東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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紅い霧を放つ館
異変!それは紅い霧!


 

 

 不毛な口喧嘩は約三十分続いた。最終的には底の『二人ともに非があるんならおあいこでいいだろう』ということで解決。喧嘩の意味はあったのかと問いただしたい気持ちをグッと堪えつつ、「土はどう想像したらいいんだ?」右手の指にだした火の玉五つを遊ばせながら本題を問うた。

 喧嘩を見つつも実験していたのだ。とりあえず、挙げたらキリがないほど通りがあるのはわかったらしい。

「そうねぇ。土とか使ったことないのよねー。魔理沙はなんかある?」

 底と向かい合い、その真横で突っ立っている霧雨に聞く。

「そうだなぁ」

 顎に手をあて、考える素振りした。三秒の沈黙の後になにか思い付いたのか声をあげて、底を指差し「あれは? 土で壁をつくるみたいな!」そう提案して「くぅー! 名案! 流石私だ!」額に掌をあてぎゅっと目を閉じ、自画自賛した霧雨。

 それを冷たい目で見ている博麗。底が微笑して礼を述べた

「ふふん! この魔理沙に任せとけ!」

 拳に親指だけをあげて豪語する。

「う、うん。だが、あまり調子にのってると、ほら――」

「魔理沙、あんまり調子にのらない。いい?」

 手の骨を鳴らしながらも素敵な笑顔で霧雨を見て――睨んで――いた。

「あ、あは。あはは。……。ごめん」

 そんなこともあったが、問題なく土も操れた。

 脳裏に過った文字の事を底が話したら『それは能力よ』と博麗が応えて、集中して能力をみろ。と命令口調で霧雨から言われていた。

 二つあったようだ。ただ、霧雨と博麗には一つしか言っていなかった。

 それは追々話すとしよう。

 晩御飯は底が作り、霧雨と博麗の絶賛に終わった。それから二人は帰宅して、十二時まで飛びながら霊力を使って炎や水を出したり、雷を使ったりと様々な実験をしていた。

 風呂も入らず、居間のソファーベッドで泥のように眠る。

 

 満月より少しだけ欠けた同時刻。霧が立ち込める湖の紅い館では、蝙蝠の翼を生やした一人の少女があることを企て、口を三日月のように吊り上げていた。

 

 朝八時。皆はもう起床し、いつもだったら里で賑わっている時間だ。そう、『いつもだったら』。人里全域、人がひとりも居ない。人以外もやはりいなかった。幻想郷は今『紅』に包まれていた。というのも、妖霧。紅い霧に包まれていたのだ。

 この紅い霧。強力な妖力でつくられていて、普通の人間は三十分ともたない。紅霧で包まれた幻想郷は、夏にも関わらず、蝉は黙りこみ、薄暗く肌寒い。太陽は遮られ、紅くなっている。それはまるで血。円形の紙に赤色の絵の具を塗りたくったようでもあり、また、日本の象徴である、日の丸を模ったようでもあった。本人――いや“本鬼”はその意図すら一切ないのだろうが、純日本人には日の丸を模造しているように見えて仕方ない。

 七時に起きて、シャワーを浴び、朝食をとった底は、窓に立ち、見るからに焦っていた。それは何故か。霧だけなら見たことはある。がしかし『紅い霧』なんてものは想像もしてなかったし、現実とは思えなかったのだ。

 いや、ここは幻想が集う場所だ。現実とはかけ離れている――頭を左右に振って、考え直す。

 そんな底の背後に、リボンのついた、異空間が開いた。八雲だ。

 底が違和感に気づいて、後ろに振り向く。扇子で口を隠していて、目を細めた八雲が立っていた。

「底。来て早々で悪いけれど、“これ”を解決して、これをおこしたおバカさんにここの“戦い方”を教えてやりなさい」

 早口で底に命令した。相当ご立腹な様子。

「わかった。で“例の物”は?」

 紅霧を忌々しげに睨む八雲を見て聞いた。

「出来てるわよ」

 短く応える八雲。ギョロっと底を見るスキマ。底は何故か、無数にある目に、見下されたように思えて仕方がなかった。

 八雲がスキマに手をいれて、何かを探すみたいに腕を振り、目線をあちらこちらに動かす。やがて、何かを掴んで、それを底に手渡した。それは輝く銀色のビー玉に見える物だった。

 ビー玉らしき物を険しい顔で一瞥すると、ジーンズのポケットに突っ込んだ。

 八雲に背を向けて一言。出ていった。

 一人残った八雲。窓の前に立って、寂しげに紅い満月なのか、太陽なのかわからない、空に浮かんでいるものを見上げ呟いた。ごめんなさい、と。

 彼女は、実は知っているのだ。底の能力。何度も死んで、何度もやり直している事に。八雲の能力ならば、知ることは容易いだろう。はたしてどういう風に境界を弄って知ったのかはわかり得ないが。

 

 出ていった底は、とりあえず異変を解決する仕事を担っている博麗の神社に行こうと、飛び立った。

 境内に降り立ち、博麗の名を大声で呼んだ。

 底は紅霧の影響がないみたいだ。霊力か、その他か。よくわからないが影響がないというのは重畳。

 社殿からお祓い棒片手に、博麗が出てきた。その表情、佇まいは凛としていた。

「底、異変よ」

 一言だけ。その一言だけで、底は全て理解した。これが『異変』なのだと。なるほど、紅い霧。確かに異変だ。しかし、これをおこす者は相当強い筈。それも鬼のように。鬼がどれだけ強いのかは知らないが、ワンパンチで一軒の家を潰すくらいは出来ると思う。それを、何回でもやり直せるが、人間が倒せるのか。甚だ疑問ではあるが、底はやるしかない。そう言われてここに来させられたからだ。

