転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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今回は前回の短編集で書いた『IS学園生徒会役員共』の拡大版です。
では、どうぞ。


#EX IS学園生徒会役員共特別拡大版 学園交流会

 それは、IS学園生徒会長、更識楯無によって発表された。

「学」

 それを聞いた一夏が「またこの人変な事言い出したよ」と言わんばかりの嘆息と共に。

「園」

 虚さんがいつもの堅さを持って。

「交〜」

 本音がどこか楽しそうに。

「流」

 シャルが真意を計りかねているかのように。

「会?」

 最後に私がなぜ今?という疑問と共に言った。

「そう!」

 勢い良く叫び、自分の机で胸を張る楯無さん。どうやら今回の企画に相当意気込んでいるようだ。

「別の学校の生徒会と意見交換をする事で、この学校をより良くできるアイデアが浮かぶかもしれないし、それに相手校と太いパイプで……くしゅん!」

 台詞の途中で鼻でも疼いたのか可愛らしいくしゃみをする楯無さん。が、問題はその直後だった。

「相手校と太いバイブでづながる事がでぎるわ(鼻声)」

「鼻かんでもう一回言い直せ」

 鼻が詰まったせいで妙な事を言っているようになってしまった楯無さんに、敬語抜きのツッコミを入れた一夏はきっと悪くない。

 

「でね、今回はあちらの高校に伺う事になってるの」

 自分の机に座り、改めて話をする楯無さん。

 それによると、相手校の生徒会長が楯無さんの中学時代の友人だそうで、折角だし交流を持たないか。と持ちかけられた事に端を発するらしい。

「それで、その相手校というのは何処なんです?楯無さん」

 一夏の質問に、悪戯っぽい笑みを浮かべて扇子を広げ、楯無さんは答えた。

「私立藍越学園よ」

 広げた扇子には墨痕逞しい字で『一文字違い』と書かれていた。

 

 

 私立藍越学園。私立でありながら学費が安い事と、卒業後の進路として学園法人の関連企業が多数受け皿を用意している上、その多くが優良企業であるという事で地元の中学生の進学先として根強い人気を誇る高校。

 そして、一夏が試験会場を間違えなければ、よしんば間違えたとしてISに触れようとしなければ通っていた筈の学校だ。

 もっともあの兎博士の事。仮に原作通りの展開にならなくても、例えばあの人が世界に向けて「男性の中にIS適性を持つ者がいる可能性がある」とでも言えば、世界中で男性IS操縦者を探そうと適性試験が行われ、結果として一夏は(そして私も)IS学園に行く事になっていただろう。まあ、それはさておき。

「まさかこんな形でここに来ることになるなんてなぁ……」

「ああ。私達にはもう縁の無い所だと思っていたからな」

 藍越学園正門前で出迎えを待ちつつ感慨に耽る私と一夏。

 本来なら一度として潜る事のない筈だった校門を潜る事になるとは思わなかった。これも原作に無い(あるいはあったが描かれていない)展開だ。なんかもう、原作がどうとか考えるのも面倒になってきたな。

「すみません、お待たせしました」

 なんて事を考えていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこにいたのは一組の男女。

 私と背格好の似た、それなりに整った顔立ちの男子生徒と、本当に高校生かと疑いたくなる程に低い身長の女子生徒の二人組だ。

「はじめまして、藍越学園生徒会、副会長の津田です」

「同じく、会計の萩村です」

 並んで軽く頭を下げ、自己紹介をする二人。

「IS学園生徒会、会長の更識楯無です」

「同じく、副会長の織斑一夏です」

「会計の布仏虚です」

「書紀の布仏本音で~す」

「庶務の村雲九十九です」

「庶務補佐のシャルロット・デュノアです」

 こちらも自己紹介をし、頭を下げる。そして、気になった事を津田副会長に訊いてみた。

「津田副会長。一つよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」

「藍越学園は、一体いつから飛び級制度を採用したので?」

「タメだよ!」

 その質問に、萩村会計が食い気味にツッコんできた。多分、何度もされてる質問なんだろうな。

 

 生徒会室へ向かう途中、廊下ですれ違う女子生徒達がこちらを見てざわついているのが分かった。

「えっ!?嘘っ!?織斑くん!?」

「村雲くんもいるわよ!?」

「なんで?IS学園にいるんじゃ……!?」

「やばい、どっちもいい男……」

「え~?やっぱ顔の良さで言えば織斑くんでしょ?」

「分かってないわね。男は顔より身に纏う雰囲気よ!見なさい!村雲くんのあの余裕ある佇まい!」

「どっちも美味しそう……。まとめて食べちゃいたいわ❤」

 などと好き勝手騒いでいる。……おい待て。最後の声、やたら野太かったんだが……?

