転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#EX IS学園生徒会役員共 沖縄旅行編(後)

 沖縄旅行2日目。ホテルで朝食(バイキング形式)を取った後、那覇空港から新石垣島空港まで飛行機で約1時間のフライトを経て、私達は石垣島にやって来ていた。

「うわ、那覇も暑かったけどこっちはもっと暑いね」

「沖縄本島から南西に約400km離れているからな。気温も上がるだろう」

 ただ羨ましい事に周りが海のため常に風が吹き、東京・大阪のような大都市が無いためヒートアイランド現象が起きず、結果として夏の平均気温が都市部より低くなるので、比較的過ごしやすい暑さだったりする。

「ダイビングの時間までもう少しある。軽く観光してまわろうか」

「「うん」」

 そう言って、タクシーを拾おうと正面入口から出た瞬間。

「「「あ」」」

 外に出て2秒で藍越学園生徒会役員共に遭遇。またしても微妙な空気が互いの間に流れた。

 

「なるほど、ダイビングショップに予約した時に聞いた『修学旅行生のグループ』とは貴方達か……」

「何かここまで来ると、因縁めいたものを感じますね……」

 藍越学園のグループもダイビングの時間まで軽く観光して回るという事で、どうせまた鉢合わせるなら、と一緒に観光して回る事になった。

「ねえねえ、つくも。あれなに〜?」

 本音が指差した先にあったのは土産物屋の店先に垂れ下がる布製の看板。

 そこにはデフォルメされたオニイトマキエイ(マンタ)の絵と『マンタちん』の文字が書かれていた。

「ああ、あれか。あれは−−」

 本音に説明をしようとした瞬間、後ろから興奮した声で叫ぶ轟嬢と横島教師。

「まんた!」

「ちん!」

「そう、マンタちん。要はマンタ型のちんすこうだ」

「そうなんだ〜。面白いね〜」

「ああ、割りと何でもありだからな、ちんすこう」

 お土産に買っていこうかな〜、と悩む本音。その一方で−−

「まんた!まんた!」

「ちん!ちん!」

 

ズバン!ズバン!

 

「商品名を分けて連呼するな!この色ボケ共!」

 なおも興奮しながら叫ぶ色ボケ二人に全力でハリセンを叩き込んだ私はきっと悪くない。

 

 続いて訪れたのは石垣島空港から程近い港。ここでは、グラスボートという船底がガラス張りの船に乗ったのだが……。

「スケスケ!」

「スケスケですね!」

「そうですね、ガラス張りですからね」

「丸見え!」

「全部見えちゃう!」

「ええ、見えますね!海の中が!」

 聞き方次第で『そっち』方向に聞こえる会話を軌道修正するのに必死で結局海の中の光景に目をやる事すらできなかった。

「うわ〜、きれ〜」

「うん、見たことない魚がいっぱいだ」

 まあ、海中の様子を見てはしゃぐ二人を見られたので取り敢えずよしとしました。

 

 最後に訪れたのは石垣島西端にある石垣御神崎(おがんざき)灯台。

 比較的高い所にある事と、登るには少し足元が悪いという事もあって、駐車場から見る事にしたのだが−−

「お〜、おっき〜ね〜」

「うん、立派だね」

「そうだな、立派だな。灯台が」

「「そういう意味で言ってないよ?」」

「分かってはいるが、まあ一応な」

 ちょっと『そっち』っぽい物言いをした二人に軽くツッコミを入れておく。問題はこの後だからだ。

「たってるーっ!」

「たってますーっ!」

「デカくてぶっといのーっ!」

「そそり立ってますーっ!」

「地元民に全力で謝れや!このピンク脳共!」

 

ズバシャーンッ‼

 

 明らかに別のモノを意識した物言いをする轟嬢と横島教師に、首から「ゴキッ」という音がする程の勢いでハリセンを叩き込んだ私は、誰が何と言おうと悪くない!

