転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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明けましておめでとうございます。
毎度の新年一発目。今回はシャルロット&本音編と九十九編の二編をお送りします。
まずはシャルロット&本音編をお楽しみ下さい。


#EX 新春特別編 初夢3 Side C&H

 その日、シャルロットの目を覚まさせたのは、暖かな太陽の光と頬を擽る柔らかい風だった。

「ん……あれ?」

 寝ぼけ眼で辺りを見回したシャルロットは、おかしな事に気付く。

 自分は本音と一緒に九十九の実家に新年の挨拶をしに行った後、九十九と神社にお参りに行って、八雲のお節料理に舌鼓を打ち、「どうせだから泊まってって」と言う八雲の好意に甘えて九十九の部屋の隣を借りて床に就いた筈だ。だったら何故−−

「何でこんな草原のど真ん中にいるの!?」

 そう。今現在シャルロットが居るのは見渡す限りの大平原。遠くには山が見え、空を見れば雲一つ無い晴天。

 ここは一体何処なのか?パニックに陥ったシャルロットの耳に、小さな衣擦れの音が届いた。ハッとして下を見ると、そこには幸せそうな笑顔で寝息を立てる本音が居た。

「本音、ねえ起きて本音」

 シャルロットが本音の体を軽く揺すると「ん……」と僅かに反応。

「本音、起きてってば!」

 焦りから思わず声を荒げるシャルロット。すると本音は半分以上寝ている状態でこう答えた。

「ん〜……あと5分……」

 

ピキッ!

 

「分かった。あと5分だね……なんて言うと思う!?」

 

バサアッ!

 

 シャルロットが勢い良く本音に掛かっていた布団を引き剥がすと、本音は「わひゃあっ!」と小さく叫んで飛び起きた。

「う~、ひどいよつく……あれ?しゃるるん?」

 眠そうに目を擦る本音にシャルロットは「おはよう」と声を掛けた。それに本音は「おはよ〜」と返した後、辺りをキョロキョロと見回して溜息をついて呟いた。

「今年もか〜……」

「え?今年もって……あっ!?ひょっとしてここって……」

「うん。つくもんの夢世界だよ~」

「じゃあ、去年と同じように縁起物を探して回ればいいんだね、つく……あれ?九十九は?」

「ほえ?」

 シャルロットがそう言うので周囲をくまなく見回す本音。だが、九十九の姿は何処にも無い。

「いないね〜」

「ひょっとしたらどこか別の所にいるのかも。縁起物を探し回っている内に見つかると思うよ」

「おっけー。じゃあ、れっつご〜」

 こうして、シャルロットと本音の縁起物探し珍道中が幕を開けたのだった。

 

 

 しばらく歩いた先でシャルロットと本音が見つけたのは四人の男女。

 猿顔に長いモミアゲ、その身を黒いシャツと赤いジャケット、グレーのスラックスで包んだ軽薄そうな男。

 立派な顎髭を生やし、濃紺のセットアップを着崩して、頭にはソフト帽を目深にかぶったダンディズム溢れる男。

 肩までかかる長髪に和装、手には白鞘の刀を携えた、どこか『サムライ』を感じさせる男。

 そしてもう一人。これがとんでもなかった。

 腰まで届く豊かな髪は光を受けて輝いている。その顔は男なら振り返らずにはいられないだろう程に美しく整っている。

 出ている所はとことん出て、引っ込んでいる所はこれでもかとばかりに引っ込んでいる肉感的な肢体に黒のライダースーツを纏ったその姿は、正しく『神の造形』と言うべきだろう。が、何故だろうか?シャルロットにはその女が途轍もない『悪女』に感じられた。

