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ここIS学園では、週に一度生徒会が昼休みの時間を利用した全校放送を行っている。
扱う内容は様々で、生徒会からのお知らせや質問コーナー、生徒会メンバーによる短い朗読劇など多岐にわたる。で、今回は−−
「『教えて!村雲九十九くん!』のコーナー!」
「わー……」
やたらテンション高くコーナー振りをした楯無に、ゲストの九十九が応えた。
ただ、九十九は自分がやり玉に挙げられるとあって、そのテンションは著しく低いものだったが。
「このコーナーは皆様から送られたお手紙を元に、ゲストの村雲九十九くんに色々聞いちゃおう!っていうコーナーです!九十九くん、覚悟はいいかしら?」
「どうせ『出来てない』って言ってもやるんでしょう?さっさと始めてください」
「オッケー!じゃあまずはペンネーム『村雲九十九くん大好きっ娘』さんからの質問です!」
「何そのベタなペンネーム……」
「あん、そういうのはいいっこなしよ!『会長、村雲くん、こんにちは』はい、こんにちはー」
「こんにちは」
「『早速ですが質問です。村雲くんはどんな女の子がタイプですか?是非教えてください』ですって。九十九くん、お答えは?」
「そうですね、やはり落ち着いた、騒がしくない、隣に居られて苦痛でない女性、でしょうか。そういう意味ではシャルと本音はストライクですね」
「サラッと惚気けてくれるわねぇ……。だそうよ『村雲九十九くん大好きっ娘』さん。では次のお手紙です。ペンネーム『村雲九十九絶対殺すウーマン』さんからの質問です」
「あの、ペンネーム物騒なんですけど……」
「『会長に手ぇ出したら、穴ぶち抜きます』……。これ質問って言うより傷害宣言よね?」
「そんな事は永劫ない。と言っておきます。というか、穴ぶち抜きますって……どこの?」
「それは勿論……そこの?」
「やめて!想像しただけで痛いから!」
楯無が九十九の尻に目をやった途端、九十九は青い顔で椅子の上から尻を押さえるのだった。
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「続いてペンネーム『会長ラブ』さんから。『更識会長に1日30通くらい手紙を書いているのですが音沙汰がありません。ひょっとして私の愛が届いてないのでしょうか……?村雲さんの意見を聞かせてください』って……ナニコレ?」
「ああ、それですか。確かに届いてますよ、毎日平均30通程。差出人の名前についてはプライバシー保護のために控えますが」
「えっと、その手紙、どうしてるの?」
「中学時代の友人が『時代は酪農だ!』と言って北海道中央部にある、酪農系の農業高校に行きまして」
「うん?それが手紙とどう関係……ってまさかあなた!?」
「『餌にでもしてくれ』と、シュレッダーにかけた物を週一で箱詰めして送ってます。最近、手紙を食わせた山羊や羊が『かいちょー』と鳴くようになったとか。いや、人の執念って怖いですね」
「それ言っていいの?あなた恨まれない?」
「構いませんよ。この手の恨みを買う役は、中学時代から慣れてますので」
翌日から、生徒会室に楯無宛の愛の手紙とは別に九十九宛の呪いの手紙が届くようになるのだが、九十九はどこ吹く風と友人の通う北海道の農業高校に纏めてシュレッダーにかけて餌として送りつけ、それを食べた山羊や羊が『むらくもー』『おのれー』と鳴くようになったとか、ならなかったとか。
「じゃあ、次のお手紙いくわね。ペンネーム『調理部部長』さんからの質問です」
「あ、どうも。シャルがお世話になってます」
「『デュノアさんの提案で、村雲くんの好物だという挽肉料理を作る事になりました。是非試食に来て欲しいと思うのですが、リクエストはありますか?』だそうよ」
「まずハンバーグ。それからボロネーゼとキーマカレーは外せませんね。あ、パテ・ド・カンパーニュもあると嬉しいです」
「だそうよ『調理部部長』さん。それにしても、なんでそんなに挽肉が好きなの?」
「口に入れた瞬間に肉の旨味がガツンと来るあの感じが好きなんです。『調理部部長』さん、今から楽しみにしてますね」
この放送から2日後、調理部の挽肉料理祭に呼ばれた九十九は、実に幸せそうな顔で用意された料理を平らげたと言う。
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「続いての手紙はこちら、ペンネーム『ポニーテールと武士道』さんからの質問です」
「いや、ペンネームになってないから。誰だか分かるから」