「あ、あの、村雲くん。今日はどうしてウチの学校に……?」

 そんな中、意を決したのか一人の女子生徒が私に声をかけてきた。顔を見た事があるので、同じ中学の出身者だと分かる。残念ながら名前までは知らないが。

「ああ、我が校の生徒会長とここの生徒会長が昵懇(じっこん)だそうでね。交流会を行う事になった」

「そ、そうなんだ……気をつけてね」

「何をだね?」

 その女子は少し言いにくそうにした後、小声でこう言った。

「ウチの生徒会長少し……ううん、大分変わってるから」

「大丈夫だ。ウチので慣れている」

「九十九くーん、聞こえてるわよ〜」

 楯無さんがツッコんできたが、あえて無視を決め込んだ。だって事実だし。

 

 

「シノっち久し振りー!」

「おお、楯無!久し振りだな!」

 案内された生徒会室で、楯無さんと『シノっち』と呼ばれた女子生徒が、久しぶりの再開を抱擁で祝し合っていた。

「シノっち、紹介するわね。うちの生徒会メンバーよ」

「うむ。はじめまして、皆さん。藍越学園生徒会長、天草です」

 楯無さんから離れ、自己紹介をする天草会長。なんというか……似てるな。

「なんかこの人、箒に似てる」

「お前もそう思ったか、一夏」

 小声で会話をする私達の声が耳に入ったのか、興味深げにこちらに向き直る天草会長。

「ほう、そんなに似ているのか?私と、その『箒』という人が」

「ええ。話し言葉とか、雰囲気とか、あと声とか」

「姿形と言うよりは、中身が近い感じを受けますね。あ、これ写真です」

「どれ……っ!?」

 スマホに表示された箒の写真を見た途端、天草会長の表情が凍り付いた。その表情のまま、彼女は生徒会室の隅に蹲ってしまう。

「あの……天草会長?どうされました?」

 一夏は不思議そうな顔をしているが、私には分かる。あの人は箒の『対男性用ミサイル』に打ちひしがれているのだと。

「な、何だあれは……。全く似ていないではないか。特に胸!」

 怨嗟の声を上げる天草会長に、何やらお嬢様然としたスタイル抜群の女性が声をかける。

「大丈夫よ、シノちゃん」

「アリア……」

 アリアと呼ばれたその女性は、ニッコリと微笑みを浮かべると−−

「貧乳にも需要はあるわ!だって、希少価値でステータスなんだもの!」

 笑顔でとんでもない事をのたまった。それを聞いた天草会長はショックで真っ白になっている。

「フォローになってねえよ!むしろトドメだよ!」

 津田副会長の切れ味鋭いツッコミが、生徒会室に響いた。

 

「いや、すまない。見苦しい所を見せてしまって」

 数分後、なんとか持ち直した天草会長が苦笑いを浮かべながら軽く頭を下げる。

「お気になさらず、天草会長。ウチの生徒会長も妹さん絡みでは大層ポンコツなので」

「ちょっと、九十九くーん?そういう事言うかな?」

「一夏、読め」

 すっ、と一夏に向かって掌を見せる。そこには一枚のメモが隠されていた。

「えっと、なになに……簪が楯無さんの事、最近うっとおしくて困るって言ってましたよ……?」

 目の前に出されたメモを馬鹿正直に読む一夏。すると楯無さんは雷に打たれたような顔をしてその場に崩れ落ちた。

「楯無さん!?大丈夫ですか!?」

 倒れた楯無さんを一夏が抱き上げる。楯無さんの目からは光が消えていて、表情は虚ろだ。

「かんざしちゃん、おねえちゃんのこときらいになっちゃうの……?」

 楯無さんが発した言葉はひどく弱々しく、それでいて幼い印象を受ける。つまり、楯無さんはショックの余り−−

「幼児退行を起こしてる!?」

「そんなにショックだったの!?」

「お嬢様、しっかりしてください!」

「大丈夫だよたっちゃん。かんちゃんがたっちゃんを嫌いになるなんてこと、ぜったいないから~」

「ほんとう?」

「「本当!本当!」」

 傷心し、完全に子供になっている楯無さんをなんとか元に戻そうと必死に宥める布仏姉妹。

「と、まあこんな感じなので」

「相変わらずのシスコンなんだな、楯無は」

「いや、あんたも何してんの!?交流会が始まんないじゃん!」

 津田副会長の切れ味鋭いツッコミが、また生徒会室に響いた。

 