「あ~っ!あの人は~!」

 その顔に見覚えがあったのか、本音が叫び声を上げた瞬間、猿顔の男が女に飛び掛かる。

 一体どうやればそんな事が出来るのか、猿顔の男は自身の服の襟首からトランクス一枚で飛び出す、という珍技を披露。女に襲い掛かる。

「あっ!危ない!」

 シャルロットが思わず叫んだ次の瞬間、これまた何をどうしたのか、女の胸からバネ仕掛けの巨大ボクシンググローブが飛び出して猿顔の男を吹き飛ばした。

 それを脇で見ていた二人の男達は、揃って盛大なため息をつくのだった。

 そのまま猿顔の男を放って何処かへと立ち去っていく男達と女。しばし呆然としていたシャルロットだったが、ハッとして本音に訊いた。

「ねえ本音。ひょっとして、あの人たちが……」

「うん。あの女の人の名前がね~『不二子』っていうんだ〜」

「そ、そうなんだ。ちなみに、あのサルっぽい顔の男の人の名前は?」

「ルパン三世〜。アルセーヌ・ルパンの孫なんだ〜」

「……えっ!?」

 

 シャルロット・デュノア、布仏本音。第一の縁起物『富士(不二子)』発見。

 

 

「どっちもフィクションとはいえ、フランスの大怪盗の孫があんなのってどうなんだろう?」

「そこは深く考えない方がいいよ~」

 溜息をつくシャルロットを本音がその肩を叩いて慰める。そのまま暫く行くと、一人の男性が立っているのが見えた。

 ブランド物と思しき仕立てのいいスーツを着こなした、20代後半から30代前半の、責任感の強そうな瞳と、それとは裏腹の脇の甘そうな気配のする人物だ。

 腰には右に小さな日本刀のようなパーツ、左には白い仮面の横顔が入った大きなバックルの付いたベルトを着け、右手にメロンの様な柄の付いた錠前を持っている。

「あ、あの人知ってる〜」

「え?誰なの?」

「うん、あの人はね~……」

 シャルロットの誰何に本音が答えようとした矢先、男性は錠前のロックを外す。すると錠前から『メロン!』とウィスパーボイスが流れ、空中にジッパーが現れて開き、そこからメタリックな巨大メロンが出てくる。

 男性はそのまま解錠した錠前を高々と放り投げ、落ちて来たそれを掴むとその流れでバックルに装着。外したロックを改めて締めると『ロックオン!』のウィスパーボイスの後、法螺貝の音が高らかに響き渡る。

「……変身」

呟く様に言った男性が日本刀のようなパーツの柄部分を押し上げると、刀部分が錠前のメロンを輪切りにする。

『ソイヤッ!メロンアームズ!天・下・御・免!』

 ウィスパーボイスの後、男性の体には一瞬で白い全身タイツのような物が身に着き、直後にメタリックなメロンがその頭上に落ちるとそのまま展開。男性の体に鎧の様な形で装着された。

 果たしてそこに現れたのは白い鎧武者。各所にメロン特有の網目模様の入った鎧と、左手に提げた大きな盾が印象的だ。

「お〜!」

「え?何あれ?何でメロン被ってああなるの!?」

 感嘆の声を上げる本音と変身シークエンスの無茶苦茶さに驚くシャルロット。すると、鎧武者は溜息をついて天を仰いだ。

「これで良いのか?……そうか。では、さっさと元の世界へ帰せ。仕事が押している」

 鎧武者は誰かと話しているかのような独り言の後、謎の光と共に忽然と消えた。

「えっと……結局あの人誰?」

「『タカ』さんだよ〜」

「え?じゃあ、あの人が……」

「うん。二つ目の縁起物って事だね~」

 

 シャルロット・デュノア、布仏本音。第二の縁起物『鷹(貴虎(たかとら))』発見。

 

 