「「地元の皆さん、あと村雲さん、ごめんなさい!」」

 

「疲れた……特に精神的に。津田副会長、あの二人は毎日あんな感じなんですか?」

「もう慣れました」

「私も」

 げんなりと言う私に、二人はそうとだけ言った。いや、慣れていいものなのか?あれは。

 

 

 観光を終え、やってきたのは御神崎に程近いビーチ。ここでダイビングをする手筈になっている。

「蒼い空、碧い海、白い砂浜、そして水着の女子たち!くー、生きててよかった!」

「柳本氏、君は大袈裟だな。水着程度でそれでは、ISスーツ姿の女子なんて見たら興奮し過ぎて死ぬんじゃないか?」

「あはは……」

 波打ち際ではしゃぐ女子達を視界に収めて感涙する柳本氏。そんな彼に呆れる私と苦笑する津田副会長。と、そこへ。

「「九十九、お待たせ」」

 かけられた声に振り向くと、そこには水着姿のシャルと本音がいた。二人共水着を新調したのか、シャルはサンライトイエローのロングパレオ付きビキニ。本音はワインレッドのワンピースタイプを着ていた。

(女神だ。女神がいる)

 しばらく見惚れていると、二人が不思議そうに近づいて来た。

「九十九?」

「どしたの?ぼーっとして〜?」

「あ、ああ、すまん、見惚れてた。……よく、似合ってるよ」

「「うん、ありがとう」」

 にっこり微笑む二人がどうしようもなく可愛いと思うのは、きっと私の心がとうにやられているからだろう。

「「さ、行こ?」」

「ああ、行こうか」

 二人が腕を組んでくるのに任せて、そのまま波打ち際へと向かう。後ろから柳本氏の憎々しげな視線を感じたが気にしたら負けだと思って無視する事にした。

 ……そういえば、私達の後ろに建っていた東屋に隠れていた、ラグナロク(うち)の広報部専属カメラマンにそっくりの顔をした彼女は一体何者なのだろう?

 

 波打ち際で軽く遊んだ後は、お待ちかねのダイビングだ。今、私達の目の前には石垣島の綺麗な水中世界と、色とりどりの珊瑚礁が広がっている。何とも幻想的な光景だ。

「うわ〜、きれ〜」

「うん、すごい透明度だね」

「ざっと50mぐらいか。水中でこれほど遠くまで見渡せるとは……恐るべし、石垣島の海」

 一緒にダイビングを楽しんでいる藍越学園の皆も思い思いの嬌声を上げている。

 ちなみに、私達のダイビング方法だが、水中用のヘルメットを被り、船の上のボンベから酸素供給を受ける、いわゆる『水中散歩』スタイルである。と言っておく。

 と、そこへスキューバダイビングスタイルの横島教師が近づいて来て萩村会計のヘルメットをもコンコンと叩くと、自分の手にしている袋を指さして、何かを摘む仕草をする。

(ああ、練り餌を出してみろ。と言っているのか)

 意を受けた萩村会計が袋から練り餌を絞り出すと、カラフルな小魚が寄って来て餌を啄み始めた。

「っふふ、くすぐった〜い」

 指先を啄まれた萩村会計から小さな嬌声が漏れる。

「ほら、君達もやって見ろ」

「「うん」」

 頷いて練り餌を取り出すシャルと本音。そこに小魚が寄って来る。

「「わー!」」

 嬉しそうな声を上げる二人に目を細める私。ああ、可愛いなぁ二人共。と、思っているとふと横島教師が視界に入った。

 

 練り餌に小魚が群がる様子を見ていた横島は、ある考えが浮かんで脳裏から離れずにいた。

(この餌を(ピーッ)や(ピーッ)に付けたらすごい事になるんじゃね?)

 脳裏に浮かんだその考えに囚われた横島の顔は一見すると真剣だ。だが、それは九十九と津田から見れば−−

((ははーん、何か良からぬ事を考えてるな?))

 とはっきり分かる、邪念に満ちた顔であった。

 

 

 ダイビングから戻り、着替えて時計を見ると、空港に向わないといけない時間になっていた。

「シャル、本音。時間だ。帰り支度は済んだかい?」

「「うん、大丈夫」」

 荷物をまとめ、携帯でタクシーを呼び、来るまで待っていると、津田副会長が近づいて来た。

「村雲さん、今日はすみません、色々」

「いえ、こちらこそ押し掛けるような形になってしまい、申し訳無い」

 互いに頭を下げる私と津田副会長。同じタイミングで頭を上げ、フッと笑い合う。

「あ、そうだ村雲さん。アドレス交換、しませんか?」

「ええ、いいですよ」

 津田副会長からの提案に、特に断る理由もアドレス交換をするデメリットも無いと判断して頷く。

 サクッと赤外線通信でアドレス交換をし、改めて津田副会長と別れる。彼らはここで一泊し、翌日本島に戻った後、土産物屋に立ち寄ってから帰るとの事。

「どうやら今後の予定は被りそうにないですね。では、今度こそここで。また会いましょう」

「さよなら、津田さん」

「ばいば〜い」

「はい、また」

 やって来たタクシーに乗り込み、私達は新石垣島空港に向かう。津田副会長は私達から見えなくなるまで手を振って見送ってくれていたようだ。

 ちなみに、那覇空港に戻った後の事だが−−

「運転手さん、ホテルビルスキルニルまで」

「はーい。あ、お兄さんまた会ったねー。『かどや』さんのソーキそばはどうだったー?」

「あ、あの時の運転手さん!」

「うわ〜、すごい偶然〜」

 ホテルに戻ろうと拾ったタクシーが、昨日『かどや』さんを紹介してくれた運転手さんの乗るタクシーだった。というのは、まあ余談だろう。

 

