転生者の打算的日常   作:名無しの読み専

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#103 亡霊退治(弐)

 アンカレッジでの『ピースキーパー』との戦いが幕を開けた頃、ブラジル・サンパウロ郊外を本拠とする麻薬カルテル『エル・ビアンコ』のアジトは、現在蜂の巣を突いたかのような大騒ぎとなっていた。というのも、国連軍陸戦隊507大隊が「えー、国連軍です。今からお宅んとこの武器庫すっ飛ばすから、巻き込まれたくなきゃ逃げろ」と警告した1秒後に武器庫にミサイルランチャーをぶち込んだからだ。その爆音を合図に、鈴とセシリアが正面からアジトに飛び込んだ。

「抵抗は無意味よ!」

「神妙にお縄につきなさい!」

「アイエエエス!?ナンデ⁉ISナンデ⁉」

「コワイ!」

「タスケテ!」

「パニクってる場合かお前等⁉おい!対戦車ロケット砲(RPG-7)持って来い!効かなくても怯ますくらいは出来んだろ!」

「武器庫はたった今まとめて吹っ飛んじまったよ兄貴!使える武器は拳銃かマシンガン、よくてライフルくらいしかねえ!」

「マジかよ!ってか、何で国連軍がウチにカチコミに来んだよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 泣き声混じりのマフィアの叫び。その叫びを、最前線で対人制圧用硬質ゴム製棍棒(ハードラバーロッド)を振り回していた鈴が耳にする。

「はあ⁉アンタ、それマジで言ってんの⁉」

「当たり前だろが!俺達ゃ麻薬カルテルだぞ⁉サツに睨まれるような事は有っても国連にゃね(バゴンッ!)ぶへえっ!」

「あっそ!……ホントに何も知らないのね……

 鈴の小さな呟きは、その後ろで武器を構えて抵抗しようとするマフィアから偏向射撃(フレキシブル)によるレーザー狙撃で武器を奪っていたセシリアの耳に届いた。

「ええ、そのようですわね。ラグナロク・コーポレーションの調査能力には舌を巻きますわ」

 【『エル・ビアンコ』のボス、セルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァは、自分が亡国機業のセプテンバーである事を末端の構成員に伝えていない。よって、国連軍だと言って突入すれば、少なくとも末端構成員は大混乱に陥る事が予想される。また、こちらの突入とほぼ同時に逃亡を図る可能性が高い。ISによる少数精鋭戦術を取る場合、敢えて逃がすのも手だ。】

 こう書かれていたからこそ、国連軍は敢えて性急に見える策を取ったのだ。結果、見事に末端構成員は大騒ぎ。上を下への大混乱状態だ。

「こんな時にボスはどこ行ったんだよ⁉」

「分かんねえよ!」

「おい!さっき駐車場見に行ったんだけどよ、ボスと幹部連中の車が無かったんだよ!」

「「「えっ……⁉」」」

 構成員の一人からの報告に、唖然とする他の構成員達。国連軍の突入を受けたこの状況で、セルジオを含めた主だった幹部の車が姿を消した。それはつまり……。

「「「俺達、見捨てられた……?」」」

 顔を見合わせて呆然と呟く構成員達。そこに響くのは、鈴が腹の底から出した空気を震わす大音声。

「聞きなさい!アンタ達のボスはアンタ達を見捨てて逃げたわ!どうすんの⁉まだやる⁉」

 鈴の叫びに慄く構成員達に、セシリアが追い打ちとばかりに言葉を続ける。

「周辺の同盟組織からの援軍は、国連軍陸戦隊の皆様が打ち払ったとの事です!早々に投降なさいまし!こちらは貴方がたの命まで取るつもりはございませんわ!」

 二人の言葉に、多くの構成員は銃を捨てて投降の意思を示した。なおも抵抗を試みる者もいたが、セシリアに銃を弾かれ怯んだ所を、鈴のラバーロッドの一撃を受けて昏倒。すぐさま陸戦隊によって捕縛された。

「こっちは片付いたわね。後は……」

「ウォーターさんがセプテンバーを捕えれば任務完了。ですわね」

 とりあえず自分達の役目を終えた鈴とセシリアがホッと息をついた瞬間。

 

ドオンッ!