「いや~、いいもの見ちゃったな~。かんちゃんに自慢しよ~」

「しても信じてもらえないと思うよ?」

 「ここ、夢の中だし」とシャルロットが言うと、「あ~、そうだったね~」と残念そうに本音が漏らした。

 そのまましばらく歩いていると、二人の耳に潮騒の音が届いた。

「「え?」」

 音のした方に目を向けると、そこには白い砂浜と蒼い海が広がっていた。砂浜には大勢の騎馬武者が轡を並べ、海には鎧武者の乗った船が何十と浮いている。

 騎馬武者の陣には白旗がはためき、船には赤旗が靡いている。そのシーンに、本音は見覚えがあった。

「これってひょっとして、屋島の戦いかな~?」

「屋島の戦いっていうと、源氏と平家の?」

 コクリと本音が頷くと、一艘の小舟が船団から進み出て来る。舟の上には十二単を着た女官と船頭役の足軽が一人。

 それを見て馬を走らせたのは一人の若武者。手に弓と鏑矢を持ち、波打ち際に馬を横付けする。

 互いの距離は約70m。波はやや高く、風もある。もしこれが有名な『あのシーン』なら−−

「あの女官さんが的の扇を取りだして〜、それをあの人が射抜くんだけど〜……」

「その的がタダの『扇』とは限らないっていうのが、この夢世界なんだよね……」

 そう言いながら推移を見守るシャルロットと本音。果たして女官が的として取り出したのは巨大な磔台。そこにはモジャモジャした前髪とバンダナが特徴の、何故だか土壇場で自分のリーダーを裏切りそうな雰囲気の男性が磔にされていた。

「えっ!?ちょっと待って!?何これ!?どういう状況!?」

 男性は自分が何故こうなっているのか分からないらしく、頻りに「説明してくれ!」「ここは何処なんだ!?」「なんで俺がこんな目に!」と叫んでいるが、女官はまるで聞こえていないかのように無表情で磔台を支えている。

「ちょっとお姉さん!聞いてます!?まず説明……え?前?……え!?いや、待って!?なんであの人弓なんて構えて……まさか!?」

 男性は己の運命を悟ったのか必死に磔台から逃げようとするが、両手足を縄でガッチリ固められている為逃げられない。

 そうこうしているうちに若武者が弓に矢をつがえて引き絞り、的である男性に向かって狙いを定め……。

「南無八幡大菩薩……はっ!」

 矢を放った。

「いっ……嫌だあああああっ!!」

 的の男性の絶叫も虚しく、矢は男性目掛けて真っ直ぐ飛んでいく。当たる!とシャルロットと本音が思ったその瞬間。

 

ピンポンパンポーン♪

 

『残虐シーンにつき、18歳未満の視聴を制限いたします。しばらくお待ちください』

「「……え?」」

 目の前に突然そう書かれた看板が現れた。どうやらこの夢世界はそういう配慮が利くようだ。

 しばしの後、看板が消えたその先で展開されていたのは、他の騎馬武者から「凄いじゃないか!」「よっ!那須与一(なすのよいち)!日の本一!」と他の武者達から口々に賛辞を受ける若武者と、波間に漂うモジャ毛とバンダナを見て「ああ……」「これで我等一門も終いか」と絶望の溜息をつく船に乗った武者達。という対象的な二組のシーンだった。

「えっと……名前にナスがあるってことはつまり、あの人が三つ目の縁起物って事で……いいの?」

「四つ目の縁起物もあったから〜、これであと二つだね~」

「あ、そうなんだ」

 そう返事をしたシャルロットだったが、あのモジャ毛の男性が一体どうなったのかがどうにも気になってしまうのだった。

 

 シャルロット・デュノア、布仏本音。第三の縁起物『茄子(那須与一)』、第四の縁起物『扇(前髪モジャ男)』発見。

 

 

