東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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霧雨魔法戦闘

 

 

 

「《マスタースパーク》」

 ミニ八卦炉を構え、そこから太い光線が現れた。

「会って早々大技か。魔理沙らしい」

 そこまで親しく、知っている訳ではないが、決め台詞の通りだ。

 鈴仙、大妖精、チルノが避ける為に左右に開くが、底は依然と直立し、直撃を待つ。

 視界が光に覆われ、体力が減っていく。

 光線が消えた頃には、赤になっていた。

「《ウォーターの祈り》。全くもう。底の兄ちゃん無理しすぎだよ」

「まあまあ、威力が分かったんだから良いじゃないか」

 これは事前に決めていた作戦だ。魔理沙ならすぐに大技を使うだろうと予測し、予め底が食らうように言っていて、威力を確かめる手筈。

「マスタースパークは放出型だ。当たってもすぐ逃げれば深いダメージは避けられる」

 二度目の回復で、全快した。大妖精に礼を述べて、箒に跨がる魔理沙に視線を移した。

 四人は構える。

「《ブレイジングスター》」

 箒の葉にミニ八卦炉を付けた後、爆発的な速度で突進してきた。速さになす術なく、底の体力は削られる。おまけとばかりにチルノへも攻撃される始末。

 どうしたものか。鈴仙が頼みの綱ではあるが、頼ってばかりもいられない。それこそ、男が廃る。レミリア達に顔向け出来ない。

 火花のちらつきや、黒い物体が動き回る。慣れてくれば目で追えないわけではない。

 鈴仙は目を忙しなく動かし、魔理沙を捉えている。チルノと大妖精は追えてないようだ。

「大妖精は回復と守り! チルノは攻撃してきた魔理沙を少しでも凍らせてくれ!」

「あい!」

 即座にチルノの体力が回復し、緑のオーラがわき出た。底もチルノと同様に、魔理沙を迎え撃つ。

 が、そこで魔理沙の技が切れた。

「《ドラゴンメテオ》」

 また、無表情な魔理沙が口を動かし、唱えた。

 高く跳躍し、ミニ八卦炉を真下――底に向けてマスタースパークを放った。急いで回避に努めるが、間に合わず、少しばかり食らってしまった。

「鈴仙、どうにか出来そうか!?」

「……まだよ! こっちを見てくれたらいいんだけど……!」

 魔理沙がチルノのアイシクルフォールを避けるのを見て、助けを求めるも、鈴仙は首を横に振る。そして、赤く輝いた目で魔理沙を力強く睨む。

 すばしっこく、一撃が重い。未だ攻撃を当てた事はなく、焦燥を生む。相手が余裕綽々そうというのも気に食わない。

 ここらで一度だけでも虚を衝き、こちらは強いのだと言うことを思い知らせたい。

「チルノ、ヘイルストームをしてくれ」

「あい!」

 直後に、チルノの手から横向きの雹を含んだ竜巻が箒に乗る魔理沙へと襲いかかる。

 魔理沙は上昇する。しかし、魔理沙の行動を見越した底が、既に技を発動させていた。

「《イルスタードスラッシュ》!」

 底に気づくと、箒で刀を受け止めた。だが、こちらは体重と重力を味方に付けている。それに――男だ。

 力を強める。

 ――箒が折れた……!

 呆気にとられたような魔理沙へ、容赦なく縦に振り抜いた。

 手応えあり。底は落ちていく魔理沙を見遣った。体力は赤。流石に人間は打たれ弱いらしい。

 底も浮遊を止め、重力に身を任せる。地面に横たわる魔理沙へと、刀を突き立てるべく、着地の準備をした。

 ところが、横からチルノの竜巻が底と魔理沙をのみこんだ。なす術なく底は地面に深く刀を刺してしまい、魔理沙を見失ってしまった。

 味方諸ともとは、恐れ入った。チルノに批難の視線を向けるも、雹が襲いかかるこの場では、逃げるのが最優先である。

 ヘイルストームの射線上から出ると、魔理沙がチルノと接近戦を持ち込んでいた。遠くに居る大妖精は心配そうに見ていて、鈴仙は既に戦おうとしておらず、大妖精の護衛にまわっていた。

