読み専の書く作品ですので、お見苦しい物になるかもしれませんが、どうぞ暖かい目で見てやって下さい。
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私の目の前に一人の男が居た。手には血塗れになったナイフを持ち、荒い息をしながら私を見下ろしている。
この男は確か、二年前まで私の勤める会社に居たが、提案してくる事業内容が荒唐無稽な上に、仕事は出来ないくせにプライドばかりが高かった為、私を含めたほぼ全ての社員から見向きもされなかった男だったはずだ。
上司にも彼の存在はこの会社の害でしかない、早急に解雇処分にすべきだと何度も掛け合った。しかし縁故採用の為、人事異動が精一杯だと言われた。ちなみに最後は、異動先で暴力沙汰を起こして懲戒解雇になったと聞いている。
「お前だ!!お前が悪いんだ!!お前のせいで俺は仕事を失った!!お前さえいなければこんな事にはならなかったんだ!!死ね!!この糞野郎!!」
男は私に馬乗りになり、何度も何度も私の体をナイフで刺した。騒ぎに気づいた通行人が男を取り押さえ、救急車が呼ばれたのは刺し傷が20を越えた辺りだったと思う。
道路に広がっていく自分の血を見ながら、私は自分がここで死ぬ事を理解した。
私を気遣う通行人の声ももう聞こえない。やがて目を開けていられなくなり、意識が徐々に闇に沈んでいって−−−
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気が付くと、一面真っ白な世界に居た。
上下の感覚が曖昧な浮遊感を覚える。しかし、私はすぐにこの状況はおかしいと気付く。何故なら私は−−−
『左様、御主は死んだ』
−−っ……!?
掛けられた声に振り向く。そこには、金髪碧眼で二対の翼を背に持つ男が居た。
『我が名はロキ。御主を此処へ呼んだ者』
−−呼んだ?何の為に?
『御主に再びの生を与える為に』
−−それはまた何故?
『我の楽しみの為』
−−……それだけ?
『それだけ』
−−……本当に?
『本当に』
−−他に何か理由とか……。
『無い』
−−では、何故私を選んだんです?
『それは御主の生き方が我の好み故』
−−生き方?
『御主は、常に自分にとって最も益となる道を選び、己の利を追求してきた』
−−それは当然ですよ。人間、誰かの為とか言ってみた所で、結局は自分の為に生きている。中には本当に一切の下心無く人に親切に出来る人もいるでしょうが、少なくとも私はそんな生き方はできません。
『やはり御主は我の見込んだ通りの男よ。もっとも、それ故御主が利に繋がらぬと切り捨てた者の恨みを買い、殺された訳だが』
−−私を殺したあの男に関しては、完全な逆恨みですけどね。それで、転生させてくれるとの事ですけど…?
『左様。御主にはある異世界へと転生してもらう』
−−異世界?
『左様。ある人間サイズの機動兵器の登場によって女性優位になった世界に……な』
−−それは、まさか……!?
『『インフィニット・ストラトス』。御主にはこの世界のいわゆる『原作開始前』に転生して貰う。異論も拒否も受け付けん』
『インフィニット・ストラトス』
それは、いわゆるライトノベルの一作品であり、ジャンルで言えばロボット物であり、学園物であり、ラブコメ物である。
煽り文句には『ハイスピード学園バトルラブコメ』などと書かれていた。
朴念仁の主人公とそれに恋する乙女達の学園生活を時に熱く、時に切なく、時にギャグやパロディを交えつつ描いた作品だ。
ただ、作者の筆が遅く、刊行に年単位の時間がかかるのはいただけなかった。
せめて私が死ぬ前に完結して欲しかった。白式対黒騎士、読みたかったなあ……。
『御主には転生するにあたり、いくつか注意事項がある』
−−何でしょう?
『まず物心の付く年、五歳の時に記憶が戻るが、その際確実に高熱で倒れる』
−−何とか……。
『ならん。次に記憶が戻ると同時に御主の運命も動き出す』
−−具体的には?
『所謂、原作の登場人物との邂逅。ただし、誰と出会うかは我にも分からぬ』
−−そんな無茶苦茶な。
『我は運命神ではない。そこまでの干渉は出来ぬ。最後に、御主の転生特典だが』
−−何か嫌な予感が……。
『男でありながらISを動かせる能力を授ける』
−−あぁ、やっぱり。
『もっとも、専用機に関しては我には用意出来ぬ』
−−何故?
『我は創造神ではない。何かを作り出す事は出来ぬ』
−−またそれか。なら、貴方は一体どんな神なんだ?
『我が名はロキ。知恵と悪戯の神である』
−−え?いや、いたず……え?
『では行け人の子よ。願わくは、我に退屈をまぎらわせる愉悦をくれ!』
−−いや、ちょ、ちょっとまっ……!
瞬間、私の体は光に包まれた。
こうして私は転生する事になった。
退屈嫌いな悪戯の神によって。
♢
20XX年4月13日。この日、一人の赤ん坊が新たにこの世に生を受けた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
「ありがとうございます」
看護師に祝福の言葉を贈られた男は、返答もそこそこに妻の病室へと入る。
「八雲、よく頑張った。ありがとう」
「こちらこそありがとう、槍真さん。抱いてあげて」
「ああ」
妻、八雲の隣でスヤスヤと眠る赤ん坊。抱き上げると、思った以上に重く感じた。槍真は思う。これが命の重みか、と。
「槍真さん。この子の名前は、もう決めているんでしょう?」
「ああ、この子の名は
いかがでしたでしょうか?
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次回予告
それは、必然だった。
それは、運命だった。
それは、
次回 「転生者の打算的日常」
#02 邂逅
さあ、私の利の追求を始めよう。