東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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投稿が遅れ、すいません。
風邪をひいてしまい身動き出来ずにいました。


月の狂気と竹林の主

 

 

 

 レベルを五上げたところでふと思い付き、紅魔館に立ち寄った。このメンバー、このレベルなら美鈴に打ち勝ち、或いはパチュリーまで仲間に出来るのでは? と思い立ったのだ。結果は惨敗。盲目にしても、何故か正確にこちらを攻撃し、大妖精の防御力アップ技、ヴァーチャーの守りを使ったとしても、一撃で仕留められる。

 為す術もなかった。門番は馬鹿に出来ない。改めてそう思わされた。

「ねぇ、底の兄ちゃん」

 食堂で思考の海を漂っていると、後ろから大妖精が話しかけてきた。壁にかけられた大きい時計を一瞥し、「なんだ? 良い子は寝る時間だぞ」と肩を竦めて言った。

 時間にして午後十一時。既にチルノとルーミア、リグルは寝床についているだろう。

「あのね、大ね、今日思ったんだけど……」

 歯切れが悪い。席に座らせ、落ち着くように水を渡した。

「落ち着け」

「ありがとう。底の兄ちゃん、もしかしたら好きな人を助けたいの?」

 微妙に顔が赤い。子供には聞きづらい事だろうか。

「そうだ。恋人がな、八雲に操られてるんだ。俺のせいでもあるが」

 あの時、拒絶しなければ変わったのだろうか。落ち込まなければ、こんな異変は起きなかったのだろうか。今更ながら、そんな思いに悩まされた。

「そっか。大はまだ好きな人とかわからないけど、応援するよ! 頑張って皆を助けようね!」

「ああ。よろしくな。ところで、話はそれだけか?」

「うん。それだけだよ。じゃあ、大、寝るね」

 挨拶すると、返ってきた。そのまま食堂から姿を消したのを確認して、敵一覧表をテーブルに広げた。

 博麗神社、魔法の森、霧の湖、紅魔館、白玉楼、迷いの竹林、永遠亭、地底、地霊殿と様々な名前、人、妖、神、霊の名前。二つ名まで書かれており、色んな想定が出来る。例えば、星熊勇儀という妖怪なら、『語られる怪力乱神』とあり、永く生き、力が強く――という推測も出来る。

 次は誰を倒すか。順番が大事で、弱い者から倒していかなければならないのだが、如何せん底の記憶には、今のメンバーしか弱そうな者は居ない。

 いや、てゐと鈴仙は個人的に弱い部類だ。

 てゐは戦わず、弱気になっていて、鈴仙は肉体的攻撃をあまりしなかった記憶がある。

 次の敵はこの二人だ。底はてゐと鈴仙の名前を数回、指で叩き、シミュレートした。

 

「今日のメンバーは大妖精、チルノ、ミスティアだ。今から永遠亭に行こうと思う」

「あーい」

「わかったよー」

「永遠亭というと、姫と薬師が居るところですよね? 大丈夫ですか?」

 名前が挙がらなかった二人は、つまらなそうにどこかへ行った。

「倒すのはてゐと鈴仙だけだ。鈴仙が駄目なら他に行く」

「そうですか。じゃあ行きましょう」

 玄関の扉を開く。

 以前、ミスティアから五人以上でも外に出られるのではないか、という案があがり、四人をオーバーして出ようとすると、透明な壁が張られていたというのが脳裏に過った。四人が限界で、その他は底の家で過ごす以外にないらしい。

