転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#EX ラグナロクの愉快な仲間たち

 ラグナロク・コーポレーション。現社長、仁藤藍作の祖父が創業した『仁藤重工業』を前身に持つ総合企業である。

 藍作の卓越した経営手腕と先見の明、そして『腕が超一流ならば、人格、経歴は一切問わない』という雇用方針によって、僅か10年で日本国内でも有数の大企業に成長した。

 ただ、その雇用方針によってラグナロク・コーポレーションが他企業から呼ばれる事になった渾名は−−

「『変態企業』、『変人の巣』、あるいは『災厄の箱(パンドラボックス)』。まあ、あまりいい響きではないな」

「た、確かに……」

「ラグナロクってトンデモ兵器しか作ってないって印象あるしね〜」

「失礼だな、君ら。……事実だが。だが、それだけではない事は知っているだろう?」

 実際、ラグナロク系列の店は数多い。食料品店、飲食店はもとより、ファッションショップ、アミューズメントパーク、ホテル、結婚式場に葬祭会館と、およそ殆どの業種に食い込んでいるのがラグナロクという企業なのだ。

 もっとも、それら全てで他所では扱わないような物を扱っていたり、およそあり得ないサービスがあったりする為、結局『変態』扱いは変わらなかったりするのだが。

「っと、話が逸れたな。さて、それじゃあまずどこから−−「おお、いたいた!九十九くん!」瓜畑さん……」

「おっ、噂の彼女たちも一緒か。隅に置けないねえ、色男!」

「「誰?」」

 ポカンとする二人を尻目に「アッハッハ」と笑いながら私の背中をバシバシ叩くこの男性は、IS開発部、兵器開発部門長の瓜畑成也(うりばたけ せいや)さんだ。

 元は郊外で小さな整備会社をやっていたのだが、とあるコンペティションに出した発明品が社長の目に止まり、いたく気に入られてラグナロク入り。現在はラグナロクの兵器開発を一手に担っている。

 『フェンリル』に搭載されている各種後付武装(イコライザ)も、殆どがこの人の設計を元に開発されている。

 これだけ聞けば『何だ普通の人じゃないか』と思うかも知れないが、そこはラグナロク。この人も十分に変人なのだ。その理由は。

「今日は九十九くんに試してほしい武器があってね。コレなんだけどな」

 こうして、所も相手の事情も関係なく自分の開発品を見せようとしてくる所とか。

「二又の……槍?にしては柄が妙にねじれた形してますね」

「これは試作型シールドエネルギー中和装置付二又槍『ロンギヌス(仮)』だ!」

 

ババーン!

 

 と効果音が聞こえてきそうな勢いで瓜畑さんが掲げたのは、先の尖った二本の棒を撚り合わせたかのような外見の二又槍。

「シールドエネルギー……」

「中和装置〜?」

「よくぞ訊いてくれました!」

 その言葉を待っていたと言わんばかりに声を張り上げる瓜畑さん。

 その説明によるとこの『ロンギヌス(仮)』は、槍の先端に付いた解析装置で各ISのシールドエネルギーの固有周波数を解析、それと逆位相の周波数のエネルギーフィールドを槍の又に展開してシールドエネルギーを中和して突破。強引に絶対防御を発動させてエネルギーエンプティを狙う。という物だそうだ。

「なんて無茶苦茶……」

 呆れ気味に呟くシャル。確かに無茶苦茶な兵器だが、それより気になるのは。

「瓜畑さん、それの実証試験ってしました?」

「これからだ!なに、俺の作った武器だ。何の心配もいらん!ええと、ここをこうして……」

 自信満々に言い切ってなにやらゴソゴソと『ロンギヌス(仮)』を弄る瓜畑さん。

「ようし!設定完了!後はこのスイッチを押せば……!」

 

ゾクッ!

 

「シャル!本音!」

「「えっ!?」」

 背中を走った悪寒を信じ、二人を抱きかかえて瓜畑さんから距離を取った次の瞬間!

 

ズバババババッ!!

 

「ぎゃあああああっ!?」

「「きゃあああああっ!?」」

 『ロンギヌス(仮)』から凄まじい電流が迸り、瓜畑さんに直撃。瓜畑さんは全身から煙を上げながらバッタリと倒れた。

「あ、あわわわわ……」

「つ、九十九……。あの人、死んじゃったんじゃ……」

 震えながら私に訊いてくるシャル。それに対し、私は嘆息混じりに答えた。

「大丈夫だ。ラグナロクの技術者は……」

「あー、死ぬかと思ったぜ」

「あのくらいじゃ死なない人ばかりだ」

「「生きてるうううっ!?」」

 何事も無かったかのようにむっくりと起き上がる瓜畑さんの姿に驚きの悲鳴を上げる二人。よく見ると、さっきまで体中にあった焦げも煤もどこにも無い。まるっきりギャグ漫画みたいだな、この人。

「いやー、うっかりうっかり。俺とした事が出力調整をミスっちまったぜ」

 服を叩きながらなんでもないように言う瓜畑さん。

「いやいや、今のを出力調整ミスで片付けないでください!」

「っていうか、なんでケガもコゲも立ち上がった瞬間に無くなってるの〜!?」

 目の前の出来事が信じられず、アワアワする二人。私はその二人の肩に手を置き、こう言った。

「シャル、本音。一つ良い言葉を教えよう」

「「な、なに?」」

「『ラグナロクだから仕方ない』。この一言で、大抵の事は受け流せる」

「「そうなんだ……?」」

「そうなんだ」

 小首を傾げる二人に、私は重いため息と共に頷いた。こうでも思わないと気疲れが半端ではないからな、この会社。

 

 

 「早速再調整だ!」と言って研究室に戻って行く瓜畑さんを見送ってから、私達は一度地上一階に出て来ていた。

 のっけからインパクト抜群の出会いをしたためか、シャルと本音は若干げんなりしているように見えた。

「私が謝っても仕方ないが、すまないと言っておく」

「う、ううん。大丈夫だよ」

「ちょっとすごく驚いただけだから〜」

 謝る私に気にするな、とばかりに顔の前で手を振る二人。だが本音、ちょっと凄くってどっちだ?