 折れた箒を両手に、二刀流の要領でチルノへ連撃する。チルノも防戦一方だ。

 底には遠距離の技がない。故に――雷を足に付与して近づくしかない。

「チルノ、伏せろ!」

 魔理沙の背後から横に振り抜く。空振り。振り返り、屈んだ魔理沙に袈裟斬りする。これも空振り。大きく横に飛んだ魔理沙に刀を投擲する。

「《ルミネスストライク》」

 光を発する物体が刀を弾いた。

「チルノ! 全体攻撃だ!」

「あいあい!《ダイアモンドブリザード》!」

 この技は敵味方関係なく体力を減らす大技。戦闘で一回しか使えないが、ここぞという時には大いに役に立つのだ。

 ただでさえ寒い真冬に、猛吹雪がやってきた。体力を減少させていく。魔理沙に視線を移すと、四つの瓶を辺りに散らばせていた。

「《アースライトレイ》……」

 同時に、地に伏した。

 四つの瓶は、落下と共に斜め上へレーザーを発射し、各々に追尾する。底は刀でなんとか切り払い、鈴仙は霧散させ、大妖精は回避を試みるが、やはり当たってしまい、チルノは凍らせてやり過ごした。

 吹雪が止んだ。

 四人で歓声を挙げた。

「鈴仙、なんで戦ってくれなかったんだよ! おかげでヒヤヒヤしたぞ」

 言葉では批難するが、顔は恐らく、笑顔だろう。

「いやね、私って物の波長を操ったり、人と目をあわしたら狂わせるんだけど、なかなか上手くできなくって。途中から勝ったと思ってだれちゃった」

 てへへ。舌を出して頭を小突いた。

「あたいもヒヤヒヤしちゃったよ。氷精だけにね!」

 空気が凍った。

「これが本当のパーフェクトフリーズってね!」

「うまい! 流石氷精」

 チルノの二の言葉に、聞いていられなくなり、底は拍手して褒める。

「……うん。まあ帰ろっか」

「そうだな」

 照れたような仕草をするチルノと、なんとも言えない表情で肩を叩く大妖精を視界の隅にやって、魔理沙を背中に乗せた。

 

 夜に魔理沙が目覚め、食事や風呂に入った後、食堂で底と鈴仙、魔理沙で話し合っていた。 

「そんなことになってたのか……わかった。私も手伝おう」

「ありがとう。本当に心強い」

 がっちりと手を組む。意外にも手が小さくて、底は驚いた。というのも、魔理沙は豪快だ。巨大な茸を持ったり、箒で物理攻撃もするので、力は強く、手も女の子よりはほんの少しでも、大きいと思っていた。これは、考え直さないといけない。

「明日、紅魔館に行く。もしレミリアを助けられたら、大きな前進になる」

「魔理沙さ……が居るだけで本当にあの門番を倒せるの? 私の能力も通じないのよ?」

 鈴仙は一瞬『さん』をつけるか悩んだものの、結局呼び捨てにした。

 確かに紅美鈴には鈴仙が居ても勝てなかった。だが以前に、遠距離が凄く苦手、と聞いたことがあるのだ。故に、魔理沙に侵入を許してしまうのだと。

 その旨を伝えると、鈴仙は「ふーん」と人参をかじり出した。

「まあ、私が居るならあいつもすぐ倒せるぜ」

 くくく、と忍び笑った後、真剣な表情に変わった。

「ただ、咲夜とパチュリーは分からないな。あいつは引きこもり……基、喘息だから勝てるが、あいつが本気の時は私に勝ち目はない」

「なるほど。美鈴を倒せるだけでも大きいと考えよう。ただ、いけそうなら咲夜さん、パチュリーとも戦おう」

「編成は?」

 人参をのみこんだ鈴仙の質問に、底は顎に手を当てた。

「鈴仙と魔理沙は絶対だ。あとは補助に大妖精かな」

「妖精? あいつ使えんのかよ」

 魔理沙の嫌な顔に、底ははっと思い出した。最初の頃も、魔理沙は妖精を馬鹿にしていたのだ。

「大妖精は唯一の補助なんだ。基本は攻撃されないように、後ろの方で回復してくれたりする。あれでも魔理沙が思ってるよりはよくやってくれている」

「へぇー。明日は見物だな」

 意味深な笑みを浮かべた。

「あまりいじめないでやってくれよ」

「わかってんよ。じゃ私は明日に備えるぜ」

 手を振って食堂を出た。なにか心配事が多くなりそうだな、と底は不安を息にのせた。

「大丈夫かな……。なんか面倒くさくなりそう」

「ほぼ同じこと考えてた。でもまあ、なんとかなるだろう。俺達も寝よう。明日は本格的に動き始めるぞ」

「わかった」

 

「おはよう皆」

 食堂に行くと、全員が集まっていた。

「これから紅魔館に、俺、鈴仙、大妖精、魔理沙の編成で行く。今回から本格的に異変を攻略していく。退屈ですまないが、待っていてくれ。必ず一人は倒してくる」

 ――頑張ってー!