 

「「っ⁉」」

 轟音と共に、赤炎と黒煙が立ち上る。その方角は、ラグナロクの資料に掲載されていた『セルジオと幹部数人が逃走した場合に最も取りうる可能性の高いルート』の方向と一致していた。

「今のって……!」

「爆発音……ですわよね……?」

 顔を見合わせる鈴とセシリア。その額には、嫌な予感から来る冷や汗が滲んでいた。

 

 

 時は少し遡る。国連軍到来の報を受けたセルジオは、直ぐさま主だった幹部を纏めて屋敷の秘密通路から地下駐車場に移動。末端構成員の知らない秘密の出口を使って、誰にも見つからずに脱出した。

「良かったんですかい、ボス。連中を放って行って?」

「構うかよ。どうせこういう時のための捨て駒だ。俺が一声かけりゃ、チンピラ程度ならまたすぐ集まるさ」

 後部座席の中央にどっかと座り紫煙を燻らせる、くすんだ金髪を後ろに撫でつけた褐色の肌の中年男性。この男こそ、ブラジル最大級の麻薬カルテル『エル・ビアンコ』のボスにして、亡国機業上級幹部『カレンダー』のセプテンバー、セルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァである。

 その不遜な物言いに運転手の男、エルヴィスが不満げに返す。

「それは分かりますけどね。けど、連中に何も言わずにってのはちょっと−−」

「おい、エルヴィス。それ以上文句言うなら降りてもらうぜ。この世からな」

 エルヴィスの抗議を後ろから銃を突きつけて止めるセルジオ。付き合いの長い相手ではあるが、自分のやり口に文句は言わせないのがセルジオのやり方である。

「……OK、ボス。これ以上は何も言いません。で、これからどこに行けば?」

「まずグアルーリョス空港へ向かえ。取り敢えずこの国を出るぞ」

「それから?」

「モナコでほとぼりを冷ましてから、ブラジル(くに)に戻って再起を図る」

「その後は?」

「しつけえな、エルヴィス。黙って運転してろ」

「いえ、ボス。俺はさっきから一言も喋ってねえですぜ?」

「は?じゃあ俺は誰と……は⁉」

 左右を見回したセルジオだったが、後部座席に乗っているのは自分のみ。運転席にはエルヴィス。じゃあ誰が何処から話しかけてきたんだ?と、セルジオがもう一度右を見た時、それは居た。

 漆黒のISを纏った底抜けに明るい雰囲気の女が、こちらにヒラヒラと手を振っている。セルジオは思わず悲鳴を上げる。

「う、うおおおおっ⁉」

「なっ⁉いつの間に⁉」

 セルジオが悲鳴を上げた事でエルヴィスもその存在に気づいて、すぐさまハンドルを切ってISから離れようとするが、まるでそうする事を予め分かっていたかのようにピッタリと付いてくる。

「ねえ、アンタが亡国機業のセプテンバー、セルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァでいいわよね?手配写真で見たし」

「クッソがああっ!」

 セルジオが吠えながら懐から拳銃を取り出しウォーターに発砲するが、ISに拳銃弾など効くはずもなく、後部座席の窓を割る以外に何が起こるという事もなかった。

「ざーんねん。そんな物は通じないわ。ちょっと痛いけどね。えいっ!」

 

ドスッ!バンッ!

 

「やべえボス!タイヤをやられた!ハンドルが持っていかれる!」

「チッ!エルヴィス、脱出だ!」

 タイヤをパンクさせられ、急速に速度を落とすセルジオの車。後に続いていた車も「すわ何事か⁉」と動きを止める。車から降りて現場に近づいた彼らが見たのは、あちこちに掠り傷をつけて荒い息をつくセルジオとエルヴィスの姿。彼らが乗っていた車は中央分離帯の街路樹にぶつかって大破していた。傍にはISを纏った女。男達はこの状況を作ったのがコイツだ。と瞬時に理解した。

