『イルスタードスラッシュ』
この技を手に入れてから、仮定をつくっていた。
ミスティアに感謝をされた時――いや、仲が深まった事で技が追加されたのではなかろうか。レベルを上げても一向に思い出さない技。仲間は着々と思い出しているのに対し、新しく覚えた技を除いて、底はまだ二つしかない。
そうなると、仲間が頼りになるということ。
早速、夜に会議を開いた。
「皆に聞いてほしい。俺が新しく覚えたイルスタードスラッシュだが、仲が深まったからなのかなと思っている。そこで、俺の技はもっとあった筈なんだ。なにか記憶に無いか?」
「私を速攻倒したあの電気を足にまとった技はどうしたのよ」
第一に、鈴仙が手を挙げた。
なにか、思い出せそうだがあと一歩、という奇妙な感覚がした。
「あと一息……。喉まで出掛かってるんだ」
「ほら、あの高速で動き回る……」
「思い出した! 雷付与だ!」
思わず大声が出た。言われてみれば、足に雷をつけ、高速で動き回る技があった。この技があれば、多少戦闘が楽になる。
「鈴仙ありがとう。これで少しは戦えそうだ。他にはないか?」
このまま全部思い出せれば、これから楽になる。
だが、考えてることとは逆に、全員が横に振った。
「私、あんたの技を覚えてるだけでも凄いんだからね。一瞬であんたと来てた女の子に気絶させられたんだから」
礼を二度述べた。長く垂れたピンクの耳がピクピクと動き、「別に良いわよ」と言ってそっぽを向かれた。てゐが忍び笑う。
「でまぁ、技はもう良いとして。次倒す奴を選びたいんだけど、如何せん俺が戦うのって異変の時だけで、強いやつしか知らないんだ」
「この中で弱い人を探せばいいんですね」
ミスティアが言うと、テーブルを囲む全員が広げられた紙に目をやった。
「あ、サニーちゃんとルナちゃん、スターちゃんが弱いの、大は知ってるよ!」
「確かに弱いわね、ただの妖精だもん。大ちゃん聡明だね!」
なるほど、と呟き、頭に入れた。
「知らない人ばっかり。私とてゐ、姫様と師匠は今まで竹林でひっそりと過ごしてたから、分からないわ」
他の皆も、鈴仙の言葉に同意した。チルノを除いて、非好戦的であるのも理由の一つだろう。そう甘くは無いらしい。
この三妖精が鍵になれば良いのだが、そう思うばかりだった。
場所は魔法の森。空は薄い雲があり、曇っている。だが雨は降りそうにない。なので、底達は休まずに三妖精を倒しに来た。小鳥の囀り、日のあたる場所には蝶が舞っていたりと、寒いことを除けば春や秋にも思える。
チルノと大妖精の話では、大木をくりぬいた家らしい。一体どういう風にしてくりぬいたのかが疑問だが、二人も知らないようだ。
「チルノ、この道であってるのか?」
「そうだよ。あたい覚えてるもん」
獣道をチルノが先導し、そこから少し離れ、底と鈴仙、てゐが着いていく。
「妖精の言うことはあてにしない方が良いわよ」
チルノの返事に、腕を組んみ、マフラーを口元まで隠した鈴仙が囁いてきた。底も、チルノに聞こえないように耳打ちする。
「そんなことはない。少なくとも、大妖精とチルノは役に立ってくれているし、強い。それに、頭も別に悪くない」
「ほんとかしら。妖精は総じて馬鹿だって聞いたけど……」
鈴仙と底は、前方に移動したてゐと楽しげに話をするチルノを見た。なにやら面識がある様子だ。
「よく聞いとけよ――おいチルノ。なんの話をしてるんだ?」
「あのね、てゐはね、昔鰐を騙して海を渡った兎なんだよ」
「あんまり言わないで! あの時はまだ若かったんだから!」
あたふたするてゐ。人参のペンダントが揺れ動く。
「へぇ、あの毛皮を剥かれた?」
「人間がなんで知ってるの!?」
な、と鈴仙に言うと、大層驚いた様子で、「あんなてゐ初めて見た……しかも私でも知らなかったのに」と感心した。見直したようだ。
五分ほど歩くと、ひらけた場所に着いた。すぐ前に、大木がある。なるほど、チルノ位の小ささなら、三人でも住めるだろう。そう思えるほど、木は太かった。
「ここが三人の住み処か?」
「そうだよ。中に居るのかな。あたい中に入って見てくるね」
