「早速、打倒ライザーに取り掛かりましょう」
今、強化合宿先の部長の別荘の一階リビングで何処からか辻堂先輩が持ち込んだホワイトボードの周りにオカルト研究部全員が集められていた。
勿論、ホワイトボードの前に立つ司会進行は辻堂先輩だ。さっきまで真っ先にコンセント穴の位置と、ネット環境を確認していた人とは思えない威風堂々たる様子だ。
「対戦までに時間があるのでまず必要なのは相手を正しく評価し、目標を設定する事です。今回はフェニックスについての確認をしましょう」
辻堂先輩がバシバシと叩いたホワイトボードには"レイザー・フェリックス攻略うぃき"と大きく書かれていて、右上隅に無駄に美味しそうな焼き鳥の絵が書いてあった。
なんかもう何処から突っ込んでいいかわからないけど、明らかにわざとやっているし、オカルト研究部最強は誰だと言われれば多分満場一致で辻堂先輩と答えるから誰も突っ込まないでいるんだろうなあ。
「まず、最初の特徴は何と言ってもこれ」
・不死身
最初に辻堂先輩はそんな項目を書いた。
「とは言ってもフェニックスの不死はハッキリと申しますと、戦争時代を生き抜くには些か不完全過ぎました。何せフェニックスの不死は使い続けるとどんどん効果が落ちていく上、精神へのダメージは治りが遅いという微妙なモノなんですよ。初代レヴィアタンや本物の神話の魔獣クラスの不死身からは程遠い。それに最上級悪魔や魔王クラスの攻撃で一撃で葬られる以外にも致命的な弱点がひとつあったんですよ」
辻堂先輩は不死の項目の下に、マジックで大きく"光"という漢字を書き出した。
「それは悪魔の共通弱点である光力です。 光力は悪魔の肉体にダメージを与え、毒と同じにように精神にもダメージがあります。そう、肉体と精神に同時にです」
……ああ、戦争の相手って…。
「つまり天使及び堕天使に対してはフェニックスの不死は大して役に立たなかったのです。一撃でも上級天使や上級堕天使から光の槍を貰えば激しく再生能力が鈍りますからね。戦争ではそんな調子でしたが、フェニックスの涙が作れてしまったので、戦争中は後衛でぬくぬくとしていたのは当然と言えるでしょう」
へー、ならフェニックスって大したこと無いんじゃ、と思い始めていると辻堂先輩は、俺のその思考を否定するように指を振った。
「戦闘相手が天使や堕天使だったから無力だったのですよ。もし、それが悪魔相手だったなら?」
「え、じゃあレーティングゲームでフェニックス家が強いのは…」
そこまで言われたら俺でも理解できた。つまりフェニックスは…。
「勿論、敵に基本的に光を使ってくる者が皆無だからですよ。いても精々堕天使上がりの悪魔がたまーにいるぐらいですからね。皮肉なものでしょうや。戦争時代では回復アイテム屋だったクセに相手が悪魔同士になった途端に水を得た魚のように名を上げる。その上、回復アイテム屋の方も未だにやっている。本当に生きてて恥ずかしくないのでしょうかねフェニックスという生き物は」
先日、ライザーが帰った後に辻堂先輩がグレイフィアさんに連れていかれてから戻ってくるまで暫く時間があったので、レヴィアタンについて俺なりに調べた。
そして、わかったことはレヴィアタン家というよりも初代レヴィアタンについてだった。
如何なる悪魔よりも、かつて番の雄を奪った神を憎み、その感情から悪魔になった初代レヴィアタン。初代レヴィアタンは、現魔王に比べれば魔力はそこまで高くは無かったが、それを補い余る特性を持っていた。それは不死身の身体と、世界最悪の海獣としての巨体だった。故に自ら創造しておいて、聖書の神でさえ手をつけられない怪物だったらしい。
でも、初代レヴィアタンの不死身はその人だけの能力で、それ以降のレヴィアタンには遺伝しなかった。だから初代レヴィアタンが戦争中に不死殺しの武器で殺された後、レヴィアタン家は水を司る家になったそうだ。
ってことは辻堂先輩は、初代レヴィアタンと微妙に似たような特性を持っているフェニックスに対して同族嫌悪しているだけなんじゃないかと思ったけど勿論、口には出さない。
後、初代レヴィアタンは勿論、女性だったけど大層な女好きでそれはレヴィアタン家にも遺伝しているのだとか………………辻堂先輩が色々と大きいかったりエロゲ好きなのも、初代レヴィアタンが大きかったり女好きだったりしたからなのか。