 

「も~、つくもん。たっちゃんにあんなの聞かせたらああなるって分かってるでしょ〜?」

「頭ではメモを読んだだけと分かっていても『妹に嫌われた』事に心が耐えられない。これが妹愛魂(いもうとアイコン)か」

「上手い事言ったつもりですか?村雲くん」

 布仏姉妹がジト目で私を見てくるが敢えてスルー。ついでに「う~う~」と唸りながら恨みがましい目を向ける楯無さんの事もスルーする。

「そのくらいにしておけ、楯無。さて、では交流会を始めよう」

 パンパンと手を叩き、天草会長が場の空気を締める。

「まずは校内を案内しよう。付いてきてくれ」

 そう言って生徒会室から出て行く天草会長。本来なら通う筈だった学校だ。じっくり見せてもらおう。

 

「ここが保健室だ」

 まず天草会長が私達を連れて来たのは何故か保健室。ん?この流れ何処かで……?

「ここが女子更衣室だ」

 続いて女子更衣室。いや、待て。まだそうと決まった訳では……。

「ここが普段使われていない無人の教室だ」

 さらに無人の教室。もうここまで来ると偶然の一致とは……。

「ここが体育倉庫だ。……男子が聞くとドキッとする場所を優先して紹介してるんが……不満か?」

「あれ?なんかすげえデジャブ」

「奇遇だな一夏。私もだ」

「うちの会長がすみません」

 申し訳なさそうに頭を下げる津田副会長。楯無さんの知り合いというだけあって、天草会長もなかなかの変人らしかった。

 

「ここが私達の教室だ」

 次に案内されたのは天草会長と七条書記(移動中に自己紹介してくれた)の教室。

「各学年、何クラスあるんですか?」

 という一夏の質問に、七条書記が「5クラスよ」と返答した。

「これでも一時期より大分減ったそうだ。これも少子化の影響か」

 ふう、とため息を漏らす天草会長。その肩に七条書記が手を置いて一言。

「でも、少子化も悪い事ばかりじゃないわ。3年生がP組まであったら大変だもの!」

「クラスのイメージカラーはピンクだな!」

 七条書記もどうやらなかなかぶっ飛んだ人のようだ。見た目清楚なお嬢様な分、そのギャップがとんでもないな。

「3年P組……略して3……ムググ」

「本音、それ以上はダメ」

「ナイスカットだ、シャル」

 充てられたのかそぐわない台詞を言いそうになった本音の口を咄嗟にシャルが塞いでカットした。凄い焦るからやめてくれ、本音。

 

 

 生徒会室へ戻って、今度は互いの校則について意見交換を行う事になった私達。

「男女の過度の接触禁止、装飾品の装着禁止、制服の改造禁止……。藍越の校則は意外に厳しいな」

「IS学園にはそういったの無いんですね」

 互いの生徒手帳に書いてある校則を読みながら話す各陣営。

「過度の接触禁止はそもそも男子がいないから禁止する意味がないし、装飾品の装着も世界中から生徒が集まる関係上、信仰している宗教の関係で装着を義務付けられている場合も少なくないから禁止できない。制服は……まあ、個人の自由という事で」

「なるほど……」

 こちらの説明にしきりに頷く天草会長。すると、急にハッとした顔をしてこう言った。

「つまり、全裸を制服と言い張ってもいいという事か!?」

「んな訳ねえだろ!」

 ツッコむ津田副会長。更に、七条書記もそれに乗る。

「じゃあ、ヒモ水着ならオッケーだよね」

「それもアウトです、七条書記」

「どこの露出狂だよ!?」

 そのぶっ飛んだ発言に、先輩であるという事も忘れて敬語抜きのツッコミを入れる一夏。

 そんな物を制服にする女子がいたら、IS学園の評価は今頃最底辺だろう。良かった、そんなの居なくて。

 

「そうそう、最近うちの校則に『カラーコンタクト禁止』ってのが増えたのよ」

「え、そうなんですか?」

 楯無さんの言葉にキョトンとした顔をする一夏。

「ああ。ほんの一週間程前だな」

「これはカラーコンタクトが目を傷つける恐れがあるからで、別に『色目使いやがって……』とかじゃないのよ」

「そちらの会長もなかなかですね」

 萩村会計の述懐に頷く事以外、私にはできなかった。

 

