転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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やっぱり書きたくなって、衝動そのままに書き連ねました。
結果、外伝の一話分としては長くなってしまったので切りの良い所で切りました。

本編は最新刊の重要情報が原因でプロットの練り直し中です。申し訳ありませんが、今しばらくお待ち下さい。


#EX IS学園生徒会役員共 沖縄旅行編(前)

 これは、本編の時間から見て未来の時間軸上の話である……。

 

 

 それは5月の頭、大型連休直前に掛かって来た一本の電話から始まった。

「新設された沖縄支社の視察……ですか?」

『うん、もうすぐGW。IS学園も休みだろ?その期間を利用して、君に(社長)の名代として視察に行って欲しいんだ』

「社命とあれば勿論行きますが……」

 ちらりと部屋のカレンダーを見る。そこには、シャルと本音との間で交わした幾つかの予定が書き込まれていた。

(さてどうする?二人が許してくれるだろうか?というか、何と言って説明すれば……)

『あ、因みに視察は初日にパッと済ませてあとは観光して貰っていいよ。何ならあの二人分の交通費と宿泊費も出すし。二人と婚前旅行、したくないかい?』

「行きます」

 そういう事になった。

 

「という訳で、5月の連休は沖縄に行く事になった。社長の厚意で君達も一緒に行っていいそうだ。交通費と宿泊費は経費で落とすと言っていたよ」

「えっ!?沖縄!?本当に!?」

「本当だ。この村雲九十九、女性相手に嘘はつかん。君達になら尚の事、な」

「わ〜い!社長さん太っ腹〜!」

 沖縄旅行と聞いてはしゃぐ本音。シャルは最初こそ驚いたものの、今は本音と一緒に「沖縄♪沖縄♪」と小躍りして喜んでいる。

「さて、多少余裕があるとは言え、今から準備を始めないと間に合うものも間に合わん。早速準備に掛かろう」

「「はーい!」」

 ビシッと手を挙げるシャルと本音に苦笑しつつ、私達は沖縄旅行の準備に取り掛かるのだった。

 だがこの時、私は旅先でまさかあんな事になるなんて、全く予想していなかったのだった。

 

 

 数日後、GW初日。東京羽田空港国内線ターミナル。

「結構人がいるな……。シャル、本音。私達の乗る便はこっちだ。混雑しない内に行って、すぐに搭乗手続きができるようにしておこう」

「うん、分かった」

「じゃ〜れっつご〜!」

「おっと、待て待て一人で行こうとするな。逸れたら事だ」

 相当気が急いているのか、今にも飛び出していきそうな本音を手を握る事で止め、搭乗口を目指す。

 到着した搭乗口には、揃いのトランクを持つ見た事のある制服の一団が搭乗手続きの開始を今か今かと待ち構えていた。あの制服、間違いない。あの学校の人達だ。

「あれ?村雲さん?」

「やはり藍越学園の人達でしたか。お久しぶりです、津田副会長、萩村会計」

 かけられた声に振り向いたその先に居たのは、藍越学園生徒会副会長の津田さんと会計の萩村さんだった。

「どうしてここに?」

「仕事です。新設された沖縄支社に社長の名代として視察に。と言っても、殆ど観光になるでしょうが。そちらは?」

「あ、うちは修学旅行で沖縄に」

「へ〜、そうなんだ〜」

「おーい、生徒は全員集まってくれー!」

 落武者っぽい頭の大柄な男性の大声がターミナルに響く。多分、引率の先生なのだろう。

「あ、じゃあ俺たちはこれで」

「ええ、お互い楽しみましょう」

 そう言って津田副会長と別れた私達は手早く搭乗手続きを済ませて飛行機に乗り込み、一路沖縄へと向かうのだった……が。

「まさか同じ飛行機とは……」

「いい感じの別れが台無しだなオイ」

 別れたばかりの藍越学園生徒会役員共に機内で再び遭遇。お互いに妙な空気が漂う事になってしまうのだった。

 

 

 羽田空港を飛び立ちおよそ2時間半。私達は沖縄、那覇空港に到着した。

 その間、私達は津田副会長と萩村会計からそれぞれの友人を紹介して貰っていた。

 津田副会長の友人の眼鏡男子、柳本氏は去年今年と津田副会長と同じクラスだったそうで、男友達の中では最もよく一緒にいるそうだ。特技は『女性のスリーサイズの目測』らしいが、それは自慢できるものなのだろうか?

