」

「「「いいな〜。凄いな~。羨ましいな~」」」

 『情熱』を吹いて倒れた者達以外の女子達も、口々に九十九の事を褒めながら九十九ににじり寄る。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。何故皆近寄ってくる?」

「「「よいではないか〜、よいではないか〜」」」

「またこの展開!?ちょ、待って……あ、い、いやあああっ!」

 この5分後、千冬がやってきた事で騒動は収まったが、九十九はいじり倒された事で体力と精神力を大きく損耗。

 授業を受けられる精神状態ではないと判断した千冬によって、保健室に放り込まれるのだった。

 

 四日目・昼休憩

「あれ?九十九、お前今日の昼それだけか?」

「ああ。この体になってから、どうも食が細くてな」

 そう言う九十九が手にするトレイに乗っているのは『日替りパスタ(並盛)』とアイスティーだけだった。

「それで足りるのか?」

「心配はいらない。一応満腹になる。ただ、燃費の悪さは男の体の時と同じでな……」

 同日・五時限目終了後

「はい、つくもん。これどうぞ~」

「九十九、これ食べて」

「九十九ちゃん、これも良かったら」

「こうして、休み時間に皆から菓子を貰って何とかやり過ごしてる(モグモグ)」

「……大変だな」

 九十九の机の上に山積みになった菓子を見た一夏に言えたのは、その一言だけだった。

 

 五日目・放課後

「くっ……駄目だ。ギリギリ届かない」

「……何してるの?村雲さん」

「ん?ああ、簪さんか。なに、自販機の下に硬貨を落としてしまってな。取ろうとしているんだが……」

 そう言って、九十九は自販機の前に伏せるように屈み込み、その奥にあるだろう硬貨を取ろうと必死に手を伸ばすのだが−−

「ん、んんっ……ぷはっ。やはり駄目だ。何かに邪魔をされているかのように、あと少しの所で手が届かない」

 溜息をつきながら立ち上がった九十九。すると、その勢いで九十九の『メロン』が大きく弾んだ。

「原因はそれだと思う(ボソッ)」

「ん?何か言ったかね?」

「ううん。なんでもない」

 結局この後、九十九が落とした硬貨は簪によってあっさり取り出された。

 簪は九十九の礼の言葉を聞きながら、本来男である九十九に『サイズ』で負けた事に納得行かない思いを抱えるのだった。

 

 六日目・休日の市街地

 折角の週末だから、とシャルと本音に誘われて三人で町に繰り出した九十九だったが、その機嫌は現在最底辺だ。というのも−−

「ねえ、彼女達ぃ。今ヒマ?」

「俺たちと遊ばなーい?」

「いいとこ知ってるからさぁ。ほら行こうよ」

「いえ、あの……」

「遠慮します~」

「そんな事言わないでさ~」

 さっきからやたらとしつこいナンパ野郎共に付き纏われ、おまけに自分の目の前で恋人を口説き落とそうとしているのを延々見せられ続けているからだ。

 もういい加減我慢の限界だった九十九が一歩前に出てナンパ野郎共に対して口を開く。

「なあ、あんた達。この二人はそう言うのに疎いんだ。ここは私と遊ばないか?」

「「九十九(つくもん)!?」」

「お、話せるねぇお嬢ちゃん。で?お兄さんたちと何して遊ぼうか?」

「そうだな……」

 思案顔を浮かべて、九十九が更に一歩前に進む。ナンパ野郎との距離は50cmも無い。と、次の瞬間、九十九の右脚がブレた。

 

ズンッ!

 

「お……おごあああっ!?」

 ナンパ野郎が上げた絶叫に、何事かと他のメンバーが注目した。そこには、九十九に股間を蹴り上げられ、大量の脂汗を流すナンパ野郎の姿があった。

「『玉蹴り』……なんてどうだ?幸い、あんた達『玉』は沢山持ってるみたいだし」

「て、てめぇ……人が下手に出てりゃあいい気に……「黙れ(ズンッ!)」はおうっ!?」

「まったく……鬱陶しいんだよ、群れて囲まないと女一人口説く事も出来ない腐れ(ピーッ)共が。今、私は自分でも引く程虫の居所が悪い。この苛立ちをあんた達で解消させろ。拒否は受け付けん」

「こ、このアマぁ!」

「ふっ……」

 自分に向かってくる男達に、九十九は嗜虐と喜悦の混ざったイイ笑顔を浮かべた。

 

 15分後−−

「あー、スッキリした。遊んでくれてありがとうな、お兄さん達。行こうか、シャル、本音」

「「う、うん……(いいのかなぁ?)」」

「「「あ……あ、あああ……」」」

 晴れやかな顔の九十九と困惑顔のシャルと本音。その後ろには、股間を押さえて悶絶する男達の呻き声だけが残った。

 その後、この男達は深刻な女性恐怖症に陥り、「外には女がいるから」と家から出る事すら無くなったのだが、九十九がそれを知る事はついぞ無かった。

 

 そして七日目、遂に男に戻る時が来る……筈だったのだが。

「どういう事だ奥田さん!?何故元に戻らない!?」

 そう。どういう訳か、薬効が切れる時間が来ても九十九の体は元に戻っていないのだ。

「そ、それが……」

「それが?何です?」

 なおも言い募る九十九に、愛美はとても言いにくそうな顔で九十九に告げた。

「村雲さんの体が、この一週間の間薬の効果に晒され続けたせいで、今の姿を『これが自分だ』として適応したみたいで」

「えっと……つまり?」

「つまり、村雲さんは女性の体が『当たり前』になったという事です」

「と……言う事は?」

 青褪めた顔の九十九に、それでも愛美は残酷な真実を告げた。

「村雲さんは、もう男に戻る事はありません。……一生」

「そ……」

 

 

 

ガバアッ!

 

「そんな馬鹿なあああっ‼」

 

「「ひゃあっ!」」

 叫びながら飛び起きた私に驚くシャルと本音。

「ど、どうしたの九十九?」

「悪い夢でも見た〜?」

「夢……?そうか、夢か。良かった……」

 大きく安堵の溜息をつく私を、シャルと本音が不思議そうな顔で見つめるのだった。

 

 翌日、ラグナロク・コーポレーションにて。

「あ、いたいた。おーい、九十九くん」

「あ、社長。おはようござい……その人は?」

 社長に呼ばれて振り返った私の目に映ったのは、社長とその隣に立つ小柄な女性の姿だった。

 黒髪を緩めの三つ編みに纏め、縁の無い細めの丸眼鏡をかけ、白衣を着た20代前半の地味目の女性だ。だが、私はその顔に見覚えがあった。具体的に言うと、昨日の夜見たあの夢の中に出てきた女性だ。

「ああ。紹介しよう。彼女は新設した医学・薬学部門に配属予定の新人で……」

「お、奥田愛美と申します!よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げる奥田さんに、私は曖昧な表情で「え、ええ。こちらこそ」と頭を下げた。

「あの……奥田さん、貴方に一つお願いが」

「は、はい?」

 私は困惑する奥田さんの肩を掴むと、真剣な顔で言った。

「くれぐれも……いいですか?くれぐれも、急に降りてきたアイデアを深夜テンションで実現しようとしないでくださいね。ね?」

「は、はい!……はい?」

 勢いに負けたのか、咄嗟に返事をした後に『?』を浮かべる奥田さん。あの夢が正夢になるのだけは絶対に阻止せねば!




気分転換と言っておきながらこの文章量……。
きちんと本編も書き進めていますので、暫しお待ちを。

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