 交流会も恙無く(とは言い難い部分もあったが)終わり、私達は藍越学園をお暇する事になった。

「今日は有意義だったわ。ありがとね、シノっち」

「ああ。こちらこそありがとう、楯無」

 夕焼けに赤く染まる校門前で固い握手を交わす二人の会長。

「じゃあ、また明日」

「うむ。明日、IS学園で」

 そんな二人のやり取りに驚いたのは一夏だ。

「ちょ、ちょっと待ってください!こっちでもやるんですか!?」

「当然でしょ?一夏くん。だってこれは『交流会』だもの。お互いの学校でやらないと」

「で、例によって既に許可は取ってある、と言うのでしょう?」

 私の質問にニコリと笑みを浮かべる楯無さん。どうやら、騒動はまだ終わってくれないようだ。

 

 

 翌日、IS学園駅前で、私は本音と共に人を待っていた。

「あ、来たよ~、つくもん」

「お待ちしておりました、藍越学園生徒会の皆さん」

 改札から出てきた藍越学園生徒会一同に対して軽く会釈をすると、あちらも会釈を返してくれた。

「うむ。今日はよろしく頼む、村雲くん。布仏さん」

「本音でいいですよ~、天草会長。布仏だとお姉ちゃんと同じでまぎらわしいんで〜」

「では、行きましょうか。っと、その前にこれを」

 そう言って私が一同に渡したのは、『Guest』と書かれたカード。

「これは?」

「IS学園の客人用入園証です。それを持たずに学園内に入ろうとすると、警備員に問答無用で捕縛されて警察に連行されますので、必ず持っていてください」

「「「何それ怖い」」」

 私の警告に身震いする一同。実際はそこまで物騒じゃないが、多少強めに脅しておいた方が余計な行動は取らないだろう。

 

「IS学園へようこそ、シノっち」

「お招き感謝する、楯無」

 IS学園生徒会室で、再び対面した二人の会長が互いに握手を交わす。

「さて、それじゃあ早速校内を案内するわね。まずは……」

 そう言いながら生徒会室から出ようとする楯無さん。その肩を、掴んで止めたのは私だ。

「楯無さん」

「なに?九十九くん」

「案内をするのは結構ですが、保健室と女子更衣室と無人の教室と体育倉庫だけは避けてください……ね?(ニッコリ)」

「アッ、ハイ。ワカリマシタ」

 私の誠心誠意を込めたお願いに快く頷いてくれた楯無さん。人間、誠意は大事だよな。

「あ、あの楯無を一発で……。今のは一体……」

「あれがIS学園名物『村雲九十九の怖い笑顔』ですよ~」

 楯無さんの様子を目にしてぽかんとする天草会長に説明をする本音。と言うか、いつの間に私の誠心誠意は名物になっていたんだ?

 

 

「じゃあ、まずはアリーナから行きましょうか。九十九くん、アリーナの使用状況って分かる?」

「はい。今なら箒と鈴が第一で、セシリアとラウラが第三で模擬戦をしているはずです」

「そう。じゃあ第一アリーナに行きましょう」

 九十九の言を受けた楯無は、「こっちよ」と言って藍越学園一同を先導して第一アリーナに向かう。

 その途上、目の前で腕を組んで歩く九十九、シャルロット、本音の距離の近さが気になったシノは楯無に質問をぶつけた。

「なあ、楯無。あの三人なんだが……」

「え?ああ、あの三人?うん、『そういう仲』よ」

「なるほど、つまりデュノアさんと本音さんは『竿姉妹』という事か!」

 

スパーン!

 

「何つー事言ってんだ!アンタは!」

 シノが下ボケをかました瞬間、『フェンリル』の拡張領域(バススロット)からハリセンを取り出した九十九がその頭を叩いた。

「えっと、まだそこまでじゃない……です。ね、本音」

「うんうん、強いて言えば『口姉妹』だよね~」

 

パンパン

 

「君達も乗るな」

 シノの言葉を受けて赤裸々カミングアウトをするシャルロットと本音を、ハリセンで軽く叩く九十九。だが、最大の爆弾は別の所からやってきた。

「ええっ!?『下の口姉妹』!?二人ってそういう……!?」

 

ズバーンッ!

