東方繰鍛録   作:みょんみょん打破

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昼雀の歌声

 

 

 

 リグル戦と同じように指を三本立て、二、一とカウントした。底が駆け出し、横で黒い鳥がミスティアを盲目にした。更にチルノの氷柱がミスティアの頭上に落下する。しかし、回転して避け、確りとこちらを見据えてきた。

 足を止める。

「《夜雀の歌》」

 歌い出した。歌のように歌詞があるわけではなく、なぜか鮮明には聴き取れない。

 唐突に視界が闇一色になった。皆の体力が真っ暗な視界の下側に現れた。

「盲目だ! 三人とも大丈夫か!?」

 三人の大丈夫、という返事を聞き、少し安心した。

「《イルスタードダイブ》」

 不意に響いたその名前は、聞いた限りではわからない。警戒に警戒を重ね、刀を顔の前に構えた。

 甲高い音がし、腕に痺れが生じた。

 背中に違和感がして、体力は黄色になっていた。どこかで三人の叫び声がこだました。

 視界が晴れ、状況を確認するため、目を右往左往させると、腹に手を当てるミスティアがいた。

「《ミステリアスソング》」

 歌声を聴くと、ミスティアが四人になっていた。混乱しながらも見極める。

 四人のミスティアの中、二人が爪で切り裂いてくる。一人ならさばききれるものの二人となると難しい。それに、この四人は実体があるようだ。

 ついに体力が赤になった。

 襲い掛かるミスティアの一人がチルノに変わった。チルノと唖然としていると、「《イルスタードダイブ》」という声が頭上から聞こえ、見上げると視界にミスティアの手が広がっていた。

 

「負けちゃったね」

 全員で嘆息した。

「師匠と皆、おかえりです。ミスちーは?」

「ご覧の通り、負けたよ。なんか盲目が効かないし、逆に盲目にされて混乱してと散々さ」

「あ」

 四人が声を揃えた。

「ミスちーの能力は、『歌で人を狂わす程度の能力』だった」

「馬鹿共が……」

 能力、戦い方や色々聞いたのに対し、知らないと宣っておいて、一回負けてから思い出すとはどんな頭をしているのか。

「馬鹿って言う方が馬鹿なんだよばーか!」

 チルノが指差し、対抗してきた。軽くあしらうと、どこまでも着いてきて、同じ言葉を連呼していた。

 

「いいか? リグルは臨機応変に。盲目にされたらそこらへんの虫を使って対処してくれ」

「わかったです」

「あとは……好きに動いて。大妖精はちゃんと回復や守りを使ってくれよ」

 前回、大妖精は動かなかった。反省会を開くべきなのだろうが、そんな時間はない。

「ごめんね。今度はちゃんと動くよー!」

「底、あたいは?」

「巻き込まない程度に暴れろ」

「あい」

 ずばり言うと、妖精に作戦を伝えたところで、期待以上の働きはしてくれない。レミリア達なら、最善の動きをしてくれるが、今のメンバーは一度言われた事をすると、チルノ以外棒立ちになってしまう。

「いいか? 状況を見て動くんだ。仲間の体力が黄色になってるなら回復。余裕があるなら守りや加護。敵の周りに仲間がいないなら大技。仲間がいるなら挟み撃ちなんかで攻撃」

「任せてよ!」

 返事は息が合っているのに、戦いになると合わない。

 しかし、よく考えれば底は、この中で一番弱いかもしれない。技といえば、目眩ましと刀に炎を付与するものだけ。偉そうに言えたものじゃないな、と自嘲の笑みを浮かべつつ、再びミスティアと対峙した。