「さて、では気を取り直して。まずはどこに行こうか?何処か見てみたい所はあるか?」

「うーん、そうだね……」

「つくもんのおすすめは~?」

「そうだな……」

 どこに連れて行こうかと思案していると、後ろから声をかけられた。

「なら、服飾部に来ない?私が案内してあげるわよ♡」

 振り返ると、そこには190㎝はあろうかという長身の男性が立っていた。

 浅黒い肌の筋骨隆々とした体付きに、顎先にヒゲを蓄えた男臭い顔立ち。しかし、内股気味の足とクネクネと動く腰が、彼の精神が『女』であるという事を理解させる。

 私達に声をかけたのは、ラグナロク服飾部直営のコスプレグッズ専門店『ヴァルハラ』店長、ボビー丸合さんだった。

「ボ、ボビー店長。お久しぶりです。今日はこちらでしたか」

「ひさしぶり、九十九ちゃん♡そうなのよ。今日は服飾部で新ブランドの立ち上げがあってね」

「そ、そうですか……では私達はこれで。服飾部の見学はまたの機会に。行こうか、二人共」

 何となく嫌な予感がした私は、二人を連れてこの場から離脱しようとして−−

 

ガシイッ!

 

 ボビー店長の太い腕を肩に回されて身動きを封じられた。

「あん、そう言わないの♡ちょっと九十九ちゃんに協力して欲しい事もあるし、ね♡」

「シャル、本音、た、助け……あーれー!」

「「つ、九十九(つくもん)〜!」」

 「ほほほ」と笑いながら私を引きずって行くボビー店長を、シャルと本音が慌てて追いかける。

 せめて離して貰おうとしているのか、私の肩に回されたボビー店長の腕にしがみついた本音。だが、そんな本音の行動を全く意に介さず、それどころか「今離すとかえって怪我するわよ?」と本音に忠告して、そのまま私ごと引きずって行く余裕さえあった。どんなパワーしてんの、この人!?

 ちなみに、シャルは私達のやり取りを見て自分では敵わないと悟ったのか、ボビー店長の後ろを大人しく付いてきていた。

 「ゴメンね」と言うシャルに「気にしなくていい」と返す私。誰だって合計体重約120kgを軽々引きずる男に立ち向かおうとは思えないからだ。

 

「で、結局またこうなるのか……」

 ラグナロク・コーポレーション本社ビル7階。服飾部、会議室。

 そこに連れて来られた私が服飾部の社員達によってあれよあれよと言う間に着せられたのは、一着の黒いレディーススーツだった。

 ジャケットとブラウス、腰にピッタリとフィットするタイトスカートにピンヒールのパンプスとストッキングの5点セットだ。ご丁寧にロングのウィッグをつけられ、化粧まで施され、ぱっと見は完全に女にされている。

 しかし、一つだけ妙な点がある。このスーツは間違いなく女物のはずなのに、それなりに体格が良い私が着ても窮屈ではないのだ。

「つくもん、すっごい似合ってるよ〜」

「うん、ぴったり」

「あまり嬉しくない評価をありがとう。それでボビー店長、この服は一体……」

「よくぞ訊いてくれたわ!それこそ、ラグナロク服飾部が自信を持ってお送りする新ブランド、『アマゾネス』よ!」

 

バン!

 

 と効果音が聞こえそうな勢いでボビー店長が紹介した新ブランド『アマゾネス』は、身長170cm以上の比較的大柄な女性をターゲットにしたもので、『大女でもオシャレがしたい!』を合言葉に、フォーマルからカジュアル、クールからフェミニンまで幅広く取り揃えた、ラグナロク服飾部の威信を賭けた勝負のブランドなんだとか。

「それでね、何処かにちょうどいいモデルさんがいないかしらって探してた所に九十九ちゃんがいてね♡」

「ああ、丁度いいやと連れてきて、無理矢理服着せて、写真撮ってカタログにしてしまおう。と、そういう事ですか」

「そういう事♡ああ、心配しないで♡顔は写さないようにするから♡」

「断ると言ったら?」

「あの二人にお願いさせるわ♡それなら断れないでしょ?」

 ボビー店長が目をやった先では、シャルと本音がハンガーラックの前で「これ似合いそ〜」「九十九にはやっぱりこういうクール系じゃないかな?」とあれこれ品定めをしていた。

恋人達(ブルータス)、お前もか)

 もはや退路はなし。私には着せ替え人形になる覚悟を決める以外に道は残されていなかった。

 

 後日、九十九の下に送られてきた『アマゾネス』のカタログには、様々な女性服を着た九十九がバッチリ顔まで載っていて、九十九がショックで半日寝込んだ上、『ラグナロクの新ブランドのカタログ、写真の女性はひょっとして九十九ではないか?』と学園中で噂になる事になるのだが、この時の九十九にそれを知る由はなかった。




切りがいいので今回はここまでで。

次回『続・ラグナロクの愉快な仲間たち』

お楽しみに!

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