転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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明けましておめでとうございます。
タイトルまんまです。それでは、どうぞ!


#EX 唐突に降りてきた初夢干支ネタ集

CASE1 子年

 

 夢空間に突如として鳴り響くエレクトリカルな行進曲。音のする方に目をやると電飾を装った大型車。その上に乗っているのは、世界一有名なあのネズミだ。

「みんなー!ハッピーニューイヤー!ハハッ!」

 やけに耳に残る高音域の声で愛想を振りまきながら、彼は私の前を通り過ぎて行った。

「……いや、著作権法的に出して大丈夫!?作者消されない!?」

 

 

CASE2 丑年

 

「…………」

「あのー、ここ何処です?何で私ここに居るんでしょう?」

 いきなり私の目の前に現れたのは、直立二足歩行する眼鏡をかけたホルスタイン(乳牛)。女性とも少年とも取れる声で、困惑を口にするその様は、とても人間臭い。というか−−

「この人は()()()()()()()()()だから!あっ、すみません先生ここにサイン下さい!」

「あっ、はい」

 世界的な人気を誇る某ダークファンタジー漫画の作者を引っ張ってくるなよ!会えて嬉しかったけども!

 

 

CASE3 寅年

 

「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。私、生まれも育ちも東京葛飾柴又です。渡世上故あって、親、一家持ちません。カケダシの身もちまして姓名の儀、一々高声に発します仁義失礼さんです。帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎。人呼んでフーテンの寅と発します。皆様ともどもネオン、ジャンズ高鳴る大東京に仮の住居まかりあります。不思議な縁持ちまして、たったひとりの妹のために粉骨砕身、売に励もうと思っております。西に行きましても東に行きましても、とかく土地土地のおあにいさん、おあねえさんに御厄介かけがちなる若造でござんす。以後見苦しき面体お見知りおかれまして、恐惶万端引き立って、よろしくお頼み申します」

 立て板に水とはこの事か。と感心する見事な仁義切りを披露したのは、モスグリーンの中折れ帽を被り、水色の七分丈のシャツに肩がけにしたベージュのジャケットと同色のスラックス。足元は裸足に雪駄履き、古びた旅カバンを手に提げた中年男性。

 ギネスブックに『一人の俳優が演じた最も長い映画シリーズ』として掲載される国民的映画の主人公が、そこに居た。

「ああ、うん。寅だな……確かに寅だ」

 この後、喧嘩売の口上にまんまと釣られて木彫りの虎(不用品)を買ってしまった。何してんだろ、私……

 

 

CASE4 卯年

「イイイヤッハーッ!」

 私の周りをテンション高く走り回るのは、二足歩行のウサギ。全体にデフォルメが効いていて、なんか小さくて可愛い。が、こうもドタバタされると流石に鬱陶しい。

「ヒャッハー!」

「なあ、君。そろそろ落ち着「プルルルルハアッ!」−−いや、だから落ち着「ハーッ!」−−」

 こちらの言葉に全く耳を貸す事なく、大暴れに暴れるデフォルメウサギについイラッとして思い切り目を合わせて「……落ち着け、な?」と言った結果、彼が震えながら服従ポーズを取ったのは言うまでもない。

 

 

CASE5 辰年

 

 突然空が暗くなった。何事かと周囲を見回すが、見える範囲には誰も、何も居ない。はて、これは一体どうした事か?と思っていると、頭上からでんでん太鼓のなる音と『あの昔ばなしアニメのテーマ』が聞こえてきた。

「……っ!?まさか!」

 ハッとして空を見上げると、そこには赤い半纏と腰巻きを身に着けた男の子を背に乗せた龍が悠然と泳いでいた。……ああ、はい。辰ですね、間違い無く。珍しく何の捻りもないなぁ、今回。

 

 

CASE6 巳年

 今年の干支、蛇を探して夢空間をウロウロしていると、それは唐突に眼前に出現した。

「段ボール箱……?何でこんな所に……?」

 成人男性一人くらいなら楽に隠れられそうな大きさの段ボール箱が何故か逆さまの状態で置いてあるのだ。その中から、微かだが人の気配がしている……気がする。それがどうにも気になってそっと近づくと、ガバッと段ボール箱が動き、中からタクティカルスーツに身を包んだ精悍な顔つきの壮年男性が飛び出して、重厚さを感じる渋い声で「待たせたな」と口にした。

 「いや、別に待ってないです」とは言えず、満足そうに去っていく彼の背を見つめる事しかできなかったが……それで良かったんだろうか?