「………ねえ、カトレア? あなたひょっとして私怨で今回のレーティングゲームに参加し__」
「さて、次のフェニックスの能力の説明に移りましょうか」
最終的に辻堂先輩を生み出した初代レヴィアタンの故おっぱいに感謝の意を心の中で示していると、先輩は部長の呟きを無視しながらホワイトボードに新たな項目を書き足した。
・あっちっち
平仮名でそんな文字を書いた辻堂先輩。
「フェニックスは炎と風を司る家ですが、その炎の翼は常時数千度の熱を帯びています。レーティングゲームでは不死身の特性に隠れがちですが、どちらかといえばこちらの能力が主体です。超熱いので戦い方と小まめな水分補給には気を付けるべきですね」
相変わらず、辻堂先輩は真顔で色々言うからネタなんだか真面目なんだかわかりづらいなあ……。
「ああ、ちなみに私のレヴィアタン家は水を司ります。だからこんなこともできますよ」
辻堂先輩は何処からともなく扇子を取り出すと、それを開いた。
「花鳥風月~」
ものすごい明るめな裏声でその言葉を発した直後、噴水の一部を切り取ったかのように水が扇子の先から上に発射されて綺麗な虹を描いた。水も魔力で作られたからなのか床に落ちる前に全ての水は跡形もなく消えている。
俺でもわかる無駄に洗礼された無駄のない無駄な技術に部長も顔をひきつらせていた。
訂正だな。今辻堂先輩は確実にネタに走っている。それもフルスロットルだ。
先輩は何事も無かったかのように水芸を止めると、ホワイトボードに新たな文字を書き出した。
・フェニックスの涙
「簡単に言えばエリクサーです。巷でエリクサー症候群とか言われているアレです。流石にレーティングゲームでは制限を掛けられて2回しか使えませんが、逆に言えばフェニックスは確実に2回使ってくるということです。どうせ女王の駒辺りには持たせているでしょうから女王を相手をするのなら一撃で殺し切るべきですね」
ここまで脱線していた辻堂先輩は、突然為になることを言い始めた。
「まあ、要は……」
嫌な予感を感じながらも瞳を閉じて次の言葉を言う間を開けた辻堂先輩にオカルト研究部は息を呑む。これだけの動作で様になるんだから美人は特だな。
「レベルを上げて物理で殴ればいいのです」
ホント変な人だよな辻堂先輩…。中身と外身のギャップがスゴいというか、アンバランスというか、中身は可愛い人というか……いや、そこが先輩のいいところだけど。
「というか女王に戦闘中二回も復活されたらそれしかありませんし、フェニックスは悪魔なら正攻法で行くしかないのですからそれ以外無いでしょう。一週間であなた方が何れ程強くなれるかに全てが掛かっているのですよ。今回は私がいますが、本来のレーティングゲームには参加出来ませんから今後のためにも強くなっておいて損はないでしょう」
その言葉に俺は気持ちを引き締めた。強くならなきゃならない。それは絶対だ。俺はそのためにこの合宿にいるのだから。
ただ、辻堂先輩は一切ライザーに負ける気がないどころか、既に勝って終わったかのような様子でいるのが、とても羨ましいな。先輩もフェニックスに正攻法で挑む気みたいなのにどうしたらあんなに余裕でいられるんだろう。
いや、違うか。先輩は俺よりもずっとずっと強いから余裕でいるんだろうな。
「まあ、光の槍でも使える者がいれば話は変わりますがね。無い物ねだりというものです」
最後に辻堂先輩はそう言うと、何故か姫島先輩を一瞥してから、ペンにキャップをしてホワイトボードに戻した。
その時、姫島先輩が妙に驚いていたような気がしたけど、直ぐに元の表情に戻ったから気のせいだったかな。
「さあ、皆さん外に出ましょう。身体を動かさないことには始まりません。今日から忙しくなりますよ」
そう呟いた辻堂先輩は何か楽しいのか良い笑顔をしていた。
この時の俺はまだ理解していなかった。
いつか辻堂先輩が冗談混じりで言っていたグレモリー眷属を全員殺すのに10秒も掛からないという言葉は、比喩でも何でもなかったことを。
カトレアは全力でフェニックスのことを扱き下ろしていますが、カトレアの旧悪魔的な主観マシマシな解釈なのであてにしないで下さい。
(ボソッ)なんか更新を早いですね(感覚麻痺)