東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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一人の静寂

 

 

 

「私達が」

「仲間に?」

 首を傾げる二人。

「そうそう」

「私達多分何も出来ないよ?」

「戦いは嫌いだからしたくないし、出来ることは畑で野菜を収穫したり……」

 戦闘で弱かったのは、非戦闘員だかららしい。豊穣の神なのだから、多くの信仰があってもおかしくない。むしろ、信仰を持て余しているのかもしれない。

「穣子さんと静葉……でいいですね? なにも、無理に戦わなくても、ここにはたくさんいますから、大丈夫です」

「私『みのるこ』じゃない。『みのりこ』」

「私も『せいは』じゃないし。『しずは』だし」

「失礼しました」

 詫びながらチルノを睨む。当の本人は口笛を吹いて明後日の方向を見ていた。

「別に良い」

「私達は外に出て戦えないけど、料理の作り方や畑の耕し方とかは教えれる。是非聞いてほしい」

「いや、遠慮します」

 二人とも肩を落として部屋に帰っていった。最初に喋るのは静葉で、名前の通り物静かであまり口数は多くない様子だ。姉が喋り終わるまで待つ穣子は、普通に喋るが、やはりどこか暗い雰囲気というものを感じ取った。

 食堂には、全員が揃って椅子に腰かけていた。倒し、家に戻ると気絶していた者は起き、一同が集り、食堂で話をする。最早恒例となっていて、全員自然と集まってくる。

 だがしかし、河城にとりとはまだ話が出来ていない。理由としては、部屋から出てこないのだ。

「ねぇー河童さーん。出てきてよー」

 大妖精が『河城にとり』のプレートが貼られた扉を叩くも、「やだー! 恥ずかしい!」と拒否して出てこない。

「大妖精、やめてやれ。相手が嫌がってるのに無理させたら駄目だ」

 底が止めるように言うと、大人しく大妖精は扉から離れた。

「えー? 底の兄ちゃんが言うなら良いけどさ、これは皆ちゃんとしてきた事なんだよ?」

 甚だ解せない、と言った風だ。

 大妖精の主張ももっともである。操りから解放された者は、皆と話し合い、協力するか、拒否するかを選んでもらう。今の秋姉妹であっても、協力はするが、戦いには参加しないという答えをもらった。

 底は大妖精の言葉に二度頷いた。

「わかってる。わかってるさ。でもな、皆が皆同じことをするわけじゃない」

 底の話を引き継ぐように、鈴仙が一歩前に出た。

「これから協力しない妖怪だって来るし、解決に躍起になる人だっているかも知れないし」

「三者三様、十人十色、百人百様、千差万別だねー。妖精にこの言葉がわかるかなー?」

 てゐがわざとらしく手を口にやり、うっしっしっと笑った。その様子を見て、大妖精はむっとした。

「わかるもん! 人それぞれ違うよってことでしょ?」

「まあそんな感じかな。だからさ、無理に嫌がる事をしてはいけないんだ。ここはそっとしておこう。な?」

 肩に手を置いて、諭すように喋った。三人の説得に、大妖精は首を縦に振る。

「わかった」

「よし、偉いぞ」

 大妖精のエメラルドグリーンの髪を撫でると、くすぐったそうに身を捩った。

「さて、皆が食堂で待ってる。戻ろうか」

 三人と食堂に戻ると、秋姉妹と河城にとり以外が寄ってきた。

 全員が声を揃え、「どうだった?」と聞いてくる。底と鈴仙、大妖精は首を横に振り、てゐは人参スティックを取りに行った。

「河城にとりとは機会があれば話す。今日は休もう」

 底が全員に向けて大声を出した。全員食事を再開したり、部屋に戻ったり、娯楽場に向かって各々動き始めるのを何をするまでもなく、眺めていた。

やがて鈴仙も人参ジュースを取りに動き、大妖精はチルノと遊び、底は一人になった。

「…………」

 グループというものはしっかり組まれていて、底が入る余地はないという風にも思え、動けずにいた。

 この中にひょっこりとレミリア、博麗、アリスがいるかもしれない。一抹の希望を胸に、食堂を見渡した。

 ――居ない。

 当たり前なのだが、それが底にはたえられなかった。自室にひきこもり、三人の名前が書かれた自らの血文字を見つめ、字をなぞる。

「レミリア、霊夢、アリス……ごめんな……」

 あんなことで三人を拒絶してしまった。三人と天秤にかけるならば、測るまでもないのに。

 脳裏に過ると、それは伝染して頭の中を埋め尽くしていく。後悔、自己嫌悪、憤り、巻き込んでしまったことへの気持ち、毎日意味のわからなくなるような戦い。どれもが悪感情で、心を汚していく。涙が頬を伝う。声を圧し殺す。

