東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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紅魔館奪還

 

 

 

 もし、今のフランドールがレミリアなら、アリスなら、博麗なら――底は全霊をもって止めようとするだろう。例え偽者や死なない操り人だとしても、底は視界に入れる事すら必死に拒むだろう。三人でなくても、ここまで苦しそうに、悲しそうにされたら、一時的とはいえ、敵であろうとも紅美鈴や十六夜咲夜、霧雨だって止めようとはするのだろう。だが、今はなんだ。フランドール相手であれば、勝手に倒れてくれるのは楽なことなのか?

 違う。まだ先かも知れないけどフランドールも家族になるんだ。こんなのは駄目だ。

「紫! 俺はフランドールにこんな勝ち方したくない!」

 天井に向かって、叫ぶ。奴は、絶対に見て、聞いているのを確信して、続ける。

「お願いだ、フランドールを解いて、一対一で遊ばせてくれ」

「ちょっと!?」

「フランドールとは、家族になるかもしれないのに、ちゃんと遊んだ事がないんだ」

 視線の先には、頭上に『?』を浮かばせながら、紅美鈴に抱かれているフランドールがいた。紫は、了承してくれたのだ。

「私もたまに戦闘訓練とは別に、遊ぶ時があるからな。私はいいと思うぞ。アリス、それくらい許してやれ」

「藍さんまで……」

 アリスの憂慮を、底は理解出来た。二人でも苦戦を強いられたのに、一人で勝てるわけない。

「アリス、信じてくれ。フランドールとは遊ぶだけだ。戦いじゃない」

「もう勝ち負けなんてないんだ。良いじゃないか。好きにさせてやれ」

 藍の駄目押しに、アリスは小さく唸ったり、考えるように目を閉じた。

「もう……駄目なんて言えないじゃない。いいわ、楽しんできて」

「ありがとう」

 二人はレミリアの眠る壁の近くにもたれて座った。

 フランドールに向き直ると、丁度紅美鈴が離れ、アリス達の所へ小走りで向かった。

「美鈴から聞いたよ。いま異変なんだよね? さっきまで私と戦ってたって……」

 そこまで言って、表情が曇った。

「フランドール、ごめんな」

「え、なんで?」

「実はな、今まで、フランドールの事が怖かったんだ」

「それは……」

「前に話した、『繰り返す男』の話を覚えてるか?」

「あ! それ覚えてるよ。面白かったもん!」

「あれは俺なんだ。俺には死んだら繰り返す能力がある。いろんな奴に殺されて、自殺して、繰り返してきたのが今の俺なんだ」

「それって……?」

「フランドール、お前にも何回も殺された」

 ぽかーんとしているフランドールを置いて、一人吐露する。

「だから、お前が怖かったんだ。意図的に避けてきた。紅魔館の皆は家族だって思ってたのにな……。でもさっき違うって思ったんだ。フランドール、遊ぼう。今まで断ってきたし、自己満足かも知れない。でも、お前ともちゃんと向き合いたい」

 話がおかしいのは承知している。だが、言葉を選んではいられなかった。

「ひどいなぁ。……でも許してあげる。そういえば最初凄いびくびくしてたもんね。私も怖い思いさせちゃったみたいだし、お互い様?」

「本当か? ありがとう。さぁ、遊ぼうか」

「うん。やった、たくさん遊ぼうね! ――楽しませてよ?」

「よし、こい!」

 まず、フランドールは棒に炎を纏わせ、床を蹴った。

 フランドールが厄介なのは、今までの境遇のせいで、『自分が楽しい』なら遊びだと信じこんでいるところである。なまじ力も敏捷も高い故に、相手はなす術もなく蹂躙されるだろう。言わば、極限のストレス解消なのだ。