「《夜雀の歌》」

「盲目だ! リグル!」

「かしこまりです!」

 歌が響いた瞬間に、リグルを前線に出す。

 視界が闇に支配され、視界の下側に底、チルノ、大妖精、リグルの体力が現れる。

 聴覚が敏感になったからか、リグルかミスティアの草を踏み締める音が耳に入った。瞬間、羽ばたく音がした。

「《イルスタードダイブ》」

「急降下だ、気を付けろ!」

 視界が遮られた為、自然と声が大きくなった。

「わかったです。さぁ来い!」

「《ヴァージャーの守り》。がんばっ、リグっち!」

「ありがとう大妖精!」

 布の擦れる音、羽を動かす音、空気を切り裂く音――衝撃音。

「捉えた! 追撃する!」

「まてリグル――!」

 リグルの体力が三分の一減った。カウンターを食らったらしい。

 視界が晴れると、リグルが尻餅を着いていた。

「ああいう状況は待って視界が晴れるのを待つのがいいんだ。よくやった、下がってろ。チルノ!」

「まってたよ!《アイシクルフォール》《ヘイルストーム》」

 ミスティアの頭上に氷柱が落下し、チルノの手から雹の嵐が放出された。ガリガリと体力が減る中、リグルは大妖精の技で回復していた。

「畳み掛けるぞ」

「了解!」

 チルノと並行して走る。刀に炎を付与して、袈裟斬り。チルノは先回りしてミスティアの背後から横凪ぎに氷の剣を振るっていた。

 ミスティアの体力が赤になったのを確認した。

「《ミステリ――」

「目を塞げ!《光》」

 刀を持った腕で光を遮蔽してから目眩ましをした。ミスティアの顔の前で使ったので、目を積むっていたとしても目は使えないだろう。

 色彩が曖昧な中、地面を蹴り、飛んで全体重をのせた斬撃を放つ。頭から体を素通りした刀は地面に刺さり、ミスティアは横に倒れた。

「やったー!」

 チルノと大妖精がはしゃぎ、飛び回る。

「やりましたですね、師匠」

「仲間を変えるだけで戦いは楽になるんだな」

「私役に立ちました?」

「ああ。チルノとお前が居なかったら勝てなかった」

 リグルが底の言葉を聞き、嬉しそうにはにかんだ。

 チルノと大妖精も一緒になってリグルと同じことを聞くと、底はリグル同様、二人を褒めた。

 敵は三人に任せ、背負って帰宅した。

 

 仕入れた八ツ目鰻と屋台が心配だと言うので、ミスティアの案内で三度目の竹林探検をしていた。

「ミスティアは八ツ目鰻の屋台を開いているのか。凄いな」

「そんなことありませんよ。でもまぁ、誇りは持ってます。最近ではわざわざ里から来てくれる人も増えましたし」

「いいな」

「無事だったら、残った八ツ目鰻をご馳走しますよ。助けてくれましたしね」

 やった、と底はガッツポーズした。チルノとルーミアも食べたいらしく、ミスティアにお願いしていた。

 迷いのない歩みで、屋台まで来れた。屋台のカウンターの下や、八ツ目鰻を見ると、うんうんと数度頷いた。

「下拵えしてたのは駄目になりましたけど、まだ調理前のものは元気なので大丈夫ですね。ごめんなさい、お手数かけちゃって」

「いいよ。ルーミア達の友達だし、これから世話になる」

「そうだよミスちー。底に遠慮はいらないから」

「それは駄目だよ。王子様は人間なんだから」

「なんか人間である俺が悪いみたいな言い方だな」

 ミスティアに向かって言うと、苦笑いしていた。

 屋台は重く、大きい。押して家まで持ってくる事は出来るが、やはり玄関まで持ってくるのが辛いだろう、と底は思った。

 門、階段、玄関を通って、食堂まで持ってこないといけない。

「この大きさじゃ玄関とか通れないかもな」

「あ、そうでしたね。どうしましょう?」

 頭を捻り出した答えは、八雲だった。

 癪だが、心底嫌だが、頼むしかない。八雲の名を呼ぶと、スキマが屋台をのみ込んだ。

「だ、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫だよ。紫はああいうことなら言えばやってくれる。多分俺か霊夢限定で」

「へぇ、便利ですね」

「そうでもない。常に俺を見て、楽しんでやがるからな」

 またも浮かび上がる言葉。それらを深呼吸して消し去り、家へと戻った。

 食堂に赴くと、大妖精が多種多様な甘味を眺め、選んでいた。その側でリグルが紙コップにストローを差した。

 ミスティアは目的のものを見つけると、そこまで足を運び、欠陥や不備があるかを確かめ、腕で“○”をつくり、笑顔で礼を述べてきた。

「俺じゃなくてルーミア達に言ってくれ。俺は着いていっただけだ」

「そんなことありませんよ。繰鍛さんは優しいですね。ルーミアとチルノもありがとね」

 こうして見ると、ミスティアが頭一つ抜き出て年上に感じる。経営している者との違いだろうか。

「ミスちーの為だもんね。あたいに任せてよ」

「えへへ」

「よし、じゃあ行くか」

「えー、あたい疲れた。それにミスちーにあたいの活躍を聞いてもらうの」

 午後三時。まだ探索やレベル上げを終えるには早い。なるべく早く三人を戻したいので、時間が惜しかった。

「あ、なら私着いていきますよ」

「いや、ミスティアはゆっくりしてくれ。腹も減ってるだろう」

 丁度、ミスティアの腹が小さく鳴る。

 腹を押さえ、顔を赤くして、「……お言葉に甘えさせてもらいます」と遠慮がちに断った。

 暇そうなリグル、着いてくると言ってくれたルーミアと大妖精で戦闘をすることになった。                      


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