「早く会いたい……。抱き締めたい」

 それすら叶わない。せめて、今は話すだけでも構わないのに。三人の居ない生活は耐えられない。自らを奮いたたせる事など出来ない、と底は弱気になってしまった。

 唐突なノック音に体が小さく跳ねた。急いで嗚咽を止めるよう深呼吸し、涙を拭う。

「め、盟友は居るかな? 話がしたいんだけど……」

 高く、不安気な声。ここには『盟友』と呼ぶ仲間は居ない。

 落ち着いた底は扉を開く。目を引くのは緑のリュック。青い帽子、青髪に赤い数珠らしきものでツーサイドアップにしており、白い服に水色の上着。ポケットのたくさんある濃い青のスカートを着用した、河城にとりだった。可愛らしく中性的で、活発そうにも思えた。長靴に、胸元には紐で固定された鍵がある。

「河城にとり?」

「うん。あのね……」

 なかなか喋らない河城にとりに底は焦れったくなり――立たせるのも何だと思い――部屋に入るよう促すと、河城にとりは首を強く振った。

「違うの盟友。……私もこの異変手伝うから! じゃね!」

 颯爽と消えた。一体何だと言うのか。会話をほぼ交わせていないのもそうであるが、若干顔が赤かったような気もした。

 まだ夕方に入ったばかりなので、飯は早いだろう。

 床で座禅を組んで瞑想する。忘れた技を思い出せるかと考えたのだ。

 本当に武器は刀だけだったか? 玉にして持ち運びの出来る刀だったか? 否、なにか武器を変えれた筈だ。そこまで思い至るに、長い時間を費やしてしまい、まあいいか、と技一覧を開くと、『武器変化』が一番下に追加されていた。

「よし……」

 これで戦闘の幅を広げられ、レミリア達との距離が少しは縮めれただろう。

 丁度良い時間になったので、夕食を取りにいった。

 

 底、鈴仙、チルノ、大妖精の四人は霧雨を倒す為に魔法の森を進んだ。

 霧雨は元々博麗と弾幕ごっこで渡り合える程の実力はある。たが、これは戦いで、実際に博麗が本気を出したなら、霧雨は必ず負ける。博麗と同じ強さという訳ではないだろう。

 この四人なら辛くも勝利を手にする事が出来る。確信に近いなにかがあった。なにより、霧雨を倒したら紅美鈴と戦い、レミリアまでの近道になる。アリスが戦ったところをまともに見たことがないのでまだまだ未知数だ。

「冬が終わらない異変の時は、霊夢と魔理沙、俺の三人で霧雨魔法店に向かったんだ」

「なんで?」

「桜の花弁があるって言われて、それを見に行ったんだ。でも、猛吹雪で俺が遭難した」

「底の兄ちゃんが遭難? 想像が出来ないよ」

「そんなことはない。次に目を開くと和風の屋敷があったんだ。そこには猫と少女が居たっていう話を思い出した。それだけだ」

「不思議な事もあるんだね! あたい永く生きてるけど、そういうことはないわよ」

 目を瞑ればまだ思い出せるあの記憶――いや、日はそんなに経っていないが、昔の記憶のように脳裏に浮かぶのは曖昧で、自分が年をとったのかと錯覚するほどだ。

 空は目が痛むほど青い。

 黒いダウンジャケットはなかなかあたたかい。鈴仙は赤いコートを着用しており、大妖精とチルノはいつも通りの服装をしている。なんでも、妖精は寒さを感じないらしい。大妖精がチルノに触れるのもそれが理由とのこと。

「相手は中距離から遠距離だ」

「そう言えばあたい、魔理沙の必勝法考えたよ!」

 その場で止まる。三人でチルノに向き直ると、自信満々といった様子で説明する。

「魔理沙は箒が無いと飛べないの! だからあたいが箒を凍らして、落ちたところを皆でぼっこぼこにするんだよ」

 大妖精は賛成気味だ。鈴仙はそもそも魔理沙を知らない為、頷こうにも頷けず、どうなの? と底に視線をやった。

「駄目だ。魔理沙は箒が無くても飛べる」

「えーなんでさー!? 誰かと戦ってる時は絶対箒を手放さないよ?」

 不満そうに眉を下げた。記憶を探り、推測しながら言葉にしていく。

「あいつはひねくれ者だ。きっと欺く為だろう。箒を手放さなければ弱点だと思われる。それで上手く手放せても、油断したな! でカウンターを食らうだろうよ」

「なるほど……」

 中々良い案ではあったが、それでは駄目だ。

 鈴仙が顎に手をやり、考え込む素振りを見せた。大妖精も真似るが、すぐに止めた。

「その魔理沙ってどんな動きをしてどんな攻撃をするの?」

 鈴仙が顎から手を離し、真っ直ぐ見据えて聞いてきた。

 少し待て、そう言って頭の中で検索をかけていく。

「たしか、基本は箒に股がるけど、スピード重視の時は体を横向きにして、箒から立って移動する。攻撃は星っぽいものを飛ばしたり、大きい光線を撃ったりする。中々変則的で、虚をついた攻撃もするな。本人曰く、弾幕はパワーだぜ、だと」

「よくわかったわ。ありがとう。新しい能力の応用を思い出したのよ、良い戦闘が出来そうだわ」

 にやりと口をあげた。

 これからを懸けた戦闘は近い。                                    


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