「あら?似た質問が幾つかあるわね。ついでに纏めて紹介しちゃいましょう。ペンネーム『ツインテールと酢豚』さん、『金髪ロールと狙撃銃』さん、『銀髪ロングとアーミーナイフ』さん、『内はね水色髪とミサイル』さん。以上5名からの質問です」
「待て、正体隠す気あるのか?聞く人が聞いたら絶対『あ、あの娘だ』ってなる奴だろうが、このペンネーム」
「だからいいっこなしよ、九十九くん。で、質問だけど『気になる人にアプローチしてもいまいち反応がありません。何か良い方法はないでしょうか?』ですって」
「それ私に訊くか!?」
「他に相談できる人間がいなかった、って書いてあるわね。それも全部」
「お互いに情報交換するとかしろよ……と言いたいが、よく考えれば常にあいつと一緒である以上、知ってる事は皆同じか」
「そ、そ、そ、そ。という訳で九十九くん、アドバイスをどうぞ」
「ん〜……まあ、あの男に生半可なアプローチは暖簾に腕押し、糠に釘。よって、搦手に頼らずに貴方が好きだという事をストレートに、かつ多少なりと強引に伝えてみては?」
「押して駄目なら押し倒せ!って事ね!」
スパンッ!(ハリセンスマッシュ)
「それを言うなら引いてみろだ!押し倒してどうすんの!?」
「痛た……。で、でもほら、一……彼はそれぐらいやって初めて相手の気持ちに気づくんじゃない?」
「……確かにそうですね。ならまず、提案者たる貴方がやってみては?」
「えっ!?いや、それは、その、あの……ごめん、無理」
「自分が出来ない事を他人に提案するな。迷惑だ」
「……はい、すみません」
この会話を聞いていた多くの生徒達は(どっちが年上だっけ?)と疑問を抱いたという。
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「えっと、気を取り直して次の質問いくわね。ペンネーム『1−1副担任』さんからの質問です」
「だーかーらー、人物特定できるペンネーム使ってどうすんだっつってんの!」
バンバン!(テーブルを叩いた音)
「諦めたら?それで試合終了よ」
「名台詞が真逆の意味に!?……はぁ、もういいです。で、山……もとい『1−1副担任』さんの訊きたい事とは?」
「『私の先輩で1−1担任の先生が、雑務を全部私に押し付けてきて自分の時間が取れません。助けてください』との事だけど」
「…………強く生きてください」
「解決諦めた!?」
「私にどうにか出来る問題ではありません。『1−1副担任』さん、もう一度言います。強く生きてください」
丁度この放送が流れた頃、職員室の方から「うわああん!」という誰かの泣き声が響き、周りが慰めるという事があったが、それは九十九の知る所ではなかった。
「はい!という訳でここまでお送りして来ました『生徒会ラジオ』、終わりの時間が近づいて参りました。ゲストの九十九くん、今日の感想をどうぞ」
「皆色々な悩みを抱えているんだなと思いました」
「後半、質問っていうより悩み相談だったもんねぇ。でもそれだけ人望があるって事じゃない?」
「……まあ、そう思う事にします」
「それじゃあ、今日はここまで!次回の放送をお楽しみに!」
「「さようなら〜」」
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カチッ
「ふう……。お疲れ様、九十九くん」
「お疲れ様です、楯無さん」
放送終了後の放送室で一息つく私と楯無さん。取り敢えず何事もなく終わって良かったな。
「じゃあ、帰りましょうか」
「いえ、その前に客あしらいです。楯無さんが、ね」
「え?」
不思議そうな顔で放送室の扉を開けた楯無さんは、次の瞬間ピシッと硬直した。そこには−−
「「「楯無さん(お姉ちゃん)、ちょっとOHANASI……いいですか?」」」
自分達の相談の時の楯無さんの反応に思う所のあっただろう一夏ラヴァーズの面々がハイライトの消えた目で楯無さんを待ち構えていた。
「えーっと……。つ、九十九くん、助けて−−「無理」ですよね〜」
「「「さ、行きますよ」」」
両脇を抱えられ、ズルズルと引きずられていく楯無さんを涙を飲んで見送る。ああなったアイツ等とは関わりたくないからな!
なお、放課後の生徒会室で真っ白になった楯無さんが虚ろな顔で『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ』と繰り返す。という一幕があった。これ程までに楯無さんを憔悴させるとは……。
だが、楯無さんの身に一体何があったのかを訊く勇気を、私は持ち合わせていなかった。
IS学園といえど学校なので、こんな事もやっているのでは?と、妄想全開で書きました。
本編も鋭意執筆中ですので、しばらくお待ち下さい。