「結局、あの前髪モジャモジャの人はどうなったんだろう?」

「さあ〜?」

 何か釈然としない思いを抱えつつ先へと進むシャルロットと本音。するとそこに狩衣を纏った中年男性二人組が現れた。

「ああ、困った」

「左用。一体如何すれば……」

 二人は何やら困っている様子で、ウンウン唸っては溜息をつくを繰り返している。

「あの……どうしたんですか?」

 気になったシャルロットが二人に話しかけると、二人はパッと顔を上げてシャルロットと本音を見て、シャルロットの手を取った。

「「お頼み申す!」」

「「……はい?」」

「実は……」

 二人によると、自分の仕える神様がとてつもなく不機嫌になっているのだそう。その原因というのが−−

「我等が神『八脚入道(やつあしにゅうどう)』様は、毎年この時期にうら若き乙女を差し上げなければ大暴れしてしまうのですが、今年はどうにも見つからず……」

 そう言い終えた所で二人はシャルロットと本音に美しい土下座を披露した。

「「お願い致します!どうか八脚入道様に差し上げさせてください!」」

「「ええっ!?」」

 そのお願いにシャルロットと本音は大いに慌てた。『差し上げる』とはつまり『そういう事』であると考えたからだ。

「で、できません!そんな事!」

「無理!絶対無理〜!」

「そこを曲げてお願い申し上げる!」

「我等を助けると思っ……て……や、八脚入道様……!」

「「え?」」

 青ざめた顔で呟いた中年男性。彼が見ている方に振り向くと、そこにはとんでもなく巨大な八本脚の軟体生物がいた。

「タ、タコ!?」

「うわ~、大っき〜」

 その威容に思わず後ずさりするシャルロットと、呆然する本音。するとタコはその脚で本音を絡め取った。

「ほえ?ひゃ、ひゃあああっ!」

「ほ、本音ーっ!」

 本音を絡め取った脚を自分の目の高さまで持ち上げたタコは、本音をジッと見つめた後、満足そうな笑みを浮かべると、徐ろに本音を頭上に翳す。

「あわ、あわわわわ……」

 恐怖に身を竦める本音。シャルロットは何とか本音を助けられないかと思案するものの、IS『ラファール・カレイドスコープ』が手元に無い(ネックレスを外して寝たため)事と圧倒的な体格差のせいで何もできない事に歯噛みした。

「くっ……。ごめん……ごめんね本音」

 嘆くシャルロットを他所に、タコがその脚を大きく縮めだす。

 遂にその時が来てしまった。そう思ったシャルロットだったが、それは予想の斜め上にかっ飛ぶ形で覆された。

 なんと、タコは縮めた脚を思い切り伸ばして本音を空中に放り上げ、それを受け止めてはまた放り上げる、を繰り返しだしたのだ。

「って、えええええっ!?」

「うひゃああっ!た、高い!高いよ〜!」

 シャルロットの驚きの声も、本音の悲鳴もどこ吹く風。タコは実にいい笑顔で本音を「ワッショイワッショイ」している。

「おお……八脚入道様。あんなに嬉しそうに差し上げられて……」

「これで今年も我等が社は安泰じゃ」

「胴上げなら胴上げって言ってよ!」

 感涙に咽ぶ中年男性二人組に思わずツッコんだシャルロットだった。

 

 シャルロット・デュノア、布仏本音。第五の縁起物『タバコ(字足らず)』発見。

 

 

「う~……ひどい目にあったよ~」

「災難だったね、本音」

 ひとしきり胴上げをして満足したのか、タコは本音をそっと下ろすと触腕()を振りながらどこかへ立ち去って行った。

 本音はすっかり目を回してへたり込み、回復にかなりの時間を要したのだった。

「今のタコが五つ目の縁起物だとすると、目の前のこの光景が『六つ目』ってことでいいのかな?」

「だと思うよ〜?」

 顔を見合わせる二人の前に現れたのは、『世界一多くの人が同時に通過する交差点』とそこを足早に渡っていく人の群れ。

 縦、横、斜め。あらゆる方向から人が来ていながらその行進は整然としており、人同士がぶつかり合う事がない。その様は一種美しくもあるのだが、『これ』を縁起物と言っていいのか激しく迷う。何故なら−−

「「これ、座頭って言うか雑踏だよ!」」

 シャルロットと本音のツッコミが交差点に響くが、それを気にする歩行者は一人もいないのだった。

 

 シャルロット・デュノア、布仏本音。最後の縁起物『座頭(雑踏)』発見。

 

 