 

「アンタの発言が一番ヤバイんじゃぼけぇぇぇっ‼どんな聞き間違いすりゃそうなるんだぁぁぁっ!」

 途轍もない大ボケをぶち込んできたアリアに全力でハリセンを叩き付け、吠えるようにツッコむ九十九。

 軽く叩かれただけのシャルロットと本音は満更でもなさそうに「えへへ」と叩かれた頭を撫でているが、シノとアリアは痛そうに蹲っていた。

「津田でもこんなツッコミしないぞ……」

「新しい何かに目覚めそう……」

 とはいえその言葉には反省しているような響きは無い。その事に九十九は深い、それは深い溜息をついた。

「津田副会長、毎日続いてるんですか?この感じ」

「俺はもう慣れました」

「私も」

 

 

「着いたわ。ここが第一アリーナよ」

 色々と疲れるやり取りをしながら歩く事しばし。私達は第一アリーナに到着した。

 藍越学園生徒会役員の皆さんは物珍しいのか「おお〜」と感嘆の声を上げながらそこかしこへと視線を巡らせている。

「ん?一夏……と生徒会役員共か。どうした?」

「ってか、その人たち誰よ?見慣れない顔だけど」

 箒と鈴がこちらに気付いて声を掛けてきた。休憩中だったのかISは纏っておらず、ISスーツのままだ。

 その恰好は津田副会長には刺激が強かったようで、顔を赤くして二人から目を逸らす。うん、気持ちは分かる。

「あ、こちら藍越学園生徒会の皆さんね。それでね、二人にお願いがあるんだけど−−」

 楯無さんが二人に説明している間、私が二人の事を紹介する。

「ポニーテールの方が篠ノ之箒、ツインテールの方が凰鈴音です」

「篠ノ之って……ひょっとしてあの!?」

「多分『その』篠ノ之です。ただ、本人には言及しないでください。彼女、姉に隔意があるので」

「あ、そうなんですか」

「うぬぬ、写真で見た時より大きくないか?胸が」

「ISスーツには体型補正効果もあるので。あと、それ本人に言わんでくださいね、天草会長。コンプレックスらしいので」

 『篠ノ之』の名前に萩村会計が驚き、天草会長が箒の『対男性用ミサイル』に嫉妬の念を飛ばす横で、津田副会長が鈴に視線を送っている。それが気になったのか、一夏が津田副会長に話しかけた。

「えっと、津田副会長。鈴がどうかしました?」

「いや、なんか家の妹に似てるな……って」

「ほう。何処がどのように?」

「昨日村雲さんが言ってた『姿形は似てないけど中身が似てる』って奴ですね。あ、これ写真です」

「「どれどれ……っ!?」」

 そう言って津田副会長が差し出した携帯の画面。そこに写っていたのは、ツインテールに人懐こそうな顔立ちの美少女だった。見た目から受ける印象は快活。確かに鈴によく似ている。ただし、それは中身だけだ。

 165cmはあるだろう身長とはっきりと主張する『果実』の膨らみは、決して鈴にはないものだ。

「これ、鈴には見せないほうが良いな」

「だな。100パー荒れるわ」

 津田副会長にそっと携帯を返し、もう一度鈴を見る。……うん、似てない。

 

 楯無さんが二人に願い出たのは『藍越学園生徒会の皆に模擬戦をしている所を見せてほしい』と言うものだった。

 という訳で現在、アリーナでは箒と鈴が激しい格闘戦を繰り広げている。観客席では藍越学園一同がその様子を食い入るように見ている。

「これがIS同士の戦い……」

「激しいですね……」

「うん、凄いねー」

「ああ、凄いな。凄い揺れっぷりだ。まさに驚異的な胸囲だな!」

「「アンタどこ見てんだよ!」」

 天草会長の感想に私と津田副会長が全く同じツッコミを入れる。顔を見合せた私達は、どちらからともなく握手を交わすのだった。

「津田副会長。貴方とはもっと早く知り合いたかった」

「俺もです、村雲さん」

 

