東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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風を従える妖怪

 

 

 

 天狗ならば、嫌でも空中戦に限られてしまう。編成は、考えさせられた。

 速く、パワータイプでありながらテクニカルな霧雨、器用貧乏ではないオールラウンダー鈴仙、紅蓮の翼すら武器である、攻撃タイプな藤原妹紅。

 仲間を変えつつも戦い、これが最善だと導きだした。今回で、勝つ。底の心は熱くなっていた。いや、勝たなくてはいけない。負ければ、射命丸文の仲間入りは、延期になるのだ。

 ――操られてる文様の戦い方は知りませんが、普段の文様の戦い方なら教えられます。

 犬走椛からは、既に協力するとの意を貰っていた。一刻も早く、いつもの生活に戻りたいらしい。

 目の前の敵は、犬走椛の知る射命丸文ではない。黒髪のセミロングで頭には赤い帽子を被っている。白の半袖シャツに、黒いミニスカート。赤い一本下駄。黒い翼は背中から出ていた。

 左手には芭蕉扇を、腰には漆黒の刀を携え。 

 ――あの方は自慢の速さで敵を欺いたりします。時には手加減して弱く見せたりと、非常に嫌らしい戦法をします。あまり本気は出しません。風を操らせれば右に出るものはいない。『風、即ち刃であり、私自身である』とは文様のよく使う言葉です。気を付けて下さい。

 射命丸文は翼を羽ばたかせ、黒い羽根を数枚、枯れた山に落としていく。

 やはり、空は風が強い。太陽が遮られているのも要因の一つだろう。

「やるぞ。皆全力で戦え」

 武器を構える。射命丸文は動かない。

 突っ込むと、あしらうように芭蕉扇を振り、増強された風で戻された。やはり、嫌らしい奴だ。

 霧雨が遠くから攻撃しても、最小限の動きで躱すだけ。こちらからは、嘗められてるようにしかとれない動きだった。しかし、苛立ちはなかった。

「魔理沙は機会があれば大技を、鈴仙は隙を作ってくれ。妹紅はなんとかしてあいつの動きを阻害してくれ」

 指示を出すと、三人は即座に動いた。底は様子を見る。出ても、藤原妹紅と鈴仙の邪魔になってしまう。明らかに接近過多だ。

 視界の左側には霧雨が機会を窺い、真中辺りには三人が密集していた。鈴仙は格闘で、藤原妹紅は掴もうと手を伸ばすも、その全ては簡単に避けられていた。

 藤原妹紅が一旦退くと、鈴仙が分身し、二人になる。本人は波長を操っているだけだと言っていたが、どんな波長なのかはわからなかった。考えてしまうと、八雲の能力みたいで、どこかもやっとしてしまったのは、つい先日の事である。

 鈴仙の連撃に、たまらずなのか、後退する射命丸文だが、先読みした霧雨の魔法が襲い掛かる。

 消えた、と思えば、鈴仙を風圧で飛ばし、藤原妹紅の背後で止まった。

 いや、刀を振り抜いていた。藤原妹紅は、すれ違い様に居合で切りつけられたのだ。

「《フェニックスの尾》」

 一度〇になった藤原妹紅の体力が、全開回復し、背後の射命丸文の腕、翼をもろとも抱きつく。相手はまともに動けず、振り払えない。

「魔理沙、最高の技を頼む! もう持ちそうにない!」

 藤原妹紅が、叫んだ。必死に力を入れてるのだろう。歯を食い縛っているのがわかった。

「そんなことしたらお前が――」

「気絶するだけだから良いんだよ! それより、早くしてくれ!」

 急かす藤原妹紅に、なかなか攻撃出来ない霧雨。鈴仙と底は、割り込まなかった。これは、霧雨が決める事だ、と思ったのだ。

 離れているにも関わらず、霧雨から歯軋りが聞こえた。きっと、断腸の思いであろう。やがて、「悪い!《ファイナルマスタースパーク》」と技名を唸るように叫ぶと、ミニ八卦炉から特大の光線が現れた。あまりの光量に、底は目を庇う。

 光線が収まると、辺りには無数の星が浮かんでいて、敵と藤原妹紅が居ない事に気づく。

 星は、次の瞬きまで消えなかった。

「二人を探そうか」

 黙って頷く鈴仙。見回しても、霧雨は居なかった。

「あれ、魔理沙も居ないわね。探そっか。私は魔理沙ね」

 鈴仙が言い終わると同時に、下りていく。「ちょっと待ってくれ」と底が止めるも、鈴仙は聞こえてないのか、気づかず行ってしまった。不用意に単独行動は禁物だと言いたかったのだが、杞憂に終わるだろう、と諦めた。