「相変わらず斜め上だったけど〜……」

「これで縁起物は全部揃ったね。後は今年の干支を探すんだっけ。本音、今年の干支って?」

(とり)だよ~。じゃ〜探しに「その必要はない!」ほえ?」

 全ての縁起物を探し終え、最後に今年の干支『酉』を探しに行こうとしたシャルロットと本音を、草原に響く声が止めた。

 その声は二人にとって非常に馴染みのある声。もしやと思い辺りを見渡すと、そこにいたのは−−

「何故って?私が来た!」

 何故か筋骨隆々の肉体に彫りの深い顔立ちになった、何事にも全力(オールマイト)感のある九十九だった。

「「画風が違う!?どうしたの!?」」

「大丈夫だ。すぐに戻る」

 そう言うと、九十九はボフン、という気の抜けた音と共に元の姿に戻った。

「ふう、似合わない事をした」

「よかった〜。ゴリマッチョのつくもんなんてつくもんじゃないもん」

「うん。あ、そういえば九十九。さっき言ってた「その必要はない」ってどういう意味?」

 シャルロットの疑問に一つ頷いて九十九が答えた。

「それは、今年の干支担当が私だからだ」

「「ええっ!?」」

 意外な事実に驚くシャルロットと本音。その二人を見た九十九はしたり顔を浮かべて二人から離れる。

「では行くぞ。目を離すなよ」

 そう言って九十九が取り出したのは、陸上競技のトラックのような形の大きなバックル。バックルには三つのメダルを嵌め込むようなスリットが入っている。

 九十九が徐ろにバックルを腰に当てるとベルトが自動的に伸長、九十九の腰に巻き付いてバックルを固定した。

 ベルトの両側には分厚い円形の何かとメダルケースのような物が付いている。腰のメダルケースを開けて九十九が取り出したのは三枚のメダル。赤地に金の縁取りのメダルの表面にはそれぞれ『タカ』『クジャク』『コンドル』が刻印されている。

 それらのメダルを右手に一枚、左手に二枚持ち、両手を一旦胸の高さまで持ち上げると一枚ずつ右と左のスリットに挿入、次いで左手に持っていたもう一枚を中央のスリットに挿入すると、バックルを左手で押し下げて傾け、右腰の円形の何かを右手に取り、バックルの表面を右から左へ滑らせる。

「変身」

 

キンキンキンッ!

 

 金属音のような硬質の音が鳴った後、『あの有名アニソン歌手』によく似た歌声が響く。

 

『タカ!クジャク!コンドル!タージャードルー♪』

 

 瞬間、バックルに挿入したメダルと同じ柄と形の幻影が九十九の周りを飛び交い、上から『タカ』『クジャク』『コンドル』の順で並ぶと、眩しい輝きで九十九を包む。果たしてそこに現れたのは異形の戦士。

 黒を基調としたスーツに羽を広げた鷹の意匠のマスク、孔雀の尾羽のように見える肩アーマー、コンドルの力強さを象徴するかのような脛当て。それらは全て炎のような燃える赤で統一されている。

 胸にはバックルに挿入したメダルと同じ三羽の鳥が組み合わされたようなマークの付いたアーマー。これも赤い。

 左前腕には円盤型の盾のような物が付いている。

「むんっ!」

 その姿に呆然とするシャルロットと本音を他所に、九十九は背中から三対の翼を展開すると空へと飛び立った。

 ハッとして空を見上げるシャルロットと本音。その視線の先では、炎に身を包んだ九十九が空中を複雑な軌道を描いて高速で飛んでいる。九十九が飛んだ跡には飛行機雲が残っていて、それを見たシャルロットと本音は驚愕に目を見開いた。

 九十九が空に飛行機雲で描いた一文。それは、『Happy New year(明けましておめでとう)20XX.1.1 With love(愛を込めて)』という、新年の挨拶だった。

「「そ……」」

 

 

 

ガバアッ!

 

「「そう来たかー!」」

 

 叫びながら飛び起きるシャルロットと本音。二人は顔を見合わせると深い、それは深い溜息をついた。

「またあんな初夢……」

「言っても仕方ないよ~、しゃるるん」

 見てしまった夢はもう仕方ないと諦めて、九十九を起こしに行こうとすると、隣の部屋から九十九の叫びが聞こえた。

『そう来たかー!』

「「えっ!?九十九(つくもん)!?」」

 何かあったのか?慌てて九十九の部屋に飛び込むと、九十九がベッドの上で深い溜息をついていた。

「ん?ああ、君達か。おはよう」

「う、うん。おはよう。何かあったの?」

「すごい声だったけど〜」

「いや、なんでもないよ。……本当に、なんでも……」

 そう言う九十九だったが、何故かその日一日本音と目を合わせづらそうにしていた。その理由が全く分からず、本音は困惑するのだった。


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