「これで倒れないでね!」

 地を蹴る音がしたと思いきや、既に振れば直撃する距離に侵入していた。底は髪の先を焼かれながらも、回避に成功した。

「これが終わったら、もっとちゃんとした遊びを、皆でしような」

「あは、そうだねぇ! あいつが嫌がるかも!」

 口の端を吊り上げる、歪な笑み。無理矢理に身体を使役しての連撃。避ける度に、ジリジリと熱を感じた。

「どうしたの!? そんなんじゃつまんなよ!」

 そう言われてもな、と先程から止まらない汗を拭う。レーヴァテインの炎によって、部屋の温度が上がっていて、尚且つ動き回っているせいもあり、汗が地面に落ちる。

「フランドール、技を交代で出さないか?」

 ピタリ、と動きが止まる。

「なんで?」

「遊びっていうのは、皆が楽しいって思わなきゃ駄目なんだ。これじゃ遊びじゃないぞ?」

「えー、底は楽しくないの?」

「あまり楽しくないな。お前の攻撃を避けてるだけだから。弾幕ごっこだって一方的に撃たないだろ?」

「攻撃すればいいじゃん」

「……お前、ただの人間にそこまで望むな。ただでさえ速さも力も段違いなんだから」

「んー、そういえばそうだね……わかった。一緒に楽しもうね!」

 攻撃を待つと、先にどうぞと言わんばかりに仁王立ちを見せてきた。

「《リピートイナニメトネス》」

 紫の魔力の弾が、仁王立ちのフランドールへ向かう。そして爆ぜた。

 この技は、アリスの技である。リピートの通り、速度を犠牲にして、一度なにかに接触した瞬間に二度の爆発を行い、更には魔力の爆発だから、引火も砂埃もないという、特殊な技だ。

 後ろの三人の声援がやかましいのを除けば良い場面での攻撃である、と底は分析する。

「まさか二回爆発するなんて……でも、次は私の番だよ!《レーヴァテイン》」

 ゴォ、と唸る炎の棒を、斜めに振った所を、底は懐に入り、足を地面に落とし背中を叩きつけた。

「藍さん見ました!? あれ私が教えた『鉄山靠』って技なんです!」

「実用性だけでなく、魅せる技でもあるということか」

「そうです! 歴史が――」

 外野の声を掻き消し、目の前のブーイングを起こすフランドールに、言い訳する。

「あんなのくらったら人間は死ぬって。さて、お前の手はあといくつあるんだ?」

「うーん、なんか技が無いんだよね。だからお互い、次で終わりにしようよ」

「わかった。終わったら一緒に異変を終わらそうな」

「うん。次どうぞー!」

「《スピア・ザ・グングニル》」

「――っ!?」

 右手には、最愛の恋人――レミリアの紅槍が握られていた。ついさっき使えるようになり、最後だからと使ってみたものの、昔から使用していたかのように、手に馴染む。

「どうしてそれを……」

「この異変の最中は仲のいい者の技を、一部変えて使えるんだ」

「でもそれは……あいつのと全部一緒だよ?」

「なんでだろうな。わからない」

 レミリアと一緒という事が、幸福だと思えた。レミリアに見せたらどう思うだろう、そう考えるだけで、胸が踊る気持ちだ。

 気持ちを切り替えて、フランドールの胸を的に右腕を引いて、足を上げ、下ろすと同時に強く投げる。すると紅槍は手元から離れ、フランドールに一直線へと向かう。

「目がない!?」

 わかると、横に飛んで避けた。

「俺は終わりだ。次はフランドールだ」

 ――――シャラン、シャラン。

 上昇するために羽を動かすと、宝石がぶつかって音色が強調される。

「危なかったよ。でもこれで終わりかな?《スターボウブレイク》」

 紫の弾の輪を、赤の弾が囲む。虹の輪は、フランドールの手に少々弄ばれてから、回転しつつ恐ろしい速度でやってくる。素早く後退し始めると、「これで私も終わりだよ! どっかーん!」操られていた時よりも、元気で、破壊を象徴するといっても過言ではない言葉が、握られた後に発声された。

 赤と紫の流れ星が降ってくる。

「これで終わりなんだから被弾しないで頑張って避けてねー!」

 無邪気を突き抜けた声援が上からした。星は無作為に、正しく流星群。

 足に雷を付与すれば、軌道を予測して避けることは極めて容易である。

「終わった……」

「お疲れ様! 楽しかったよ、またいっぱい遊んでね?」

「……次からは皆で遊ぼうな。寂しい時間より、楽しい時間を作ろう」

「えへへ、これからもよろしくね」

「よろしく。レミリアとも仲良くしような」

「えー……? むー」

「ほら行くぞ」

 フランドールを連れて、壁際に行くと、レミリアに膝枕をするアリス、毛布の代わりに尻尾を被せる藍、瞑想する紅美鈴がいた。

「そろそろ帰りましょ。レミリアちゃんもベッドで寝かしてあげないと」

「そうだな。俺がおぶっていくよ」

「ま、まって」

 背中に乗せようとアリスに頼むと、フランドールが止めた。四人が一斉にフランドールへ視線を寄せる。

「私が……お姉様を連れていく」

 後になるほど消えそうな声、もじもじとしていて、それでも勇気を振り絞ったフランドールに、底は感動した。

 ずっと険悪だったフランドールが、レミリアに歩みよったのだ。               


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