「ボス⁉」

「やりやがったなこのクソアマがぁっ!」

 激怒した男達が一斉に懐から銃を抜き、ウォーターにありったけの弾丸を叩き込んだ。だが、結果はセルジオの時と同じ。違うのは痛みに顔を顰めた事くらいだろう。

「ふう。鬱陶しいわね……」

 嘆息したウォーターが口の中で小さく「宵闇の外套(ダークマント)、発動」と呟く。すると、男達の目の前で、ウォーターの姿が一瞬で消える。

「なんだ⁉消えた⁉逃げたのか⁉」

「野郎、どこ行きや……がはっ⁉」

「おい!どうし……ごふっ!」

「何が起き……おごっ!」

 見えない何かに吹き飛ばされ、あっさりと意識を手放す男達。そうして、セルジオを除く全員が倒された所で、再びウォーターが姿を現す。

「はい、しゅーりょー。お疲れ様でーす」

「て、テメエ!何しやがった!」

「何って……姿隠して後ろからゴン!よ。見てなかったの?って、見えなかったわよね!失敬!」

 アハハハ、と朗らかに笑うウォーター。だが、セルジオは気づいた。面白そうに細めた目が、その実全く笑っていない事に。

「さて、じゃあ自己紹介をしましょうか。国連軍IS配備特務部隊『プリベンター』のウォーターとIS『冥王(タナトス)』。会うのは今日が最後だろうけど、仲良くしましょう?」

「……一つ訊かせろ。いつからだ?いつから俺を……俺達をつけてた?」

「最初から。『タナトス(この子)』の特技は隠密行動(スニーキング)無音殺人(サイレントキリング)だから」

「ん……だとう⁉」

 ウォーターのIS『タナトス』。その特筆すべき点は『静粛性と隠密性』にある。敢えてスラスターを一切排除し、PICのみで空中機動を行うISは他に類を見ないものだ。

 搭載されている武装もサプレッサー装備の銃器と近接戦闘用の大鎌《カーマイン》のみと、静音性を最大限追求したものになっている。加えて、超高性能アクティブステルスシステム『ダークマント』によって人の目はおろか機械の目(センサーアイ)すら欺瞞が可能。まさに究極のステルスアタッカー。それが『タナトス』というISなのだ。

「さ、もう逃げられないってのは理解してるでしょ?大人しく捕まって……」

 

ドオンッ!

 

 ウォーターがセルジオに降伏勧告をしようとした直後、後ろで止まっていた車が数台同時に爆発した。ウォーターが振り向いた先にいたのは、立ち昇る炎に照らされた一機のIS。フードを思わせるバイザーを被り、最低限の箇所のみを守る装甲の上から漆黒一色の襤褸のローブを纏い、片手に大鎌を携えたその姿は『死神』を想起させる。

「こ、今度は何だおい⁉ありゃ、アンタの知り合いか⁉」

 それはこっちの台詞よ。と思いながらウォーターは眼前のISを睨みつける。だが、死神のようなISを纏った女はウォーターを見向きもせず、セルジオに顔を向け、抑揚も感情も無い声でセルジオにとって絶望を齎す言葉を紡ぐ。

「私は……亡国機業暗殺部隊『グリムリーパー』の者。……オーガスト様よりの命令。……貴方が戦闘を放棄して逃げたら、組織への裏切りとして……殺せと」

「なっ⁉オーガストが……俺を⁉」

 亡国機業のトップからの頸切り(物理)宣告に顔色が見る間に悪くなっていくセルジオ。

「待て!待ってくれ!俺は逃げたんじゃない!味方を集めに「嘘。最初から全部聞いていたし見ていた」……っ⁉」

 言い訳をしようとするセルジオに女は冷酷に真実を告げる。そう、女は始めからずっとセルジオの近くで彼の動向を監視していたのだ。女は音も無くセルジオに近づくと大鎌を頭上に振りかぶり、一切の感情を伺えない声でセルジオに死を宣告した。

「……さよなら」

「や、やめてくれ!殺さないでくれ!い、幾らだ⁉幾らで雇われた⁉オーガストの倍、いや三倍出す!だから……!」

 涙目になりながら尻で後退りつつ、女を懐柔しようと試みるセルジオだが、それに対する女の反応はどこまでもドライだ。

「……さよなら」

「わ、わかった!『エル・ビアンコ』に相応のポストを用意する!俺のすぐ下に−−」

「……さよなら」

「あ、あ、あ……。い、嫌だああああっ!!」

 無慈悲な断罪の刃がセルジオに振り下ろされた。その大鎌は正確にセルジオの頸を捉え、鮮血と共に宙へと飛ばせる−−筈だった。

 

ガキインッ!