 

 翌日。私達は最後に土産物を買う為に商店街巡りをするべく、早めにチェックアウトする事にした。

「忘れ物はないか?あっても取りには戻れないぞ」

「うん、大丈夫」

「指差し確認もバッチリだよ〜」

 忘れ物が無い事を全員で確認し、それぞれの荷物を持って受付に向かい、チェックアウトを済ませていざ商店街巡りへ。

「お土産なんにしよっか〜」

「母さんからは『沖縄の塩』を頼まれてる。父さんは『コーヒーカップ』を、社長は『家庭用沖縄そばセット』をリクエストされているから、買って帰らないとな」

「学園の人たちには?」

「クラスの皆には手堅くちんすこうとサーターアンダギーでいいだろう。専用機持ち連中にはそれぞれ似合いそうな物を。山田先生は確か辛い物が比較的好みと言っていたな。あの人にはコーレーグースを贈ろう。千冬さんには酒が良いのだろうが……」

「九十九は未成年だから買えないよね」

「うむ、やむを得ん。酒は買えないから、酒の肴を買って行こう」

「それが無難だよね〜」

 誰にどんな土産を買って行くのかを話し合いながら、私達は商店街を歩いて回るのだった。

 

 

 土産物を買い終えて帰りの飛行機に乗り、羽田空港から学園に戻ってきた私達。

「楽しかったね〜、沖縄」

「うん、また行きたいね」

「そうだな。次は仕事抜きで行きたいよ」

 正面入口をくぐり、寮に向かう途中で千冬さんと山田先生に出くわした。

「む、帰ったか。お前たち」

「お帰りなさい、皆さん。向こうは楽しかったですか?」

「ええ、今度は是非仕事抜きで行きたいと思うくらいには。ああ、そうだ。山田先生、これを」

 そう言って、私は土産物の入った袋から山田先生あての土産を取り出して渡す。

「あ、ありがとうございます。これは?」

「コーレーグースです。山田先生は辛い物が好みだと聞きまして」

「うわあ!ありがとうございます!ちょうど手に入らないかなって思ってたんです!」

「お喜びいただけて何よりです」

 喜色満面、全身で喜びを表す山田先生。嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねると、その立派な『双子山』が激しい地震に見舞われる。その光景につい目が行ってしまうが−−

「「九十九(つくも)?どこ見てるの?」」

「はい!スンマセン!」

 後ろからの冷たい視線に、私は反射的に頭を下げるのだった。その様子を見た山田先生が恥ずかしそうに胸元を押さえて顔を真っ赤にし、千冬さんが小さく溜息をついたのだった。

 

 山田先生にも一言謝罪を述べ、気を取り直して千冬さんに小さな紙袋を差し出す。

「千冬さんにはこれを」

「織斑先生と……いや、今は放課後だからいいか。……これは?」

「沖縄の酒の肴各種詰め合わせです」

「ほう、なかなか良い物だな。貰っておく」

 素っ気なく紙袋を受け取る千冬さん。だが、その顔はどことなく嬉しそうに見える。よかった、気に入って貰えたようだ。

 

 

 先生達と別れて寮に戻ると、丁度夕食時だった事もあってかすぐに何人かの女子達が集まってくる。

「あ、村雲くんお帰り〜」

「沖縄行ってたんだって?いいなー」

「私も行きたかったー!」

「あのな、一応仕事で行ったんだぞこっちは。……まあ、楽しんだ事は否定しないが」

 ぞろぞろとやって来て好き勝手にきゃいきゃい騒ぐ女子達。正直ちょっと煩いと思ってしまう。

「あ、そうだ。クラスの皆に土産を渡しておこう。相川さん、いるかい?」

「はいはーい。お呼びかな?村雲くん」

 手を挙げて『ここだよ』アピールをしつつ近づいてくる相川さん。それに一つ頷き、頼み事を口にする。

「君に頼みがある。一組の生徒にLINEを送ってくれないか?『村雲くん()が沖縄土産を配るから、全員食堂に集合』と」

「りょうかーい。ちょっと待ってねー」

 相川さんがすかさず携帯を取り出してグループLINEを送信する。その5分後−−

 

「「「村雲くん、来たよ!」」」

「わざわざの集合、痛み入る。では、皆にはこれを。ちんすこうとサーターアンダギーだ。仲良く分けるように」

「「「わあい!」」」

 ドサッとテーブルに置いたちんすこうとサーターアンダギーに群がる女子達。一応全員に渡る程度には買ったつもりだが、足りるかな?