 萩村会計の友人の茶髪ロングの眼鏡女子、轟譲は萩村会計と一年生の時からの付き合いだそうだ。萩村会計曰く「知り合いの中でもトップクラスの『ヤバい』子」なのだとか。とてもそうは見えんが……。

「いや〜、飛行機の中ですっかり寝ちゃったよ」

「俺も」

「私もです」

「ぼっ(ピー)した?」

「してませーん」

「俺も」

「私もです」

 と、思っていたらいきなりブチかます轟譲。私は萩村会計の言っていた『ヤバい』の意味を唐突に理解するのだった。

 

「じゃあ、私達はここで。良い旅を」

「あ、はい。そちらも」

 那覇空港、正面ロビー。そこで津田副会長達と別れて沖縄支社の視察に向かおうと思った所で、ふと藍越学園生徒が集まっている所に目が行った。

 そこでは、並んだ生徒の前に立った女教師が拡声機を持って訓告を行っている。私は何故かその様子が気になって、声の届く範囲にそっと近づいた。

「引率の横島です。今日から2泊3日、待ちに待った修学旅行です。体験学習や見学会など、今ここでしか出来ない事で見聞を広げてくれると、嬉しく思います」

 横島と名乗った女教師は、一瞬後ろに並ぶ二人の男女(この二人も引率の教師だろう)に目をやると、改めて口を開く。

「……楽しい旅であると思いますが、あまり羽目を外しすぎないように。生徒個人、藍越学園の人として恥ずかしくない行動を取らなければならない事を、常に理解してください。特に!

 と、ここで横島教師の声がトーンが一段上がる。なんだ?急にどうした!?

「地元の男の子をナンパして、(キーンッ!)なんてもっての外です!」

 ハウリングが原因で何を言ったかは聞き取れなかったが、何かエライ事を言った気がする。横島教師はそれを言い切った後、膝から崩れて項垂れる。

「横島先生、よく言えました!」

「皆、横島先生の言葉、ちゃんと覚えとけよー」

「「「はーい」」」

 生徒達の返事の後に泣き崩れる横島教師。同僚の女教師から「よく言えました」と言われたという事は、あの人自身が今言った−−というより、言わされた−−事をやりかねない、という事なんだろう。……よく教師になれたな、あの人。

 

 

 その後、沖縄支社視察は恙無く終了した。と言っても、支社長に挨拶をして、社内を見て回り、どんな仕事をしているのかやその進捗を聞いて終わり。という極単純なもの。

「あとは支社長さんから聞いた話を纏めてレポートにして提出するだけだ。一旦ホテルに荷物を置いて、観光に行くとしよう」

「「はーい」」

 沖縄観光に心を持って行かれている二人は、返事もそこそこに待機しているタクシーにいそいそと早歩きで向かう。

「ねえねえ、つくも。どこ行く?どこ行く?」

「まずは首里城だな。それ以外だと……壺屋やちむん通りで土産物屋巡りも悪くないが、琉球村で昔ながらの沖縄生活体験もしてみたいし……悩むな」

「僕はちょっとお腹すいちゃったな。先に何か食べない、九十九?」

「となると、定番の沖縄そばとゴーヤチャンプル……いやラフテーやテビチ、ソーキといった沖縄の豚肉料理も悪くない。流石にいきなりヒージャー(ヤギ)料理はハードルが高いし……」

 ガイドブックを読んでおおよそのプランは決めたものの、どこに行くのか、何を食べるのかといった細かい所はその場で決めようとなった為、こうして悩んでいるのである。

「ええい、取り敢えず荷物を置いてから決めよう。運転手さん、ホテル・ビルスキルニルまで」

「畏まりました」

 頷いた運転手さんが、那覇市内でラグナロクが経営するリゾートホテル、ビルスキルニルを目指してタクシーを走らせる。

 さあ、ここからは楽しい観光の時間だ。思い切り楽しむとしようじゃないか。

 

 ホテルに貴重品以外の荷物を全て置き、先ずは沖縄観光のド定番、首里城公園にやって来た。のだが……。

「改修工事中……とはな」

「タイミングが悪かったみたいだね……」

「うーん、ざんねん……」

 首里城は丁度改修工事中。防音ネットが目の前を覆っていて、中の様子を窺い知る事は出来ない。

「ふう、仕方ない。運が悪かったと諦めて、先に食事にしよう」

「そうだね」

「何食べよっか〜」

「そうだな……」

 懐中時計で時間を確認すると、現在午後1時過ぎ。私はまだしも、この二人が満腹するまで食べると夕食が入らなくなる可能性がある時間帯であった。

「よし、軽い物にしておこう。沖縄そばがいいだろうな」

「あ、いいね。ガイドブック見て美味しそうだなって思ってたし」

「じゃ〜、れっつご〜」

 首里城公園を出てタクシーを捕まえ、「運転手さんおすすめの沖縄そば屋に行って欲しい」と伝えると、運転手さんは「だったらあそこが良いさ~」と言ってタクシーを走らせた。