 

「……へ?」

「……どうして、邪魔する?」

 女の振るった大鎌の刃が、ウォーターの《カーマイン》の柄によって、セルジオの頸数cm手前で止められていたからだ。

 不思議そうに首を傾げる女。その仕草は、無機質だがどこか幼さを感じる声質と相まって、妙な可愛らしさを感じさせる。

「私がそいつに生きてて貰わなきゃ困るからよ。情報ってのは生きた人間からじゃないと絞れないもの」

「……そう。……なら、まずはお前から、殺す」

 ウォーターと距離を取り、改めて構えを取る女。それに対応し、ウォーターもまた《カーマイン》を構える。

「かかってきなさい、パクリ子ちゃん」

「……そっちが、パクリ」

 殺気のぶつけ合いに空気が震え、重くなっていく。裏社会で相応に名を挙げたセルジオだったが、その猛烈な殺気に意識を保てず地面に倒れる。その音を合図に、ウォーターと女はアクティブステルスで姿を消した。

 誰一人見るもののない深夜のサンパウロ郊外で、冥王と死神(同系統機同士)の戦いが、深く静かに始まったのである。

 

 

「いましたわ!セルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァです!」

「オッケー。見たとこ気ぃ失ってるみたいだし、一旦縛っときましょ!」

 本部の後始末を陸戦隊の人達に任せて、爆発音がした方へ向かった鈴とセシリアは、道端で気を失っているセルジオを発見。捕縛しておこうと接近した所で、セルジオから名状しがたい異臭が漂っている事に気づいた。

((コイツ(この方)漏らして(いらっしゃ)る⁉))

 本人の名誉の為に−−なるかは疑問だが−−言えば、セルジオは漏らしてから気を失ったのではなく、その逆で気を失ってから漏らしてしまったのである。とはいえ、そんな事情はうら若き乙女には関係ない訳で。

「もう!きったないわねえ!……どうしよっか?」

「正直に言わせていただけば、触ることはおろか近づきたくすらないですわね……」

「こういう時、九十九が居ればって思っちゃうわね。《ヘカトンケイル》で自分が触らずに事を運べるし」

「『お断りだ。誰が使った手の洗浄をすると思ってる?』と仰いそうな気がしますわ」

「今の言い方似てる!……ところで、ウォーターさんどこいったのよ?」

「そう言えば、見当たりませんわね」

 重要人物を放ったらかしにして、ウォーターは一体どこへ行ったのか?辺りを見回す鈴とセシリアの耳に、金属同士がぶつかり合う耳障りな音が響く。二人がハッとしてそちらに目を向けるが、そこには誰もいない。どういう事か?と思っていると、離れた場所から再びの金属音と、圧縮空気が吐き出されたかのような何かの発射音が断続的に響く。あまりにも不可解な現象に二人は首をひねるが、ふと鈴が気づいた。

「まさか……相手もステルスアタッカータイプのIS、とか?」

「お互いステルス状態で闘っている。という事ですの⁉もしそうなら……」

「ヘタに援護しようとすればフレンドリーファイア(友軍誤撃)待ったなし。ね」

 生唾を飲みながら鈴が答え、空を見上げる。視線の先では−−見えないが−−ウォーターと敵のIS使いが激しいぶつかり合いをしているのだろう。激突音が響き、火花が散るのが見える。その光景をもし一夏が見ていたら「ドラ○ンボー○の超高速戦闘みてえだ!」と言ったに違いない。と、鈴は益体もない事を考えていた。

 

 

「だーっ!しつっこいわね!いい加減倒れなさいよ!」

「……そっちが、しつこい」

 コンセプトの似た機体のためか、お互い決め手に欠いたまま千日手の様相を呈し始めたウォーターと女。このままでは互いに体力とシールドエネルギーをじりじりと奪い合う泥仕合になるのは、どちらも理解していた。互いに姿を消したまま(と言っても、互いに何処にいるかは分かっている)、空中で円移動を行いつつ睨み合うウォーターと女。しんと静まり返った戦場の空気が動いたのは、鈴の怒声によってであった。

「あ!こら、アンタ!待ちなさい!逃げんな!」

「こんな事なら、多少の汚れなど気にせずに縛り上げておくべきでしたわ!」

 なんと、目を覚ましたセルジオが「ひいいいっ!」と情けない悲鳴を上げながら逃走を開始したのだ。ズボンの裾から異臭の漂う水滴と固形物を撒き散らしながら必死に逃げ惑うその姿は、とてもブラジル最大級の麻薬カルテルの長とは思えない、非常に無様なものだった。とはいえ、この場においては最重要人物である事に間違いはない彼を逃がす訳には行かない。鈴とセシリアがセルジオを追って飛ぼうとしたその瞬間、二人の横を薄ら寒い風が駆け抜け−−