「……まあ、大丈夫だろう。さて、専用機持ちの皆にはそれぞれ見合った物を見繕ってきた。まずは一夏、受け取れ」

「おう」

 一夏への土産はやちむん(沖縄風瀬戸物)の湯呑み。陶器特有の白地の肌に、でかでかと『クヌイナグトゥサーヒャー!』と書かれている。

「九十九、これどういう意味だ?」

「ああ、琉球方言で『この女たらし野郎!』と書いてある。お前にピッタリだろ?」

「待てよ。俺のどこが女たらしなん……「「「分かるわー」」」って誰も擁護してくれねえ!」

 一夏が文句を言おうするが、同意の声の方が圧倒的に多かった事にショックを受けるのだった。

 

「箒にはこれだ」

「ああ、ありがとう……これは、髪飾りか?」

 箒に渡した土産は手作り感溢れる髪飾り。赤いハイビスカスが存在を主張する華やかな一品だ。

「本当は紅い椿の物があると良かったが、それしかなくてな」

「いや、それは構わないが……私には少し派手じゃないか?」

「そうは思わんよ。なにせお前は派手だからな……体つきが」

「なっ!?……こ、この痴れ者がーっ!」

 私が言った途端、箒は顔を真っ赤にして私の頭に拳骨を落とすのだった。思った以上に痛かったです。

 

「次は鈴、お前だ」

「う、うん。てか、アンタ頭大丈夫?結構いい音したけど」

「大丈夫だ、問題無い。ほら、受け取れ」

 鈴に渡した土産は扇子。首里城正殿が描かれた台紙が美しい。

「へえ、アンタにしちゃいいチョイスじゃない。でもなんで扇子?」

「決まってるだろ。お前が『ファン』だからだ」

「あ~なるほど。あたしの名字の(ファン)扇子(ファン)を掛けたわけね……しょうもな!」

 贈られた土産がただの洒落で選ばれた事にツッコミを入れる鈴。それに私は「はっはっは」と笑って返すのだった。

 

「さて、セシリアにはこれをあげよう」

「ありがとうございます。受け取るのが少々怖いですが」

 セシリアへの土産はパイナップル入りのロールケーキ。帰り際に那覇空港で買った物だ。

「あら、美味しそうですわね。でも、どうしてこれをわたくしに?」

「分からんか?ならヒントだ。それに入っているパイナップルは、『ゴールデンパイン』という」

「……?はっ!?まさかわたくしの髪形(金髪ロール)に掛けましたの!?」

「いやはや、これを見つけた時は奇跡だと思ったね。なにせ直前まで君への土産が決まらなかった所に出てきたからな」

「九十九が大声で『見つけたぞっ!』って言った時は流石に驚いたよ」 

「ね〜」

 ちなみに、このロールケーキが見つからなかった場合、『貴族(ブルーブラッド)』にかけて『カブトガニの縫いぐるみ(血が青いから)』を贈るつもりだったのはセシリアには内緒にしておいた。あれ、裏から見るとかなり気色が悪かったからな。

 

「続いてラウラ。君にはこれを」

「うむ。これは……ナイフか?にしては随分短いし、切れ味も鈍そうだ。九十九、なんだこれは?」

 訝しげにラウラが取り出したのは日本刀風の形状の、美しい装丁を施された小さなナイフの3本セット。

「それは琉球王家、尚家に伝わる三振の宝刀『千代金丸(ちよがねまる)』『治金丸(ちがねまる)』『北谷菜切(ちゃたんなきり)』を模して作られたペーパーナイフだ。一年の夏休みの時(#36〜37)に、「日本刀が欲しい」と言っていたのをふと思い出してな。本物は流石に無理なのでそれにした。まあ、それに……」

