元ネタを知ってる人は、お願いですから石を投げないで下さい。
♢
私、村雲九十九がIS学園に入学してから八ヶ月。暦は12月を僅かに残すのみとなった。
世間はすっかり新年を迎える準備を整え、行く年を惜しみ、来る年に思いを馳せている。
IS学園学生寮は盆と年末年始には休寮するため、生徒は自宅へ帰り家族や友人、あるいは恋人と思い思いの年末を過ごす。当然、私も例外ではない。
「第4回『男だらけの大忘年会』〜!!」
「「わ~……」」
大晦日、時間は16時。場所は私の部屋。弾の音頭で今年も始まる男の、男による、男のための忘年会。と言っても、目の前に並んでいるのはスナック菓子とジュースだ。しかし……。
「弾、言ってて悲しくならんか?」
「ってか、もう4回もやってんのな。この年末の集まり」
「うるせーっ!こうでもしないとやってらんねえんだよ!」
私と一夏のツッコミに、弾が「ウガーッ」とばかりに吼える。
というのも、弾と恋仲になった本音さんの姉「
まあ、恋人と過ごす大晦日がふいになれば荒れもするだろう。だが、私は弾のその話の内容に引っかかりを感じた。
「はて、おかしいな。では……」
言いながら自分の横を見る。そこにはいつの間に来ていたのか、テーブルのポテトチップスを美味しそうに頬張る女の子が一人。
「ん〜おいしい〜」
「ここにいるのは『何』本音さんだ?一夏」
「「…………」」
数瞬の沈黙。本音さんがポテトチップスを食べる音だけが響く。
「アイエエエッ!?ノホホンサン!?ノホホンサンナンデ!?」
「お、おい九十九!誰だこの可愛い子!?虚さんに似てるけど!」
「ふえっ!?なになに〜!?ど~したの!?」
騒然となる一同。かく言う私も驚いていた。
「いや、君がここにいたらおかしいはずだろう?『布仏』本音さん」
弾の話通りなら、今頃は更識邸にいないとおかしいはずなのだが、何故ここに?
「えっと〜それはね〜」
本音さんによると、毎年大晦日に行われるのは『当主会』と言って、更識家の当主と更識に仕えている各家の当主、次期当主が一堂に会して行われる定例会義なのだとか。
そこでは各家の活動報告や現当主の引退表明と次期当主の就任報告を行なったり、来年の活動方針を決めるための話し合いをするのだという。つまり……。
「自分は布仏の次期当主ではないから会議に参加できず、暇を持て余してここに来た……と。そういう訳だね」
「うん。だめだった〜?」
上目遣いでこちらを見てくる本音さん。破壊力抜群だな。
「「「いや、そんな事はないよ」」」
男三人で同じ答えを返す。それに本音さんはホッとした様子だった。
「良かった〜」
この後、初対面の本音さんと弾が互いに自己紹介。
そこで自分の恋人が旧家の名門の次期当主であると知った弾は「俺、すごい人と恋人同士になったんだな」と呟いた。
スナック菓子を食べながら、お互いこの一年であった事を語り合う。守秘義務があるため話せない事も多いが、楽しい一時だった。
「へー、そんな事がなー」
「それなのだがな弾。実は……」
「お、おい九十九それは−−」
「おりむ~、邪魔しちゃダメだよ〜」
と、他愛のない話をしていると。ピンポーンとチャイムが鳴った。
「はーい」
母さんが応対に出てしばし、私の部屋の前にゾロゾロと誰かがやってきた。
「九十九、お友達が来たわよ」
「ああ、入ってもらって」
さて、誰が来たんだ?母さんが疑いもせずに招き入れたのだから、母さんも知る人物だとは思うが。
ガチャ、とドアの開く音がして、入ってきたのは。
「邪魔するぞ」
「来たわよ一夏!あと九十九!」
「わたくし、殿方のお部屋にお邪魔するのは初めてですわ」
「えっと、ごめんね九十九。押しかけちゃって」
「来たぞ嫁よ!」
よりにもよってこの5人か。
「うおっ!?美少女軍団!?おい九十九!」
「わかっている。ちゃんと紹介するさ」
やれやれ、騒がしい年の瀬になりそうだ。
流石に私の部屋に9人も人は入らないので、居間に移動する。
席につく際に一夏の隣を巡ってラヴァーズが激戦を繰り広げたり、母さんが持ってきたツイスターゲーム(どこにあった?)をやった際に一夏がToLOVEるを巻き起こし、それを見た弾が血涙を流したり、夕食時にセシリアが作った料理を食べた一夏と弾が悶絶したりと、結局ドタバタとした騒がしい大晦日となった。
23時。皆が各自の家や宿泊先に帰った後、私は自分の部屋のベッドに倒れ込んだ。
「つ、疲れた。若い連中というのは、何故酒もなしにあのテンションを保てるんだ……」
いや、私も若いのだがそれは身体の話で、精神的には若いと言えないのだ。皆のテンションについて行けず、すっかり疲れ果ててしまった。風呂に入るのも億劫なのでこのまま寝てしまおうと、襲い来る眠気に身を任せる。
と、頭の中にイメージが浮かんでくる。牧羊犬の格好をしたラウラが羊の格好をした本音さんを連れてきて、私を見て立ち止まる。
「む?九十九が寝ようとしているな。寝やすいよう、羊を数えてやろう」
「ほえ?」
そう言ってラウラが用意したのは、炎の輪だった。おい、まさか……。
「さあ、跳べ!きびきび跳んで数を数えさせろ!」
ムチを地面に叩きつけて、本音さんを脅すラウラ。
「ふえーん!ムリだよ~!」
炎の輪の前でプルプル震える本音さん。
「か……」
♢
ガバアッ!!