 

 

CASE7 午年

 

 今、私の目の前に居るのは様々な意匠の勝負服(ドレス)を身に纏う見目麗しい少女達。アイドルグループだと言われても信じてしまいそうだ。個性豊かな彼女達だが、一つだけ共通している点がある。それはウマ耳。それもそれっぽいカチューシャとかではなく、頭頂から本当に生えているように見える。もしかして、彼女達がそうなのか?

「失礼、お嬢様方。お名前を頂戴できるだろうか?」

 そう訊くと、彼女達は自己紹介を始めた。彼女達が名乗ったその名は、そっち方面に疎い私でも聞いた事のあるものだった。

 スペシャルウィーク、サイレンススズカ、トウカイテイオー、ナリタブライアン、ゴールドシップ、シンボリルドルフ、オグリキャップと、超一流競走馬の目白押し。なるほど、ウマだね。見た目完全に女の子だけど確かにウマだね。何でも擬人化、萌キャラ化する日本人って、本当に未来に生きてると思うよ。

 

 

CASE8 未年

 

「やっほ〜、つくも。今年はわたしだよ〜!」

「ああ、君か(本音)さん。良かった、変なのが出て来なくて。今年は安心だな」

 今年やってきたのは、初夢生物の一匹、羊の本音だった。彼女が来たなら意味不明な事態にはならないだろうと安心できる。

「じゃあ、はい。おいで〜、つくも」

 ホッと胸を撫で下ろす私に、本音は両手を広げたいわゆる『ハグ待ちポーズ』をとって見せる。その魅力に抗えず、私は本音を抱き締めた。瞬間、圧倒的な柔らかさが私を包んだ。

「おお……フワモコだ。これは癒やし効果が凄いぞ。ああ駄目だ……幸せ過ぎて意識が落ち……ぐう

「つくも!?ここで寝ちゃったらあっちに戻っ−−」

 目覚めると自室のベッドの上だった。チクショウ、もっと堪能したかった!

 

 

CASE9 申年

 

 今回の夢空間は海の上、帆船の甲板上だった。但し、その船は『世界一有名な海賊漫画』の主人公一味の乗る船のようだ。

 デフォルメされたライオン……ライオンだよな?が付いた特徴的な船首と船の上のミカン畑、そして帆にはデカデカと『麦わら帽子を被った海賊旗』が描かれている。うん間違い無くサニー号です、本当にありがとうございます。

「ん?誰だお前?」

 後ろから声をかけられて振り向くと、そこには一人の少年。頭には年代物の麦わら帽子、左目元の傷痕、疑うという事を知らなそうなキラキラした眼、細身ながら鍛え上げられた肉体に纏うのは赤いノースリーブとデニム風の見た目の短パン。間違い無い、彼は……!

「そう言う、貴方は……?」

 私の誰何に、少年は胸を張り、人好きのする笑みを浮かべて堂々と言い放った。

「俺はモン○ー・D・○フィ!海賊王になる男だ!」

 ですよね!こんな所(夢空間)に超大物呼んでくんじゃねえよ!大丈夫か!?この作品消されないよね!?ねえっ!?

 

 

CASE10 酉年

 

 ふと気付くと、そこは籠城戦中の城の中だった。既に兵糧も底をつき、士気も下がり気味だが、兵士達の目には未だ諦めの色はない。一部の兵の中には、何かを待っているかのように城壁の向こう側を何度も見に行く者の姿もあった。

 気になって城壁の向こう側を覗くと、そこには周囲を埋め尽くさんばかりの武田四つ菱の旗指し物。どうやら彼らは武田軍と敵対しているようだ。すると、城の外を見ていた兵達がざわつき出す。武田軍の陣前に誰かが引き出されたようだ。