 その後、IS整備室にやって来た私達。その一角で整備中の『打鉄』を藍越学園一同が興味深そうに眺めている。

「おお、近くで見るとすごい迫力だな」

「触ってみて良いですか?」

 おずおずとそう言う津田副会長。それに対して整備科の先輩は神妙な面持ちでこう言った。

「いいけど、こことここ、それからここには触らないで。繊細な所だから」

「あ、はい」

 先輩の忠告に一つ頷いて『打鉄』の装甲にそっと手を当てる津田副会長。しばらくすると、がっかりしたような面持ちで「やっぱダメか」と言ってその手を離した。

 男子たる者、やはりロボットに乗ってみたい願望はあるよな。気持ちは分かるよ、津田副会長。

「なあ、楯無。あれに乗る事はできないか?」

 天草会長が楯無さんにそう訊いた。その目は『打鉄』に釘付けで、興味津々と言わんばかりに輝いていた。

「目の前の『打鉄』は整備中。他の機体も訓練に使われてるから、今すぐには無理ね」

「それに、仮に訓練機が空いていても、天草会長と七条書記はいいとして萩村会計は乗る事ができませんし」

「なんでですか?」

 私の言葉に萩村会計が不思議そうな顔をする。私は申し訳無いと思いながら、その理由を口にした。

「ISに搭乗可能な身長は145cmからなので……」

「!?」

 あんまりと言えばあんまりなその理由に、ショックを受けた様な顔をする萩村会計。なんかすみません。

 

 

 所変わって本校舎屋上。

「んー、風が気持ちいいねー」

 ボリュームのあるライトブラウンの髪を風に靡かせ、七条書記が気持ち良さそうに伸びをする。

「ここは本校舎でも人気の高いスポットですから。……で、天草会長。顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」

 ちらと見ると、天草会長が顔を青くしていた。ひょっとして高い所は苦手なのだろうか?

「だ、大丈夫だ。問題ない」

「いや問題ありでしょ、シノっち。膝が震えてるわよ?」

「こ、これはだな……」

「「これは?」」

「楽しくて膝が笑ってるのさ!」

「それ程上手いこと言えてないわよ、シノっち」

 楯無さんのツッコミに深く頷く私。『膝が笑う』とは、余りの疲れに膝が震える事を言うのであって、断じて楽しい時に使う言葉ではないと言っておく。

 

 ふとフェンスの方に目をやると、シャルと本音と萩村会計がフェンスの外を見ていた。三人に近づくと、話し声が聞こえてきた。

「私、高い所好きなんです」

「そうなの?なんで~?」

「あ、僕も聞きたいな」

 二人がそう訊くと、萩村会計はボソリと呟いた。

「人を見下ろせるからです」

「「…………」」

「笑っていいですよ」

「いや……」

「えっと〜……」

 そう言う萩村会計の雰囲気に、言葉に詰まるシャルと本音。笑うに笑えない空気感が、そこに生まれていた。

 二人には悪いが、巻き込まれなくて良かった!

 

 

「今日は楽しかった。ありがとう、楯無」

「こちらこそ、シノっち」

 IS学園正門前で、改めてガッチリと握手を交わす二人。日は既に大分傾いており、夕焼けの中で凛と立つ二人の姿はさながら一枚の絵のようであった。この後の会話さえ無ければ、だが。

「今回の礼に、楯無にいいスポットを教えてやろう」

「あら、どんなスポットかしら?」

「年中、昼夜を問わず楽しめる、最高にいいスポットだ」

「残念、シノっち。Gスポットなら知ってるわ」

「なーんだ、ちぇー」

 

スパパーンッ!!

 

「あんたら最後までそんなんか!」

 二人の会話に私のハリセンが唸りを上げ。

「これが生徒会長同士の会話かよ……」

 一夏が二人の下ネタトークに愕然とし。

「「うちの会長がすみません」」

「「「うちの会長こそすみません」」」

 互いの会長の言動を津田副会長と萩村会計、虚さんと本音とシャルが謝りあう。という何ともグダグダな最後になってしまった。

 

 後日。藍越学園生徒会室にて。

「あの……津田くん」

「はい。なんですか?七条先輩」

 アリアに声を掛けられ振り返った津田。そこには、後ろ手に何かを隠してモジモジしているアリアがいた。

「あのね、津田くんにこれを受け取って欲しいの」

 そう言って後ろ手に隠していた物を取り出すアリア。それは立派な、凄く立派な−−

「ハリセン?」

「そう!今度から私にツッコむ時はそれを使って欲しいの!」

 鼻息荒くそう言うアリアの目は、期待でキラキラと輝いている。

 津田は気付いた。アリアは九十九の『あの一撃』で、新しい世界の扉を開けてしまったのだと。

「村雲さーん!アンタの事恨んで良いかなーーっ!!」

 津田が生徒会室の窓を開け、IS学園の方に向かって怨嗟の叫びを上げた数秒後−−

 

「へっくし!」

「どうしたの九十九?風邪?」

「大丈夫〜?」

「いや、体は至って健康だ。誰か噂でもしたかな?」

 IS学園第三アリーナで訓練中の九十九がくしゃみをしたが、その因果関係はついぞ分からなかったという。


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