 底の後ろ上空で箒に乗った少女が見える。霧雨だ。

『おーい!』と遠方から叫びながら近づいてくる。境内の二人が気づき、博麗が見上げる。底は振り向いて頭をあげた。

 薄暗く、見にくいのか、二人とも目を細めている。

 やっと境内に降りて話しかける。

「ふう。異変だぜ! 行くか?」

「そうねぇ。行くしかないわ。目的地は霧の湖よ!」

 ある方向を指差し、高らかに宣言した。

「その心は?」

 霧雨が合わすように問う。

「もちろん勘!」

 腰に手をあててドヤ顔で返した。

 底はその言葉を流して、一人で考え込む。

 霊夢、魔理沙共に、俺なんかとは足下に及ばないほど強いに違いない。そんな二人に来たばっかりの俺が邪魔にならないか? 着いていくだけでも精一杯じゃないか? もし足手まといになってしまったら――懸念、危惧。その続きは考えないようにした。自分だって二日くらいだが頑張ったんだ。と励まし、止めた。

「二人とも。行こう」

 自信満々に話す博麗と、呆れている霧雨。いつもとは逆の立場になっている二人に声をかけた底。

 

 飛んで、魔法の森を越えていく……。のだが、魔法の森と目的地との中間地点くらいで、飛翔している三人が、円形の空飛ぶ黒い物を見つける。それはふよふよと漂っていた。まるで目的を感じさせない。博麗が先行していたが、底と霧雨が近づき博麗に並行した。

「なあ、あれなんだ」

 三人が動きを止めて、霧雨が質問。

「さあ、黒いもの。しゃない?」

「確かに黒いな」

 尤もな博麗の答えに、底が肯定した。

「どうする? 私は墜とすに一票」

「ぶ、物騒だな……」

「邪魔をする者は対峙して退治。当たり前よ」

「対峙する暇はないだろ。お前なら『邪魔な奴は容赦なく退治』だろ?」

「えぇ……?」

「それもそうね。行くわよ」

 一通り話し合って、結局戦うことになった。そんな三人を余所に、宛もなく浮く黒い物体ぽいもの。三人に気づいたのか、ゆっくりと上下しながら近づいてきた。

「あなた達は食べてもいい人類?」

 黒い物体が言葉を発する。三人は絶句した。どんどんと黒い物体が薄れていく。白と黒の洋服を着た少女がその中にいた事が判明して、その少女が少しだけ怒る。「もー、無視しないでよー」

「邪魔するなら退治するわよ」

 凛とした声色で脅す博麗。後ろでニヤニヤした霧雨が、底に耳打ちして『邪魔しなくても退治するクセにな』それを聞いた底が忍び笑いをする。博麗が耳聡く聞き付けたようで「こら、そこ。黙りなさい」一喝した。

「ふーん。私はルーミア。よろしくねー」

 話が通じないように、いきなり自己紹介をしだした少女。

「どうでもいいけどそこを退きなさい。私達はこの紅い霧を出した奴をとっちめに行くの」

 お祓い棒を振って、言い放った。

「へー、そーなのかー」

 どうでもよさそうに返事。でも。とつづけ「私はこの霧、心地いいんだけどなぁ」両手を広げてその場で一回転した。

「時間がないんだけど。本当に退いてくれない?」

 苛立ちを隠せない博麗。最後の警告だ。とでもいうように構えた。

 微笑む。その笑みは容姿と不釣り合いに不敵で、不気味。博麗を見据え「それじゃあ退治してみせてよ! 闇を操るこの能力で、あなたたちも闇一色に染めてあげる!!」高らかに言った。

 

「きゅぅ……」

 気絶して落ちていくルーミア。

 三人は呆然とした。ルーミアはあまりにも弱すぎたのだ。あれだけ偉そうに語るものだから、見た目不相応に強いのだろうと思っていたのだが、しかし見た目相応に弱かった。呆気にとられるが、落下している。ということにいち早く我を取り戻した底が、急降下してルーミアを、俗に言う『お姫様抱っこ』をして、ほっと安堵の息を吐いて戻ってきた。

「別に妖怪だから良いでしょ」

 博麗が底を横目に言い捨てる。

「この子は弱い。逆に食べられるかもしれないし、なにがあるかもわかったもんじゃない。気絶させて放っておく事は出来んさ」

 一寸間をおいてつけつわえた。「まあ、俺の事は気にしないで行こう。起きたら帰らせるから」

 そんな底に博麗が「お優しいことね」毒突くように言う。

「霊夢ー、なにをそんなに怒ってるんだー?」

「うっさいわね! 行くわよ!」

 聞いてきた霧雨の言葉に怒声を浴びせた博麗。その後、さっさと飛んでいってしまった。

「ま、魔理沙! 早く追いかけよう!」

 怒鳴られたことに心底疑問を感じているのか、目を皿のように開いて首を傾げている霧雨に声をかける。まだ首を傾げているが、霧雨も頷き二人で後を追う。

 底に抱かれたままのルーミアは、一人なにも知らず寝息をたてて、眠っていた。   


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