東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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里の妖怪先生

 

 

 

 回復した十六夜咲夜に、全員と同じ説明をすると、腹立たしそうに顔を歪ませた。十六夜咲夜の頭の中では、レミリア達――家族の事が過っている事だろう。

「美鈴だけでも居て助かったわ。私一人になっちゃうもの」

 くすりと笑った十六夜咲夜に、紅美鈴は中国式の礼をして、「お帰りなさい、咲夜さん」と嬉しそうに再会を祝った。

「パチュリーと小悪魔の所へ行くべきか」

 パチュリーは喘息があるため、霧雨でも勝利できるが、恐らく、今だけ喘息は完治した状態だと予想する。するとどうだろうか、勝ち目があまり無くなるのではないか。

「他の所へ行くべきか」

 百年生きた魔女というのは、伊達ではないだろう。あらゆる知識をたくわえ、それらを魔法に変える。

 幸いなのは、技がスペルカードだと言うことだ。弾幕等という遊びではない。

「私と美鈴に聞いても、お嬢様と妹様、パチュリー様や小悪魔を助けたい、という意見しかでないわよ」

「そうですね」

 食堂には、底、霧雨、鈴仙、紅美鈴に十六夜咲夜の五名。他の者はずっと娯楽室か自室にこもっているようだ。協力する気があるのか無いのか、わかったものではない。

「私はパチュリーに勝てる気がしない。それより結構弱いのが残ってるぜ?」

「本当か?」

「ああ。プリズムリバーって三姉妹と、寺子屋の教師だろ、橙とかさ」

「でもさ、橙は八雲藍って狐と一緒みたいだぞ」

『マヨヒガ』と書かれた項目には、橙の他に、八雲藍の名が書かれていた。

 ここに来る前、交渉を決裂した時に殺された九尾の狐の名だった。

 底の指摘に、霧雨は「知らなかった」と声を漏らした。

「それに、あの騒霊は後でいいんじゃないかしら?」

 十六夜咲夜がプリズムリバーの文字を指差し、言った。その顔は、少し苦々しそうだ。

「何でよ。助けれるならはやいうちが良いんじゃないの?」

「うるさいのよ。騒霊って名前自体がうるさいじゃない。皆がうんざりするかも知れないわ」

「ああ、考えられるな」

 同意する霧雨に、底はよくわからないが、三姉妹と戦うのは後にしようと思った。

「んじゃ誰倒そうか。ここらでその先生を倒して、皆の生活とか改めてもらう?」

 鈴仙の提案に、四人は賛成しかねた。

「学校の先生がそんな事するのか?」

「あの人? って結構お節介なのよ。里に住んでるのに知らないの? 頭も良いし、皆の不満とか聞いて教えてくれそうじゃない?」

「ああ、なんかそれも有りな気がしてきたぜ」

「じゃ今日は先生を倒して、余裕があれば他の所に行こうか」

 一日一人では、時間が掛かる。流石に、許容出来なくなって来た。人数も多いため、戦ってない子達と組んで、戦えばいい。だが、底の体力では二人が限度だ。それも承知していた。

 

 里を歩くのは、久しぶりに思えた。飛行を思い出してからは、外を歩く事がめっきり減って、最近の里を見ていなかった。しかし、依然変わりなく、人が居らず、寺子屋に一人の、青のメッシュがある銀の長髪の女性が立っているだけだった。

「あの人が先生か」

「そうだ。ただ、あいつの頭突きは凄い痛いらしいぜ」

 可笑しな帽子だ、深く印象に残るような被り物に、胸元の赤いリボン、上下一体の青い服。スカートは長く、何重にも重なった白のレースがついている。

「大胆ですねー。それに、あの帽子、弁みたいです」

 確かに惜し気もなく胸元を開いている。

「弁?」

「ええ。まぁ、中国の被り物だと思ってもらえれば」

「何回か美鈴から聞いたわね」

「そうですよ咲夜さん」

「ふーん。よくわからんが、じゃあ、戦うかね」

 各々構えると、上白沢慧音も察知したのか、表情を感じさせないままに、腕を挙げた。

「《三種の神器 剣》」

 上白沢慧音の手元が一瞬眩い光を発すると、次には神々しい剣が握られていた。

 僅かに黄金のオーラを纏っている。

「なんか強そうね」

 十六夜咲夜が言う通り、漠然とだが、強く感じる。刀身は先にいくごとに太くなっていて、鍔は縦からなら細い金色の線にしか見えないが、横から見ると太陽をかたどったような形をしていた。

「魔理沙、どでかいの一発、やってやれ」

「おうよ。やってやるぜ!《マスタースパーク》!」

 収縮された光を、一気に放出する。

「《三種の神器 鏡》」

 寸前で剣を消し、新しく赤いオーラを漂わせる中心が鏡になっている盾を出現させた。盾を構えると、光線を反射させ、霧雨を光が呑み込まんとする。底が避けるよう叫ぶも、霧雨は呆気にとられて動かなかった。