強右衛門(すねえもん)!」

「強右衛門じゃ!」

「強右衛門、織田の援軍は……!?」

 歌手で俳優の岡崎体育ソックリの見た目の彼は、こちらに向けて「織田の援軍は来ない」と告げた。その報を受けて悲嘆にくれる城内の兵達。強右衛門と呼ばれた男は、武田の兵から巾着を受け取るといそいそとその場を後にしようとしたが、その瞬間巾着を取り落とし中身(砂金)がこぼれ出る。しばらく呆然とそれを眺めていた強右衛門だったが、落ちた巾着を手に取らずその場で振り返り、意を決したかのように大声で叫んだ。

「嘘じゃ!織田の援軍はあと二、三日の内に来る!皆の衆!それまでの辛抱じゃあっ!」

 強右衛門の(武田軍的に)裏切りに激昂した(多分)武田勝頼は、彼を磔刑に処した。しかし、命懸けの忠義を見せた強右衛門の姿は味方の兵達のみならず、武田軍の心をも打ったようだった。

 彼の名は()()強右衛門。後の世に『戦国の走れメロス』として名を残す事になる男である。

 彼のフルネームを知ってなきゃ、これが酉の干支ネタって絶対わからんぞ!?

 

 

CASE11 戌年

 

「む、どうやら君がこの世界の主で間違いないようだな」

 今回の干支ネタは何が来るのかと思いながら歩いていると、青と白の毛並みが美しい犬頭の人間……獣人が現れた。

「君が現れた以上、私は私の役目を果たすとしよう。行くぞ!」

 気合の入った声で彼が言うと、懐から何かを取り出す。それはメカメカしい外見の警察手帳のような物。それを腕を伸ばして前に突き出すと、声を張り上げた。

緊急変身(エマージェンシー)!デ○マスター!」

 叫ぶと同時に、彼は警察手帳上部の白いボタンを押す。すると、警察手帳のような物のカバーが開き、犬の横顔が特徴的な紋章が姿を見せる。瞬間、彼の体が眩い光に包まれたかと思うと、黒を基調にしたタイトスーツにスチールブルーのアーマーを身に着けた『圧倒的強者』の気配を漂わせるヒーローに変わっていた。

「百鬼夜行をぶった斬る!地獄の番犬!○カマスター!」

 決め台詞、決めポーズでビシッと決める目の前のヒーロー。カッコいい、確かにとてもカッコいい。んだが……。

「ネタ扱いする方が失礼な程のレジェンドスター呼んでくんじゃねええええっ!」

「何を言っているんだ君は?」

 とんでもない大物戦隊ヒーローの登場に思わず突っ込んでしまった私は、誰かがなんと言おうと悪くない!

 

 

CASE12 亥年

 

 またしても放り込まれた夢空間で、私は今回の干支……猪を探し回っていた。

 余談だが、日本では猪が十二支に名を連ねているが、中国では豚らしい。これは単純に『当時の日本に豚が居らず、それっぽいので代替したから』なんだとか。

 

閑話休題(それはそれとして)

 

「やれやれ、方方探したが今回はなかなか見当たらんな……」

 おおよそ3時間は探し歩いたが、それっぽい存在は影も形も見えない。これは長期戦になりそうだなと思っていると、聞き馴染みのある声が後ろから掛けられた。

「あ、九十九!探したよ!」

「シャル?どうしてここに……待て、何だその格好」

 現れたシャルの格好はいわゆる『猪娘』とでも言うべきものだった。猪耳のカチューシャを頭に着け、首には猪の牙のネックレス。猪の毛皮っぽい見た目のビキニ水着とパレオが野生的な可愛らしさを演出している。……あれ?でもここでシャルが出てくるって事は−−

「えーっと、君が今回の干支ネタって事でいいのだろうか?」

「あ、うん。ゴメンね、特に何のネタって事もなくて」

「まあ……いいんじゃあないか?作者も人間だ、ネタ切れくらい起こすだろうさ」

 私が頷きながらそう言うと、どこか遠くの方から『ゴメンて……』と聞こえたような気がした。

 

 

「今日で連続12日……。ホントなんなんだよ、この夢」

 干支ネタとか普通初夢で見るもんじゃないの?何でこんなどうという事もないタイミングで見るんだよ。もしかしてアレか?自称知恵と悪戯の神(ロキ)の嫌がらせか?だとしたら効果覿面だからもうやめて貰えませんかねえっ!?




本年も拙作をどうぞよろしくお願い申し上げます。

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