 底も真下におりる。木には葉が無い為、飛行で木の上からでも探せた。二人は、落ちてから転がったようで、多少墜落した場所とは違っていた。

「二人をどうやって連れて帰るの?」

 鈴仙は一人で限界だと言わんばかりに背の霧雨を見せてくる。

「俺が二人を連れて帰るしかないだろうな。鈴仙、肩に乗せるの、手伝ってくれ」

「はいはい」と二つ返事で霧雨をおろし、最初に藤原妹紅を右肩へ、足を痛めないように浮いてから、射命丸文を左肩に乗せた。

「お帰りなさい。二人、気絶しちゃいましたか」

 紅美鈴が玄関にて、座布団の上で正座して待っていた。職業柄、部屋の中でだらだらするのは落ち着かないらしく、せめて底達が出ている時は、と玄関で待機していたらしい。

 霧雨と射命丸文をひょいっと自らの肩に移動させ、「医療室に行きましょう」と一言の後、歩き出した。

 薬品か、消毒の匂いかわからない医療室で、慣れた手付きでベッドに寝かせる。

「さて、私は休みましたから、三人を見ておきます。底さんと鈴仙さんはお休みしてください」

 折角の申し出であったが、底は断った。

「俺は大丈夫だ」

「駄目ですよ。最近まともに寝てないじゃないですか」

「そうよ。紅さんの言う通り、休も?」

「大丈夫だって。みていたいんだ」

 底の言葉に、紅美鈴は苦笑し、鈴仙は肩をすくませ、小さい溜め息を吐いた。二人とも呆れと、仕方無い、という思いだろう。底も、仲間の誰かから言われたら、止める。

 紅美鈴が、手を叩いて、笑顔になった。

「じゃあ、いつも通りここに居ましょう」

「……仕方無いわね、私も居るわ」

 鈴仙は面倒そうに頭を掻いている。試しに、「俺達に無理して付き合う必要ないぞ?」と言ってみたら、「私もみていたいのよ」という応えが来た。

 異変の時は考える余裕も無く、ただただ憎らしい妖怪にしか思えなかったが、こうして仲良くなると、とても良い妖怪じゃないか。

 底は、鈴仙に笑顔を向けていた。

 

「なるほど、そんなことが……」

 目の前でメモをとるのは黒い翼に、ジャージ姿の射命丸文。

「あとは殆ど強い奴しか残ってないし、弱くても助けた後が厄介そうな者しか残ってない」

「なるほど。確かに騒霊はうるさいですからね」

「ってか、よくあんたが底のこと取材しなかったわね」

 鈴仙が射命丸文に、疑問を口にした。その訝しげな雰囲気に、射命丸文は気まずそうに頬をぽりぽりと、人差し指で掻き、口を重くした。

「いやぁー……あまり詳しい事は言えませんが、八雲紫さんから止められていて……」

 またか、と底は思ってしまった。奴の事だ、私のものだから取材しないで、とでも言ってたのだろう。

「そうか、紫が迷惑かけたな」

 不意に謝ってしまい、自分自身驚いていると、鈴仙と紅美鈴、射命丸文の三人は、もっと驚愕し、目を白黒させていた。

「なんで底さんが謝るんですか?」

「いや、自分でもよくわからないんだよ。こんなに憎いのに、何でだろう……」

 これが心の変化か、はたまた心自身が八雲に操られ始めたのか、どちらも動転だが、心の変化だと良いな、と底は思う。

 八雲と出来る限り敵対はしたくないのもあるが、なによりは、恋人を巻き込みたくない。

「まぁ、取材も程々なら良いぞ」

「本当ですか? やった!」

 小さく喜びを表した。霧雨達が悪評ばかりなもので、悪い捏造記者かと思えば、そうでもないらしい。よくよく考えれば、新聞では興味深く、考えさせられるような記事ばかりであり、更に言えば、底が知る人物の話では間違いがない。

 射命丸文は、相当優秀な記者だろう。

「良いの? 面倒じゃない?」

 ボソッと問い掛けて来たので、「問題ない」と頷くと、それ以上言ってこなかった。

 食堂に連れていかれ、対面させられた。

 本人は、非常に楽しげだ。

「繰鍛 底さんの能力は何ですか!?」

「『天才になれる程度の能力』」

「それだけですか? 他の人からは、まるで何回も戦ってるみたい、という話を頂いてますが」

「それは秘密だ」

「えー、そんなー!? これじゃ生殺しですよ……」

 酷く落胆した。肩を落とし、涙を流す勢いだ。流石に可哀想に思い、「教えても良いけど、記事にはしない、誰にも教えないって約束出来るか?」と切り出すと、さっきまでの勢いはどこへやら、目を輝かせて何度も頷いた。

 心から楽しんでるのだろうとわかってしまう射命丸文の仕事振りに、こちらも思わず笑みが溢れる、

「俺の能力は二つあるんだ。一つはさっき言った天才。もう一つはな、『死に戻る程度の能力』なんだよ」

「え、死に戻る……?」

 目をぱちくりさせた。

「そう。例えば、今、ここで射命丸と口論になって殺されるとする。次に意識が覚めた時は、口論になる前なんだよ」

「それは、なんて応えたら良いか……」

「分かってくれたか? だから繰鍛なんだよ。だから、全員俺と戦うとおかしがるんだ」

「すみません……踏み入ってはいけないところまで」

 底は、いま自分がどういう表情をしているかわからなかった。視界は焦点が定まらず、僅かにぼやけていて、額が上に、頬が横に引っ張られたような感覚だけ。

 目の前の射命丸文は、テーブルに額をつけていた。

「別にどうも思ってない。この能力のおかげで俺が生きてこれたのも事実で、ここに来れたのもある」

「でも、悲しいですね。わかりました、この射命丸文、一切口外しません!」

 何故か敬礼する。苦笑しつつ、底は礼を言った。

                  


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