「そんなのありかよー!?」

 最後の悲鳴が、こだましたように思えた。

 光はすぐに消えたものの、打たれ弱い霧雨は既に倒れていた。

 底は苦虫を噛んだような顔をしてしまう。

「底、あれは反射と防御らしいわ。これなら剣のほうもなにか能力があると見て良いかも知れないわよ」

「わかってる……。三種って言うぐらいだからあと一つあるな」

「どうします?」

 上白沢慧音はこちらの行動を待っている。

 二人の指示を待つ姿に、一層の焦りが生じる。

「咲夜さんは隙が出来たところをナイフ。美鈴は俺と合わせてくれ」

「わかったわ」

「明白了」

 よくわからないが、紅美鈴は了解してくれたらしい。

 底が走ると、紅美鈴が二歩後ろに追従する。それを見て、上白沢慧音はもう一度神器の剣を呼び出した。

「《刀彩鼬風》」

 昨日気づいた新しい技を試す。名前からすると紅美鈴の技なのだろうが、刀身が緑の光を帯びたのを見て、底は息をのんだ。

 敵に刀を振ると、真空波が出て、体力を減らした。二撃目は避けられる。

「いつの間に私の技を……! これは負けてられませんね!」

 技の名を叫ぶと、素早く上白沢慧音の懐に潜り、横っ腹に拳で突く『崩拳』をしたあと、追い打ちに背中から体当たりする『鉄山靠』、止めに顎を狙ったショートアッパーのコンビネーションを繰り出し、上白沢慧音の体力を半分にした。

 ナイフの攻撃も蓄積されていたようだ。

 やはり、紅魔館のメンバーとは、連携が取りやすいと感じる。

 流石に敵も、二対一は辛いと感じたのか、一旦退いた。

「《三種の神器 玉》」

 上白沢慧音の周りに、幾つかの緑の勾玉が浮遊した。緑のオーラを纏った数個が、ビームを放つ。

 三人で回避しながら近付いていく。しかし、上白沢慧音は逃げる。逃げつつも、止まってはビームを撃ってくる。

「このままじゃ埒があきません!」

「咲夜さん、時止めでどうにか出来ないか!?」

「駄目ね。戦闘中、時を止めるのは最高で三秒に制限されてるわ。挙げ句には敵に接近すると強制的に解除されるようね」

 操られている時は、制限が無いどころか、強化されていると仮定すると、リグル達の時も納得が出来る。

 全くもって厄介だ。底は迫り来るビームを躱し、時々被弾しながらも必死に現状打破を試みる。

 三人の体力は、底が半分、紅美鈴が三分の二、十六夜咲夜が僅かに減っている程度。体力も考慮しないといけない。遠距離攻撃が出来る者は居ない。対して、敵は逃げに徹し、ちまちまと遠距離から攻撃してくる。

「私が囮になるから、美鈴、貴女が攻撃して」

 十六夜咲夜が美鈴に指示を出す。紅美鈴は素直に頷かず、こちらを窺う。

「駄目だ、囮は許さない」

「じゃあどう戦うの? 意地をはらないで。戦って勝たなきゃいけないのよ?」

「それでもだ。囮策を使ってしまうと、ピンチの時にまた使って危険にさらす事になる」

 漸くビームが止んだ。

「死なないんだから良いじゃない! 一日気絶することに、なにを恐れているの!?」

「たくさんだ! たくさん……恐れてるんだ」

 上白沢慧音は動かない。

「咲夜さん、わかってますよね……? 皆を率いる者には、事情があるんです。それが底さんなら尚更です」

 警戒を解かない紅美鈴が、説得する。

 やがて十六夜咲夜は俯き、顔を上げる。

「ごめんなさい。ついカッとなったわ」

「良いんだ、気にすることじゃない。頑張ろう」

 勾玉を消し、剣を出した。

「相手は接近戦に持ち込むようです。底さん、どうしますか」

「一気に決着を付ける。技の用意だ」

 底は刀を握りなおす。紅美鈴も大技を繰り出すようで、深呼吸した。

 上白沢慧音が駆ける。

「《殺人ドール》」

 一本のナイフを投げると、上白沢慧音の足下にささり小規模爆発を起こした。タイミングを見計らった紅美鈴が走り、すれ違い様に掌底を当て、更に爆発させる。

「《イルスタードスラッシュ》!」

 止めの一撃を、底が決める。

 体力が無くなるのを確認して、紅美鈴がガッツポーズをした。

「改めて――」

「《日出づる国の天子》」

 ――一瞬だけ現れた真っ白の細い光線が、十六夜咲夜の心臓を貫いた。

「咲夜さん!」

 倒れ伏す十六夜咲夜。

 紅美鈴と同時に叫ぶと、底は十六夜咲夜を見て、気絶したことを紅美鈴に伝えた。

「今度こそ倒れたみたいです」

「……もう少しだったのに、なんで油断したんだろう。悔しいな……」

 霧雨、十六夜咲夜が気絶した。今回の戦いは、上々とは程遠い。被害は出来る限り減らしたいのだが、それも出来そうにない。嘆息する。

「底さん――!」

 咆哮がした。                                      




知らせるのが遅くなりましたが、これから更新が不定期になります。ご了承頂ければ幸いです。

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