 待つ方としては、退屈なのだろう。気持ちは分かるが、我慢してもらわなくては困る。

 林の前の家。ここは恐らく藤原妹紅という人物の住居だろう。敵一覧表に書いてある。

 家を素通りし、迷いの竹林へと足を踏み入れ、着々と進んでいく。やがて、屋敷が視界に入り、開けっ広げた門の前に立った。

「ここが永遠亭だ。来たことあるか?」

 三人共、首を左右に振った。

「ここは前回異変をおこしたところでな。俺がレミリアと解決しに行ったんだ」

「へぇ。あの夜が明けない異変?」

 大妖精が不思議そうに屋敷を見遣った。

 今度は底が左右に振る。

「違う。本当は薬師が月を偽物の月に変えたんだ」

「なんでそんなことを?」

「元々、姫と薬師は月の住人で、追っ手から逃れる為にしたんだ。でも、最終的に紫が、ここには博麗大結界があるから来れない。なんて言って説得させたんだ」

「底は物知りなのね! 大ちゃんの次に博識!」

「それはどうも」

 門を通り、庭を見る。やはり、二人が立っていた。

 ――てゐと鈴仙。

「てゐが弱い。中心的に狙おう。鈴仙は弱いと思うんだが、油断しないでくれ。あいつもなにをしてくるかわからない。最悪、てゐだけ倒して逃げよう」

 三人の頷きを確認して、底は作戦を伝える。作戦といっても小難しくなく、前回同様動きやすいように動け、と言っただけだ。

 いつも通りカウントする。

 ――三、二、一。

 チルノと共に駆け出す。大妖精の技で、底の体は淡い緑の光に包まれた。

「最初から本気よ!《アイシクルフォール》《ヘイルストーム》」

 てゐの頭上に氷柱が、鈴仙には霰の嵐が襲う。その間にミスティアが歌い、二人を混乱させる。チルノの攻撃が当たった二人の体力は黄色。

 調子付き、底はてゐに真上から刀を降り下ろした。

 視界が回っていた。地面に転がり、永遠亭の塀に激突する。なにがあったかわからず、心臓が高く鳴る。

 てゐと鈴仙の方に視線を移すと、鈴仙が足を大地につけた。

 蹴られたらしい。妖怪の力なら、底くらい簡単に吹き飛ぶ。しかし、異変の時の鈴仙とは違いすぎる。まるで別人のようだ。

「底の兄ちゃん!《ウォーターの祈り》」

 体力が回復した。続けて、大妖精はネイチャーの加護をつけてくれた。

 チルノがてゐに襲いかかるが、鈴仙がたちはだかり、華麗な顎打ちカウンターを決めた。

 状態異常は効かない様子。ミスティアが困惑しているのが目に入る。

「ミスティア、この二人に状態異常は食らわない。攻撃してくれ!」

「はい!《イルスタードダイブ》!」

 ミスティアが飛び上がり、長い爪を鈴仙に向けて急降下した。しかし、いとも容易く組伏せられる。

 底は立ち上がり、組伏せる鈴仙を斬りつける。全てが遅く見える。

 ――鈴仙が親指を立たせ、人差し指を此方に向け、手で拳銃を模する。そして赤い銃弾を放ち刀の軌道を狂わせ、更に底の刀を持つ右手と首を掴み、足を崩され横倒しにさせてきた。

 予想だにしなかった意外にも強大な力を持つ鈴仙に、底は起き上がる事を忘れただ横になっていた。

 てゐには強力なボディーガードが居る。計画が粉々に砕かれた瞬間だった。

 底の記憶の中には、もう弱い者が居ない。今のメンバーでは、パチュリーは疎か、小悪魔や十六夜咲夜、美鈴にも勝てない。レベルを上げたら筋力も上がるという訳ではないので、ほぼ技を思い出す為の物だろう。厄介だ。

「底! ぼーっとしないでよ!」

「底の兄ちゃん!」

「繰鍛さん!」

 三人の声で我に返った。視界が揺らぐ。頭を押さえながらも立ち上がった。

 戦況を把握するために視線を配っていくと、ミスティアが組伏せられたまま、人質にとられていた。

 底は自己嫌悪に苛まれる。あの時、迂闊にならなければ、意識を別の方向に飛ばしたせいで、こうなってしまった。

「どうするのよこれ!?」

 パニックをおこした二人を宥める。

 冷静になり、どう動けば戦況がひっくり返るかを黙考する。どうすればいい。どうすれば、ミスティアを助け、てゐを仲間に出来るんだ。考えろ。

「私の事は良いから攻撃して! 私は回復出来るから良いの!」

 考え抜け。最良の選択を――。

「ミスティアすまん! 大妖精! ミスティアにヴァーチャーを掛けてウォーターの準備! チルノはてゐにアイシクルフォール、二人にヘイルストームだ!」

「了解だよ!」

「あい!」

 即時に実行された。ミスティアに緑の光が宿ったと思えば、てゐに氷柱、横に移動し、手のひらから霰の嵐を放出し、ミスティアもろとも、二人を攻撃した。底は横向きに吹く嵐を利用して、駆ける速度を上げる。体力は減っていくが、倒せるなら安い。 

 鈴仙の顔目掛けて躊躇なく刀を振る。

 振り向くと、体力がなくなり、倒れる鈴仙がいた。続けざまに、てゐにも袈裟斬りして意識を落とす。

 嵐が止んだ。

 ミスティアの身長が、鈴仙より低くて助かった。

「やったー!」

 大妖精とチルノが飛び上がった。

「大妖精、ミスティアの回復を頼む」

「家に帰りますよね? なら回復は結構ですよ?」

「回復をしてくれ。俺の手で回復させたいが、技にはないんだ。本当にごめんな」

 深く頭を下げると、ミスティアはあたふたした。足しか見えないが、見ていなくても分かった。

「そんなことありませんよ! 私が弱いから捕まったんですもん!」

「俺の作戦が悪かった。それに、迂闊に攻撃しろだなんて言わなければ良かったんだ」

 空気を読んで、大妖精とチルノは静かにしている。

「あ、頭を上げてください……」

「危険に晒して、本当に悪かった」

「良いですってば。早く頭を上げてよ……」

 困ったような声色になったので、頭を上げた。これ以上すると、逆に怒るだろう。

「作戦をもっと練ってから戦った方がよかったな」

「いえ、細かい作戦より大雑把な方が私達には合ってますよ。いつも助けてくれてありがとうございます!」

 眩しいくらいの笑顔だった。

 なにか違和感がして、技一覧を開くと、技が一つ増えていた。

「技が増えてる……」

「底の兄ちゃん、どんなの?」

「『イルスタードスラッシュ』だ……」                                     


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