「それに?なんだ」

「ラウラといえばナイフ、というイメージしか浮かばなくてな。何にも掛かってなくて、すまん」

「いや、そこを謝られても……その、なんだ、困る」

 少しだけ頭を下げた私に、ラウラは微妙な表情を浮かべてそう言った。

 

「簪さんにはこれだ」

 簪さんへの土産は彼女の名前に掛けて簪。マリンブルーの串にいくつかの飾りが揺れる、見目の良い物だ。

「ありがとう、村雲さん。でも私、簪を貰っても使う所が無いんだけど……」

「知っている。それでもそれを贈ろうと思ったのは、その飾りゆえだよ」

「飾り……?あっ!これって……!」

 簪さんが簪に付いている飾りをよく見る。すると、そこにある物を見つけたようだ。それこそが、簪さんにこの簪を贈ろうと考えた理由だ。

 そこには、シーサーをイメージした深緑と金で彩られた鎧を身に纏った、ヒーローっぽいキャラクターのSDモデルが。彼は沖縄のご当地ヒーロー。その名も−−

「琉神マ○ヤー……!」

「君が特撮ヒーロー好きなのは知っていたからね。気に入ってくれるだろうと思って贈らせて貰った」

「うん、ありがとう……!」

 目を輝かせる簪さんに、鷹揚に頷く私。やはり、特撮ヒーロー絡みの土産にして正解だったな。

 

「さて、父さん母さん、それに社長には土産を郵送するとして、楯無さんは明日生徒会室に行った時にでも−−」

「その必要はないわ!何故って?……私が来た!」

 バンッ!と大きな音を立てて食堂の扉が開いたと思ったら、開口一番そんな事をのたまいながら楯無さんがやって来た。

 その口上、この人も読んでるのか?某少年誌に連載中の王道ヒーロー漫画。ちなみに私は『裏社会の首魁』さんが好きです。

「さあ!私へのお土産は何かしら!?」

 わくわくしている顔で私に詰め寄る楯無さん。顔が近い。

「はいはい、今お渡しますよ。……はいどうぞ」

「うん、ありがとね。さーて、私あてのお土産は〜……な、何よこれ!?」

 渡された土産を見て、楯無さんの顔が朱に染まる。その理由は、私が渡した土産が−−

「『子宝ちんこすこう』。見ての通り、男根型のちんすこうですが、何か?」

「な、何かって!なんで、こんな……っ!」

「貴方は更識の現当主。いずれは子宝を望まれる身でしょう?だから、今の内に願掛けです」

「嘘ね!だってあなた、今すっごい悪い顔してるもの!」

 ビシッと私を指差す楯無さん。まあ、こんな取ってつけたような嘘なんて、すぐバレるわな。

 

「はっはっは。さて、土産は渡し終えたし、私はここで失礼するよ」

「あ!こら、待ちなさい!」

「待てと言われて待つ阿呆はいませんよ!」

 そそくさと立ち去ろうとする九十九を追いかける楯無。そのまま二人は追いかけっこを開始。その様子を見ていたシャルロットがポツリと漏らした。

「あの二人、トムとジェリーみたいだよね……」

「「「あ~」」」

 シャルロットの呟きに妙に納得してしまう一組一同。

 逃げるネズミ(九十九)と、追いかけるネコ(楯無)。いがみ合っているように見えて実は割と仲がいい二人は、確かにあの二匹によく似ていた。

 

 

 数日後、藍越学園にて−−

「ねえ、スズちゃん」

「ん?どしたのネネ?」

「これ……受け取って欲しいの」

 そう言ってネネがスズに手渡したのは、スズには手に余る程大きなハリセンだった。

「なにこれ?」

「え?ハリセンだけど?」

「それは分かるけど、なんでこれを私に?」

「うん!今度から私にツッコむ時はそれを使って欲しいの!」

 鼻息荒くそう言うネネ。スズは理解した。九十九がネネの『開ける必要の無い扉』を開けてしまったと。

 

 一方−−

「なあ、津田」

「なんですか?横島先生」

「お前、七条相手のツッコミにハリセン使ってるよな?」

「ええ、不本意ながら……」

 それを聞いた横島の目がキラリと光る。津田は嫌な予感がしたが、もう遅かった。

「それ、私にもしてくれないか!?」

 興奮気味にそう叫ぶ。津田は気づいた。九十九の『被害者』がまた増えたのだと。

 

「「村雲さん!あなたの事恨んでいいかなーっ!」」

 藍越学園に響いたその怨嗟の叫びは−−

「っ!?……なんだ?一瞬背筋に寒気が……」

 九十九にちょっとだけ届くのだった。


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