 

 首里城公園からタクシーで約15分。着いたのは『むつみ橋通り』入口。レトロな雰囲気漂う、地元民が愛する商店街だった。

「ここの『かどや』さんがおすすめさ~」

「ありがとうございます。行ってみます」

「「ありがとうございましたー」」

 運転手さんは気のいい人で「良かったらまた乗ってねー」と言ってタクシーを走らせて去って行った。

「さ、行こうか」

「うん」

「楽しみだね〜、沖縄そば」

 地図アプリを頼りに『かどや』を目指していると、藍越学園の生徒数人が慌しく走り回っている。何事だろうか?

「あれ、藍越の人たちだよね?」

「どうしたんだろ〜?」

 走り回っている生徒達は辺りを見回しながら「萩村ー!」「スズちゃーん!」と叫んでいる。もしや、萩村会計が行方知れずにでもなったのだろうか?

「あ!村雲さん!」

 と、そこへ私に声をかけてきたのは津田副会長。その隣には空港で妙な訓告を行った女教師もいた。

 津田副会長は慌てた様子で私に走り寄ると、開口一番こう訊いてきた。

「すみません、萩村見てませんか!?」

「生憎、ここにはたった今着いたばかりで。萩村会計がいかがしました?」

「どうも途中で逸れたみたいで」

「携帯に連絡は?」

「しました。そしたら……」

 そう言って津田副会長が取り出したのはピンクの外装が可愛らしい携帯電話。今どき珍しい二つ折りだ。

「これが、多分逸れたと思われる辺りに落ちてて」

「連絡のしようがない、と」

 こくりと頷く津田副会長。なるほど、確かにそうなっては足で探す以外に方法がない、となるわな。

「村雲さん、無理を承知でお願いします。萩村がどこにいるか、村雲さんの予測を聞かせて欲しいんです!」

「おい、津田。彼にも都合が……」

「いえ、いいですよ。『袖擦り合うも多生の縁』と言いますし、1日でこれだけ何度も会うのも何かの縁でしょう」

「ほんとですか!?ありがとうござ−−「ただし!」はい!?」

「もし、私が言った場所に萩村会計がいなくても、文句言わんでくださいね」

「は、はい!もちろんです!」

 顔に喜色を浮かべる津田副会長。さて、予測開始−−の前に。

「シャル、本音、少しだけ寄り道だ。いいか?」

「「うん、いいよ」」

 二人に許可を得て、改めて予測開始だ。

 萩村会計の地頭は非常に良い。となると、逆に自分で合流しようと歩き回る?いや、彼女の体格と体力を考えればそれは愚策だ。当然、彼女自身もそれは分かっているはずだろう。

 ならば、何処か一ヶ所に留まって誰かが自分を見つけるのを待つ。という手段を彼女は取ると思われる。だとすると何処で待つか?が問題になる。

 同じ待つなら、クラスメイトや担任教師が思わず足を止める『何か』があった方が遭遇率は上がるだろう。無論、それに彼女が思い至らないとは考え難い。

 では、彼女のクラスメイトや担任教師が足を止めそうな物がある場所はどこか?そのヒントは既にある。轟嬢と横島教師だ。

 萩村会計の言葉と空港での轟譲の物言い、それに横島教師の訓告の内容から察するに、この二人はいわゆる下ボケ、エロネタに過剰に反応するタイプの人物だろう。

 ならば、この近くでそういう下ボケに繋がりそうな物を置いている店は……待てよ?確かさっき通り過ぎた店に『アレ』があったな。もし彼女がそれを見つけていれば、間違いなくそこに留まる選択を取るはずだ。