制止の声を聞かず、チルノは大木の入り口の扉を開け、さっさと入っていった。
――突然、底の右肩に違和感がした。次に、腹、胸と三回なにかに攻撃された。体力も三度減り、黄色になる。
「誰だ!? 二人は見えるか!?」
「見えない! てゐは?」
「分からないよー」
よりによって、三妖精の事を知っているチルノが居ない時に来るとは。事前に能力を聞いておけばよかった。後悔しても遅く、今は必死に目を凝らすしかない。
底の目の前に、光の針らしきものが出現し、真っ直ぐ底の頭を貫かんとする。
「そこね!」
体をひねり、回避すると、鈴仙が手を拳銃を模して弾を放つ。弾は恐るべき速さで、先程光の針が出た場所で消えた。一瞬体力が現れ、色は赤になっていた。
「相手はそこまで強くない! 落ち着いて対処しよう!」
「ここは私に任せてー」
てゐが一歩前に出た。なにか秘策があるらしく、得意気な表情で天に指を差す。
「危ないぞ!」
底が退かそうと思い、走り出すと鈴仙が止めた。真剣な表情をしている。
「ああいうときのてゐは、本気よ。きっとなにかしてくれるわ」
鈴仙の言葉に、底は生唾を飲んで行方を見据えた。不本意だが、てゐと暮らす鈴仙が言うならば、底がどうにか出来る事ではない。
てゐは右腕を天高く挙げた。
「うさー!」
勢いよく腕を下に向ける。底と鈴仙は構えた。相手は律儀にも攻撃してこない。
足を前にして、すぐにでも三妖精を倒したいが、鈴仙の言葉を無視するわけにもいかない。
十秒経った。なにも起きない。
「…………」
沈黙が支配する。
「なんも起きないじゃん! てゐの馬鹿!」
鈴仙が銃弾をてゐに放った。そして、体力が小さく減っていってる。恐らく、三妖精がぼこぼことうずくまるてゐに攻撃しているのだろう。
本当は操られてないのではなかろうか。
「や、やめてよー! もうすぐ! もうすぐだから待ってー!」
体力が黄色で止まった。
「うっそぴょーん! ――痛くないけどなんか痛い! 今度は本当だからやめてください!」
なにをしているのだろうか。鈴仙と共に、呆れを多分に含んだ息を深く吐く。
その時、ポツリと水滴が落ちた。ここに来る前に、雨が降っていたのだろうか。
激しくなった。シャワーのように、小粒の雨が降ってきた。しかし、雨の落ちる音がしない。不思議なものだ。
「ほら! 私のお陰で雨降ったから! 嘘じゃないから殴るのやめて!」
どうやら、てゐが雨を降らしたらしい。にわかには信じ難いが、現に雨が降ったので、信じるしかなかった。
「底、なんか見える」
鈴仙が底の袖を引っ張り、体力が減るてゐを指差した。てゐの近くに激しい動きをするなにかが見えた。透明だが、雨で形が分かる。そのなにかは人形で、チルノと同じ身長。羽らしきものがあり、てゐを三人で苛めている。今やてゐの体力は赤となっていた。
「お前ら見せもんじゃないからー! 助けろよー!」
弾かれたように鈴仙と二人で連携をとり、三妖精を倒した。この弱さならば、ルーミアの次に戦っても良かっただろうに、名前を知らないからと警戒してしまっていた。
透明では無くなり、姿が浮かんだ。一人はオレンジかかった金髪のセミロングに、赤いリボンでツーサイドアップにしている女の子。頭には白のヘッドドレスがあり、袖の大きな長袖ブラウス、赤のロングスカート。首元に黄色いリボンを着けて、赤い腰巻きを着用している。四枚の笹の葉のような形の羽。
もう一人は亜麻色に近い金髪、黒いリボンと白い帽子、縦に巻かれた髪、反り返った三日月型の羽。服はクリーム色に似た白。
最後は、腰まである黒髪で、前髪が水平に切り揃えられている。頭部に青い大きいリボン、蝶の羽の形に酷似している。こちらの服は青。三人共似たような服を着用。
雨が止んだ。本当に奇跡のような幸運だった。
「なんだか凄く疲れたわ」
「絶対に許さない。絶対にだ」
「まあまあ、というかチルノ遅いな」
そういえば、と二人が反応する。
入り口はチルノサイズなため、てゐに様子を見てもらう事にした。
帰ってきたてゐは、チルノがベッドで寝ていたと報告してきた。
「やっぱり馬鹿じゃん」
「…………」
反論出来なかった。