「可哀想すぎて眠れんよ!!」
ねむれんよ!!ねむれんよ…むれんよ…れんよ…
空にこだまする私のツッコミ。って……。
「ここはどこだ?」
辺り一面の草原、遠くには山が見える。青い空には鳥らしき影が一つ。完全に見覚えの無い場所に私はいた。
一体これはどういう事だ?私は一旦自分のここに来るまでの行動を思い返す。
確か自分の部屋のベッドに入って、そのまま寝ようとして羊を数えて、それからツッコんだ。
「つまり……なるほど、これは夢か」
そこまで気付いて、私は頭を抱える。これが夢だという事は……。
「すまない羊さん。眠れてしまったよ……」
「ははは、九十九も意外と悪だよな」
後ろから声をかけられたので振り返るとそこにいたのは。
「よっ!富士役の織斑一夏だ」
富士山の格好をした一夏だった。サラリと変なのが出てきたなぁおい!
「ん?どうした九十九?」
私はその富士一夏の目を見ないようにしながら呟く。
「お前を一夏だと認めたら、各方面から強烈な批判が来そうでな……」
そういった私に一夏が笑う。
「ああ、まあ今回は夢オチだしいいんじゃないか?」
「だろうと思ったが言ってはダメだろう!」
「この格好か?これは初夢ってことで『一富士二鷹三茄子』から俺が富士の役を……」
「聞いとらん!」
「安心しろ。一番縁起の良い富士になったんだ、しっかりお前を幸せにしてみせるぜ!」
言って爽やかな笑顔を向けてくる一夏だったが、恰好は富士だ。
「その恰好でその顔はやめろ」
「だよなー」
「あと、お前が幸せを運んでくるとは到底思えん」
それを聞いた一夏が驚いた顔をする。
「なっ!?それはまさか、実は俺が富士じゃなくて別に縁起も良くないただの山だってことにもう気付いてたってことか!!」
「富士じゃないのか!?」
衝撃の真実に何故か怒りが湧いた。瞬間、自分の体が光に包まれ巨大になる感覚を覚える。見下ろすと足下に一夏がいる。どうやらかなり驚いているようだ。
「光の戦士!?」
「シュワッチ!(そこは隠し通せよ!)」
「すまん、取り乱した」
怒りに飲まれ、妙な事になった自分が恥ずかしい。多分赤面しているな、私。
「そ、そうか。戻ってきてくれてよかったよ」
ホッとした様子の一夏。
「流石に二人しかいないのにお前に暴走されると俺が困る。俺が叫んでツッコむのはギリアウトだと思うし」
「叫ぶツッコミがアウトなのはむしろ私の方だ。あと、お前はその恰好で十分アウトだ」
「そうか」
♢
ひとまず一夏と連れ立って平原を歩く。この夢が初夢なら、縁起物の残りは最低あと二つ。鷹と茄子だ。
「とりあえず残りを探すとしよう」
「鷹なら最初からいるぞ?」
空に目をやりながらそう言う一夏。見れば空には一羽の鳥の影。
「あれは鷹だったのか!?」
「遅いわよ!いつまで待たせんのよ!」
叫びながら私達の目の前に舞い降りる鳥の影。声から察するに鷹役は鈴だ。が……。
「鷹よ!」
胸を張って言う鈴だが、その姿は明らかに鷹ではない。金色の羽毛状のとさか。虹色に光る羽。この姿はあの伝説ポケ○ンの……。
「ホウ○ウだ!」
「かえんほうしゃ!」
着ぐるみ(?)の口から迸った炎は、私の横にいた一夏に直撃した。
「うおっ!?熱っ!?熱っつああああ!?」
火消しに転がる一夏を尻目に鈴がのたまう。
「九十九、人を見かけで判断しちゃダメよ。身体はホウ○ウでも、心は鷹よ!」
訪れる沈黙。私は意を決して一言。
「だが、ホウ○ウだろう?」
「……まあね」
これで縁起物のうち、富士(ただの山)と鷹(ホウ○ウ)が揃った。
「あとは茄子だな。この調子なら、存外近くにいるかもしれん」
「電話で聞いてみるか」
一夏が携帯を取り出すと、どこかへ電話をかける。
「携帯あるのか!」
というかどこに持っていた?中か?富士の中か?
prrr prrr
と、ごく近くの足元で電話の鳴る音がした。見てみるとそこには誰かの携帯が。
「落ちとるし……」
とりあえず拾い上げ、電話に出る事にする。
ピッ!