「これはあくまで私の予測ですが……」

「は、はい」

「萩村会計は、貴方達から見てこの100m先にある土産物屋にいると可能性が高いと思われます」

「根拠は?九十九」

「その土産物屋には、轟嬢と横島教師が必ず反応する『ある物』があるからです」

「轟と私が反応する……」

「ある物?」

「ええ。さ、行きましょうか」

 一旦話を切り、先程通り過ぎた土産物屋に戻る。と、次の瞬間、土産物屋の店頭に『それ』を見つけた横島教師が驚きに満ちた声で叫んだ。

「(チンッ)こすうーっ!」

「うーわ、言った!ごめんなさい!」

 何に対してなのか、津田副会長が謝罪を述べて横島教師の物言いを正す。

「津田、(チンッ)こすうよ、(チンッ)こすうだわ!」

「ちょっと待ってください、ちんすこうでしょ?地元の人に失礼でしょ!」

「いいや、津田副会長。(チンッ)こすうで合ってますよ。より正確には(チンッ)こすこうですが」

「そうよ!(チンッ)こすうよ!」

「あーもうやめてやめて!っていうか、村雲さんまで何言ってんの!?」

「だってほらあれ見て!」

「これが貴方方をここに連れてきた理由です」

 横島教師が指差す先、そこにあるのは男根型のちんすこう。その名も『子宝ちんこすこう(実在)』である。

「うわーっ!ホントだ!」

 驚く津田副会長。横島教師は『子宝ちんこすこう』を手にして恍惚の表情を浮かべている。

「恐れ入ったわ沖縄……箱買いするわ♡」

「萩村探してください……」

「その必要は無いですよ。ねえ、萩村会計」

「あ、はい。さっきぶりです、IS学園の皆さん」

 私が目をやった先には、驚きと困惑を同時に顔に浮かべた萩村会計が立っていた。

「あ、スズぽんだ〜」

「スゴイね、九十九。ホントにいたよ」

「萩村!?探したぞ……」

「ごめんなさい……」

 心配をかけた事を素直に謝る萩村会計。と、萩村会計が私を見て訊いてきた。

「さっき、デュノアさんが『ホントにいた』って言ってましたけど、あれって……?」

「実は……」

 

 ーー九十九説明中ーー

 

「という訳で、ここにいる可能性が最も高いと思い、連れてきました。まあ、もしここにいなかったらこの通りで『子宝ちんこすこう』を置いている土産物屋に片端から当たるつもりでしたが」

「あ、そうなんですか……」

「って事は、萩村がここにいたのってやっぱり……」

「「ここにいれば『子宝ちんこすこう(コレ)』に反応する人がいると思ったから」」

 私と萩村会計の声が重なった。津田副会長は唸るように「流石っす、二人共マジパねえっす」と呟いたのだった。

「じゃあ、今度こそここで」

「ええ、今度こそここで」

 無事他の班員とも合流出来た萩村会計。皆一様に安堵の表情を浮かべているのを尻目に、また別れの挨拶を交わす私と津田副会長。

 どちらからともなく踵を返し、互いの目的地へと歩を進めるのだった。

 

 ちなみに−−

「ごめんね〜。ソーキそばはさっき売り切れちゃったさ~」

「そ、そんな……」

 楽しみにしていた『かどや』の沖縄そばは私達が来店する5分前に売り切れてしまったらしく、私はショックのあまり膝から崩れるのだった。

 でも代わりに食べた沖縄ちゃんぽん(野菜炒めオンザライス)が殊の外美味かったのでよしとしました。

 

 

 その夜、ホテルの部屋にて−−

「それじゃあ、明日は石垣島で観光とダイビングをするに決定で」

「うん、それでいいよ」

「明日が楽しみだね〜、つくも」

 出された夕食(豪華沖縄料理フルコース)を食べ終え、備え付けをテーブルにガイドブックを広げて明日の予定を組む九十九とシャルロット、本音の三人。

「じゃあ、ダイビングショップに予約入れておくね」

「頼んだ、シャル」

 携帯を取り出してダイビングショップに電話をするシャルロット。

「……あ、もしもし。ダイビングの予約がしたんですけど……はい、明日の……ねえ九十九、何時くらいに行く?」

「そうだな……昼前、11時過ぎにしよう。昼食を腹に入れてからでは逆にキツイだろうからな」

「うん、分かった。じゃあ、11時過ぎで。……えっ、そうなんですか?ちょっと待ってください、確認してみます」

 予約電話を入れたダイビングショップの店員に何か言われたシャルロットは、九十九に確認を取った。

「同じ時間に修学旅行生のグループがダイビングする予定らしいんだけど、一緒でいいかって」

「構わんさ。急に予約を入れたのはこっちだ。ショップの都合に合わせよう」

「了解。……すみませんお待たせして、そちらの都合に合わせます……いえ、こちらこそ急にすみません。はい、はい……では明日はよろしくお願いします」

 

ピッ!

 

「オッケー、予約取れたよ」

「分かった。じゃあ、明日に備えて今日はもう休もう」

「「うん、おやすみ、九十九」」

「ああ、おやすみ」

 就寝の挨拶を交わし、明日の石垣島観光に思いを馳せながら床につく三人。

 だが、この時の彼等は、明日起こるドタバタを全く予想していなかった。

 

 後編に続く


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