 ――早く異変を解決してねー!

 なんて声が返って来たので、底は手を振って応えた。

 弱い者は連れていけない。暗にそう言ってるだけのような気がするが、こういうものは大事なのだと自分に言い聞かす。

「三人とも、行くぞ」

 人参をかじる鈴仙に、箒の葉を弄る魔理沙。対照的に、大妖精はチルノに「頑張ってくるからね、チルノちゃん!」と応援を求めていた。

 底は思いの外、緊張していた。もうすぐそこに、レミリアが居る。そう考えるだけで頬がゆるみ、心臓が高く鳴るのだ。アリスと博麗も、同じ位の好意を抱いているが、やはりレミリアだけは特別だ。

「レミリアで思い出したけど、アリスってどれくらい強いんだ?」

「なんだ、あいつの恋人の癖にそんなことも知らねぇのかよ」

「アリスが戦うところってあまり見てないんだよ。異変の時はよくレミリアか一人だし」

 箒で自らの肩を数回叩き、こちらに視線を移した。

「アリスとはあんま仲良く無いけどよ、あいつも強いぜ。ただ、いつも全力は出さないな。人形に拘って、尚且つ本気を出さない」

「困りもんだな。一応紅魔館が手詰まったらアリスと戦おう」

「ただ、霊夢は出来るだけ後にしたほうがいい」

 底は歩みを止め、魔理沙へと体の向きを変えた。

「え、なんでだよ」

「ただただ強い。ここには最強クラスの人妖がたくさんいるんだ――」

『八雲紫』

 言わずと知れた賢者。幻想郷をたった一人で造り上げたとされる妖。

『八意永琳』

 あらゆる薬を作り上げる能力を持つ、底もよく知る者。

『伊吹萃香』

 鬼なのに少しの嘘を吐き、力も去ることながら、技も磨かれた鬼。

『星熊勇儀』

 恐ろしいほどの怪力と、余りあるタフネスが売りである、正真正銘の鬼。

『射命丸文』

 普段は一記者として、幻想郷を飛び回る。しかし、速さは音速を超えるとされる鴉。

『レミリア・スカーレット』

 弱点はあるものの、鬼の力と天狗の速さを兼ね備え、再生能力も郡を抜き、大量の蝙蝠に変わる事さえ可能な運命を操る魔。

『フランドール・スカーレット』

 力はレミリアよりも勝るものの、速さはレミリアより劣る、狂気を孕んだ妹。

『博麗霊夢』

 才能で人間の域を越えた巫女。結界や封印を主体とし、接近、遠距離共にこなす。奥義、夢想天生は誰にも破る事は出来ないと言われる人。

「が居てだな。奥義を使われるともう勝ち目はないんだ。もし勝てるとしたら紫くらいか」

 底の浅い知識で知る中には、八雲が幻想郷で最強だと導き出していた。八雲には逆らわないほうがいい。そう本能が叫んでいるのだ。

「なるほど。……霊夢には会えない……か」

「遠くから見る事は出来るんじゃない?」

「そうだよ底の兄ちゃん! サニーちゃんの能力でさ。その時は大も一緒に行きたいな!」

 鈴仙が否定すると、大妖精が同意した。声色は幾分か熱を持った物言いだ。

「そうか。その手があったな。でもサニーに悪い」

「所詮は妖精。それくらい頼めば受けるだろ。面白い事があればすぐ集まるからな」

「感じ悪いわよ、魔理沙」

 今度はしっしっし、と絞った笑いを挙げた魔理沙に、鈴仙が窘めた。大妖精の頬が、心なしか膨らんでいる。

「……わりぃな」

 目を細めて、一応の謝罪を述べた。それ以上言う事はなく、紅魔館に着くまで、誰一人として口を開かなくなった。                                  


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