「あ、もしもし簪?」
「ほう、茄子は簪さんか」
「あれ?九十九?」
「思い切り地面に放置されていたぞ」
「なんだ、みつけたなら言ってくれよ」
あたりを見回すが、そんな影はどこにも無い。
「だからいないと……」
「あれ?ストラップ付いてないか?」
「ストラップ?」
携帯から耳を離してみると、チリンという鈴の音がした。
「ん?」
よく見るとそこには茄子の形のストラップが。まさか……。
「あ、あの……茄子です」
「いたーーっ!」
顔を真っ赤にした茄子役の簪さんがそこにいた。
♢
「とりあえずこれで揃ったわけだが、お前達だけか?」
「「「え?」」」
「ここが私の夢の中なら、私は初夢の縁起物に続きがあるのを知っているから、出てくるのではと思ってね」
初夢の縁起物と言えば『一富士二鷹三茄子』が有名だが、実はあと三つ縁起が良いとされる物がある。それは『四扇五煙草六座頭』だ。
末広がりで縁起がいい扇、煙が上へ登るため運気上昇の意味がある煙草、毛がない=怪我ないの語呂合わせで縁起を担いだ座頭(坊主)の三つだ。
「ああ、それであそこに見慣れない人達がいるのか」
「は?」
一夏と鈴が見ている方を向く。するとそこには……。
「あ、どうも。扇です」
なんだか土壇場でリーダーを裏切りそうな雰囲気のする、バンダナにもじゃもじゃした前髪の男。
「扇だけど……確かに扇だけど……」
「タバコ、ダーッ!」
赤いロングタオルを肩に掛けた、しゃくれ顎のプロレスラー。その手には、彼が日本に持ち込んだとされる調味料が握られている。
「多い!一文字多い!」
「…………」
頭の形からその名がついた巨大海洋生物。その下は何故か海になっていた。
「ザトウクジラ!人ですらないし!」
一通りツッコむと後ろから拍手が。
「「「お見事!」」」
「誰のせいだ!誰の!」
「今度こそ全部揃ったな。……で?」
「「「で?」」」
「起こしてくれんか!もういいだろう!?」
いい加減この夢の世界からさよならしたいのだ。私は。
「「そんな事できねえよ(できないわよ)」」
サラリとのたまう一夏と鈴。
「できないのかよ!」
「確かに俺達にはできない。けどさ、こんな時に一番役に立つ奴をお前は見つけたろ?」
爽やかな笑顔を向けてくる一夏。何やら周りの空気がキラキラして見える。
「……そうか、簪さんだな?って、だからその格好でその顔はやめろ」
「おう」
携帯を持ち上げ、目線の高さにナストラップな簪さんを持ってくる。
「では、簪さん頼む。夢から覚める方法を教えて欲しい」
「えっと、あの、この世界で寝ればあっちが起きます」
「……それだけかね?」
「それだけ……です」
なんというか、拍子抜けするほど簡単だった。
という訳で現在、草原に(何故かあった)布団を敷き、眠ろうとしているわけだが……。
「「「じーーー」」」
「…………」
縁起物三人組にじっと見られていてどうにも寝付けない。と、そこに牧羊犬のラウラが羊の本音さんを連れてきた。
「む?九十九が寝ようとしているな。では、羊を数えてやろう」
そう言って持ってきたのは炎の輪だった。おい、まさかまた……。
「さあ、跳べ!きびきび跳んで、数を数えさせろ!」
ムチを地面に叩きつけて、本音さんを脅すラウラ。
「ふえーん!ムリだよ~!」
炎の輪の前でプルプル震える本音さん。
「だ……」
♢
ガバアッ!!
「だからそれはやめんかーーっ!」
叫びながら飛び起きる。ふと気づくと、そこは私の部屋だった。つまり、向こうで眠れたという事で……。
「…………」
コンコン、ガチャ
「つくも~ん、あけましておめでと〜」
扉が開き、本音さんが部屋に入ってきた。年始の挨拶に来たらしい。
「ああ、本音さん。あけましておめでとう……その、すまない」
「ほえ?なにが~?」
「いや……すまない」
結局この日一日、私は本音さんの顔をまともに見る事ができなかった。
♢
「という夢を見たのだ」
時は6月上旬。場所はIS学園一年生寮食堂。私はそこで本音さん、相川さん、谷本さん、夜竹さんと朝食を取りつつ、昨夜見たおかしな夢の話をした。
「初夢を見る夢を見るって……」
「つくもんって器用だね~」
「いや、そうじゃないでしょ本音」
「えっと、面白いですね」
「いやまったくだ。なんでこんな時期に初夢の夢なんぞ見たのやら……」
ひょっとしてあの
だとしたら、今夜の夢に出てきたらワンパン入れておかねばな。
そう思いつつ朝食を食べ終えて席を立つ。今日は朝からISの実習だ。気合入れていこう。