「死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にた……」

 死を拒絶する文言を何度も口にしながら、脇目も振らずにひた走っていたセルジオの頸が、飛んだ。

「「っ⁉」」

「くっ……間に合わなかった……!」

 ウォーターが苦悶の声と共にステルスを解除して姿を現す。それに合わせてか、女の方もセルジオの遺体の数十m先でステルスを解除した。

 セルジオが女に殺されてしまった理由。それは偏に当人の致命的な『間の悪さ』にある。セルジオが目を覚まし、恐怖に駆られて悲鳴を上げながら走り出したその時、それにウォーターと女が気づいたのは同時。動き出しも同時。ISの最高速度もほぼ同等。違ったのは、女の方がウォーターよりもセルジオに近かった事。たったそれだけが、セルジオの生死を分けたのだ。

「……任務完了。帰投する」

 感情の伺えない無機質な呟きと共に、再び女の姿がかき消える。この場からの逃走を図ろうとしているのは、誰の目にも明らかだった。だが……。

「あ、あ……」

「そ、そんな……!」

 人の頸が飛ぶ光景を目の当たりにし、恐慌状態にある鈴とセシリアを放って行くという選択肢は、ウォーターには取れなかった。ウォーターは二人の前に立つと、その頭に手を置いた。その感触に、二人がウォーターと視線を合わせるように顔を上げる。その顔には、人の死を見た恐怖と自らの失策に対する自責の念が浮かんでいる。

「ご、ごめんなさい。ウォーターさん……」

「わ、わたくし達が彼をきちんと捕縛していればこのような事には……」

 二人の謝罪に首を横に振って答えるウォーター。はっきり言ってしまえば、セルジオはどちらにしても死ぬ事になっていただろうとウォーターは思っていた。法に裁かれ獄中で誰に看取られる事もなく死ぬか、無法に裁かれ無惨な最期を遂げるか。違いはその程度だろうとも。

「だから、あなた達は何も気にしなくていいの。精々『この世から悪党が一人減った』程度に思いなさい」

「「…………」」

 ゆっくりと頷く二人。だが、その顔は晴れない。ウォーターも流石にすぐに切り替えろとは言えず、しばらくの間無言の時間が過ぎる。と、そこへ耳を劈く飛行音が轟く。ハッとして鈴とセシリアが視線を上に向けると、自分達の頭上100m程の高度を超音速戦闘機が3機、編隊飛行をしながら通り過ぎて行くのが見えた。ウォーターが「来たわね」と呟いたのを、二人は聞いた。

「さーて、お二人さん。仕事はまだ終わってないわよ」

「え?私達の目的って……」

「セプテンバーことセルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァの捕縛、及び麻薬カルテル『エル・ビアンコ』の潰滅。ではありませんの?」

「なーに言ってんの。それは第1目標。()()()()()()()()()でしょ?という訳で!私達は今からアレに乗ってフェニックスの亡国機業本部にカチ込みます!拒否は認めません!あ、乗るって言ってもコックピットにじゃなくて機体の上によ」

「「えーっ⁉」」

「ほらほら、戻って来たわよ。向こうが速度を落としてるうちに乗り込むわよ!急いで!」

「「は、はいーっ!」」

 急かすウォーターに「今は色々考えないようにしよう」と、半ば無理矢理セルジオの事を思考の隅に置いて、鈴とセシリアはこちらに向かって速度を落としつつ飛んでくる戦闘機とのエンゲージの為に飛んだ。

 

 チームウォーター、作戦結果(リザルト)−−

 セプテンバーことセルジオ・アルトゥール・ダ・シルヴァ、死亡。亡国機業に関する詳細情報の取得に失敗。

 セルジオ率いる麻薬カルテル『エル・ビアンコ』、潰滅成功。ブラジルの麻薬汚染に一定の改善効果を認む。

 ウォーター、凰鈴音、セシリア・オルコット、ブラジルでの任務完了後、ブラジル空軍協力の下、アメリカ・フェニックスへ急行中。




次回予告

北の大国の闇に住まう王の軍勢。対するは霧の淑女とその妹姫。
死をも厭わぬ狂信者が、淑女と妹姫に襲い来る。
果たして、二人は大国に蔓延る闇を晴らす事が出来るのか?

次回「転生者の打算的日常」

#104 亡霊退治(参)

恩も義理もあるのよ、この国には!

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